孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  李首相の「月収千元の人が6億人」発言、屋台評価 背後に習主席との政治的対立か?

2020-06-09 23:07:35 | 中国

(総菜を売る屋台に足を運び、「屋台経済、小規模店舗経済は重要な雇用の源であり、中国の生命力だ。我々は皆さんを支持する。」と語る李首相【6月2日 人民網日本語版】)

【外需・内需ともに振るわず】
中国は世界に先駆けて新型コロナを封じ込めましたが、強硬な都市封鎖で大きなダメージを被った経済は、一気にV字回復・・・とはいかない様相です。

輸出先の世界経済が未だ回復していないことや、感染自体もいつ再燃するかわからないという不安定な状況下で「爆買い」に象徴されたような旺盛な消費行動にも変化も見られることなどが背景にあります。


****中国経済回復、険しい道 各国で空港封鎖、滞る輸出 全人代あす開幕****
新型コロナウイルスの「震源地」中国は、政治や経済活動の正常化を急ぐ。22日には2カ月半遅れで全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開幕するが、発展を支えてきた外需と内需の両輪が打撃を受けており、局面の厳しさはリーマン・ショック後を大きくしのぎそうだ。
 
■「メイド・イン・チャイナ」山積みの箱
輸出向けの衣類や雑貨などの工場が集まる中国沿海部・浙江省義烏市。市内にある世界最大級の卸市場はいま、閑散としている。
 
「注文のキャンセルばかりで新規商談はゼロ。先が見えず不安でいっぱいだ」
クリスマス用品業者が軒を並べる一角で、男性店長(45)はスマートフォンをいじりながらそう話した。
 
世界で使われるクリスマス用品の6割を義烏産が占めるとも言われる。例年ならこの時期、欧米からの注文が本格化し工場はフル稼働するが、今年は新型コロナで2月中旬まで工場も市場も閉鎖された。

国内の感染状況が落ち着き始めた3月、従業員も職場に戻ったが、今度は世界各地で感染が深刻化。バイヤーの往来も商談もほぼ止まった。
 
2008年のリーマン・ショックで米欧の注文が激減したため、業者は東南アジアや南米などに販路を広げてきた。店長は「リスク分散したつもりだったが、こんな事態は考えもしなかった」と途方に暮れる。
 
中国で始まったコロナ禍は、国際市場の極端な冷え込みという形で再び中国を直撃し、中国の発展を支えてきた「世界の工場」を締め上げる。義烏の今年1~3月の輸出総額は約510億元(約7700億円)と、昨年同期比14・7%減。右肩上がりを続けてきた街は立ちすくんでいる。
 
市内の物流会社の倉庫には、「MADE IN CHINA」と書かれた段ボールが山積みされていた。周囲の工場から集められた輸出用商品だが、各国の空港や港湾が次々と封鎖され出荷できないのだという。
 
市内のパジャマ縫製工場では人件費を抑えるため、60人の従業員の出勤を交代制にした。国内需要を掘り起こしたいが販路開拓は容易ではない。輸出担当の女性(42)は「輸出分の持ち直しが先か倒産が先か。ぎりぎりの状態が続いている」。

 政府は工場の再稼働を急ぎ、3月以降、各地で工場再開が本格化していった。1~2月に大きく落ち込んだ鉱工業生産は4月、前年同月比3・9%増に転じたが、伸びは昨年12月の半分強。マスクなど特需を迎えた商品以外、輸出向けの工場はフル操業にはほど遠いのが実態だ。

■内需も打撃、縮む消費意欲 車販売店「割引しないと客来ない」
中国の自動車メーカー長安汽車が北京市内に構える販売店。19日は平日にもかかわらず6組の客が販売員と商談をしていた。
 
客の目当ては同社が実施する「新型コロナ割引」だ。売れ筋のスポーツ用多目的車(SUV)は約8%引きの13万2千元(約200万円)で売られていた。
 
4月の中国の新車販売は前年同月比4・4%増の207万台。ただ、そのにぎわいはうわべだけのようだ。「割引がなければ客は来ない」と販売員は言う。購買意欲はまだらで、セールス電話をしても「お金がなくなった」と断る客も多いという。
 
