孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  想定以上に進行する少子化 中国版「異次元の少子化対策」を模索 「新しい家族の形」への道も

2023-05-07 23:19:48 | 中国

(【5月1日 Newsweek】 一人っ子政策から様変わり 巷では、二人目以降の大学入試に加点するとか、更には、例えば2人の子供をつくるまではコンドームを買えないようにするといった過激な案とか・・・いろいろあるようですが)

【四川省では未婚女性の出産児も届け出容認、医療保険も適用】
中国の統計数字はどこまで信用できるのか・・・という問題はさておき、今年1月、およそ14億人とされる中国の人口が想定より早く減少に転じたことを中国政府も認めました。

****中国で始まった人口減少 その裏側にある、2つの切実な「大問題」****
(中略)中国国家統計局は先週、去年年末の総人口が前の年と比べて85万人少ない14億1175万人と、61年ぶりに人口が減少したと明らかにした。(中略)

(中国国内事情に詳しい講談社編集次長)近藤氏は人口減少の背景について、「中国は1980年代から2015年までおよそ35年間一人っ子政策を続け、その結果、急激に子供が減る反面、高齢化が進み、人口ピラミッドがいびつな形となった」と指摘した。

また一人っ子政策を推進した鄧小平氏の政策について、「“大事な子供を全員、大学に入れよう”と、大学の数を急速に増やした。経済発展をするためには高学歴の若者を増やす必要があるという側面もあった。ところが、去年大学を卒業した中国人は1076万人、今年は1100万人以上。中国経済は減速しており、大卒の全員が就職するのは到底難しく、就職難に陥っている。これを『卒業即失業』と呼び、流行語になっている。」と述べた。

中国の人口減少の裏側で問題となっているのはこうした『若者の就職難だけではない』という。近藤氏は、「中国では結婚適齢期の男性が女性より3000万人多い。3000万人という数は日本の人口の4分の1に匹敵し、大変な男女比となっている。よって男性が結婚できないという深刻な問題が起こり、さらに人口減に拍車をかけている」と解説。(後略)【1月25日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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人口減少は日本でも社会・経済に大きな変革を促す大問題ですが、中国の場合、長年の人為的“一人っ子政策”及び根強い男子尊重の風潮などから、人口構成が非常に“いびつ”になっているという問題もあります。

習近平国家主席は5日、第20期中央財経委員会第1回会議を開催し、「質の高い人口発展で中国式現代化を支えることに関する問題を検討する」ことを強調しています。

****習近平総書記「質の高い人口発展で中国式現代化を支える」****
(中略) また、会議では、「現在中国の人口発展には少子化や高齢化、地域人口増減分化という傾向・特徴が見られる。こうした中国の人口発展の新たな状況を全面的に認識し、正しく捉えなければならない。

強国建設と民族復興という戦略的方針に着眼し、新時代の人口発展戦略を整備し、人口発展の新たな常態を認識し、これに適応し、導いて、人口の全体的資質の向上に力を入れ、適度な出生水準と人口規模の維持に努め、資質が優れ、総量が十分で、構造が最適化され、分布が合理的な現代化人的資源の育成を加速させ、質の高い人口発展で中国式現代化を支える必要がある。

系統的観念で人口問題を統一的に計画し、改革・革新によって質の高い人口発展を後押しし、質の高い人口発展と人民の質の高い生活とを密接に結び付け、人の全面的発展と人民全体の共同富裕を促進する必要がある」という点が強調された。【5月7日 レコードチャイナ】
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相変わらず、読むのに苦労する難解な共産党用語羅列ですが、要するに、国家発展のためにバランスのとれた人口増加に資するように務めなければならない・・・ということでしょう。

そうした習近平国家主席など党中枢の危機感も反映して、このところ中国版“異次元の少子化対策”とも言えるような、これまでの政策から大きく転換する施策が実施されています。

