孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  ジョンソン首相「EUとの自由貿易協定なし」も辞さない姿勢 新型コロナ混乱はむしろ好都合?

2020-06-07 23:12:25 | 欧州情勢

(新型コロナ感染症から回復し、医療従事者らに感謝の拍手を送る英ジョンソン首相。しかし、英国のEU離脱には早くも暗雲が立ち込めている【5月18日 DIAMOND online】)

【深刻なコロナ被害 高まる政府批判】
周知のようにイギリスは新型コロナの猛威によって、アメリカに次ぐ大きな犠牲者を出しています。
国内的に、政府のコロナ対応のまずさを批判する声も大きくなっています。

****英国で新型コロナ死者4万人超え 政府対応に批判の声も****
英国政府の5日の発表によると、新型コロナウイルスに感染して亡くなった人は前日から357人増えて4万261人となり、欧州の国で初めて4万人を超えた。

政府の首席科学顧問が当初、「死者を2万人に抑えられたら良い結果」としていた人数の2倍となっている。
 
ハンコック保健相はこの日の記者会見で「私たちみんなにとって悲しい時だ」と述べた。
 
英国内では、先に感染拡大が広がった欧州各国に比べて行動制限をともなう「ロックダウン(都市封鎖)」に踏み切るのが遅かったことや、3月半ばまで数万人規模のスポーツイベントの開催が許されていたことなど、政府の対応に批判の声が上がっている。

一方、人工呼吸器が不足したり集中治療室(ICU)の病床が足りなくなったりする事態は回避されている。【6月6日 朝日】
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ジョンソン政権の支持率も低下しています。
“ジョンソン政権の初動対応や高齢者施設への対策の遅れなどが感染拡大の一因とみられており、政権への批判が高まっている。世論調査会社ユーガブの最新調査によると、政権の支持率は35%。不支持はこれを9ポイント上回っている。”【6月6日 共同】

【行き詰まるEUとの自由貿易協定(FTA)締結交渉】
非常に厳しい状況にあるジョンソン首相ですが、新型コロナ対応だけでなく、EU離脱の方も厳しい交渉が続いています。

イギリスはすでにEUを離脱していますが、現在は年末までの「移行期間」にあって、EUとの間の自由貿易協定(FTA)締結交渉が行われています。

その交渉の節目が中間評価の行われる6月末で、ここで進展がなければ交渉は打ち切られ、イギリスはEUとの間の自由貿易協定なしで年末に移行期間を終了する・・・ということにも。

現時点では、交渉は行き詰まっています。

****FTA交渉、続行か決裂か=英EU首脳が判断へ****
1月末に欧州連合(EU)を離脱した英国とEUは、自由貿易協定(FTA)締結交渉の節目となる第4回会合が5日に終了したことを受け、ジョンソン英首相とフォンデアライエン欧州委員長らで月内に中間評価を実施する。

EUからの自主独立を重視する英国と、英国を自らの影響下にとどめておきたいEUの溝は深く、両首脳は交渉続行か決裂かの判断を迫られる。
 
「大きな進展はなかったというのが真実だ」。EUのバルニエ首席交渉官は5日の記者会見で、会合を何度重ねても行き詰まりを打開できない事態に失望を表明した。
 
交渉の主な懸案は、英EU双方の企業が公平な条件で競争するための枠組み整備や、魚種が豊富な英沖合でのEUの漁業権の在り方。

ただ、突き詰めると、焦点はいずれも離脱に伴う英国の「主権回復」(フロスト英首席交渉官)と言える。現状維持の受け入れを求めるEUに対し、英国が「今後のルールは自ら決める」と反発する構図だ。
 
互いに主張をぶつけ合い対立する英EUだが、今秋の決着を目指す点では一致している。このため、中間評価では交渉続行を決める公算が大きい。

もっとも、英政府は2月にまとめた指針で、「合意の大まかな輪郭」が6月までに見えてこなければ、EUとの物別れも辞さない強硬姿勢を示した。妥結の糸口を見いだせない現状では、決裂リスクはゼロではない。【6月6日 時事】 
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新型コロナの影響で、交渉は対面ではなくテレビ電話で行われています。そのあたりが、微妙な交渉が難しい背景ともなっています。

****英EU交渉「進展なし」 行き詰まり打開向け首脳会談調整 自由貿易協定など****
欧州連合(EU)と英国は5日、自由貿易協定(FTA)など将来の関係についての第4回交渉会合を終えた。EUのバルニエ首席交渉官は終了後の記者会見で、「重要な進捗(しんちょく)はなかった」と語った。

英・EUは、年末までの「移行期間」を延長するかどうかを判断する期限を6月末に迎える。行き詰まりの打開に向けて首脳間による会談を調整している。
 
会合はテレビ会議方式で4日間の日程で行われた。交渉は▽一方的な規制緩和などで相手側に不利益を与えない「公正な競争環境」の確保▽英領海でのEU加盟国の漁業権▽安全保障協力――などの論点で停滞している。いずれも英・EUが昨年合意した「政治宣言」に大筋の方向性が盛り込まれており、バルニエ氏は「後退は受け入れられない」と英側の対応に不満を隠さなかった。
 
