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(https://ameblo.jp/maigono-resistance2/entry-11904154114.html)
【「共通の敵との戦いで秘密の同盟関係にある」エジプトとイスラエル】
エジプトのシナイ半島では、以前からイスラム過激派が跋扈し、国内で頻発するテロの温床ともなってきましたが、エジプト・シシ大統領は2月9日からシナイ半島等での大規模な対テロ作戦を実行しています。
****「シナイ2018年」作戦の開始****
昨日報告した通り、エジプト軍は9日、シナイ半島等の対テロ大作戦を開始しましたが、アラビア語メディアによるとこれに参加するのは陸、海、空の他国境警備隊及び警察で、兵員的には軍が35000人、警察が10000人の由。
エジプト全県で、警戒レベルが最高レベルに引き上げられ、各地で検問所が設けられ、また多数の増員部隊がシナイ半島に送り込まれている由。
特に北シナイ州では、当面全ての学校が閉鎖され、またガザとの検問所も閉鎖された由。(後略)【2月10日 「中東の窓」】
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エジプトでは大統領選挙が3月26〜28日に実施されますので、再選を目指す不人気なシシ大統領としては、今回対テロ作戦で成果をあげ、いささかなりとも国民の注目を・・・といったところもあるのでしょう。
選挙の方は、強権支配者にありがちなことですが、政権側が有力候補を事前にあの手この手で潰していますので、シシ大統領の再選は確実です。
****エジプト大統領選、立候補者は2人 現職の再選確実****
3月に実施されるエジプト大統領選の立候補届け出が29日に締め切られた。届け出たのは現職のシーシ大統領(63)と、小政党ガッド党のムーサ党首(65)の2人。ムーサ氏の知名度は低く、シーシ氏の再選は確実だ。
これまで立候補を表明していたシャフィーク元首相は撤退を表明、アナン元軍参謀総長は軍紀違反で拘束されるなど、政権側が有力候補を排除しているとの批判が高まっていた。
ガッド党はもともとシーシ氏支持を打ち出していたが、ムーサ氏は締め切り直前に届け出た。政権がシーシ氏の対立候補がいない状況を回避するためにムーサ氏に立候補を要請したとの見方が支配的だ。
シーシ政権はテロとの戦いを強調する一方、言論を統制して政府批判を封じこめる強権的な姿勢が目立っている。投票は3月26〜28日に実施されるが、投票率は低くなると予想されている。【1月30日 朝日】
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有力候補が潰され、形を取り繕うために政権側が(無難な)対立候補を要請するあたりは、ロシアの大統領選挙とも似ています。
話をシナイ半島に戻すと、エジプト軍は今回作戦に限らず、シナイ半島での対過激派の軍事行動を行ってきましたが、治安回復につながる成果をあげることができていません。
シナイ半島の過激派による不安定化は、離接するイスラエルにとっても望まない状況で、イスラエルもエジプト軍に協力して空爆を実施しています。
近年イスラエルとエジプトの接近が取りざたされていますが、その一環とも言えます。
****エジプト東部に100回以上空爆=イスラエル、対ISで―米紙****
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は3日、米英当局者らの話として、イスラエルが過去2年以上にわたり隣国エジプト東部のシナイ半島で、過激派組織「イスラム国」(IS)対策で100回以上の空爆を実施したと報じた。
同紙は両国が「共通の敵との戦いで秘密の同盟関係にある」と指摘している。
シナイ半島ではIS傘下の「ISシナイ州」によるテロが頻発。エジプトのみならず、国境地帯の治安を安定させたいイスラエルにとっても脅威となっている。
空爆はエジプトのシシ大統領の了承を得て行われた。ただ、パレスチナ問題を抱えるイスラエルとの協力はエジプト世論の反発を招きかねず、大統領は軍と情報当局の一部にしか空爆について明らかにしていないという。【2月4日 時事】
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米紙ニューヨーク・タイムズ報道によれば、隠密作戦のためイスラエル軍機は無印の機体を使用、エジプト領内から週1回程度のペースで出撃しているとも。【2月6日 毎日より】
