孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベラルーシ  国民不満の高まりの中で6選を目指す「欧州最後の独裁者」ルカシェンコ大統領

2020-06-17 23:17:36 | 欧州情勢

(5月24日、ベラルーシ・ミンスクで、ルカシェンコ大統領の6選反対を訴え、マスク姿で演説する(政権批判を続ける映像ブロガーの)チハノフスキー氏【5月25日 共同】)

【新型コロナ 独自対応のタンザニアとベラルーシ】
世界各国が新型コロナ対策に奔走するなかで、アフリカ・タンザニアや東欧・ベラルーシなどのように、検査・隔離・都市封鎖・自宅待機といった通常の対応を軽視(無視?)する国もなかには。

****タンザニア大統領が演説 「神の恩恵でウイルス克服」****
アフリカ東部タンザニアのマグフリ大統領は国民に向けた演説で、同国は「神の恩恵」により新型コロナウイルスを克服できたと述べた。

マグフリ氏は7日、首都ドドマの教会で演説。国民の祈りと医療従事者らの努力が良い結果を生んだと述べた。
礼拝に集まった人々がマスクを着けていないのは、同国が新型コロナウイルスを克服し、国民がもはや恐れていない証拠だとも語った。

マグフリ氏は先週、中心都市ダルエスサラーム市内の病院に残る新型コロナウイルス感染の患者はわずか4人になったと話していた。

同国は4月29日以降、新型コロナウイルス感染に関するデータを公表していない。世界保健機関(WHO)によれば、感染者509人、死者21人の発表が最後となっている。

WHOの地域担当者は、同国が礼拝施設を閉鎖していないことなどに懸念を示してきた。現地の米大使館は先月、感染の危険性は極めて高く、ダルエスサラーム市内の病院はパンク状態だと警告を発した。

しかしマグフリ氏は国民に、「悪魔のような」ウイルスはキリストの体内で生きられないと信じ、祈りでウイルスを追い払うよう呼び掛けた。さらに、陽性判定の増加は検査キットの欠陥が原因だと主張していた。

同国はすでに高校や大学の授業や国際線の運航を再開したが、小中学校の休校措置は続けている。【6月10日 CNN】
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信仰を前面に出すタンザニアのマグフリ大統領に対し、ベラルーシのルカシェンコ大統領はウォッカ?

****新型コロナ「ウオッカが効く」 ベラルーシ大統領が異様発言連発****
四半世紀に及ぶ強権統治を続けるベラルーシのルカシェンコ大統領が新型コロナウイルスを巡り「ウオッカが効く」「ここにウイルスはいない」などと異様な発言を連発している。

世界保健機関(WHO)は21日、多数の人が集まるイベントの延期などを勧告したが、まだ必要ないと退けた。
 
ベラルーシ保健省によると22日現在の感染者は7281人で死者は58人。しかし観客が集まるサッカーなどのプロ競技は現在も通常通り開催。近隣の欧州諸国やロシアが3月には導入した外出禁止措置なども取られていない。

WHOは「急速に感染者が増加している」として対策強化を呼び掛けている。【4月22日 共同】
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もちろん、感染例のある国から入国した自国民、および外国人に対し、自宅または滞在先で2週間の自主隔離を強制しているというように、ベラルーシが全く対応をとっていない訳でもありませんが。

【ベラルーシの国民不満、新型コロナで一気に拡大 そのなかで6選を目指すルカシェンコ大統領】
国民の生命を危険にさらす独善的な新型コロナ対策にかぎらず、ルカシェンコ大統領は「欧州最後の独裁者」とも呼ばれるように、強権的支配を続けています。

ベラルーシでは今年8月9日に大統領選挙が予定されており、ルカシェンコ大統領は「6選」を目指していますが、さすがに国民の間では抗議行動も。

****ベラルーシで大統領6選反対デモ 首都ミンスクに千人超****
ベラルーシの首都ミンスクで24日、ルカシェンコ大統領の6選に反対するデモが行われ、AP通信によると千人以上が参加した。大統領選は8月9日に行われる予定。当局の許可を受けたデモで、治安当局も排除せずに静観したという。
 
1994年から大統領に君臨するルカシェンコ氏は現在5期目。自身に批判的な政治家やメディアを排除し「欧州最後の独裁者」とも称され、昨年11月に6選出馬の意向を表明した。
 
