(カナダ・ケベック州エエマングフォール付近で、米国から国境を越えて密入国してきたスーダン出身の女性2人に話しかける王立カナダ騎馬警察の警察官(2017年2月26日撮影)【3月3日 AFP】 現段階では警察官は“取り締まり”というより“保護”のスタンスのようです。)
【トランプ米大統領と対照的なカナダ・トルドー首相の寛容姿勢】
美しい大自然と豊かな経済力・・・そんなイメージのカナダですが、国際政治の面では隣の超大国アメリカの影に隠れる形であまり表に出ることはないように見えます。G7のメンバーなのも、アメリカが支持票を期待して押し込んだのでは・・・とも囁かれていますが・・・。(まあ、アメリカに逆らえない“支持票”ということでは、日本も似たような立場ですが)
もちろん、カナダ国民のアメリカに対する感情は複雑なものもあるでしょう。
そんなカナダが1月、トランプ大統領の難民受け入れ停止に真っ向から立ち向かう形で、その存在感を世界に発信しました。
****少女にひざまずき「ようこそ」 カナダ、難民歓迎を発信****
カナダのトルドー首相は28日、ツイッターで「迫害、恐怖、戦争を逃れようとしている人たちへ。信仰にかかわらず、カナダの人はあなたたちを歓迎する。多様性は私たちの力だ」と発信した。米トランプ政権が難民の受け入れを停止したことに直接触れていないが、対照的な姿勢を打ち出す形となった。
トルドー氏はさらに、「カナダへようこそ」との説明をつけて、自身がひざまずいて少女と話している様子の写真も発信した。ロイター通信によると、2015年にシリアから到着した難民を出迎えた時の写真という。
トルドー政権は同年に就任してから、難民受け入れの拡大を目指している。同年11月以降、シリアからだけで4万人近い難民がカナダに到着しているという。【1月29日 朝日】
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トルドー首相のリベラルな政治姿勢もあってのことですが、個人的にはその難民対応を高く評価すると同時に、今後については不安も感じた次第です。
かつてドイツでも難民歓迎のプカードで難民らを迎えましたが、その後の大量流入・テロ事件などで市民の難民に対する視線は厳しいものに変化しています。
同時期には、ケベックのモスクで銃乱射事件もあり、カナダ社会も決して“難民歓迎”だけではないことを示しています。
****モスクで乱射、5人死亡か=2人逮捕―カナダ****
カナダ東部ケベックシティーのモスク(イスラム礼拝所)で29日、銃乱射事件があり、モスク関係者はロイター通信に対し、5人が死亡したと語った。公共放送CBC(電子版)は警察の話として、死者は複数で、容疑者2人が逮捕されたと報じた。
CBCによると、このモスクではイスラム教の断食月(ラマダン)中の昨年6月、豚の頭部が玄関前に置かれる事件があったという。【1月30日 時事】
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“ケベック州では近年、イスラム教徒の移民が増えていることに伴う摩擦も起きている。カナダ国籍を取得する宣誓のセレモニーの際、イスラム教徒の女性が目だけを出す「ニカブ」と呼ばれるベールを着用できるかどうかが議論となり、15年にあった総選挙では争点にもなった。”【1月30日 朝日】とも。
ただ、この時期の世論調査によれば、(下記記事タイトルは“・・・とは限らない”とはなっていますが)移民政策に関してはおおむねトルドー首相を支持していたようです。
****カナダ人はトランプよりトルドーを支持・・・・とは限らない****
・・・・45歳と若くて好感度も高い"イケメン首相"は、2015年の就任以来、高い支持率を保っている。
2月8日に調査会社メインストリート・リサーチが発表したMainstreet/Postmediaの世論調査でも、調査対象のカナダ人の84%がトランプを支持しないと答えた一方、トルドーは支持率52%(不支持率は44%)。トランプとの差は圧倒的だ。
とはいえ、カナダ人が皆トランプ嫌いで、かつ自国のリーダーを全面的に支持していると思ったら大間違いだ。
初めてトランプとトルドーを比較してカナダ人に尋ねたこの調査では、個別の政策ごとの支持率を出している。それによれば、医療政策ではトランプ21%対トルドー51%、移民政策ではトランプ17%対トルドー56%、外交政策ではトランプ21%対トルドー41%と、トルドーが自国民のハートをがっちり掴んでいる。
しかし経済政策に関する設問では、トランプの政策を支持するという回答が53%で、トルドーの政策支持は43%に留まった。安全保障政策でも、トランプが51%、トルドーが39%と、支持率は逆転している。(後略)【2月15日 Newsweek】
