孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク  闇市場で豊富な資金を運用するIS その闇市場に巣くう政治家 ISの残した恐怖・不信感

2018-02-27 22:09:50 | 中東情勢

(戦闘で破壊されたモスル市内【2017 年 12 月 13 日 WSJ】)

(イラク軍の助けでモスル近郊から避難する市民【同上】)

(チグリス川を渡るのに5日間歩き続け、気を失ったヤジディー教徒【撮影:Zaman Daily Newspaper https://daysjapan.net/taishou/2015/special04.html】都市・建物の復興も難題ですが、人々の心を癒し、安心して暮らせる地域社会を再建するのは更に困難な課題です)

今もISに忠誠を誓う者がイラクとシリアに約1万人 頻発するテロ
イラクにおいては「イスラム国(IS)」が支配地域を失い、新たな段階に入ってはいますが、ISは未だ消滅したわけではなく、強固なテロ組織として活動を継続しており、その脅威は残っています。

****ISが襲撃、民兵27人死亡=イラク***
イラクからの報道によると、北部キルクーク近郊で18日夜、イスラム教シーア派民兵組織「人民動員隊」が待ち伏せ攻撃を受け、少なくとも27人が死亡した。シーア派を敵視する過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行を主張した。
 
イラクではISの国内最大拠点だった北部モスルが昨年7月に解放され、12月にはアバディ首相がIS駆逐を宣言した。

だが、戦闘を逃れた残党が山岳地帯などに潜伏しているとされ、1月にはISの犯行とされる連続自爆テロが首都バグダッド中心部で起きている。【2月19日 時事】 
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****<イラク・シリア>IS忠誠なお1万人「解放後も一定勢力****
過激派組織「イスラム国」(IS)研究で知られるイラク政府顧問のヒシャム・ハシミ氏は1月、米NBCテレビに対し、今もISに忠誠を誓う者がイラクとシリアに約1万人いるとの見解を示した。

両国は昨年12月までにISからの「解放」を宣言したが、IS残党によるとみられる散発的なテロは各地で続いている。
 
ハシミ氏は、両国で実際に戦闘に参加している人数は1000〜1500人と推定。全盛期の約4万5000人からは大幅に減ったが、なお一定の勢力を維持していると分析した。
 
イラクのアバディ首相は昨年12月、「イラクは完全にISから解放された」と勝利宣言し、シリアのアサド政権軍も同様の見解を示している。

一方、在英民間組織・シリア人権観測所は昨年12月の時点で「まだシリア東部デリゾール県の8%を支配している」と分析した。

シリア軍関係者は昨年12月、毎日新聞の取材に「首都ダマスカス近辺のIS戦闘員はまだ勢力を維持している」と述べ、戦闘は終結していないとの見方を示した。
 
イラクの首都バグダッドでは1月15日、ISによるとみられる自爆テロが起き、少なくとも38人が死亡、100人以上が負傷した。(後略)【1月24日 毎日】
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ISの活動を支える資金が闇市場に 腐敗・汚職まみれの政治家・政府高官には本気で取り締まる気なし
ISは、かつて国連から「世界一裕福なテロ組織」と呼ばれたように潤沢な資金を誇っていましたが、面的支配を失った今も、その資金力は健在のようです。その資金がテロ活動を支えます。

ISの資金源を断つべく取り締まりを強化すべきイラク政府・政治家ですが、ISが利用する闇市場に深くかかわっているため、ISの資金運用を遮断できない状況にあるも指摘されています。

****イラクの経済腐敗が阻むISIS掃討戦****
<軍事作戦の成功で息の根が止まったかに見えるテロ組織は、汚職や闇市場を活用してひそかに資金を蓄えている>

(中略)だが「ISISの終焉」を宣言するのはあまりに早い。彼らは戦場で敗れても、その資金調達能力はいまだ健在だ。度重なる戦争や内戦で腐敗したイラクやシリアの経済に巣くい、新たな「聖戦」に備えて資金を準備できる。ISISに引導を渡すには、資金を枯渇させなければならない。

イラク議会の北部モスル奪還に関する調査委員会の一員である議員によると、ISISは撤退時に資金4億ドルをイラク・シリア両国からいったん持ち出したという。その上で、その資金をイラクの地下経済に投資している。

