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(新疆ウイグル自治区ウルムチ市の街頭でパトロールする警官。写真は2014年撮影されたもの。【2017年10月8日 大紀元】 最近では、こうした力の誇示だけでなく、DNAやITを駆使した監視体制がとられ、“好ましからざる人物”は正当な理由なく収容所へ送られている・・・とも)
【帰省したら実家がなかった・・・は、笑い話か?】
中国指導部が「核心的利益」として、独立運動封じ込めに力を入れる新疆ウイグル自治区にあっては、最近はあまり目立った抗議行動などのニュースを目にしません。
おそらくそれは、経済発展などで民心が安定したからではなく、2017年12月23日ブログ“新疆ウイグル自治区 圧倒的な治安維持強化のもとで進む「完全監視社会」構築”でも取り上げたような、独立運動の過激派によるテロ防止のためとされる当局による圧倒的な支配・監視が“奏功”している結果でしょう。
今や、新疆ウイグル自治区は、DNAサンプルや顔認証システムなど、世界でも最も住民監視の厳しい「完全監視社会」となっていると言われています。
“国際人権団体ヒューマン・ ライツ・ウォッチ(HRW)は14日までに、中国西部・新疆ウイグル自治区の当局が、12~65歳の住民数百万人のDNAサンプルや指紋、虹彩スキャン情報、血液型を収集しているとの報告を発表した。”【2017年12月14日 CNN】
“日常生活に張り巡らされた警察の検問所や監視カメラ、さらにIDカードや顔、眼球、時には全身をスキャンする機械を通らなければならないのは、住民でも旅行者でも同じことだ。 新疆ウイグル自治区は中国国内の監視体制の巨大な実験場と化した。”【2017年12月22日 WSJ】
そんなウイグルの大学生の、ある“おバカな”話がネットに。
****はるばる帰省した大学生、到着したら実家がなかった!―中国****
2018年1月31日、中国の動画サイト・梨視頻が中国版ツイッター・微博(ウェイボー)のアカウントで、北京の大学生が約4000キロ離れた新疆ウイグル自治区の実家へ帰省する様子を撮影した動画を掲載した。
動画には、1月26日に北京の大学に通う男子大学生が、北京を出発して3906キロの道を経て実家のある新疆ウイグル自治区まで行く様子が映っている。途中、鉄道やバスなど4種類の交通機関を利用してようやく到着したが、そこはがれきだけが残る更地になっていた。
大学生は「家族は誰も引っ越したなんて話をしていなかった。さっきも電話したのに何も言っていなかった」と語っている。そこで再び家族に電話をし、もとの家は「立ち退き取り壊し」となり、別のところへ引っ越したことが分かったが、家族は「話すのを忘れていた」と話したという。
大学生は「俺は実の子どもじゃないのかもしれない」と話しながらさらに60キロ離れた引っ越し先まで行き、ようやく実家にたどり着いた。
これを見た中国のネットユーザーから「立ち退きだろ?これは喜ぶべきことじゃないか」というユーザーもいた。立ち退く際に政府から補償金が出るからだろう。
ほかには、「この大学生は普段からあまり実家に電話をしていなかったのだろう。親不孝な息子だ」「私は毎年帰省するが、毎回家の中に入れない。毎年鍵が変わっているから」などのコメントもあった。【2月2日 Record china】
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これは、笑っていい“おバカな”話でしょうか?
