(1月、インド政府の呼びかけで「グローバル・サウス」のサミットがオンラインで開かれ、世界の国のおよそ3分の2にあたる125か国が参加しました。【1月30日 NHK「キャッチ!世界のトップニュース」】)
【中ロ・イランなどの強権国家と西側欧米諸国の対立】
ウクライナ戦争、米中対立、イラン問題、北朝鮮問題など現在の世界情勢を大きく見ると、中国とロシアを中心とし、イランや北朝鮮を含む強権国家と、それ以外のG7を中心とした国々、いわゆる「西側」が対立する構図になっています。
強権国家はもともとはそれほど強い結びつきはありませんが、それぞれ西側の圧力を受けるなかで、互いの結びつきを強めているように見えます。
最近の軍事演習にも、そうした構図が反映されています。
****海上自衛隊 インド洋で米・英・仏など8か国共同訓練****
海上自衛隊は、アメリカやフランスなど合わせて8か国による共同訓練をインド洋で行ったと発表しました。この地域で影響力を強める中国を念頭に多国間の連携をアピールする狙いがあるとみられます。
海上自衛隊によりますと、インド洋での共同訓練は、フランス海軍の主催で14日までの2日間行われ、アメリカとイギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、インドも含め合わせて8か国が参加しました。
海上自衛隊からは護衛艦1隻が参加し、射撃訓練や、各国の艦艇と編隊を組んで航行する訓練などを行ったということです。
この共同訓練は、2019年からインド太平洋地域で行われていて、海上自衛隊は初回から参加していますが、8か国の参加はこれまでで最も多いということです。
海上自衛隊は「自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて連携を強化した」としていて、訓練にはこの地域で影響力を強める中国を念頭に、多国間の連携をアピールするねらいがあるとみられます。【3月15日 NHK】
この共同訓練は、2019年からインド太平洋地域で行われていて、海上自衛隊は初回から参加していますが、8か国の参加はこれまでで最も多いということです。
海上自衛隊は「自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて連携を強化した」としていて、訓練にはこの地域で影響力を強める中国を念頭に、多国間の連携をアピールするねらいがあるとみられます。【3月15日 NHK】
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****中ロ・イランが海上軍事演習=オマーン湾で15〜19日****
中国国防省は15日、中国、ロシア、イランの海軍が同日から19日まで、イラン近海のオマーン湾で合同軍事演習を行うと発表した。対米で共闘する3カ国の軍事協力関係や、地域での中国の影響力拡大を誇示する狙いがあるとみられる。
中国は先週、イランとサウジアラビアの関係修復を仲介したばかりで、ロシアのウクライナ侵攻を巡っても和平交渉に関与する姿勢を示している。【3月15日 時事】
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中ロ・イランの枠組みでの演習は2019年、22年に続いて3回目となります。いずれもアメリカとの対立を抱える3カ国が安全保障面での連携を強めています。
また、イランは中ロが主導する上海協力機構(SCO)への加盟手続きを進め、中ロを含む新興5カ国(BRICS)への加盟も申請しています。
【対立を見守る「グローバルサウス」】
そして、上記の強権国家と西側欧米諸国の対立を見守っているのが「グローバルサウス」と称される国々です。
「グローバルサウス」は明確な定義はありませんが、アフリカ、インド、中南米など、主に南半球に位置する途上国・新興国を指す呼称です。
これまでも時折触れてきたように、ロシアの侵略への批判といった日本にとっては「当然」のように思える西側主張が、「グローバルサウス」の国々にも広く受け入れられている・・・という訳でもありません。
中国・ロシアと欧米諸国の間でグローバルサウスの国々を取り合っているのが現状とも言えます。
****G20の分断深刻化 外相会合、途上国は対露批判に同調鈍く****
(3月)2日に実質的な討議が行われた20カ国・地域(G20)外相会合は、ロシアのウクライナ侵略をめぐり、米欧とロシアの対立が改めて鮮明となった。
双方は批判を応酬した上で、侵略をめぐって対応が揺れるグローバルサウス(南半球を中心とする途上国)を取り込む動きを強化。議長国インドはG20の融和と団結を呼びかけたが、顕在化したのは深刻な分断だった。
「多国間主義は危機にひんしている。世界に深い溝がある時期にこの会合は開かれている」
インドのモディ首相は2日の会合冒頭、ビデオメッセージでこう参加国の亀裂に言及した。モディ氏はG20の連携を訴えた上で、途上国が食料・エネルギーの高騰や巨額の債務負担に直面している現状を踏まえ、参加国に「グローバルサウスの声に耳を傾ける」よう求めた。