****中国・四川省、未婚女性の出産児も届け出容認へ…少子化進み「結婚の有無より産みたい意思」****
中国の四川省政府は、少子化対策の一環として、出産の際に未婚者が既婚者と同様に医療サービスを無料で受けることなどを可能にするために、関連法規を改正した。未婚女性が出産する際の不利益をなくし、出生数の増加につなげる狙いがあるとみられる。

四川省では現在、既婚カップルのみが、合法的に出産した子供を登録できる。2月15日以降は、既婚、未婚を問わず、生まれた子供を登録できるようになる。また、出産時の医療保険も、既婚者と同様に未婚者にも適用される。
 今回の改正について、四川省の衛生担当部局は、「結婚の有無よりも産みたいという意思に重点を置いた措置だ」と説明している。(後略)【1月31日 読売】
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“現在、既婚カップルのみが、合法的に出産した子供を登録できる”・・・・「未婚女性が出産した子供はこれまでどうしてのか? 戸籍外の「黒孩子」(闇の子)か?」というそもそもの疑問がありますが、日本でもとかく公的サービスから漏れてしまう未婚女性出産をカバーしようというのは前進でしょう。

30日の「結婚奨励有給休暇」あるいは「妊活有給休暇」の取り組みも。

****中国の一部省政府、結婚に30日の有給休暇 出生率向上を期待****
中国共産党機関紙、人民日報健康号は21日、国内のいくつかの省政府は結婚するカップルが増え、低迷する出生率が上昇するのを期待して、若い新婚夫婦に30日間の有給休暇を与えていると報じた。

中国では結婚の有給休暇は最低3日だが、2月以降、各省がより長期の休暇を独自に設定することが可能になった。甘粛省と山西省は30日間の有給休暇を出すようになったが、上海は10日間で、四川省はまだ3日間だという。(後略)【2月22日 ロイター】
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中国の場合、一部の省・都市で先ずやってみる・・・結果がよければ範囲を拡大して、やがて全国で・・・という方法がごく普通に取られます。

この点は、全国一律に拘り、とかく対応が遅れがちな日本も参考にすべきかと思いますが、“横並び意識”が強い日本では難しいのかも。そもそも“先ずやってみる。その後は結果を見て”という発想が日本にはない。
リスクを極限まで減らした全国一律の制度が出来るまで待っていたら、いつになってもスタートしないことにも。

【未婚女性の体外受精治療も容認】
少子化対策としての体外授精も重視されるようになっています。

****中国で急激な少子化…精子バンク登録で10万円も 名門大学で「頭に脱毛がない人」「身長165cm以上」が精子提供者の条件に***
最新の統計で人口減少局面に入った中国。急速に進む少子化を食い止めようと、「精子バンク」への登録が奨励されるなど、さまざまな対策が取られています。(中略)

未婚で長女を出産した女性  「(父親になるはずだった男性から)『もし男の子なら結婚を考えるけれど、女の子なら結婚しない』と言われました。価値観が合う人と家庭を作るのが一番ですが、『未婚の母』を選ぶのも悪いことではないと思います」 いまは子育てに専念していますが、ゆくゆくは仕事を再開し、自分の力で育てていくつもりです。 

(中略)四川省では先月からこれまで結婚している夫婦にしか認められていなかった子どもの戸籍登録が未婚者でもできるようになりました。これにより、出産時に医療保険が適用されるようになったほか、身元確認書類も発行されます。 

未婚で長女を出産した女性 「いろいろな意見はありますが、政府が支援するからこそ、(未婚での出産も)世間が受け入れやすくなります」 
シングルマザーを支援する弁護士 「これまで(出産時の)医療保険がもらえなかったので、制度改正はいいことです」 

さらに、いま中国で呼びかけられているのが… 「精子を提供するボランティアに5000元(約10万円)を支払います」 「精子バンク」への協力です。精子を不妊で悩む夫婦に提供することで、子どもを産んでもらおうというのです。 

