孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中台分断後初の「歴史的」中台首脳会談  習主席「われわれは1つの家族だ」

2015-11-07 22:56:48 | 東アジア

(会談に先立ち握手を交わす馬総統(左)と習主席(右) 【11月7日 時事】)

【「一つの中国」を認め合う「92年合意」を中台交流の基礎として改めて確認
中台首脳会談がシンガポールで7日に実施されることは今月4日に発表されたばかりですが、「中国の代表」として正統性を主張してきた双方のトップが直接顔を合わせる、中台分断後初の「歴史的」会談が行われました。

****中台首脳が会談=49年の分断後初めて―「一つの中国」確認****
中国の習近平国家主席と台湾の馬英九総統は7日、シンガポールのホテルで1949年の中台分断後初となる首脳会談を行った。

両首脳は会談入りに際して握手を交わした。

両岸(中台)の関係改善が地域の平和発展につながるとアピールし、「一つの中国」を認め合う「92年合意」を中台交流の基礎として改めて確認した。来年1月の台湾総統選挙で優位に立つ独立志向の最大野党・民進党をけん制する狙いがある。

会談の冒頭、習主席は「われわれがきょう一緒にいるのは、歴史の悲劇を再び繰り返さないためであり、両岸関係で得た平和と発展の成果を失わないためだ」と述べた。

また、「2人が会うことは歴史の1ページを開き、歴史に記録される」と意義を強調。「(馬政権との)7年間の積み重ねがあったからこそ、両岸双方は今日の歴史的な一歩を踏み出すことができた」と語り、関係改善に向けた馬総統の取り組みを評価した。

習主席はまた、「両岸の66年間におよぶ対峙(たいじ)は多くの同胞を隔て、無数の家庭に痛みをもたらした」と指摘。「私は両岸双方が共に努力し、『92年合意』を堅持し、共同の政治的基礎を強化して、両岸関係が正しい方向に発展し続けることを希望する」と訴えた。

一方、馬総統は「両岸関係は既に49年以来、最も平和で安定した段階にある」と表明。「『92年合意』を揺るぎないものとし、両岸の対立を交流に変える」と強調した。また、「92年合意」の強化など、両岸の現状維持に向けた5項目を提示した。

両首脳は会談で、互いを「習さん」「馬さん」と呼んだ。

中台分断は、日中戦争後、共産党が49年に中華人民共和国を建国し、中華民国の国民党が台湾に逃れたことに始まる。今回の首脳会談は、「中国の代表」として正統性を主張してきた双方のトップが直接顔を合わせる歴史的な対話で、今後の両岸関係や東アジア情勢に影響を与えそうだ。【11月7日 時事】 
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馬総統「台湾海峡の平和を固め、現状を維持することだ」】
馬総統は今回会談にあたって、「両岸(中台)の平和や台湾海峡の現状維持」が目的であるとし、南シナ海の領有権問題など対立しそうな議題は取り上げない意向を示し、また「いかなる協定にも署名しない。声明も出さない」とも強調しています。

問題を惹起することにもなる声明等はださないが、顔合わせすること自体が、これまで馬総統が進めてきた中台関係強化路線の実績、及び、そうした中台関係の安定化が台湾の発展につながるという主張をアピールすることになるとの判断でしょう。
また、歴史に名を遺す、自身の「レガシー」づくりの思いもあるのでは。

****<中台首脳会談>目的は「中台の平和や台湾海峡の現状維持****
 ◇7日にシンガポールで 49年の中台分断後初
・・・・習氏が6、7の両日、シンガポールを訪れるのに合わせ、馬氏が7日に同国を訪れる。

馬氏は2008年の総統就任以来、対中融和路線を促進。中国との関係改善に伴う台湾経済の発展などを政権最大の功績に掲げ、昨年2月には中台関係を主管する閣僚級会談が初めて実現した。

馬氏は昨年11月に北京で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の場で習氏との会談を模索したが、中国側が「国際会議の舞台の場を借りる必要はない」として拒否したとされる。