新疆ウイグル自治区で強制的な旧市街取り壊し・住民移住が進んでいることは、2017年8月31日ブログ“中国 故郷にも国外にも安住の地がないウイグル族”で取り上げました。
詳細がわかりませんが、上記記事の大学生の実家も、ひょっとしたらそうした当局の強制的な政策の対象となったのかも・・・。
家族が“引っ越し”について連絡しなかったのは“話すのを忘れていた”のではなく、当局による盗聴などを恐れていたせいかも。
もしそうなら、補償金が出るから喜ぶべきことじゃないか・・・といった類の話ではありません。
真相がどうであれ、多数派漢族にとっては、どうでもいい話なのでしょうが。
【「教育センター」という名の強制収容所の実態 「いっそ妻と母を撃ち殺してくれ」】
また、“新疆では当局が「教育センター」と呼ぶ収容所が次々に建てられたが、村人たちはここも収容所だと説明する”【2017年12月22日 WSJ】という“収容所”が多数存在し、多くの住民が連行拘束されているという話もききます。
その“収容所”の“絶望的”な実態は、下記のようにリポートされています。
****ウイグル「絶望」収容所──中国共産党のウイグル人大量収監が始まった****
<著名ウイグル人学者が突然自宅から消えた――中国共産党が新疆各地でウイグル人を強制収容所に収監している>
著名なウイグル人イスラーム学者で、『クルアーン』のウイグル語訳者として名を知られる82歳のムハンマド・サリヒ師が17年12月中旬、中国新疆ウイグル自治区の区都ウルムチの自宅から突然何者かに連行された。サリヒ師は中国共産党の強制収容施設に収監され、約40日後の18年1月24日に死亡した。
サリヒ師は36年、南新疆のアトシュ市に生まれ、長く中国政府のシンクタンクである中国社会科学院に所属。87年からは新疆イスラーム学院の学長も務めた。『ウイグル語・アラビア語大辞典』をはじめ多くの著作もある。
イスラーム学の大家として、新疆ムスリム社会で崇敬されていたため、その知らせはテュルク系ムスリムに深い悲しみと衝撃をもたらした。
サリヒ師と共に作家の娘と娘婿、さらに2人の孫も連行されたが、一家が今どこに収容されているのか依然不明だ。
この事件に憤慨した国外のウイグル人諸団体は、直後に各国の中国大使館に対して抗議デモを行った。かくも高齢な老学者がなぜ、「思想改造のための強制収容施設」に収監されたのか。
新疆ウイグル自治区では今、中国の主体民族である漢人以外の人々が、社会的地位も収入も一切関係なく、何の罪もなくして強制収容施設に収監されているとの報告が数多く寄せられている。
ターゲットの大部分がウイグル人だ。
ウイグル人の10人に1人は拘束されているとの説もあるほど、多数の人々が「行方不明」になっている。
アメリカの短波ラジオ放送「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」によれば、総人口約360万人のうち90%をウイグル人が占める南部カシュガル地区で、ウイグル人口の約4%に当たる約12万人が拘束されているという。
要注意人物の「点数表」
連行は強引で、職場から突然警官に「頭に黒い布をかぶせられて」連れ去られたとのケースも報告されている。
収容所は、かつてウイグル語教育を行っていた学校の校舎などを転用。一部屋に何十人もが寝泊まりし、衛生状況も劣悪で既に多くの死者を出しているとの告発もある。
在日ウイグル人も例外ではない。日本に留学したり、日本の会社に勤務していたりしたウイグル人で、昨年夏に新疆へ一時帰郷し、日本に戻ってこられなかった人々が筆者の知る限り複数存在する。
彼らは帰郷した後、地元警察にパスポートを没収され、強制収容施設に連行されているらしい。収監者の親族は、身内が施設内でひどい扱いをされないよう気を使ってメディアや外国人に接触しようとせず、また親族自身も詳細を把握していない。
「もうこの半年、両親や兄弟と1本の電話も繋がらない」と嘆くウイグル人に、筆者は何人も会った。
強制収容所に関する情報は16年末あたりから現れ始めた。RFAウイグル語部門が本格的に取り上げたのが、17年8月初旬。以後、関連報道は急激に増え、現在に至るまで数日に1回の割合で取り上げられている。
昨年夏頃、ウルムチの河北西路居住区から、ウイグル人の中から要注意人物を抽出するための点数表が流出した。
点数は100点で、(1)ウイグル人である (2)イスラームの礼拝をしている (3)宗教知識がある (4)(当局が要注意とする中東など)26カ国に行ったことがある (5)外国に身内がいる (6)外国留学した子供がいる......といった項目に該当すれば10点ずつ減点され、点数が低ければ要注意人物、つまり収容所送り対象者となる。
