孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南シナ海  “艦船にらみあい”は解けたものの、ベトナム海洋法と中国「三沙市」で新たな緊張

2012-06-23 21:31:03 | 南シナ海


(撮影日付“4月10日”ということで、スカボロー礁(中国名・黄岩島)付近での中国・フィリピンの“にらみあい”が始まった日の様子のようです。どの艦船がどちら側のものかは分かりません。“flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/7273841860/

フィリピン監視船、悪天候を理由に帰港
南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)付近海域で4月10日から続いていた中国とフィリピンの艦船のにらみあいについては、これまでも何回か取り上げてきました。
前回、5月1日ブログ「南シナ海  3週間続く中国・フィリピン艦船のにらみ合い 解決を難しくする国内“弱腰”批判」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120501)で、“そのうちこの海域で台風でも発生すれば、気象条件悪化を理由に、領有権問題に触れずに両国が同時に艦船を引くということもできるのでは・・・”と書いたのですが、実際似た様な展開になったみたいです。

****フィリピンが巡視艇引き揚げ 南シナ海、悪天候理由****
フィリピンのアキノ大統領は15日夜、南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)付近の海域で中国の艦船とにらみ合いを続けてきた沿岸警備隊の監視船2隻に、悪天候を理由に帰港を命じた。

フィリピンのデルロサリオ外相が16日、明らかにした。同礁の主権をめぐり4月10日以降、対立してきた両国だが、初めて一方が引き揚げることになる。フィリピン当局によると、中国側は監視船や漁船など約20隻が同礁周辺にとどまっている、

日本の気象庁によると、強い台風4号がフィリピン東部を北上中。外相によると、艦船の再派遣については天候が回復し次第、改めて検討するという。ただ、緊張緩和への道を探っているとの見方もある。(四倉幹木)【6月17日 朝日】
**************************

上記記事では、中国側はまだ残っているとのことですので、フィリピン側の再派遣を含めて、今後については不明確です。

【「懸念されるのは、中国の誤った判断による発砲と軍事衝突だ」】
艦船にらみ合いが収まったとしても、ここにきて別の問題も浮上しています。
フィリピンと並んで、中国に対する強硬な姿勢をとっているベトナムが、南シナ海の領有権を明確に定めた同国初の海洋法を採択、当然ながら中国は反発しています。

****ベトナム海洋法が成立=南シナ海の領有権明記*****
ベトナム国会は21日、南シナ海の領有権を明確に定めた同国初の海洋法を採択した。来年1月から発効する。中国などが領有権を主張する南沙(英語名スプラトリー)、西沙(同パラセル)両諸島の主権や排他的経済水域(EEZ)を規定しており、領海権をめぐる対立激化が予想される。

海洋法は7章55条で構成され、議員496人中495人の圧倒的多数で成立した。第1条で両諸島の主権を宣言しているほか、沿岸の領海、EEZ、大陸棚の範囲を明記。また、領海紛争は、1982年国連海洋法に基づき平和的な方法で解決するとしている。
グエン・ハイン・フック国会事務局長は記者会見で、「長い海外線を有するベトナムには海洋法が必要だ。諸外国との関係に悪影響を及ぼすとは考えていない」と述べた。

しかし、中国外務省は海洋法成立直後に「中国の主権を侵害し、違法かつ無効」との抗議声明を発表。海洋・海底資源が豊富とされる南沙諸島は中越のほかフィリピン、マレーシア、台湾、ブルネイも領有権を主張しており、今後の綱引きが激しさを増しそうだ。【6月21日 時事】
************************

一方、同じ21日、中国は南シナ海の西沙、南沙、中沙の3諸島を海南省の三沙市にすると発表、領有権を争うベトナム、フィリピンなどは警戒と反発を強めています。

****南シナ海3諸島、「市」格上げ=比越など周辺国との摩擦必至―中国****
中国国務院(中央政府)は、フィリピンやベトナムなどとの領有権争いを抱える南シナ海の西沙(英語名パラセル)、南沙(同スプラトリー)、中沙(同マックルズフィールド・バンク)の3諸島を「三沙市」に格上げすることを承認した。民政省が21日発表した。海洋・海底資源が豊富な3諸島の主権を誇示し、南シナ海での影響力を拡大するための措置とみられ、周辺国との摩擦は必至だ。

新華社電によると、民政省報道官は「三沙市設立は3諸島の島・礁や海域の行政管理、開発建設をさらに強化し、南シナ海の海洋環境を保護するのに有益だ」と強調した。

3諸島を自国領土と主張する中国政府はこれまで、3諸島について海南省の「弁事処」(事務所)が管轄してきたが、国務院はこのほど弁事処を廃止し、同省三沙市を設立することを承認した。同市人民政府は西沙諸島の永興島(英語名ウッディ島)に置くとしている。【6月21日 時事】
*********************