一方、英国のフロスト首席交渉官は5日に公表した声明で、「遠隔方式の交渉で実現できることの限界が近づいている」として、対面に切り替えて集中的に協議を行うべきだとの見解を示した。
 
英国は1月末にEUを離脱したが、激変緩和のための移行期間として12月末までEUと従来通りの関係を続けている。双方が合意すれば最長2年の延長が可能になるが、「延長の扉はオープン」だとするEUに対し、英国は年内の完全離脱に固執する。

交渉が決裂した場合、英・EU間の貿易には翌年から関税が発生し、新型コロナウイルスの打撃を受けた欧州経済にさらなる悪材料となることが懸念される。
 
双方はFTAなしでの離脱を回避するため、10月末までの交渉妥結を目指す。【6月7日 毎日】
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常識的には、少なくとも現時点での「交渉決裂」は、なんとだかんだで避けるのでは・・・というところでしょう。

【移行期間延長なしに固執し、「FTAなし」も辞さない姿勢のジョンソン首相】
ただ、イギリス・ジョンソン首相は、年内の合意が出来なければ、移行期間延長ではなく「FTAなし」も辞さない・・・との強硬な姿勢をとっていますので、6月末を乗り切っても、いずれ「FTAなし」が現実のものとなる可能性も大きいようにも思えます。

****英「無秩序離脱」の危機再び、6月交渉が山場に ****
欧州連合(EU)を離脱した英国とEUの自由貿易協定(FTA)など将来関係を巡る交渉が膠着し、経済界に混乱を及ぼす「無秩序な離脱」のリスクが再燃している。

6月末までに双方が同意すれば交渉期間が延長できるが、いち早い完全離脱で主権を回復したい英が強く拒否する。新型コロナウイルスの影響が続く中、経済に新たなリスクが加わりかねない。

「ほとんど進展がなく残念だ」。英側で交渉を率いるフロスト首相顧問は15日に終わった第3回交渉をこう振り返った。

交渉は激変緩和のため、英がEUに残っているように扱われる2020年末までの「移行期間」中に、関税ゼロで貿易できる現状に近い協定を結べるかが焦点だが、1月末の離脱以降、主な争点で双方がほとんど歩み寄れていない。

最も対立している「公正な競争の確保」では、EUが英側に、関税ゼロなどの恩恵のために税制や政府補助金などでEUルールに従うべきだと主張、英はこれを強く拒否する。英海域でEU加盟国が今までに近い漁業権を得るかどうかでも、対立は深い。

6月末までに双方の同意があれば最長2年間、移行期間は延長できる。だがジョンソン英首相は延長を拒否するだけでなく、2月には妥結が無理なら「FTAなし」も辞さないと宣言。

新型コロナの影響を受けた今も、英首相官邸の報道官は「移行期間は年末に終了する。計画に変更はない」と訴え続
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移行期間を延長した場合、延長中は離脱によるメリットである対米、対日本などEU域外との通商協定は発効できず、ジョンソン首相が主張してきた「主権の回復」もできない、実質的にEU加盟と同じ状況が続くということが、イギリス側の「延長拒否」の背景にあります。

【イギリス側の“身勝手な”主張】
ただ、イギリス側の主張はイギリスに都合の良い「いいとこ取り」の主張だ、交渉行き詰まりはションソン首相の心変わりにある・・・との批判も。

****英国のEU離脱派はいまだに欧州を理解していない****
離婚するのに変わらぬ特権を要求、次の交渉に期待できないワケ

(中略)
ジョンソン政権はEUという長年の伴侶と関係を断ったのに、夫婦だった頃の特権を引き続き享受できない理由がまだのみ込めていないのだ。
 
6月2日に始まる新たな交渉ラウンドに先立ち、英国側の交渉責任者デビッド・フロスト氏がEU側の首席交渉官ミシェル・バルニエ氏に送った書簡は、タフに聞こえることを狙っていた。
 
しかし実際には、かなり哀れだった。なぜバルニエさんは「ノー」と言い続けるのですか、とフロスト氏は懇願していた。

交渉決裂に備え責任押しつけたい英政府
もちろん、ここには国内政治の要素も絡んでいた。
 
ブレグジットの移行期間はあと7カ月しか残っておらず、その延長を要請できる最後の日(7月1日)も近づいてきており、交渉決裂の可能性が高まりつつある。
 
決裂した場合に英国が負う経済的コストは、最も状況が良い時であっても厳しいものになる。
これがパンデミックのショックと重なったりすれば、壊滅的な重さになる。英国政府は、EUのバルニエ氏がその責任を負うようにしたいと考えているのだ。
 
しかし、政治的な戦術を除いて考えても、この書簡は気の滅入る代物で、EUに40年以上加盟していたにもかかわらず、英国の離脱論者がEUについていかに学んでこなかったかを浮き彫りにする事例だった。
 
