孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  「超法規的殺人」が続くドゥテルテ政権 国際批判も意に介さず「王朝」へ

2019-07-19 22:41:56 | 東南アジア

(選挙キャンペーンで登壇した(左から)サラ・ドゥテルテ氏、ドゥテルテ大統領、セバスチャン氏=2019年5月、ダバオ、鈴木暁子撮影【627日 朝日】)

 

【いまや記録さえ残されなくなった「超法規的殺人」】

フィリピン・ドゥテルテ政権が警察および「謎の組織」による麻薬関連容疑者に対する「超法規的殺人」を進めていること、このような「強い姿勢」は国内的には多くの国民から支持されていることなどは、これまでも再三取り上げてきました。

 

ただ、国民の支持が高いとは言っても、「被害にあうのは麻薬に関係した連中(多くは貧困層)だけ。まっとうな市民には関係ない話で、それで治安がよくなるなら結構なことだ」という話でもあり、それでいいのか?という疑問がぬぐえません。

 

5000人とも、27000人とも言われる麻薬戦争犠牲者のなかには、相当数の“誤って殺害された者”あるいは“警察にとって都合の悪い者”も含まれていると推察されます。

 

****3歳幼女が撃たれて死亡、フィリピン麻薬戦争で新たな犠牲者****

ドゥテルテ大統領が主導するフィリピンの麻薬戦争で、また1人新たな犠牲者が出た。

マイカ・ウルピナちゃん、わずか3歳。1週間前、警察はマイカちゃんの父親に麻薬密売の疑いがあるとして自宅を急襲した。その際に撃たれて亡くなった。警察は父親が娘を盾にしたと非難した。

「発砲の基準だって― あるに決まっているだろう」

麻薬戦争開始以来、国家警察長官としてドゥテルテ大統領を支え、現在は上院議員に転身したロナルド・デラロサ氏は以下のように述べ、警察の対応を擁護した。「まず巻き添えが出ないように安全を確保することが先決だ。だが言ったように、完璧ということはありえない。」

その上でこう続けた。「子供を撃ちたいと思う警察官がいると思うかね。いるはずがない。彼らも子を持つ親だからだ。だが不幸な事態が起きてしまった。」

だが4日行われたマイカちゃんの葬儀で母親は、警察の説明はウソだと主張した。母親によると、自宅が警察の急襲を受けた際、家族は全員就寝中で、父親は一切抵抗しなかったと話す。また自身にも身の危険を感じるという。

「戦いたいけれど、相手がわからないから少し怖い」と母親。「どうやって戦えばいいのか自問している。危険が及ぶかもしれないから、子供たちから離れなければならないかもしれない。」

20以上の国々が国連に対して、フィリピンの麻薬戦争に対する調査をするよう申し入れている。また国連人権委員会に対し問題への対応が要請された。

フィリピンの警察は、これまでに5000人以上の容疑者を殺害したと公表。これらの容疑者は武装しており、逮捕に抵抗したためだと説明している。

だが活動家らは、実際にはこれより多い約2万7000人が殺害されたと指摘している。【78日 ロイター】

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「超法規的殺人」が日常化するにつれ、いまでは死亡事案に関する報告書すら作成されないほどに、感覚が麻痺しているようにも見えます。

 

****人目につかず殺せる郊外に拡大、フィリピン麻薬戦争****

(中略)「ドゥテルテ政権が発足して最初の2年くらいは、死亡事案に関する報告書が残されていたが、いまや記録さえ残されなくなった」とアムネスティのフィリピン支部長、オラノ氏は指摘する。「その結果、超法規的殺人や警察権力および法律の乱用、そして貧しい人ばかりが犠牲になることが日常的になってしまった。」

またアムネスティは8日、麻薬戦争が首都マニラから郊外に拡大しているとの報告書を公表した。これについてオラノ氏は「(郊外には)マニラよりも人目につくことなく人を殺せる場所がたくさんある。おそらく警察にとって、より自由に作戦を行えるだろう。マニラでは難しくても、郊外なら高速道路や田んぼに死体を遺棄することができる」と述べた。

