孤帆の遠影碧空に尽き

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ドイツ  難航が予想される連立交渉 極右政党が第1党のオーストリアはようやく反極右連立が成立

2025-02-27 23:31:49 | 欧州情勢

(23日、ドイツ総選挙の出口調査結果が公表され、笑顔を見せるCDUのメルツ党首=ベルリン【2月24日 産経】)

【予想どおり野党CDU・CSU勝利も、手放しでは喜べない結果】
2月23日に行われたドイツ連邦議会選挙は、インフレなどの経済状況、移民・難民問題を背景にフリードリヒ・メルツ氏が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が首位、移民排斥の極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が2位、一方連立与党の中核である社会民主党(SPD)は大敗・・・と、ほぼ選挙前に予想されていた結果となりました。

政権交代を実現した中道保守CDU・CSUは勝利したものの、昨年末段階の支持率からは大きく減少しており、首相就任が予想されているメルツ党首も手放しでは喜べない結果でした。

極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)躍進の背景などについては、2月22日ブログ“ドイツ総選挙 極右躍進で米に続いて独も「反動の時代」に入るのか”でも取り上げましたので、今回はパスします。

****「欧州の病人ドイツ」の治癒なるか?総選挙で保守中道が政権交代も連立交渉は難航、期待に沿えなければ次の選挙で“極右政権”の懸念も****
ドイツの有権者は政権交代を選んだ。2月23日の連邦議会選挙で、フリードリヒ・メルツ氏が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が首位に立った。メルツ氏は復活祭(4月下旬)までに新政権を発足させると約束した。

だが同党が議席の過半数を確保するには社会民主党(SPD)との連立、または緑の党も加えた三党連立が避けられない情勢だ。党の政策の隔たりは大きく、連立交渉の難航が予想される。

メルツ氏が次期首相の座に「王手」
今回の選挙では予想通り、保守と極右が躍進した。選挙管理委員会の2月24日の発表によると、CDU・CSUは前回の選挙(2021年)での24.2%に比べて得票率を4.4ポイント増やして28.5%を確保し、首位に立った。(中略)

もう一人の勝者は、極右政党ドイツのための選択肢(AfD)だった。同党の得票率の増加率は、今回の選挙で最も大きかった。同党は得票率を21年の10.3%から約2倍の20.8%に増やし第二党となった。13年の結党以来、最も高い得票率だ。

同党は欧州連合(EU)やユーロ圏からの脱退、ロシアからの天然ガスの輸入再開などを求めるなど、過激な政策変化を提唱している。AfDの一部の州支部は憲法擁護庁から「民主主義体制の転覆を目指す極右勢力」として監視されている。それにもかかわらず、有権者の5人に1人が同党に票を投じた。

旧東ドイツ地域では、AfDの得票率は首位だった。AfDのアリス・ヴァイデル共同党首は、「我々はもはや少数政党ではなく、国民政党になった」と述べて成果を強調。同氏は「次の連邦議会選挙では、CDU・CSUを追い抜く」と述べた。

これに対し与党は、有権者から厳しい判定を受けた。オラーフ・ショルツ首相が率いるSPDは得票率を前回の25.7%から9.3ポイント減らして16.4%と惨敗。結党以来最も低い得票率だ。

緑の党の得票率も3.2ポイント減って11.6%となった。昨年11月まで連立政権の一部だった自由民主党(FDP)の得票率は前回の総選挙に比べてほぼ半減し、4.3%となった。

ドイツでは小政党の乱立を防ぐために、得票率が5%未満の政党は会派として議会に議席を持てない。FDPは連邦議会を去って野に下ることになった。

「完全勝利」ではないCDU・CSU
(中略)ただしCDU・CSUにとっても今回の選挙結果は、手放しで喜べるものではない。同党への支持率は、昨年11月のアレンスバッハ人口動態研究所の世論調査では37%だった。わずか4カ月で同党への支持率は28.5%に減った。8.5ポイントの著しい減少だ。同党は30%を超える得票率を目指していたが、その目標は達成できなかった。

CDU・CSUの失速の理由は、メルツ氏が難民規制を強化する方針の中で「行き過ぎ」ともとれる措置を発表したからだ。彼は「ドイツでの亡命申請を拒否され、出国を義務付けられている外国人は逮捕して、直ちに収容施設に拘留する」という措置を提案した。メルツ氏は、AfDの票を奪うために、難民政策をAfDの路線に急激に近づけたのだ。

