孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ナイル川の巨大ダム 建設国エチオピアと下流国エジプトの国運を賭けた対立 

2020-06-22 22:30:56 | 水資源

(【2019年8月19日 水源連HP】)

【下流国「ナイルの賜物」エジプトと、巨大ダム建設に国家発展の将来を託す上流国エチオピア】
エチオピアが自国の将来を担うものとして総力を挙げてナイル川に建設する巨大ダム「グランド・エチオピアン・ルネサンス・ダム(GERD)」、これに激しく反発する下流の「ナイルの賜物」エジプト・・・と言う話は、2018年1月21日ブログ“水資源をめぐる対立  インダス川のインド・パキスタン ナイル川のエジプト・エチオピア 生命線が断層線に”でも取り上げました。

下記は、そこからの再掲です。

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【アフリカ・ナイル川をめぐる対立 下流国「ナイルの賜物」エジプトと、巨大ダム建設に国家発展の将来を託す上流国エチオピア】
インダス川のような国際河川は水資源をめぐる対立の舞台となります。アジアではメコン川をめぐる中国、ラオス、ミャンマー、タイ、カンボジア、ベトナムなどの対立がよく話題にもなります。

アフリカではナイル川をめぐり、これまでその水資源の大きな割合を利用してきた下流国「ナイルの賜物」エジプトと、ナイル川水資源に国家発展の将来を託す上流国エチオピアの対立が生じています。(2013年9月30日ブログ「エジプト ナイル川水資源をめぐる対立 エチオピアのダム建設に“歴史的権利”を振りかざす錯誤」)

****【水と共生(とも)に】エジプトとエチオピア“水戦争”再燃**** 
エジプトとエチオピアによる“水戦争”が再燃している。

エチオピアはナイル川上流にアフリカ最大のダムを建設しており、今年中に完成の予定だ。貯水を始めると川の水位が大きく下がり、経済に大きな影響を与えると流域諸国から不安と怒りの声が上がっている。

ひときわ怒りをあらわにしているのがエジプトである。「水なくして、国家なし」はいまや世界の常識。特にエジプトは「ナイルのたまもの」とも言われている。今回は、国際河川をめぐる国家間の水争いを紹介する。(中略)
 
 ◆英主導で割当協定
1929年、英国主導で、同国が統治していたエジプトとスーダンの割当水量に関する協定が結ばれた。ナイル川の総水量のうち、65%がエジプト、22%がスーダン、残り13%は他の流域国から要求があれば分割取水されるという内容である。
 
さらに59年には、エジプトとスーダンの間で(中略)再配分協定を結んでいる。(中略)
 
国際河川をめぐる争いの大部分は、上流国と下流国の利害の対立である。ナイル川紛争の特徴は、水需要が下流国(エジプト、スーダン)に集中し、上流の水源地域の水需要が極端に少ないことだ。

特に最下流のエジプトは、国内水需要の97%をナイル川に依存している。従来の農業用水利用に加えて、近年は国内総生産(GDP)成長率が4%を超えて、カイロ大首都圏の人口が2200万人とこの10年間で倍増し、水需要も急増している。同国の経済発展を支えるナイル川の水資源確保は国家の最重要課題なのだ。
 
当初は、上流国スーダンと下流国エジプトの水利権争いだった。エジプトは、歴史上の優位性や、協定締結の事実、さらに「上流国の水資源開発には下流国の同意が必要」とする“下流の論理”を主張し、水利権を確保してきた。
 
99年2月、国際機関と欧米諸国の支援により「ナイル川流域イニシアチブ(NBI)」が設立され、各流域国の水資源計画を出し合い、他国に影響がある場合は協議することが義務付けられた。しかし上流国は「上流国の水資源開発は下流国から制約を全く受けない」とする“上流の論理”を主張し、対立が続いている。
 
隣国間の取り決めも、常に疑ってかからなければいけない。エチオピアが巨大ダムの建設構想を発表した際、エジプトはスーダンと組んで反対を唱えたが、そのスーダンが突然反旗を翻し、エチオピア側についた。

スーダンはダムが完成したら、その発電量の一部をもらい受ける密約が成立したとの観測がささやかれているが、真偽のほどは不明である。

国連機関の調べによると、国際河川に頼らず、自国に水源を有する国は世界に21カ国あるとされ、日本も含まれている。わが国は、恵まれた水環境に感謝しつつ、さらなる水資源の持続可能性を追求していくべきである。【2017年11月20日 SankeiBiz】
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****対立の大河ナイル、生命線から断層線に****
ダム建設をめぐりエジプトとエチオピアの対立続く