一方、ドゥテルテ大統領の報道官は超法規的殺人の可能性を否定。調査要求は、フェイクニュースに踊らされた「外国政府の不当な干渉」だとしている。【710日 ロイター】

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国際的批判はもちろんありますが、ドゥテルテ大統領は無視・反発を続けています。

また、これだけの「超法規的殺人」が横行する結果として、多くの遺児が発生しており、社会問題化しています。

 

****比「麻薬戦争」あふれる遺児 国連人権理事会が調査要求****

国連人権理事会は11日、フィリピンドゥテルテ政権が掲げる麻薬犯罪対策の下での超法規的殺人といった人権状況について、調査を求める決議を初めて採択した。

 

フィリピンでは取り締まりで親を亡くした遺児の支援が社会問題化しているが、就任4年目を迎えたドゥテルテ大統領が対策を緩める気配はない。

 

国連人権理事会が任命する特別報告者は、ドゥテルテ氏が大統領に就任した2016年にフィリピンの状況調査に意欲を示したものの、フィリピン側が拒否していた。だが、今回は理事会が国連人権高等弁務官に対し、約1年後に報告書の提出を求めるという決議案が、47理事国中、賛成18票、反対14票、日本を含む棄権15票で採択された。

 

賛成が反対を上回った背景には、ドゥテルテ氏が始めた「麻薬戦争」に伴い、子どもを含む多くの命が失われている事実がある。

 

6月29日夜には、ルソン島リサール州で警察による銃撃を受け、3歳の女児マイカ・ウルピナちゃんが死亡した。国家警察の報道官は、捜査対象だった父親がマイカちゃんを盾に警察に抵抗したため発砲したと説明した。だが、母親は「警察は令状もなく就寝中に家に押し入って撃ってきた。夫は娘を盾になどしていない」と否定した。

 

同国政府は、16年7月~19年5月に麻薬犯罪の容疑者約6600人が警察官に殺されたが、麻薬犯罪は大きく減ったと主張。今回の人権理事会の決議に対しても「誤った情報に基づいてフィリピンを辱めようとしている」と反発している。

 

同国では取り締まりで親を殺された遺児の支援が課題になっている。

 

マニラ首都圏カロオカン市のカルメンシータさん(59)の長男(当時29)は16年12月、知人宅で警察官に撃たれて死亡した。警察は「麻薬事件の捜査中に抵抗したため」と主張。長男の妻(同26)も2年後、身元不明の男に射殺された。カルメンシータさんは「2人は麻薬常習者でも売人でもなかった」と言う。

 

カルメンシータさんには孫2人が残された。孫娘プリンセスさん(14)はショックで9カ月間、口をきけなくなり、学校も休むようになった。

 

殺し屋などに殺害された例を含めると、犠牲者は2万7千人に上るとの推計もある。アテネオ・デ・マニラ大学の調査では、17年9月までに3万2395人の子どもが、麻薬犯罪対策の下で親を失った。政府は遺児らの支援はしておらず、カルメンシータさんもキリスト教会から受け取る月約8千円の学費支援が頼みの綱だ。【713日 朝日】

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日本は棄権とのことですが、どういう判断でしょうか?

 

なお、国際刑事裁判所(ICC)がドゥテルテ大統領の推進する麻薬撲滅戦争をめぐって予備調査を開始したことを受け、フィリピンは317日、国際刑事裁判所から正式に脱退しています。

 

今回の国連人権理事会での決議案を主導したアイスランドに対しては国交断絶を検討しているとも報じられています。

 

****比大統領、アイスランドとの国交断絶を検討 麻薬撲滅戦争めぐり****

先週行われた国連人権理事会でアイスランドが、フィリピンの麻薬撲滅戦争について調査するための決議案採択の先鋒となったことを受けて、ロドリゴ・ドゥテルテ比大統領がアイスランドとの国交断絶を「真剣に検討」していることが、報道官の話で15日、明らかになった。

 

ドゥテルテ大統領が率いる麻薬撲滅戦争では、これまでに数千人が殺害されている。欧米諸国は人道に対する罪に相当する可能性があると非難しており、ドゥテルテ氏はそうした批判にいら立ちをあらわにしている。

 

国連人権理事会では、麻薬取り締まりによる殺害を調査するための決議案をアイスランドが提出。同理事会がこの決議案を支持したことを受け、ドゥテルテ氏がアイルランドとの国交断絶を検討していると大統領報道官が明らかにした。

