孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  シリア・イラク・リビアで活発な軍事・外交を展開 深刻なコロナ禍のもと「マスク外交」も

2020-06-21 23:50:00 | 中東情勢

(トルコの首都アンカラの空港で4月28日、米国に送る医療物資を軍用輸送機に積み込むトルコ兵ら。トルコ国防省提供=AP【6月2日 朝日】)

【イラク、シリアにおける積極的な軍事戦略】
各国が新型コロナ対応に追われるなかで、トルコ・エルドアン大統領は(周辺国との軋轢も厭わず)これまで以上に活発な外交・軍事作戦を展開しています。

トルコはかねてより非合法武装組織「クルド労働者党」(PKK)を厳しく取り締まっており、その延長として、PKKと兄弟組織とするシリアの北部のクルド人勢力の拡大を警戒し、シリア北部に軍事展開し、シリア政府と緊張関係にあるのは周知のところ。

その対クルド対策の一環としてイラク北部での軍事作戦もこれまで行ってきましたが、最近もまた実施したようです。
当然ながら、イラク政府は主権侵害として非難しています。

****トルコがイラク北部で対クルド作戦、兵士1人 民間人5人死亡****
トルコ国防省は、イラク北部の軍事作戦地域で19日、非合法武装組織「クルド労働者党」との衝突によりトルコ軍兵士1人が死亡したと発表した。
 
トルコは17日、イラク北部のクルド人反政府勢力を空と陸から攻撃する「クロー・タイガー作戦」を開始した。国防省は、トルコ軍兵士が作戦中に負傷し、その後病院で死亡したと発表したが、衝突が起きた詳しい場所は明らかにしなかった。
 
トルコ軍は、同国南東部と国境を越えた後方にあるPKKの潜伏地に対する作戦を繰り返し行っている。
 
イラク北部の複数の市の市長によると、トルコの攻撃により19日までに合わせて5人の民間人が死亡している。イラク政府は今回のトルコの作戦に抗議し、イラク北部への攻撃を直ちに中止するよう求めた。 【6月20日 AFP】
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一方、シリアでは、トルコはイドリブを最後の拠点とする反体制派を支援してきましたが、新型コロナ休戦とも言うべき小康状態から戦闘再開の兆しも。

イドリブを巡る攻防が再開すれば、反体制派を支援するトルコは、シリア政府を支援するロシアと厳しく対立することになります。

****ロシア、シリア北西部で3か月ぶり空爆 監視団発表****
ロシアは2日夜から翌3日にかけ、シリア反体制派最後の主要拠点となっている同国北西部で、3月の停戦開始以来3か月ぶりとなる空爆を実施した。在英NGOのシリア人権監視団が3日、発表した。
 
同監視団によると、空爆が行われたのはイドリブ、ハマ、ラタキアの3県の県境周辺。この地域は国際テロ組織アルカイダの元傘下組織が率いる反体制派連合「タハリール・アルシャーム機構」や、HTSと同盟関係にある強硬派組織が大きな支配力を持っている。
 
イドリブ県とその周辺を含むイドリブ地域は、HTSとその関連組織を含む反体制派が掌握し、約300万人が暮らしている。昨年12月から今年3月にかけては、ロシアの支援を受けるシリア政府軍の攻勢により少なくとも民間人500人が死亡、100万人近くが避難を余儀なくされた。
 
新型コロナウイルス流行の最中で発効した停戦により、政府軍とロシア軍による激しい空爆は休止していた。監視団によると、今回の空爆によりイドリブ県では新たに住民が避難する事態が発生している。 【6月4日 AFP】*********************

“トルコ共和国国防省がツイッター(Twitter)で、シリアのイドリブ地域のM4幹線道で、トルコとロシアの陸軍と空軍による16回目の合同地上パトロール活動が行われたことを報告した。”【6月10日 TRT】とのことですので、いまのところはロシアとの共同対応は続いているようです。

【リビアでは暫定政権「国民統一政府」を支援して介入】
シリアにイラク、これだけでも大変ですが、トルコ・エルドアン大統領は西部の首都トリポリを拠点とするリビア暫定政権「国民統一政府」(GNA)と東部を根拠地とするハリファ・ハフタル司令官率いる有力軍事組織「リビア国民軍」(LNA)の内戦が続くリビアにあっては、イスラム主義的な暫定政権への軍事支援も行っています。

