孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ソマリア  深刻な飢餓の脅威が迫る状況で、大統領と首相の確執で政治は混迷

2021-12-29 23:13:52 | アフリカ
(アフリカ・ソマリアのモハメド・アブドラヒ・モハメド大統領が27日にモハメド・フセイン・ロブレ首相の権限を停止したと発表したことを受け、数百人におよぶロブレ首相派の治安部隊が28日、大統領官邸近くに集結している。写真はソマリアで27日撮影 【12月29日 ロイター】)

【「すしざんまい」社長「美談」の落とし穴 難しい情報評価】
アフリカ東部のソマリアについては、ひと頃「海賊問題」が国際的関心事となり、スエズ運河を経由して欧州とアジアを結ぶ海路の大動脈にあって多くの船舶が往来する日本にとっても重要な問題となりました。

「海賊」の方は、最近では収まったようですが、そのソマリア海賊の収束に関して、初競りで大間産の本マグロを1億、2億と言った高額で競り落として話題にもなる寿司レストランチェーン「すしざんまい」を運営する喜代村の木村清社長が多大なる貢献をしているという、初耳の記事を目にして驚きました。

****「お前らを漁師に戻す」ソマリアの海賊をあっという間に消滅させた"すしざんまい社長"の声かけ****
(中略)
脅威は海運業界に大きな負担を強いて国際問題となっていた。それが2013年頃から急に海賊がいなくなったのである。(中略)木村社長に直接会って話を聞いた。

「好き好んで海賊をやっているんじゃない」
ソマリア沖はキハダマグロが獲れる良い漁場なのだが、海賊の出没騒ぎで漁ができなくなった。調べてみると、誰も海賊たちと話したことがないという。海賊だって同じ人間なのだから会って話を聞いてみようと、ソマリアに出かけた。

内戦が続いてボロボロになった国では、生きていくだけでも悲惨な日々で、それは漁師たちも同じだ。貧困と飢えは、目の前を往来する世界中の船団、「宝船」に目を向けさせた。

漁師たちはついに禁断の大海原の強盗と化してしまい、平和な海は無法地帯になった。ところが彼らと話してみると、好き好んで海賊をやっているんじゃない、ただ生きるためだと言う。じゃあ、マグロを獲ればいいじゃないか、もっと誇りを持った人生にしなくちゃいかんと話した。

「マグロ漁の方法は教える! 漁船も私がすべて調達して、まず4隻を持ってきて与える! もちろん、ソマリア国内にマグロの冷凍倉庫や流通設備は私が整えるし、そのマグロはすべて買い取る! そうすれば本来の漁師に戻れるだろ! 船も確保されて、売り先も心配ないとなれば、何も問題はないだろう!」

そうして、年間に300件以上も発生していた海賊襲撃被害は2014年以降からパタッと消滅した。正直、まだ採算はとれていないが、利益が出る目論見は立っているという。

「商売は、目先の利益を考えたらいかん。どうやったら喜んでもらえるか、何を求められているかに応えるのが商売だ」

その年に、アフリカ・ソマリア沖の海賊問題解決とマグロ漁場開拓のため、ソマリアの新政府に民間による漁業支援を申し出た。

和食が世界的にブームになり、乱獲で漁獲量も激減し始めていたから、ソマリアの件がうまくいけばマグロが入手できる上に海賊行為もなくなるという一石二鳥の名案であった。(後略)【12月23日 黒木 安馬氏 PRESIDENT Online】
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「そんなことがあったの!?」って驚いたのですが、すぐにこの「美談」が事実と異なることが指摘されています。

****バズった「すしざんまい」美談 「ソマリア海賊消滅に貢献」の裏側****
「すしざんまい」を運営する喜代村の木村清社長が「ソマリアの海賊をあっという間に消滅させた」という記事がSNSで広く拡散されました。しかし、同社によると、実際はソマリアの「海賊らしき人」への支援にとどまり、「海賊消滅」に貢献した事実は確認できないといいます。(中略)
 
「話に尾ひれ、美談が強調」
同社広報によると、2010年ごろからソマリア沖周辺でのマグロ漁の可能性を探っていたといいます。木村社長は自らソマリアの隣国ジブチに入国。自衛隊が海賊対策のために派遣され、拠点を置いていた国です。ここから、ソマリアに入ったといいます。
 