イラク政府はこうした資金還流を制御すらできない。それほどまでに地下経済がはびこりだしたのは90年代以降のこと。クウェート侵攻で国際社会から原油・天然ガスの全面禁輸措置を受けたフセイン政権は、隣国のトルコやシリア、ヨルダンを経由する密輸ルートを開拓した。

そこにISISは目を付けた。イラクとシリアで勢力を拡大していた14年に、フセイン以来の密輸ルートを活用。遺跡や博物館から略奪した古美術品や金、原油の密輸に「関税」をかけることで、1日に100万ドル以上の利益を得ていた。

地下経済に群がるのはイラクと近隣3カ国に広がる商人ネットワーク、それに与野党の政治家だ。

軍事作戦より資金源根絶
掃討作戦で密輸ルートを失い、「国家」から一介のテロ組織という本来の姿に戻った今、ISISは合法的なビジネスにも進出。既に投資額は2億5000万ドルを超えている。

首都バグダッドや復興地域でISISが頼るのは、カネに目がくらんだ仲介者だ。過激思想とは無縁で経歴に傷がないビジネスマンや部族長が投資を引き受け、ISISがピンはねをする。

ISISが隠れみのに使う仲介者は車や家電の販売店、薬局だが、最も多いのは両替商。特にバグダッドには、ISISとつながりのある小規模な両替商が多数いるらしい。

ISISはイラクの通貨で蓄えた資金をここでドルに替え、国外に送金できる。14〜15年にはイラク中央銀行がドルを供給する両替商の中にISISが潜んでいたことが発覚。政府が排除を確認するのに1年近くを要したという。

中央銀行をはじめ、内務・国防・財務・外務の各省庁、首相府、治安当局がテロ組織の資金源根絶に取り組んでいる。だがそれぞれの機関は組織力に欠けており、相互協力など到底おぼつかない。

政府内で連携が取れないのは、有力政治家の権力闘争や汚職が原因だ。闇市場でおいしい思いをしている政府高官もいる。腐敗防止委員会に所属するある議員が、自分も含め「全員が汚職に手を染めている」と発言したこともある。本気で取り締まる気など毛頭ないのだ。

こうした腐敗がISISに有利に働き、違法薬物、古美術品、武器の密輸は続く。誘拐もISIS草創期以来、お得意の資金調達手段だ。闇市場の取り締まりが行われない限り、自称「国家」は姿を変えて危険な反乱勢力になるだろう。

イラクはそろそろ有志連合と共に、ISISとの戦いに決着をつける必要がある。それにはまず、腐敗のない、経済構造のしっかりした国家を再建することだ。

トランプ米政権もまた本気でISISを屈服させたいなら、軍事作戦だけでなく、資金源の根絶にも本腰で取り組まなければならない。【1月27日 Newsweek】
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言うまでもなく、“腐敗のない、経済構造のしっかりした国家を再建”しない限り、仮にISが根絶されたとしても、第2、第3のISが生まれるだけです。テロ組織の問題に限らず、国民生活の改善を図っていくうえで、大前提となる課題です。

そして、イラクに限らず、多くの紛争を経験した国が克服できずにいる難題でもあります。

国際支援も“腐敗のない、経済構造のしっかりした国家を再建”が前提
“取り合えず”は、国際社会からの資金的支援で復興に取り掛かることになりますが、イラクとしては不満もあるようです。

****イラク復興へ3兆円拠出=各国・機関が表明****
過激派組織「イスラム国」(IS)との戦闘などで荒廃したイラクの復興を協議するため、クウェートで開かれた国際会議が14日閉幕した。

イラク政府は復興に882億ドル(約9兆4500億円)が必要と訴えたが、各国・機関が融資や投資を通じて表明した拠出額は計300億ドル(約3兆2100億円)にとどまった。
 
AFP通信によると、イラクのジャファリ外相は「失望はしていないが、想定より少なかった」と述べ、国際社会の一層の支援を呼び掛けた。【2月15日 時事】 
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アメリカは、IS壊滅戦略を立案する際、イラク再建の全責任を引き受ける意向がない点を明確にしています。しかし、イラクの「安定化」という限定的な任務は支持しています。米当局者は“安定化”について、「人々が自宅に戻れるくらいまで地域を居住可能にすること」と定義しています。