世界最長の川であるナイル川は、数億人にとっての生命線であると同時に、急速に人々を分断する断層線にもなりつつある。
 
エチオピアが進めている水力発電ダム建設事業は、ナイル川の主な支流(青ナイル川)に総工費42億ドル(約4660億円)で巨大な「グランド・エチオピアン・ルネサンス・ダム(GERD)」を建設するというものだ。(中略)

係争の主要点は、この巨大ダムの完成予定の2019年から3年以内に、エチオピアがダムを水で満杯(貯水量740億立方メートル)にするという計画だ。下流に位置するエジプトは、そのような貯水ペースだと自国の氾濫原の水位が危険なほど低くなると主張している。
 
エジプトのモハメド・アブドゥルアティ水資源・かんがい相は先月、「エジプトはナイルなしに生きられない」と述べた。そして「わが国はエチオピアに発展する権利があることは理解しているが、このダムがわが国に害を与えないことをエチオピアは実証する必要がある」と話した。
 
エチオピアは同ダムによって水力発電所を稼働し、その電力によって同国の著しい経済成長を支えたいとしている。そして、このダム建設事業は、極貧の時代を経てかつてのエチオピア帝国のような栄光の時代に戻るための手段になると主張している。国際通貨基金(IMF)によると、昨年のエチオピアの経済成長率は9%で、世界で最も急速に伸びた国のひとつとなっている。(中略)

このダムは完成すればアフリカ最大となり、エチオピアでは人々の誇りとなっている。ダム近隣の町アソサ在住の会計士、イスカンダー・バイエさん(29)は、「これはわれわれの未来を変える。エチオピアの時代が到来したのだ」と話す。
 
エチオピア国民は、ほぼ全員がわずかな所得収入からダム建設のための寄付を行った。ダム建設反対派は寄付の全てが自発的だったわけではなかったと主張するが、政府はそれを否定している。(中略)

このダムの建設は2011年4月に始まった。エジプトが「アラブの春」の渦中にあった時だ。現在、労働者約8500人が3交替制で1日24時間、週7日間作業している。(中略)

一方、エジプトのアブデル・ファタハ・サイード・シシ大統領は15日、エチオピアとスーダンに言及して、「エジプトは兄弟たちと戦争するつもりはない」と述べた。その上でエジプトは軍に投資しているとも付け加えた。
 
同大統領は「(エジプトが)軍事力を持つのは、自国を保護するためであり、私が話しているこの平和を保護するためだ」とし、「このメッセージは、エジプト国民向けであるのと同様に、スーダンとエチオピアにいる兄弟たちにも向けられている。この争点が彼らにも明確になるようにするためだ」と語った。【1月18日 WSJ】
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エチオピアの新ダムにかける“思い”は、並々ならぬものがあります。(多くの人類の遺産を水没させてでも建設したアスワン・ハイ・ダムへのエジプトの思いも似たようなものがあります)

エジプトにとってもナイルは生命線です。そのことはエジプトに旅行すればよくわかります。人間が住めるエリアはナイル流域の狭い範囲だけです。あとは砂漠です。

ただ、エチオピア・スーダンを恫喝しても問題は解決しません。これまでのように資源を独占することもできません。新たな枠組みづくりに関係国が知恵を出すべき時期です。
**************************(以上、再掲終了)

【国家の「生命線」をめぐる交渉だけに妥協が困難な関係国】
水資源の貴重さを考えると、両者が一歩も引く考えのないこと、引くに引けないことはよく理解できます。
このエチオピア・エジプトの対立は今も続いており、ダムの貯水開始はずれこんでいるようです。

エチオピアはエジプトとの合意が得られなくても貯水開始を強行することを明らかにしています。

****エジプト、ナイル川の巨大ダム協議で安保理に介入要請****
エジプトは19日、ナイル川の巨大ダムをめぐりエチオピアと対立が深まっていることを受け、国連安全保障理事会に協議への介入を求めた。

エジプト政府は、このダムによって同国に不可欠な水資源が減ることを懸念している。
 
エジプト、エチオピア、スーダンは数年にわたり、大エチオピア・ルネサンスダムへの貯水量や運用をめぐって何度も協議を重ねてきた。しかし合意には至らず、3国の緊張関係は高まっていた。
 
エチオピア政府は、合意の有無にかかわらず来月から貯水を始める方針を発表。エジプトは、水供給量が大幅に減る恐れがあるとして、このダムを国の存亡がかかる脅威とみなしている。ナイル川はエジプトの水需要の約97%をまかなっているだけでなく、流域10か国とって水と電力を供給する生命線にもなっている。
 
このダムはエチオピアが2011年に着工。完成すればアフリカ最大の水力発電用ダムとなる。 【6月20日 AFP】
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下流国エジプトと上流国エチオピアに挟まれたスーダンは微妙。
2018年1月21日ブログにもあるように、従来からの建設反対からエチオピア支持に翻意した経緯もあります。