同社広報は取材に「ソマリアでは海賊らしき人と話して、マグロ漁の技術的な指導や加工技術を伝えました」「船は寄贈しましたが、冷凍倉庫や流通設備はもともと政府の途上国援助(ODA)であったものを利用したと聞いています」と明かしてくれました。
 
つまり、木村社長がソマリアで支援をしたのは「元海賊」かどうかは不明で、「ソマリアの海賊をあっという間に消滅させた」という事実も認められないということでした。同社広報は「話に尾ひれがついてしまっています。美談の部分が強調されています」と教えてくれました。(中略)
 
同社によると、現在はソマリアでの活動は中断しているといいます。治安が悪化し「渡航が難しくなったことが原因です」(同社広報)。
 
筆者に問い合わせたところ、木村社長には1時間程度面会し、事実関係の裏取りまでできていないという内容の回答がありました。記事を掲載した「プレジデント オンライン」編集部は「掲載時には事実関係をチェックしているが、確認不足だった」として、24日午後に記事を削除しました。

海賊が減った本当の理由
一方で、10年代半ば以降、ソマリアの海賊はたしかに減少していきました。本当は何が起きていたのでしょうか。
 
ソマリアを中心にテロ組織からの投降兵と逮捕者の脱過激化に取り組む「アクセプト・インターナショナル」の永井陽右代表理事は「海賊が激減した理由は、多国籍のソマリア沖パトロールと、ソマリア北東部のプントランド自治州による湾岸警備が機能したからです」と説明します。
 
さらに、ソマリア北部の刑務所では、元海賊への再犯防止プロジェクトも展開されています。こうした、国際的な取り組みと草の根の活動がリンクして、ようやく海賊が減っていったといいます。
 
今回のようにひとりの民間人が乗り込んで「ソマリアの海賊を消滅させた」という説に対しては、「問題解決の現場に対する人々の理解をねじ曲げてしまう。そして誤った理解は問題の構造をさらに悪化させる。メディアは社会的責任を考えなければいけない」と永井氏は危機感を述べています。

「まなざし」のくもりを取り払う
(中略)冷静に考えると、民間人だけで国際問題を解決するのは難しいはずです。それなのに、なぜ、これほど多くの人が信じ、称賛してしまうのでしょうか。
 
その心理の奥には、どこか遠く離れたアフリカへの偏見はないでしょうか。アフリカ地域の事情について、私たちはあまりに知らなすぎるのではないでしょうか。だから、こうした美談に飛びついてしまうのではないでしょうか。
 
現地で活動を続ける永井氏は「より良い世界のためには、インターネットに出てこない無数の人々による地道な貢献こそ、理解され、応援されるべきだ」とも伝えています。
 
少しだけ、私たちと同じ時代を生きるアフリカ地域で暮らす人びとのことを考えてみませんか。私たちがアフリカをみる「まなざし」のくもりを取り払うためには、その一歩が大切になると信じています。【12月24日 朝日】
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世界は広く、個人の日常空間は限定されていますので、「私たちはあまりに知らなすぎる」のは一定に止む得ないところも。

ネットに溢れる情報をフィルターにかけて「怪しいもの」をふるい落とすことは、なかなか難しい作業です。
特に、自分の考えるところに沿うような情報については、つい無批判に受入れがちです。
私も気をつけないと・・・。

【中国を念頭に、この地域への関与を縮小するアメリカ・日本】
でもって、海賊は収まりましたが、無政府状態に長くあったソマリアの状況が大きく改善した訳でもないようです。
イスラム過激派アルシャバーブの活動も続いているようです。