ジョンソン氏は、現実に目をつぶる方が政治的に好都合だと判断した。閣僚のほとんどは一度として注意を払いもしなかった。
 
足元の行き詰まりは簡単に要約できる。
EUは、英国との密接な結びつきを維持できる幅の広い経済・貿易協定を結びたいと思っている。
 
片や英国は関税ゼロ・数量割当ゼロの基本的な貿易協定と、いろいろな産業(運輸、エネルギー、医薬品、金融などのサービス業)に関する規制をアラカルト式に組み合わせたものを望んでいる。
 
またEUは英国の漁場に長期間アクセスできるようにしたいと考えているが、ジョンソン氏は1年ごとに協議する案しか示していない。
 
EU側の主張に奇妙なところはない。それどころか、昨年秋に両者が署名した共同政治声明にぴったり符号している。
 
この重々しい意思表示は、貿易面や経済面での協力における「意欲的、広範囲で深く柔軟なパートナーシップ」を前提としていた。
 
これを機能させるために、「公平な競争の場」を下支えする条項も盛り込まれた。

原因はジョンソン首相の心変わり
交渉が行き詰まってしまったのは、ジョンソン氏の心変わりが原因だ。
 
同氏は国際関係の新奇な理論を引き合いに出し、自分は英国の選挙で勝利したことで外国と交わした合意を破棄する権限も授かったのだと語っている。
 
さらに、公平な競争の場についての条項――雇用・環境の基準、国家補助金の規範・共通ルール、そして欧州司法裁判所の発言権をほのめかすあらゆる箇所を指している――は放棄しなければならないと述べている。

英国がした約束に背くことになるが、そんなことはお構いなしだ。(中略)
 
EUの観点から見ると、フロスト氏が示している提案は、EUがカナダ、ノルウェー、韓国、メキシコといった多種多様な国々と結んでいる協定(あるいは協定案)から英国の気に入った部分だけをかき集めてまとめたものとなっている。
 
この特異なパッケージが、サービス業における英国の国益に合わせて調整された取り決めとともに提案されているのだ。

根底にある英国の特権意識
この根底には、どういうわけか英国には特権的アクセスを享受する「権利がある」という認識がある。

だがEU本部やドイツ政府、フランス政府から見れば、英国は今や「第三国」でしかない。
重要な同盟国ではあるが、単一市場の一体性を脅かす恐れも秘めている国でもある、ということだ。
 
となれば、車もプロセッコも関係ない。EUにとっては、ルールと法的監視のシステムを維持することが何よりも重要な利益だ。これに比べれば、ほかの利益など大したことはない。
 
英国のEU離脱論者たちは、かつての仲間たちにとってEUが経済的な事業であると同時に政治的な事業でもあることを、きちんと把握できていない。
 
欧州統合は繁栄の源泉であるとともに、安全保障、安定性および民主的な価値観を共有することへの投資なのだ。英国との貿易協定をまとめるために譲歩することなどあり得ない。【英フィナンシャル・タイムズ紙 2020年5月29日付】
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英フィナンシャル・タイムズはおそらく離脱そのものに反対なのでしょう。そのためションソン政権への評価も辛らつなものとなっています。

“英国のEU離脱論者たちは、かつての仲間たちにとってEUが経済的な事業であると同時に政治的な事業でもあることを、きちんと把握できていない。”・・・ここが、EUというものに対する独仏と英の認識の温度差、結果的に離脱に至ったことの根本的原因でしょう。

単なる経済的利益を求める組織としてしか見ていないため、「主権が制約されている」云々の不満も大きくなります。

【離脱強硬派にとって新型コロナは好都合?】
“決裂した場合に英国が負う経済的コストは、最も状況が良い時であっても厳しいものになる。
これがパンデミックのショックと重なったりすれば、壊滅的な重さになる。英国政府は、EUのバルニエ氏がその責任を負うようにしたいと考えているのだ。”・・・この新型コロナとの絡みは今後に大きな影響を与えます。

常識的に考えれば、上記のように「新型コロナで大変な時期に、更に「FTAなし」なんて・・・・」という話になりますが、ジョンソン首相ら離脱強硬派にとっては、離脱はもはや自明の「神学」の領域ともなっています。

そうなると、別の発想・・・「どうせ新型コロナでダメージをうけるのだから、この際、「FTAなし」のダメージもそこに隠してしまえ」も出てきます。

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延長なしでも、年末までに英・EUが包括的なFTA合意にこぎ着ければ、20年末時点の経済へのダメージは抑えられる。

ただ「FTAなき離脱」となれば打撃は大きい。英経済社会研究所はFTAなしに終わった場合、英の国内総生産(GDP)を10年間で5.6%押し下げると予測する。

ただ英イングランド銀行(中央銀行)によれば、足元の新型コロナの影響で、20年のGDPは前年比14%減少する。これに比べるとFTAなしの打撃は目立たない。

EUのホーガン欧州委員(通商政策担当)はアイルランドの公共放送RTEに「英国は離脱の悪影響をコロナのせいにすると決めたようだ」と発言。英国が主権の回復を優先し「FTAなき離脱」を選ぶとの見通しを示した。【5月17日 日経】
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新型コロナのどさくさに紛れて、すべて新型コロナのせいにしてしまえば、大きな痛みを伴う「FTAなき離脱」を選択した自分たちの責任もあまり目立たずにすむ・・・という「政治的判断」です。

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