孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー総選挙  陰りが見えるスー・チー人気 ロヒンギャ対応では軍政と同じとの批判も

2020-08-22 22:57:54 | 東南アジア

(19日、政府と少数民族武装勢力の恒久和平を探る代表者の協議「21世紀のパンロン会議」で演説するアウン・サン・スーチー国家顧問 【8月20日 日経】 たまたまでしょうが、精彩を欠いた表情のようにも見えてしまいます。)

 

【単独過半数維持が焦点】

世界が注目するアメリカ大統領選挙は11月3日に迫っていますが、ほぼ同時期の11月8日にはミャンマーの総選挙も行われます。

 

****ミャンマー、スー・チー政権に初の審判 11月に総選挙****

ミャンマーのアウン・サン・スー・チー政権が、今年11月8日の総選挙で初の審判を受ける。

 

先月、候補者登録が始まり、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相(75)率いる与党・国民民主連盟(NLD)が上下両院選で優勢とみられている。

 

しかし、かつての軍事政権下で任命制の軍人枠が設けられており、過半数を獲得して単独政権を維持するには、両院で改選議席の3分の2超を確保することが必要だ。軍政からの歴史的な政権交代を果たしたNLDだが、少数民族問題を中心に逆風も吹く。

 

前回総選挙でNLDは改選議席の約8割を獲得し、軍系政党の連邦団結発展党(USDP)を抑えて圧勝。半世紀以上、軍が実権を握ってきたミャンマーで文民政府を実現した。スー・チー氏は選挙後、「すべて自分が決める」と宣言した。

 

ただ、NLDが公約を達成できたとは言い難く、重要公約だった少数民族との和平はほとんど進まなかった。国内では軍と自治権を求める少数民族武装勢力との内戦が一部で続いている。NLD政権は政府、軍、武装勢力による対話の場は設けたものの、停戦に向けた動きは広まっていない。

 

地元ジャーナリストは「少数民族は和平や地位向上を期待して前回選挙でNLDを支持しており、失望感が漂っている」と分析。今回の総選挙では地域政党が独自に候補を擁立する動きが見える。

 

もう一つの柱の公約である憲法改正も停滞した。憲法改正には議員の4分の3の賛成が必要だが、上下院には4分の1の「軍人枠」があり、そもそもNLDが議会過半数を確保しても改憲は難しい。

 

NLDは軍人枠を5%まで減らすことなどを盛り込んだ憲法改正案を議会に提出したが、今年3月、軍系議員の反対に直面し、軍の権限を弱める案はことごとく退けられた。

 

現行の制度上、憲法改正は困難だが、NLDは引き続き政権を担って機運を高め、将来の改憲につなげたい思惑がある。

 

スー・チー氏は、国際的にイスラム教徒少数民族ロヒンギャの迫害問題などで批判を浴びてもいるが、人口の約7割を占めるビルマ族を中心に支持は厚い。

 

政府は1月、スー・チー氏の父で、建国の父として根強い人気があるアウン・サン将軍の肖像画を使った新紙幣の発行を開始。父の人気も利用しての支持固めを狙っている。

 

立候補受け付けは7日まで行われる。

     ◇

ミャンマー総選挙 ミャンマー議会は上院(定数224)と下院(同440)の二院制で、このうち国軍総司令官が任命する軍人枠を除いた計498議席が改選される。両院での過半数を確保するには、それぞれ改選議席の3分の2超の獲得が条件となる。

 

任期は5年。2015年の前回総選挙では国民民主連盟(NLD)が圧勝したが、憲法の規定で党首のアウン・サン・スー・チー氏は大統領になれず、国家顧問兼外相として国政トップの座に就いた。【8月3日 産経】

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かつての「民主化運動の象徴」だったスー・チー氏も、現実政治のなかでは思うような成果を出せずにおり、その人気もひと頃ほどではなくなっています。

 

そのため、上記記事にもあるような実父であり、かつ「建国の父」でもあるアウン・サン将軍の肖像画を使った新紙幣の発行とか、かなり強引な“選挙対策”も行っているようです。

 

****スーチー氏の選挙運動、論争 ミャンマー、11月総選挙 野党側、違憲と反発****

今年11月に総選挙が行われるミャンマーで、与党・国民民主連盟NLD)を率いるアウンサンスーチー国家顧問の選挙運動をめぐり議論が起きている。

 

憲法が閣僚らの政党活動を禁止していることから、野党側は「違憲だ」と主張しており、選挙の前哨戦ともいえる論争になっている。

 