東部の山東省政府は先月、精子を提供した20歳から45歳の中国人男性に対し、日本円でおよそ10万円を支払うとSNSで呼びかけました。 

さらに、上海の名門大学では精子を提供する人に対してこんな条件も… 「頭に明らかな脱毛がない人」 「身長は165センチ以上」 

当の男性たちはどう受け止めているのでしょうか? 「正常なことだと思います。これもある意味で良い精子を選ぶためです」 「応援します。国に貢献できるから」 

ただ、少子化の原因は晩婚化のほか、教育費などの経済的負担とみられています。 「経済が良くなって、物価もずっと上がっています。今の給料では、自分一人しか生活できません」 「世話をしてくれる人がいなくて、子どもを産んだ後に仕事ができない」 矢継ぎ早に打ち出される中国の少子化対策は、政府の危機感の裏返しともいえそうです。【3月1日 TBS NEWS DIG】
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精子提供を呼び掛けるのはいいとして、そこに外見的条件をつけるというのは日本ではNG。いかにも中国らしい“現実的対応”です。

前出の未婚者が既婚者と同様に医療サービスを無料で受けることなどを可能した四川省の場合、未婚女性の体外受精も認められています。

****中国人口減に歯止めか、独身女性の体外受精 一部で解禁****
人口減少にブレーキをかける取り組みを進めている中国にとって、33歳の女性チェン・ルオジンさんのケースが1つの打開策になる可能性を秘めている。

離婚を経験したチェンさんが暮らす四川省の省都、成都市は今年2月、婚外子の出生登録を合法化。これによって以前は結婚したカップルにだけ付与されていた出産休暇や児童手当の受給資格が、結婚していない女性にも認められた。

チェンさんから見て重要だったのは、市当局が民間医療施設における体外受精(IVF)も解禁したことで、今彼女は妊娠10週目に入った。

物流現場の仕事に携わるチェンさんは「シングルマザーになることはみんなにとって幸せとは言えないが、私は喜んで決めた。結婚するのと同じく、しないのも個人の判断だ。私はIVFを受けている多くの独身女性を知っている」と話した。

中国政府のアドバイザーは3月、過去60年で初めて人口が減少に転じ、急速な高齢化が進行する社会への懸念から、結婚していない女性に卵子凍結とIVF治療の利用を認めるよう提案した。

IVFが中国全土で自由化されれば、既に世界最大の不妊治療市場となっている中国で需要がさらに拡大してもおかしくないため、投資家の間でも期待が広がっている。

INVOバイオサイエンスのアジア太平洋事業開発ディレクター、イブ・ライペンス氏は「中国が政策を変更して独身女性が子どもを持つのを許したなら、IVF(体外受精)需要の増加につながる可能性がある」と述べた。同社は現在、中国でIVF技術を展開するため当局の承認を待っている状態で、昨年には広州市の企業と提携契約を結んでいる。

ただライペンス氏は、突然需要が上向けば中国が抱える供給制約の問題も一層大きくなってしまうと警告した。

中国国家衛生健康委員会(NHC)はIVF解禁についてのコメント要請には応じていないが、多くの若い女性が結婚や子どもを持つ予定を先送りし、教育費や育児費用の高さのために婚姻率が低下してきたと認めている。

NHCの四川支部は2月に婚外子登録やIVFを承認した際に、これは長期的にバランスの取れた人口の進展を促す狙いだと説明した。

上海市と広東省も婚外子登録は認めたものの、独身女性のIVF利用は引き続き禁止している。

<膨大な需要>
ライペンス氏は、新型コロナウイルスの流行前にフル稼働していた中国のほとんどのIVFクリニックは、再び同じ状況に直面する公算が大きいと予想する。IVFを受けたくても受けられない人々の具体的な推計値は存在しないが、治療中の何人かの女性は、診察を受けるまで数時間かかると明かした。

