孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  国境での衝突、継続する中国との緊張状態 国内で高まる反中国感情、ボイコットも

2020-06-28 23:06:12 | 南アジア(インド)

(印アーメダバードで行われた反中デモで、中国の習近平国家主席を描いたポスターを掲げてスローガンを叫ぶ参加者ら(2020年6月24日撮影)【6月27日 AFP】)

【中国側は投石に加え、くぎや有刺鉄線がついたこん棒で殴りかかる一方、インド側は鉄棒や警棒で応戦】
インドと中国の国境地帯で15日、両軍数百名兵士が「素手」で殴り合う衝突が起き、少なくとも20人のインド兵が死亡(中国側は未発表)した件については、6月16日ブログ“中印国境  今月6日の「平和的解決」合意にもかかわらず、死者が出る両軍の小競り合い ”でも取り上げたところです。

「素手」とは言っても、投石はもちろん、くぎや有刺鉄線がついたこん棒で殴りかかり、谷底に突き落とすということで、銃による狙撃より残忍かつ暴力的にも思えます。

****中印の衝突、暗闇の4時間に何が *****
有刺鉄線付きのこん棒、投石、崖からの転落―― 

15日夜にヒマラヤ山脈の標高約4300メートルの国境付近で発生したインド・中国両軍の衝突では、4時間余りにわたって兵士が素手で殴り合い、石を投げ、有刺鉄線を巻き付けたこん棒で攻撃した。インド当局によると、両軍兵士の一部が混乱の中で崖から川に転落。少なくとも20人のインド兵が死亡した。
 
インドによると、中国側にも死傷者が出ている。係争地域における中印の衝突で死者が出るのは約50年ぶり。
中国側は死傷者が出たかは明らかにしていない。中印は17日、攻撃を始めたのは相手側だとして互いを非難した。
 
インド外務省は、中国が事前に攻撃を計画しており、衝突の直接的な責任があると主張。ナレンドラ・モディ首相は国民向けの演説で、「インドは平和を望んでいるが、挑発されれば、相応の報復措置を講じる能力がある」と主張した。
 
一方、中国はインドが度々、実効支配線を越えて、中国兵を攻撃したと反論。中国外務省によると、王毅(ワン・イー)外相は「領土主権を守る中国の決意」を甘く見ない方がいいと述べて、インドをけん制した。
 
インド当局者によると、衝突は15日夜、インドの分隊がガルワン渓谷付近の係争地に到着した後に発生した。分隊は、両国が今月に入り結んだ合意の一環として、中国軍を確実に撤退させようとしていた。
 
だが、中国人兵士がそこにまだとどまっており、インドが支配地域とみなす場所で新たな構造物の建築に着手していたという。

これは、衝突に至った経緯に関するインド側の説明だ。中国当局者は小競り合いで死傷者が出たことは認めたが、詳細は明らかにしなかった。中国外務省はインド側の説明に関して、記者の質問に答えなかった。
 
インドは、まだ係争地に残っている中国兵らに退くよう求め、口論が始まった。中国兵の一団はいったんその場を離れたものの、その直後に数百人規模の兵士を連れて戻ってきたという。
 
インド側でも他の兵士が到着し、両軍が衝突した。双方が合意した規定では、死者を出さないよう対峙(たいじ)した際の銃の使用は制限されている。
 
中国側は投石に加え、くぎや有刺鉄線がついたこん棒で殴りかかる一方、インド側は鉄棒や警棒で応戦した。
 
衝突は暗闇の中で4時間余り続いた。インド当局者によると、多くの中印兵士がガルワン川に転落したか突き落とされた。インド兵17人は、衝突で負傷した後、高地における極寒の環境により死亡したという。
 
インド当局者によると、疲弊しきった双方の軍は深夜になって戦いをやめた。
 
実効支配線での小競り合いは珍しくはない。中印は1962年の国境紛争後に実効支配線を敷いたが、まだ具体的な位置を巡り争っている。
 
通常は、係争地域で哨戒に当たる両国の兵士が鉢合わせした場合に、小競り合いが発生することが多い。だが1975年以降、15日の衝突が起こるまで死者が出ることはなかった。
 
