(ペルシャ帝国の栄光を偲ばせるペルセポリス遺跡 ここもトランプ大統領の報復対象52カ所に入っているのでしょうか?)
【「戦場での戦闘経験のない、徴兵忌避を続けた、金儲けにしか興味のない人間だからこそこんなことができたのだろう」】
1月3日ブログ“アメリカ トランプ大統領指示で国民的英雄ソレイマニ司令官を殺害 注目されるイランの対応”
1月5日ブログ“イランのソレイマニ司令官殺害 米国防総省も衝撃を受けたトランプ大統領の決定”
に引き続き、ソレイマニ司令官殺害の件です。
****ソレイマニ司令官の故郷、追悼の市民転倒で30人死亡 イラン****
米軍の攻撃で殺害されたイラン革命防衛隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官の故郷である同国中部ケルマンで7日、遺体の埋葬と追悼のために集まった市民が折り重なるように転倒し、英BBC放送は地元メディアの報道として少なくとも30人が死亡、40人以上が負傷したと伝えた。
イラン国営メディアは、「数百万人」が追悼集会に参加したとしている。(中東支局)
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痛ましい事故ですが、ソレイマニ司令官に対するイラン国民の思いを物語るものでもあるでしょう。(後述するように、必ずしも彼を好意的に見る人々だけではありませんが)
トランプ大統領は司令官を“世界随一のテロリスト”と呼んでいますが、イランにおいては“とりわけソレイマニ将軍は国際的な知名度を持ち、日本でいうなら「乃木大将」「東郷元帥」「山本五十六」といったイメージに近い、アイドル的なイランの国家英雄です。”【1月6日 伊東乾氏 JBpress】とも。
その“アイドル的なイランの国家英雄”を、戦争状態でもないのに、いきなり爆殺してしまった今回の作戦。
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・・・・ロサンゼルス近郊にあるレッドランド大学のB教授(西洋哲学史)は開口一番こう吐き捨てるように言った。
「弾劾裁判を粉砕するために打ったギャンブルだ。トランプ大統領は『国の一大事だから上院での弾劾裁判など止めてしまえ』と米国民に言わせようというのだろう」(中略)
「ソレイマニ司令官はホメイニの超側近。百戦錬磨の将軍だ、米国で言えばパットン将軍のような存在だったらしい」「それを無人飛行機(ドローン)発射のロケット弾で「敵の将軍」を木っ端みじんに葬り去る」
「軍士官学校を出て、軍歴を重ねてきた職業軍人は、他国の将軍をこんな不名誉な殺し方はしないだろう」
「戦場での戦闘経験のない、徴兵忌避を続けた、金儲けにしか興味のない人間だからこそ、こんなことができたのだろう」・・・・【1月7日 高濱 賛氏 JBpress】
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【書簡下書きが流出?】
イラン側の報復の懸念は当然として、イランの影響力が強い周辺国、更には核合意をめぐる欧州を巻き込んだ問題ともなっています。(中東情勢が不安定化すれば石油供給に大きな支障が出る日本も、関係国でしょう)
****【米イラン緊迫】イラク、欧州も巻き込み情勢複雑化****
米国とイランの対立激化は、米軍が駐留するイラクやイラン核合意の当事国である欧州諸国も巻き込み、中東情勢をいっそう複雑化させそうだ。
イラクでは、イスラム教シーア派大国イランによるシーア派勢力との連携を背景に、米国を排除する動きも表面化してきた。
イラクのアブドルマハディ暫定首相は3日、米軍が首都バグダッドでイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を殺害したことについて「イラクの主権に対する言語道断の侵害だ」と非難。
暫定首相はイラクでの司令官の追悼行事にも参加した。イラク国会は5日、外国軍部隊の駐留終了を求める決議を採択したが、投票に参加したのはシーア派系の議員が主体だ。
決議に法的拘束力はないが、トランプ米大統領は同日、イラク政府が駐留米軍の撤収を正式に求めてきた場合には「厳しい制裁を科す」と警告。
