孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

反政府活動家の「強制失踪」 自由の弾圧で手を携えるタイ・カンボジア・ラオス・ベトナム

2020-06-20 23:03:39 | 東南アジア

(正義を求めて バンコクのカンボジア大使館前では、ワンチャルームの失踪に市民らが抗議(6月8日) 【6月23日号 Newsweek日本語版】)

【もし政権を批判したことが原因なら、誰もが拉致される可能性がある】
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は6月5日、カンボジアを拠点とするタイの反政府活動家ワンチャルーム氏(37)がプノンペンで何者かに拉致されたとして、カンボジア当局に調査と安全確保を求める声明を出しています。

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ワンチャルーム氏はタイのプラユット首相が政権を掌握するきっかけとなった2014年5月のクーデター後に国外逃亡し、カンボジアからインターネット交流サイト(SNS)を通じ、タイ政府を批判するコメントを発信。

3日には「プラユット首相は国を統治できない」と非難する映像を投稿した。タイの裁判所は18年、コンピューター犯罪法違反の容疑で逮捕状を発付している。【6月6日 時事】
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最近、こうしたラオス、ベトナム、カンボジアなど近隣国に避難したタイ人反政府活動家の「強制失踪」が相次いでいるとのことです。

****カンボジアでタイ反政府活動家行方不明 「政権批判が原因か」****
(中略)タイではこれまでも、民主活動家が避難先の近隣国で行方不明となる事案が相次いでおり、深まる謎に国民のいら立ちが募っている。

行方不明となっている男性はワンチャルーム・ササクシット氏(37)。プラユット政権が発足した2014年のクーデター後にカンボジアに逃亡。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じてタイの政権批判を展開し、タイの裁判所が18年、コンピューター犯罪法違反で逮捕状を出している。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によると、ワンチャルーム氏は4日夕、自宅アパート前で武装した複数の男に取り囲まれ、車で連れ去られる姿が目撃された。アパートの防犯カメラにも映像が残っていた。携帯電話で会話中だったが、「息ができない」との叫び声の後、通話が途絶えたという。

タイでは18年12月、行方不明になっていた民主活動家3人のうち2人が、東北部のメコン川で遺体で見つかった。HRWは14年以降、ラオス、ベトナム、カンボジアなど近隣国に避難したタイ人の民主活動家のうち少なくとも8人が、拉致されるなど「強制失踪」の状態になっていると指摘する。

タイの学生団体などはワンチャルーム氏が拉致事件に巻き込まれたとみて、バンコクのカンボジア大使館前や街頭で救出を求める運動を続けている。

運動を主催する学生団体幹部で、タマサート大学の男子学生パリット・シワラックさん(21)は「彼が拉致された理由は分からない。もし政権を批判したことが原因なら、誰もが拉致される可能性があるということだ」と懸念を示す。

ワンチャルーム氏の失踪は、タイのSNS上でも話題となり、失踪を政権と結びつける投稿もある。

プラユット首相は15日、退役軍人らの集会で、ワンチャルーム氏失踪に言及し、「私は特に大学生について、彼らの将来を奪うことは望んでいない」と語った。【6月20日 毎日】
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【手を携えて自由を奪う各国政府】
反政府活動家の「強制失踪」だけでなく、弾圧を逃れて国外に逃げていたカンボジアの野党指導者が帰国しようとしたところ周辺国の非効力で帰国を果たせないでいるということも。

こうしたことから垣間見えるのは、国内の反政府勢力を強権的に封じ込めようとする東南アジア諸国が互いに協力しあってお互いの便宜を図っている構図です。

****民主活動家たちはどこに消えたのか****
タイで、ラオスで、失踪する反体制派 
手を携えて自由を奪う各国政府の弾圧の魔の手からは亡命しても逃れられない

突然失踪し、永遠に消息を絶った活動家や反体制派、口にしてはならないことを口にした不運な市民-彼ら「ロス・デサパレシドス」の存在は、中南米の歴史に記された血まみれの汚点の1つだ。時には何年もたってから遺体で発見されることもあるが、その多くはいつまでたっても行方不明のままだ。
 
愛する者が殺害されたなら、家族は少なくとも嘆くことができる。だが姿を消したままの場合、何も分からないことに家族は最も苦しむ。アルゼンチンでもグアテマラでも、ロス・デサパレシドスの家族の話からは、分からないという痛みが数十年前の失踪時と同じ生々しさで続いていることが感じられた。
 
ロス・デサパレシドスという呼称は「強制失踪」の被害者、または「失踪者」と訳すことができるが、こうした客観的で法律用語的な表現では、あの恐怖を正確に描写できない。あえて言えば「失踪させられた者」だが、これも多くの場合は単なる婉曲表現だ。
 
「失踪させられた」という言葉によって言いたい(とはいえ証明できない)こととは、ある人が拉致され、おそらく暗殺されたということ。その犯人は通常、自国政府だ。
 
中南米政治におけるロス・デサパレシドスの悲劇は今や、東南アジア政治の特徴にもなりつつある。
 
ラオスの社会活動家、ソムバット・ソムポンが2012年、首都ビエンチャン市内の検問所で停止させられた後に行方が分からなくなった事件は広く知られている。何か起きたのかはいまだに不明だが、ラオス政府との対立が原因だと推測するのが妥当だろう。
 