四川省の重慶市でIVFを受けている34歳の既婚女性は「病院には順番待ちの非常に長い列ができている」と語った。

学術誌や業界専門家によると、中国の官民の病院やクリニックは年間で約100万ラウンドのIVF治療サイクルを提供している。他の外国は通常150万ラウンド。治療費は中国では3500―4500ドルと米国のおよそ4分の1に規制されている。

中国にある官民のIVF取り扱い施設は539カ所。NHCは2025年までに230万人当たりに1カ所の割合で設置する方針で、実現すれば施設数は600カ所を超える。

中国のIVF市場は治療、医薬品、関連機器を含めて25年には足元の497億元の2倍近い854億元に達するとの調査結果もある。

中国のIVF施設に製品やサービスを供給しているメルク・チャイナのマネジングディレクター、ビビアン・チャン氏は、経済的にはあまり豊かでない内陸部の都市でも、北京や上海と似たような不妊治療施設の整備が急速に行われていると述べ、この分野で満たされない膨大な需要がある以上、中国のIVF市場の先行きを「とても楽観している」と付け加えた。(中略)

<広がる選択肢>
米国ではIVFサイクルの平均成功率は52%。これに対して北京の不妊治療専門病院のディレクター、リン・ハイウェイ氏によると、中国の場合、女性が受けるストレスの高さや平均出産年齢の上昇などのため成功率は30%強しかない。

人口問題の専門家は、中国には所得の低迷や教育費の高さ、社会的な安全網の不備、男女格差といったもっと関心を払うべき別の要素があるので、不妊治療サービスを提供しても人口減少の解決にはつながらない、とも主張している。

それでもIVFを全面解禁すれば、一定の影響は及ぼしそうだ。
リン氏の試算では、既に中国でIVFを通じて生まれた子どもは30万人前後と、新生児全体の約3%を占める。

同氏は「近くこれに関連した政策が打ち出され、子どもをほしがっている多くの人々を満足させ得ると信じている」と語った。

確かに中国では近年、出産をあきらめたり先送りしたりする女性も増えてきたとはいえ、全体的に見れば母親になりたい女性はなお多い。

湖南省出身で国際金融論を専攻する22歳の大学生ジョイ・ヤンさんは、テレビでIVFの話を最初に耳にした時、中国全土で解禁してほしいと思ったと話した。そうなればパートナーは探さなくとも金銭面の条件次第で子どもが持てるからだ。

「結婚はしたくないが、それでも子どもはほしいと思う相当数の女性はいる。私はIVFを選択するかもしれない」と語った。【5月7日 ロイター】
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【「新しい家族の形」】
中国政府が人口減少対策として全国的に公認する形になれば、未婚女性の体外受精、精子提供者の拡大、結婚を取り巻く厳しい環境・・・いよいよ結婚せずに、子供だけは体外受精で欲しいという社会スタイルが一般化しそうにも思えます。

日本では、第三者からの精子提供について、日本産科婦人科学会のガイドラインは「夫が無精子症などで、法的に結婚している夫婦」に限り、人工授精のみ認めています。そのため出産を希望する未婚女性は海外精子バンクなどを利用することが多いようです。

****「結婚より子どもが欲しい」 私がシングルマザーを選んだ理由****
結婚はしないが、子どもを持ちたい――。さまざまな理由から、あえて未婚のまま妊娠し、母となることを選ぶ女性たちがいる。

日本では長年、「結婚」と「出産」がセットで語られることが普通だった。経済的に自立した女性が増えたことなどを背景に、「新しい家族の形」が生まれている。(後略)【3月7日 毎日】
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人口減少以上に、大問題かも。
私個人は、付随する問題はあるにせよ、基本的には、結婚する・しない、出産する・しないは個人が選択する問題だと考えますので「いいんじゃね?」と思いますが、あくまでも結婚が社会の原則的構成単位で、未婚女性などの権利は一定に認めるにしても、あくまでもイレギュラーの扱いと考える伝統的価値観からすれば、社会の在り方を揺るがす問題とも思えるでしょう。

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