ただ、ここ数週間は実効支配線沿いの複数の地点で緊張が高まり、双方は6月6日、緊張緩和に向けた合意を結んだ。インド当局者によると、合意では、ガルワン渓谷付近からの中国軍の後退と構造物の撤去を中国側に求めていた。
 
インドでは両軍衝突のニュースが一斉に報じられており、モディ首相には対中強硬姿勢を示すよう圧力がかかっている。
 
ともに核保有国である中印の衝突は、中国がより強大になる中で起こった。今回の衝突により、強引さを増す中国に対抗する米国や他のアジア諸国に、インドが接近する可能性があるとの見方が一部で出ている。
 
衝突に関する中国国営メディアの反応はおおむね抑制気味で、当局の公式見解を伝える程度にとどまっている。国営の中国中央テレビ(CCTV)は、16・17日の夕方のニュースで衝突を報じなかった。
 
一方、CCTVは17日、中国軍が標高4700メートルのチベット山脈付近で最近実施した実弾演習のもようを伝えた。演習では、戦車や大砲、ヘリコプター、歩兵隊を動員し、高地での戦闘能力を試したとしている。
 
報道を受け、中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」では、国威発揚を促すような投稿が目立った。中国軍を称賛する一方、反インドのコメントが大勢を占め、15日の衝突で死亡したインド兵の遺体とみられる画像も出回った。【6月18日 WSJ】
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中国軍は、こうした「乱闘」に備えてか、格闘技に秀でた兵士を同地域に集中させていたとも。

****中国軍、総合格闘家を部隊に配属 インド軍との衝突直前に 報道****
中国とインドとの間で今月発生した衝突の直前、中国が境界線付近に配置された軍部隊に、登山家や格闘家らを配属させていたことが分かった。中国国営メディアが報じた。(後略)【6月28日 AFP】
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まあ、狙撃に秀でた兵士を前線に配置するのと同じで、殴り合いの小競り合いが頻発する地域に総合格闘技経験者を配置するのは合理的ではあるでしょう。

【両軍の撤退で合意・・・とは言うものの、継続する一触即発状態】
その後、両国は「撤退」で合意した・・・ということになっています。

****中印、係争地で対峙する軍の撤退で合意****
インドと中国の軍司令官は、両軍が先週衝突した係争地で対峙している軍を撤退させることで合意した。インド政府筋が23日に明らかにした。

一方、中国外務省の趙立堅報道官は、双方が緊張緩和措置を取ることで合意したと表明した。

インド政府筋は、22日に両国の軍司令官が長時間にわたって行った協議の結果について「撤退に向けた相互コンセンサスがあった」と説明。「ラダック東部のあらゆる係争地域からの撤退方式が話し合われた。双方が撤退を進めるだろう」と述べた。

また、趙報道官は、両軍の衝突で中国側の犠牲者が40人だったとする最近のメディア報道について「フェイクニュース」だと述べた。【6月23日 ロイター】
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しかし、その後の報道でみると、現地は必ずしも沈静化したとは言えないようにも思えます。

****中国が係争地の一部確保か、インドが軍事行動活発化****
中国がヒマラヤ地域にある係争地の一部を確保したとされる事態を受けて、インド軍は24日、現地に軍用機を飛ばすなどして軍事行動を活発化させ、力を誇示した。
 
インド軍筋がAFPに語ったところによると、ガルワン渓谷で6月15日に発生し、過去53年で最も多くの死者を出した印中両軍の衝突の後、中国軍は同渓谷の出入り口にある数平方キロの領域を確保し続けているという。(中略)

インドと中国はいずれも、衝突後に現地から部隊を撤退させたと公言しているが、ガルワン渓谷周辺に部隊を残している。(後略)【6月25日 AFP】
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****中印両軍が係争地に「大部隊」展開、インド政府****
インド政府は25日、今月に国境付近で発生し、死者が出た中国軍との衝突後、ヒマラヤ地域にある係争地に両国が大部隊を展開していることを初めて認めた。(後略)【6月26日 AFP】
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****中国、係争地のインド側に倉庫を建設か 衛星写真で発覚****
インドと中国が国境を争うヒマラヤ山脈地帯に、中国が倉庫などを建設していることが、人工衛星から撮影された写真で明らかになった。

インド北部ラダック地方のガルワン渓谷を撮影したこの写真では、5月には存在していなかった倉庫やテント、塹壕(ざんごう)などが確認できる。(後略)【6月26日 BBC】
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中国が紛争地域でジワジワと軍事施設建設を進め、占有を既成事実化するやり方は南シナ海と同じ。

