孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベトナム  米中対立、新型コロナ禍のなかで、中国進出企業の脱中国の受け皿になる流れが加速

2020-08-26 23:08:18 | 東南アジア

(【8月24日 VIET JO】 写真はハノイ・ホアンキエム湖周辺のように見えますね。 新型コロナ第2波対策として、ハノイのホアンキエム湖および旧市街の歩行者天国を中止するとの発表が。ちなみに、日中、信号のないこのあたりの車道を横断するのは、とても難しかった記憶があります。)

 

【中国メディアも注目 「第2の日本」は難しいが・・・】

近年、中国から東南アジアに生産拠点をシフトさせる動きがあることは周知のところですが、ベトナム経済の“活きの良さ”には中国メディアも注目しています。

 

****経済成長著しいベトナムは「次の日本」になれるのか=中国メディア****

中国はかつて「世界の工場」として君臨し、製造業の牽引のもとで高い成長率を実現した。現在、一部の企業は人件費が高騰している中国からベトナムなどの東南アジアへと生産拠点を移転させており、中国は経済構造の転換を迫られている。

中国メディアの今日頭条はこのほど、ベトナムの近年の経済成長は目を見張るものがあると主張する記事を掲載し、急激な成長を続けるベトナムは「次の日本」になれるのだろうかと問いかける記事を掲載した。

記事は、ベトナムの国内総生産の現時点における規模はアセアン諸国のなかでは「中程度」にとどまっているとしながらも、「潜在成長力は極めて大きい」と指摘し、その理由の1つとしてベトナム人の「勤勉さ」を挙げた。

 

ベトナム人が真面目で勤勉であることは日本でも広く知られているが、「日本人も残業を厭わない勤勉さを発揮し、自国を経済大国にまで成長させた」と主張し、ベトナム人も同じような勤勉さを持っていると指摘した。

さらに、ベトナムは人口がまもなく1億人を突破すると見られており、国土も決して小さくないと主張。国にとって人口は非常に重要な資源であり、ベトナムが「安価で勤勉な労働力」という強みを存分に発揮できれば、「日本の高度経済成長のような急激な発展を再現することは可能であろう」と主張した。

一方、ベトナム経済にとっての不安要素は「経済成長の質がかつての日本ほど高くない」ことだとし、日本は経済成長とともに科学技術力も向上させたが、これは日本に戦前から一定の工業力があったためだと指摘。

 

一方、現在のベトナムはまだ農業国という立場であり、今まさに工業化が行われている段階であると主張し、「ベトナムがかつての日本のような成長を実現するのは可能かもしれないが、『次の日本』になれるかといえば、難しいそうだ」と主張した。【2019年12月6日 Searchina】

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上記の否定的側面を強調すれば、以下のようにも。

 

****急速に発展するベトナムは、第2の日本になれるのか=中国メディア****        

(中略)

記事は、ハード面を見るとは狭い国土の多くが山地で平原が少なく、長い海岸線を持つ、資源に乏しいなど、両国が多くの共通点を持つとする一方、「ベトナムは日本になり得ないし、下位互換版の日本にもならない」との見方を示した。

 

その理由について、日本とは比べ物にならないほど工業基盤が脆弱であること、自国の資本の蓄積が少ないこと、中国やインド、ブラジルなど主要新興国に比べると規模が小さいうえ国際的な地位も高くないことを挙げた。

また、特に膨大な資金のサポートや行政の強い主動力が必要となる、ハイテク分野を発展させる能力が不足している点が大きいと指摘。「ハイテク分野の強みがないベトナムの未来は推して知るべしである。どんなに発展したとしても、日本のような重厚な基盤と非常に高い競争力を持つ国になることは絶対に不可能だ。世界には日本のような国は一つしか存在しないのである」と評している。【8月17日 Searchina】

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【米中対立、新型コロナ禍で追い風】

ベトナムが日本のような世界経済をリードする国になれるか・・・ということでは、上記のように難しい面があります。

ただ、米中対立、さらには新型コロナ感染という現状にあって、ベトナム経済が“追い風”を受けて加速しているのも事実でしょう。

 

****コロナ、供給網の中国離れ加速 ベトナムに発注続々「チャンス」****

体育館のような広さの室内。整然と並んだミシンの前に座り、マスク姿の従業員たちが黙々と洋服の生地を縫っている。6月下旬、ベトナム北部バクザン省にあるLGG社の縫製工場。欧米や日本のグローバルブランドから衣料品の製造を受注する会社だ。

 