“ソマリア首都で車爆弾 20人死亡、30人負傷”【3月7日 CNN】

****米軍、ソマリアで空爆=バイデン政権で初****
米国防総省は20日、ソマリアでイスラム過激派アルシャバーブに空爆を加えたと発表した。ソマリアでの空爆はバイデン米政権発足後初めて。

空爆はソマリア中部ガルカイヨ近郊で行われた。具体的な標的は不明。国防総省は声明で、空爆による被害状況の確認を終えていないとしつつも「初期分析によれば民間人に死傷者はいない」と強調した。【7月21日 時事】 
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ソマリア情勢があまり報じられないなかにあって、やや唐突な感もあった米軍空爆でしたが、アメリカにとってソマリアは、映画「ブラックホーク・ダウン」にも描かれた「大失敗」のトラウマを引きずる場所。アメリカがアフリカに関与したがらない遠因ともなっています。

米軍は基本的にはこの地域からの撤退を進めています。

****ソマリアから米部隊の大半撤退へ、トランプ氏が命令****
米国防総省は4日、ドナルド・トランプ米大統領が、ソマリアに駐留する米部隊の大半を撤退させるよう命じたと発表した。ソマリアには約700人が駐留し、イスラム過激派組織「アルシャバーブ」対策やソマリア軍の訓練に当たっている。

国防総省は、トランプ氏が「国防総省と米アフリカ軍に、2021年初頭めまでに人員と資産の大部分をソマリアから撤退させるよう命じた」と明らかにした。

国防総省はこの対応について、米国がアフリカから撤退するわけではないとした上で、「米本土を脅かす恐れのある過激派武装組織を弱体化させ続けると同時に、大国間競争でのわが国の戦略的優位を維持し続ける」と述べた。 【2020年12月5日 AFP】
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バイデン政権の考えは知りませんが、イラク、アフガニスタンからの撤収とも軌を一にする動きで、中国を念頭に置いた再配備を重視するバイデン政権もソマリアにはあまり関与する考えはないのでは・・・。

日本も、対中国を念頭に、海上自衛隊の護衛艦を帰還させることを決定しています。

****中東海域派遣の護衛艦、帰還へ 日本周辺の警戒態勢強化****
政府は24日の閣議で、情報収集活動のため中東海域に派遣している海上自衛隊の護衛艦1隻について、26日までの派遣期間を延長しないことを決めた。

海洋進出を強める中国をにらみ、護衛艦を帰還させて日本周辺海域の警戒監視態勢を強化する。情報収集活動は、アフリカ東部ソマリア沖のアデン湾で、海賊対処行動に従事する別の護衛艦1隻が兼務する。
 
中東への護衛艦派遣は、米国とイランの対立を受け、日本に関係する民間船舶の安全確保を目的に2020年に始まった。日本は米・イラン両国に配慮し、イランに近いホルムズ海峡などを活動海域から除き、同海峡手前のオマーン湾などに護衛艦を派遣している。任務を集約した護衛艦の新たな活動期限は22年11月19日。
 
防衛省などによると、活動開始以降、情報収集部隊が21年10月末までに確認した船舶は10万6491隻に上る。政府は中東地域で高い緊張状態は継続しているとしながらも、「日本関係船舶に対する特異な事象は確認されず、直ちに防護を要する状況にはない」と分析。

また、アデン湾での海賊対処行動については「海賊の発生件数は低水準で推移し護衛回数も減少している」として、海賊対処に当たる護衛艦に情報収集を兼務させることが可能と判断した。
 
日本周辺海域では、中国が公船による沖縄県・尖閣諸島周辺への領海侵入などを繰り返し、海洋進出を強めている。政府は日本周辺の海自の体制を手厚くし、喫緊の課題である南西諸島方面の防衛力強化を図る。【12月24日 毎日】
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【干ばつの脅威 4人に1人が餓死寸前】
アルシャバーブ以上に深刻なのは干ばつによる「飢餓」の脅威です。

****ソマリアで干ばつ悪化 4人に1人「急性飢餓」の危機****
国連は20日、紛争で荒廃した東アフリカのソマリアで雨期の降水量が3期連続で少なかったことから干ばつが深刻化し、ほぼ4人に1人が餓死寸前の「急性飢餓」の危機に直面していると警告した。
 
