(タイのタクシン元首相の次女で野党・タイ貢献党幹部のペートンタン・シナワット氏(写真中央)が23日、バンコクのパフラット地区で開かれたヒンズー教の祭り「ディワリ」に民族衣装で登場。来場者の注目を集め、人気の高さをうかがわせた。【10月24日 東京】)
【憲法裁判所 職務一時停止となっていたプラユット首相の任期に関して続投を認める】
8年前の軍事クーデターで暫定首相として実権を掌握し、その後の総選挙を経て首相に就任した元陸軍司令官のプラユット首相の任期の上限が過ぎたとして野党が憲法裁判所に訴えると、裁判所は結論が出るまでの間、職務停止を言い渡しました。
野党側の動きとして、政界参入後の日もまだ浅いタクシン元首相(妹のインラック前首相とともに海外亡命中)の次女ペートンタン氏が首相を狙うポジションに躍り出ています。
今回はその続きみいたいなところですが、先ずプラユット首相については予想されたように憲法裁判所は首相任期に関して続投を認める判断を下しています。
****タイ憲法裁、プラユット首相の続投認める 任期の起算点問題は解決するも抗議の声は収まらず****
<任期問題は解決するも、政情安定化は望めず?>
タイの憲法裁判所は9月30日、憲法の規定に基づくプラユット首相の任期に関して続投を認める判断を下した。これにより一時的に首相職を退き、兼務していた国防相の任務にだけ就いていたプラユット氏が首相職に復帰することが確定した。この期間首相代行を務めたプラウィット副首相は代行を解かれることになる。
プラユット首相としての任期に関して野党「タイ貢献党」などからは憲法で規定された「最長でも8年」という規定を盾に2014年5月のクーデターでインラック政権を倒し、同年8月24日に暫定首相に就任した時を任期の起算点として2022年8月末が任期切れであると主張。
このため野党側などは憲法裁に判断を求める訴えを起こし、これを受けて憲法裁は8月24日に「プラユット首相の首相としての職務の一時停止」を命じたのだった。(中略)
今回問題となった首相の任期8年の起算点には野党側の主張、与党側の認識とさらに別の解釈まで3つの考え方が存在し、混乱に輪をかけた状態だった。(中略)
そして今回、憲法裁はこの3つの解釈から新憲法施行の2017年を任期の起算点とする判断。野党の主張を退けた。このためプラユット首相の任期が2025年までであることが確定したことになった。
バンコクでは反対デモも
この憲法裁の決定を受けてバンコク市内では9月30日から10月1日にかけて反プラユット首相を訴える市民や学生によるデモが繰りげられた。
プラユット政権が「民主的」と喧伝する総選挙の洗礼を受けた現在の政権とはいえ、実質的には「軍事政権」の性格を随所に残しているのがプラユット首相だとする反対派の主張は根強い。
特にクーデターで倒されたインラック首相やその前のインラック首相の兄タクシン首相の支持が強いタイ東北部の農村地帯は依然として「反プラユット」の牙城といわれている。
憲法裁による判断が示されたとはいえ今後タイ政局は首相に戻るプラユット氏を中心とする「軍事政権的な性格を残す与党による専制政治」のさらなる強化、野党や民主化を要求する市民や学生らによる「反政府活動」が一層盛り上がり、社会不安、緊張が高まることも予想されている。(後略)【10月3日 大塚智彦氏(フリージャーナリスト) Newsweek】
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“タイの裁判所、裁判官は政府の強い影響下にあり、司法の独立は完全に確立されておらず、政権に配慮したり忖度したりという司法判断も散見するなど必ずしも公正、公平な裁判とは言えないのが実情とされている”【同上】ことから、野党主張が認められるとは思えませんでした。
そうしたなかで、“プラユット氏が首相に正式に就任した2019年6月を起算点”という与党主張ではなく、それまでの憲法を廃止して「首相任期最長8年」を盛り込んだ新憲法を施行した2017年4月7日を起算点としたこと、それにより、与党主張より2年早く期限が到来するあたりは、司法判断に若干の独自性もあった・・・ということでしょうか? あるいは、最初からそのあたりが落としどころとされていたのでしょうか? あるいは与党内にあるいろんな思惑の反映でしょうか?
