孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

韓国・北朝鮮  IT全盛・SNS時代のビラ合戦 その内容は?

2020-06-23 23:12:02 | 東アジア

(韓国の脱北民団体「自由北朝鮮運動連合」メンバーが先月31日、京畿道金浦市から「新たな戦略核兵器を発射させるという金正恩」という題名のビラ50万枚を散布した。[写真 自由北朝鮮運動連合]【6月11日 中央日報日本語版】)

【北朝鮮 強硬策が裏目? 国民のビラへの関心を煽る】
北朝鮮・開城の南北共同連絡事務所の爆破というド派手なパフォーマンスにまで至った今回の北朝鮮の対応については、連日山のような報道がなされています。

主なポイントは、北朝鮮がそこまでやる背景は何か?新型コロナ流入防止のため中国との密貿易も遮断した結果、経済的に相当に追い込まれているのか?といった問題、前面に出てきた金与正氏の立場が北政権内でどうなっているのか?後継者となったのか?といった問題・・・などでしょうが、報道は多々あるものの、基本的に北朝鮮内部のことはよくわかりません。すべて憶測の域をでません。

そのあたりのメインの話は閥にして、憶測ついでに、今日は騒動のきっかけとなった脱北者が北に向かって放った「ビラ」の話。

北朝鮮指導部が「ビラ」について大騒ぎすればするほど、北朝鮮の一般国民も「ビラ」への関心が高まる・・・という非常に当然の帰結。

****北朝鮮国民「脱北者ビラ」に興味津々…金与正氏の強硬策が裏目****
韓国の脱北者団体が金正恩体制を非難するビラを北へ向けて飛ばし、韓国政府がこれを容認してきたことに対し、北朝鮮当局は南北共同連絡事務所を爆破するなど強硬な姿勢を示している。

しかしそのせいで、韓国からの「対北ビラ」について何も知らなかった北朝鮮国民までもが「いったい何が書いてあるんだ!?」と興味津々になっていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

きっかけは今月、朝鮮労働党機関紙の労働新聞にデカデカと掲載された、金正恩党委員長の妹・金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長の談話だった。韓国政府がビラ散布を規制する措置を取らなければ、「その代償を南朝鮮当局がどっさり払うしかない」とした談話に呼応する形で、北朝鮮は韓国政府や脱北者を非難する群衆集会を連日のように開いてきた。

北朝鮮の国境都市・新義州(シニジュ)に親戚がいるという中国・丹東の市民はRFAに対し、「新義州をはじめ、北朝鮮北部に住む人々の大部分は、そうしたビラを見たこともないし、韓国から飛ばされていることも知らなかった。しかし新聞で金与正氏の談話を読み、平壌で行われた集会の様子をテレビで見ながら『あれほどの大騒ぎをするとは、ビラにはいったいどんなことが書かれているのか』と気になって仕方がない様子だ」と話している。

こうした例は、実は過去にもあった。2016年1月、韓国軍が北朝鮮の核実験への対抗措置として、それまで中止していた対北拡声器放送を再開した際のことだ。(中略)

脱北者団体が飛ばしたビラには、北朝鮮の一般国民がとうてい知ることの許されない、金一族の「暗部」が書かれている。それを知り、口外すれば、間違いなく死刑にされるような危険な内容だ。ただ、当局はそうした事実にすら触れることもできない。

かくして、北朝鮮国民の胸中に漠然と芽生えた「ビラに書かれた秘密」への興味は、いつしか独裁者の権威を突き崩す爆弾に変身する可能性をはらむわけだ。そもそも、国民に知られてマズい秘密が多いほど、国家指導者は多くの弱点を抱えることになるモノなのだろう。【6月22日 デイリーNKジャパン】
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【ビラには何が書かれているのか?】
北朝鮮国民ならずとも、一体何が書かれているのか・・・と気になります。
あまり、ビラの内容についてはメディアでは取り上げられていませんが・・・

****北朝鮮はいったい何を怒っているのか?―中国メディア****
2020年6月16日、観察者網は、北朝鮮が韓国に対する挑発を高めている理由について分析する記事を掲載した。 

記事は、16日に北朝鮮が開城にある南北共同連絡事務所を爆破したことについて、「北朝鮮は確かに怒っている」「もう我慢の限界だ」とし、その理由を分析した。 

記事は、「18年に南北間で交わされた板門店宣言や平壌共同宣言の内容を韓国側が履行していないことに問題がある」と指摘。「実際のところ、韓国側は履行したいと願ってはいるものの米国がそうさせないようにしている」とした。 