来年1月の総統選では、対中関係改善を進める与党・国民党の劣勢が伝えられる。国民党側には、中台トップ会談を実現させて、独立志向が強い野党・民進党をけん制する狙いがあるとみられる。

総統選候補に関する世論調査によると、民進党の蔡英文主席への支持率が国民党の朱立倫主席を上回っており、8年ぶりの政権交代の可能性が増している。民進党は、中国が交流の基礎と位置づける「一つの中国」を認めていない。

トップ会談の実現には、中台関係の安定化が双方の発展につながるとアピールする目的もあるとみられる。しかし、台湾では野党を中心に、首脳会談が統一交渉に結びつくのではないかとの警戒感が強く、反発が出そうだ。【11月4日 毎日】
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中国側の狙い:「両岸の指導者」が「一つの中国」を確認することで、独立問題について「釘を刺す」】
“中台トップ会談を実現させて、独立志向が強い野党・民進党をけん制する狙い”云々は、台湾・国民党側と言うよりは、中国・習主席側の狙いでしょう。

両首脳は、国家を明示することになる「肩書」は使用しないものの、「両岸の指導者」の名義で行われました。
これにより中国は、「一つの中国」の原則は1政党のトップである国民党主席としてだけではなく、『台湾の最高責任者』が認めた事実であるという主張が可能になり、独立志向の強い民進党の蔡英文主席が新総統になったとしても一定に「枠」をはめることができます。

*****中国・習近平国家主席と台湾・馬英九総統が会談 中台分裂後初、双方が「指導者」として認める*****
・・・・7日の会談が、「両岸の指導者」の名義で実施されることは、互いに「中台それぞれに統治機構が存在する」ことを認めたことになる。

特に中国側としては「台湾の進む道を決めるのは台湾の指導者」と認めたことになり、少なくとも形式的には大きな譲歩と言える。張主任は、肩書問題について「双方が合意した」と強調した。

ただし、張主任は会談の内容を「両岸の政治の分岐が未解決の状況下、1つの中国の原則から導かれる実務面の手配」と表現した。

つまり、中国側は「1つの中国との原則は、1政党のトップである国民党主席としてだけではなく、『台湾の最高責任者』が認めた事実」と、改めて主張できることになる。

台湾では2016年の総統選で、民進党の蔡英文主席が勝利する公算が高い。民進党は党綱領で、台湾独立を目指すことを明記している。

民進党が政権を奪取しても、台湾がただちに独立への具体的な動きをするとは考えにくいが、中国としては習・馬会談で、独立問題について「釘を刺す」ことになる。【11月4日 Searchina】
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習主席は「われわれは1つの家族だ」と「一つの中国」を協調しています。

****中台首脳会談、習主席「中台は1つの家族*****
シンガポールで歴史的な首脳会談を行っている中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は、台湾の馬英九(Ma Ying-jeou)総統に対し、中国と台湾は「1つの家族」で、引き離されることはないと述べた。

習国家主席は、「どんな力もわれわれを引き離すことはできない」と馬総統に語り掛けた。「われわれは1つの家族だ」(後略)【11月7日 AFP】
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“習氏は馬氏に「中華民族の偉大なる復興を共に図ろう」と呼びかけ、馬氏と「台湾も大陸の同じ中国に属しており、この事実を変えてはならない」という点で一致したという。”【11月7日 産経】とも。

曖昧な「92年コンセンサス」】
中台関係で常に問題となる「一つの中国」あるいは「92年コンセサス(92年合意)」というのは、台湾側の合意内容に関する解釈が、「一つの中国」の中身を敢えて曖昧にしようとするものでもあることに加え、中台双方の解釈が異なること、そもそも合意が存在したかにについても異論があることなどから非常にわかりづらいところがあります。

****92年コンセンサス****
東京外国語大学 小笠原 欣幸
・・・・「92年コンセンサス」は,1992年,中台双方の窓口機関の間での事務レベルの折衝過程で形成されたとされる。中国側はこれを「一つの中国原則を口頭で確認した合意」と解釈し,台湾の国民党は「一つの中国の中身についてそれぞれが(中華民国と中華人民共和国と)述べ合うことで合意した」と解釈している。

