((人種差別反対デモに参加した黒人男性(中央)が、それに対抗するデモに参加して負傷した白人男性を担いで避難させた(13日、ロンドン・ウォータールー駅近く)【6月14日 BBC】)
【イギリス 人種差別抗議行動に対抗する極右デモも】
アメリカ・ミネアポリスで起きた白人警官拘束下で黒人男性が死亡した事件を契機に広がる人種差別反対デモはアメリカだけではなく世界各地に及んでいます。
イギリスでも各地で抗議デモが行われていますが、こうした動きに対抗する極右勢力のカウンターデモも行われ、
警察と衝突するなトラブルも起きています。
****ロンドンで極右デモと警察が衝突 差別反対の平和的抗議も続く中で****
ロンドンでは13日、人種差別に反対するデモやそれに対抗するデモが行われ、当局の制止にもかかわらず大勢が集った。一部では暴力沙汰に発展し、警官が殴る蹴るなどの危害を加えられる場面もあった。
ロンドン中心部の衝突で警察官6人が軽傷を負ったほか、100人以上が暴力、警察への攻撃、武器所持などで逮捕された。
警察と衝突を起こしたのは極右のデモ参加者で、反人種差別活動家からイギリスの歴史や銅像などを守るためだと主張していた。
アメリカで黒人のジョージ・フロイドさんが白人警官の暴行で死亡した事件をきっかけに始まった反人種差別デモが各国に広がる中、イギリスでは人種差別や奴隷制度に関わった歴史人物の像が攻撃対象になっている。
一方、ロンドンやイギリス各地では引き続き、人種差別に反対する平和的なデモも続いている。
ロンドンでは先週、一部のデモが暴力に発展した。ロンドン警視庁は今回、集会を午後5時で終わらせたり、職務質問を拡大したりするなど、暴力抑制に力を入れている。
ボリス・ジョンソン英首相は「人種差別的なごろつきの暴力など、私たちの街にあってはならない」とツイートし、警官に危害を加えたグループを非難。「警察を攻撃する者には誰でも、あらゆる法の力をもって対抗する」と書いた。
殉職警官の慰霊碑に立小便
この日はイギリス各地から、イギリスの歴史のシンボルを守るなどと主張する極右活動家などがロンドンに集まった。
大半が白人男性で、ホワイトホールの戦没者追悼碑の前に集まったほか、ウィンストン・チャーチル元首相の像の回りに囲いを作るなどした。チャーチル元首相は人種差別的な発言で知られており、一連の差別反対デモでは銅像に落書きがされていた。
差別反対デモに抗議する白人の男たちはこの日、腕を振りかざしながら「イングランド」と叫び、警察の治安部隊と衝突を起こした。(中略)
人種差別に抗議するデモに反対する白人男性の1人は、2017年にウェストミンスターで起きたテロ攻撃で命を落としたキース・パーマー巡査の慰霊碑の横で、立小便しているところを写真に撮られた。
プリティ・パテル内相はこれについて、慰霊碑の「冒とく」は「全く恥ずべき行為」だと非難した。(中略)
ロンドン以外でも、グラスゴーやブリストル、ベルファストなどで、戦争記念碑を「守る」ための集会が行われ、数百人が参加した。
BBCのドミニク・カシアーニ内政担当編集委員によると、ロンドンの議会前広場に集まった数百人の多くはすでに酒を飲んでいた状態だった。極右活動家のほか、様々なサッカー・チームを応援するフーリガンたちが、この日はひいきチームの違いを乗り越えて肩を並べて参加していたという。
政治家が相次いで非難
ジョンソン首相は、「一連の行進や抗議は、暴力によってなし崩しに変質してしまった。加えて、現在の(感染対策)ガイドラインにも抵触する。イギリスに人種主義の居場所はない。それを現実にするために協力しなければならない」(中略)
反人種差別デモは平和的に
こうした中、ロンドンのハイドパークや隣接するマーブルアーチでは、反人種差別を訴える平和的なデモが行われ、「Black Lives Matter」運動への支援が呼びかけられた。
ただし、この週末に実施予定のデモ行進については、極右グループとの衝突を避けるため参加しないよう、ロンドンの「Black Lives Matter」運動の主催者たちは呼びかけていた。(中略)