 

ドゥテルテ大統領は2016年から麻薬撲滅戦争を開始。警察はこれまでに5300人以上の容疑者を殺害したと発表しているが、人権団体は実際の死者数はこの4倍に上ると指摘している。

 

ドゥテルテ政権はしばしば、国際社会による非難は国家主権の侵害だと主権。一方で監視団体らは、同大統領の在任期間中に国内で公平な調査を実施することはほぼ不可能だとして糾弾してきた。

 

ドゥテルテ氏は先週にもアイスランドを罵倒し、「アイスランドの問題は何だ? 氷だけだ。これが君たちの問題だ。氷があり過ぎる」「こうした愚か者たちは、フィリピンの社会、経済、政治問題を理解していない」と述べた。 【716日 AFP】AFPBB News

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こうした強硬姿勢によってフィリピン・マニラの治安状況が改善していると擁護する考えもありますが、そのために現場の警官などが恣意的に殺害することを認めるのは、別の「暴力」を容認することでもあり、危険な考えであると思います。

 

【「政権対メディア」は財閥との権力争いの側面も】

ドゥテルテ大統領は、自身に批判的な報道機関に対しても圧力をかけていますが、このあたりには単に「政権対メディア」という話だけでなく、“フィリピンの社会、経済、政治問題”も背景にあるようです。

 

****大統領とメディアの戦い、本家は米でなくフィリピン****

「フィリピンのトランプ」との異名をもつドゥテルテ大統領の最大の政敵は、麻薬王でも、野党でもなく、本家と同様、同大統領や政権に批判的なメディアだ。

 

5月の中間選挙で圧勝したものの、中国船によるフィリピン船への当て逃げ問題や、人気を下支えしてきた経済成長の鈍化が表明化、メディアのドゥテルテ大統領に対する風当たりは一層厳しさを増している。

 

の急先鋒で知られるフィリピン最大の民放テレビ局、ABS-CBNの経営存続が危ぶまれている。

 

20203月が期限とされる同放送局の今後25年間の営業権更新を盛り込んだ下院法案が6月、議会下院審議で凍結されたからだ。

 

722日に再開される下院審議で法案が再提出されない場合、同放送局の営業認可は更新されず閉鎖が濃厚となる。(中略)

 

2022年の大統領選を目前に、ドゥテルテ大統領は連邦制導入、大統領再選を許可する憲法改正を目論む。フィリピン政界を長年牛耳り、現在は野党となったアキノ派の打倒、阻止を図る地固めの一環だ。

 

ABS-CBNの営業権更新問題の発端は、20165月の大統領選で、同放送局がドゥテルテ氏の選挙広告放映を拒否したこと。

 

その一方で、政敵のトリリャネス上院議員陣営の反ドゥテルテ広告を積極的に放映したためドゥテルテ大統領が同放送局への不満を募らせたとされる。(中略)

 

国家権力を振りかざしてテレビ局の営業権許認可を凍結、ドゥテルテ批判の急先鋒メディアに圧力をかけたわけだ。(中略)

 

そもそも、ドゥテルテ大統領は、マスコミ嫌いで知られる。特に、これまでも自分に批判的なメディアの一掃や閉鎖を進めてきた。

 

20166月に大統領に就任するまで務めたフィリピン南部のダバオ市長時代には、ドゥテルテ氏を痛烈に批判してきたラジオコメンテーターのジュン・パラ氏がドゥテルテ氏の自警団に射殺される事件が発生した。

 

その際、殺人を批判するどころか「悪質なジャーナリストは、死んで当たり前!」とあたかも殺人を容認する発言が飛び出し、物議を醸したこともある。

 

さらに、家賃未払いを口実に有力日刊紙「フィリピン・デイリー・インクワイヤ―」の株主一族が運営するビルを突然封鎖した。

 

このように、ドゥテルテ大統領に批判的なメディアを容赦なく弾圧、排除する政策を採り続けてきた。

 

独裁的だったマルコス政権崩壊以降、フィリピン政府はメディアとの激しい摩擦があっても、これまで直接的な強権介入は避けてきた。

 