*****中国軍、インドとの係争地で兵力増強か 米衛星画像*****
 米人工衛星企業は26日、インド、中国両国軍が最近衝突したヒマラヤ地域の係争地周辺で中国軍が駐屯地を再建もしくは拡大したことを示唆する衛星画像を公表した。(中略)

衛星画像は、衝突後に川の堤防で中国軍駐屯地が大幅に拡大された様子を示している。オーストラリアの戦略政策研究所のネイサン・ルーサー研究員は「小さな陣地だったものがかなり大きくなった。インド軍は解体出来なかったのだろう」と説明。(中略)

また、インドは今年5月、ガルワン渓谷で新たな陣地構築を始め、中国は関係する地域へ約1000人の兵士を移動させたとも説明した。

画像には、中国軍がゴグラ北部の駐屯地に戦車中隊や砲門部隊を配置している形跡もあった。また、コンカ峠では別の規模が大きい基地も見られた。

中国は自軍の死傷者の発生には触れていない。衝突はインド軍がガルワン渓谷の中国の支配地内に同国が築いた駐屯地の解体を試みたのが原因と主張。一方、インド外務省は、実効支配線沿いで大規模な兵力や兵器の増強を進めていた中国の責任に言及した。

インド内には今回の衝突を受け、中国は実効支配線での戦術をこれまでの係争地の哨戒の継続から占領の方針へ変えたとの見方もある。【6月27日 CNN】
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【インド側で高まる反中国意識】
今回事態を受けて、中国国営メディアの反応はおおむね抑制気味ですが、インド側では中国製品ボイコットなど反中国の民族意識が高まっています。

****中印軍、係争地で2回目の協議 インドでは中国製品ボイコットも****
(中略)インドでは、衝突でインド側に死者が出たことに市民の怒りが噴出。政府に厳しい対応を求める声が出ているほか、中国製品のボイコットを呼び掛ける動きも広がっており、ニューデリーの市場では中国製品を燃やす抗議活動が行われた。

中国共産党機関紙・人民日報傘下の国際情報紙「環球時報」の胡錫進・編集長はツイッターに「インドのナショナリストは冷静になる必要がある」と投稿。「中国のGDP(国内総生産)はインドの5倍、軍事予算は3倍だ」と述べた。【6月22日 ロイター】
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それでも、中国製スマホはやはり売れているようですが・・・

****反中感情広がるインド、飲食店協会が「中国人お断り」―仏メディア****
2020年6月25日、仏国際放送局RFIの中国語版サイトは、インドの飲食業界において大規模な中国人客ボイコットの動きが起きていると報じた。 

記事は、デリー最大の飲食業業界団体が、参加店舗にて中国人の入店を断ることへの支持を表明したと報道。同団体の会長が「インド政府を支持する。特に、今は中国とすでに半ば戦争の状態だ」とコメントしたことを挙げ、「同団体の支持表明が7万5000軒の飲食店に影響を与える」と伝えた。 

また、「今年は新型コロナウイルスの影響によりインドを訪れる中国人観光客がほとんどいなくなり、観光業界が深刻なダメージを受けている」とする一方で、インドの旅行業経営者からは「インドと中国が戦争すれば、インド人は中国人とビジネス関係を維持する必要がなくなる」との声が続々と出ていると紹介。

背景には、インド人の多くが「インドにやってくる中国人とビジネスをしても、多くの利益を持って行くのは中国人だ」と認識していることがあるとの見方を示している。 

記事は、中印両国の貿易額は年間900億ドル(約9兆6000億円)に上っており、中でも中国メーカーである小米(シャオミ)のスマートフォンがインド市場で大きな人気を集めていると紹介。中国との関係が悪化する中で現地の販売店では小米のロゴを「インド製」と書かれた大きな看板などで隠す措置が取られ始めているという。