【来年5月までに総選挙 タクシン元首相次女ペートンタン氏の人気がうなぎ上り】
いずれにしても、選挙管理委員会によると、タイは来年5月までに選挙を行う必要があるとのことで、与野党ともに総選挙に向けて動き出しています。
総選挙・次期首相に向けたレースの先頭に立つのは前回ブログで取り上げたタクシン元首相(妹のインラック前首相とともに海外亡命中)の次女ペートンタン氏です。
****タイ、総選挙へ動き本格化 元首相娘「顔」に、新党も****
来年5月までに実施されるタイ総選挙に向け、各党の動きが本格化してきた。最大野党「タイ貢献党」は、タクシン元首相の次女ペートンタン氏(36)を「選挙の顔」にして大勝を期す。ただ妊娠が判明し、選挙戦に支障が出るとの声も上がる。
プラユット首相(68)は続投を目指し、新党に合流するとみられている。
タイ貢献党は今月6日の特別会合で、1日当たりの最低賃金を600バーツ(約2300円)に引き上げることを柱とした選挙公約を明らかにした。ペートンタン氏は「妊娠していることで強いエネルギーをもらっている」と語り、選挙戦を率いていく決意を示した。【12月17日 共同】
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上記記事にあるプラユット首相の件は、後ほど。
ペートンタン氏の出産予定次期が選挙の前なのか、後なのか・・・知りません。同氏の人気は上々のようです。
****タイ次期首相適任者調査、タクシン氏の末娘がリード広げる****
タイの国家開発管理研究所(NIDA)が実施した次期首相の適任者を問う世論調査で、タクシン・チナワット元首相の末娘のペートンタン氏(36)がリードを広げた。
調査は17─22日、有権者2000人を対象に実施した。それによると、34%が次期首相にふさわしい人物としてペートンタン氏を挙げた。9月調査の21.6%から大幅に上昇した。
現首相のプラユット・チャンオチャ氏を選んだのは14.05%。前回調査では10.1%だった。
選挙管理委員会によると、タイは来年5月までに選挙を行う必要がある。日程は未定だ。
ペートンタン氏はタイ貢献党の幹部。党はまだ、同氏を首相候補に指名していない。【12月27日 ロイター】
調査は17─22日、有権者2000人を対象に実施した。それによると、34%が次期首相にふさわしい人物としてペートンタン氏を挙げた。9月調査の21.6%から大幅に上昇した。
現首相のプラユット・チャンオチャ氏を選んだのは14.05%。前回調査では10.1%だった。
選挙管理委員会によると、タイは来年5月までに選挙を行う必要がある。日程は未定だ。
ペートンタン氏はタイ貢献党の幹部。党はまだ、同氏を首相候補に指名していない。【12月27日 ロイター】
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タクシン“ブランド”は健在のようです。
タクシン元首相の政治には金権・バラマキ政治との批判もありますが、農民・都市貧困層に目を向けた政治は、王室や既得権層・エリート層に基盤を置いた従来のタイ政治とは一線を画し、今もその影響力が強いようです。
【プラユット首相 現与党第1党のパランプラチャーラット党(国民国家の力党)を離れて新党へ 選挙結果次第でいろんな展開の可能性も】
選挙戦をリードするタクシン支持野党「タイ貢献党」とペートンタン氏ですが、仮に野党「タイ貢献党」が勝利しそうな総選挙、あるいは大勝した総選挙を、軍を代表する現政権・与党がみすみす見逃すだろうか? という疑問も。
どこかの時点で介入してくるのでは(例えば、何らかの難くせをつけて解党に追い込むとか 今までもたびたびありましたので)・・・という懸念を感じていましたが、与党及びプラユット首相の側も一枚岩で野党叩きにあたるという状況ではないようです。
プラユット首相は与党と折り合いが悪く、親軍与党パランプラチャーラット党(国民国家の力党)を離れて新党に合流しています。
****タイ首相、続投の意向表明=総選挙で新党の候補に****
タイのプラユット首相(68)は23日、記者団に対し、来年5月までに実施される次期総選挙に、新党の首相候補として臨む考えを表明した。プラユット氏は「職務を続け、残された問題の解決に当たりたい」と強調した。
プラユット氏は2014年、陸軍司令官としてクーデターを起こし、軍事政権の暫定首相に就任。19年の民政移管後、親軍政党・国民国家の力党の支持を受けて首相となった。