ロシア通信などによると、デモは政権批判を続ける映像ブロガーのチハノフスキー氏らが呼び掛けた。【5月25日 共同】
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まともに選挙が行われれば“あるオンライン世論調査ではルカシェンコ氏の支持率がわずか3%”【下記記事】というルカシェンコ氏の勝利の目はないと思われますが、そこを何とかして圧倒的勝利を実現するのが強権支配国家の「独裁者」です。

2015年の前回大統領選挙では、反ルカシェンコ派は立候補を認められず(立候補を届け出た15人のうち、ルカシェンコ大統領ら8人が受理され、獄中の野党指導者スタトケビッチ氏ら7人は却下)、野党はボイコットを呼びかけるなかで行われました。結果、得票率83%で5選を果たしています。

地元ジャーナリストは選挙が形式にすぎないことを強調するため、猫の出馬を届け出るというエピソードも。

ただ、今回は新型コロナウイルスの感染拡大によって国民不満が大きく膨らんでおり、これまでにない反ルカシェンコの動きが出ているようです。

****【遠藤良介のロシア深層】ベラルーシ異変…揺らぐ欧州最後の独裁者****
ロシア・旧ソ連諸国で反政権デモが粉砕される現場を数多く見てきたが、空恐ろしさを覚えたのは、ロシアよりも隣国ベラルーシ(人口約950万人)の治安機関だった。「欧州最後の独裁者」と称されるアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が26年間にわたって君臨している国である。
 
首都ミンスクで2011年、人々が拍手して政権に抗議するという“デモ”を取材した。約千人がただ歩道上を歩き、時折、一部の者が手をたたく。

それだけの行動だったが、手をたたいた者には即座に私服の治安要員らが無言で襲いかかった。この国ではロシアをしのぐ独裁体制が敷かれ、反政権運動は萌芽(ほうが)にもならないうちに摘まれてきた。
 
そのベラルーシで今、前例のない動きが起きている。次の大統領選を8月9日に行うことが先月発表されると、ルカシェンコ氏の有力対抗馬3人が名乗りを上げ、現職退陣を公然と要求し始めたのだ。
 
ベラルーシでは立候補者の選管登録に有権者10万人の署名が義務付けられている。この署名運動が各地で広範な盛り上がりを見せる。5月末のミンスクでは、署名を求める反政権派運動員に有権者が約1キロもの列をなしたという。
 
大統領の任期制限は04年に撤廃されている。今回の大統領選も「出来レース」となり、ルカシェンコ氏が容易に6選を果たすとみられていた。しかし、経済の低迷などで鬱積していた国民の不満が、新型コロナウイルスの感染拡大によって一気に増幅された。
 
ルカシェンコ氏はコロナをめぐり、国境閉鎖や外出制限などの措置を一切とらなかった。コロナを恐れるのは「精神障害」で、「ウオッカを飲み、サウナに行くこと」が最善の感染予防策だと公言。プロスポーツの試合も軍事パレードも通常通りに行われてきた。
 
米ジョンズ・ホプキンズ大の集計では16日現在、ベラルーシの累計感染者数は約5万5千人、死者は300人強。これすらも実態をどれだけ表しているかは不明だ。国民はすっかり疑心暗鬼に陥り、独裁者が国民の健康に何の思いも致していないことを悟った。
 
ルカシェンコ氏の対抗馬3人は(1)ロシア系銀行のトップを長年務めたババリコ氏(2)外務次官や駐米大使、ハイテクパークの所長を歴任したツェプカロ氏(3)起業家の人気ユーチューバー、チハノフスキー氏=拘束中=の妻−である。民主化や経済の自由化を訴えており、欧米との関係改善の必要性を認識している。
 
むろん、3人の立候補登録が認められない可能性は高い。最有力とみられるババリコ氏の出身銀行には脱税などの容疑で捜査の手が伸びており、同氏が投獄される展開もあり得る。
 
しかし、今回の大統領選に関しては、政権が対処を誤れば国民の怒りが暴発しかねない。ネット上の動画でルカシェンコ氏がゴキブリになぞらえられたのを機に、人々の間では「ゴキブリを止めろ」という過激なスローガンが広がっている。あるオンライン世論調査ではルカシェンコ氏の支持率がわずか3%と出た。
 