しかし、マルコス元大統領を尊敬するドウテルテ大統領は、こうしたメディアとの関わりも、マルコス流を復活させようとしているわけだ。

 

しかし、表面的にはドウテルテ氏とメディアの「戦争」にみえる対立の裏には、マルコス時代から続く「政権側と財閥の権力争い」という因縁が隠されている。

 

実は、フィリピンでメディアを牛耳っているのは、ロペス財閥といわれている。

 

今回、ドゥテルテ大統領と免許更新問題で争うフィリピン最大のテレビ局ABS-CBNは、このロペス財閥の傘下にある。(中略)

 

その(中間選挙圧勝)勢いに乗って、マルコス時代のようにメディアに圧力をかけロペス財閥を崩壊に向かわせようとしているのが、ドゥテルテ大統領というわけだ。

 

歴史は繰り返すのか――。フィリピンにおける権力とメディアの戦いは血みどろの様相を呈してきている。【719日 末永 恵氏 JB Press

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マルコス政権以来の、ロペス財閥と政権の癒着・対立に関する記述ついては、ほとんどを省略しましたので、関心のある方は原文にあたってください。

 

要するに、単なる「政権対メディア」ということではなく、フィリピン政財界に大きな力を有する財閥との権力争いという側面があるとのことのようです。

 

【「ドゥテルテ王朝」に向けて始動】

いずれにしても、これだけ「超法規的殺人」を実行した以上、もし次期政権が反ドゥテルテになれば、間違いなく刑務所送りで終身刑でしょう。

 

したがって、ドゥテルテ大統領としては、次期政権も自陣営で確保する必要があります。

 

後継者として有力視されているのは、ドゥテルテ大統領以上にコワモテとして知られる長女だとか。

 

****ライバルはパッキャオだけ 「王朝」築くドゥテルテ一族****

フィリピンではこのごろ、「ドゥテルテ王朝」なる言葉がメディアなどでしきりに使われるようになっている。ドゥテルテ大統領(74)とその家族の政界進出ぶりをやゆしたものだ。

 

任期折り返しの今年、5月にあった中間選挙(議会上下院・地方選)では、個性的な3人の子どもが下院議員、ダバオ市長、ダバオ副市長にそろって当選。2022年の大統領選もみすえた動きがすでに始まっている、との見方も出ている。

 

イケメン次男、後継者の長女、問題児の長男

(中略)同じ選挙集会。(イケメンで、これまで政治と縁がなかった次男)セバスチャン氏と対照的に、堂々たる雰囲気で壇上に立ったのは、ドゥテルテ氏の長女で現ダバオ市長のサラ・ドゥテルテ・カルピオ氏(41)だ。

 

ダバオ市長職は、ドゥテルテ氏も通算22年間にわたって務めたキャリア。父の後継者の本命候補と目されている。

 

サラ氏は07年、同市長だった父のもとで副市長に当選。10~13年はドゥテルテ氏が副市長となり、入れ替わりでサラ氏が市長になった。13年からは再び父が市長に、サラ氏が副市長に。さらに16年、ドゥテルテ氏が大統領選に出馬すると、あらためてサラ氏が市長に当選して今に至っている。

 

こんなエピソードがある。

サラ氏の市長1期目の11年のこと。裁判所が命じた建物の解体現場で住民の反対運動が起きると、サラ氏は解体を数時間遅らせるよう求めたうえで現場に急行。話を聞き入れない裁判所の執行官にパンチを数発浴びせて、住民から喝采を浴びた。

 

その様子はテレビでも放映され、「庶民派でむちゃくちゃ強い市長」という人物像が確立した。「サラ氏と互角のライバルになり得るのはパッキャオ氏ぐらい」との声も上がる。国民的英雄であるボクサーで、上院議員でもあるマニー・パッキャオ氏のことだ。(中略)

 

22年の次期大統領選にサラ氏が出たら。フィリピン初の、2代連続した親子大統領が誕生する可能性はある。

 

だがもしも、死者が出てもお構いなしの麻薬犯罪対策も人権問題も、中国寄りの外交も経済政策も、父ドゥテルテ氏とそっくりの路線を進むのだとしたら……。世界中の注目は浴びるけれど、国力は大きく前進しない。そんなフィリピン政治が続くかもしれない。【627日 朝日】

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