孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  国内ではドゥテルテ家と、国外では中国との対立激化

2024-11-23 23:51:38 | 東南アジア
(フィリピンのマルコス大統領(右)とサラ・ドゥテルテ副大統領=マニラで2022年6月、ロイター【11月23日 毎日】  蜜月時代の写真です。 サラ氏がおとなしくマルコス氏に従うとは思っていませんでしたが・・・)

【次期大統領とドゥテルテ前大統領の麻薬問題に絡む超法規的殺人及びICC逮捕状をめぐるドゥテルテ家とマルコス大統領の争い】
フィリピンでは国の内と外で争い・対立がヒートアップしています。

国内の方は、いささか週刊誌ネタ的ですが、ドゥテルテ前大統領とその娘サラ副大統領のドゥテルテ家と名門マルコス家のマルコス大統領の争い、国外では以前からの中国との領有権をめぐる争いです。

では「殺し屋を雇った」云々の週刊誌ネタの方から

ドゥテルテ家とマルコス大統領の間にはふたつの争いの種があります。ひとつは次期大統領をめぐる確執。

“マルコス氏が今年初め、公職の任期を制限している憲法の規定の見直しに言及したことから、ドゥテルテ一家が「大統領任期の延長を模索している」と猛反発。両家の間に亀裂が生じ、サラ氏は6月には兼務していた教育相などの辞任を表明した。下院は現在、サラ氏の公金不正使用疑惑に関する公聴会を開いている。”【11月23日 時事】

ドゥテルテ家としてはマルコス大統領誕生にサラ氏が協力してやったのだから、次はサラ氏に・・・という思惑(合意?)がありますが、マルコス大統領側にそれを無視するような動きがあるとの不満があるようです。

これだけであれば「水面下」の争いになりますが、争いを表沙汰にしているのがもう一つの火種、ドゥテルテ前大統領の任期中の麻薬問題取締りに関する超法規的な殺人、それに対する国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状の扱い。

ドゥテルテ前大統領は2016年の就任後、麻薬犯罪の撲滅を掲げ、強硬な取り締まりを主導。警官による容疑者の殺害を事実上容認しました。フィリピン政府によると死者は6千人超、国連人権高等弁務官事務所は20年の報告書で8663人が死亡したとしています。人権団体調査では2万人を超えるとも。なかには無関係の者を殺害とか、麻薬を名目にした警官による殺人とか・・・いろんなケースも。また、警官でもない謎の集団が麻薬関係者と思われる者を殺害してまわったとも。

ICCの検察局は2018年、フィリピン人弁護士の告発を受けて予備調査を開始。21年9月に正式な捜査を承認しましたが、フィリピン側が「すでに捜査している」などと主張したため、21年末に中断していました。

しかし、ICCの検事が、2022年6月に発足したマルコス政権が徹底した調査を実施している証拠を示していないとし、調査の再開を求めました。それを受け、ICCは調査の再開を承認。2023年1月26日の声明で、フィリピンが十分な捜査を行っていないと指摘しました。

ドゥテルテ・マルコス両者の間には大統領選挙で協力するにあたり、前大統領の麻薬取締り問題の責任を問わない・・・といった合意の類があったようにも見受けらますが、ここにきてマルコス大統領がICCに協力する姿勢を見せていることに、ドゥテルテ側が反発を強めています。マルコス大統領の対応は、前述の次期大統領をめぐる争いも絡んのことでしょう。

****フィリピン、ドゥテルテ前大統領に逮捕状なら国際刑事裁に協力へ****
フィリピン政府は13日、ドゥテルテ前大統領が進めた違法薬物の取り締まりで数千人が死亡した問題について、ドゥテルテ氏が国際刑事裁判所(ICC)への自首を望むのであれば阻止しないと表明、同氏に逮捕状が出れば従わざるを得ないと述べた。

ドゥテルテ氏は同日、議会の公聴会でICCを恐れてはいないと発言。ICCに対し人道の罪を巡る捜査を「急ぐ」よう求めた。

マルコス大統領の事務所は数時間後に声明を発表し、国際刑事警察機構(インターポール)から要請があればドゥテルテ氏の身柄引き渡しを検討すると表明。

ベルサミン官房長官は「政府は国際逮捕手配書が出れば、応じる必要のある要請だと感じるだろう。その場合、国内の法執行機関は全面的な協力しなければならない」と述べた。

フィリピン政府がICCに協力する意向を示唆したのは初めて。

ドゥテルテ氏はICCが違法薬物の取り締まりを巡る予備調査を開始したことを受けて、2019年3月にフィリピンのICC脱退を決めた。【11月13日 ロイター】
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ドゥテルテ前大統領は公聴会で「(ダバオ市長時代に自らが)少なくとも6人を殺害した」と挑発的な発言も