強権指導者が居並ぶ旧ソ連地域にあって、ベラルーシ情勢は潮目の変化を予感させる。今後、ベラルーシ併合をもくろんできたプーチン露政権がどう出るかにも注目する必要がある。【6月17日 産経】
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ルカシェンコ大統領も、こうした国民不満の高まりに不安を感じているようで、内閣を解散させ、治安機関経験者の新首相で抗議行動拡大に備えています。

****ルカシェンコ大統領が内閣を解散、新首相に治安・安保経験豊富なゴロフチェンコ氏を任命****
ドル・ルカシェンコ大統領は6月3日に内閣の解散を決定、翌4日には組閣を行い前国家軍産委員長のロマン・ゴロフチェンコ氏を新首相に任命した。(中略)

一方、高等経済学院世界政治経済学部のアンドレイ・スズダリツェフ副学部長は「選挙を控え、ベラルーシの内政は緊張状態にある。社会は反ルカシェンコ大統領のムードに包まれており、再選は難しいとみられる。(治安機関経験が長い)ゴロフチェンコ氏の起用は(抗議デモの発生をはじめとする)惨事に備えた保険だ」と評した(ロシア紙「ガゼータ・ルー」6月4日)。【6月9日 JETRO】
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強引に勝利をもぎとり、抗議行動は力で封じ込める・・・すでにそういう腹積もりのようにも。

【ロシア・プーチン大統領も絶対に避けたいベラルーシにおける親欧米政権誕生】
このベラルーシの動向が気がかりなのは、ロシア・プーチン大統領も同様でしょう。

プーチン大統領はクリミア併合などで拡張主義的野心を実行する政治家・・・というイメージがありますが、冷戦終結後の世界情勢を見れは、東欧のカラー革命、EU・NATOの東方拡大、中央アジアのロシア離れと中国の存在感拡大・・・と、ロシアは“身ぐるみはがされる”ような状況が続いています。

クリミア併合はそういう状況のなかで、ロシア・プーチン政権の不満・不安が噴出した、ごく限られた地域における限定的結果でもあります。

ウクライナ東部の親ロシア勢力を支援しているのも、この勢力にウクライナにおける一定の権限を持たせることで、ウクライナ全体がこれ以上西側に接近するのを阻止したい思惑でしょう。

ただ、ロシアの孤立化・存在感低下という全体的流れは全く変わっていません。

ベラルーシはロシアに残された唯一といっていいロシアに近い国です。
ロシアとベラルーシは形式上は連合国家を構成しており、一時期、プーチン大統領は将来的にこの関係を強化して、その元首の地位につくのではないか・・・といった話も取り沙汰されました。

万一、ベラルーシに親欧米的な政権が誕生すれば、ウクライナに続いてベラルーシも失い、ロシアはまさに孤立することにもなります。

もっとも、ロシアとベラルーシの関係は、それほど単純でもなく、ルカシェンコ大統領は欧州側にも気を持たせて、ロシアと欧州を天秤にかけるようなしたたかさも。プーチン大統領のもとでロシアと一体化するような気持はさらさらないでしょう。

プーチン大統領が新型コロナのために泣く泣く対ドイツ戦勝75年記念日の軍事パレードをあきらめた際も、ルカシェンコ大統領はあてつけるようにこれを強行し、「旧ソ連の国々で唯一のパレードだ」と一人気を吐いていました。

****ベラルーシは軍事パレード挙行 WHOが自制勧告も、戦勝75年****
旧ソ連諸国が対ドイツ戦勝75年の記念日を迎えた9日、ベラルーシの首都ミンスクでは恒例の軍事パレードが挙行され、ルカシェンコ大統領も臨席した。

新型コロナウイルス対策でWHOが多数の人が集まるイベントを開かないよう勧告し、隣国ロシアが大規模パレードを中止する中で、対照的な対応となった。
 
ベラルーシでは、四半世紀に及ぶ強権統治を続けるルカシェンコ氏の考えから近隣諸国が軒並み導入した外出禁止措置は現在も取られていない。

ルカシェンコ氏は「旧ソ連の国々で唯一のパレードだ。ファシズムから世界を解放した全てのソ連兵に敬意を示すものだ」と意義を強調した。【5月9日 共同】
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プーチン大統領にとってはルカシェンコ大統領はいささか目障りな存在でしょうが、さりとて親欧米政権は絶対に阻止しなければなりません。

8月9日の大統領選挙がどのように行われ、選挙後どうなるのか・・・しばらく注目する必要があります。

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