孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

米中対立  新型コロナ危機のさなかにもWHO・台湾を巡って非難の応酬

2020-04-11 22:12:31 | 国際情勢

(8日の記者会見で、台湾から人種差別的な中傷を受けたと主張するWHO=世界保健機関のテドロス事務局長【4月11日 NHK】)

【米海軍の駆逐艦、中台中間線を超えて航行】
アメリカは新型コロナで大変な状況ですが、そういう状況にあっても中国へのけん制は続けているようです。

****米艦が台湾海峡の中間線越す 異例の行動、中国強く牽制**** 
が10〜11日に台湾海峡を通過し、中国大陸と台湾本島の中間線を中国側に越えた海域で航行していたことが11日、分かった。台湾の国防部(国防省に相当)関係者が明らかにした。

中間線は中台間の事実上の停戦ラインとして機能しており、米軍が越えるのは極めて異例。中国軍機が中間線を台湾側に越えて飛行した際、米国は「地域の安定を害する」(国務省)と批判していた。今回は米側が中国を強く牽制(けんせい)した形だ。(中略)
 
米海軍による台湾海峡通過は、2018年後半からほぼ月1回と定例化しているが、いずれも中間線の台湾側を通過してきた。

フランス海軍のフリゲート艦が昨年4月、台湾海峡を通過した際、中国国防省は「中国の領海に違法に侵入した」と強く抗議した。関係者によると、この際も今回同様、仏艦は中間線の中国側を航行していたという。
 
中間線をめぐっては、中国空軍の戦闘機2機が昨年3月末、台湾側に侵入。台湾の蔡英文総統が「挑発行動の排除」を指示し、米国も「台湾への威圧をやめよ」と警告した。今年2月にも中国の戦闘機が侵入し、米軍は直後に特殊作戦機や戦略爆撃機を台湾周辺で飛行させた。

【台湾海峡の中間線】
台湾海峡で中国大陸と台湾本島の中間点を結ぶ線。米国と台湾の米華相互防衛条約締結時(1955〜79年)の58年に米軍が台湾防衛のために引いた「デービス線」に由来し、中台双方の軍は平時には越えない。

中国側は公式に認めておらず、中台間の「暗黙の了解」として運用されてきた。台湾の国防部は北緯27度、東経122度と北緯23度、東経118度を結ぶ直線と定める。【4月11日 産経】
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台湾を巡っては、米議会超党派の強い支持により成立した「台湾同盟国際保護強化イニシアチブ法」に、トランプ大統領が3月27日に署名し、米中の緊張関係が強まっています。

「台湾同盟国際保護強化イニシアチブ法」は、台湾の外交関係強化に向け講じられた措置について、国務省が議会に報告することを義務付けており、また、台湾の安全保障や繁栄を弱体化させる国との関わりを「修正」することも米政府に義務付けています。

【「WHO・中国」VS「台湾・アメリカ」のタッグ・マッチ】
米中関係で今一番ホットな話題は、新型コロナを巡る、台湾とWHO事務局長、そしてそれぞれの後ろ盾となっているアメリカ・中国の対立でしょう。(中国がWHO事務局長の後ろ盾となっていると言っていいかどうかは議論があるところでしょうが、昨今のWHOの運営が中国寄りだとの批判はあります。特にトランプ大統領からの。)

****WHO事務局長「台湾から人種的な中傷」に台湾が反論 ****
WHO=世界保健機関のテドロス事務局長は、台湾から人種差別的な中傷を受けたと主張しましたが、これに対して、台湾の捜査機関は、根拠は見つかっていないと反論しています。

WHOのテドロス事務局長は今月8日の記者会見で、3か月前からインターネット上で、人種差別的な中傷を受けていると明らかにし、「攻撃は台湾から来た。台湾の外交部は知っていたが、何もせず、むしろ私を批判し始めた」と主張しました。

これに対して台湾の捜査機関、法務部調査局は10日、記者会見を開き、台湾から中傷が行われた根拠は見つかっていないと反論しました。

一方、調査局は、テドロス事務局長の発言後、ツイッターに「台湾人を代表して謝罪します」などという書き込みが100件以上投稿され、アカウントを分析した結果、中国のユーザーの間で拡散された疑いがあると指摘しました。