この提案はCDU・CSU支持者の中でリベラルな思想を持つ人々、たとえばメルケル氏の人道的な難民政策を支持していた人々を憤慨させた。昨年11月に比べてCDU・CSUの支持率が低下したことはその表れだ。

逆に極左の左翼党が前回に比べて得票率を3.9ポイント増やして連邦議会に復帰すること、緑の党の得票率の減少率がSPDほど酷くはなく、3.2ポイントに留まったことは、メルツ氏の「右旋回」に対するリベラルな市民の危機感を反映している。(後略)【2月26日 WEDGE】
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主要政党以外では、旧東独の共産主義政党の流れをくむ「左派党」も大きく議席を増やしています。同党の躍進は最近の選挙の流れであるSNS活用が効果を発揮したようです。

極右AfDと左派の左派党が躍進するという“両極化”を示しています。

****ドイツ総選挙で「左派」も躍進、TikTokに注力し支持拡大か…18歳未満の模擬投票でも1位****
23日のドイツ総選挙で右派の躍進が目立つ一方、旧東独の共産主義政党の流れをくむ「左派党」も大きく得票を伸ばした。SNSを活用した選挙戦術が若年層の支持獲得につながった。

左派党の獲得議席数は、39議席から64議席に急増する見通しだ。得票率は、前回の4・9%から8・8%に跳ね上がった。

気候変動防止や反戦・平和、所得格差是正に焦点を絞った主張の分かりやすさに加え、若年層に利用者が多い動画共有アプリTikTok(ティックトック)での情報発信に力を入れたことが功を奏したとみられている。選挙戦終盤になって急速に支持を広げた。

独メディアによれば、投票権のない18歳未満の若者を対象にして今月行われた全国規模の模擬投票では、左派党が得票率20・8%で主要政党を押しのけて1位だった。米国など多くの民主主義国で社会の両極化が進んでいると指摘されており、ドイツでも同じ傾向が示された格好だ。【2月24日 読売】
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【首相就任が予想されているメルツ党首 対ロシア強硬派】
首相就任が予想されているメルツ党首は、メルケル元首相との権力争い敗れ、一時政界を離れていた経歴があります。ウクライナ問題に関してはショルツ現首相(SPD)よりは対ロシア強硬派とされています。

****ドイツの首相候補メルツ氏は対露強硬派、武器供与もショルツ氏より積極姿勢「ウクライナは勝たなければならない」****
ドイツの次期首相として有力視される中道右派、キリスト教民主同盟(CDU)のフリードリヒ・メルツ党首は対露強硬派として知られ、ウクライナ侵略に関し、厳格な対露制裁を支持する立場を取る。

ウクライナへの武器供与を巡ってもショルツ首相より積極的な姿勢を示しており、政権交代によってウクライナ支援が加速する可能性がある。

メルツ氏は1月23日、外交政策に関する演説で「我々の安全はロシアによる深刻な脅威にさらされている」と語り、欧州の防衛力強化の必要性を訴えた。

「ウクライナは勝たなければならない」とも明確に述べた。ドイツは第2次世界大戦を招いたナチス時代への反省から、戦後一貫して紛争への関与に慎重な姿勢を保ってきただけに、ドイツ国内では踏み込んだ発言と受け止められた。

中道左派・社会民主党(SPD)のショルツ氏も、ウクライナ侵略を「時代の転換点」と位置づけ、ウクライナ支援ではほかの欧州諸国と歩調を合わせてきた。独政府によると、これまでの支援額は米国に次ぐ総額440億ユーロ(約7兆円)に上り、欧州では最大規模だ。

ただ、ショルツ氏はウクライナが求める長射程巡航ミサイル「タウルス」(射程約500キロ・メートル)の供与には一貫して慎重姿勢を保ってきた。ロシアを過度に刺激しかねないとする懸念に配慮した判断とみられる。

一方のメルツ氏は「欧州各国の同意を得られれば、タウルス供与の準備をすべきだ」と供与に前向きの立場だ。首相に就任すれば、供与に向けて英仏などと調整する考えを示している。

今後、タウルス供与の実現には連邦議会の承認が必要だ。キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)、環境政党・緑の党は供与を支持する一方、SPDなどの左派や、ロシアに融和的な強硬右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は反対しており、多数派の合意形成が課題となる。