次の雨期も雨はあまり降らない見通しで、事態はさらに悪化し、来年5月までに460万人が食料支援を切実に必要とする状態になると国連は指摘している。
 
すでに16万9000人が食料、水、牧草地の不足のため住んでいた土地を捨てて避難せざるを得なくなっており、その数は向こう半年以内に140万人に膨れ上がるという。
 
国連ソマリア支援ミッションのアダム・アブデルモウラ氏はAFPのインタビューで、「最悪の事態が迫りつつある」と述べ、今後数か月間で5歳以下の子ども30万人が「重度の栄養失調」に陥る恐れがあると警鐘を鳴らした。
 
国連は、来年中にソマリアの全人口約1590万人のほぼ半数に相当する770万人が人道支援と保護を必要とするとみて、危機に対応するため約15億ドル(約1700億円)の資金拠出を呼び掛けている。
 
ソマリアでは10人に7人以上が貧困ライン以下の暮らしを送っている。 【12月20日 AFP】
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【混迷する統治 大統領と首相の確執】
こうした危機的状況に政府がどのように対応できているのか・・・・どうも対応できていないのでは・・・というのが、「マッドマックス」や「北斗の拳」の世界を地で行くような「無政府状態」を長く続けたソマリアの抱える大きな問題です。

大統領選挙を巡っても政争に明け暮れ、状況は二転三転・・・。

“ソマリア大統領が任期切れ 予定の選挙、実施できず”【2月9日 朝日】
“ソマリア大統領、選挙せず任期を延長へ 米「深く失望」”【4月15日 朝日】
“10月にソマリア大統領選出 政治家の投票で”【6月30日 産経】

結局、10月の選挙も実施されていません。
政局混迷の背景に、大統領と首相の確執があるようです。

****ソマリア大統領、首相を停職に 選挙めぐり対立激化****
東アフリカ・ソマリアのモハメド・アブドラヒ・モハメド・ファルマージョ大統領は27日、選挙をめぐって対立するモハメド・フセイン・ロブレ首相を停職処分としたと発表した。ロブレ首相は憲法違反だと主張しており、確執が深まっている。
 
大統領府は、ロブレ首相が土地収奪事件の捜査に介入したとして「首相に汚職関与の疑いがあることから、停職させ権限を停止すると決定した」と発表した。

これに先立ちロブレ首相は26日、ファルマージョ大統領が首相の選挙実施権限を取り消し、間違いを「正す」ためとして新たな委員会を招集したのは選挙プロセスの妨害だと非難していた。
 
停職の発表を受け、ロブレ首相はファルマージョ大統領が「憲法と法律に違反して、力ずくで首相の座を奪おうとしている」と反論している。
 
政情が不安定な「アフリカの角(Horn of Africa)」と呼ばれる地域にあるソマリアでは、選挙の延期が続く中、ファルマージョ大統領とロブレ首相の関係が冷え込んでいた。今回の事態を受け、内政のさらなる混乱が危惧される。 
 
4月にはファルマージョ大統領が選挙を行わないまま任期延長を決定し、首都モガディシオの市街地で政府支持派と反政府派が銃撃戦を繰り広げる事態に発展した。
 
この混乱はファルマージョ大統領が任期延長を撤回し、ロブレ首相が選挙日程を調整することで収束したものの、両者の対立は続き、選挙はまたも延期。両者は10月にようやく和解し、共同声明で選挙プロセスの加速化を約束したばかりだった。【12月27日 AFP】
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更に、不穏な情勢も報じられています。

****ソマリア、首相派部隊が大統領官邸近くに集結 権限停止受け****
アフリカ・ソマリアのモハメド・アブドラヒ・モハメド大統領が27日にモハメド・フセイン・ロブレ首相の権限を停止したと発表したことを受け、数百人におよぶロブレ首相派の治安部隊が28日、大統領官邸近くに集結している。

ロブレ首相はモハメド大統領による権限停止をクーデターの企てと非難。米国は声明で全ての関係者に事態の深刻化を避けるよう呼び掛けたが、米国は首相側を支持しているもよう。

ロイターのカメラマンによると、治安部隊は28日午後時点で集結した以外の行動は起こしていない。ただ、集結したことで大統領派・首相派の部隊同士の衝突が懸念されている。【12月29日 ロイター】
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4人に1人が餓死寸前の「急性飢餓」の危機に直面しているという状況で、再び「マッドマックス」「北斗の拳」の世界でしょうか。
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