「共通の敵との戦い」とは言え、自国領土への空爆を認めるというのは、相当に強固な“同盟関係”にも思えます。
しかも、従来は“アラブの敵”とされていたイスラエルです。
サウジアラビアもイスラエルと接近していますし、エジプトもイスラエルと“同盟関係”にある・・・といった現状があるからこそ、アメリカ・トランプ大統領のエルサレム首都容認も表明されたのでしょう。確かに、10年前とは中東情勢が変容しているのは事実です。
【パレスチナ人をシナイ半島に移住させる・・・「世紀の取引」】
そんなエジプトとイスラエルの緊密な同盟関係、それを後押しするトランプ大統領という枠組みのなかで、パレスチナ問題の解決策としての「世紀の取引」に関する“うわさ”がエジプトで広まっているとか。
現地メディアが伝える「世紀の取引」とは、パレスチナ人が歴史的なパレスチナをあきらめる代わりに、湾岸諸国からの1000億ドルの支援を得て、シナイ半島に移住し、そこに彼らの国家を作るのをトランプ政権としても認めようというアイデアだそうです。【2月10日 「中東の窓」より】
上記のエジプトのシナイ半島での大規模対テロ作戦も、この「世紀の取引」のためだ・・・とも。
エジプト政府は、この“うわさ”を否定しています。
*****シナイ半島作戦に関するうわさの否定のエジプト公式声明****
先日エジプト政府の、シナイ半島等での大規模テロ作戦は、大統領選挙を意識したシーシのパフォーマンスであるとともに、パレスチナ人をシナイ半島に移住させることによってパレスチナ問題を解決するとのトランプの「世紀の取引」・・・・確かに湾岸諸国が1000億ドルを負担するというのですから、世紀の取引なのかもしれないが…のための作戦であるとの、アラビア語紙の記事を紹介したかと思います。
このうち、選挙目当ての作戦ということはともかく(独裁政権のやりそうなことではあるが!)、トランプの片棒担ぎの話は、アラブ人の多くが猛反対することの確実な話で、シーシもそこまでトランプに付き合うのかね?どうもアラブ人好みの陰謀史観ではないかと思っていました。
そうしたらこの話は結構、アラブ世界では広まっている話のようで、al qods al arabi net は、エジプト政府が11非公式の否定声明を出したと報じています。(後略)【2月12日 「中東の窓」】
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エジプトが持て余しているシナイ半島をパレスチナ問題解決に使うという発想は、以前からもあって、2014年には、エジプトがシナイ半島の一部をパレスチナ側に提供してガザ地区とくっつけて、「グレータ―・ガザ」をパレスチナ国家にするという案が、いまイスラエルとアラブの間で話題になったこともあるようです。【2014年9月 9日 日本イスラム連盟HPより】
今回“うわさ”「世紀の取引」に関しては、「中東の窓」も指摘しているように、あまり現実性があるとは思えませんが、エジプト政府が公式に否定しなければいけないほど広まっているというのは、そうした“うわさ”に合致するようなイスラエル・エジプト・アメリカの協力関係という枠組みが出来ているということを示しているとも言えるでしょう。
ただ、パレスチナ人の頭越しに周辺国・関係国の思惑で“解決策”が検討され、その内容がシナイ半島への移住・・・ということであれば、何やらユダヤ人の経験した“バビロン捕囚”のようでも。
【ヨルダン川西岸地区のユダヤ人入植地は“併合”?】
パレスチナ・イスラエルに関するアメリカ絡みの、もうひとつの“うわさ”
イスラエルが実効支配するヨルダン川西岸地区のユダヤ人入植地をイスラエルが併合する計画を、イスラエルとアメリカが協議したとの報道です。
この報道についても、アメリカは否定しています。
****米政府、イスラエルとユダヤ人入植地併合を協議との報道を否定****
米ホワイトハウスは12日、イスラエルが実効支配するヨルダン川西岸地区のユダヤ人入植地を併合する計画を両国が協議したとする報道について、誤りだと否定した。
イスラエルのネタニヤフ首相が率いる右派政党リクードの広報担当者によると、首相は党所属議員に対し、入植地へのイスラエルの法律の適用について「米国側と協議してきた」と語った。国内法の適用は入植地の併合を意味する。担当者は併合の時期や米国との協議の詳細については言及しなかった。
