孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリア  相次ぐ問題で豪中関係は悪化の一途 親中派議員の家宅捜索も

2020-06-26 23:28:30 | オセアニア

(豪キャンベラで中国とオーストラリアの国旗を掲げる人々(2008年4月24日撮影)【6月26日 AFP】)

【オーストラリアへの「圧力」を次々にかける中国】
オーストラリアが政治的にはアメリカと同盟関係にあるものの、経済的には大きく中国に依存し、米中対立のはざまで微妙な立ち位置にあることは、これまでも時折取り上げてきました。

最近では、5月23日ブログ“中国・オーストラリア関係 米中対立が飛び火した形で中国による報復的な輸入制限措置へ”など。

5月23日ブログでも取り上げたように、今年4月にオーストラリアが中国の新型コロナウイルス対応を巡り、国際的な調査を要求したことで、両国の関係が急速に悪化しています。

特に、中国の強圧的な対応が目立ちますが、強国アメリカにぶつけられない不満を“手ごろな”オーストラリアにぶつけているようにも見えます。

****中国、豪州への「圧力」次々 旅行にブレーキ・牛肉輸入停止・大麦関税 コロナ対応の調査要求に反発?****
中国がオーストラリアとの人や物の行き来にブレーキをかけている。豪州では「新型コロナウイルスなどを巡る豪州の厳しい対中姿勢を封じ込めようとしている」との見方が広がる。最大のビジネス相手からの「圧力」に悩みは深いが、中国依存から脱却すべきだとの声も高まっている。

中国政府は5日、自国民に豪州へ旅行しないよう促す注意喚起をした。新型コロナウイルスの影響で「中国人らへの差別や暴力行為がエスカレートしている」との理由からだ。
 
アジア系に対する差別問題は2月以降、豪州でも表面化した。だが、豪州が感染抑止に成功したことが顕著になった5月以降は沈静化。

豪州のバーミンガム貿易・観光・投資相は6日、中国政府の主張には「根拠がない」と反発した。中国人は、年間の観光客(約140万人)と留学生(約20万人)の数がともに国別で最多で、豪州の観光・教育産業を支える存在だ。
 
中国は5月、貿易を巡って次々と豪州に厳しい手を打っていた。「検疫に違反する状況があった」として12日、豪州の食肉大手4社からの輸入を停止。19日には豪州産大麦に反ダンピング(不当廉売)関税と反補助金関税を発動した。
 
大麦のダンピング調査が始まったのは2018年10月。豪政府が、次世代通信網5Gの事業に中国の華為技術(ファーウェイ)が参入するのを禁止した2カ月後だ。牛肉の措置は、豪政府が4月に中国の新型コロナ対応について国際的な調査を要求した直後だった。
 
バーミンガム氏は牛肉に関し、「技術的なミス」と反論。大麦については、ダンピングの根拠として豪政府による灌漑(かんがい)施設整備の支援策を挙げたことに「完全にばかげている」と応じた。大麦の大半は灌漑施設なしに生産されている。
 
パース米国アジアセンターのジェフリー・ウィルソン研究部長は「政治的な動機がある貿易上の制裁だ」とみる。

 ■豪に依存脱却論も
豪州にとって中国は貿易額の4分の1を占める最大の「顧客」で、農産物や鉱物の主要輸出先だ。大麦は輸出の7割が中国向けだった。

全国農業者連盟は「両国による早期の問題解決を望む」と難しい立場をのぞかせるが、ウィルソン氏は「豪州は代わりの輸出先を拡大すべきだ。選択肢はたくさんある」と指摘する。
 
対中関係をめぐって豪州では近年、政治献金を通じた豪政界への親中政策の働きかけや、周辺の島国へのインフラ支援攻勢を通じた影響力の強化についても危惧する声が出ていた。
 
中国外務省の華春瑩報道局長は8日の会見で、「健全で安定した中豪関係は両国の利益にかなう。豪州側が中国と歩み寄り、互いを尊重し、平等・ウィンウィンの原則で協力するよう希望している」と述べた。
 
