((オーストラリアにとって中国はアメリカよりずっと近い国です。)
【米中の板挟みとなるカナダ】
カナダ当局が昨年12月1日、アメリカの要請で通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長を逮捕後、中国側はカナダ人2人を拘束し、両国関係は悪化していることは周知のところです。
孟晩舟氏のアメリカへの引き渡し期限(今月30日)が近づき、力を振りかざす中国の対応も露骨になっています。
****中国の力、カナダより強い…「猛烈な報復」示唆****
・・・・中国側は、孟氏の身柄が米国に渡るのを阻止しようとけん制を強めている。
中国外務省の華春瑩副報道局長は23日の定例記者会見で、米政府による孟氏の身柄引き渡し要請に関連して「(米国側には)いかなる正当な合理性もない」と非難した。
中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は23日の社説で、孟氏の身柄を米国に引き渡した場合には「中国の猛烈な報復に遭うことが予見できる」と報復措置を示唆し、「中国の国家の力はカナダよりはるかに強い」とも指摘した。【1月24日 読売】
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本来はアメリカの要請による逮捕ですが、中国は貿易問題等でアメリカとの関係が極めて敏感になっていることから、怒りの矛先をアメリカでなく“力の弱い”カナダに向けています。
カナダは長年の同盟国・アメリカと経済的関係が強まっている中国の間で板挟み状態になっています。(こうなることは、逮捕の時点で当然にわかっていたことではありますが)
****中国依存深まるカナダ、「報復」に難しい判断****
孟晩舟氏の身柄引き渡しについて、カナダ政府は米国との犯罪人引き渡し条約に基づくもので、政治的意図は介在しないとの立場だ。中国の圧力にさらされる中、安全保障上の懸念に基づくファーウェイ排除の動きにどう対応するかが試金石となる。
カナダのフリーランド外相は22日、米メディアのインタビューで「孟氏の拘束はもっぱら刑事司法の問題。政治問題化する考えには、強く反対する」と語った。カナダ政府は、昨年12月に中国当局に拘束されたカナダ人男性2人の釈放を求めているほか、中国の裁判所でのカナダ人男性への死刑判決を「恣意的だ」(トルドー首相)と非難している。
カナダは現在、次世代通信規格「5G」からファーウェイを排除するかどうかを検討中だ。排除を決めれば同盟国と歩調がそろう一方で、中国のさらなる報復を受ける可能性が高い。
カナダの大学に所属する外国人学生の33%は中国人が占め、家族を含む経済効果は年50億ドル(約5500億円)に上る。中国は米国に次ぐ貿易相手国でもある。中国依存が深まっているだけに、カナダは難しい判断を迫られている。【1月24日 読売】
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【カナダ同様に米中両大国の間で揺れるオーストラリア】
“長年の同盟国・アメリカと経済的関係が強まっている中国の間で・・・”というのは、オーストラリアも同様です。
カナダ・トルドー首相による昨年6月のG7首脳会談後発言にトランプ大統領は怒りに任せて“裏切り者”“弱虫”呼ばわりしましたが、オーストラリアのターンブル前首相との2017年1月の電話会談で、難民問題への対応に怒ったトランプ大統領が途中で打ち切った・・・というように、首脳間で確執があるのも似ています。
以前もちょっと触れましたが、ネットフリックス配信動画に、そうした米中の板挟みになるオーストラリアを舞台にしたドラマ「パイン・ギャップ」という作品があります。
パイン・ギャップはオーストラリアに実在する米豪共用の重要軍事共同防衛施設で、南シナ海・アジアをカバーする、アメリカにとっては情報網の核となる“耳”であり“目”でもあります。
どこまでが事実に沿うものなかは知りませんが、パイン・ギャップによる衛星からの画像監視や通信傍受による諜報活動は非常に興味深い(というか、“怖い”というべきか)ものがあります。