北京市の食品企業で働いていた明心さん(26)は長安のSUVを買ってすぐの3月、職を失った。残ったのは17万元のローン。「月3千元の返済はなんともないと思っていたが、収入のない身には痛い」と話す。
 
月4千元の家賃も払えなくなり、実家のある山東省に戻った。「若者の消費は変わると思う」と明さんは言う。最近多くの同年代が解雇された。中国の消費をリードしてきた世代だ。
 
明さんが得た教訓は貯金の大切さだ。「就職できたら給料の2割は貯金する。家賃の安い家に住み、高い店にも行かない」と話す。
 
北京市のイベント会社を解雇された男性(32)も、故郷の吉林省で家を買ったばかりだ。政府は日米欧のような個人向けの補償や支援金を支給していない。男性は「皆に貯金するよう言いたい。想定しないことはこの先も起こるのだから」。
 
中国で新型コロナによる失業者は7千万人とも推計される。消費者が節約に走れば、世界を驚かせてきた購買力にも影響がでる。食品とエネルギー価格を除く中国の消費者物価(コアCPI)上昇率は4月、1・1%にとどまった。この5年でほぼ最低水準だ。

■リーマン後遺症、景気対策に限界
国際通貨基金(IMF)の見通しで、中国の20年の成長率は1・2%にとどまる。世界(マイナス3・0%)、米国(同5・9%)、日本(同5・2%)に比べれば高いが、新型コロナは中国の外需と内需の両輪を揺さぶっている。
 
政府は有効な対策を打ち出せていない。12年前の後遺症があるからだ。08年のリーマン・ショック後、中国は4兆元の景気対策を打ち、世界経済の底割れを防いだ。だが、旧来型産業への投資は鉄の過剰生産や不動産バブルなどを招き、国内の債務もふくれあがった。
 
22日に開幕する全人代では新型コロナ特別国債の発行による経済対策が話題になりそうだが、当時の4兆元に匹敵する超巨額の対策はとれず、金融を不安定化させる恐れのある大規模緩和も難しい。コロナを契機に中国が低成長時代に突入すれば、厳しい状況にある世界経済は強力なエンジンを失いかねない。
 
「共産党を支持するのは、今日より明日を豊かにしてくれるからだ」。中国人にはそんな意識が広くある。だが、1~3月の実質成長率はマイナス6・8%に低下。四半期統計開始以来のマイナス成長は、中国人の政治意識に影響を与える可能性もある。【5月21日 朝日】
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その全人代では、李克強首相の政府活動報告において「新型コロナと経済・貿易の情勢は不確定性が非常に高い」と指摘、今年の経済成長目標の公表を見送るという異例の扱いとなりました。

【李首相の「中国には月収千元(約1万5千円)の人が6億人いる」発言の真意は?】
新型コロナ後の経済に関する厳しい認識とともに李克強首相の発言で注目されたのは、全人代閉幕後の記者会見における「中国には月収千元(約1万5千円)の人が6億人いる」との発言でした。

****6億人が月収1万5千円、中国 李克強首相の発言が波紋****
中国の李克強首相が5月下旬の記者会見で「中国には月収千元(約1万5千円)の人が6億人いる」と発言したことが反響を呼んでいる。

新型コロナウイルス感染症で景気が低迷する中、中国のインターネット上では「確かに給料が低すぎる」などと共感する声が拡大。国家統計局が火消しを図る事態に発展した。
 
李氏は5月28日、全国人民代表大会(全人代=国会)の閉幕後の会見で「中国の平均年収は3万元だが、月収千元の人も6億人おり、中規模の都市で家を借りることすらできない」と指摘。「新型コロナで影響を受けた人々の生活保障が重要課題だ」と強調した。【6月6日 共同】
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米華字メディアはこの李克強首相発言について「ネットでちょっとでも調べれば誰もが理解できるような事実にすぎない」としたうえで、以下のようにも解説しています。

****「6億人が月収わずか1000元」中国首相の発言に人々が騒然とした理由****
2020年6月1日、米華字メディア・多維新聞は「中国本土で6億人が月収1000元(約1万5000円)という李克強(リー・カーチアン)首相の話が大きな議論を巻き起こしたのはなぜか」とする記事を掲載した。 