テドロス事務局長の主張には蔡英文総統も反論していて、9日、自身のフェイスブックに「台湾は長年国際組織から排除され、誰よりも差別と孤立の味を分かっている。テドロス事務局長にはぜひ台湾に来てもらい、差別を受けながらも国際社会に貢献しようと取り組む姿を見てほしい」と書き込んでいます。

WHOをめぐっては、アメリカのトランプ大統領から新型コロナウイルスへの対応が中国寄りだと批判を受けていて、テドロス事務局長は「ウイルスを政治化しないでほしい」と訴えています。【4月11日 NHK】
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****WHOトップに厳重抗議=「個人攻撃」と名指しされ―台湾****
世界保健機関(WHO)トップのテドロス事務局長が8日の記者会見で、「台湾から(ネットで)差別的な個人攻撃を受けている」と発言したことについて、台湾外交部(外務省)は9日、「いわれのない主張だ」として厳重に抗議し、謝罪を求める声明を発表した。
 
新型コロナウイルスの感染が世界で拡大し、WHOの対応に国際的な批判が集まる中、テドロス氏は台湾をことさらに名指しした格好。中国の圧力でWHOから排除され、新型コロナ対策でも事実上、蚊帳の外に置かれている台湾側は、これに強く反発している。
 
エチオピア出身の事務局長は記者会見で、ネット上で自身を中傷しているのは、台湾の個人だけでなく、「外交部長(外相)も同じだ」と指摘。官民一体の取り組みとの見解を示した。
 
テドロス氏の発言を受け、蔡英文総統はフェイスブックに「強い抗議を表明する」と投稿。その上で、「テドロス氏を台湾に招きたい。ここに来れば、台湾人がいかに差別と孤立の中で世界と接点を持ち、国際社会に貢献するための努力をしているかが分かるだろう」と強調し、WHOへの参画を重ねて訴えた。【4月9日 時事】
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中国はWHOテドロス事務局長を支持して、台湾を批判しています。

****台湾がWHOに悪意に満ちた攻撃、独立のためウイルス利用=中国当局****
中国当局は、台湾が世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長に対して「悪意に満ちた」攻撃をし、独立を追求し、インターネットユーザーと共謀して人種差別的なコメントを拡散していると非難した。

台湾の外交部(外務省)は9日、テドロス事務局長が台湾から人種差別的な中傷を受けたと述べたことについて、「根拠のない」言いがかりだと反論した。

テドロス事務局長は8日、自身に対する人種差別的な中傷を受け付けないとし、こうした中傷が台湾からあったと述べた。

台湾は中国の反対でWHOに加盟できず、新型コロナへの対応を巡りWHOへの批判を強めている。

中国の台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室は9日夜に声明を発表し、「(台湾の与党)民進党は独立を追求するために無節操にウイルスを利用し、WHOとその責任者らに対して悪意に満ちた攻撃をしている」ほか、インターネットユーザーと共謀して人種差別的なコメントを拡散していると主張、「われわれはこれを強く非難する」と表明した。【4月10日 ロイター】
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“台湾から人種差別的な中傷”というのがどういう内容化は知りませんが、台湾は新型コロナの中国における感染に関する警告をWHOに知らせたにも関わらず、WHOをこれを無視したと主張しています。

****台湾、警告無視のWHOに苦言=早期に「人・人感染」通報―新型コロナ****
台湾政府で新型コロナウイルス対策本部のトップを務める陳時中・衛生福利部長(日本の厚生労働相に相当)は11日の記者会見で、新型コロナの世界的感染拡大で国際社会から批判されている世界保健機関(WHO)に対し、「これ以上、過ちを犯さないでほしい」と苦言を呈した。
 
陳氏によると、台湾は昨年12月31日、中国湖北省武漢で原因不明の肺炎にかかった人がいることについて、現地の報道に基づいてWHO側に電子メールで通報。「複数の患者が隔離治療されている」として、人から人への感染の可能性を示唆し、警告したものの、無視されたという。
 
WHOはこのメールについて「人から人感染の可能性には触れられていない」との立場を示している。陳氏は「専門家が素人を装っている。隔離治療が警報でなければ、どんな状況が警報なのか」とWHOを批判した。台湾は「一つの中国」原則を主張する中国の圧力で、WHOから排除されている。【4月11日 時事】 
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アメリカ・トランプ政権は台湾のこの主張を後押し、更に、WHOへの資金拠出を一時停止する可能性まで示してWHOの「中国寄り姿勢」を批判しています。

