(7日、朝鮮人民軍創建75周年記念宴会に参加した軍幹部と李雪主夫人、娘と共に記念写真に納まる金正恩朝鮮労働党総書記(朝鮮中央通信=朝鮮通信)【2月8日 産経】)
【都市部の開城でも餓死者が1日数十人】
北朝鮮・金正恩政権が、アメリカなどからの攻撃から政権を守るためには核戦力の保有しかないと確信し、また、アメリカを交渉のテーブルに引き出すためにも、核開発・ミサイル開発に邁進していること、そのことによって国民生活は顧みらることはなく、経済は破綻し、国民は塗炭の苦しみに喘いでいることは周知のところです。
経済構造の破綻という基本要因に加えて、新型コロナに関連した規制、自然災害もあって食料事情は極度に悪化し、地方部での餓死者の発生に関するニュースは珍しくありませんが、これまでは比較的恵まれているとされていた都市部でも餓死者が出る状況に至っています。
****北朝鮮、食料難が深刻化か 開城で餓死者続出と報道****
韓国の聯合ニュースは6日、北朝鮮南西部の開城市で食料事情が悪化し、1日数十人が餓死しているとの消息筋の話を伝えた。開城は生活水準が比較的高いとされる地方都市で、事実なら食料難が全国で深刻化している恐れがある。
聯合は昨年末に金正恩朝鮮労働党総書記の指示で穀物の生産と流通の統制が強まり、住民の食料調達に重大な問題が生じているとした韓国政府の分析を伝えた。
北朝鮮メディアは6日、朝鮮労働党の重要会議、党中央委員会拡大総会が2月下旬に招集されると伝えた。農業問題を討議するとしており、食料難への緊急対処を目的に開かれる可能性がある。【2月6日 共同】
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開城は穀倉地帯の黄海道(ファンヘド)地域に隣接し、北朝鮮内でも裕福な都市とみなされていますが、生活苦からの自殺も相次いでいると言われています。
2月下旬に招集される党中央委員会拡大総会は昨年末に開かれたばかりで、極めて短い間隔での再招集となります。
“新型コロナウイルス感染対策に伴う交易制限や自然災害を受け、都市部でも餓死者が続出する事態に陥っていると伝えられており、深刻な食糧難の打開に向けた金正恩(キム・ジョンウン)政権の焦りがうかがえる。”【2月6日 産経】
****大都市でも餓死続出か 北朝鮮、農業対策を集中討議へ*****
(中略)
北朝鮮は限定的な交易の中で中国からコメや肥料を輸入してきたが、韓国政府関係者は今年80万トン程度は穀物が不足するとみている。
農民らに穀物の提供を求める「愛国米献納運動」も繰り返し報じられているものの、抜本的な食糧難の解決には程遠いようだ。
一方で、平壌では、多数の人員や車両を動員して軍事パレードを準備する様子が衛星画像などで捉えられてきた。8日の朝鮮人民軍創建75年に合わせて最新兵器も投入した大規模なパレードを実施し、軍事力を誇示するとみられている。
食糧難が深まる中でも、金政権は日米韓への対決姿勢を一層強め、核・ミサイル開発など、軍備増強を優先する路線を放棄する気配は読み取れない。【2月6日 産経】
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厳しい情報統制が敷かれている北朝鮮に関しての情報はその真偽が問題となりますが、韓国の聯合ニュースが報じた今回の情報の出所は、韓国の情報機関・国家情報院であろうと見られています。
“北朝鮮の混乱は韓国にとって安全保障上の重要な懸案となるため、国内世論に認識を与えつつ、北朝鮮の反応を探る「観測気球」として出したとも考えられる。”【2月8日 デイリーNKジャパン】とのこと。
【凍死の危険も】
飢えに加えて、寒さ(防寒対策がとれないこと)も状況を厳しくしています。
****【北朝鮮国民インタビュー】「空腹と凍傷で死んだような状態に」厳寒との闘い*****
北朝鮮は先月、記録的な大寒波に襲われた。国営の朝鮮中央テレビは、24日の平壌の最高気温が氷点下15.2度にとどまり、ここ30年で最も厳しい寒波となったと報じた。また北部山間地では、最低気温が氷点下30度以下となった。
中国の中央気象局によると、北朝鮮の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)と幅数メートルから十数メートルの鴨緑江を挟んで向かい合う、吉林省長白朝鮮族自治県の先月24日の最低気温は、平年を10度下回る氷点下34度を記録した。
北朝鮮の人々の中には、極端なゼロコロナ政策による経済難で暖房用の燃料を充分に確保できないまま、極寒と闘っている人々もいる。
デイリーNKは、中国と国境を接する北部山間地の両江道と慈江道(チャガンド)、北西部の平安北道(ピョンアンブクト)の寒さの厳しい3つの地域に住む住民から、暮らしの様子を聞いた。
ー 先月、大寒波が襲来したが、どんな対策を取った?
