孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  コロナ感染拡大のなかでの規制緩和 政府批判ジャーナリスト有罪判決 警官の性犯罪

2020-06-15 23:39:42 | 東南アジア

(ニュースサイト「ラップラー」の創始者で、フィリピンの著名ジャーナリスト、マリア・レッサ氏。香港にて(2019年5月16日撮影)【6月15日 AFP】)

【感染は過去最高レベルのなかでの都市封鎖緩和】
フィリピンは、新型コロナの感染拡大が続く中、6月1日から首都マニラのロックダウン緩和に踏み出しています。

****フィリピン、首都マニラの封鎖6月から緩和 感染者は急増****
フィリピンのドゥテルテ大統領は28日、新型コロナウイルスの感染拡大抑止のため首都マニラに導入したロックダウン(都市封鎖)を6月1日から緩和すると発表した。

しかし、28日に報告された国内の新規感染者数は539人と、同国で最初の感染者が確認された1月以降で最多となった。累計感染者数は1万5588人で、うち921人が死亡した。

ドゥテルテ大統領はテレビ会見で、死亡率は低く抑えられているとして「状況は悪くない」と述べた。

デュケ保健相は、国内感染者の90%は軽症で、重症患者は2%に満たないと説明した。

マニラで敷かれたロックダウンは世界的に見ても厳格で、実施期間も中国湖北省武漢で封鎖が行われた76日を今週末で超えることになる。

フィリピンは第1・四半期の国内総生産(GDP)が0.2%減少し、第2・四半期は一段と大幅な落ち込みが予想されている。封鎖措置の緩和は経済への打撃緩和につながる可能性がある。

封鎖緩和により、10人までの集会が認められるほか、マスクの着用や対人距離の確保を前提に、職場や商店、一部の公共交通機関が再開され、マニラ内外の移動も認められる。

一方、学校や観光地は引き続き閉鎖し、レストランの店内飲食禁止も継続する。高齢者と子どもについては引き続き外出を禁止する。

今回の措置は6月1日から15日まで適用する。
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上記にも“マニラで敷かれたロックダウンは世界的に見ても厳格で、実施期間も中国湖北省武漢で封鎖が行われた76日を今週末で超えることになる”とある封鎖の状況は・・・

****検問でID、罰則に腕立て伏せも…地区ごとに細かなルール、フィリピンの感染対策****
(中略)
経済活動の停止で多くの人々が影響を受けていますが、痛手を負っているのは、以前から弱い立場に置かれた人たちです。

豊かな人には深刻な影響はなく、せいぜい食べたいものを食べに行けなくなったとか、そういう制限があるぐらいでしょう。

一方で、貧しい人たちは食べるものがない状況に置かれている。病院に行くお金もないまま自宅で亡くなっています。家族はその死を嘆き悲しむ余裕すらない暮らしをしています。

■マンションも独自の外出ルール
――住まいの地域ではどのような外出規制がありますか。それに対してどのように受け止めていますか?

マニラ首都圏とその周辺自治体はロックダウンの状況で、私の住まいもその対象地域です。検疫態勢は5月15日現在までで、計8週間にわたる長さです。他地域は4月末から緩め始めています。

ロックダウン中の検疫のルールは、自治体の越境を制限するというものです。私の住まいはリサール州とマニラ首都圏のちょうど境にあるので、この制限はなかなか面倒です。自治体の境にはチェックポイントがあり、たとえ1ブロック先であっても、簡単に越えて行くことはできません。(後略)【6月6日 GLOBE+】
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“痛手を負っているのは、以前から弱い立場に置かれた人たち”“貧しい人たちは食べるものがない状況に置かれている”というのは、フィリピンに限らず、多くの途上国・新興国が直面する問題で、厳格な封鎖措置を続けられず、感染を封じ込めることができない理由でもあります。

ただ、フィリピンの場合は、“食料援助を求める市民の抗議の中、ドゥテルテ大統領からは4月、トラブルがあれば「射殺する」との発言も飛び出した。”【同上】とのこと。

あの麻薬関連で超法規的殺人が横行するフィリピンで、その状況を生み出しているドゥテルテ大統領が「射殺する」というのですから、単なる脅しではありません。住民も従うしかないでしょう。