新疆では自治区の成立から現在まで、ウイグル人による反政府蜂起が頻発してきた。それでも、民族浄化を目的とすると言っても過言ではない、強制収容所をつくるという国際人権規約に反する行為を一国の政府が行うのは異常事態である。
そしてこの収容所建設と、習近平(シー・チンピン)国家主席の経済圏構想「一帯一路」政策は大いに関係があると筆者は考えている。
胡錦濤(フー・チンタオ)主席時代の10年に第1次中央新疆工作会議が開かれ、新疆での「西部大開発」と経済活性化が目標とされた。
しかし、結果としてその政策は新疆に住む漢人とウイグル人の格差を広げ、ウイグル人亡命者を増大させただけだった。
その後、習が国家主席に就任した翌年の14年5月に第2次中央新疆工作会議が開催され、同11月から習は一帯一路政策を各地で本格的に提唱し始めた。
かつて日本が提唱した「大東亜共栄圏」の拡大版とも言える経済圏構想の実現には、中国からユーラシア大陸の出入り口となる新疆の安定化が必須だ。
90年代から最近にかけてウイグル人反政府主義者が行ってきた公安当局や党幹部を狙った自爆攻撃などに、共産党は業を煮やしていた。
反政府運動を効率的に弾圧し一帯一路を粛々と推進するため、以前のチベット自治区党委員会書記でチベット弾圧に積極的に荷担した陳全国(チェン・チュエングオ)が、16年8月から新疆ウイグル自治区党委員会書記に着任した。
スクープ記者による告発
RFAは96年に米議会が出資して首都ワシントンで設立された。言論の自由が保障されているとは言い難いアジアの地域に情報提供し、民主化・自由化を促すことを目的としている。
ウイグル語放送部門スタッフの中でも、ショフレット・ウォシュルは、ずば抜けて取材力のある記者で、片っ端から新疆に電話をかけ、中国語とウイグル語を駆使して繋がった相手から情報を入手する手法で情報を取り、スクープを連発してきた。
17年12月6日放送の記事によれば、新疆の公安当局は微信(WeChat)などのソーシャルメディアで国外留学中のウイグル人に連絡を取り、「帰国しなければ母親を強制収容所に送る」などと脅迫している。以下はトルコ在住のウイグル人留学生に対する、公安当局の脅しの一部だ。
「私は収容所の者だ。母親が大切ならこのアカウントを追加せよ」「トルコで暮らし、留学しているウイグル人の家族や親戚を収容所に収監し、強制的に『再教育』するようにとの上層機関からの命令がある」「おまえがトルコ留学中だから、母親がおまえの代わりに『再教育』をされる」「トルコ国内にいる全てのウイグル人家族が、代償を支払うことになる」
これだけの人々が拘束されていたら、当然ながら産業や経済は崩壊していく。17年10月18日放送の記事では、南新疆ホタン市で大勢の商人が収容所送りとなったため、市内最大のバザールで店の3割が閉鎖され、顧客も半分程度に落ち込んでいる状況が紹介された。
同じく南新疆カシュガルのベシケリム村では、2000万平方メートルのブドウ畑のブドウが腐り始め、村民の暮らしを直撃しているという。取引をするウイグル人商人のほとんどが収容所送りとなり、買い手がなくて市場に出回らなくなったためだ。
一方で、「商売敵がいなくなって、取引がうまくいっている」と語る漢人商人のインタビューも紹介された。
キリスト教徒にも魔の手
新疆では今「2つの顔を持つ不逞分子らを一掃する運動」が行われている。共産党幹部という顔と、実は民族主義者らを心の中で支持している顔という二面性を持つ者の意味であろう。この運動により、新疆各地の共産党幹部クラスも容赦なく収容所に送られているようだ。
17年12月21日放送の記事によれば、南新疆コルラ市のある地域の党書記を務めたこともあり、「民族団結模範」として表彰されたこともあるというナマン・バウドゥン(おそらく仮名)は、健康状態があまりに悪いため収容所に連行はされなかった。
しかし、かつて「(党の)宣伝活動模範」として当局に表彰された妻のパティグリ・ダウット(彼女もこの10年で3回も手術を受けており、健康状態はよくない)は17年10月9日に拘束され、今も消息不明だ。
一旦はバウドゥンも収容施設に入れられる手続きのため警察署に行かされた。その際、「500人ほどが非常に広い会議室に並んでいた」と、彼は証言する。
コルラには強制収容施設が4カ所あり、1500人以上が「再教育」を受けている。警察署で人の「仕分け」がなされ、脅迫や拷問を含む取り調べを受けて、その結果によって収容所に行くか、拘置所や刑務所に入れられるかが決まると、バウドゥンは語った。