新型コロナウイルスの感染拡大による世界的不況のなか、同社には外国企業から新たな注文が舞い込んでいる。外国人の入国は制限されているため、取引先とはオンラインで交渉。

 

米国企業を中心に仕事が増え、業績は前年より約1割伸びた。社長のルー・ティエン・チュンさん(45)は「米中貿易摩擦で、昨夏ごろから中国からベトナムに注文先を変える米国企業が増えた。コロナをきっかけにその流れはさらに加速する」と期待する。

 

ベトナムの新型コロナの感染者は18日現在で983人、死者は25人。外国から感染の封じ込めに成功したという評価を得た同国では、サプライチェーン(部品供給網)を中国から移す外資系企業の動きに期待が膨らんでいる。

 

「中国に注文していた日本や欧米の企業から相談が次々来ている」。ハノイ北部の工業団地でプラスチック部品を製造するHTMP社の工場長代理チャン・トゥ・トゥイさんは手応えを口にする。(後略)【8月19日 朝日】

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****感染封じ込め、ベトナム追い風 コロナ、供給網の中国離れ加速****

この10年ほど続いてきた、中国以外のアジアに生産拠点を移す動きが、米中貿易摩擦とコロナ禍をへて加速している。日本などでも「自国回帰」の動きが出るなか、中国側は警戒感を強めている。

 

首都ハノイから約40キロ北東にあるバンチュン工業団地。中国の受託生産大手「立訊精密工業」(ラックスシェア)の工場には午前8時の操業時間が近づくと、労働者たちがバイクや徒歩で次々と出勤してくる。米アップルのワイヤレス型イヤホン「エアポッズ」を組み立てているとされる工場だ。

 

工場の外で取材に応じた男性従業員は「今は中国でも作ったことのない最新モデルのイヤホンを生産している」と打ち明ける。

 

外資と外国市場に依存して経済を発展させてきたベトナムにとって、「脱中国」の動きをつかめるかどうかは「コロナ後」の成長を左右する。フック政権はコロナ封じ込めの成功を「千載一遇のチャンス」として、関係省庁や産業界に働きかけを強めている。

 

ベトナム統計総局によると、今年上半期の国内総生産(GDP)の成長率は前年同期比で1・8%だった。過去10年で最も低い数字だが、コロナで世界が不況に陥るなか、プラスを維持した。1~5月のコンピューター電子部品と機械設備の輸出はいずれも、前年同期比で2割超増えた。

 

「世界の工場」と呼ばれてきた中国では、ここ数年賃金が上昇しており、より安い労働力を求めて外資系企業が拠点を移す動きは以前からあった。

 

2018年以降の米中貿易摩擦で、そうした動きが加速。中国と国境を接する地理的な近さに加え、人件費が半分ほどのベトナムはその受け皿として恩恵を受けてきた。

 

米国国勢調査局の統計では、ベトナムの19年の対米輸出は前年比で35・6%増えたのに対し、中国の対米輸出は16・2%減った。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、同年の外国からベトナムへの直接投資件数は前年より26%増の5454件となり、過去最多。特に中国からの投資は8割増の855件と急増した。

 

経済評論家のグエン・チー・ヒウ氏は、コロナをいち早く封じ込めたことで「投資家にとって安心材料になり、中国からベトナムへの動きを加速させる」と説明する。(中略)

 

 ■日本、「中国リスク」備える動き 政府、国内立地促す補助金

中国は「世界の工場」としてあらゆるモノの生産を引き受けてきた。だが、新型コロナウイルスの流行は、中国に生産力が集中するリスクを露呈した。

 

今のところ、中国からの拠点移転は一部にとどまる。中国商務省によると、1~7月の外国からの直接投資(実行ベース)は前年同期比0・5%増となり、1~6月から1・8ポイント上昇してプラスに転じた。中国への直接投資は年々伸びており、20年も伸びが予想される。中国商務省の高峰報道官は「現時点で外資の撤退や供給網の国外移転は生じていない」と強調する。

 

それでも、日本を含めた外資の一部は「中国リスク」に備えて動いている。日本政府は4月に決めた緊急経済対策に、生産拠点の日本国内や東南アジア諸国連合(ASEAN)への分散を支援する補助金計2486億円を盛り込んだ。これまでに衛生用品、半導体分野など87件を採択した。

 

ジェトロの2月の報告書では、海外拠点の拡大を予定する日本企業のうち、中国を挙げた企業の比率が48・1%にとどまり、前年度(55・4%)から大幅に後退した。一方、2位のベトナムは初めて4割を超えた。

 

