孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  イドリブ・シリア北部で存在感を強めるトルコ 長期駐留の意図とも

2020-06-27 22:31:14 | 中東情勢

(シリア北西部イドリブ市で(トルコ・リラへの)両替する人々(6月20日)【6月25日 WSJ】)

【多数の関係国・勢力が絡み合うシリア・イドリブ情勢】
シリアの状況は、反体制派はイドリブを最後の拠点とし、これをトルコが支援、一方シリア政府軍とロシアが攻撃するという構図の中で、3月にトルコとロシアの間で停戦が合意され、その後は一応小康状態が続いているといったところです。

また、トルコはシリア北部のトルコとの国境地帯からクルド人勢力を駆逐し、自国支配下においています。

大まかに言えば、上記のようなことになりますが、イドリブの状況は停戦を巡ってアルカイダ系イスラム過激派同士が争い、トルコとシリア政府軍がこれに絡み、更には米主導の有志連合も・・・と、非常に複雑なようです。

****シリアでアル=カーイダどうしの戦闘が激化する中、トルコ軍は政府軍を砲撃、有志連合もドローン爆撃を実施*****
アル=カーイダ系組織どうしの軋轢
シリア北西部のイドリブ県では、ロシアとトルコが3月5日の首脳会談で緊張緩和地帯(第1ゾーン)の停戦に合意してから100日以上が経過したが、ここに来て、アル=カーイダの系譜を汲む組織どうしの対立が激化している。 

対立の争点は、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路沿線の安全確保の是非をめぐるもの。 
停戦合意では、ロシアとシリア政府側の要求を反映させるかたちで、M4高速道路の南北にそれぞれ幅6キロの「安全回廊」を設置すると定められており、これを履行するため、トルコは沿線に部隊を展開させるとともに、ロシア軍と合同パトロールを実施してきた。 

アル=カーイダの系譜を汲む組織は、この動きにこぞって異議を唱えた。だが、トルコの支援を受ける国民解放戦線(国民軍)と共闘するシリアのアル=カーイダことシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が最近になって態度を軟化させ、M4高速道路沿線から撤退したことで、軋轢が生じるようになった。 

新興のアル=カーイダ系組織のフッラース・ディーン機構、アンサール・イスラーム集団、アンサール・ディーン戦線といった組織は、ジハード調整、アンサール戦士旅団とともに6月14日に「堅固に持せよ」作戦司令室を結成し糾合、ロシア、イラン、そしてシリア政府への徹底抗戦を呼びかけた。

シャーム解放機構による粛清
両者の対立は6月22日に表面化した。 
シャーム解放機構の治安部隊は、イドリブ市郊外にある元幹部司令官のアブー・マーリク・タッリー(本名ジャマール・アイニーヤ)の自宅を包囲、アブー・ムハンマド・ジャウラーニー指導者の命令の下に同氏を逮捕したのである。 

タッリーは、2014年3月のダマスカス郊外県マアルーラー市襲撃と聖タクラー教会修道女拉致の首謀者。4月7日にシャーム解放機構を離反し、新たな武装グループを結成、最近になって「堅固に持せよ」作戦司令室に参加していた。 

逮捕に関して、シャーム解放機構の中央フォローアップ委員会は声明のなかで、組織を離反し、新たな組織の結成を再三にわたって試みることで、混乱を助長し、隊列を分断し、破壊行為を奨励したために逮捕に至ったと説明した。 

粛清は続いた。 
シャーム解放機構は6月23日、トルコ国境に近いイドリブ県のアティマ村で、支援活動家のアブー・フサーム・ビリーターニー(英国人)を逮捕した。 

シリア北西部で学校や慈善協会を設立・指導するなど、積極的な支援活動を行ってきたビリーターニー氏の逮捕は、「堅固に持せよ」作戦司令室に参加する組織の一つジハード調整を率いるアブー・アブド・アシュダーを支援し、「堅固に持せよ」作戦司令室に参加したのが理由とされた。 