彼は警察署で検査のために過ごした3日間のうちに、コルラの住民であるムタリプ・アブドゥウェリという25歳の青年が、鉄製の椅子に縛られ、手錠をかけられ手から血を流した状態で取り調べを受けているのを目撃した。こうした証言が命懸けであることは言うまでもない。
18年1月23日放送の記事で、カザフスタンのアルマトイから取材に応じたオムルベク・アリは、カザフ人とウイグル人の両親の間に生まれ、カザフ国籍を持つ人物だ。多言語に通じることから、カザフスタンの旅行会社に勤務していた。
アリは新疆東部ピチャンにある両親宅に突然現れた警察官に黒い布を頭にかぶせられて身柄を拘束され、どこかへ連行された。その際指紋や血液も採取され、警察の「仕分け」の結果、危険分子として「カラマイ市技術研修センター」の名の看板が掛かる収容所に送られた。
カザフスタン外交官たちの働き掛けで、8カ月後にようやく「一切の訴えを起こさない」ことを条件に釈放されたが、収容所内の環境は劣悪で出所したときには体重が40キロも減少。帰国と同時に入院した。
アリは、現段階で収容所を体験した唯一の生還者だ。彼によれば、少なくとも収容所には約1000人が収容され、8割がウイグル人で2割がカザフ人だった。被収容者の年齢層は16歳から老人までと幅広い。農民から「2つの顔を持つ不逞分子」とされる公務員まで、1つの部屋に20人以上がすし詰め状態で寝泊まりしていた。
コミュニケーションは全て中国語で行うよう強要され、毎朝7時に点呼集合と中国国旗掲揚があり、国家と共産党に忠誠を誓うスローガンを叫ばされる。
収容所側は、共産党の政策の素晴らしさを学ぶ政治学習や、愛国主義の講義を強要。プロパガンダ歌謡を中国語で正しく歌い、共産党への忠誠と感謝を述べるスローガンを大声で斉唱しなくては食事をもらえない。警察から最短でも1年の学習を厳命されており、彼の滞在中、誰一人として「卒業」した者はいなかった。
拘束されているのは、ウイグル人などのテュルク系ムスリムだけではないようだ。収容所には新疆のキリスト教徒が少なからず収監されたとの証言もある。
漢人でプロテスタントのキリスト教徒である張海濤(チャン・ハイタオ)は、16年に「国家政権転覆扇動罪」で有期刑19年の判決を受け、新疆中部シャヤール県の監獄で服役している。
彼はネットの中で共産党の新疆政策とウイグル人弾圧を批判していた。妻子はキリスト教諸団体の尽力で、アメリカに政治亡命した。声を上げ、異議を唱えるキリスト教徒にも、政府は厳しい姿勢を取っている。
ウイグル人をはじめとする「良心の囚人」の命を担保に、一帯一路構想は進んでいる。【2月20日号 Newsweek日本語版 水谷尚子氏(中国現代史研究者)】
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いくら何でも“10人に1人は拘束されている”といったことはないでしょうが、バザールなどでの経済活動を変容させる規模では行われているようです。
当局の弾圧を恐れて亡命した者の家族も、上記の収容所に送られるようです。
****「いっそ妻と母を撃ち殺してくれ」 亡命ウィグル男性****
テリーザ・メイ英首相が中国を訪問するなか、英国政府は新疆ウイグル自治区で、主にイスラム教徒のウィグル族について信教の自由が侵害されている恐れがあると懸念を表明した。
トルコに亡命したウィグル族の男性はBBCに対して、残された家族が収容所で拷問されているかと思うと、「いっそひと思いに撃ち殺してほしい、銃弾の金は払う」とBBCに話した。(後略)【2月2日 BBC】
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上記亡命男性は「妻の罪は唯一、ウイグル族に生まれたことだけです。妻はそのせいで再教育収容所で生活し、地面で寝ています。」とも。
なお、上記BBC動画では、新疆での厳しいチェック・検問・取材制限の様子も報じられています。
なんとも痛ましい話です。
中国の人々は、中国が経済・政治・軍事の面で大きな力を有するようになったにもかかわらず、「大国」としてのふさわしい敬意を払われていないことへの不満を感じているようですが、敬意が払われない背景には、上述のような非人道的弾圧を当然のことのように行っていることへの世界の批判・恐怖があります。
ただ、日本として難しいのは、単に批判していればすむ話ではないことです。
今後ますますその影響力を強める中国の隣に位置し、経済関係や安全保障面でその“引力”を考慮せざるを得ない立場にある日本は、どのように中国と共存していけばいいのか・・・非常に高度な政治的バランス感覚が必要とされます。