平和的な抗議参加者は、極右活動家と暴力的な衝突によって「Black Lives Matter」の取り組みが「汚されて」してしまうことを恐れていると話した。
抗議団体「Hope Not Hate(ヘイトではなく希望を)」のニック・ロウルズさんも、極右団体が騒ぎを起こそうとしており、「非常に深刻な」状態にあると述べた。「Black Lives Matter」が13日にロンドンで予定していた抗議を中止したのは、賢明な判断だったと評価した。
「銅像や記念碑を本気で心配し、守ろうと思っている人も中にはいるが、大勢はけんかをするためにロンドンに向かった。ソーシャルメディアでも、おおっぴらにそうい話をしている」【6月14日 BBC】
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【フランス 2016年の類似事件とも重なり抗議広がる】
フランスでは以前から移民出身者の多いパリ郊外などで警官の言動が人種差別的だと指摘されてきた経緯があること、また、フランスでもアメリカと似たような黒人と警察のトラブルが2016年に起きていることなどを受けて、今回米ミネアポリスでの事件を契機に人種差別反対を訴える抗議行動が広がっています。
****パリでも人種差別抗議集会、警察と衝突 催涙ガス使用****
黒人に対する警察の過剰暴力と人種差別に抗議するデモが、アメリカからフランスにも飛び火し、パリ中心部では13日、抗議に参加した人たちと機動隊が衝突した。
パリ中心部のレピュブリック(共和国)広場では、人種差別反対を訴える約1万5000人が集まった。無許可の行進を敢行しようとして警察に規制されたため、投石が始まり、機動隊は催涙ガスでこれに応酬した。
集会は許可されていたものの、行進は許可されていなかった。オペラ座地区への行進は、沿道の店舗や事業所への被害を懸念して禁止されていた。
パリのデモは、2016年にパリ郊外で黒人男性アダマ・トラオレさん(当時24)が逮捕され、警察車両の中で意識を失い、警察署で死亡した事件に抗議するもの。「アダマ・トラオレに正義を」と訴える抗議者たちは、「正義がなければ平和もない」などとシュプレヒコールを繰り返した。(中略)
フランス警察への抗議とは
フランスの警察監視団体によると、昨年は1500件近い警察に対する苦情を受理し、その半数は暴力被害を主張する内容だったという。
5月にはパリ近郊ボンディで、スクーターを盗もうとした疑いで拘束された14歳少年が、警察によって重傷を負ったとされる事件があった。
クリストフ・カスタネル内相は8日、警官が容疑者を羽交い絞めにして首を絞める逮捕術を禁止した。
内相はさらに、警察における人種差別は「一切容認しない」と公約し、人種差別が強く疑われる警官は休職させると述べた。
これには多くの警官や警察労組が強く反発し、自分たちの間に人種差別がはびこっている事実などないと主張。12日にはパリ中心部のシャンゼリゼに多くの警官が集まり、地面に手錠を投げつけて抗議した。【6月14日 BBC】
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【警官からは反発も】
「悪者」扱いされていると感じる警官の側からの反発は、上記フランスだけでなくアメリカでも。
****市警の特殊部隊員10人辞任、安全な任務遂行「不可能」 米フロリダ州****
米フロリダ州南部の街ハランデールビーチで、警察の特殊部隊員10人が安全上の懸念を理由に辞任したことが分かった。
隊員らは市警察のキノネス署長に9日付で書簡を送付。最低限の装備や訓練しか与えられず、「隊員より犬の安全を優先するような」政治的風潮に動きを封じられることも多い現状が改善されない限り、任務を十分に果たすことはできないと主張した。自身や家族がいわれのない危険にさらされているとも訴えた。
隊員らはさらに、黒人男性が警官に暴行され死亡した事件への抗議デモに、キノネス署長らが8日、現場でひざまずき連帯を示した行動に異議を唱えた。
ハランデールビーチはマイアミから北へ約30キロの沿岸部に位置する人口約3.8万人の街。CNNが入手した市長の声明によると、署長は8日午後に隊員らと会合の場を設けて意見を聴き、装備を回収した。