そうは言っても、ドゥテルテ大統領としても、これ以上は・・・との判断での緩和でしょう。

ただ全面再開ではなく、今も制限は続いています。

****フィリピンの「庶民の足」苦境 乗合自動車ジープニーの運休続く****
フィリピンの「庶民の足」といわれるバス型の乗合自動車「ジープニー」業界が苦境に陥っている。新型コロナウイルス感染抑止のため運行を中止させられて3カ月近くがたつ。

電車やバスが再開した一方で、乗客同士の距離が近いため待ったがかけられたまま。生活に困窮した運転手が悲鳴を上げている。
 
生活に浸透した交通手段だが乗車人数の制限や客同士の距離確保が難しく、政府は運行をまだ認めていない。約60万人いる運転手のほとんどは失業したとみられる。
 
運転手らでつくる業界団体の代表は「政府は運転手の生計手段も通勤者の移動手段も奪っている」と批判し、運行再開を訴えた。【6月8日 共同】
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その後の感染状況については、“フィリピン保健省は12日、国内の新型コロナウイルスの感染者数が同日午後4時時点で累計2万4,787人に増えたと発表した。前日から615人増えた。”【6月13日 NNA ASIA】ということからすると、感染拡大傾向は過去最多レベルで依然として続いているようです。

【政府批判著名ジャーナリストの有罪判決 政府批判に共感しない「世間の実態」】
麻薬問題で超法規的大量殺人を続けるドゥテルテ大統領は、それによって治安がよくなったと、直接の被害にさらされない“一般市民”の受けはよく、依然として高い支持率にあるようです。

ただ、「自分は麻薬とは関係ないから」とは言っても、麻薬問題で見せる「強面(こわもて)ぶり」は、権力の都合の悪い問題に関しては、いつでも、誰にでも示されます。

世間一般では、そういう政治体制を「独裁」「強権政治」と呼びます。
「強権政治だろうが何だろうが、自分の暮らしが安定すればいい」という話であれば、中国共産党称賛と同じです。

****フィリピン著名ジャーナリストに有罪判決 政権批判封じと反発も****
フィリピンの裁判所は15日、サイバー名誉毀損罪で起訴されたジャーナリスト、マリア・レッサ被告(56)に有罪判決を言い渡した。

同被告はロドリゴ・ドゥテルテ大統領に対する批判的姿勢で知られており、裁判は同国の報道の自由をめぐる試金石として注目されていた。

フィリピンではジャーナリストが脅迫されることが珍しくなく、レッサ被告の裁判は国内外の関心を集めていた。
レッサ被告は罪状を否認し、政治的な動機に基づく訴追だと主張していた。

レッサ被告に加え、同被告が設立したニュースサイト「ラップラー」の元記者1人も有罪となった。

2人は上訴審まで保釈が続く。有罪が確定した場合、禁錮6年の刑を受ける可能性がある。
報道の自由を推進する団体はこの裁判について、ドゥテルテ大統領に対する批判の封じ込めを狙ったものだとしている。

一方、大統領と支持者は、レッサ被告とラップラーを「フェイクニュース」だと非難している。
レッサ被告は米CNNの元ジャーナリストで、2012年にラップラーを設立。ドゥテルテ政権と、同政権が進める残忍なまでの麻薬撲滅戦争を批判してきた。

「証拠を示さなかった」
裁判は、ビジネスマンのウィルフレド・ケン氏と元裁判官が癒着があるとした8年前の記事をめぐって争われた。
この記事が出て4カ月後の2012年9月、「サイバー名誉毀損」法が施行。物議を醸す中、同法で訴追された。