ドラマの方は、南シナ海での軍事行動を強める中国に対し、これをけん制するアメリカがこの海域に艦隊を差し向け、人的被害は出ないように配慮しつつ中国軍事施設にミサイルを撃ち込む、これに報復する中国が、南シナ海を飛行する米軍戦闘機を撃墜する・・・という、完全なフィクション(今のところは)です。前述電話会談を思わせるような米豪首脳間の確執も描かれています。
パイン・ギャップは、この米中衝突の情報監視面での最前線にあります。
面白いのは、この米中衝突において、当然のごとく同盟国としてアメリカ支持をオーストラリアに求めるアメリカに対し、オーストラリア側は中国との関係を重視して“中立”を画策していることにパイン・ギャップのアメリカ側スタッフが気づく・・・という話の流れです。
「(アメリカ側スタッフがこの疑惑を本国に報告すれば、)逆上した大統領はオーストラリアを昨日の下着のように脱ぎ捨てるわ。どうする?報告する?」「アメリカがオーストラリアを捨てたら、日本のアメリカを見る目が変わる。オーストラリアを捨てられるならどの国でも捨てられる。韓国、フィリピン・・・」「そして、どの国も核兵器を持とうとする」・・・という、オーストラリア側スタッフとアメリカ側スタッフのやり取りも面白いです。
(まだ途中までしか観ていませんので、米豪がどういう決断をすることになるのかは知りません)
実際、2013年まで政権の座にあった労働党も、当初の自由党・ターンブル前首相も、中国との関係を重視する路線でしたので、このドラマの設定は現実とかけ離れたものではありません。
しかし、ターンブル前首相は途中から中国への警戒感を重視する路線に切り替えています。
****豪中関係、急速な悪化 ****
豪で規制法案、中国反発「貿易面の影響も」
オーストラリアと中国の関係悪化が深刻だ。豪州にとって中国は最大の貿易相手国だが、野党議員のスキャンダルなどをきっかけに反中感情が噴出。ターンブル政権は投資や政治献金を通じて影響力を広げる中国の動きを抑え込む対策を打ち出す。
中国側は反発しており、経済的な報復措置に訴える懸念が出ている。(2018年5月)21日の外相会談でも沈静化の兆しは見えなかった。
中国外務省によると王毅外相はアルゼンチンで開かれた20カ国・地域外相会合に合わせてビショップ豪外相と会談。「豪州側の原因によって両国関係は困難に直面している。関係改善したいなら色眼鏡を外して中国の発展を見てほしい」と指摘した。
豪メディアによるとビショップ氏は南シナ海で中国が進める軍事拠点化を批判した。(中略)
豪州は6月末までに中国の影響力排除を念頭にした「重要インフラ保安法」を施行する。港湾やガス、電力への海外からの投資について「安全保障上のリスクがある」とみなせば、担当相がリスク軽減措置命令を出せるとの内容だ。3月末の法案審議はわずか45分で、野党も目立った反対意見を出さなかった。
昨年末には外国団体からの政治献金を禁止する改正選挙法案や、公職経験者が海外の団体に雇用された場合に公表を義務づける「外国影響力透明化法案」を議会に提出した。いずれも豪州での中国の影響力拡大を抑える意図が色濃い。
当初は親中派と見られていたターンブル首相が態度を変えたのは2017年後半だ。野党議員が中国人から資金援助をうけ、南シナ海問題で中国寄りの発言をしていたことが判明した。「中国による内政干渉」と豪州世論が猛反発したのがきっかけとなった。
ターンブル氏は「中国人民は立ち上がった」という毛沢東の言葉をもじり「オーストラリア人民は立ち上がった」とまで発言。1年以内にある総選挙をにらみ国内世論への配慮もにじむ。
一方、中国の成競業・駐豪大使は4月、豪メディアの取材で「昨年後半から中国に無責任かつ否定的な発言が目立つようになった」とターンブル政権を批判。「(貿易で)望ましくない影響が出るかもしれない」と豪州産品への輸入規制を示唆した。
関連は不明だが豪ワイン最大手のトレジャリー・ワイン・エステーツは5月、中国向け輸出の一部に手続きの遅れが出ていると発表した。
オーストラリアの対中警戒は長年くすぶり続けている問題である。16年には米軍が巡回駐留する北部の要衝、ダーウィンの港を長期賃借する中国企業「嵐橋集団」の顧問に豪元閣僚が就いたことが発覚。中国からの投資マネーが豪州の近年の住宅価格高騰の一因ともされ、世論の硬化に拍車をかける。