5年に1度の総選挙の投票は11月8日に予定。NLD代表のスーチー氏と副代表のウィンミン大統領は今月2日、選挙運動開始の声明を出したが、これに旧軍事政権系の政党などが「憲法違反だ」と反発。軍政下でつくられた憲法が「大統領や閣僚は在任中は党の活動に参加できない」と定めているからだ。外相も兼務するスーチー氏は閣僚の一人でもある。

 

NLD側は「誰でも選挙運動ができる」と定める別の法律があるとして、「違反には当たらない」と主張。だが、NLDには2015年の前回選挙の際、当時のテインセイン大統領が、自ら代表を務める軍政系政党の活動に関わったことが憲法違反だと選挙管理委員会に申し立てた過去がある。

 

選管は受理しなかったが、NLDは選挙期間中も「違憲だ」と主張し続けた。東部シャン州の地域政党に所属するサイレイク氏は今回のNLDの対応について、「自分たちの都合のいいように憲法や法律を解釈し、民主主義を軽んじている」と批判する。【7月19日 朝日】

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今回総選挙の焦点は、勢いに陰りがみられるスー・チー氏率いる与党の国民民主連盟(NLD)が単独過半数を維持できるかどうかです。

 

****ミャンマー、総選挙まで3カ月 和平停滞、与党議席減も****

ミャンマー選挙管理委員会は7日、11月8日の投票まで3カ月となった総選挙の立候補受け付けを締め切った。

 

アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相の人気は依然高く、与党の国民民主連盟(NLD)が優位を保つ。ただ最重要課題に掲げた少数民族武装勢力との和平協議は停滞。議席減の観測もあり、単独過半数を維持できるかが焦点だ。(後略)【8月7日 共同】

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【国民(特にビルマ族)や軍部を敵に回さない現実路線】

主要政党は与党NLDと軍系政党の連邦団結発展党(USDP)ですが、新党も総選挙にチャレンジしています。

そうした新党が生まれる背景には、スー・チーの「現実路線」への不満・批判もあるように思われます。

 

****2020年ミャンマー総選挙の展望 ~NLD、国軍系以外で重要となる第三勢力の存在~****

1.国軍排除は短期的には困難。総選挙以降もNLDと国軍の共存は継続される

(中略)

 

2.88世代による人民党は票の受け皿となるか?

スーチー氏としては引き続き軍部との共存路線維持ではあろうが、USDPなど軍系が国民の支持を得ることはないだろう。

 

では仮に選挙でNLDが単独で過半数取得できなかった場合、どの党と連立政権を組むのだろうか。近年は元国軍ナンバー3で、スーチー氏との距離も近いシュエマン氏が、自身で政党を立ち上げ大統領就任の意欲も見せている。

 

また来年に向けてシャン州などの地方部を中心に、民族系の政党が連合を組み始めるだろう。

 

弊社内に設置するシンクタンク部門でも度々議論するが、最も有望視しているのは、新政党People’s Party(人民党)である。人民党は1988年の民主化運動で元学生リーダーのコーコージー氏が党首を務め、スーチー氏との関係も良好だ。

 

前回選挙では、NLD圧勝シナリオを築くために、自身は控えNLDに潜勢力を譲った位置づけである。今回選挙では、人民党が第三勢力となりNLDと連立を組むことが、安定的な民主政権2期目の運営につながると考えている。

 

3.ポストスーチー氏は誕生するか?

スーチー氏は今年で74歳。“ポスト”スーチー氏となる人物は未だ挙げられない。(中略)開発独裁色の強いリーダーシップが必ずしも良いとはいえないが、多民族国家で、資源も豊富、かつ少数民族が軍閥のように存在感を持つミャンマー経済水準を向上させるためには、強権的にでも実行力のある政治家・実力者が適している可能性も否めないのではないだろうか。

 

そのようなリーダーは果たしてNLD、はたまた元学生運動家、民間出身者、軍部、少数民族などどこから呱々の声をあげるだろうか。(後略)【2019年10月23日  瀧波 栄一郎氏 Myanmar Survey Research】

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3点目の後継者不在については、すべて自分の思いどおりにしないと気が済まないスー・チー氏の性格が後継者育成を阻んでいるとの批判もあります。

 

****ミャンマー、与党を離れて新党結成****

11月の総選挙に向けて7月20日に立候補の届け出が始まったが、与党「国民民主連盟(NLD)」から離脱した一部の国会議員らが複数の新党を結成している。

 

その一つが新党「人民先駆者党(PPP)」で、NLDを離れた女性実業家で下院議員でもあるテ・テ・カイン氏らが創設した。

 

また、軍政時代に学生デモを主導したコー・コー・ジー氏(Ko Ko Gyi)も新党「人民党(PP)」を設立した。さらに、軍人出身だがNLD幹部としてアウン・サン・スー・チー氏を支えていたシュエ・マン元下院議員も「連邦改善党(UBS)」を結成した。