◆ Friedrich Merz 
企業弁護士、欧州議会議員を経て、1994年に独連邦議会議員に初当選。メルケル前首相の政敵で、党内の権力争いに敗れて2009年に一時政界を離れた。18年に復帰し、22年に党首就任。経済通として知られる一方、閣僚経験はなく手腕は未知数だ。【2月25日 読売】
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【難航も予想される今後の連立交渉 次期政権が国民期待にこたえられなければ、次の選挙ではいよいよ極右AfDが第1党か・・・】
キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)だけでは過半数に至りませんので、今後は同党・メルツ氏を軸に社会民主党(SPD)などとの連立交渉が行われますが、これまで連立与党の一画を占めていた緑の党の扱いなど簡単ではないようです。

****「欧州の病人ドイツ」の治癒なるか?総選挙で保守中道が政権交代も連立交渉は難航、期待に沿えなければ次の選挙で“極右政権”の懸念も****
(中略)
連立交渉は難航か
CDU・CSUの28.5%という予想外に低い得票率は、メルツ氏の連立交渉を難しくする。メルツ氏は、選挙前に「二党連立が理想」と語っていた。しかしドイツの論壇では、「CDU・CSUとSPDが連立するだけでは不十分ではないか」という声が出ている。

次期連邦議会の議席数は630で、半数を超えるには316議席が必要だ。CDU・CSUとSPDの議席数の合計は328。半数を超えるものの、安定過半数とは言い難い。13人が造反または棄権したら、過半数を失うからだ。CDU・CSU、SPDに緑の党を加えた「ケニア連立(党のシンボルカラーがケニアの国旗の色と同じ黒、赤、緑になるため)」では、413議席となり、安定過半数が得られる。

つまりCDU・CSUは安定過半数を確保するために、SPDだけではなく緑の党も加える必要に迫られるかもしれない。

だがCDUの姉妹政党・キリスト教社会同盟(CSU)のマルクス・ゼーダ―党首は、選挙後にドイツ第一テレビ(ARD)が放映した党首討論会でも「緑の党とは連立しない」と語っており、連立交渉は難航する可能性がある。

連立交渉を難しくするのは、政策の隔たりだ。最大のテーマは難民政策である。メルツ氏は、「滞在許可を持っていない外国人がドイツ国境に到着し、そこで『亡命を希望する』と言っても、国境で追い返す」と主張している。これに対し、SPDと緑の党は「亡命希望者を国境で追い返すことは、憲法とEU法に違反する」と反対している。

財政規律も大きな対立点だ。ドイツ連邦政府は憲法の規定により、国内総生産(GDP)の0.35%を超える財政赤字を禁じられている。この規則は債務ブレーキと呼ばれる。

SPDと緑の党は債務ブレーキを修正して、ウクライナ支援や軍備拡張、エネルギー転換などのための投資については、新規国債の発行を可能にするべきだと主張している。CDU・CSUは、債務ブレーキの変更に反対している。メルツ氏は、長期失業者に対する援助金など社会保障費用を減らすことによって、新たな財源を生み出すと説明している。

さらにデリケートなテーマが、社会保障だ。メルツ氏は選挙戦では、公的年金制度の改革について多くを語らなかった。有権者に痛みをもたらす改革だからだ。ショルツ政権は、インフレ率および賃金の上昇に合わせて、ここ数年は毎年公的年金の支給額を増やしてきた。だが経済学者の間では「ベビーブーマー(団塊の世代)が定年退職しつつある現在、公的年金制度を抜本的に改革することは不可欠」という意見が有力だ。

このためメルツ氏は、今後公的年金の支給額の伸び率を抑えるなどの措置を打ち出すとみられている。SPDと緑の党は、社会保障サービスの切り詰めには反対している。

エネルギー政策でも隔たりがある。CDU・CSUは原子力回帰の方針を打ち出し、23年に停止された最後の3基の原子炉の再稼働が経済的・技術的に可能かどうかについて調査することや、小型モジュール原子炉(SMR)など次世代原子炉の研究開発に力を入れると宣言している。緑の党は原子力回帰に反対している。SPDは緑の党ほど原子力ルネサンスへの反対姿勢を明確に打ち出していないが、原則として脱原子力に賛成している。(中略)