*****ナイル川の巨大ダム問題、スーダンが対立激化に警鐘****
ナイル川の巨大ダムをめぐりエチオピアとエジプトの対立が深まっている問題で、スーダンは21日、対立の激化に警鐘を鳴らし、両国にさらなる交渉を促した。

エジプト、エチオピア、スーダンは数年にわたり、大エチオピア・ルネサンスダムの貯水量や運用をめぐって何度も協議を重ねてきた。しかし合意には至らず、3国の緊張関係は高まっていた。
 
スーダンのヤセル・アッバス・ムハンマド・アリかんがい・水資源相は21日、「わが国は対立の激化を望んでいない。交渉こそが唯一の解決策だ」「わが国にとって、合意文書への署名はダムへの注水の前提条件だ。スーダンはそれを要求する権利がある」と記者団に語った。
 
エジプトは19日、国連安全保障理事会に協議への介入を求めた。同国は、水供給量が大幅に減る恐れがあるとして、このダムを国の存亡がかかる脅威とみなしている。

ナイル川はエジプトの水需要の約97%をまかなっているだけでなく、流域10か国にとって水と電力を供給する生命線にもなっている。エジプトは、ダムはナイル川の流量を脅かし、同国の食料供給と経済に悪影響を及ぼすと主張している。
 
一方エチオピアは、合意の有無にかかわらず、来月から注水を始める方針を発表。ダムは同国の発展に不可欠で、エジプトの水資源に影響を及ぼすことはないと主張している。 【6月22日 AFP】
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【武力衝突の可能性も無きにしも非ず・・・】
もし、エチオピアが貯水を強行すれば、エジプトは軍事的手段でダム破壊などに及ぶ可能性もあります。

****ナイル川の水問題****
エチオピアがナイル川上流に建設中のダムを巡り、エジプトとエチオピアが激しく対立していることは先に報告しましたが、この問題で両国の武力衝突の可能性も無きにしも非ずのようで、事態の鎮静化の可能性が見えないところ、al qods al arabi netがこの問題について最近の動きを手際よく報じているように思われるので、記事の要点のみ次の通り。

・エチオピア首相は21日軍首脳とダム問題等について協議した
首相は意味のある協議であったとしているが、内容は不明

・エジプトとエチオピアとスーダンの3国は、米、南アフリカ、EU代表をオブザーバーとして、TV方式でダムの貯水問題について7日間にわたり協議したが、合意を見なかった。

取りあえずの問題は7月にもエチオピアが始める予定の貯水の問題であるが、より中長期的には、水の取り分の問題(注:特に渇水の年に、それぞれの国がどれだけの水をとり得るのかの問題は、この3国にとり死活的に重要な問題となる。

現行の3国間の合意は英植民地時代のもので、スーダンとエジプトに有利になって居るとしてエチオピアは、現行合意を基礎とすることには反対している)がある。

貯水問題でも、エジプト、スーダンは下流への影響を考え、徐々に行うべしとしているがエチオピアは電力のためにもできるだけ急ぎたい考えのようである。

・エジプトは19日この問題を安保理に提訴し、国際正義と後世に基づき平和的に解決することを訴え、当面何処の国も一方的な措置をとらないように訴えた。

・これに対してエチオピア外相はal jazeera net とのインタビューで、貯水の問題は、エチオピアとしてその責任で行えることで、誰の合意も必要としていないと語っている【6月22日 中東の窓】
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英国主導で1929年に合意された、同国が統治していたエジプトとスーダンの割当水量に関する協定(ナイル川の総水量のうち、65%がエジプト、22%がスーダン、残り13%は他の流域国から要求があれば分割取水されるという内容)に今も縛られることはないでしょうが、新たな合意が必要です。

ただ、石油以上に住民の生活・経済に直結する水資源ですから、なかなか合意が得られないというのが実態です。

エジプト・シシ大統領も、一定に妥協・協調の必要性は認識しています。

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ダムを巡っては、ムルシ前政権下では、与党議員がダム建設阻止のために軍事行動を示唆するなど強硬姿勢も目立った。しかし、14年に誕生したシーシ政権は、ダム建設を容認する姿勢を示す。現実に建設阻止は不可能と判断したとされる。ただ、ナイル川の流量を変化させるなどの悪影響を排除することが絶対条件としてきた。【2019年8月19日 水源連HP】
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しかし、エチオピアの対応如何では・・・というところも。

当事国だけでは難しい話でしょうから、国際社会の仲介が求められますが、国際社会は新型コロナでそれどころではなく、自身の再選しか考えていないアメリカ・トランプ大統領はアフリカの水問題などに関心はないでしょうから、そうした国際社会の仲介にもあまり期待できません。

とは言え、軍事的手段で・・・といった最悪の結末にならないように、なんとか自制・協調・妥協する必要があります。

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