ムンバイにある小米の販売店店主は「会社の責任者からそうするよう言われた。デモ参加者や政治からの攻撃を避けるためだ」とする一方、「それでもインド市場で小米の需要がなくなることは考えられず、みんな喜んで買い続けるだろう」とも語ったという。【6月26日 レコードチャイナ】
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****インド首都の主要ホテル協会、加盟店での中国人宿泊を禁止****
インド・デリー首都圏の主要なホテル協会の一つ「デリー・ホテル・アンド・レストラン・オーナーズ・アソシエーション」は25日、加盟ホテルでの中国人客の宿泊を禁止すると発表した。同国では、中国との係争地で発生した衝突によりインド軍兵士20人が死亡したことを受け、中国製品の不買運動が加速している。(中略)

デリー首都圏の計7万5000室に適用されるこの決定について、DHROAのサンディープ・カンデルワル会長はAFPに対し、「中国と戦争のような状況にある政府を支援する」ためだと説明。「なぜ彼らにインドで金を稼ぐのを認めなければならないのか?」と話した。(中略)

2018年には中国人30万人近くがインドを訪れたが、現在は新型コロナウイルスの影響で外国人訪問客が減少しているため、中国人に対するボイコットは象徴的な意味合いにとどまる。
 
だがこの動きは、インドにおける反中感情の高まりを示すもので、特にソーシャルメディア上では、中国製品を拒絶するよう呼び掛ける投稿であふれており、また中国国旗を燃やすなどの小規模な抗議デモも行われている。(後略)【6月27日 AFP】AFPBB News
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こうした激高する世論の手前、「弱腰」批判を受けないように対応が次第にエスカレートするというのは、中国のような統制社会より、インドのようないわゆる民主主義国でありがちなことではあります。

【モディ政権 「三重苦」への対応に苦慮】
それにしても、インド・モディ政権は中国との衝突に加え、新型コロナ、更には東アフリカ・中東のバッタで猛威をふるうバッタの襲来と、「三重苦」状態にも。

****対中国、新型コロナ、バッタ…三重苦に悩むモディ政権*****
インドのモディ首相が“三重苦”ともいえる内憂外患に悩まされている。

インド軍20人が死亡した北部カシミール地方ラダックでの中国軍との衝突をめぐり、対話の姿勢を打ち出す政権に対し、反中の機運が盛り上がる国内で批判も集まる。

新型コロナウイルス感染拡大も収まらず、サバクトビバッタの襲来も頭痛の種だ。ヒンズー至上主義を掲げ、強い指導者像を打ち出してきたモディ氏だが、対応を間違えれば支持離れにつながりかねない状況だ。
 
「中国がラダックで取った措置に、国全体が傷つき怒りを感じている」
モディ氏は19日、全政党の代表を交えた会議で中国との衝突についてこう発言した。一方で「インドは平和と友好を望んでいる」とも付け加え、踏み込んだ中国批判は避けている。

「モディ氏は外交的に解決できると考えているのだろう」と、中印関係に詳しい印ジンダル・グローバル大のスリパルナ・パサク准教授は分析する。
 
インドは中印国境紛争(1962年)の敗北以降、中国との軍事面での対立を強く警戒する意向が働く。事実上の国境である実効支配線(LAC)付近では道路などのインフラ整備に差があり、軍の展開の速度や規模は中国に劣るという分析もある。
 
ただ、45年ぶりに中国との衝突で死者が出たことで、国内では中国への反発が広がる。(中略)モディ氏の姿勢は弱腰とも取られており、野党側は批判を強めている。
 
内政面に目を向けると、国内の新型コロナの感染者は増加の一途で49万人を超え、米国、ブラジル、ロシアに次いで世界で4番目に多い。3月下旬にロックダウン(都市封鎖)を宣言した際の感染者は約600人で、爆発的な増加といえる。

深刻なのが雇用への打撃で、民間調査によると5月のインド全体の失業率は23%に達している。モディ政権は経済活動の段階的な再開に乗り出しているが、衛生対策との両立に苦慮している。
 
また、5月からは中東やアフリカで発生したサバクトビバッタが「過去26年で最悪の規模」(地元専門家)で襲来。農業が盛んな西部ラジャスタン州では広大な農地で作物に被害が出た。今後、雨期の作物の植え付けが本格化する時期で、影響が懸念されている。

パサク氏は「コロナ以前からの経済低迷もあり、国内で不満は蓄積されている。中国に対しては『新型コロナを発生させた国』としての反発も強く、弱い姿勢を見せることは政権の強い逆風となって跳ね返ってくるだろう」と指摘している。【6月26日 産経】
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