両江道住民(以下A):多くの人が凍傷やしもやけになり苦労している。コロナ禍で商売上がったりで、越冬用の燃料を得るには(緑化政策で禁じられているが)山に入って薪を切り出すしかない。午後6時以降は(コロナ対策で)通行禁止となるので、苦労して山に入って薪を運び出そうとしても捕まったら全部没収される。
一度山に入れば2日はかかるが、その間の食べ物の調達もたいへんだ。生活が苦しく、朝食を家で済ませてから弁当をひとつだけ持って山に入り2日間を耐える。それで帰宅する頃には、空腹と凍傷で半分死んだような状態になる。空腹は味噌汁を飲めば回復するが、凍傷は治療を受けられない。薬を買おうにもそのカネがない。生きること自体が苦痛だ。
平安北道住民(以下B):人々は凍死を避けるため家にこもりきりだった。普通の日なら1日に練炭を2個使うが、先週は6個も使った。7〜8個使った家もある。
慈江道住民(以下C):女性や子どもは外出しないようにと布置(布告)が出され、暖房をつけて外出しなかった。トイレは家の外にあるが、服を着込んでも寒いので、バケツを土間に置いて用を足した。
ー 防寒準備は充分?
A:防寒準備はだいたい初冬にするが、今は皆が皆、暮らし向きが楽ではないので、壁の隙間をすべて塞ぐことができず、大きな穴だけ塞いだ。最近のようにとても寒いときには、玄関ドアに毛布などを貼り付けておく。
B:充分にできている。足りないところはない。
C:足りていない。家も自分自身も(防寒準備が)足りていない。先週勤め先に出勤したら、除雪と凍った水道管を溶かす仕事ばかり延々とやらされた。
ー 暖房の問題は?
A:市内中心部に住む余裕のある人々は、寒さが訪れる前に薪を充分に確保しているから、温かく過ごしている。生活に余裕のない人々は、その日の儲けでなんとかコメと薪を買い、(暖房を兼ねて)朝夕の2回、飯炊きをして耐えている。
B:公共施設の暖房はボイラーで行っている。一般の民家では石炭を使う鉄製の暖炉で行っている。暖房設備は足りているが(寒さのせいで多くの家で)暖炉が破裂してしまった。補修に必要なパイプや溶接棒を買うにはそれなりにカネがかかるため、大騒ぎになった。
C:革命歴史研究室、会館などの暖房設備が破裂して補修工事中だ。一般の民家では薪や石炭を使って暖房をしているため問題は起きなかった。井戸水が凍らなかったのは幸いだ。
ー 寒波の被害を受けた人に国は補償してくれる?
A:今も昔もそんなものはない。自分で解決しなければならない。国が解決してくれるなんて夢物語だ。
B:そんなものはない。人民班(町内会)で練炭を10個集めて助けてあげた。
C:国は自力更生せよと言うばかりだ。
ー 寒波関連の指示はあった?
A:寒くなって風邪をひく人が多い、風邪に気をつけよと言われただけだ。
B:世帯主は、家族の健康管理を行って、凍傷にならないように責任を持って気をつけよという布置が下された。革命歴史研究室の暖房保障事業を単位(職場)、地域の特性に合わせて徹底的に行い、1件たりとも事故を起こしてはならないとの布置もあった。
C:冬休み期間中に7歳から10歳の子どもを不必要に学校に登校させたり動員したりせず、家にいさせろという指示があった。それより上の子どもは、学校や町内の道、銅像、(金氏一家の)現地指導史跡碑などの除雪作業に動員されたが、引率の担任教師には、子どもたちが凍傷にならないように気をつけよとの指示が下された。【2月8日 デイリーNKジャパン】
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居住地域・生活レベルによって、山に入って禁止されている薪を切り出すか、練炭を7〜8個使うか・・・かなり差はありますが、両江道住民(A)の薪にも事欠く、壁の穴も塞げない・・・状況は、凍死と隣り合わせの状況に思われます。
【金正恩総書記は夫人や娘とともに軍幹部と宴会 娘“尊敬するお子さま”が後継者?】
この危機的状況に金正恩(キム・ジョンウン)総書記が何をしているかと言えば・・・・
****軍の宴会に金正恩総書記の夫人と娘 北朝鮮でパレードも?****
北朝鮮メディアは、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が、朝鮮人民軍の創建記念日に合わせ、夫人や娘とともに軍の宿舎などを訪れた様子を伝えた。
朝鮮中央テレビは8日朝の放送で、金総書記が7日、夫人や娘のキム・ジュエ氏と軍の宿舎を訪れ、軍創建75周年を記念した宴会に出席した様子を伝えた。
朝鮮中央テレビ「夢にも会いたかった、敬愛する金正恩同志が、尊敬するお子さまとともに宿舎に到着すると、最も熱い敬慕の情を抱いて出迎えた」
金総書記は、「わたしたちはついに、偉大で絶対的な力を育てた」と強調していて、韓国メディアは、核兵器の完成を誇示していると分析している。