ニューサウスウェールズ大のティム・ハーコート研究員は、中国が経済力を背景に豪州の主張を封じ込めようとしていると批判する。「通商政策を使って外交ゲームを続ければ、結局は自国の利益を害するだろう」【6月9日 朝日】
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アジア系に対する差別に関しては
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豪最多の人口を抱えるニューサウスウェールズ州の反差別委員会は先週、アジアをバックグラウンドに持つ人々への差別に関する問い合わせが増加していると報告した。
 
委員会によると、通勤中や運動中やスーパーマーケットでの買い物中にマスクを着用していていじめられたり、つばを吐かれたり、嫌がらせを受けたりするなどの被害が報告されており、また車の窓を割られたり、車や私有地の建物に人種差別的な言葉が落書きされたりするなどの行為を受けたとの報告もあったという。【6月9日 AFP】
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【6月9日 朝日】では“感染抑止に成功したことが顕著になった5月以降は沈静化”とありますが、オーストラリアにそうした“下地”があるのは事実でしょう。

ただ、そうした差別問題をもって“豪州へ旅行しないよう促す注意喚起”というのは、極めて政治的な判断です。異種の“いやがらせ”とも。

****中国との対立が飛び火、「留学生減」が豪経済直撃も****
(中略)中国教育省は9日、オーストラリアへの留学を検討している学生に慎重に判断するよう促した。新型コロナウイルスの発生を受けて中国人を含むアジア人を差別する動きが見られると説明した。

中国は、オーストラリアにとって最大の貿易相手であると同時に、同国に最も多くの留学生の送り出している国でもある。豪政府のデータによると、2019年の海外留学生(中高等教育機関部門)の37.3%を中国人が占めた。

中豪関係は数年前から悪化していたが、豪が新型コロナウイルスの発生源について国際的な調査を呼び掛けたことでさらに悪化した。

中国は、豪製品ボイコット論や、豪農産品の輸入制限に動き、先週は新型コロナ流行に絡む中国人への人種差別と暴力を理由に、国民に豪への渡航回避を勧告した。

オーストラリアは、新型コロナの封じ込めに成功した国の一つだが、経済的な打撃は大きく、第1・四半期は9年ぶりのマイナス成長となり、30年ぶりの景気後退入りが予想されている。

中国政府が豪留学に「待った」をかけたことを受け、バーミンガム貿易・観光・投資相は10日、メディアに、中国人留学生が減少すれば、国内の大学に影響が出るだろうと述べた。その上で、それは中国人学生にとってもマイナスであり、長期的に「両国の相互理解の深化に寄与しない」との認識も示した。

(中略)国内では大学が1国の留学生の授業料に過度に依存しているとの批判も出ている。ニュー・サウス・ウェールズ州政府の監査当局によると、州内の大学の2019年の収入の3分の1は留学生の授業料だった。

ムーディーズ・インベスターズ・サービスのバイスプレジデント、ジョン・マニング氏は、新型コロナに関連した渡航規制で、中国の警告が豪大学の今年の収入に与える影響は抑えられるとみる。「より長い目でみれば、国際的に評価が高い豪大学は多く、今後も魅力的な留学先であり続けるだろう」と述べた。【6月11日 ロイター】
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【モリソン首相「脅迫には決してひるまない」】
こうした中国の圧力に対し、中道右派の自由党・モリソン首相は「ひるまない」という強気姿勢を崩していません。

****中国の経済的威圧には「ひるまない」 豪首相が明言****
オーストラリアのスコット・モリソン首相は11日、中国人観光客や留学生らが豪にもたらす巨額の利益を中国側が抑え込もうとする動きを見せていることを受けて、経済的な「威圧」の試みにひるむことはないと明言した。
 
中国政府は先に、新型コロナウイルスが世界的に大流行する中、オーストラリア国内でアジア系の人々を標的にした人種差別事案が増えているして、オーストラリアへの渡航を控えるよう勧告していた。
 
モリソン首相は11日、中国人が人種差別的な扱いを受けたとする訴えは「ばかげている」と一蹴。ラジオ局の取材に対し「くだらない主張であり、受け入れられない」と話した。

