孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン・中国の違法臓器売買  オランダでは拒否を明示しない全国民をドナーに登録

2018-02-14 23:10:54 | 疾病・保健衛生

(パキスタン・パンジャブ州のサルゴダで、手術の跡を見せる、自分の腎臓を売った男性(2017年2月2日撮影)【2017年11月4日 AFP】)

パキスタン “腎臓の違法取引において国際的な中心地” 髄液抜き取りも
違法臓器売買については世界各地で実態・事件が報じられていますが、比較的よく目にする国のひとつがパキスタン。“腎臓の違法取引において国際的な中心地”とも評されているようです。

****富と貧困が支える腎臓の違法取引 パキスタン****
パキスタンは長い間、腎臓の違法取引において国際的な中心地とされているが、医療および地元当局は、効果のない政策の実施方針と取り締まろうとする政治的意志の欠如に阻まれ、こうした違法行為に対抗できないでいると訴えている。
 
臓器提供は、自発的で強迫や金銭の取り交わしがない限り合法だ。イスラム教徒が国民の大半を占めるパキスタンの聖職者はそうした臓器提供はイスラム教に沿ったものと判断しているが、認識不足や、イスラム教徒にとってタブーとする考えが浸透していることから、臓器を自発的に提供する人々は不足している。
 
臓器供給が限られているために、パキスタンでは富裕層が、臓器取引にかかわる犯罪組織の手を借りて何百万人もの貧困層の人々を日常的に食い物にしていると言われている。

また腎臓が安く買えるため、主に湾岸諸国やアフリカ、英国など海外からの買い手も少なくない。多くの国ではこうした臓器の売買は闇取引に限られるが、パキスタンでは平然と行われている。
 
AFP記者が首都イスラマバードにある高所得者向けの総合病院の受付ロビーに入るやいなや、職員が見つけてくれたいわゆる「エージェント」が、ドナーの紹介と腎臓移植のための政府許可の取得で、計2万3000ドル(約250万円)でどうかと持ちかけてきた。
 
政府の人体臓器移植当局「HOTA」は、そうした臓器取引に対して無力だという。ドナーが同意したと主張すれば、自分たちにできることは何もないとHOTAの監視局員の医師は述べた。
 
専門家は、横行する臓器をめぐる闇産業の根本原因に対処する必要があると指摘している。
 
ラワルピンディにある国立ベナジル・ブット病院の腎臓科長ムムターズ・アフメド医師は、「この違法取引はこの国の金持ちとエリート層に利益を与えている」と語る。

腎臓取引に関する政府の調査委員会の委員でもあるアフメド氏はまた、そのために議員らは罰則の執行に乗り気でないと、主張している。一方で、パキスタン連邦捜査局(FIA)は、臓器の違法取引をなくすために差別はしないと誓っている。

■市場を創り出す腎臓への高い需要と貧困
カラチに本部を置く腎臓移植の地域指導者的な存在であるシンド泌尿器・移植研究所(SIUT)によると、パキスタンでは毎年、約2万5000人が腎不全になっているが、透析を受ける患者はそのうち10%で、移植を受けられるのはわずか2.3%だという。

アフメド医師は「多くの人々が国立病院に来ます。腎臓を提供するという家族のドナーを連れて」「その後突然、民間の病院で腎臓が買えると知ると、そっちに移るんです」と話した。
 
腎臓への高い需要が、パキスタンの広大な地方に暮らす人々が貧困から脱する好機と見る市場をつくり出している。

工場や田畑、れんがの窯元で雇われている人々は、医療費や養育費として雇用者から金を借りるが、借金を返済できなくなるばかりか、奴隷労働の連鎖に陥っていく。その結果、労働者たちは臓器を売って得た金でその状況から抜け出したいと願うようになる。
 
数年前に腎臓を売った時の手術の痛みが残っているブシュラ・ビビ(Bushra Bibi)さんもそうしたうちの一人だ。静かに涙を流しながらビビさんは、父親の医療費と借金返済のため、12年前に自分の臓器を11万ルピー(約11万5000円)で売ったことについて語った。

彼女の義父も同じ境遇だったために、彼女の夫も同様に自身の臓器を売った。だがこの必死の行動は二人に慢性的な痛みを残し、仕事や5人の子どもたちの育児にも支障をきたし、結果的に以前よりさらに多くの借金を抱えることになった。(後略)【2017年11月4日 AFP】
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“臓器売買”ではありませんが、貧しい女性だまして髄液抜き取るという犯罪も報じられています。

****貧しい女性だまして髄液抜き取る、ギャング5人逮捕 パキスタン****
パキスタンの警察当局は13日、貧しい女性たちをだまして髄液を抜き取った疑いで、ギャング団のメンバーら5人を逮捕したと明らかにした。地元メディアの報道によると、髄液を抜き取られて身体に障害を負った女性らもいるという。
 
パキスタン中部パンジャブ州ハフィザバード県の警察当局によると、被害女性の親族からの通報によって容疑者5人を逮捕したという。この女性は結婚のための持参金が無料になるプログラムのために必要な措置だと言われ、髄液を取られた。
 