ただ豪産業界からは緊張緩和を求める声が出ている。豪鉄鉱石大手、フォーテスキュー・メタルズ・グループのアンドリュー・フォレスト会長は「分断や狂信を招き、尊敬を失う行為」と政府を批判した。5月中旬には貿易関係への悪影響回避をめぐり、ターンブル氏が年内に中国を訪問するとの報道も出た。
豪州は米国との関係もギクシャクしたままだ。ターンブル氏は17年初め、最初の電話協議でトランプ米大統領と決裂。5月の首脳会談でトランプ氏は「(決裂は)偽ニュース」と良好な関係を演出したが、会談に大幅に遅刻し「豪州を冷遇」との報道も出た。中国との摩擦に加え、米国との間に吹くすきま風も懸念となっている。【2018年5月22日 日経】
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昨年8月にターンブル前首相が内輪もめで失脚した後を継いだモリソン現首相も、(次世代通信規格の)5G網から中国企業を締め出すなど、中国警戒路線をとっています。
中国・オーストラリアは南太平洋でも影響力を競っています。
****中国とオーストラリアが戦略要衝パプアニューギニア巡り火花 南太平洋の勢力争い****
パプアニューギニアのオニール首相が6月、北部の沖合いに浮かぶマヌス島の港湾整備に中国が資金援助する可能性があると警鐘を鳴らすと、隣国オーストラリアは驚き、すぐさま反応した。
オーストラリアは8月に政権交代があったにもかかわらず、直ちに対抗案を策定したと、政府筋や外交筋はロイターに明らかにした。
この島は戦略的な要衝に位置しており、中国軍の艦艇が定期的に寄港する懸念が出ていた。
米国の忠実な同盟国であるオーストラリアは今月、港の整備に資金協力すると発表した。南太平洋で中国が勢力を拡大しようとする中、オーストラリアがこの地域における影響力を改めて主張する動きだと、専門家はみている。
「マヌス島の港はわれわれにとって大きな懸念だった」と、米国の外交筋はロイターに語った。「中国軍の艦艇が港を使用する可能性は大いにあった。オーストラリアが港の再開発に資金提供することになり、われわれも非常に喜んでいる」(後略)【2018年11月18日 Newsweek】
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しかし、経済界や地方ではチャイナマネーへの期待が消えた訳でもなく、話はそう簡単でもなさそうです。
****豪州ダーウィン、米海兵隊拠点を中国に99年貸与 現地と中央に温度差****
米海兵隊が駐留するオーストラリア北部ダーウィンの港湾管理権が2015年10月、中国企業「嵐橋集団(ランドブリッジ)」に渡ってから3年が過ぎた。
港の99年間貸与契約には、アジア太平洋重視を打ち出したオバマ米大統領(当時)が不快感を表明し、豪州政府が中国の影響力排除へとかじを切る要因の一つとなった。
しかし、豪州首都から約3000キロ離れた現地では中国の投資を歓迎する空気が強く、中央との温度差を感じさせた。(中略)
外部の“懸念”に比べ、現地の受け止め方はおおらかだ。北部準州政府の担当者は「嵐橋集団の運営に満足している。港の拡張や設備投資も確実に実行している」と評価した。
北部準州商工会議所のグレッグ・ビックネル事務局長も「経済界は歓迎だ。お金に国籍は必要ない」と発言。嵐橋集団が軍民共用桟橋の脇に21年に開業する高級ホテルや、中国東海航空が18年5月に深センからの直行便を開通させたことを挙げ、中国の「高価格帯の観光客」に期待を示した。
他方、地元紙NTニューズ社のクレイグ・ダンロップ記者は、99年貸与は「事実上の売却だ」と批判する。財政赤字解消のためだという準州政府の説明にも「赤字は問題となる水準ではなかった」と反論する。
同紙は地方自由党のジャイルズ前準州政権が選挙向けの投資資金欲しさに港湾を売却したと批判。労働党の現ガナー政権は17年、運営権を20%買い戻す方針を発表している。【1月1日 産経】