「われわれは中国と重要な貿易関係を築いており、それが続くことを望んでいる」と首相。
 
一方で、豪政府は「脅迫には決してひるまない」「威圧に対しては、それがどこから来るものであれ、わが国の価値観を売り渡したりはしない」と述べた。
 
(中略)中国外務省の華春瑩報道官は記者会見で「豪首相が言う『威圧』がどこから来るものなのか、私には分からない」と話した。
 
その上で、「オーストラリアには、問題を直視し、自省し、豪州における中国人の安全と権利を守るための具体的措置を取るよう促したい」と述べた。
 
豪政府は近年、中国が豪州や太平洋地域で影響力を強めようとする動きに反発しており、両国間の緊張が徐々に高まっている。 【6月11日 AFP】AFPBB News
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【相次ぐ火種で豪中関係は更に悪化】
軋轢の種は次から次に。

****中国裁判所、豪国籍の男に死刑判決 両国関係さらに緊迫か****
中国の裁判所が、麻薬取引の罪に問われていたオーストラリア国籍の被告に対し、死刑判決を言い渡していたことが分かった。問題を抱える両国関係が、この判決により緊迫の度をさらに増す可能性もある。
 
広州市中級人民法院のウェブサイト上に投稿された告知によると、豪メディアによってキャム・ガレスピーという名前の人物と特定された被告が10日、死刑判決を受けたという。同サイト上では、豪国籍との情報以外は公表されていない。
 
中国の地元メディアによると、男は香港の北西に位置する広州白雲国際空港で2013年12月、預けた手荷物にメタンフェタミン7.5キロ超が入っていたとして逮捕された。
 
豪外務省はこの判決に「深く悲しんでいる」とのコメントを発表。死刑制度に反対する同国の姿勢を強調した。(後略)【6月13日 AFP】
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一方、モリソン首相は、名指しこそ避けたものの明らかに中国を念頭に置いていると思われる国家的「サイバー攻撃」を批判。

****オーストラリアに大規模サイバー攻撃、攻撃主体は「国家ベース」****
オーストラリアのスコット・モリソン首相は19日、同国が政府や公共サービスなどを標的とした大規模サイバー攻撃を受けており、攻撃主体は「国家ベース」だと明らかにした。
 
モリソン氏は緊急記者会見を開き、サイバー攻撃について「あらゆるレベルの政府、産業界、政治団体、教育事業者、保健事業者、必要不可欠なサービスを提供する事業者、その他の重要なインフラの運営事業者など、幅広い分野にわたるオーストラリアの組織を標的としている」と語った。
 
さらに、「オーストラリアの組織は現在、国家ベースの洗練されたサイバー攻撃主体に標的とされている」と述べたが、詳細は明らかにしなかった。
 
中国、イラン、イスラエル、北朝鮮、ロシア、米国、多くの欧州諸国が高度なサイバー戦闘部隊を持つことで知られているが、対立が激化する中で最近オーストラリア製品に貿易制裁を科していたことから、中国に疑いが掛けられる可能性が高い。
 
オーストラリアは、新型コロナウイルスの発生源についての調査を求めたことで中国の怒りを買っていた。 【6月19日 AFP】
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“政府機関や企業のシステムに侵入し、内部情報や関係者の個人情報にアクセスすることなどが目的とみられている。豪州では2015年に気象局、昨年2月には連邦議会がサイバー攻撃を受け、中国が関与しているとの観測が出ていた。
 
豪政府は18年に安全保障上の理由で、次世代通信規格5Gの通信網事業から中国の華為技術(ファーウェイ)の参入を禁止。その後、対中関係が悪化している。”【6月19日 朝日】

【中国への信頼感は急速に低下】
こうした状況で、オーストラリアにおける中国への信頼度は急速に低下しています。

****豪調査、中国への信頼が過去最低に 対立激化を反映****
オーストラリアのシンクタンク、ローウィー研究所が24日に発表した調査結果によると、中国を信頼していると答えたオーストラリア国民の割合は23%で、2018年の52%から急落した。過去最低の割合となり、2国間の対立の激しさを反映する形となった。
 
調査では、中国政府が国際舞台で責任ある行動を取っていると思うか尋ねた。中国はここ数か月、オーストラリア産大麦に80.5%の追加関税を課すなど豪州の輸出品に対し貿易制裁を課したほか、麻薬取引の罪に問われていた豪国籍の被告に死刑判決を言い渡すなどしていた。
 