今年6月4日には、著名なタイ人民主活動家のワンチャルーム・サッサクシットが、亡命先のカンボジアで失踪した。

両国で抗議活動を巻き起こしているこの事件は、著名ジャーナリストのアンドルー・マグレガー・マーシャルらの主張によれば、タイのワチラロンコン国王本人が命じ、治安対策責任者の指揮の下で実行されたという。

広がる抑圧の相互依存
ワンチャルームだけではない。14年の軍事クーデター以来、亡命先で「強制失踪の被害者になっている」タイ人反体制派は少なくとも8人に上ると、国際人権擁護団体ヒユーマン・ライツ・ウォッチは最近の報告書で指摘する。
 
報道などによれば、ラオスでは16年以降、タイ人反体制派5人が失踪したとみられる。そのうち2人の遺体は、胃にコンクリートが詰まった状態でメコン川で発見された。
 
タイ人活動家がラオスで失踪する一方、ラオスの反体制派もタイで姿を消している。昨年8月にバンコクで消息を絶った民主派活動家、オド・サヤボンもそのI人だ。

これらの事例から明らかなように、活動家や民主化を求める反体制派は自国内で行方不明になっているだけではな
い。失踪は外国でも起きており、多くの場合は地元政府が共謀している。
 
現に、カンボジア政府はワンチャルームの失踪事件の捜査について、はっきりしない態度を見せている。
 
カンボジアの独立系メディア、ボイス・オブ・デモクラシーが6月5日に掲載した記事で、内務省のキュー・ソピーク報道官は政府による捜査は行われないと示唆した。
 
「タイ(当局)が自国市民の拉致について苦情を申し立てた場合は(捜査を)する」と、ソピークは発言。「タイ大使館から苦情の申し立てがないなら、何をすべきなのか?」
 
6月9日になってカンボジア政府は態度を翻し、捜査の意向を表明した。ただし、ワンチャルームは17年から同国に不法滞在していたと、政府側は主張している。
 
カンボジアやベトナム、ラオス、タイはそれぞれ、抑圧的な政府の支配下にあるだけではない。これらの国は今や、市民の抑圧に当たって相互依存関係にある。
 
各国は他国から亡命してきた反体制派の所在を特定しており、一説によれば、他国の工作員が入国して亡命者を拘束するのを黙認している。その結果、安全な亡命先を求める反体制派は東南アジアを離れることを迫られている。
 
抑圧的政府の立場で見れば、これは賢いやり方だ。
 
大半の民主活動家や反体制派には、故国からそれほど遠くなく、より安全なシンガポールや台湾、韓国に拠点を移すだけの経済的余裕がない。

彼らの多くが選ぶのは近接する国へ逃れる道だ。それなら何かあればすぐに帰国できるし、同胞に交じって暮らすこともできる。タイには大規模なカンボジア人コミュニティーが存在し、ラオスには多くのタイ人が、タイには多くのラオス人が住んでいる。

もう隣国も安全でない
だが反体制派が隣国で安全を確保できない(または安心できない)環境をつくり出すことで、東南アジアの抑圧的政府は彼らをより遠くへ追いやろうとしている。
 
航空機でしか行けない場所なら、帰国は簡単に阻止できるし、同国人との交流は容易でない。反体制派亡命者なら誰もが知るように、外国にいる年月が長いほど、とりわけ距離が遠いほど、故国の一般市民や現実とのつながりは失われていくのが常だ。
 
昨年11月、カンボジア救国党(CNRP)の指導者サム・レンシーは、フランスでの4年間の亡命生活の後に帰国を宣言して大きな話題になった。

空路を諦め陸伝いにカンボジアヘの入国を目指したが、同国のフン・セン首相の要請を受けて、近隣国も入国を拒否。

民主化運動を率いようとするサム・レンシーの帰国阻止にフン・センが成功したのは、地域内で民主主義が芽生えることを望まない隣国政府の協力のおかげだ。
 
要するにインドシナ半島ではもはや、活動家や反体制派は安心して暮らせなくなりつつある。この地域から遠く離れること。それこそが、多くの者にとって唯一の安全な選択肢かもしれない。【6月23日号 Newsweek日本語版】
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なお、フランス・パリの空港でサム・レンシーの搭乗を阻んだのはタイ航空です。

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サム・レンシー氏はタイ経由でカンボジアに帰国し、フランスでの亡命生活を切り上げる計画だったが、シャルル・ドゴール空港でタイ国際航空の職員に搭乗を拒否された。同氏はフランス国籍を持っており、家族も1960年代にフランスに移住している。【2019年11月8日 AFP】
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フィリピンで政府批判著名ジャーナリストが有罪判決を受けた件は、6月15日ブログ“フィリピン  コロナ感染拡大のなかでの規制緩和 政府批判ジャーナリスト有罪判決 警官の性犯罪”で取り上げました。

インドネシアでは、政界の汚職事件を捜査する「国家汚職撲滅委員会(KPK)」の活動が、警察を操るような力を持つ隠れた存在によって妨害されるような状況にあります。【6月15日 JBpress 大塚智彦氏 “インドネシア、汚職捜査官を襲撃した犯人に大甘求刑”より】

東南アジアの政治は、依然として後進性を脱しきれないようです。

 

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