トルコの軍事支援が奏功したようで、ロシアの支援を受けてハフタル司令官側が行ってきた首都トリポリ攻略は頓挫し、暫定政権側が反転攻勢に出ています。

ここでも、暫定政権を支援するトルコと、ハフタル司令官側を支援するロシア・エジプト・フランスなどとは対立関係がありますが、軍事情勢が好転したことで、トルコも強気です。

****トルコ、リビア停戦にハフタル軍の要衝シルト撤退が必要と指摘****
トルコは20日、リビアの停戦合意が達成されるには、ハリファ・ハフタル司令官率いる有力軍事組織「リビア国民軍」が同国北部の要衝シルトから撤退する必要があるとの見解を示した。

また、ハフタル氏に対するフランスの支援が北大西洋条約機構の安全保障を「脅かしている」と非難した。
 
リビアでは長年独裁体制を敷いたムアマル・カダフィ大佐が2011年に反体制デモで失脚し殺害されて以来、内戦状態が続いている。

トルコ政府はこの内戦で、国連が承認した首都トリポリを拠点とするリビア暫定政権「国民統一政府」を支援している。

旧カダフィ政権の軍司令官で、エジプトとアラブ首長国連邦の支援を受けるハフタル氏は、昨年からトリポリ攻略を目指して攻勢をかけている。
 
トルコ大統領府のイブラヒム・カルン報道官は、2015年にモロッコで達した政治的合意に言及し、内戦の全当事者が15年当時の拠点に戻れば停戦が可能であるとの見方を示した。この場合、ハフタル氏率いるLNAはシルトとアルジャフラから撤退することになる。
 
トルコが支援するGNAの軍は今月リビア北西部全体を奪還したものの、東部の主要油田への玄関口である港湾都市シルトへの進軍は依然阻止されている。
 
またカルン報道官は、フランスがハフタル氏を支援することでNATOの安全保障を「脅かしている」と非難した。フランスはハフタル氏が最近劣勢になるまで長期にわたって肩入れしていたとみられており、トルコとの間で緊張が高まっている。 【6月21日 AFP】AFPBB News
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なお、劣勢になったハフタル司令官側を支援する隣国エジプトは、支援のテコ入れを強める姿勢で、今後のリビア情勢は不透明です。

****エジプト大統領、軍事介入を警告 リビア内戦、反体制派支援****
エジプトのシシ大統領は20日のテレビ演説で、隣国リビアの内戦でシラージュ暫定政権側の部隊による攻撃が続いているとして、軍事介入も辞さないと警告した。

エジプトは暫定政権と敵対する有力軍事組織「リビア国民軍(LNA)」を支援する立場で、今月上旬には停戦期間入りを提案していた。
 
シシ氏は、暫定政権側が奪還作戦を展開している中部の要衝シルトなどを「レッドライン(越えてはならない一線)」と見なすと述べた。
 
暫定政権側はシシ氏の演説を受けて声明を発表し「市民と国際平和への脅しだ」と反発した。【6月21日 共同】
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【同盟国アメリカともギクシャクした関係】
エルドアン大統領が敵視する国内勢力は冒頭のクルド人勢力PKKと、もひとつはクーデターを主導したとするギュレン師の勢力。

そのギュレン師が滞在する同盟国アメリカとも、(ギュレン師引き渡し要求以外にもロシアからの地対空ミサイルS400購入などの火種があって)緊張関係が続いています。

****テロ組織支援で米総領事館職員に禁錮8年9月、米国務長官が批判 トルコ****
トルコ・イスタンブール裁判所は11日、2016年のクーデター未遂事件に関連し「武装テロ組織を支援した」として、在トルコ米総領事館の現地職員に禁錮8年9月を言い渡した。判決に対しては、北大西洋条約機構の同盟国である米国から批判の声が上がっている。
 
半国営アナトリア通信によると、イスタンブールで米麻薬取締局の連絡員として勤務していたメティン・トプズ被告は、17年に逮捕された。
 
同被告は、在米イスラム指導者フェトフッラー・ギュレン師とつながりがあるとされる警官と検察官に連絡を取ったとされた。トルコ政府はギュレン師を16年のクーデター未遂の黒幕だとしているが、ギュレン師はこれを否定している。(中略)