インドは議長国として、外相会合が侵略をめぐる批判の応酬になることは避けたい考えがあった。だが、2月下旬のG20財務相・中央銀行総裁会議と同様、会合ではウクライナ情勢についての発言が相次ぐ展開となった。(中略)
欧米はロシアに経済制裁を発動しているが、グローバルサウスに同調の動きは鈍い。制裁参加に慎重なのは、ロシアや中国が米欧主導の国際秩序に対し「多極化」を唱え、接近してきたことも背景にある。
ブリンケン氏は「米国が(物価高など)世界的な課題に焦点を当て、主導的役割を果たすことに変わりはない」と述べ、グローバルサウスに寄り添う姿勢を示した。
一方、ロシアは今年のG20関連会合をウクライナ侵略の正当性のほか、欧米批判を発信する好機と捉える。対露融和姿勢を崩さないインドが議長国を務めるためだ。ラブロフ外相は2月28日にインド入りすると、国際的孤立を回避すべく、中国やインド、ブラジル、トルコ各外相と相次いで2国間会談を実施した。
在インド・ロシア大使館は会合前の声明で「米国とその同盟国による破壊的な政策は既に世界を大惨事の瀬戸際に追いやっている」と自説を展開。欧米が「低所得国の状況を悪化させている」と指摘し、こちらもグローバルサウスを取り込む姿勢を示した。
グローバルサウスを意識した動きは、秋に予定されているG20首脳会議でも展開されそうだ。
インド外務省幹部は「グローバルサウスの意見は多様だが、確かなのは冷戦期のような二極化を望んでいないことだ」と指摘。米欧やロシアが自陣営に取り込むことの困難さを指摘した。【3月2日 産経】
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【「グローバルサウス」の欧米への反感とバランス感覚】
西側欧米・日本などからすれば、自分たちは民主主義という「正義」を掲げているという意識がありますので、「グローバルサウス」の同調がなかなか得られないことには「どうして?」という感もあるでしょうが、「グローバルサウス」から見れば、西側欧米の「偽善」も感じられるというところです。
****誰もプーチンを擁護しないが、欧米諸国も支持しない──グローバルサウスが冷ややかに見て取る「偽善」と2つの溝****
<政府高官らの「表向きの楽観論」と「非公式の場での悲観論」のギャップ。もっと怖いのは、バイデン大統領の言葉がどんどん壮大になっていること>
毎年2月に世界各国の首脳が集まって、外交や安全保障を話し合うミュンヘン安全保障会議。今年の話題を独占したのは、当然、ウクライナ戦争だった。ただ、出席者の間には、2つの重要なギャップがあるように感じられた。
第1のギャップは、この戦争に関する幅広い認識や、好ましい対応策に関する欧米諸国とグローバルサウス(途上国の大半が位置する南半球)の見解の違いだ。
欧米諸国のリーダーたちはウクライナ戦争を、現代の世界でダントツに重要な地政学的問題と見なすきらいがある。アメリカのカマラ・ハリス副大統領は「世界の隅々にまで影響を及ぼす」問題だと語り、ドイツのアンナレーナ・ベアボック外相は、ロシアの完全な敗北と撤退以外の結果は「国際秩序と国際法の終焉」を意味すると主張した。
つまり、ウクライナ戦争には、法の支配や自由世界の未来が懸かっているというのだ。だから、ウクライナが迅速かつ断固たる勝利を収められるように、必要な武器や援助をいくらでも提供するべきだと、彼らは主張する。
だが、欧米諸国以外の世界の考えは違う。もちろん、ロシアのウクライナ侵攻や、ウラジーミル・プーチン大統領を擁護するリーダーはいなかった。だが、インドやブラジル、サウジアラビアをはじめとする「それ以外の国々」は、欧米主導の対ロシア制裁に参加していないし、この戦争をさほど終末論的に見ていない。
これはそんなに意外な反応ではない。彼らにしてみれば、法の支配や国際法の遵守を強いる欧米諸国の態度は偽善にほかならず、自分たちが道徳的優位にあるかのような押し付けに憤慨している。
そもそも、欧米諸国が遵守を強いる国際法は、欧米諸国が作ったものであり、都合が悪いときは平気で踏みにじってきた。2003年のアメリカのイラク侵攻がいい例だ。あのとき法の支配に基づく秩序はどこにあったのかと、欧米以外の国は考えているのだ。
クリミアより気候変動
グローバルサウスの国々は、ウクライナ戦争の行方が21世紀の世界を決定付けるという欧米の主張にも納得がいかない。彼らに言わせれば、クリミアやドンバスの運命よりも、自国の経済発展や気候変動、移民、テロ、中国やインドの台頭のほうが、よほど人類の未来に大きな影響を与える。
大体ウクライナ戦争は、食料価格の高騰などグローバルサウスに大打撃を与えており、勝利するまでウクライナに戦争を続けさせるよりも、早く戦争を終わらせることのほうが、これらの国々にとっては重要だ。
前述したように、だからといってグローバルサウスがロシアを支持しているわけではない。ただ、これらの国には独自の国益があり、彼らはそれを重視した政策を取りたい。これはウクライナ戦争があろうがなかろうが、欧米諸国とそれ以外の国々の間の溝は続くことを意味する。
ミュンヘンで気が付いたもう1つの大きなギャップは、ウクライナ戦争の行方について政府高官らが表向きに示す楽観論と、非公式な場で見せる悲観論の差だ。
