孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  「歴史的な会議」も実効なく、止まらない暴力の連鎖

2023-03-09 23:18:22 | パレスチナ

(7日、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ジェニンで、イスラエル軍の急襲作戦から逃れる人々【3月8日 時事】 パレスチナの現実を改めて感じる写真です)

【「歴史的な会議を招集した」ものの、当日にも暴力の応酬】
中東パレスチナ情勢については、2月25日ブログ“パレスチナ・イスラエル 止まらない報復の応酬 アメリカの自制要請も効果見られず”でもとりあげたように、イスラエルとパレスチナ側との間で暴力の応酬が続いています。

前回ブログの記事をアップした直後に、事態鎮静化に向けた動きも試みられ、イスラエル政府とパレスチナ自治政府の双方が暴力の激化を抑制することで合意したとのことでした。

****イスラエルとパレスチナ、暴力激化抑制で合意 ヨルダンで協議****
イスラエル政府とパレスチナ自治政府の当局者は26日、ヨルダン南部のアカバで会談し、暴力の激化を抑制することで合意した。会談には米国、ヨルダン、エジプトの高官も参加した。

イスラエル、パレスチナ双方は「一方的な措置の3─6カ月間停止に向け、直ちに取り組む用意と決意を確認した」とする共同声明を発表。「これには(パレスチナ自治区ヨルダン川西岸での)新たな入植地に関して協議を4カ月間停止し、承認を6カ月間停止するイスラエルのコミットメントが含まれる」とした。

サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、声明で「歴史的な会議を招集した」ヨルダンのアブドラ国王に対するバイデン米大統領からの謝意を伝えた。

「この会談は出発点で、イスラエルとパレスチナ双方の人々の安定かつ繁栄した未来構築のために今後数週間や数カ月にやるべきことが多くあると認識している。実行が非常に重要になる」と述べた。

参加者は、3月にエジプトのシャルムエルシェイクで再び会談を行う。

イスラエル当局によると、26日には武装したパレスチナ人がヨルダン川西岸でイスラエル人入植者2人を殺害する銃撃事件が発生した。【2月27日 ロイター】
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暴力を抑制し、入植地拡大も停止する・・・実行されれば「歴史的な会議」にもなったでしょうが、現実は会議当日の26日(共同声明発表との時間的な前後関係は知りませんが)には、“武装したパレスチナ人がヨルダン川西岸でイスラエル人入植者2人を殺害する銃撃事件が発生”とのこと。

これに対し、ユダヤ人入植者も報復・・・・ということで、「歴史的な会議」の実効性は全く見られせん。

****西岸で衝突激化****
(中略)26日には(ヨルダン川)西岸北部の町フワラをユダヤ人入植者数十人が襲撃して、家屋や自動車に放火した。

フワラへの襲撃は、ユダヤ人入植者2人が撃たれて死亡したのを受けて発生した。フワラの当局者によると、30軒の民家が焼かれたり、破壊されたりしたほか、100台以上の自動車に火が放たれた。

イスラエル軍当局者は、300〜400人が「報復」のために現地に入ったと説明した。イスラエル警察の広報担当者はAFPに対し、8人のイスラエル人が逮捕されたが、大半が釈放されたと明らかにした。

ヨルダン川西岸にはパレスチナ人約290万人が居住しているほか、国際法では違法と見なされているイスラエル政府公認のユダヤ人入植地に入植者約47万5000人が住んでいる。

ベンヤミン・ネタニヤフ右派政権で財務相を務め、自身も入植者のベザレル・スモトリッチ氏は西岸の入植地に関連して、「われわれの土地に新たな地域や町を建設していく」と入植地拡大を示唆した。(後略)【2月28日 AFP】
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更に27日には、イスラエル人の車が銃撃を受け、1人が死亡する事件も。