軍の創建記念日にあたる8日、平壌(ピョンヤン)で軍事パレードが行われるとの見方が強まっていて、金総書記が演説するかや、核が搭載可能な新型のミサイルが登場するかなど、注目されている。【2月8日 FNNプライムオンライン】
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注目されるのは娘とされる少女への“尊敬するお子さま”という表現。新型のICBMとみられる発射実験にも父と共に立ち会うなど、最近急にメディア露出が増えています。
ということは常識的には「後継者」として扱われているのだろう・・・と推測されます。
****金正恩氏の娘に「尊敬」と敬称 軍同行、演説で核言及なし****
(中略)「尊敬する」との敬称が最高指導者以外に用いられるのは極めて異例。韓国政府が第2子の「ジュエ」さんとみている少女は10歳前後とされるが、金正恩氏が後継者と考えているとの指摘もある。【2月8日 共同】
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【理不尽な現実 それでも「権力」は倒れない】
都市部でも餓死者がでる飢え、凍死の危険がある状況・・・更に理不尽な思いを強く感じるのは、北朝鮮に限らず、どんなに国民が困窮している社会にあっても、一部の者は別世界の状況にあることです。
****食糧難でも液晶テレビが飛ぶように売れる平壌の「格差社会」****
北朝鮮の首都・平壌では、市民の4割が、食べ物が底をついた「絶糧世帯」に陥ったとされ、市当局が緊急の食糧配給を行うほど状況がひっ迫している。しかし、そんな中でも、浮かれた暮らしをしている人々がいる。
現地のデイリーNK内部情報筋によると、平壌市内中心部にある高級外貨商店の楽園(ラグォン)百貨店が、12月26日の午前10時半から、液晶テレビの緊急販売を行った。
価格は15インチ型が400ドル(約5万2000円)、19インチ型が450ドル(約5万8600円)。コロナ禍が始まった直後の2020年春より100ドル(約1万3000円)も安い割引価格だ。合わせて100台の限定販売だったが、百貨店のオープン前から長蛇の列ができ、あっという間に売り切れてしまったという。
購入者はトンジュ(金主、ニューリッチ)だが、彼ら自身が列に並んだわけではない。カネで雇った人々を代わりに並ばせたのだ。日本で言うところの「並び代行」を使ったということだ。(中略)
今回販売された液晶テレビだが、情報筋の説明によると、2019年末に大同江テレビ受像機工場が、中国遼寧省の投資家からの投資を受け、中国からの輸入部品の組み立てによる「HC」というブランドで生産を始めたものだ。
製品は中国に輸出し、国内の外貨商店でも販売していた。しかし新型コロナウイルスの大流行を受けて、北朝鮮当局が人のみならず物の出入りも完全に遮断したため、部品の調達ができなくなり生産も輸出もストップしてしまった。
昨年末になってようやく部品の輸入が再開され、まずは製造途中だった製品を完成させた。半完成品のまま3年近くも放置されていただけに、正規価格の販売は見送り、2月8日の朝鮮人民軍(北朝鮮軍)創建日と16日の光明星節(金正日総書記の生誕記念日)を控えて、平壌市民を対象に割引販売で「特別販売」したのだ。
その目的は、国内で流通する外貨を吸い上げることにあるとされる。
購入者は、品質を確認するため売り場でコンセントに繋いで動作をチェックするなどしたが、特に問題はなかったようだ。
さて、販売された100台の液晶テレビだが、多くは市場で転売されたとのことだ。トンジュたちはそもそも、転売目的で、並び代行を使ってまで液晶テレビを購入したのだ。それでもかなりの儲けになるのだろう。
また、極寒の中で並び代行を行い、わずかな賃金を稼ぐ人が少なからず存在するのも、経済難の深刻さを反映したものと言えよう。【2月5日 デイリーNKジャパン】
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異様と言うしかない北朝鮮の統治システム・国民生活状況ですが、それでも国民の反発で権力が揺らぐような事態は想像できません。「国家権力」というのはそういうもののようです。残念ながら。
生きるのに精一杯の人々に、国家権力に抗う術はありません。
権力周辺の既得権益層にとっては、どんなに国民を顧みない政権であっても、その存続が自身の利益につながりますので、全力で「権力」を支えることになります。
「金王朝」はこの先何十年続き、“尊敬するお子さま”に引き継がれていくのでしょうか。
民意に基づく民主的な政治・・・・といった言葉がうつろに響きます。
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