実際に撤収することになれば、米国がイラクに建設した空軍基地の建設費用を支払わせるとも語った。米軍が影響力を失えば、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が再び台頭する懸念も強まる。
イランはイラクのほか、レバノンでもシーア派民兵組織に資金や兵器を供与、シリア内戦では軍事顧問を送るなどしてアサド政権を支援してきた。
周辺国に親イラン勢力を植え付ける「シーア派の弧」と呼ばれる戦略で、中心となって進めたのがソレイマニ司令官だとされる。イランが自国の影響圏とみなすこれらの国では、スンニ派など他宗派の国民が反発を強めている実情もある。
イランは5日、核合意の履行を放棄する第5段階で無制限にウラン濃縮を行う方針を示し、米国との緊張関係に拍車をかけた。
合意から離脱した米国の制裁再開で経済が悪化する中、支援策を一向に打ち出せない英仏独にしびれを切らし、「合意崩壊」の危機をあおる狙いがある。
英仏独は核合意の維持を図りつつ、イランの弾道ミサイル開発などでは米国と懸念を共有しているため、今後困難な立場に置かれる恐れがある。【1月6日 産経】
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こうした状況で、奇妙な文書が問題となっています。
*****国防長官、米軍のイラク撤収否定=書簡下書き流出で混乱****
エスパー米国防長官は6日、国防総省で記者団に「イラクを去るなどという決定はない」と述べ、米軍のイラク撤収を否定した。
これに先立ち、米軍がイラク軍に撤収を通知する内容の書簡が流出し、波紋を広げていた。複数の米メディアが報じた。
流出した書簡では、イラク議会が5日に米軍主体の有志連合の撤収を要求する決議を採択したことを受け、「われわれは撤収を命じた主権的決断に敬意を表する」と明記。「イラク国外への退去を安全かつ効率的に行うため」、今後数日から数週間はバグダッド市内でヘリコプターの飛行が増えると通知した。
駐留米軍幹部が差出人だったが、署名はなかった。
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は書簡流出を受け、「下書きが誤って送付された」と釈明。「稚拙な文章で米軍撤収をほのめかしてしまっているが、事実ではない」と強調した。【1月7日 時事】
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真相はわかりませんが、“書簡下書き流出”の結果として“混乱”が生じているのではなく(もちろん、結果としての混乱も生じてはいますが)、書簡下書きが流出するほどの混乱状態がすでに現状としてあるというべきでしょう。
トランプ大統領は往々にして異なる方向性の言動を示すため、対応するスタッフ・部下にも混乱が生じることがある・・・との背景説明も。
【「この金が払い戻されない限り、米軍は撤退しない」】
もっとも、イラク駐留米軍については、トランプ大統領は明快に否定しています。
****イラクが米軍撤退要求なら「過去にない厳しい制裁」「建設に何十億ドル」******
米国のトランプ大統領は5日、イラク駐留米軍に関し、「イラクが我々に撤退するよう要求すればイラクに対し、過去にないような厳しい制裁を科すことになるだろう」と記者団に語った。
イラク国民議会が駐留米軍を含む外国軍の全面撤退を求める決議を採択したことを踏まえた発言だが、制裁をちらつかせたことでイラク側の更なる反発も懸念される。
トランプ氏は、イラクにある空軍基地について「建設するのに我々は何十億ドルも払った。この金が払い戻されない限り、米軍は撤退しない」とも述べた。米軍など各国軍はイスラム過激派組織「イスラム国」掃討のため、イラクの同意に基づいて駐留している。【1月7日 読売】
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反発するイラクを口汚く恫喝することで、事態が更に悪化する・・・云々の話もさることながら、「この金が払い戻されない限り、米軍は撤退しない」という発言には、「カネのことしか頭にないのか?まるでそこらのチンピラみたい」という印象も。
イラクおよび中東の安定に果たす駐留米軍の役割を冷静に訴える・・・という対応はできないのでしょうか?