パキスタンでは犯罪組織などが関与する医薬品の闇市場が大きな問題となっているが、当局は採取された髄液が骨髄移植手術用として闇市場で販売されていたとみている。
 
警察の捜査員はAFPに対し、「逮捕された5人は、地元の女性少なくとも10人の脊髄から髄液を抜き取り、髄液を州政府が運営する病院の清掃作業員に売っていたと自供した。この作業員も拘束された」と述べた。
 
その一方でウルドゥー語紙「デーリー・ジャング」は、容疑者らが少なくとも90人の貧しい女性たちから髄液を抜き取って身体に障害を負わせたと報じている。
 
パキスタンは違法な腎臓の移植手術もまん延しており、世界中の移植希望者を引き付けている。【2月13日 AFP】
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“だまして”ということですが、背景にあるのは貧困・生活苦でしょう。

中国 臓器提供・移植の『中国モデル』によって世界一の臓器移植大国に “臓器狩り”の悪いうわさも
パキスタンと並んでよく目にするのが中国。中国の場合、刑執行後の死刑囚から臓器を摘出するということが行われていましたが、2015年1月からはそうした行為は禁止されています。

ただ、その禁止令の実態・実効性を疑問視する向きもあるようです。

*****死刑囚の臓器提供中止、中国政府に対し疑念の声****
これまで中国で激しい論争を招いてきた、刑執行後の死刑囚の臓器提供が今年初めから禁止された。

しかし国外の医療関係者は、今後死刑囚らの臓器は「寄付」として新たに分類されるだけであろうとして警鐘を鳴らしている。

中国では臓器移植の需要は高いもののドナー(臓器提供者)が慢性的に不足しており、長期にわたり死刑囚の臓器提供に頼ってきた。

複数の報道によると、中国人体器官捐献与移植委員会の黄潔夫主任委員は北京での会合の際に、当局は今年初めから、死刑囚から摘出された臓器を使わないようすべての病院に通達していると強調した。

元衛生省次官でもある黄主任委員は10日、ニュースサイトのチャイナ・ビジネス・ニュースに対し、「臓器移植業界は、自発的な寄付による臓器だけに頼るという新たなステージに発展した」と述べている。

しかし、専門家らはこの主張に懐疑的で、死刑囚らの臓器は「寄付」として再分類されるだけで、摘出は中止されないだろうとみている。

英医学専門誌ランセット(Lancet)に掲載された投書で、「臓器の強制摘出に反対する医師会」代表らを含む5人の医療関係者らは、「中国政府は2008年以降同じ約束をしては実行することを避けてきた。

また、死刑囚らは臓器を寄付できる一般人として再分類されており、この慣習も続けられている」と指摘した。【2015年3月10日  AFP】
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死刑囚についても本人や家族が事前に提供の意思を示し、摘出に同意するなどの手続きを条件に、他の人と同様に死後の臓器摘出を可能ですから、死刑囚からの臓器摘出が「自発的提供」として処理されるだけではないか・・・との疑念です。

更に、政治犯などから臓器を摘出する“臓器狩り”(臓器強制摘出)をしているといった“悪いうわさ”もあります。

****公式見解の10倍が売買? 少数民族や政治犯が出所 中国の臓器移植を考える会が発足****
中国の“政治犯”の臓器が売買され日本人を始めとした患者に移植されているとして、実態解明を求めるジャーナリストらが23日、「中国における臓器移植を考える会」(加瀬英明代表)を設立した。中国で臓器移植を受けることを禁止する法律の制定などを目指して活動する。
 
都内で開かれた発足会では、この問題を調査したカナダのデービッド・キルガー元アジア太平洋担当相とデービッド・マタス弁護士が講演。中国で公式見解の10倍の臓器移植が行われ、臓器の出所が少数民族や政治犯であること、中国共産党主導で行われていることを突き止めたと話した。
 
また、不法な渡航移植に保険を払わない法改正を進めたイスラエルの心臓移植医、ジェイコブ・ラヴィ氏が「日本では海外渡航に保険が出ると聞いた。こうした動きはやめるべきだ」と指摘。自国での臓器移植の推進を定めたイスタンブール宣言にのっとり、国内移植を進めるよう促した。
 
会は今後、中国で渡航移植を受けた日本人の情報を集め、実態解明を進める。【1月23日 産経】
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上記事で講演者と名前があがっている2名は、法輪功拘束者に関する“臓器狩り”を調査し、その報告書を出版して話題になった者です。

また、別の報告書では、「法輪功学習者たちは、心不全を起こす薬物を注射され、臓器を摘出されている間、あるいはその後に殺害されている」【ウィキペディア】とも。

フェイクニュースが横行する世の中ですから、どこまで真実かは知りません。
まあ、少なくとも現在は、「大国」を自任する中国ですから、そんなことはやっていないのでは・・・とは思いますが。