「堅固に持せよ」作戦司令室がイドリブ市に迫る
タッリーの即時釈放が受け入れられない場合、報復も辞さないとの姿勢を示していた「堅固に持せよ」作戦司令室は行動に出た。 

「堅固に持せよ」作戦司令室を主導する新興のアル=カーイダ系組織のフッラース・ディーン機構は6月23日、イドリブ市西にあるシャーム解放機構の検問所(クーンサルーワ検問所)を襲撃し、これを制圧したのだ。 

これに対して、シャーム解放機構もイドリブ市近郊にある「堅固に持せよ」作戦司令室の検問所を襲撃、激しい戦闘となった。 

6月24日に入ると、シャーム解放機構は、イドリブ市の北西に位置するアラブ・サイード村および同村一帯に展開する「堅固に持せよ」作戦司令室に砲撃を加え、同地で激しい戦闘が発生した。 

これにより、女性1人を含む4人が砲撃戦に巻き込まれて負傷した。また、アラブ・サイード村の住民数十人が避難を余儀なくされた。 

戦闘激化を受け、シャーム解放機構は増援部隊を集結させ、イドリブ市西部からアラブ・サイード村いたる地域の街道を封鎖した。また、ルージュ平原の街道分岐路に展開し、アルマナーズ市やアラブ・サイード村に至る街道を封鎖した。 

対するフッラース・ディーン機構は、M4高速道路沿線の拠点都市であるジスル・シュグール市北のヤアクービーヤ村に設置されているシャーム解放機構の検問所を襲撃した。 

これを受け、シャーム解放機構はその北東に位置するダルクーシュ町に至る街道を封鎖した。 

交戦しているのはアル=カーイダだけではない
アル=カーイダの系譜を汲む組織どうしの戦闘が激しさを増すなか、シリア軍とトルコ軍の緊張も増した。 

トルコ軍は6月22日、シリア軍が「決戦」作戦司令室支配下のザーウィヤ山地方のフライフィル村、バーラ村、バイニーン村、ハルーバ村、カフル・ウワイド村、スフーフン村、ファッティーラ村を砲撃したとして、シリア政府支配下のサラーキブ市一帯を砲撃した。 

これに対して、シリア軍は6月23日深夜から24日早朝にかけて、ザーウィヤ山地方のバイニーン村近郊の灌木地帯に進攻し、「決戦」作戦司令室と激しく交戦した。 数時間にわたる戦闘で、国民解放戦線の戦闘員4人とシリア軍兵士3人が死亡した。 

シリア軍はまた、サーウィヤ山地方のカフル・ウワイド村、スフーフン村を砲撃したが、これに対して、トルコ軍も反撃、サラーキブ市南に展開するシリア軍の拠点複数カ所を砲撃した。 

さらに有志連合も爆撃か?!
それだけではなかった。 
6月24日夕刻、米主導の有志連合所属と思われる無人航空機(ドローン)が、イドリブ市東のビンニシュ市上空に飛来、同市の街道を走行中の軍用車輌をミサイル攻撃し、運転手1人が死亡した。 

死亡した運転手の身元は不明だが、有志連合は、2019年10月にイスラーム国のアブー・バクル・バグダーディー指導者が潜伏していたとされるイドリブ県北部を爆撃、これを殺害するなど、しばしば介入しており、今回の爆撃もそうした軍事行動の一環をなしているものと推察される。(後略)【6月25日 青山弘之氏 YAHOO!ニュース】
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米主導の有志連合と協調するイスラエル軍の攻撃も。狙われたのは親イラン武装勢力のようです。

*****イスラエル、シリア国内の複数の軍事基地を攻撃=シリア軍****
シリア軍は23日、同国南部、中部、東部にある複数の軍事基地がイスラエルの攻撃を受け、兵士2人が死亡したとし、反撃を行ったと明らかにした。

シリア軍によると、イスラエル機はシリア中部ハマの複数の軍事基地を攻撃。その数時間前にはイラクとの国境に近い東部デリゾールやヨルダンとの国境に近い南部の軍事基地がミサイル攻撃を受けたという。