中国は外資の動きに神経をとがらせている。外資が引き揚げれば、失業者が増え、低迷する景気に深刻な打撃となる。特に高度な技術を持つ外資は、中国のさらなる成長に不可欠で、中国の外交関係者は「先端技術を持つ企業が移転するのを心配している」と話す。【8月19日 朝日】

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【経済の高度化の動きも】

人件費のメリットはいずれ薄れていきますので、ベトナムがさらに経済を発展させていくためには経済の質を高めていくことが必要ですが、そうした変化もベトナム経済内部に見られるようです。

 

****急成長を見せるベトナム経済 インフラ担うビン・グループ****

ここ数年、ベトナム経済が急成長している。その成長とともに注目されているのが、ショッピングモールやマンション開発を手掛ける不動産最大手の「Vin Group」(ビン・グループ)である。今やベトナム人の生活に欠かせないインフラを担う。取材で現地を訪れた筆者がレポートする。

 

「Vin ○○」

昨年12月末、米中貿易摩擦の影響を受け、アジアの国々の経済が低迷している中、安定的な成長を続けるベトナム経済に興味を持ち、現地で取材した。

 

到着後、ベトナムの街で「Vin 〇〇」という表記を何度も目にした。驚くことに、コンビニはVin Mart、住宅の看板にはVin Homes、ショッピングセンターにはVin Comなど、とにかく何にでも「Vin」がついている。

 

この正体について現地スタッフに聞いてみたところ、「それは全部、ビン・グループ傘下にある企業だよ」と教えてくれた。

 

取材3日目、雲一つもない青空の下、首都ハノイにある「タイムズ・シティー」というマンション・コンプレックスを撮影した。

 

少し高級感が漂う、団地のような高層マンションが何棟も立ち並ぶ。その他、ショッピングセンター、スーパー、コンビニ、病院、学校、と何でもある。偶然にも、現地での撮影を手伝ってくれていたリサーチャーやカメラマンらがそこに住んでいた。

 

彼らの生活はほとんど敷地内で完結する。子どもたちはビン・グループ経営の学校へ行き、食料品はビン・グループのスーパーで調達し、週末には家族でビン・グループのショッピングセンターに行き、買い物や水族館で遊ぶ。

 

もし、家族の誰かが病気になれば、徒歩5分の距離にあるビン・グループの病院で診察を受けることができる。

 今や、ビン・グループはハノイの街に住む人々の生活に深く入り込んでいるのだ。

 

成長企業へと進化

ビン・グループは、1990年代に登場した新興財閥「コングロマリット」であり、ベトナム最大級の民間企業である。

 

国内では、リゾート開発などといった不動産事業からスタートした企業で、今でも収益の大半は不動産業であるが、多角的な分野へ投資している。ビン・グループの売り上げは2015年から2019年に3倍以上になった。

 

創業者のファム・ニャット・ブオン会長は、決断が早いことで有名だ。ロシアの大学卒業後、ウクライナで起業し、その会社が成功した後、売却した。その原資で、ベトナムに帰国し、不動産業に参入した。

 

ベトナムは経済が成長するにつれ、中産階級の人口が増加した。スーパーで買い物をする人や、携帯電話やマンション、車を買うことができる人が増えたと同時に、ビン・グループもますます多角化し、今後のベトナム経済の拡大を見据えているようにも感じた。

 

次の成長の柱

現在、ベトナム経済の柱となっているのは、縫製や電子機器の組み立てといった外国企業の下請けである。労働者の賃金が上昇していけば、現在の成長モデルには限界があるだろう。

 

昨年末、ビン・グループは自社のスーパーやコンビニを他社に売却した。小売業から手を引き、今後はテクノロジーや製造業に力を入れようとしているとのことだ。

 

製造業以外にも、ビン・メック(Vin Mec)という医療関係の事業として、ゲノム研究などを行っている。

 

うまくいけば、これらの産業は雇用を生み出し、国の技術の高度化が見込まれ、ベトナムの次の経済成長の柱になり得る可能性がある。

 

ベトナムでは会う人、会う人、エネルギーにあふれていた。「最近、良い仕事が見つかった。近いうちにマンションを買う予定だ。将来は車も買いたい」と楽しそうに話していた若いカップルの言葉を、今でも鮮明に覚えている。

 

経済が成長するに連れ、ビン・グループも拡大していくと予想される。まだまだ貧富の差があるものの、このような企業が次々と生まれてくることを期待し、ベトナム経済に今後も注目していきたい。【8月26日 福島 優子氏 共同】

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【南シナ海問題では対中強硬姿勢の旗振り役】

政治的には、ベトナムは南シナ海における中国の進出に東南アジア諸国では最も厳しく抵抗する立場にあります。

 