****銃撃でイスラエル人死亡 暴力連鎖、各地で抗議デモ****
イスラエル軍が占領するヨルダン川西岸東部エリコ近くで27日、イスラエル人の車が銃撃を受け、1人が死亡した。軍が発表した。

西岸では26日にユダヤ人入植者数百人が北部ハワラのパレスチナ人集落を襲撃、多数の建物や車を放火する事件が発生したばかり。暴力が続いており、沈静化の兆しは見えない。

イスラエルでは27日、各地で入植者によるパレスチナ人集落襲撃に対する抗議デモがあった。参加者は主にイスラエル政府のパレスチナ占領政策に反対するユダヤ人。

エルサレムでは数百人が「パレスチナ人の自由がなければ、われわれの安全もない」「入植者よ、恥を知れ」と訴えた。【2月28日 共同】
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【イスラエル 史上パレスチナに対して最も強硬な政権】
“暴力の連鎖”が止まないのは、基本的にはパレスチナ問題が全く進展していないことによりますが、最近の事情も。

イスラエル側の事情としては、ネタニヤフ氏(彼自身も保守強硬派とされていますが)が極右政党・宗教政党と連立することで、イスラエル史上、パレスチナに対して最も強硬、右寄りな政権となっています。

ヨルダンでの「歴史的な会議」も、イスラエル強硬派の意見を反映したものでもありませんし、パレスチナ側もハマスなども関与していません。

声明にはイスラエル・パレスチナ(ハマス)双方から批判の声が上がっています。

****イスラエル財務相がパレスチナの村「せん滅」発言、国連非難****
国連難民高等弁務官事務所のボルカ―・ターク高等弁務官は4日、イスラエルのベザレル・スモトリッチ財務相がパレスチナ自治区ヨルダン川西岸の村フワラの「せん滅」を求めたことを「理解し難い」と非難し、イスラエル人とパレスチナ人の衝突の終結を呼び掛けた。

イスラエル人入植者2人がフワラで撃たれて死亡したことへの報復として数十人が同村を襲撃したのを受け、スモトリッチ氏は1日、「フワラ村をせん滅する必要がある」「イスラエルが国家としてやるべきだと思う」と述べた。

スモトリッチ氏はその後、ツイッターで「フワラ村を消し去るという意味ではなく、テロリストを一掃すべきという意味だった」と釈明した。 【3月4日 AFP】
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【パレスチナ れまでの組織を超えた若者らの新たな過激組織「ライオンの巣」が拡大】
一方で、パレスチナ側でも、これまでの組織を超えて若者らの新たな過激組織「ライオンの巣」が拡大しています。

****パレスチナに生まれた武装組織「ライオンの巣」 武器を取る若者たち****
パレスチナ自治区があるヨルダン川西岸で、10~30代の若者が新たな武装組織を作り、イスラエル軍との戦闘を繰り広げている。

ヨルダン川西岸で起きた衝突による死者は今年、双方で130人以上に達し、第2次インティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)が終わった2005年以来の水準となる見込みだ。一体、何が起こっているのか。

高い若者の支持
10月25日、ヨルダン川西岸の都市ナブルス。イスラエル軍に殺害された武装組織の男性(31)の葬儀が営まれ、市中心部に数千人が集まった。「殉教者は神の祝福を受ける」「復讐(ふくしゅう)を!」。市民は遺体とともに街中を練り歩き、大声で叫んだ。

男性は、ナブルス周辺の若者で結成された新たな武装組織「ライオンズ・デン(ライオンの巣)」の幹部の一人だった。同日、弾薬庫として使っていた自宅で、イスラエル軍のミサイル攻撃を受けて殺害された。

ライオンズ・デンは今年8月以降、姿を現した。国際法違反とされるユダヤ人入植地付近で、イスラエル軍兵士を殺害したり、入植者を銃撃したりしてきた。グループに対する若者の支持は高い。

ナブルスに住む内装業、ムハンマドさん(19)は言う。「ライオンズ・デンは、イスラエルの侵略から我々を守ってくれる存在だ。友人は皆、彼らを支持している」。無職のジャワドさん(27)は「こちらが和平を望んでも、イスラエルは拒否するだけだ。勝てなくても、戦うしかないんだ」と強調する。