検察は、2014年に問題の記事のタイプミスが修正されたことから、記事は同法の訴追対象になると主張した。

この日の判決でライネルダ・モンテア裁判官は、ラップラーがビジネスマンに関する記述を裏付ける証拠を示さなかったとした。

また、判決は法廷での証拠に基づいたものであり、報道の自由は名誉毀損の免責理由にはならないと述べた。

人権団体が非難
フィリピンでは報道の自由は保障されているが、米人権団体「フリーダム・ハウス」は、フィリピンはジャーナリストにとって非常に危険な国だとしている。

「国境なき記者団」は、「地元政治家に雇われることもある私兵がジャーナリストの口を封じ、何の罪にも問われていない」としている。

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ドゥテルテ氏に批判的な人々からは、厳しい政権批判をするメディアを、政府が圧力と報復の対象にしているとの見方が出ている。

人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」のアジア・ディレクター代理のフィル・ロバートソン氏は、「この判決は、フィリピンの虐待的な指導者が国にどんな損害が出ようと、批判的で、高く評価されているメディアを追い詰めるために法律を利用できることを見せ付けている」と述べた。

(中略)
ドゥテルテ政権を批判
ラップラーは、大統領となったドゥテルテ氏を正面から批判する、数少ないフィリピン・メディアの1つだ。

多くの死者を出している麻薬撲滅戦争については、たびたび取り上げてきた。レッサ被告は自ら、ソーシャルメディアを利用した政府のプロパガンダ拡散について報じてきた。ラップラーは、女性差別や人権侵害、汚職などの問題も批判的に扱ってきた。

レッサ被告は、2018年には米タイム誌の「今年の人」に選出された。「ソーシャルメディアと、権威主義的傾向をもつポピュリストの大統領という、情報界における2つの非常に強力な巨大暴風雨の中で」ラップラーを率いた手腕が評価された。

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ドゥテルテ氏はラップラーに目をつけていた。昨年には、ラップラーの記者に、「我々にごみを投げつけるなら、説明くらいさせてほしい。あなたはどうなのか? 潔白なのか?」と迫った。

また、ラップラーの記者に対し、政府の動きについて報じることを禁止。政府は昨年、ラップラーの運営許可を失効とした。

昨年3月に逮捕
(中略)
フィリピンにはレッサ被告を尊敬する人がいる一方、嫌悪感を示す人もいる。ドゥテルテ氏の支持者はソーシャルメディアで、レッサ被告の印象操作に取り組んでいるとされる。

東南アジア研究が専門の匿名希望の学者は、「ドゥテルテ氏は支持率がまだかなり高く、過去にレッサ被告をあざけったこともあり、レッサ被告はある種の『エリート』扱いを受けている」と説明。

「彼女の仕事は素晴らしいし、ドゥテルテ氏に好き勝手させない抑止として必要なものだが、大衆的な観点では、そしてマニラ以外では、彼女は世間の実態から『ずれている』と思われている」と述べた。【6月15日 BBC】
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記事発表後に制定された法律で裁かれていますが、“2014年に問題の記事のタイプミスが修正されたことから、記事は同法の訴追対象になる”というのも・・・・タイプミス修正というのはどういう経緯で誰が行ったのでしょうか?

“大衆的な観点では、そしてマニラ以外では、彼女は世間の実態から『ずれている』と思われている”ということが、政権側が強気に出る背景にあるのでしょう。

ただ、“世間の実態”とは?
繰り返しになりますが、食べることができて、治安が良くなるなら、犯罪者(および犯罪に近い生活環境にある貧困層)がいくら殺されようが構わないと言うなら、社会に混乱をもたらす連中は徹底的に取り締まる、善良な国民には豊かな生活を保証するという中国流の政治手法と同じです。

【「ラップラー」が明らかにした封鎖下の警官の性犯罪】
上記裁判で問題となっているインターネット・ニュースの「ラップラー」が明らかにした、マニラ都市封鎖および警官の実態

****フィリピンで警察官による“性被害”を訴える女性が続出 「検問所」が被害の温床****
(中略)
フィリピンには「バランガイ」という名の自治体の最小限行政単位が定められている。コロナ禍の現在、その境界を越えて移動する際には警察などによる検問を通過しなければならず、「パス=通行証」が不可欠となる。このパスを巡る現職警察官による不祥事が発覚し、大きな社会問題となっているのだ。
 