CDU・CSUは、欧州議会が決めた、「35年以降は内燃機関の新車の販売を原則として禁止する」という法律の撤回を提案している。さらにショルツ政権が24年1月1日に施行させた、暖房の脱炭素化のための「建物エネルギー法」も撤回するという公約をマニフェストに明記した。これらの提案は、いずれも緑の党にとって受け入れがたい政策である。

安全保障政策でも、対立点がある。メルツ党首は、ウクライナ政府が要請しているドイツ製巡航ミサイル・タウルスの供与に賛成しているが、SPDのショルツ首相が率いるハト派勢力は、「タウルスの供与はロシアから交戦国と見なされる恐れがある」として反対している。

メルツ次期首相にとって難題が山積
メルツ氏には、時間をかけて連立交渉を行う余裕はない。直ちに取り組まなくてはならない経済・安全保障に関する難題が山積しているからだ。ドイツの実質GDP成長率は23年、24年と2年連続でマイナスだった。

トランプ政権が矢継ぎ早に打ち出す関税攻勢は、貿易大国ドイツの停滞をさらに深刻化させる危険がある。トランプ大統領が自動車に対する関税を予告していることは、ドイツの産業界に強い不安をもたらしている。メルツ氏は、企業に対する税金や社会保険料負担の引き下げを通じて企業の競争力を改善させることによって、GDP成長率を2%に回復させると国民に約束している。

だが工業生産額の減少、自動車業界の未曽有の危機、企業倒産数や失業者数の増加により、ドイツ人の不安は強まっている。メルツ氏が、「欧州の病人ドイツ」を健康体に回復させることができるかどうかを、欧州の他の国々も見守っている。

またこの国では「ウクライナ戦争が、欧州大戦に拡大するのではないか」という懸念が強まっている他、トランプ政権が停戦交渉をめぐって、ウクライナと欧州を蚊帳の外に置いていることも、ドイツと欧州の先行きに強い不透明感を与えている。

政局の次の焦点は、メルツ氏が、強い政策運営能力を持った政権を迅速に作り上げることができるかどうかだ。21年の連邦議会選挙では、CDU・CSUとAfDの得票率の間には、13.8ポイントの差があった。今回の選挙では、その差が7.7ポイントに縮まった。

メルツ氏が国民の期待に沿えなかった場合、AfDのヴァイデル氏の「次の選挙ではAfDがCDU・CSUを追い抜く」という予言が現実化する危険もある。メルツ氏には、勝利を祝っている時間はない。【2月26日 WEDGE】
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【昨年9月の総選挙で極右政党が第1党になったオーストリア 難航した連立交渉がようやくまとまり、かろうじて極右政権誕生を阻止】
ドイツの動きを先取りするように、すでに極右政党が選挙で第1党となっているのが隣国オーストリア。

オーストリアでは24年9月の総選挙で反移民極右政党「自由党」が第1党になりました。自由党は1956年に元ナチス党員らが結成した政党。

連立交渉は先ず自由党以外の“反極右”で行われましたが失敗。次いで自由党を軸に現与党の中道右派「国民党」との交渉が行われました。

もし連立交渉がまとまれば、自由党出身者を首相とする初めての「極右」政権が発足・・・ということにもなりましたが、結局この連立交渉も失敗。

混迷する連立交渉を背景に、再選挙の可能性も取り沙汰されていました。
“世論調査によると、再選挙の場合、極右政党が議席を伸ばす公算が大きい。”【2月13日 時事】

そうした再選挙への警戒感もあってか、最初に失敗した“反極右”での連立がようやくまとまったようです。

****中道3党が連立合意=再選挙を回避、来月新政府―オーストリア****
2024年9月の総選挙以降、新政府樹立が遅れていたオーストリアで27日、中道3党が連立協定で合意した。公共放送ORFによると、早ければ3月3日に新政府が発足し、与党の中道右派・国民党のシュトッカー党首が首相に就任する。これにより再選挙は回避された。

新たな連立は、議会勢力第2〜4党の国民党、野党の中道左派・社会民主党、中道のNEOSで構成する。

3党は選挙後すぐに連立形成を試みたが、いったん決裂。その後、初の第1党となった極右・自由党に連立交渉の主導権が移ったものの、これも失敗し、中道3党が再び交渉していた。【2月27日 時事】 
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かろうじて極右政権誕生を阻止した中道3党ですが、次の選挙では・・・・。
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