相次ぐテロ事件
第3次中東戦争があった1967年以降、パレスチナ人が多く住むヨルダン川西岸はイスラエルによる占領が続く。国際社会もパレスチナへの支援を減らしており、西岸では大学を卒業した20代の失業率は36%に達する。未来の見えない若者の閉塞(へいそく)感は強い。

イスラエルでは今年に入り、パレスチナ人らによるテロ事件が相次いだ。3月末には商都テルアビブでヨルダン川西岸ジェニン近郊のパレスチナ人が銃撃事件を起こし、5人が死亡。イスラエル軍はテロ撲滅のため、ジェニンやナブルスで大々的な掃討作戦を開始した。双方の衝突が続く中、ライオンズ・デンなど新たな武装組織が誕生し、戦闘は激化している。

シンクタンク「パレスチナ政策調査研究センター」のハリル・シカキ代表は、ライオンズ・デンを「これまでに例のない組織」と指摘する。

パレスチナには、パレスチナ自治政府の主流派ファタハの傘下にある軍事組織やガザ地区を支配するイスラム組織ハマス、過激派「イスラム聖戦」などの武装組織があるが、ライオンズ・デンは旧来の組織に所属していた若者らが、組織を超えて立ち上げた。

一方で、ハマスやイスラム聖戦も彼らを支援し、武器や資金を提供している。メンバーの中心は10~30代で、00~05年、双方の死者が4000人以上に達した第2次インティファーダをほとんど知らない世代だ。

パレスチナ当局への不信感
ではなぜ今、新たな組織が生まれたのか。殺害されたライオンズ・デン幹部の父、サビフさん(62)はこう語る。「パレスチナの武装組織は互いの方針が異なり、連携ができていない。息子は対イスラエルで団結できる組織を作ろうと思ったようだ」

背景には、和平交渉に消極的で、ヨルダン川西岸でユダヤ人入植地を拡大するイスラエルへの敵意と、状況を改善できないパレスチナ当局への強い不信感がある。

イスラエルは、右派が長い間実権を握っており、14年からパレスチナとの和平交渉を実施していない。パレスチナはヨルダン川西岸を統治する自治政府と、ガザ地区を支配するハマスに分裂し、双方の歩み寄りはみられない。自治政府は06年以降、選挙も実施しておらず、若者たちは政府に民意を反映する機会すら与えられていない。

中高年は、多くの犠牲を出しながら、イスラエルによる占領を変えられなかった第2次インティファーダを経験し、武装闘争に否定的な人も多い。だが当時の記憶が少なく、自治政府に絶望した若者たちは、再び武力に頼ろうとしている。

インティファーダ再びか
イスラエルのシンクタンク「メイル・アミット諜報(ちょうほう)テロリズム情報センター」のシュロモ・モファズ理事長は、戦闘激化の理由について「自治政府の弱体化にも原因がある」と指摘する。

イスラエルはヨルダン川西岸を占領しているが、ナブルスなどの都市部は自治政府の統治下にあり、自治政府がイスラエルと連携して治安を担う。だが、自治政府のアッバス議長(87)は高齢で健康問題を抱え、求心力が著しく低下。治安部隊は一部都市で職務を放棄しているほか、隊員が武装組織側に加わるケースもある。そのため、イスラエル軍がテロを防ぐために都市部に侵入、武装組織が対抗する形になっている。

またモファズ氏は、21年5月の戦闘で被害を受け、復興途上にあるガザを攻撃されるのを嫌うハマスが、西岸での戦闘を「あおっている」とも指摘する。

西岸の治安悪化などを受け、イスラエルでは、今月の総選挙でパレスチナに強硬姿勢を示す右派陣営が勝利した。政権入りが予想される極右政治家はパレスチナ人の「追放」を主張しており、西岸での戦闘がさらに激しくなる可能性がある。