ホワイトハウス報道官はこれを受け、「米国がイスラエルと西岸地区の併合計画について協議したとする報道は誤りだ」と説明。「米国とイスラエルはそのような計画を話し合ったことはない。トランプ大統領は、イスラエルとパレスチナの和平に向けた自らの取り組みに専念している」と語った。
イスラエルの高官も、ネタニヤフ首相は米政府に対して具体的な併合計画を提案していないと説明。首相府は発表文書の中で、ネタニヤフ首相は議会で提案された法案について米国側に説明したに過ぎないと釈明した。
首相の発言を受け、パレスチナ自治政府のアッバス議長の広報担当者は「(いかなる併合も)和平プロセスに向けた取り組みを台無しにする」と批判。「占領されたパレスチナの土地の状況について協議する権利は誰にもない」と語った。
大半の国は、イスラエルの入植活動を違法とみなしている。
一方、トランプ大統領は11日付のイスラエル紙イスラエル・ハヨムのインタビュー記事で、イスラエルに対し入植における慎重な行動を要請。「入植活動が和平実現を困難にしている。イスラエルは入植活動を非常に慎重に行う必要がある」と述べた。【2月13日 ロイター】
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この話も、パレスチナにとっては許容できないものです。
違法なイスラエルの入植活動が行われている現実に合って、さらに“併合”というのは、一方的にイスラエルの側に立った話になります。
ホワイトハウスは否定しているとのことですが、こうした報道・うわさが出てくること自体が、現在のアメリカ・トランプ政権の姿勢を示しています。
【ゴラン高原は「永久にイスラエルの領地」】
イスラエルがヨルダン川西岸地区のユダヤ人入植地を併合する・・・・という“うわさ”とは別に、67年戦争(第三次中東戦争)の占領地であるシリアのゴラン高原も“永久にイスラエルの領土として保持される”との意向をネタニヤフ首相が示しているとも報じられています。
****ゴラン高地は永久にイスラエル領?****
どうやら現在ミュンヘンで、地域安全保障に関する国際会議が開かれている模様ですが、y net news は、イスラエルのネタニアフ首相が、そこで国連のグテレス事務総長と会談する機会があったところ、イスラエルが占領中のゴラン高地は永久にイスラエルの領土として保持されるとの意向を伝えたと報じています。
記事は、ネタニアフ首相は、イスラエルとしてはその北部国境(境界)を守るためにあらゆることをするとし、ゴラン高地は永久にイスラエルの領地としてとどまると伝え、シリアにおけるイランのプレゼンスの拡大に懸念を表して、イスラエルはシリアにおけるイランの基地設営にはあらゆる手段で対抗すると語った由。
(国連事務総長の反応は伝えられていないが、これまでの国連の立場及び国際法上の観点から、ゴラン高地は武力による征服地であって、イスラエルは当然これを返還する義務があると答えたものかと思われます)
https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5117245,00.html
ゴラン高地は67年戦争でイスラエルが征服し、73年戦争でもこれを維持したところで、確かイスラエルは81年だったかにこれを一方的に併合したかと思います。
当然これは武力による領土の拡張であって、国連憲章の禁止しているところですが、問題は更にガザや西岸のようなパレスチナ地域と異なり、ゴラン高原は歴史的にも一貫してシリアの一部であって、一度たりともイスラエルの領土であったことはないことです。
このため、併合はしたものの、長いことイスラエルでもゴラン高地はいずれは全面返還せざるを得ないところと認識されていて、パレスチナ問題の進展がない時には度々「シリア オプション」として、ゴラン高地の返還を先行させるという動きがありました。
そん典型的な例はバラク首相の時で、イスラエルとシリアとの交渉で、ほぼまとまりかけた(確か当時報道では、残る意見の差はたかだか数十メートルなどと報じられたこともあったかと思います)ところが、その後長いネタニアフの右派政権を経て、また特にシリア内戦でイランのシリアへの進出が目立つようになり、イスラエル内でもゴラン高地に対する意見は硬化して、おそらく現在は返還反対の意見が強いのではないでしょうか?