一方、これまでに豪州は中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の排除に乗り出したほか、中国の諜報(ちょうほう)活動や地位乱用に国民が不満を訴え、また新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)の発生源と対応について独立した調査を要求しており、中国側は不満を募らせていた。
 
ローウィー研究所幹部のマイケル・フュリラブ氏は調査結果について、「わが国最大の貿易相手国、中国に対する信頼は急激に下がった」と指摘。また「中国の習近平国家主席への信頼はさらにもっと落ちている」という。
 
調査によると、回答者の94%が中国への経済依存を減らすべきと答え、82%が人権侵害に関与した中国当局者への制裁を支持した。
 
この調査は2005年から実施されており、今年は豪州に住む成人2448人に対し調査が行われた。【6月24日 AFP】
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なお、“米国については同盟関係は重要だが、「米国に対する信頼感は低迷しており、トランプ大統領はほとんど信頼されていない」”【6月24日 ロイター】“対米関係は対中関係よりも重要との回答は55%、対中関係が重要としたのは40%だった”【6月25日 レコードチャイナ】とも。

これだけ問題があり、信頼度が急落しても、対米関係より対中関係が重要という考えが40%もあるというのが、中国はオーストラリアの貿易総額の4分の1を占めている「現実」を反映しているように思えます。

【親中派議員に家宅捜索 モリソン首相「内政干渉を阻止」 予想される中国の反発】
一連の応酬は、両者リング中央で足を止めての打ち合い・・・って感じですが、更にモリソン首相のパンチが・・・

****親中派議員に家宅捜索=モリソン首相「内政干渉を阻止」―オーストラリア****
オーストラリアの連邦警察は26日、ニューサウスウェールズ州議会の野党・労働党に所属しているモスルマン上院議員の自宅と議会内の事務所を捜索した。

モスルマン議員は新型コロナウイルスをめぐる習近平中国国家主席の対応を「決断力がある」と称賛してきた「親中派議員」として知られる。全国紙オーストラリアン(電子版)などが伝えた。
 
豪政府は4月、新型コロナウイルスの発生源を調査するよう国際社会に訴えた。これをきっかけに中国との対立が激化し、最近も中国が仕掛けているとされる大規模なサイバー攻撃への警戒を呼び掛け、中国との対決姿勢を強めている。モスルマン議員に対する捜索で豪中関係は一層緊迫化する可能性がある。
 
モスルマン議員は、中国が「新たな世界秩序をつくりだす」必要があると公言していた。労働党は、モスルマン氏の党員資格停止の手続きに入っている。
 
モリソン首相は26日の記者会見で、家宅捜索に関する質問に対し「この領域での脅威は本物だ」と指摘した。豪州では、内政干渉を阻止するための新法が2018年に施行されており、モリソン氏は「誰も豪州の活動に干渉しないよう確実にする決意を固めている」と述べた。【6月26日 時事】 
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オーストラリアでは、今回の一連の軋轢以前から、裕福な中国人や中国系オーストラリア人のビジネスマンたちが主要政党の最大の資金提供者となっていたことが判明するなど、オーストラリアの連邦政府、企業、主要政党、大学、メディアなどへの中国の影響・浸透が問題となっていました。

モリソン首相の「この領域での脅威は本物だ」と言う発言は、こうした事情を踏まえての、中国が組織的にオーストラリアの政治をコントロールしようとしている・・・との疑念を示すものです。

【日本への関心は?】
これだけ豪中関係が悪化すれば、オーストラリアの日本への関心が相対的に高まるのでは・・・とも思われるのですが、そうとも言えないようで・・・

****豪州国立図書館、日本語資料の収集大幅減へ 中国を優先****
オーストラリア国立図書館(キャンベラ)が、日本語など複数のアジア言語の図書の収集を、大幅に縮小する方針であることがわかった。同図書館の日本語の所蔵資料は日本国外では世界でも有数の内容で、研究者らに懸念が広がっている。
 
同図書館は1950年代から収集してきた「アジアコレクション」と呼ぶ、東・東南アジアの各言語の図書の充実で知られ、豪州のアジア理解に大きな役割を果たしてきた。

図書館によると、電子版を除く1千万点の収蔵資料の13%を占める。ただ、7月からの新しい収集について、中国とインドネシア、太平洋の島国を優先する方針を打ち出した。(後略)【6月26日 朝日】
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