シカキ氏は今後について強い懸念を示す。「未来のない若者が武器を手に取るのは、社会的な現象だ。現在はヨルダン川西岸の(北部にある)ジェニン、ナブルスで戦闘が起きているが、次第に西岸全体、そしてエルサレムにも広がるだろう。新たなインティファーダが起きる可能性も否定できない」【2022年11月22日 毎日】
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****パレスチナで武装集団「ライオンの巣」が台頭****
(中略)
■台頭する「ライオンの巣」
西岸北部の都市ナブルスでは22日、イスラエル軍部隊が中心部にある旧市街を急襲し、パレスチナ人11人が死亡、80人以上が負傷。ここ20年近くで最大規模の犠牲者が出た。軍は、パレスチナ武装勢力による差し迫った脅威があるとの情報に基づいた作戦だったとしている。

この作戦が展開されたナブルス旧市街は、新たな武装グループ「ライオンの巣」が台頭する今回の衝突激化の焦点となっている。

イスラエル側は、同グループが昨年10月のイスラエル軍兵士殺害を含めた複数の襲撃事件に関与していると非難している。

ライオンの巣は、テレグラムに投稿した23日の声明で、22日の襲撃以降に「50人近く」が新たにグループに加わったと主張した。

ライオンの巣は、パレスチナ解放機構内の最大組織ファタハやイスラム組織ハマス、イスラム聖戦に関連する若い戦闘員による緩やかな連合体として昨年夏に結成された。グループは、テレグラムでの情報発信を通じてパレスチナ人の間で爆発的に人気が拡大した。 【2月28日 AFP】
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【7日、イスラエル軍の難民キャンプ急襲 8日にはガザからロケット弾】
EUは入植活動を止めないイスラエルにかねてより批判的です。
“EU、ユダヤ人入植者の暴力非難 パレスチナ襲撃で現地視察”【3月4日 共同】

アメリカ・バイデン政権も「2国家共存」を支持し、入植活動拡大には賛成していませんが、基本的にイスラエルを支持する立場ということで、イスラエルに対する抑止力とはなっていません。
“パレスチナ情勢、緊張緩和を協議 ヨルダン国王と米長官”【3月6日 共同】

上記会談でヨルダン・アブドラ国王は、イスラエル、パレスチナの「2国家共存」に向けた和平交渉再開のため政治的機運を高める必要があると強調。パレスチナの独立国家はヨルダン川西岸とガザを主要領土とし、首都は東エルサレムだと語ったとのことですが、オースティン米国防長官の反応は伝えられていません。

こうした情勢のもとで、再び暴力が。

****イスラエル軍、難民キャンプ急襲 ハマスメンバー含む6人殺害****
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のジェニン地区で7日、イスラエル軍が難民キャンプを急襲し、フワラ村近くのユダヤ人入植地の兄弟2人を射殺した疑いのあるイスラム原理主義組織ハマスのメンバーなど少なくとも6人を殺害した。

8日未明には、ガザ地区からイスラエルに向けてロケット弾が発射されたことが確認された。

目撃者情報によると、難民キャンプ中心部を見下ろす丘の上でイスラエル兵が家具運搬車から降りると、間もなく戦闘員が発砲し銃撃戦が始まった。

イスラエル軍によると、軍は銃撃犯と思われる人物らが立てこもっていた家を包囲し、携帯式ミサイルで攻撃。イスラエル人を銃撃したとするハマスのメンバーを特定したとしている。

パレスチナ保健当局によると、パレスチナ人6人が死亡し、少なくとも16人が負傷した。イスラエル警察隊員1人が負傷し、3人が軽傷を負った。

ハマスとイスラム聖戦の声明によると、殺害されたのは全てハマス、イスラム聖戦、ファタハのメンバー。

ハマスは「占領に対する武力抵抗をエスカレートさせ、占領された故郷の土地のあらゆる場所で彼らと戦うよう、あらゆる場所のわが民族の戦士に呼びかける」と表明した。【3月8日 ロイター】
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毎回、同じ文言の繰り返しですが、イスラエルとパレスチナ双方で暴力の連鎖が続き、情勢悪化に歯止めがかかりません。
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