情報筋などはイスラエルの攻撃について、親イラン武装勢力の拠点を標的にしたものとの見方を示している。【6月24日 ロイター】 
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【トルコ・リラ導入を進めるトルコ 長期駐留の意図とも】
いつもながら“プレイヤーが多すぎる”というか、何やらこみいった状況にあることはわかりましたが、そうした中で存在感を強めている、あるいは、強めようとしているのがトルコ。

****シリア・ポンド急落、反体制派イドリブ県がトルコ・リラ導入****
シリア反体制派の最後の拠点となっている北西部イドリブ県の行政当局は経済崩壊を回避するために、闇市場で急落しているシリア・ポンドに代えてトルコ・リラの導入を開始している。当局者が15日、明らかにした。
 
イドリブ一帯を支配下に置いているイスラム過激派組織「タハリール・アルシャーム機構」と関係がある同県の行政機関「救済政府」は、すでに先月からトルコ・リラによる賃金や給与の支払いを開始しており、商取引や両替所にもトルコ・リラの流通を指示しているという。
 
現地のAFP特派員は14日、イドリブ県内の送金施設でトルコ・リラの紙幣が入った箱と同じく硬貨が入った袋が床に置かれていたのを見たと報告している。これに先立ち国連は12日、大量のトルコ通貨が前日イドリブ県に到着したとの報告があると発表した。
 
シリア経済は9年に及ぶ内戦で疲弊し尽くしているところにきて、バッシャール・アサド政権の支配地域に対する米ドル供給路として機能していた隣国レバノンの財政危機により一層壊滅的な状態に陥っている。

闇市場ではここ数日間でシリア・ポンドが暴落し、物価は急騰、店舗は休業に追い込まれ、政権の支配下にある南部でもまれな反体制デモが起きている。 【6月16日 AFP】AFPBB News
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トルコ・リラの導入はイドリブだけでなく、トルコが実質的に支配するシリア北部地域にも及んでいるようで、「長期にわたって駐留するつもり」というトルコの意図が指摘されています。

****シリア北部でトルコリラ流通、強まる経済支配 ****
トルコは自国ルールの延長線上として捉え、長期駐留するつもりだと指摘する声も

シリア北部のシリア人たちは、パンを買ったり車にガソリンを入れたりするために、シリアポンドをトルコリラに慌てて両替している。長年の戦争で荒れ果てた経済から自らを守るため、ビジネスオーナーが使用通貨を切り替えているのだ。(中略) 
 
トルコは支配下に収めたシリアの一部で、自国通貨を流通させている。複数の国・勢力が関与する紛争で荒廃したシリア北部で、その経済崩壊に乗じて一段と深く入り込もうとする試みだ。 

欧州外交評議会(ECFR)の上級研究員、アスリ・アイディンタスバス氏は「トルコリラの使用でますます明らかなように、トルコは現状を自国ルールの延長線上として捉え、長期にわたって駐留するつもりだ」と指摘する。 
 
シリアの現地通貨が急落した先月以降、トルコ政府はイドリブ県などシリア北部の協力者にトルコリラを届けている。トルコのエルドアン政権寄りとされるシンクタンク、政治経済社会研究財団(SETA)のアナリスト、オメル・オズキジルチク氏が明らかにした。 
 
オズキジルチク氏によると、トルコリラの流通拠点は両替所や郵便局だ。住民はシリアポンドや、時には米ドルをリラに両替しているという。住民の話では、シリア北部の両替所には人だかりができている。 
 
トルコ財務省関係者は、同国政府がシリア国内でリラへの転換をどう促進しているのかについて、情報はないと述べた。トルコ中銀は、そうした計画に関与していないと述べている。 
 
ここ4年に幾度か軍事介入したトルコは、自国南部の国境沿いの地域を支配下に置いている。これはシリア領土の約5%に相当する。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、トルコ支配下の領土には推計400万人のシリア人がいる。 
 
トルコリラは以前から、戦闘員やトルコ政府が支援する行政機関の官僚への報酬支払いに使われてきた。トルコは支配地域で学校や病院、郵便局も建設し、一部を自国の送電網に接続している。 
 