市長は声明で、辞任を遺憾とする一方、住民の安全を守る任務に影響はないと強調。10人は特殊部隊から外れるものの、市警察にはとどまると説明している。【6月14日 CNN】
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【人種差別に声を上げ始めたアフリカ諸国 ガーナ「帰還」を促す】
なお、アフリカ諸国も今回の一連の人種差別への抗議行動に大きな関心を寄せています。
****反人種差別の議論を国連に要請 アフリカ54カ国****
アフリカ54カ国は12日付で国連人権理事会に書簡を提出し、世界各地で起きている黒人などへの人種差別について、早急に対応策を議論するよう要請した。米国で起きた白人警官による黒人男性暴行死事件は一例にすぎず、アフリカ人の子孫は各地で同様の被害に遭い注目もされてこなかったと訴えた。
書簡はアフリカを代表し、駐ジュネーブ国際機関代表部のブルキナファソ大使名で作成された。「組織的な差別、警察の残虐行為、平和的な抗議デモへの暴力」を議論のテーマにするよう求めた。
「武器を持たないアフリカ人が警察の残虐行為で苦しめられる事件が、世界各地で数多く起きてきた」と言及した。【6月14日 共同】
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かつて奴隷貿易の主要拠点で、大勢の奴隷が船に乗せられて北米に渡ったガーナからは、「今の場所で必要とされていないならとどまることはない、アフリカは皆さんを待っている」と帰還を促すメッセージも。【6月11日 Newsweekより】
【アメリカ 更に事態を刺激しかねない事件も 自殺か「奇妙な果実」か?】
一方、問題の発端となったアメリカでは、さらに事態を刺激しかねない事件も。
****警官が発砲し黒人男性死亡、警察署長が辞任 米アトランタ****
米ジョージア州アトランタで、警官が黒人男性を拘束しようとした際に発砲し男性が死亡したことを受けて、アトランタ市警のエリカ・シールズ署長が辞任することになった。ケイシャ・ランス・ボトムズ市長が13日、明らかにした。
公式報告書によると、死亡したのはレイシャード・ブルックスさん。ブルックスさんは12日夜、ファストフード店のドライブスルーレーンに止めた車の中で寝ていたため、従業員が他の客の迷惑だと警察に通報した。
警官らが飲酒検査で陽性だったブルックスさんを拘束しようとすると、ブルックスさんは抵抗。監視カメラの映像には、「警官らともみ合っていたブルックスさんが警官の一人のテーザー銃を奪い、現場から逃走しようとする」様子が映っていた。
「警官らが走ってブルックスさんを追うと、ブルックスさんは振り返ってテーザー銃を警官に向けた。警官が発砲すると、銃弾がブルックスさんに当たった」という。ブルックスさんは病院に搬送されて手術を受けたが死亡した。警官1人も負傷した。(中略)
ブルックスさんの死に抗議しデモ隊が再びアトランタ市内の通りに繰り出した。ボトムズ市長は、ブルックスさんを射殺した警官が免職処分を受けたことを明らかにした。
トムズ市長は、米大統領選で民主党候補指名が確実となったジョー・バイデン前副大統領の副大統領候補としても名前が挙がっている。 【4月14日 AFP】
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また、下記のような事件も。まだ詳細はわかりませんが、万一他殺という話になると、相当なインパクトがありそうです。
****木につるされた黒人男性の遺体、住民が捜査要求 米ロサンゼルス****
米カリフォルニア州ロサンゼルス郡の保安官事務所は12日、同州パームデール市で24歳の黒人男性の遺体が樹木からつり下がっている状態で発見されたと発表した。
遺体は通行人が8日未明に見つけたもので、現場に出動した消防士が死亡を確認した。
同市は自殺の疑いがあるとの見方を表明。声明で、新型コロナウイルスの感染拡大後、今回のような事例は初めてではないと指摘。現在の困難な時期に市は精神衛生の問題への対処に努めていると強調した。