エルサレムが永久のイスラエルの首都だと言ったり、ゴラン高地は永久に保持すると表明した・・・イスラエル・アラブ関係ではますます現状の固定化、平和的解決の可能性が遠のきつつあるのが現状ではないでしょうか?【2月17日 「中東の窓」】
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イスラエルの力が優位にあるのは現実ですが、優位な現状を固定化するのではなく、パレスチナ側に譲るものがなければ平和的解決の可能性にはつながりません。
【パレスチナ・イスラエルの現況】
最後に、パレスチナの現況に関する報道。
****ガザ地区唯一の発電所が操業停止、燃料不足で****
パレスチナ自治区ガザ地区唯一の発電所が15日、燃料不足のために操業を停止した。当局が明らかにした。悪化しているガザ地区の人道状況に懸念が生じている。
通常はガザ地区の電力の約5分の1を賄っているこの発電所の操業停止により、すでに深刻な電力危機がいっそう悪化するとみられている。
ガザの住民200万人の元へは、1日のうち約4時間ほどしか電気が届かない。
この発電所は通常、エジプトから輸入した燃料を使用して1日に約20メガワットを発電している。操業停止により、ガザ地区の電力はイスラエルから輸入している約120メガワットのみとなった。
ガザ地区の電力供給会社の広報担当者によると、ガザ地区の1日の電力需要は約500メガワットだという。同社は発電所への早期の燃料供給再開に協力を呼び掛けた。
アラブ首長国連邦は先週、病院をはじめとする主要施設の発電機用燃料の購入資金を提供した。ここ数週間の壊滅的な電力不足の影響で、病院3か所、医療施設16か所が、極めて重要な医療サービスの提供中止に追い込まれていた。
イスラエルはイスラム原理主義組織ハマスを孤立化させるために必要な措置として、10年以上にわたってガザ地区の封鎖を続けている。近年はエジプトも境界を封鎖している。【2月16日 AFP】
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****<ガザ衝突>イスラエル軍報復、パレスチナ人少年2人死亡****
パレスチナ自治区ガザ地区とイスラエルの境界近くで17日、爆弾が爆発し、イスラエル兵4人が重軽傷を負った。イスラエル軍は報復として17日から18日未明にイスラム組織ハマスの軍事施設などを攻撃。
パレスチナ保健省によると、イスラエル軍の攻撃によりガザ地区南部ラファ近郊のイスラエルとの境界近くで、17歳のパレスチナ人少年2人が死亡、2人が負傷した。
イスラエル軍によると、ガザ東部とイスラエルの境界近くにパレスチナ旗が設置されているのを発見し、兵士がフェンスに近づいたところ、爆発が起きた。旗は16日の金曜日にあったパレスチナ人による抗議行動の際に取り付けられたとみられる。
イスラエル軍は即座にハマスの監視ポストなどを戦車で砲撃。その後、ガザ地区からイスラエル領内にロケット弾が撃ち込まれ、民家の屋根に命中した。このため、軍は18日未明にハマスの軍事施設など18カ所を空爆するなどした。
パレスチナ保健省は、18日朝の捜索で少年2人が死亡しているのが発見されたとしている。
16日にガザ地区であった抗議行動では、イスラエル軍との衝突で20人以上のパレスチナ人が負傷した。【2月18日 毎日】
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なお、イスラエル・ネタニヤフ首相は汚職疑惑で、国内政治的には苦しい状況に追い込まれているようです。
****イスラエル警察、ネタニヤフ首相の起訴勧告 2件の汚職疑惑で****
イスラエル警察は13日、ベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相に対する長期捜査の結果、2件の汚職疑惑をめぐり同首相を起訴するよう勧告すると発表した。同国の政界を揺るがす動きだ。
正式起訴に踏み切るかどうかの決断は司法長官に委ねられるが、方針が決まるまでには数週間から数か月かかる見通し。
12年近くにわたり首相の座についてきたネタニヤフ氏は、起訴勧告が伝えられたこと受け国民に向け声明を発表し、自身は無実であり、辞任の意向はないと述べた。イスラエルでは、首相が警察の起訴勧告の対象となった場合、あるいは違法行為で正式起訴された場合でも、辞任の義務は発生しない。
警察はネタニヤフ首相について、米ハリウッドプロデューサーのアーノン・ミルチャン氏や、オーストラリアの富豪ジェームズ・パッカー氏から、高級葉巻などの高価な贈り物を受け取っていた疑いで捜査を進めてきた。
さらに、有力紙イディオト・アハロノトが好意的な報道をするよう、同紙の発行元と秘密契約の締結を企図した容疑についても捜査が行われている。
警察は声明で、ネタニヤフ首相を贈収賄や詐欺などの罪で起訴することを勧告すると発表した。【2月14日 AFP】
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