当然ながら、中国当局はそうした“悪いうわさ”を強く否定したうえで、臓器提供・移植の『中国モデル』によって世界一の臓器移植大国になると自負しています。

****中国、2020年に世界一の臓器移植大国に―中国メディア****
「2017年全国人体臓器提供・移植工作会議」が5日、雲南省昆明市で開催された。中国人体臓器提供・移植委員会の黄潔夫委員長は、「国内での臓器提供・移植事業の発展に伴い、中国は2020年までに、世界トップの臓器移植大国になるだろう」との見方を示した。中国新聞社が伝えた。

現在、生前の意思により死後に臓器を提供する中国人の数は、アジア首位となり、人口100万人あたりの臓器提供率は、2010年の0.03から2016年には2.98に上昇した。著しい進展を遂げたとはいえ、先進国と比べると、まだ大きな格差が存在している。

黄委員長は、次の通りコメントした。
「中国における臓器提供・移植改革は、十数年に及ぶ険しい探求を経て、国際慣例に沿ったものとなった。また、中国の具体的な国情に合わせた臓器提供・移植のプロセスは、臓器提供・移植の『中国モデル』を形成した」。

「中国には現在、1900人あまりの臓器提供・移植コーディネーターがおり、近く5千人にまで増やす計画だ。現在、臓器移植手術を実施している病院は173軒あるが、年内に200軒、2020年までに300軒まで増やすことを目指している」。

世界保健機関(WHO)、国際移植学会(TTS)、国際臓器提供調達学会(ISODP)などの(中略)国内外の専門家らは、中国の臓器提供・移植事業発展における顕著な実績を十分に評価し、何らかの下心を持つ組織が国際的に流布する「臓器狩り(臓器強制摘出)」のデマを否定した。(後略)【2017年8月9日 Record china】
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“中国の具体的な国情に合わせた臓器提供・移植のプロセス”についてはよく知りませんが、違法臓器売買もない訳ではないようです。

****中国で今もなお臓器密売、報酬68万円、手術費用855万円の荒稼ぎ****
中国メディアの正義網は18日、人体の器官を密売する「ブラック産業チェーン」が存在していると報じた。腎臓病患者から移植手術の手配を依頼された人物が50万元(約855万円)で請け負い、複数の人物の手を経て腎臓提供者や医師、手術場所を用意。腎臓提供者への報酬は4万元(約68万4000円)だったという。

正義網は、中華人民共和国最高人民検察院が主管するネットメディア。(中略)

正義網によると、腎臓の密売や違法な手術に関与したとして、最近になり6人が逮捕された。記事は、「腎臓移植手術の失敗で、恐るべき産業チェーンが発覚」などと評した。【2017年12月20日 Record china】
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まあ、“中国で胎盤の闇売買が横行、産婦人科医がグルに”【2017年5月22日 Record china】という“国情”ですから、臓器密売闇市場も相当規模で存在するのでは・・・。

もちろん、違法臓器売買はパキスタンや中国だけでなく、ひろく世界中で行われています。

“臓器売買容疑で12人逮捕、大規模ネットワークに関与 エジプト”【2017年8月23日 AFP】
“国際手配の臓器売買組織リーダー、キプロスで逮捕 コソボ警察発表”【1月7日 AFP】
インド、バンフラデシュ、カンボジアなどでの事件の報道もあります。

オランダ 拒否を明示した人を除き、18歳以上の全国民を臓器提供者として登録
違法臓器売買が世界中で広く行われている背景には、臓器の「自発的提供」が少ないという現実があります。
そこで、このドナーのすそ野を一気に拡大しようという試みがオランダで。

****オランダ、全国民を臓器提供者として登録へ 法案が議会通過****
オランダ上院は13日、臓器提供を望まないとの意思を明示した人を除き、18歳以上の全国民を臓器提供者として登録する画期的な法案を可決した。
 
同法案は、人口1700万人の同国で臓器提供の登録者増加を目的として、革新政党「民主66」のピア・ダイクストラ議員が提案したもの。上院の採決では賛成38、反対36の僅差で可決された。
 
新法が施行されると、オランダ国民は郵送で2度通知を受け取り、臓器提供意思の有無を表明することになる。2度目の通知でも返答がなかった場合、自動的に臓器提供者として登録される。
 
法案は2016年に下院を僅差で通過。その際に反対派は、国民の死後の遺体に関する過剰な権限を政府に与えるものだと批判していた。
 
だがダイクストラ議員は法案の一部を修正し、死亡した人が事前に臓器提供を望まない意思を明確に示していた場合を除き、最終決定は必ず親族が下すという条件を追加。

さらに同議員によると、当局は親族との事前協議なしに臓器提供を行うことはできないと定められている。【2月14日 AFP】
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臓器提供に関しては様々な意見があるところでしょう。

ただ、多くの者の死に際して、具体的に臓器提供を検討する機会がないというのが現実でしょう。

そこで、特段の拒否表明がない全国民をドナーと登録しておき、実際に提供するかどうかは、親族の判断にゆだねる・・・ということであれば、検討の機会を広く提供するものとして“良い試み”のように私は思います。

ドナーのすそ野が広がって、臓器の「自発的提供」が増えれば、金持ちが貧乏人の臓器を金で買うようなことも減少するのではないでしょうか。もちろん、臓器移植で救われる者も増えます。
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