記事は、5月28日の全国人民代表大会(全人代)閉幕後に人民日報の記者から質問を受けた李首相が「毎月の収入が1000元の人は6億人いる」と語ったことを紹介。今年が脱貧困の鍵となる年、全面的な「小康社会」の目標達成の年と位置付けられてきたこともあり、「6億人が月収1000元」という発言が国内外から注目を集め、中国のSNS上でもホットワードになったと伝えた。 

その上で、実際のところ中国は自らを「世界最大の発展途上国」を位置付け続けることで、「発展途上地域」としての経済、貿易上の優遇を得続けようとしていると同時に、1人当たりのGDPでは確かに依然として世界の中間レベルに甘んじていると指摘。

「このことから、李首相の話は驚天動地の大暴露ではなく、ネットでちょっとでも調べれば誰もが理解できるような事実にすぎない」とした。

そして、「事実」を述べたに過ぎない李首相の発言がまるで新大陸を発見したかのような反応が世間で見られた背景には、日常的に「中国モデル」「世界第2の経済大国」「世界の工場」といった言葉がニュースとして伝えられる一方で、貧困問題に関するデータの」出が相対的に少ないことがあるとした。 

また、中国収入分配研究所の李実(リー・シー)執行院長が「月収1000元」について、総収入から日常の支出を差し引いた可処分所得であること、「6億人」については高齢者、児童、学生などの被扶養者を含めた人口であることを説明したという。 

さらに、貧困問題に関するデータに日常的に触れている李首相と一般市民の間で「月収1000元」に対する印象がややずれている可能性もあると記事は指摘。

「1000元は都市部においては低収入であるものの、農村の貧困地域では決して低収入ではない」とし、2016年に定められた貧困ラインが「年収約3000元(約4万5000円)、月収約250元(約3800円)」となっていることを紹介した。

また、中国政府がしばしば貧困脱出の模範として挙げている四川省の村でも、1人当たりの年収は6000元(約9万円)前後、すなわち月収500元(約7500円)前後に過ぎないとしている。 

その上で記事は、李首相の発言について「何はともあれ、大風呂敷を広げるよりも事実を語る方がいい」と評価するとともに、「中国本土の『発展中』状態を少しでも理解していれば、『6億人が月収1000元』という表現についてそこまで目くじらを立てることはない」と結んでいる。【6月3日 レコードチャイナ】
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ただ、「事実」を述べたに過ぎないにしても、今年中に「小康(ややゆとりのある)社会」を実現することを掲げている習近平政権にあって、「中規模の都市で家を借りることすらできない」という数字を敢えて李首相が公表するというのは、何か政治的なものを感じるところもあります。

****“中国の貧困”をまさかの暴露、李首相の真意とは?***** 
(中略)一般に、貧困は「絶対的貧困」と「相対的貧困」とに分けられる。世界的には、「絶対的貧困」は1日当たり1.90米ドル(約205円)以下の収入とされる。月収にすると57米ドル(約6150円)、年収は684米ドル(約7万3800円)である。
 
世界的基準から見ると、月収1000元しかない中国の6億人は「絶対的貧困」層には当たらない。
 
では、この月収1000元の6億の人々をどのように位置付けたら良いのだろうか。確かに、「絶対的貧困」とは言えないが、中国国内でも平均年収額の40%しかない。したがって、「相対的貧困」層と言えよう(ちなみに、我が国では、1人世帯の場合、年収約122万円以下が「相対的貧困」に当たる)。
 
問題は、月収1000元の人々が6億人も存在する中国が、(今年中に)「小康(ややゆとりのある)社会」を実現したと言えるだろうか。もちろん“ノー”である。
 
実は、2016年3月、王岐山 中央紀律委員会書記(当時)が、第13次5カ年計画(2016年~2020年)で「小康社会」を実現するという目標を掲げた。けれども、昨2019年から今年にかけ「新型コロナ」の世界的蔓延で、習近平政権は、今年のGDP目標数値さえ打ち出すことができなかった。
 
そのため、王が掲げた今年末までに「小康社会」実現という目標は、“絵に描いた餅”に終わる公算が大きい。

「習近平派」に対する反撃か
さて、この度、李克強首相は、なぜ中国共産党に“不都合な数字”を暴露したのだろうか。
 
元来、経済に関しては、首相の“専権事項”だったはずである。ところが、前述の通り、首相でもない王岐山が、第13次5カ年計画で「小康社会」を実現するとぶち上げた。李首相からすれば、王による“越権行為”である。無論、それを許したのは、習近平主席だろう。
 