その上で、「北朝鮮としても韓国の置かれている状況は理解しているが、韓国は約束を守らないどころか5月31日には韓国の市民団体が大きな風船を利用して北朝鮮に向けて50万枚のビラや小冊子50冊、メモリーカード1000個などを飛ばした」と説明。

「これはあまりにやりすぎである。なぜならビラの内容が金正恩(キム・ジョンウン)氏の妻である李雪主(リ・ソルジュ)氏の写真を加工し、『見るに堪えないイメージ』にしているほか、差別的な言葉で辱めているからだ」とした。 

そして、「北朝鮮のファーストレディーを侮辱することは、確かに北朝鮮にとっては我慢ならないことである。このため北朝鮮は6月初旬に怒りの抗議を示したのだ」と分析。「(共同宣言から)2年も経過した。北朝鮮は共同宣言通りに行動してきたのに、韓国は履行しないどころか米国の顔色をうかがい、民間ではビラを飛ばすというのはやりすぎだ」としている。 

記事は、「民主主義国家ではこうしたビラ散布を行う民間団体を厳しく取り締まり抑え込むことはできない。韓国はこれまでに何度もビラを飛ばしていたため、北朝鮮は怒りを表明するために(南北共同連絡事務所を)爆破した」と論じた。 

一方で記事は、「南北関係について過度に心配をする必要はない」とも指摘。「北朝鮮側は四つの通信ルートを遮断し、連絡事務所も爆破したが、板門店の通信ルートは残っている。今回遮断された通信ルートは普段からあまり使用されていないもので、板門店の通信ルートさえ残っていれば問題はない」との見方を示した。 

さらに、南北関係について「2人は普段からむしゃくしゃしていて、ちゃぶ台をひっくり返してはいるものの、まだ離婚には至っていない」と表現。まだそれほど深刻な事態には陥っていないとの見方を示した。【6月17日 レコードチャイナ】
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「今回遮断された通信ルートは普段からあまり使用されていないもので、板門店の通信ルートさえ残っていれば問題はない」****爆破は大向こう受けを狙ったパフォーマンス的なものだったのでしょうか。

それはともかく、“金正恩氏の妻である李雪主氏の写真を加工し、『見るに堪えないイメージ』にしている”・・・イマイチよくわかりませんね。

****マスメディアが伝えないビラの内容。金与正が激怒した本当の理由****
(中略)ナンバー2の地位に就いたと言われる金与正氏はなぜこれほど激怒しているのでしょうか?メルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』著者で北朝鮮研究の第一人者の宮塚利雄さんは、数種類あったビラの中に、過去にはなかった最高尊厳の衝撃的な姿が含まれていたと報告。マスメディアが報じないビラの内容にこそ理由があると指摘しています。

ナンバー2となった金与正が激怒したビラの内容とは? 
(中略)今回の爆破の契機となった韓国から飛ばされたビラについてであるが、評論家各氏はビラの内容についてはあまり詳しく触れていないようだ。朝鮮半島の上空を飛び交ったビラを収集している私でも、今回、北朝鮮に飛ばされた何種類かのビラのうちの1枚にはくぎ付けとなった。

金正恩のプライベートに関するビラも北朝鮮側には衝撃的だったろうが、あるビラには金正恩を後ろから銃殺しているものがあった。

このような北朝鮮の最高尊厳(金日成・金正日・金正恩)をパロディー化して非難、中傷する絵柄はたくさんあったが、相手を殺すような絵のビラはなかった。北朝鮮では最高尊厳を殺す絵など想像もできない。

しかし、それが北朝鮮の各地に飛んで行ってしまい、少なからずの人がそのビラを見ているはずだ。金与正氏ならずとも皆驚いただろう。(後略)【6月23日 宮塚利雄氏 MAG2NEWS】
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私的には、“最高尊厳を殺す絵”よりも金正恩のプライベートに興味がありますが・・・・
もっとも、例えば日本に対し、安倍首相がどのように描かれようが笑い話ですみますが、天皇を揶揄するよな内容のビラが飛んでくれば、日本国内は大騒動になるでしょう。そんな感じでしょうか。

【迅速な対応 脱北者のビラ飛ばしを規制する韓国政府】
冒頭の【6月22日 デイリーNKジャパン】に“脱北者団体が金正恩体制を非難するビラを北へ向けて飛ばし、韓国政府がこれを容認してきたこと”とありますが、北朝鮮の抗議を受けて韓国政府は非常に素早い反応を示していました。