イラクには、これまでも多大な資金が日本を含む国際社会から供与されてきました。

“腐敗のない、経済構造のしっかりした国家”の建設が見通せない限り、多くの政治家・政府高官が闇市場に手を染め、腐敗・汚職が当然のごとく蔓延する現状にある限り、支援する側も“ざるで水をすくう”ような話にもなる支援には乗り気がしません。

支援されるカネも、国民生活のためというより、石油利権などを狙った思惑のあるカネにとどまるでしょう。

一応、国土の復興を担当するジュマイリ計画相は、緊急の課題として住宅の再建に取り組む姿勢を見せてはいますが・・・・。

****IS解放の地「住宅再建優先」 イラクの復興担う計画相****
(中略)イラクは03年以降、戦後復興のため日本を含む国際社会から計数百億ドル規模の資金援助を受けながら政治の混乱や汚職による混乱の拡大を防げなかった。

さらに、ISとの戦闘を通じてイランの影響下にある民兵組織がイラクで活動の幅を広げており、地域大国サウジアラビアなどは、資金の拠出に慎重になっているとされる。
 
ジュマイリ氏はこうした懸念について、「イラク戦争後は治安の悪化が続き、政治的にも不安定だった。だが、今は状況が大きく異なる」と主張。国際機関の目を通じて透明性を確保する意思を強調した。
 
一方、同日取材に応じた国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)イラク事務所のブルーノ・ジェッド代表(58)は国内避難民への対応について、住居やインフラの再建は必要としつつ「時期尚早な帰還は社会を不安定化しかねない。自発的に帰れる環境をつくることが重要だ」と注文をつけた。
 
ジェッド氏は「避難民を強制的に元のコミュニティーに戻せば、再び差別や争いが起きて元の状態に戻ってしまう」と主張。

ISの洗脳を受けた子どもの心のケアや、ISに協力した家族を持つ人を罰することなく受け入れることへの理解を促すなどして、再びISのような過激派を生む素地をつくらない環境づくりの必要性を訴えた。【2月15日 朝日】
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心に大きな傷を負った人々 難しい道のりの安心して暮らせる地域社会再建
ISに対し異なる立場にあった国民が、再び融和し、安心して暮らせる地域社会を建設する・・・当然の目標ですが、腐敗・汚職のない政治体制をつくるのと同様に、これまた非常に難しい課題です。

ISの犠牲になった人々の心には、地域社会への不安・恐怖が根強く残っています。

****新たなジェノサイド」を懸念、イラクに戻れないヤジディー女****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」によって誘拐され、性的暴行や残忍な扱いを受けたヤジディー(Yazidi)教徒の女性数千人の一人であるファリダ・アッバス・クハラフさんは、ISが去ったことでイラクが安全になった訳ではなく、戻ることは難しいと表情をこわばらせた。
 
先週、通訳を介してAFPの取材に応じたクハラフさんは、「何も以前と変わっていない。(ISに)加わった人々は、今も同じ地域に暮らしている。元の場所に戻って彼らを再び信じることなどできるわけがない」と述べ、「別の名前を語る悪人によって、『ジェノサイド(集団虐殺)』が再び起きないと誰が保証してくれるのか」と訴えた。
 
イラク北部シンジャル地域にある、かつてはのどかだったコチョにIS戦闘員がやって来たのは、2014年8月3日。当時クハラフさんは18歳だった。
 
長い黒髪と悲哀に満ちた瞳のこの若い女性は、スイス・ジュネーブでの人権擁護団体のサミットに合わせて行われた取材の中で、「私たちは、誰かを傷つけたり怒らせたりしたことはない。ただ穏やかに暮らしたかっただけなのに…」と話し、自分や家族が襲撃されることになるとは想像もしていなかったと続けた。
 
ISは2014年に北部シンジャル一帯を掌握すると、異端者と見なしているヤジディー教徒に対する残虐行為を展開。クルド語を話すヤジディー教徒の男性の多くが虐殺されたほか、女性や少女は性奴隷として拉致され、少年は軍事教練キャンプに送られた。国連(UN)はこれらの行為をジェノサイド(大量虐殺)に相当すると非難した。
 