****米がWHO非難「台湾のコロナ早期警告を無視」、中国に過剰な配慮*****
米国は9日、台湾が早い段階で新型コロナウイルスの人から人への感染を警告していたにもかかわらず、政治を優先して無視したとして、世界保健機関を非難した。
 
ドナルド・トランプ米大統領はこれに先立ち、WHOを「非常に中国中心的」と非難し、資金拠出を一時停止する可能性もあるとけん制していた。
 
トランプ氏による突然の警告は、新型コロナウイルス感染症への備えを怠ったとして非難を浴びる中、国外に身代わりをつくるための政略だとの批判もある。米国では新型ウイルスによる死者が1万6000人超に上っている。
 
米国務省は、WHOは新型ウイルスへの警鐘を鳴らすのが遅すぎ、中国に配慮しすぎていると非難。台湾からの情報について調査しなかったことに疑問を呈した。
 
同省の報道官は、「WHOが2020年1月14日の声明で人から人への感染は確認されていないと発表したことに表れているように、台湾からの情報を公表しなかったことを(米国は)深く憂慮している」と述べた。
 
同報道官は、「WHOがまたしても公衆衛生より政治を優先した」と指摘し、2016年以来、台湾のオブザーバー参加さえ認めていないことを批判した。さらに、WHOの行動によって「時間と人命が失われた」と述べた。
 
台湾は、中国と地理的に近く関係が深いにもかかわらず、新型コロナウイルスによる死者が5人にとどまっており、封じ込めに成功している。陳建仁副総統によると、台湾は昨年12月31日、人から人への感染についてWHOに警告していた。
 
疫学者でもある陳氏は英紙フィナンシャル・タイムズに対し、台湾の医師らは中国・武漢の医師らが罹患(りかん)していると把握していたが、WHOはその情報を確認しようとしなかったと述べた。
 
台湾は9日、WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長が、新型ウイルスのパンデミック(世界的な大流行)への対応をめぐり、自身に対する個人攻撃とWHOに対する批判を台湾政府が主導していると非難したことを受けて、テドロス氏に謝罪を要求した。 【4月10日 AFP】AFPBB News
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もちろん、記事にもあるように、トランプ大統領としては、自身の米国内での対応の遅れへの批判をかわすために、外敵「WHO」を演出しているという指摘もあります。

台湾は中国の反対でWHOへの加盟・会議参加ができない状況になっていますが、新型コロナに関しては、2月中旬にジュネーブで開催された国際会議にオンラインや電話での参加が認められています。

ただ、“この背景には、隠蔽により国際社会に新型コロナウイルスの拡散を許した習近平政権や、習近平政権の要請を受けたWHOのテドロス事務局長が緊急事態宣言を見送ったことなどに対して不信感、不満感を募らせる諸外国の圧力もあった。” 【3月5日 福島 香織氏 JBpress】ということで、WHO事務局と台湾の間にはこの時点でも強い緊張があったことも推測されます。

対立を先鋭化させているトランプ大統領の資金拠出一時停止に関して、WHOは強く反発しています。

****WHO、米大統領の「中国中心」批判否定 資金停止発言にも反発****
(中略)トランプ大統領は7日、新型コロナ感染拡大を巡り、WHOが「中国中心主義」で、世界に不適切な提言を行っていると批判し、WHOへの拠出金を停止する考えを示した。

WHOのハンス・クルーゲ欧州地域ディレクターはネットワーク上での会見で、トランプ氏の発言に関する質問に対し「われわれは依然としてパンデミックの急性期にあり、今は拠出金を停止する時期ではない」と述べた。

ブルース・アイルワード事務局長補佐官も「新型コロナ発生の早い段階で可能な限りあらゆることを十分に利用し、新型コロナを理解するために中国と協力していくことは極めて重要だ」とし、WHOと中国との関係を擁護。新型コロナ感染拡大によって大きな打撃を受けたスペインなど他の全ての国とも協力しており、中国に限った話ではないと主張した。

また中国は感染拡大を抑制するために、初期の感染者とその接触者を特定し、移動を制限するなど徹底した措置を取ったと語った。(後略)【4月8日 ロイター】
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「WHO・中国」VS「台湾・アメリカ」のタッグ・マッチの様相を呈していますが、新型コロナという最大の難敵を前にして「そんなケンカしている場合かよ!」というのが常識的な反応でしょう。

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