なお、イラク情勢については、下記のように緊迫しています。
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イラクでは現在、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討のため、約5千人の米軍が駐留している。イラクは2年前にIS掃討作戦の終結を宣言したが、テロ攻撃は続き、イラクとシリアには数万人規模の戦闘員が潜伏しているとの推測もある。米軍が果たす役割は大きく、撤退すれば影響が出るのは確実だ。
一方、イラク治安当局によると、ソレイマニ司令官が3日に殺害された翌日から、首都バグダッドの米大使館周辺や、米軍が駐留するイラク軍の基地付近にロケット弾が連日撃ち込まれ、イラク人数人が負傷している。
親イランのイスラム教シーア派武装組織の「報復」との見方が広がっており、米国の関連施設を直撃すれば、情勢のさらなる悪化は避けられない。【1月7日 朝日】
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一方、米軍もイランへの警告をこめて、イラン対応の態勢を強化しています。
****米軍、中東に4500人増派 イランの報復に備え、B52も****
トランプ米政権は6日、イラン精鋭部隊司令官殺害への報復に備え、中東地域での米軍の態勢強化を加速させた。
エスパー国防長官は記者団に「いかなる不測の事態への備えもできている」と強調。米メディアによると、米軍が基地を置くインド洋のディエゴガルシア島にB52戦略爆撃機6機を派遣するほか中東に約4500人増派する準備も指示した。
国際社会では米イラン双方に緊張緩和を求める声が強まっており、トランプ政権も本格的な衝突は回避したい考え。エスパー氏は対話の用意があるとしつつ、イランの対応次第では「強硬に対処する」と述べ、報復を思いとどまるよう警告した。【1月7日 共同】
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【国際法無視のトランプ流本音発言】
そうしたなかで、トランプ大統領の“本音”発言が国際法違反として問題視されることにも。
****イラン文化財への攻撃示唆したトランプ米大統領に批判殺到****
アメリカのドナルド・トランプ大統領がイランの文化財への攻撃を示唆したことに、世界各国で批判が高まっている。
米軍は3日、イラン革命防衛隊の海外作戦を担当した精鋭「コッズ部隊」を長年指揮してきた、カシム・ソレイマニ指揮官をバグダッド空港の近くでドローンによって殺害。トランプ氏はその後、イランが報復として「アメリカ国民を拷問したり、障害を負わせたり、爆弾で吹き飛ばしたり」した場合は、イランの文化を含む52カ所の標的を攻撃するとツイートした。
これに対し国連教育科学文化機関(ユネスコ)やイギリスのドミニク・ラーブ外相などは、文化遺産は国際法で守られていると指摘している。
アメリカとイランは共に、紛争中であっても文化遺産を保護するという国際条約に署名している。文化遺産を標的にした軍事攻撃は、国際法上では戦争犯罪となる。
トランプ氏は4日の時点で、「これは警告だ」と大文字で強調しながら、米軍がイラン国内の52カ所の施設を「標的にした」とツイートした。
「もしイラン政府がアメリカ人やアメリカの資産を直撃するなら」、米軍は「非常に素早く、かつ非常に強力に、イランとイランの文化にとってきわめて高レベルで大事な標的、イランそのものを攻撃する」と続けた。
マイク・ポンペオ国務長官はこの後、アメリカは国際法にのっとって行動すると、トランプ氏の発言を和らげようとした。
しかし大統領は5日、記者団に対してあらためて、「向こうはこちらの人間を殺しても許される。こちらの人間を拷問して一生の傷を負わせても許される。路肩爆弾を使ってこちらの人間を吹き飛ばしても許される。なのにこっちは向こうの文化遺産を触っちゃいけないって? そういうわけにはいかない」と強い調子で述べた。
ホワイトハウスのケリーアン・コンウェイ上級顧問は6日、トランプ氏は文化遺産を攻撃すると言ったのではなく、「質問を投げかけただけだ」と発言を擁護した。
コンウェイ氏はさらに、「イランには、文化遺産とも言える戦略的軍事施設がたくさんある」と述べたが、その後、イランが軍事的標的を文化遺産に偽装しているという意味ではないと釈明した。
マーク・エスパー国防長官は、米軍が文化施設を標的にすることはあるのかという質問に、「武力紛争の法に従う」と答えた。
さらに、それは「文化遺産を標的にするのは戦争犯罪に当たるため」、攻撃を否定する意味かと聞かれると、「それが武力紛争の法だ」と述べた。
ツイートに対する反応は?