****ASEAN対中強硬姿勢の旗振り役を担うベトナム****

昨年11月に2020年のASEAN議長国に就任したベトナムは、一貫した対中政策をとり、ASEAN内における存在感を高めている。また、最近の中国の攻撃的姿勢は、ASEAN各国の危機感を高め、対応に変化を生んでいる。

 

こうした状況を、豪戦略政策研究所(ASPI)のHuong Le Thu上席分析官は、Foreign Policy誌(電子版)7月31日付けの論説で的確に説明している。その主要点をかいつまんでご紹介すると、次の通りである。

 

・ASEANの多くの国が、インドネシアに代わるASEANのリーダーとして、ベトナムより適切な国はないと考えるようになっている。

 

・ベトナムは、南シナ海問題に関しては、実際の最前線国であり、北京と激しい争いをしているが、同時に、ベトナムは地域問題においてASEANの役割を真に重視する数少ない国の一つでもある。

 

・ベトナムは、海洋紛争において前線の立場を維持し、他のASEAN諸国から外交的に孤立することもあったが、報われつつある。

 

今年、ベトナムが議長国として指揮した第38回ASEAN首脳会議の共同声明は、いつもの曖昧な内容と異なり、南シナ海における中国の行動を念頭に、最近の出来事に対する懸念を表明するとともに、信頼が侵食され、緊張が増し、地域の平和と安全・安定が傷づけられている、と明記している。

 

さらに、声明は、国連海洋法条約(UNCLOS)が海洋権益を決定し、海洋の主権、管轄権、正統な利益を決める基礎である、と強調している。

 

・中国の「やりすぎ」が大きな流れを変えたとも思われる。この数か月間に、マレーシア、フィリピン、インドネシア、さらに豪州及び米国などが、中国の主張はUNCLOS並びに2016年のハーグ仲裁裁判所の判決と矛盾すると表明した。

 

これは、南シナ海問題をあくまでも国際化することに努め、また、二国間問題ではなく、「地域の安全保障問題」にしようとしてきたベトナムの政策の成功の証しともみなされよう。

 

出典:‘Vietnam Steps Up to Take ASEAN Leadership Role’(Huong Le Thu, Foreign Policy, July 31, 2020)

 

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中国による南シナ海における人工島造成と軍事拠点化は、2014年以降、急速に進んだ。

 

また、中国は「ASEAN分断化」を進め、カンボジアを代弁者とするとともに、フィリピン、インドネシア、マレーシアと政治指導者交代の機会を活用しつつ、経済権益の供与を通じ、また、シンガポールに対しては徹底した嫌がらせを通じて、「対中批判」を封じ込めることに成功してきた。

 

その結果、気が付けば、中国に対して厳しい姿勢を表明する国はASEAN内でベトナムのみとなった。その一方で、安全保障分野においてベトナムは日米両国にとって最も信頼できるパートナーとなった。

 

しかしながら、昨年末からの南シナ海における中国の一連の攻撃的な動きは関係国の危機感を覚醒させ、対中批判を再開させる契機となった。 更に、新型コロナウイルス問題、香港、台湾、東シナ海、豪州、インド、ブータン等に関する中国の言動は、対中警戒感を高める要因となっている。

 

米国が中国の九段線の主張は違法であると明言し、「中国共産主義との対決」 を宣言したことを、ASEAN各国は基本的に歓迎していると思われる。

 

 しかし、同時に、多くの国にとって中国(人)は 最大の貿易相手国、最大の外国人観光客であること、また、新型コロナウイルスに関し、一部の国では ワクチンの入手を中国に期待していること等を勘案すると、米中の狭間で出来るだけ「立ち位置」を曖昧にし、「踏み絵」を踏まないように立ち回ろうとする国もあると考えられる。

 

しかし、ベトナムは、敢えて明言はしないかもしれないが、中国に毅然とした態度をとるという、その「立ち位置」は明確である。

 

東アジアの将来にとってASEANはこれまで以上に重要であり、日本のASEAN外交は、これから「正念場」を迎えると考えられる。その際、当然、ベトナムはカギを握る国となるだろう。【8月26日 WEDGE】

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“中国に毅然とした態度をとるという、その「立ち位置」は明確である”との指摘ですが、ベトナムは現実主義の国ですし、陸続きで中越戦争の経験もあるように、中国の脅威の受け止め方は他の東南アジア諸国とは異なるものもありますので、中国との緊張関係が限界を超えないように配慮しつつ・・・ということにもなります。

 

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