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【急増するアメリカからの不法入国者】
トランプ大統領の大統領令は執行停止になったものの、不安を感じる人々は深い雪の中を国境線を超えてアメリカからカナダに向かっています。
****カナダは今後も米からの亡命希望者受け入れる=トルドー首相****
カナダのトルドー首相は21日、同国は今後も米国から違法に国境を越えて入国した亡命希望者を受け入れると述べる一方、カナダ人の安全を守るための治安対策を確実に実施すると述べた。
トランプ米大統領による不法移民取り締まり強化への懸念から、ここ数週間に辺境で警備の手薄な国境を越えてカナダに入った人の数が増加。一方、カナダの警官が笑顔で移民にあいさつする画像が拡散している。
野党保守党は、治安上の懸念と、対応人員の不足を理由に、米国からの亡命希望者流入を食い止めるよう政府に求めている。
トルドー首相は議会で「カナダが開放的な国であり続ける理由の1つは、カナダ人が自国の移民制度を信頼していることだ。引き続き、厳格な制度と、助けを必要としている人々の受け入れのバランスを取っていく」と述べた。【2月22日 ロイター】
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アメリカから逃れる人々だけでなく、カナダのアフメド・フッセン移民・難民・市民権相は2月21日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」から迫害を受けているイラクの少数派ヤジディー教徒の難民1200人をカナダに再定住させることも明らかにしています。【2月22日 AFPより】
こうしたカナダの寛容な姿勢を反映して、カナダへの難民が増加していることが報じられています。
もっとも、以前はカナダへの難民申請は近年よりかなり多かったようで、2001年は昨年の倍近い数字になっています。
****米からカナダへの密入国者が激増 南米やアフリカからも****
王立カナダ騎馬警察(RCMP)によると、ここ数か月で米国からカナダへの密入国者の数が激増している。不法入国者のほとんどがケベック州、マニトバ州、ブリティッシュコロンビア州で国境を越えている。
密入国者の出身国はコロンビア、ハイチ、コンゴ民主共和国、ジブチなどさまざまで、乳幼児を連れた女性や家族連れの姿も見られた。【2月26日 AFP】
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****カナダ、米から入国の難民申請者が急増 2か月で4000人****
カナダ国境サービス庁(CBSA)は2日、米国にいったん入国した後に国境を越えてカナダで難民申請をする移民が、今年に入り急増していることを明らかにした。今年1月1日から2月21日までの申請者は約4000人と、前年同期の2500人から大幅に増えている。
申請者にはひそかに国境を越えてきた人や、国境の検問所経由で入国した人が含まれる。アフリカ東部や、シリアなどの紛争国の出身者が大半を占めるという。(中略)
当局によると、カナダへの昨年の難民申請者は2万4000人で2001年の4万4000人から減っている。申請者の4~6割が難民に認定されているという。【3月3日 AFP】
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****カナダ、1─2月の難民申請が急増 トランプ氏の大統領就任が影響****
カナダ政府が20日公表したデータによると、同国で1─2月に難民認定を申請した外国人は5520人に上り、昨年から大幅に増加した。米大統領選で難民・移民の取り締まり強化を公約に掲げたトランプ氏が勝利したことが影響した。
年末まで同様のペースで難民申請が増え続けた場合、年間の申請者数は3万3000人以上と、昨年比で約40%増加し、少なくとも11年以降で最多となる。
1─2月の難民申請者のうち、2割に当たる1134人は不法入国者で、そのうち677人はケベックの国境で警察に拘束された。
カナダ政府は同国に殺到する難民に対して静観する姿勢を示しているため、野党から批判を受けている。【3月21日 ロイター】
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【不法移民については、大量流入への対応を迫る首相への圧力も】
こうした難民流入が続くと、“やはり”と言うか、不満や不安の声も大きくなります。