インターネット・ニュースの「ラップラー」は5月21日「コロナウイルスの検問所を通ろうとする売春婦はまず警察官に虐待される」という衝撃的な見出しの記事を公開した。
 
記事では、外出自粛や夜間外出禁止などの措置で、商売上がったりの売春婦や夜の仕事の女性たちの現状が紹介される。彼女らは生活維持のため、ネットで知り合った、あるいは馴染みの「お客」の自宅に通うため、「検問所」を通らねばならない状況にある。

その検問所にいる現職の警察官の中に、「パスと引き換えの“行為”」を露骨に要求してくるケースがあるというのだ。
 
女性たちは生活のために、やむを得ず警察官の前で服を脱ぎ、体を開く。「ラップラー」のスクープは、警察官による「レイプ疑惑」という人権侵害、犯罪行為の実態だった。(後略)【7月11日 大塚智彦氏 デイリー新潮】
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こういう記事を発表する「ラップラー」が、警察を暴力装置として活用する政権としては目障りなのでしょう。
一般市民は売春婦や風俗関連女性がどういう扱いを受けようが知ったことではないというのが「世間の実態」なのでしょう。

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アーチー・ガンボア国家警察長官は「我々は女性を尊敬し、その社会的役割に敬意を表す立場から今回のような事案は極めて重大な問題だと認識している」との声明を発表。その上で「社会の防疫態勢の中で権限を有する者が、その権力を悪用して女性に肉体的、性的な嫌がらせや虐待をすることは許すべきではない」と警察官を非難した。
 
匿名で被害を打ち明けた女性たちに対しても「是非名乗り出て被害を届けてほしい。そうしないと事件として捜査できない」と求めた。

しかし、フィリピン社会では警察組織が100%信用できないことは周知の事実。地元のフィリピン人記者は私に「名乗り出ればどうなるか。命の危険すら懸念される、それがフィリピンである」と話した。
 
いくら捜査のためとはいえ簡単に名乗り出ることができない現状がある。ガンボア長官もそれを見越して発言しているのではないかとの見方も出る始末。

「(不正に走る)そうした者と第一線でコロナ対策のために懸命に仕事をしているその他多数の警察官を同一視しないでもらいたい」と組織擁護とも取れるコメントもしているだけに、国民は警察への不信感をさらに深めている。
 
それは長官の声明からも見て取れる。彼は「名乗り出た被害者の保護には全力を挙げるが、裁判になった場合、公判でも保護しきれるかどうかは何ともいえない。有罪にするには証人の法廷での証言がどうしても必要になるだろうから」と付言したことからもよくわかる。

夜の町はロックダウンでゴースト化
マニラ首都圏では、カラオケなどの娯楽施設が集中するマビニ、マカティ地区などのほかにゴーゴーバーが立ち並ぶ「エドサ・コンプレックス」(通称エドコン)などの歓楽街が有名だが、強制力を伴う「コミュニティ隔離措置」が宣言された3月15日以降はいずれも営業自粛や停止に追い込まれ、街はゴーストタウンと化している。

「ラップラー」が報じた女性たち同様、そこで働いていたカラオケのコンパニオンやバーのホステス、ダンサー、売春婦といった女性たちも、生活に困窮し、路頭に迷う境遇に追い込まれている。(中略)

今回の事件に対し、女性人権組織や性暴力被害者保護団体などは、
「コロナウイルス対策で多くの女性が生活困窮に陥り、その結果として売春せざるをえない状況に追い込まれている。その弱みにみつけこむ行為は人権侵害であり犯罪である」
と、ドゥテルテ政権に対して生活保障や経済支援策を手厚くするように求めている。
 
ガンボア警察長官の呼びかけにも関わらず、警察官による性被害の実態を訴え名乗り出た女性は、これまでのところいないという。【同上】
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国家警察長官「被害者は名乗り出て欲しい・・・でも、公判でも保護しきれるかどうかは何ともいえない。」
殆ど「警察に盾突く輩は命の保証はしないぞ」という恫喝と同じです。

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