同時に、習主席は、かねてより劉鶴副首相を重用してきた。だから、これまで李首相には、ほとんど出番がなかったのである。
 
もしかすると、今回、全人代での記者会見で、李首相は「習近平派」に対する反撃を試みたのかもしれない。習主席の「中国の夢」を打ち砕くためである。
 
当然、李首相には党内で確固たる「反習近平派」の支持があると見るべきだろう。そうでなければ、たとえ首相といえども、やすやすと中国の実態を暴露することはできなかったはずである。

習近平の暴走に眉をひそめる元老たち
「反習派」の代表格は江沢民系「上海閥」に間違いない。習主席と王岐山の「反腐敗運動」で同派は徹底的に叩きのめされた。習主席らに対する同派の深い怨みは、想像に難くない。
 
他方、胡錦濤系「共青団」(李首相の出身母体)は、以前、微妙な立ち位置だった。だが、現時点では「反習派」の一翼を担っているのではないだろうか。(中略)

また、一部の元老たちは、習主席の政治手法―終身制導入や「第2文革」発動等に対し、眉をひそめているだろう。(後略)【6月5日 澁谷 司氏 JBpress】
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【背後の路線対立をうかがわせる、手のひら返しの「屋台」評価】
一方、膨大な失業者が存在するなかで、李首相が「中国が生き残る道だ」と持ち上げたのが、なんとこれまで当局による取り締まりの対象にもなっていた「屋台」。

****失業増えた中国、排除対象の「露店」を一転して大絶賛。雇用の救世主と期待も、手のひら返しに怒りの声**** 
中国で「露店」が急速に注目され始めている。新型コロナの影響で、倒産や失業が相次いだのに対し、手軽に始めて収入を得られるためだ。

しかし、これまで取り締まりの対象だった露店を一転して持ち上げる中国政府の姿勢に、現地では戸惑いや怒りの声が上がっている。

■怒号ともに排除に来る
山東省の小さな街に、李克強(り・こくきょう)首相が現れた。地元料理を提供する露店に立ち寄ると「露店経済は働き口の確保に重要だ。中国が生き残る道だ」と語った。
露店商売を中国政府が正式に認め、各地に推奨するパフォーマンスとみられる。

前兆はその前からあった。北京紙・新京報によると、四川省・成都では3月に公道に露店を出すことを許可。およそ2カ月で10万人の雇用につながったという。(中略)

中国の露店は種類も豊富だ。(中略)しかし、露店は街の景観を損なうなどとして取り締まりの対象だった。
筆者がよく使っていた露店も、現地の「城管(都市を管理する組織)」に手荒く追っ払われていた。(中略)城管の手荒いやり方には、反感を持つ人も多かった。

■「何が“露店凄い”だ」
(中略)実際、中国政府が急に“手のひら返し”をした背景には、新型コロナの影響で倒産や失業が相次いだことがあるとみられる。露店は初期費用が比較的安く済み、成都のように雇用が生まれると期待されるからだ。

しかし、波に乗る人がいる一方で、冷たい視線を投げる人もいる。あるネットユーザーは「何が“露店が凄い”だ。一種の後退であり妥協だろう。店舗の賃料がこんなにも高いから露店を開かざるを得ないだけだ。根本的な解決にはならない」と批判している。【6月6日 ハフポスト日本版】
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しかし“だが、北京市共産党委員会機関紙の北京日報は7日、「露天経済は北京に合わない」と批判的に論評し、市内ではすでに取り締まりも始まっている。”【6月9日 朝日】

李首相が現地に足を運んで「中国が生き残る道だ」と持ち上げる「屋台経済」を、当局が再び取り締まる・・・上記情報が事実なら、「毎月の収入が1000元の人は6億人いる」との発言同様、やはり政治的確執があるようにも。

「中国の夢」を華々しく打ち上げる習近平国家主席に対し、厳しい経済状況を直視することを重視し、見てくれは悪い「屋台」だろうが何だろうが、現実に利用できるものは利用しようという李首相・・・そうした路線対立が背景でうごめいているのではないでしょうか。

 

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