国民国家の力党幹部は次期総選挙に当たり、プラユット氏の陸軍時代の上司で、副首相を務めるプラウィット党首を首相候補に擁立する方針を公表している。プラユット氏は自身の支持派が結党した「タイ団結国家建設党」に入党し、続投を目指す。【12月23日 時事】
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このあたりの事情をもう少し詳しく解説したのが下記記事。
****プラユット首相、新党に参加 タクシン派野党支持率43%****
プラユット首相兼国防相(元タイ陸軍司令官、68)は23日、タイ首相府で記者団の質問に応え、側近らが設立した新党ルワムタイサーンチャート党(前記事の「タイ団結国家建設党」)に加わると明言した。
来年5月までに行われる議会下院(定数500、任期4年)選挙で同党が指名する首相候補になる見通し。
これまで支援を受けてきた与党第1党の親軍政党、パランプラチャーラット党(前記事の「国民国家の力党」)とはたもとを分かつ。(中略)
プラユット首相は陸軍司令官だった2014年5月にタクシン元首相派民選政権を軍事クーデターで倒して軍事政権を発足させた。
2019年3月に2011年以来初めての議会下院選挙を実施。自身は下院選に立候補しなかったが、国会での首相指名選挙で、パランプラチャーラット党やプラユット軍政が選任した非民選の議会上院(定数250、任期5年)の支持を受け、非議員のまま首相に再任された。パランプラチャーラット党に所属はしていない。
プラユット首相はパランプラチャーラット党と一定の距離をとり、自らの権威を高める戦略をとってきた。しかし、首相が持つ閣僚枠などをめぐり、パランプラチャーラット党と対立が深まり、同党は次期下院選で党首のプラウィット副首相を党の首相候補とする方針を固めていた。
■どうなる与党4党
パランプラチャーラット党(現与党の国民国家の力党)は2019年の下院選でプラユット首相を担ぐため急ごしらえで作られた政党で、王党派、地方の有力政治家、地方財閥などが雑居する。
結党を主導した王党派テクノクラートは下院選後、党から追放された。プラユット政権維持を目的とするため、王室、軍を中心とする政治経済体制を支持する、民主主義を重視しない、といった傾向が強かったが、党内の多数派である地方政治家・財閥の影響力が強まり、利益誘導、利権重視に傾いていった。
王党派市民から支持を受けるが、最近の政党支持率調査では、最大野党でタクシン派のプアタイ党、野党第2党でリベラル派のガウクライ党などの後塵を拝している。
ルワムタイサーンチャート党(プラユット首相支持者が結成した新党)には与党第3党の民主党などから保守王党派が流れ込んでいて、より純度の高い王党派政党となりそうだ。
プラユット首相の参加表明で支持率が上がれば、パランプラチャーラット党などから地方政治家が流入し、パランプラチャーラット党のコピーバージョンとなる可能性もある。(中略)
下院選後に行われる首相指名選挙では、下院のほか、実質的なプラユット与党である上院が投票するため、現在の与党陣営は、下院選で壊滅的な大敗を回避し、結束を維持できれば、政権維持が可能だ。
ただ、ルワムタイサーンチャート党が十分な議席を確保できない場合、与党陣営がアヌティン副首相兼保健相、もしくはプラウィット副首相を首相に推すケースもありそうだ。
野党陣営が大勝した場合、プームジャイタイ党(与党第2党で財閥、政治閥の集合体)、パランプラチャーラット党は野党側に付き、政権を発足させる可能性がある。
■政党支持率、タクシン派プアタイが圧倒
タイ国立開発行政研究院(NIDA)が17~22日に18歳以上のタイ人を対象に実施した世論調査(回答者2000人)で、政党支持率1位はプアタイ党(タイ貢献党)で43%だった。
2位はガウクライ党で16.6%。
3位はルワムタイサーンチャート党で7%。
4位は民主党で5.4%。
5位はプームジャイタイ党で5.3%。
6位はパランプラチャーラット党で4%だった。
【12月26日 newsclip.be】
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選挙結果次第(もし、政治介入がなければペートンタン氏人気に乗るタクシン系野党「タイ貢献党」の圧勝でしょう)でいろんな展開がありそうな状況のようです。
それにしても、タクシン系野党「タイ貢献党」と親軍与党「パランプラチャーラット党」が組む可能性・・・想像しがたい世界です。
全くの想像ですが、権力維持のためなら仇敵とも組むかも・・・という与党「パランプラチャーラット党」の節操のなさ、志のなさが(その是非は別にして、彼なりの志を持ってクーデターを起こした)プラユット首相は気に入らなかったのでしょう。