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政権与党の自由党には勢いがなく、今年5月までに実施する総選挙では野党・労働党が有利との見方があって、政権交代となれば、中国への姿勢はまた変わります。
****「最大の勝者は野党党首」 政権交代なら対中接近も****
オーストラリアの与党、自由党内で、またも造反による党首交代が起きた。モリソン新首相は、ターンブル前首相の「右腕」とされ、大きな政策変更はなさそうだ。
だが、来年5月までに実施する総選挙に向けた支持率向上の具体策はない。野党、労働党は勢いを増しており、政権交代になれば、外交面では中国との融和路線にかじが切られる公算が大きい。
「最大の勝者となったのは、労働党のショーテン党首だ」。豪メディアは、モリソン氏勝利の党首選結果を受け、こう論評した。
自由党が中心の与党保守連合の支持率は、2016年9月以降、労働党を下回っている。また、今年7月の下院補選では、全5選挙区で野党が勝利し、勢いがある。(中略)
中国語が堪能なラッド元首相や、中国と外交・経済面の戦略対話を立ち上げたギラード元首相など、労働党は伝統的に対中融和路線とされる。
東南アジア研究所(シンガポール)のクック上級研究員は、政権交代となれば「批判を抑えた新たな対中接近政策がとられるだろう」と指摘する。【2018年8月24日 産経】
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【国民世論には、中国への厳しい視線も ただ、アジア人蔑視のような面も】
ただ、国民世論レベルでは中国への厳しい視線が目立ちます。
****中国人に友好的でない国と言えば日本? もっと「非友好的」な国があった=中国メディア****
経済発展でより多くの中国人が旅行や留学などで海外に出るようになっているが、海外における対中感情はどうなのだろうか。
中国人にとって、友好的でない国というとすぐに日本を思い浮かべるようだが、実際にはもっと「友好的でない国」があるという。中国メディアの快資訊は27日、「中国人以外を歓迎する国がある」とする記事を掲載した。
記事によると、その国とは「オーストラリア」だという。移民国家であるオーストラリアでは中国人の割合も比較的多く、52万人あまりの移住者がいるといわれている。これは人口の2%にあたる。
記事は、オーストラリアは自然が美しくて気候も良く、住みやすいことで知られているが、中国人は歓迎されていないようだと残念そうに伝えた。
その理由は、「不動産問題」にあるという。そのため、正確に言えば中国人に優しくないというより、不動産を買いあさる中国人富豪に拒否感を抱いているということになるだろう。日本でも中国人による不動産の「爆買い」現象は国民を不安視させているため、理解できるところだ。(後略)【2018年8月31日 レコードチャイナ】
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最近のニュース見出しでも
“「中国に帰れ」=警官が中国系ドライバーを罵倒―豪州”【2018年12月28日 レコードチャイナ】
“粉ミルクを買おうとした中国系女性、店員に没収される、理由は…―豪州” 【2018年12月1日 レコードチャイナ】
“粉ミルク盗んで中国へ出荷、窃盗団を摘発 豪”【1月22日 CNN】など。
これらの中には、対中国云々だけでなく、アジア人蔑視的なオーストラリアの差別意識も垣間見えるものも。
【カナダ・オーストラリアとは異なる日本の中国とのしがらみ・関係 良くも悪くも、単純ではない関係】
“長年の同盟国・アメリカと経済的関係が強まっている中国の間で・・・”という面では日本も同じですが、日本と中国の間には2000年近い歴史・文化的つながりがあること、その過程で先の戦争のような出来事もあって、中国側に日本に対する警戒感・怨念も消えていないこと、領土問題も存在すること、一衣帯水の関係にあって、ひとたび事が起こると艦船を沈めたり、戦闘機を撃ち落としたりするだけでは済まなくなる恐れもあること・・・・等々、いろんな事情があって、関係が良くなるにしても、悪くなるにしても、単にそのときの経済や政治の話だけでは決まらないという面があります。