****ドゥテルテ前大統領 違法薬物取り締まりで「少なくとも6人殺害した」ICCを挑発…“麻薬戦争”めぐる捜査にフィリピン政府は協力姿勢を表明****
フィリピンで「麻薬戦争」と呼ばれる強硬な取り締まりを行ったドゥテルテ前大統領が、自らも容疑者などを殺害したことがあると明らかにしました。フィリピン政府は、国際刑事裁判所の捜査に協力する姿勢を見せていて、逮捕の可能性も浮上しています。

「麻薬犯罪の撲滅」を掲げていたドゥテルテ前大統領は、容疑者の殺害もいとわない強硬な取り締まりを行い、人権団体によりますと、死者は2万人を超えるとされています。

現地メディアによりますと、ドゥテルテ氏は13日、2回目となるフィリピン議会の公聴会に出席し、自身も大統領就任前に「少なくとも6人を殺害した」と明らかにしました。

そのうえで、ドゥテルテ氏を人道に対する罪で捜査しているICC=国際刑事裁判所に対し、「ここに来てあすにでも捜査をはじめてほしい。私は怖くない」と述べ、挑発しました。

こうした発言を受け、フィリピンのベルサミン官房長官は、ドゥテルテ氏の逮捕が要請された場合、司法当局には協力する義務があると表明。現在のマルコス政権がICCに協力する姿勢を見せたのは初めてで、今後の捜査の行方が注目されます。【11月14日 TBS NEWS DIG】
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就任前の南部ダバオ市長時代には、ギャングで組織する「殺人部隊」を麻薬対策に当たらせていたとも証言しています。

「やれるものならやってみろ。逮捕? 上等じゃないか。どうぞ逮捕してくれ」とったようにも聞こえます。
ドゥテルテ前大統領の強気の背景には、国民的支持があります。麻薬問題に関しても、前大統領の強硬な取締りのおかげで治安が回復したとの評価があります。

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(ICCがドゥテルテ氏の逮捕を要請した場合、身柄拘束に協力する意向を表明した)マルコス氏の発言の背景には、ドゥテルテ家との対立がある。

ドゥテルテ氏の長女であるサラ副大統領は、28年の次期大統領選挙への出馬をにらみ、現政権を支えるべき立場でありながら政権批判を繰り返している。

ドゥテルテ氏も、25年5月の中間選挙(上下両院選、地方選)にあわせ、ダバオ市長選出馬を表明しており、当選すればサラ氏を勢いづけることになる。

根強い支持
ただし、ドゥテルテ氏への支持は国民の間でいまだに根強い。マルコス政権がドゥテルテ氏の包囲網をさらに狭める姿勢をとれば、「逆に同情票という形でドゥテルテ家を利する」(フィリピン政治専門家)との見方があり、ドゥテルテ氏もこうした効果を狙って一連の証言をしている可能性も指摘されている。

政権は選挙を前に、ICCや世論の動向を見ながら、慎重に対応を検討するとみられる。【11月16日 読売】
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両家の対立はヒートアップ、(こわもてで知られる父親の前大統領以上に強気とも評される)サラ副大統領からは「殺し屋(ヒットマン)」云々の発言も。

****フィリピン副大統領、対立するマルコス大統領夫妻に「殺し屋雇った」****
フィリピンのマルコス大統領夫妻らに対し、ドゥテルテ前大統領の長女サラ副大統領が「殺し屋を雇った」と発言し物議を醸している。大統領府は23日、これを「脅迫」とし、早急な措置を取ると発表した。

サラ氏は、機密費の不正使用を指摘され、下院などによる調査が続く。地元メディアによると、サラ氏は23日未明、疑惑に関する記者会見の中で、自身の命が狙われているとし、「もし私が殺されたら(殺し屋が)大統領らを殺す。ジョークではない。すでに指示を出した」と述べた。

これに対し大統領府は声明で「大統領の生命に関するいかなる脅迫も深刻に受け止められる。今回は、公の場で明確に行われており、なおさらだ」とし、大統領の身辺警護を強化する方針を示した。