****金正恩氏の妹から批判受けすぐさま法案準備、韓国政府に大ブーイング「北朝鮮の子分?」****
2020年6月4日、韓国・朝鮮日報は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹の金与正(キム・ヨジョン)氏が脱北者による北朝鮮へのビラ散布を批判した約4時間後に、韓国統一部が対策法案を準備していることを明らかにしたと報じた。(中略)

(韓国統一部)呂報道官は「国境地域の環境汚染、廃棄物の回収負担など地域住民の生活環境を悪化させている。南北の防疫協力をはじめ、国境地域の国民の生命、財産に危険をもたらす行為は中断されなければならない」とした。ただ、具体的な時期については「はっきりとは言えない」と述べたという。 

このニュースは韓国のネット上で注目を浴びており、数多くのコメントが寄せられている。「韓国政府は北朝鮮の金委員長のお世話で忙しいね」「国民の意見は気にも留めないのに」「北朝鮮の子分かよ」「韓国の統治者は北朝鮮にいたんだ(笑)」「どの国の大統領なの?」など文政権に対する大ブーイングが起こっており、「情けない」「失望した」など嘆き節まで登場している。【6月5日 レコードチャイナ】
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*****正恩委員長批判のビラ飛ばし、韓国統一省が脱北者団体を告発へ****
韓国統一省は10日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長を批判するビラを風船で北朝鮮に飛ばすなどした韓国の二つの脱北者団体を南北交流協力法違反(物品搬出の承認)の疑いで警察に告発すると発表した。
 
(中略)統一省は「南北間の緊張を醸成し、(軍事境界線近くの)住民に対する危険を招いた」と告発の理由を説明した。北朝鮮の圧力に屈した文在寅政権の低姿勢ぶりに批判が強まりそうだ。
 
脱北者団体「自由北韓運動連合」は5月31日、ソウル近郊の金浦市でビラや紙幣などを入れた風船を北朝鮮に向けて飛ばした。【6月10日 読売】
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【脱北者団体 第2弾のビラ】
こうした韓国側の“北の意向に沿うような素早い対応”にもかかわらず爆破に至った訳ですが、ビラ飛ばしの脱北者からすれば、これほどの効果があるなら・・・と、当然第2弾を飛ばそうという話になります。

****韓国の脱北者団体、再びビラ散布=北朝鮮、対抗措置か****
韓国の脱北者団体「自由北韓運動連合」は23日、北朝鮮との軍事境界線に近い京畿道坡州市で22日夜、北朝鮮の体制を非難するビラ50万枚を大型風船で散布したと発表した。ビラ散布に対する北朝鮮の反発は必至で、対抗措置を取る可能性が強まっている。
 
団体によると、大型風船20個にビラや2000枚の1米ドル紙幣、SDカードなどをくくりつけて北朝鮮に向けて散布した。聯合ニュースは23日、このうちの一部とみられる風船が韓国東部・洪川の山中で発見されたと伝えた。
 
団体は5月末にも、金正恩朝鮮労働党委員長を批判するビラ散布を実施し、反発した北朝鮮は今月16日、南西部・開城の南北共同連絡事務所を爆破した。【6月23日 時事】
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韓国側の警戒・取り締まりの裏をかいてのビラ飛ばしだったようです。

****脱北者団体がビラ散布強行 文政権が“奇襲”許す、北の報復も****
(中略)韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、ビラ散布を徹底的に取り締まる方針を繰り返し示し、警察が軍事境界線に近い地域の警備を強化。団体の朴相学(パク・サンハク)代表をマークしてきたが、団体は別のメンバー数人が実行したとしており、不意を突かれた形だ。(後略)【6月23日 産経】
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もっとも、韓国統一省によると、このビラは北には届かなかったとのこと。

****韓国脱北者団体のビラ北朝鮮に届かず****
韓国の脱北者団体が北朝鮮に向けて再び批判ビラを飛ばした問題で、韓国政府は「ビラは北朝鮮に到達していない」と発表した。

脱北者団体は22日深夜、軍事境界線近くから風船20個に北朝鮮を批判するビラ50万枚をつけて北朝鮮に向けて飛ばしたと主張していた。

しかし、韓国統一省によると、軍事境界線から南におよそ65km離れた韓国国内に風船が1つ落下しているのが発見された。

また、風船に詰めるガスの購入履歴を調べた結果、実際には風船を1つしか飛ばしていないとみられ、「当時の風向きなどから判断して、ビラは北朝鮮に到達していない」としている。