ハリスやベアボック、アントニー・ブリンケン米国務長官らが登壇したメインイベントでは「西側」の結束や最終的な勝利など威勢のいい言葉が相次いだ。
ミュンヘン会議の直後に、ジョー・バイデン米大統領がウクライナを電撃訪問してウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会ったときもそうだった。まだ厳しい日々が続くだろうが、やがて手にする勝利に焦点が当てられていた。
だが、非公式の場で交わされた会話は、もっと暗いものだった。今後1年間、どんなに莫大な支援をウクライナに与えても、戦争が早く終わるとか、ロシアに奪われた領土(クリミアを含む)をウクライナが奪還できると語る人はいなかった(ただし筆者が出席した非公式ミーティングに、主要国のトップクラスの政府高官はいなかった)。(後略)【3月7日 Newsweek】
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一方で、グローバルサウスの国々も中国・ロシアを「支持」しているという訳でもなく、大国間の争いに巻き込まれるのを避け、自国にとって最大の利益を引き出そうとしていると言えます。
****グローバル・サウスのバランス感覚****
ウクライナ侵攻をめぐり、西側が対ロシア制裁を強化するなか、多くの途上国・新興国はこれと距離を置いているが、それは「ロシアを支持しているから」というより「大国同士の対決に巻き込まれたくないから」と言った方がよい。
同じことは中国に関してもいえる。
例えば、台湾海峡を挟んで米中の緊張が高まった昨年8月、アフリカ各国は共同で「台湾は中国の一部」であることに中国と合意したが、その一方で第2回「一帯一路」フォーラムに首脳クラスを派遣していたのは5カ国(ジブチ、エジプト、ケニア、モザンビーク、エチオピア)だけだった。これは大陸全体の10分の1程度だ。
つまり、「一帯一路」沿線国の多くは中国と主に経済面で付き合いを深め、自分たちにあまり関わりない中国の「死活的利益」(台湾や香港など)で共同歩調をとり、いわば恩を売る一方、それ以外の部分では深入りを避けているといえる。
だからこそ、政治的に中国と強い結びつきを持つ国のなかにも「一帯一路」フォーラムに首脳クラスが出席しない国は珍しくない(例えば南アフリカ、タンザニアなど)。そこには「踏み込みすぎれば中国に取り込まれる」という警戒感をうかがえる。【3月13日 Newsweek「「一帯一路」10周年なのに熱心に宣伝しない中国──求心力低下への警戒」】
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【「グローバルサウス」を取り込むうえでは「民主主義」をあまり前面に出さないほうが得策との指摘も】
当然ながら、「グローバルサウス」と言っても、詳しく観れば、個々の国ごとに異なる事情・立場があります。
インドはロシアとは、これまでの付き合いもあって制裁にも参加せず中立的な立場ですが、中国とは領土問題で死者もでる衝突が起きる関係です。
“インド政府、貿易決済に人民元を使わないよう要請=消息筋”【3月14日 ロイター】
そのため、安全保障では中国包囲網を形成しようとする欧米側と接近しています。
“豪印、中国念頭に連携強化 首脳会談 安保や貿易など幅広く”【3月10日 産経】
東南アジア諸国は南シナ海問題などで中国を警戒して、フィリピン・マルコス大統領のように、どちらかと言うと西側諸国寄りになっています。
“フィリピン、米日豪と防衛強化 南シナ海巡り中国との対立鮮明に”【3月8日 毎日】
こうした「グローバルサウス」諸国を取り込んで行くうえでは、あまり「民主主義」という価値観を前面に出さない方が得策・・・との指摘も。
****「ヨーロッパやグローバルサウスとどう連携するか」が今後の日本の課題****
(中略)
佐々木(ジャーナリストの佐々木俊尚氏))グローバルサウスをどう取り込むかというところで、慶応大学の細谷雄一さんが先日、東洋経済に記事を書かれています。岸田政権や林外相などは、これからの国際社会の在り方について、「法の支配による国際秩序」というような言葉を使っています。(中略)
バイデン大統領はそうではなく、民主主義を理念にあげている。ところが日本は民主主義と言わずに「法の支配」と言っています。なぜかと言うと、民主主義と言ってしまえば、アジア・アフリカの民主主義ではない国を除外してしまうからです。(中略)
(ベトナムやシンガポールなどは)独裁だと言われていますから、強権国家の1つであると。アフリカもそうではない国がたくさんあります。だからあまり民主主義を中心にしてしまうと、分断を逆に広げてしまう。【3月15日 ニッポン放送 NEWS ONLINE】
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まあ、仲間を増やすという点では価値観は曖昧にした方がいいのでしょうが、ただ、「民主主義ではない国」の現状を座視・放置するのかという問題も。
安全保障的には、民主主義云々より「仲間を増やす」方が優先するのでしょう。