中国側は中華民国の存在を認めていないので,江沢民時代はこの台湾側の解釈を否定してきたが,胡錦濤時代になって台湾側の解釈を否定も肯定もしない方針に切り替え,2005年以降の共産党と国民党との連携に道を開いた。

馬政権登場後,中台はこれを話し合いの基礎とすることで一連の争点を棚上げし各種協定を結んだので,「92年コンセンサス」が一定の効用を持つことが示された。

民進党の蔡英文主席は,合意文書が存在しないこと,中国が台湾側の解釈を公式に認めていないことを理由として,それは「存在しない」と主張した。

「92年コンセンサス」がこの名称で呼ばれるようになったのは2000年以降であり,その解釈は中台双方のその時の力関係に左右される。

日本のメディアの中には「92年コンセンサス」について中国側の解釈のみを紹介しているところがあるが,「それぞれが述べ合う」ことが台湾の対等へのこだわりであり,これを省略したのでは,中台間の政治的駆け引きも,江沢民政権と胡錦濤政権の対台湾政策の違いも見えなくなる。(後略)【2012年2月8日執筆】
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中国の主張は「双方とも『一つの中国』を堅持する」(いわゆる一中原則)であるのに対し、台湾・国民党の主張は「双方とも『一つの中国』は堅持しつつ、その意味の解釈は各自で異なることを認める」(いわゆる一中各表)と異なります。

今回の両者の発言を見る限り、台湾・国民党側の「一中各表」は目立たず、「一中原則」だけがアピールされているようにも。(まあ、“解釈は各自で異なることを認める”ということを表に出すとまとまるものもまとまらないので、そこは暗黙の了解ということでしょうか)おそらく会談の中で、馬総統から台湾側の主張はなされたと思われます。

台湾側の民意は「一つの中国」より「台湾人」】
ただ、台湾世論の最近の傾向として、「中国人」ではなく「台湾人」としてのアイデンティティーの強調が見られ、「一つの中国」が受け入れられている訳でもありません。

****中台は“一つの中国”」習近平主席発言に台湾人の7割「受け入れられない****
「一つの中国」に関する台湾と中国本土との共通認識「九二共識」をめぐり、中国本土の習近平国家主席は先ごろ、「つまりは中国本土と台湾が一つの中国に属するということだ」と述べた。台湾で行われた世論調査では、習主席のこの発言について、68.8%の人が「受け入れられない」と答えたという。香港メディア・東網が25日伝えた。

調査は台湾の国会観察文教基金会が実施。台湾の馬英九総統が「『一つの中国』は堅持しながら、解釈はそれぞれにする」と主張していることに対して、「賛成しない」という人は53.2%だった。

同基金会の姚立明氏は、「多くの人が『九二共識』を基盤とした両岸関係を続けることを支持していないことが分かる。(中略)

先述の“中国人”と“台湾人”の話にもなりますが、2013年8月初旬に実施された「台灣指標調查研究股份有限公司」(「台灣指標民調」、TISR)による台湾の世論調査によると、「台湾人と呼ばれたいか、それとも中国人と呼ばれたいか」という質問に対して、82.3%が「台湾人」と答え、「中国人」と回答したのはわずかに6.5%でした。

「台湾人」と答えた者は、2003年には61.5%であったのが、2013年は上記のように82.3%に増加したとのことです。(2月6日 「平和外交研究」 美根慶樹氏 http://heiwagaikokenkyu.blog.fc2.com/blog-entry-237.html より)【5月25日 フォーカス・アジア】
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「一つの中国」や「一中各表」をどう考えるかとは別に、台湾世論の大多数の支持は、「不統(統一しない)、不独(独立しない)、不武(武力行使しない)」という「現状維持」にあると言われています。

その「現状維持」を実現しながら、中国との経済関係は重視せざる絵を得ない・・・・そのためには中国とどのようにつきあうかというのが台湾の課題です。

総統選挙勝利が見込まれる民進党・蔡英文主席の現実的スタンス
野党・民進党は党綱領では「独立」を掲げ、「92年コンセンサス」も正式には認めていません。
現状維持を目指す現実政策との整合性は、党内事情もあって棚上げ状態にもあります。