統一省は、「虚偽の事実で南北間の緊張を高めさせた」として、脱北者団体へ厳重に対応する方針。【6月23日 FNNプライムオンライン】
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【北朝鮮も韓国向けビラ準備】
一方、北朝鮮も韓国向けの報復ビラを準備しているとか。

****北朝鮮「報復の時が迫っている」 韓国批判のビラ1200万枚準備 ****
朝鮮中央通信は二十二日、韓国を糾弾するビラを散布する準備が「終わりつつある」とし、「報復の時が迫っている」と報じた。また、韓国の聯合ニュースは二十二日、軍消息筋の話として、北朝鮮が韓国批判の放送を流すための拡声器を再設置していると伝えた。 
 
南北は二〇一八年四月の首脳会談で合意した「板門店宣言」に、軍事境界線付近での拡声器放送とビラ散布などすべての敵対行為を停止すると明記。それぞれ拡声器を撤去していた。 
 
同通信によると、北朝鮮によるビラの散布は「過去最大規模」で、千二百万枚を印刷。さらに数百万枚を追加する準備も進めている。散布のため三千個の風船などを用意し、「ビラやごみを回収することがどれほど頭の痛いことか、経験すれば分かるだろう」と主張した。 
 
二十日付の労働新聞は、文在寅(ムンジェイン)大統領の写真を印刷したビラとたばこの吸い殻が一緒に袋に詰められている写真を掲載した。 
 
韓国政府は、ビラ散布は「合意違反」として中止を要求。国防省報道官は二十二日、北朝鮮軍の動向を二十四時間監視しているとした上で、「ビラ散布のような活動も注視している」と述べた。散布には船舶や無人機、ドローンなどを使う可能性が指摘されている。 
 
北朝鮮は、韓国の脱北者団体による北朝鮮批判のビラ散布への報復としているが、脱北者団体は朝鮮戦争開戦から七十年となる二十五日前後にも、ビラ百万枚の散布を計画している。【6月23日 東京】 
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「ビラやごみを回収することがどれほど頭の痛いことか、経験すれば分かるだろう」というのはわかりますが、文在寅大統領の写真を印刷したビラにたばこの吸い殻をふりかけたところで何のインパクトがあるのか?

それだけではなく、文大統領を「白痴」呼ばわりもしているとかで、“文大統領の熱狂的支持層は「これ以上容認することはできない」と反発している”とも。

****北朝鮮の対南ビラの脅しに韓国与党「やめて」と訴え****
文大統領の側近、尹健永(ユン・ゴンヨン)国会議員もフェイスブックに「北朝鮮の対南ビラは事実上当局が直接行っているに等しい。民間団体が行うものとは明らかな違いがある。論理的にも適切な対応ではないばかりか、明らかに行き過ぎだ」と書き込んだ。

尹議員は韓国国内の脱北者団体に対しても、「ビラ飛ばし計画を自主的に中止すべきだ。万一中止しないならば、政府は厳正に対処すべきだ」とも主張した。
 
韓国統一部も北朝鮮に対し、「非常に遺憾であり、即刻ビラ飛ばしを中断することを要求する」と呼び掛けた。

統一部は「韓国政府は一部民間団体が北朝鮮にビラや物を飛ばす行為に強硬に対処する立場を表明し、政府と警察、境界地域の地方自治体が協力し、一切のビラ飛ばし行為が行えないように徹底して取り締まりを行っている」と述べた。

しかし、青瓦台は立場を表明していない。与党関係者は「青瓦台が乗り出せば、事が大きくなるという判断だ。状況を注視しながら、必要な際に対応する」と語った。
 
こうした中、文大統領訪朝時の食事の様子を皮肉ったり、文大統領を「白痴」呼ばわりしたりした北朝鮮のビラについて、文大統領の熱狂的支持層は「これ以上容認することはできない」と反発している。(後略)【6月22日 朝鮮日報日本語版】
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でも、そうした文大統領への批判は与野党支持者間の普段の議論でも一定に見られるものであり、一般国民は自由にそうした情報に接触していますので、北のビラが今更どんなインパクトがあるのか理解できません。

最高指導者を絶対視する北の指導部はそうした南北間の政治風土の違いが理解できていないということでしょうか。

IT全盛・SNSの時代のビラ合戦、何だか滑稽でもあります。
(同じローテクでも、中国・インド国境で双方兵士がくぎや有刺鉄線がついたこん棒で殴りあうという衝突は、現代的IT兵器よりもずっと怖いものがありますが)

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