マルコス氏とサラ氏は、2022年の正副大統領選で共闘してそれぞれ当選したが、その後、関係が悪化。ドゥテルテ氏が大統領在任中に進めた超法規的な麻薬撲滅作戦についても、上院などの調査が続いており、マルコス氏とドゥテルテ家の対立が高まっている。【11月23日 毎日】
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“サラ氏は会見で「マルコス氏の妻といとこの下院議長も対象だ。これは冗談ではない」と言明。「ヒットマンには最後までやり抜けと命じた」と語気を強めた。

サラ氏はこれまで、マルコス氏について「首を切り落としたいぐらい無能だ」と指摘。「私たち家族に対する攻撃をやめなければ、マルコス氏の父、マルコス元大統領の墓を掘り起こして遺骨を南シナ海に捨てる」などと述べていた。【11月23日 時事】”

まあ、サラ副大統領も“もし私が殺されたら”という条件付きの殺害指令ではありますが・・・

全体のイメージとしては、こわもて揃いのドゥテルテ側は、当初は名門マルコス家の世間知らずの御曹司などいかようにも操れるという思いがあったのでは・・・しかし、実際にはマルコス大統領は独自に動き回るようになって、ドゥテルテ側では怒りを募らせている・・・というようにも見えます。あくまでも個人的な感想です。

【フィリピンは南シナ海での自国の権利を明確化する法律 中国は領海の基線を設定】
マルコス大統領が政策面で“独自色”を出しているのが、ドゥテルテ時代の宥和的な対応から変わった対中国強硬姿勢です。

フィリピンと中国の南シナ海での領有権をめぐるこれまでの争いは周知のところですので省きます。

****比、南シナ海での権利明確化…法律施行へ 中国側は反発****
フィリピンのマルコス大統領は8日、南シナ海での自国の権利を明確化する法律に署名しました。近く施行される見通しで、中国側は反発しています。

南シナ海ではフィリピンと中国が互いに領有権を主張し両国の船が衝突を繰り返しています。

地元メディアなどによりますとフィリピンのマルコス大統領は8日、国際法に基づいた南シナ海での主権や権益を明確化した法律に署名しました。

新たな法律では漁業権や船の航行などについて、フィリピンの権限を明確化していて、海域内で権利侵害があった場合、罰則を科す場合もあるということです。この法律は近く施行される見通しです。

一方で、中国側は今年6月、中国が主張する領海内に違法に侵入した外国人を最長で60日間拘束できるとする法令を施行しています。

フィリピンの新たな法律を巡って、中国側は8日、厳粛な申し入れを行うためとして中国のフィリピン大使を呼び出したということで、フィリピンと中国の間でさらに緊張が高まる恐れがあります。【11月8日 日テレNEWS】
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今回署名された法律は、南シナ海での自国の権利が及ぶ範囲を明確化する海域法などです。

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新たな海域法では、領海や排他的経済水域(EEZ)を定めた国連海洋法条約などを基に、南シナ海でのフィリピンの海域と権限を改めて規定した。

中国は南シナ海のほぼ全域に自らの主権や権益が及ぶと主張しているが、これを否定した2016年のオランダ・ハーグ仲裁裁判所の判決も根拠とした。

外国に対して、国際法に基づく権利と義務に配慮するとしつつ、比海域内で権利侵害があった場合には刑法を適用するとした。60万ドル以上100万ドル以下の罰金を科す場合もあるとしている。官報に掲載後、15日後に施行される。【11月8日 毎日】
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これに対し中国は・・・

****中国「黄岩島」に領海基線 南シナ海、実効支配強化****
中国政府は10日、フィリピンと領有権を争う南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)を巡り、領海の基線を定めたと発表した。国営通信新華社が伝えた。

同礁はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にあるが、中国は領有権を主張している。基線制定は自国領との主張を改めて強調し、実効支配を一段と強める狙いとみられる。
 
基線は領海やEEZの範囲を測定する際の基準となるもので、干潮時の海岸線を基本とする。フィリピンは8日、南シナ海の権益を守るため、国際法に基づき領海やEEZを定める海域法を成立させており、中国は基線制定で対抗する考えだ。【11月10日 共同】
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こうした中国の対応に、当然ながらフィリピン側は反発を強めています。

****フィリピンは「中国の侵略の犠牲者」、南シナ海巡る圧力に反発****
フィリピンのテオドロ国防相は12日、キャンベラでマールズ豪国防相と会談した後、南シナ海での主権的権利を譲るよう迫る中国からこれまで以上に圧力を受けていると述べた。フィリピンは「中国の侵略の犠牲者」とも語り、こうした圧力に反発した。