ただ、保安官事務所が12日、遺体発見時の初期段階の状況を記者会見で発表した際、数十人規模の住民らが市議会に集結して怒りを示し、捜査開始を要求する事態ともなった。
住民らは現場周辺にある監視カメラの映像分析を要求。市側はそのようなカメラはないとし、捜査は続いていると説明。市長も現れ、住民らに平静さを促しながら、男性の死去の正確な経緯の把握に努めていると大声で説得する一幕もあった。
保安官事務所によると、全面的な検視は近く実施される見通し。
市側は会見後、地域社会が今回の死去への全面的な捜査を求めることは理解しているとも述べた。
パームデール市はロサンゼルスから約60マイル(約97キロ)離れている。【6月14日 CNN】
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ビリー・ホリデイのレパートリーとして有名な歌に「奇妙な果実」があります。“奇妙な果実”とは木にぶら下がる黒人の死体であり、南部を中心に黒人へのリンチ・暴行が当時日常のようにあったアメリカ人種差別への抗議の歌です。
その「奇妙な果実」を再現するような事件となったら、混乱は必至でしょう。
【事態の沈静化・国民融和よりは自身のアピール演出に執心するトランプ大統領】
こうした人種差別への抗議が広がる不安定な状況で、トランプ大統領からは国民融和を促す“そぶり”もあまり見られません。
ミネアポリスの事件で問題になった容疑者拘束時の警官による首締めについては“トランプ氏は「一般的に言えば禁止が望ましい」と語った。同時に、1対1で激しく抵抗する相手と向き合う場合など、状況次第では認める余地を残すべきだとの考えもにじませた。”【6月13日 読売】とのこと。
不本意ながらも「一般的に言えば禁止が望ましい」と語ったあたりは、一応“そぶり”は見せているというべきでしょうか。
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トランプ氏は新型コロナウイルス感染拡大が始まって以来初の支持者集会を19日にオクラホマ州タルサで開くといったん発表したものの、これが奴隷解放記念日にあたることから、日にちを変更した。
1865年6月19日は、テキサス州で奴隷解放宣言が読み上げられた日。奴隷制維持のために戦った南部連合のうち、テキサス州は奴隷解放を受け入れた最後の州だった。南北戦争は1865年4月に終結している。
6月19日は国民の祝日ではないが、多くのアフリカ系市民が「Juneteenth(ジューンティーンス)」と呼んで祝う。
トランプ氏が支持集会の場所にタルサを選んだことも、批判されている。
1921年には白人集団がタルサ市内のグリーンウッド地区を銃や爆発物で襲撃。当時のグリーンウッドは「ブラック・ウォール・ストリート」と呼ばれ、黒人が経営する多くの事業が成功し、繁栄していた。白人集団の襲撃で最大300人が死亡し、約1000件の事業や住宅も破壊された。【6月14日 BBC】
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****トランプ大統領、州兵に感謝 デモ対処方針に言及なし****
トランプ米大統領は13日、東部ニューヨーク州ウエストポイントの陸軍士官学校の卒業式で演説し、白人警官による黒人男性暴行死事件で全米に拡大した抗議デモへの対応を念頭に「街の平和と安全、法の下の秩序を守ってくれた州兵に感謝する」と述べた。
今後の対処方針をどう説明するか注目されたが、言及はなかった。
米メディアによると、卒業予定の士官候補生ら約千人は3月、新型コロナウイルス感染拡大を受け自宅に帰っていたが、トランプ氏が4月、卒業式で演説する意向を唐突に表明。士官候補生らは呼び戻され、2週間の自主隔離を行ってきた。【6月14日 共同】
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ホワイトハウス前の抗議集会を強制排除して、教会へ向かい記念撮影した件もそうですが、いかに自分をアピールするかということしか頭にはないように見えます。