中国の今回措置に、フィリピン政府筋は「強引な態度であり、中国は今後、南シナ海での示威行動を、さらに強めてくるだろう」とみており、ベトナム外務省は「強く反対する」との抗議声明を出しています。
緊張が高まるなかでの“誤った判断による発砲と軍事衝突”を懸念する声もあります。

****南シナ海 中国、3諸島に「三沙市」 越・比、警戒と反発****
・・・・こうした関係当事国の主張がぶつかり合う領有権問題は、東南アジア諸国連合(ASEAN)をはじめ、多国間の枠組みが実質的に機能せず、「領有権問題には第三国が介入しにくい」(外交筋)こともあり、解決の糸口すら見えない。

オーストラリア国立大学のポール・ディブ教授は「問題は、中国が国際海洋法を受け入れないことにある」と話す。また、中国が実効支配を強める中で「懸念されるのは、中国の誤った判断による発砲と軍事衝突だ。関係当事国などと中国の間には、1972年に米ソが締結したような『公海・上空における事故防止協定』もない。中国が関心を示さない」と憂慮する。【6月23日 産経】
************************

緊張が極限まで高まっているシリアでは、トルコ空軍機をシリア側が撃墜する事件も起きており、今後の展開が憂慮されていますが、緊張状態にあっては偶発的な出来事、あるいはチキンレース的なエスカレーションが軍事衝突に拡大しかねません。

【「国家が強大になったのに、国家の安全がもっと侵蝕されるのはなぜだ?」】
中国国内には、中国が経済的・軍事的国力を増大させているにもかかわらず、中国を取り巻く政治・経済環境がむしろ悪化していることに対する戸惑い・疑問もあるようです。

人民日報系の国際情報紙「環球時報」は、そうした国際環境の悪化の理由・背景として4つほど指摘しています。
ひとつは、経済について言えば、リーマンショックや欧州危機のような欧米側の経済状況悪化は、経済関係を通じて、結果的には中国にとっても悪影響を及ぼすことになること。

ふたつには、欧米先進国に中国とともに対峙するはずの新興国・途上国にあっても、国益やイデオロギーの面で中国と相当の隔たりがある国家が圧倒的に多く、中国がこうした国々から明確な支持を得ることが難しいことを挙げています。

残るふたつについては、下記のとおりです。
****中国を取り巻く国際環境はなぜ厳しくなっているのか―中国メディア****
・・・・ネットメディアを始めとする新技術の助けを借りた、個人や小さなグループによる国家や国際社会への挑戦が勢いづいている。中国が自らの発展路線を堅持し、各国の発展モデルが多様化する一方で、個人の自由、平等、人権、民主などの観念も世界的規模で人々の心に一段と深く浸透してきている。これらはいずれも中国の国際戦略環境において軽視できない試練だ。
(中略)
第4に、中国はパワーと地位の高まりに伴い、安全保障面で一段と厳しい苦境に直面している。
中国が自らの安全のために国防力を強化する過程で、周辺国と米国は中国の平和的発展の意図を疑うだけでなく、中国をにらんだ防備措置を強化し、対中戦略の協調を図り、中国に対して安全保障上一層の圧力を形成している。

このため一部の中国人は現在、国力の弱かった過去よりも大きな不安感や焦りを覚え、「被害者感情」を深めている。「国家が強大になったのに、国家の安全がもっと侵蝕されるのはなぜだ?」というのが、民衆がおしなべて抱える疑問だ。
この疑問に対する答えは一般的に(1)国防への投入がまだ不十分(2)周辺国や米国に対する政策が軟弱すぎる―の2つだ。
こうした「安全保障面の苦境」を短期間で脱するのは困難だ。対外関係における中国の真の実力、政策手段、戦略計画は、引き続き国民の期待に追いつかない状態が続く。【6月21日 Record China】
***********************

「国家が強大になったのに、国家の安全がもっと侵蝕されるのはなぜだ?」との民衆の疑問への答えが、(1)国防への投入がまだ不十分(2)周辺国や米国に対する政策が軟弱すぎる・・・の2点であっては、ますます国際社会からの信頼獲得からは遠ざかります。

中国が信頼を得られないのは自業自得ですが、緊張の高まりで周辺国が迷惑します。
“個人の自由、平等、人権、民主などの観念も世界的規模で人々の心に一段と深く浸透してきている”との認識にたって、関係国との協調の方向で行動してもらいたいものです。

もっとも、国際紛争で一番厄介なのは「被害者感情」的な国内世論の存在とも言えます。
中国が現在のような政治システムだからこそ、今のレベルで収まっているのであり、もし、民衆の不安感や焦りがストレートに政治に反映するような政治システムであれば、激高しやすい世論を抑えきれず、今よりもっと危険な状況になっているのかも・・・そんな感もあります。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« パキスタン  アメリカと国... | トップ | 北朝鮮  外貨獲得のため中... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

南シナ海」カテゴリの最新記事