****カナダ人の約半数が不法移民送還を希望、首相に不満も=調査****
ロイターとイプソスが20日に発表した世論調査で、カナダ人の48%が米国からの不法入国者の送還を望んでいるほか、46%がトルドー首相の対応に不満を持っていることが分かった。
調査は8─9日、18歳以上の成人1001人を対象に、英語とフランス語でインターネットを通じて実施。
その結果、不法にカナダに居住する人々の送還強化を求める人と、最近米国から国境を越えてきている人の米国送還を望む人の割合が、それぞれ48%だった。一方、これらの入国者を受け入れて亡命申請の機会を与えるべきとの回答は、36%だった。
さらに、41%が不法入国者によってカナダの安全度が「低くなる」と考えていた。安全度に変化はないと予想している回答者は46%だった。
カナダでは過去数十年にわたり、高水準の合法移民の受け入れが超党派で広く支持されてきた。だが不法移民については、大量流入への対応を迫る首相への圧力が生じている。
トルドー首相の対応については、不満との回答が46%、37%が評価すると回答、17%が分からないと答えた。
次回選挙は2019年で、首相にとって差し迫った脅威はないとみられている。
首相府は調査に関するコメントを控えた。
シンクタンク、マクドナルド・ローリエ・インスティテュートのブライアン・リー・クローリー所長は、気温上昇とともに不法移民の数は増える可能性があると指摘。「不法移民が制御不能と人々が感じるようになれば、政府にとって極めて深刻な政治問題になると思う」と述べた。【3月21日 ロイター】
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アメリカでのトランプ政権の施策もこれから本格化することが予想されます。また、春になれば国境越えは冬の時期よりはるかに容易になります。
“不法にカナダに居住する人々の送還強化を求める人と、最近米国から国境を越えてきている人の米国送還を望む人の割合が、それぞれ48%だった”・・・すでに社会の空気は変化し始めているようにも見えます。
今後、流入する人々が急増すると、トルドー首相への圧力も大きなものとなることが予想されます。
ただ、“連邦政府ジョン・マッカラム移民・難民・市民権相は(2016年3月)8日、オンタリオ州ブランプトンで記者会見を行い、ことしの移民受け入れ数を大幅に増加することを発表した。同移民相は2016年に28万から30万5千人の永住者を受け入れるとし、前年の保守党政権の計画2015年末までに26万から28万5千人受け入れから大幅増となる。”【2016年3月16日 バンクーバー新報】ということからすると、野党・保守党も難民受け入れ自体を否定している訳でもなく、その数や違法性などが焦点になると思われます。
「厳格な制度と、助けを必要としている人々の受け入れのバランスを取っていく」というトルドー首相の議会発言をどのように具現化していくか・・・政治的にはこれからが正念場です。
トルドー首相は、2月23日、トランプ米大統領と会談し、両国の間の国境の管理をめぐる協力などについて協議していますが、内容の詳細は明らかにされていません。
個人的には、寛容な姿勢を大きく転換させることなく、事態を収められたら・・・と願うのですが。
【カナダのシリア難民受け入れプログラム】
なお、トルドー首相は2015年10月の選挙戦で、シリア難民2万5千人の受け入れを公約として表明していましたが、“政府の受け入れ事業では家族連れや性的少数者をはじめとする社会的弱者を優先し、単身の男性は当面対象外とする。ただし単身者も来年以降に改めて申請したり、民間のプログラムに応募したりすることは可能とされる”【2015年11月25日 CNN】と、必要性に加えて、テロの危険性へも配慮した優先順位を設けることにしています。
(単身男性を除外することの妥当性については異論もあるでしょう。現地に残された単身男性は過激派の絶好の標的ともなり、また、戦闘への協力を強要されます。受け入れ側の不安感は低減するかもしれませんが)
トルドー首相は「カナダへやって来る難民の家族が恐怖でなく、歓迎の空気で迎えられるようにしたい」と強調しています。
シリア難民受け入れプログラムに関しては、2016年2月までに2万5千人を達成し、2016年中にさらに政府支援1万人を受け入れるとも発表しており、冒頭記事にもあるように“同年(2015年)11月以降、シリアからだけで4万人近い難民がカナダに到着している”とのことです。
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