両国防相の会談は2023年8月以来5度目。南シナ海での中国の活動に懸念を表明している豪比は安全保障上の関係を強化している。

テオドロ氏は、中国の主張と行動は国際法に反しており、オーストラリアのようなパートナーとの安保協力は中国の侵略を抑止する重要な手段だと述べた。

「彼ら(中国)は国際法の下で行動していると主張するが、彼らのやっていることが国際法の基本的な考えに反していることは誰もが知っている」と指摘。「その最大の証拠は誰も彼らの行動や活動を実際に支持していないことだ」と語った。(後略)【11月12日 ロイター】
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フィリピン外務省は13日、中国が実効支配する南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)の領海基線を発表したことを巡り、中国大使を呼び「中国の基線はフィリピンの主権を侵害し、国際法に違反している」と抗議しています。

こうした状況で、両国の争いの中心に位置する問題でもある仁愛礁(フィリピン名アユンギン礁、英語名セカンド・トーマス礁)に座礁している艦船「シエラマドレ号」にフィリピンが補給物資を送ったと明らかにしたましたが・・・・

****フィリピンが南シナ海座礁艦船に物資補給、中国は「許可」と主張****
中国は15日、南シナ海にある係争中の仁愛礁(フィリピン名アユンギン礁、英語名セカンド・トーマス礁)に座礁している艦船「シエラマドレ号」にフィリピンが補給物資を送ったと明らかにした。

フィリピン沿岸警備隊は声明で、シエラマドレ号の人員を交代させ、同艦に物資を送ったと説明した。

中国は南シナ海のほぼ全域の領有権を主張しており、シエラマドレ号は「違法に」座礁したと見なしている。海警局は同艦への物資輸送について「許可を得て」行われたと説明した。

フィリピン沿岸警備隊はこの主張に反応を示していない【11月15日 ロイター】
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この件での中国側報道では・・・

****中国海警局報道官、比「座礁」軍艦への物資補給で談話****
中国海警局の劉徳軍(りゅう・とくぐん)報道官は15日、フィリピンが南沙群島の仁愛礁に座礁させた軍艦に補給物資を送ったことについて談話を発表した。

劉氏は次のように述べた。フィリピンは14日、中国の許可を得て民間船を派遣し、仁愛礁に不法に「座礁」させた軍艦に生活物資を搬送した。中国海警はこれを確認するとともに全過程を監督管理した。

フィリピンが約束を誠実に守り、中国と共に歩み寄り、海上情勢を共同でしっかりと管理することを希望する。中国海警は引き続き法に基づいて仁愛礁を含む南沙群島およびその周辺海域で権益擁護・法執行活動を行う。【11月15日 新華社】
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“中国の許可を得て民間船を派遣し、・・・・中国海警はこれを確認するとともに全過程を監督管理した”
完全に中国側の支配権をフィリピン側が認めたような表現です。

真相はわかりません・・・が、これまで再三衝突が起きているシエラマドレ号への物資補給ですから、フィリピン側から中国への何らかのコンタクトがあっても不思議ではありません。あくまでも想像です。真相はわかりません。

【フィリピン  アメリカ・日本と協調して中国に対抗する戦略 米の政権交代で?】
フィリピンはアメリカ、更には日本とも協調して中国に対抗する構えです。

****米比、軍事情報協定に署名 日本とも交渉、連携強化を目指す***
オースティン米国防長官とフィリピンのテオドロ国防相は18日、マニラで、トランプ米次期政権の発足を前に軍事機密情報を共有する軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に署名した。

テオドロ氏は今年5月、共同通信に対し、米国との締結後、日本ともGSOMIA交渉に入る方針を示しており、日米比で一層の連携強化を目指す。

南シナ海で威圧を強める中国に対抗し、国際法に基づく海洋秩序を唱える米比は、GSOMIAの年内締結を目指して交渉を続けてきた。

オースティン氏は、相互防衛条約を結ぶフィリピンとの連帯は「揺るぎない」とし、「同盟関係を超えた家族だ」と指摘した。

テオドロ氏は、インド太平洋地域の平和維持には米国が必要だとのマルコス政権の立場を強調。「(政権を担う)人が代わっても自由という価値観は変わらない」と述べ、米政権交代後の協力維持への期待感を示した。

中国外務省の林剣副報道局長は、米比がGSOMIAに署名したことに「いかなる軍事協定も第三国の利益を損ねてはならない」と述べてけん制した。【11月18日 共同】
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「(政権を担う)人が代わっても自由という価値観は変わらない」・・・そうでしょうか? トランプ氏にそういう価値観はないように思えますが。
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