シリアポンドをトルコリラに置き換えれば、シリア北部の一部地域がトルコ経済にさらに密接に取り込まれることになる。 
 
トルコはシリア北部での駐留について、テロの脅威とみなす集団から国境を守り、バッシャール・アサド大統領の反対勢力を支援するために必要だとしている。 
 
だが、そうした戦略はトルコをロシアとの衝突に向かわせている。ロシアはアサド政権に軍事支援する主要国の1つだ。(中略)

シリア政府からコメントは得られていない。同国政府はトルコリラの流通についてこれまでコメントしていないものの、全領土を奪還する決意を表明している。 
 
トルコ支配下の領土で暮らすシリア人にとって、トルコリラはシリアポンドが急落する中で購買力を維持するための手段となっている。

シリアポンドは対ドルで年初来およそ70%下落している。トルコリラも先月、過去最安値に沈んだが、今年に入ってからは対ドルで約16%の下落にとどまっている。 
 
イドリブ市の活動家オウスマン・カーニ氏は、「家が破壊されて逃げなければならなかった時と同じように、他に選択肢はない」と語った。【6月25日 WSJ】
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トルコ系メディアによれば、以下のような取り組みも。

****【トルコからの支援の手】 トルコ赤新月社がシリア北部に「愛情の店」****
トルコ赤新月社がシリア北部に展開する「愛情の店」の8店舗目がラス・アルアイン地区にオープンした。
 
 「愛情の店」は、シリアで支援を必要とする人々に無償で衣服を提供する目的でトルコ赤新月社が運営している「店」で、これまでにイドリブ、アフリン、アゼズ、バーブ、ジェラブルス、テル・アブヤドの7つの地区にオープンさせた。
 
ラス・アルアイン地区に新たにオープンした「愛情の店」は、1日当たり150人から200人が利用することが見込まれている。
 
 ラス・アルアイン地区の中心部は、2019年10月12日、平和の泉作戦により、分離主義テロ組織PKK(ペーカーカー)のシリアにおける派生組織YPG(イェーペーゲー)から救出された。【6月23日 TRT】
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****エルドアン大統領がシリア・イドリブ地域に住宅50戸を約束****
トルコ災害緊急事態管理庁で開催された「民間団体イドリブ協議会」の最中に、トルコ共和国内務省のスレイマン・ソイル大臣がエルドアン大統領に電話をし、協議会についての説明をした。(中略)
  
トルコの国民はこれまで、シリアのみならず、世界のさまざまな場所で、身寄りのない人々、貧しい人々、虐げられた人々のそばにいたと表明したエルドアン大統領は、「この国民はこれからも同じようにそばにい続けるだろう。現在、我々が隣国の国境沿いで行っている取り組みは非常に大きな重要性を持っている。住宅に関する目標を早急に夏のうちに達成させ、その後、シリアの人々を居住させることができたら、遅くとも冬までには入居する機会を得るだろう」と述べた。
 
ソイル大臣が個人としてイドリブ地域に住宅20戸を建設すると約束したことに触れたエルドアン大統領は、「我々も、差し当たり最初の目標として50戸を約束しよう。シリアの人々が受けている苦しみから今すぐにでも救い出せるように、神が我々にチャンスを授けてほしい」と述べた。
 
ソイル大臣は、イドリブ地域への支援キャンペーンが開始された1月13日からこれまでに7億1706万3102リラ(日本の通貨で約112億円)の寄付が集まったと発表した。【6月26日 TRT】
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神の御心をトルコが現実のものにするのだ・・・というのはエルドアン大統領の言い分ですが、現実的には、トルコが支配するシリア北部地域にトルコ国内のシリア難民を送り込む計画とも言われています。

シリアだけでなくリビアでも活発な活動を続けるトルコ・エルドアン大統領については、6月21日ブログ“トルコ  シリア・イラク・リビアで活発な軍事・外交を展開 深刻なコロナ禍のもと「マスク外交」も”でも取り上げましたが、トルコ自体の財政・経済も厳しいなかで精力的な対外戦略を展開するトルコです。

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