(中略イランのジャヴァド・ザリフ外相は、トランプ氏の言い分は過激派組織ISが中東で貴重な遺跡などを次々と破壊して回ったのに似ていると批判した。
ISは中東の各地で文化遺産への攻撃を行っており、シリアではパルミラ遺跡を破壊した。またアフガニスタンでは、バーミヤンの仏教遺跡群が反政府武装勢力タリバンによって破壊され、世界最大の大仏が姿を消した。【1月7日 BBC】
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BBCは、このイラン文化施設攻撃発言の影響は小さくないとの指摘も。
****<解説> 文化遺産への脅迫でイラン人が結束 ――サム・ファルザネフ、BBCペルシャ語****
ソレイマニ司令官殺害のニュースが広まると、イラン人はすぐに分裂した。ソーシャルメディア上では、司令官の死を悼む人と祝う人もいた。
ツイッターでは特に、この分裂が激しかった。ソレイマニ氏殺害に怒る人は「ストックホルム症候群」だと批判された。その一方、殺害を擁護する人は裏切り者とレッテルを貼られた。
しかし、トランプ大統領がイランの文化遺産を標的にするという脅しをツイートすると、イラン人は反トランプで結束した。
文化遺産には宗教的ものもあれば、そうでないものもある。しかし宗教を信じているかどうかに関わらず、イラン人はみなその歴史的遺産を誇りに思っており、トランプ氏の脅しに反発した。
国内のイラン人と国外に移民したイラン人の溝を埋めるのに、愛する過去を攻撃されるほどのものはないだろう。
イランのザリフ外相はこの機を捉え、シリアで数々の文化遺産を破壊したISにトランプ大統領をなぞらえ、ツイートを連投している。【1月7日 BBC】
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ソレイマニ司令官について“国民的英雄”という書き方をしてきましたが、イラン国内政治にあっては、自由を求める民衆を圧殺する側の保守強硬派の象徴でもあることが、“ソレイマニ司令官殺害のニュースが広まると、イラン人はすぐに分裂した。”という指摘になります。
ただ、その分裂の度合いについては多くを知りません。
これまでは民衆弾圧の象徴とみられていても、アメリカによって爆殺されたとなると、その評価・風向きが変わることは十分にあり得ます。
いずれにしても、意見が割れる部分のあるソレイマニ司令官爆殺にくらべ、イラン文化への攻撃明言は、より一致団結した反発を生むとの指摘です。
2017年7月にイランを観光した際に出会った方は、イラン現体制には批判的で、「イランはイスラムではない」とも。
その言葉が意味するのは、イランのアイデンティティはイスラムにあるのではなく、それ以前のペルシャ帝国以来のイランの輝かしい歴史・文化にあるということです。
そうした考えの人々にとっては、イラン文化への攻撃はソレイマニ司令官爆殺以上に許しがたいものになるでしょう。
「この金が払い戻されない限り、米軍は撤退しない」とか、上記イラン文化遺産攻撃発言とか、トランプ流本音の政治は、国際政治を良識を欠いたレベルに貶めているようにも思えます。
ついでに言えば、「向こうはこちらの人間を殺しても許される。・・・・なのにこっちは向こうの文化遺産を触っちゃいけないって? そういうわけにはいかない」という発言は、バーミヤンの大仏を破壊したときのタリバンの発言によく似ています。
「今、世界は、我々が大仏を壊す言ったとたんに大騒ぎを始めている。だが、わが国が旱魃で苦しんでいたとき、彼らは何をしたか。我々を助けたか。彼らにとっては石の像の方が人間より大切なのだ。そんな国際社会の言うことなど、聞いてはならない」【高木徹氏著「大仏破壊」】
私はこのタリバン発言に少なからぬ共感を禁じえません。ですからトランプ発言についてもしかりです。
ただ、居酒屋談義ではなく、一国の最高指導者として「どうなのよ?」という問題です。
チンピラのような物言い、居酒屋談義のような物言いがトランプ大統領が人々を惹きつける所以でもあるのでしょうが、それで一国・世界の政治が動くことの問題は?・・・という話です。
いずれにしても、トランプ大統領の決断・発言は、体制への不満が抗議デモとして噴出していたイランの一致団結に大きな効果をもたらしているようです。