****台湾最大野党が党大会 「独立」で対立深まる****
台湾の最大野党、民主進歩党は20日、台北市内で党大会を開いた。大会では、党員から「独立」を掲げる党綱領を一部凍結する案と、2016年の次期総統選候補者に「独立」行程表の策定を求める案がそれぞれ提出された。

両案は「討論する時間がない」(蔡英文主席)として議決されず、中央執行委員会に付託されたが、中国との距離感をめぐり党内の路線対立が深まりつつあることを印象付けた。

独立綱領の「凍結」は、1月に発表した対中政策の見直し過程でも議論になった。
12年の総統選で候補者だった蔡氏は、財界などから対中政策を不安視され敗北した経緯がある。

このため、5月末に発足した蔡氏の執行部が、中国との交流強化を目指す上で、独立綱領の「凍結」にどう向き合うかが注目されていた。

だが蔡氏は、「台湾はすでに民主独立国家」だとして「独立」を事実上棚上げした1999年の「台湾前途決議文」が「党内と台湾の総意だ」と強調。

その一方で、19日には「独立は若い世代にとって『天然成分』であり、凍結できない」とも指摘した。

蔡氏がバランスに苦慮するのは、政治大選挙研究センターが9日に発表した世論調査で、独立支持が23.8%と92年の調査開始以降で最高となるなど、強固な支持基盤である独立派の発言力を無視できないためだ。

11月末の統一地方選を前に、党の結束の乱れが表面化するのを避けたい思惑もありそうだ。【2014年7月21日 産経】
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次期総統選挙での勝利がほとんど確実視もされている(おそらく今回の習・馬会談もその流れには大きな影響はないでしょう)蔡英文主席は、中国との関係を直ちに不安定化させる意図はないことをアメリカにも説明し、その点を憂慮もするアメリカのお墨付きも得ています。

総統就任後の中台首脳会談も否定はしていません。ただ、低支持率と任期切れ間近で“死に体”の状態にある馬総統が、民意に諮ることなく突然に首脳会談を実施して、今後の中台関係の枠組みにも強く関与することへの反発はあります。

****中台首脳会談】総統最有力候補の蔡英文氏、手続き批判も「当選したら会談排除しない****
台湾の野党、民主進歩党の総統選候補者、蔡英文主席は5日、分断後初の中台首脳会談が7日に行われることに関連し、「もし当選したら排除しない」と述べ、来年1月の総統選で当選した場合、自身も中国の習近平国家主席と会談する可能性を示唆した。

ただ、「公開、対等、政治的な話題に触れない」など「いくつかの条件が満たされた状況で」になると留保を付けた。蔡氏は中台の指導者の会談自体は「台湾社会は反対しない」とした上で、馬英九総統と習氏の会談は「社会の理解や合意」などの手続きの上で問題があると批判した。(後略)【11月5日 産経】
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どんな問題でも、曖昧にすることで現実的利益を維持しようという流れに対し、「はっきりさせろ」という批判はあります。

****台湾の立法院で若者ら抗議・・・・中台首脳会談控え****
中国の 習近平 ( シージンピン )国家主席、台湾の 馬英九 ( マーインジウ )総統の歴史的会談を控え、台北市にある台湾の立法院(国会に相当)には中国の影響力が強まることに反発する市民約200人が集まり、6日深夜から7日未明にかけて抗議活動を行った。

集まったのは若者が中心で、「台湾の主権は譲れない」と叫び、横断幕を掲げ、一部は立法院の敷地内に侵入した。警官隊に排除されたが、一時は激しいもみ合いとなる場面もあり、逮捕者も出た。馬氏は7日朝、会談が行われるシンガポールに飛行機で向かったが、空港周辺でも散発的に抗議活動が行われた。【11月7日 読売】
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台湾の場合、主権の問題を明確化させれば独立という話にも行き着き、中国との経済関係はもちろん、安全保障上の大問題ともなりますので、難しいところです。



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