IS戦闘員らはコチョを襲撃した際、ヤジディー教徒らに2週間の猶予を与え、イスラム教に改宗するか、あるいはそうしなかった場合にはその結果を受け入れるか、どちらかを選択するよう迫った。

「彼らは村人全員を集め、改宗を求めた。私たちが拒否すると、男性たちを殺し始めた。その日一日だけで、450人を超える男性や少年たちが殺された」

■奴隷市場
クハラフさんの父親と兄弟の一人が殺された。彼女自身も誘拐された。「彼らは私たちを連れて行き、ありとあらゆることをした。女性たちだけでなく、8歳の少女にまで性的暴行を加えた」
 
彼女は、悪名高いISの奴隷市場の一つに連れて行かれた。ヤジディー教徒の女性や少女たちはこの市場で売られ、ISがシリアやイラクで樹立を宣言した「カリフ制国家」で性奴隷として売買された。「彼らは市場で買い物したり、動物を選んだりするのと同じように女性を買っていった」
 
捕らわれの身となったクハラフさんは、言語に絶する苦痛を受けたにもかかわらず、自身が授かった信仰やしつけ、そして一緒に拉致され身も心もぼろぼろになった少女たちを支えたいという強い思いに鼓舞され、どうにか心を強く持ち続けた。その間、逃げ出すことは常に考えていたという。
 
それから4か月、クハラフさんと数人の少女たちは、施錠が不十分な扉を見つけて逃げ出した。そして長い過酷な旅の末、ついにドイツに辿り着いた。同国は、難を逃れたヤジディー教徒ら約1000人を受け入れ、避難施設の提供と心理的・社会的支援を行っている。

■ISに法の裁きを
クハラフさんは現在、ISに法の裁きを与えるべく、ヤジディー教徒に対して行われたジェノサイドについて事実を知ってもらおうと活動を続けている。
 
イラク政府は昨年12月、ISに掌握されていた広範囲の領土を奪還することに成功。ISに対して勝利を宣言した。
 
しかしクハラフさんは、状況はまだまだ不十分であると述べ、「このような罪を犯したISやその関係者たちを、国際法廷の場に立たせたい」と語気を強めた。【2月27日 AFP】
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被害者としては当然の思いですが、“法の裁き”をどこまで広げ、どのような裁きを行うかについては難しい問題もあります。ISに協力した家族を持つ人は多く、“協力”の中身、経緯も様々です。
“法の裁き”が“復讐の応酬”にならないようにする配慮も必要です。

****IS戦闘員の妻16人に死刑判決 イラク、厳刑に批判も****
イラクの中央刑事裁判所は25日、過激派組織「イスラム国」(IS)戦闘員の妻だったトルコ人女性16人に死刑判決を言い渡した。ISに参加してメンバーと結婚し、輸送面で活動を支援したり、テロ攻撃を助けたりしたことを、捜査のなかで認めたという。
 
裁判所は判決について、「証拠を精査した上で、反テロリズム法に沿って判決を下した」と指摘。一方、判事の一人はロイター通信に対し、上訴は可能だとの認識を示した。
 
イラク政府は昨年12月、ISの掃討完了を宣言。ISの支配領域で政府軍に投降した戦闘員の妻らに対するこれまでの裁判では、死刑や終身刑を含む厳刑がすでに言い渡されている。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、戦闘員の夫に強制的に連行された女性もいるとして、厳刑を見直すべきだとイラクを批判している。【2月27日 朝日】
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モスルなど、これから復興が必要とされる地域は、ISとも協力関係にあった者も少なくないスンニ派居住区です。

ISとの関係をどのように清算して復興を加速させるのかということに加え、シーア派が独占するバグダッドの中央政府が少数派のスンニ派との権力分担をどのように実現できるか・・・も、重要課題です。

更に、イラクでの影響力を拡大しようとするイランに、どのように対応するか・・・も。
課題を挙げればきりがなく、“それが出来ないから今のイラクがある”といった難しいものばかりです。
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