マイク・ポンペオ米国務長官は「今回の有罪判決は、トルコの制度および米国との関係の基礎にある重要な信頼を損ねるもの」であり「直ちに覆される」ことを望むと述べた。(後略)【6月12日 AFP】
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【「マスク外交」で存在感アピール 特にアメリカへの働きかけ】
シリア、イラク、リビアなどで紛争に介入するトルコですが、一方で、中国に倣ったような「マスク外交」を展開しています。

****それでも世界へマスク送る 中東最多コロナ感染のトルコ****
新型コロナウイルスの感染が広がるなか、中東の地域大国トルコが「マスク外交」を活発化させている。

トルコ国内のコロナ感染者数は中東地域で最多になっているが、世界的な危機の打開に向けた貢献をPRすることで、存在感を示し、米国などとの外交関係の改善につなげる狙いがあるとみられる。
 
防疫物資の不足に悩む国々に手を差し伸べる「マスク外交」では中国が知られているが、アナトリア通信によると、現在までにトルコが医療関連物資を送った国は80カ国以上にのぼる。輸送先は感染者の多いスペインやイタリア、英国など欧州から近隣の中東各国、アフリカ、アジアに広がる。
 
なかでもトルコが特にアピールしたのが、世界最多の感染者が出ている米国への寄付だ。先月末には、トルコ軍の輸送機を使って、マスク50万枚、消毒剤2千リットル、ゴーグル1500個など大量の物資を空輸した。エルドアン大統領は支援物資搬送に合わせて公開したトランプ大統領への書簡で「米国の信頼できる強力なパートナーとして、今後もトルコは連帯を示していく」とした。
 
北大西洋条約機構(NATO)の同盟国である両国だが、トルコがロシアから地対空ミサイルS400を購入したことで関係は緊張している。

反発する米国は、最新鋭戦闘機F35の共同開発からのトルコ排除を決め、経済制裁をかける可能性もある。医療物資支援には、ぎくしゃくした両国の外交関係を修復したいトルコ側の思いも透ける。

新型コロナをめぐっては、トルコ国内の感染者数も16万人を超え、世界で11番目に多い。エルドアン政権は経済活動を停滞させないため、労働年齢層は外出の自粛要請にとどめ、製造業などは稼働を続けてきた。
 
世界貿易機関の報告書によると、2018年のトルコの繊維産業の輸出額は中国、欧州連合、インド、米国に次ぐ。マスクや防護衣の需要の急増により、多くの有名服飾メーカーも製造に参入している。【6月2日 朝日】
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【厳しい経済・財政事情で経済再開・観光再開を急ぐも、コロナ再燃の危険も】
その新型コロナについては、これを制御したとして制限の緩和を進めています。
“トルコ、国境閉鎖を解除 観光客も入国可能に”【6月12日 共同】

しかし、感染者数はなお憂慮すべき状況にもあります。

****トルコで新型コロナの感染増加 「第2波」に懸念****
トルコ保健省は14日、過去24時間に確認された新型コロナウイルスの感染者数が1562人に達したと発表した。新規感染者は3日連続で1000人を超え、13、14両日は感染者数が回復者数を上回った。経済活動の規制緩和に伴う「第2波」が懸念される。【6月15日 時事】 
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こうした状況で、移民や観光で関係が深いドイツとも軋轢が。

****ドイツがトルコを「危険な新型コロナ地域」に チャウショール外相が反発****
6月15日付で31か国への渡航警告を解除したドイツは、ドイツの国民が国外への休暇旅行で最も訪れるトルコについて、論争を生む決定をした。
 
ドイツはトルコを130か国と一緒に「危険な新型コロナ地域」リストに残したのである。
 
トルコ共和国外務省のメヴリュト・チャウショール大臣は、この決定を「政治的かつ不当な決定」だとし、落胆したと表明した。
 
チャウショール大臣は、ドイツ公共放送局(ARD)の番組で、この問題について、「我が国を訪れた観光客が保険を持っていなかったり、持っている保険では治療費が足りなかったりしたとしよう。それでもトルコはその人たちの治療をする」と発言した。
 
チャウショール大臣は、ドイツ外務省のハイコ・マース大臣に、ドイツの専門家の代表団をトルコに送り、状況をその場で調査するよう勧めたことも明らかにした。【6月19日 TRT】
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コロナ禍での経済後退、積極的な外交・軍事戦略でトルコ財政・経済は厳しい状況にありますので、基幹産業たる観光業の速やかな回復を強く望んでいるようです。

 

 

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