 

PPPを結成したテ・テ・カイン氏は、NLDの意思決定が民主的ではなく国民の声を代弁していないとNLD執行部を批判している。

 

また、PPを設立したコー・コー・ジー氏は、民主主義が持続的に発展するには対抗勢力の存在が欠かせないと新党結成の理由を伝えている。(後略)【7月20日 Cilsien – ASEAN Info Clips

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【ロヒンギャ封殺では軍事政権時代と変わっていないとの批判も】

スー・チー氏の「国民(特にビルマ族)や軍部を敵に回さない現実路線」が端的に現れているのがロヒンギャ問題への消極姿勢です。

 

強い国際圧力にもかかわらずロヒンギャ難民の人権を守るために殆ど何もせず、ロヒンギャを弾圧した軍を代弁しているような感もありますが、背景には軍部の意向、ロヒンギャを嫌悪するビルマ族の世論があります。(スー・チー氏自身もロヒンギャには好意的でないようにも思われます)

 

ただ、国際的には「民主化運動の象徴」でもあったスー・チー氏への期待も大きかっただけに、失望もまた大きなものとなっています。

 

スー・チー政権は、単にロヒンギャ難民を守る取り組みを何も行っていないだけでなく、ロヒンギャの政治的発言を封殺するような動きもあり、「結局、軍事政権と何も変わっていない」との批判もあります。

 

****ロヒンギャにとって文民政権は旧軍事政権と変わらず****

ロヒンギャの出馬を拒否

米国に基盤を置く国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch:HRW)は8月18日、ミャンマー政府が再びイスラム系少数民族ロヒンギャの総選挙出馬を阻止していると指摘した。

HRWによると、ミャンマー選挙管理委員会は17日、ロヒンギャ主導の政党「民主人権党(DHRP)」の代表であるKyaw Min氏の11月の総選挙出馬を拒否したという。

同氏は他のDHRPメンバー2人とともに、両親の市民権を理由に立候補が認められなかった。ミャンマー議会選挙法では、両親がミャンマー国民であることが義務付けられているが、ロヒンギャの人々を抑圧するために使用される手段の1つだといわれている。

Kyaw Min氏は何十年もの間、コミュニティのために戦い、1990年の選挙では当選した。しかし、旧軍事政権により当選は無効になったという。

また、2005年には妻と3人の子供とともに逮捕され、2012年の恩赦で釈放されるまで、7年間も刑務所で過ごしている。

 

文民政権になってロヒンギャへの迫害が加速

Kyaw Min氏によると、立候補が拒否されたのは今回が初めてではなく、2015年の総選挙ではロヒンギャの投票権が剥奪され、選挙管理委員会は同氏を含むDHRPのメンバー14人の出馬も拒否したという。

2016年にアウンサンスーチー国家顧問が率いる国民民主連盟(NLD)が政権を手にして期待が高まったが、ロヒンギャへの対応は変わらないばかりか、ラカイン州で国軍によるロヒンギャ迫害が起こり、74万人以上のロヒンギャが隣国バングラデシュへの逃避している。

また、国内に残る約60万人のロヒンギャも、キャンプや村に閉じ込められ、市民権も投票権も与えられていない。

民主主義を推進するミャンマー文民政権は、旧軍事政権とどこが変わったのだろうか。【8月22日 ミャンマーニュース】

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また、70万人を超えるロヒンギャ難民を受け入れた隣国バングラデシュも、難民問題を解決しようとする姿勢を見せないスー・チー政権を批判しています。

 

*****ロヒンギャ、ミャンマーに責任 バングラ外相が帰還難航を批判****

ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャが隣国バングラデシュに大規模に流入してから25日で3年となるのを前に、同国のモメン外相が首都ダッカで21日に共同通信と単独会見した。

 

ロヒンギャ難民の帰還が進まない原因は「ミャンマーが新型コロナウイルスの流行や11月の総選挙を理由に遅らせている」ことだと批判。早期解決は困難との立場を明らかにした。

 

モメン氏は、ミャンマーに帰還させる60万人の名簿をバングラデシュ政府が提示したのに対し、ミャンマー側が受け入れ検討対象と認めたのは5%の3万人だけだと指摘し、帰還協議に真剣に取り組むようミャンマーに求めた。【8月22日 共同】

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特に国際的には期待が失望に変わり、「民主化運動の象徴」から「普通の既存政治家」に色褪せた感もあるスー・チー氏ですが、総選挙で「腐っても鯛」というか、改めて国民支持の底堅さを見せるのか、それとも退潮が鮮明となるのか・・・注目されます

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