(ミンスクで(12月)20日、隠し持っていた赤と白の旧国旗を取り出し、住宅地を行進する反政権派のデモ隊。当局の摘発を逃れるため、数十カ所に分かれて小規模な集団で集まっていた。【12月27日 朝日】)
【同時多発デモにも徹底した弾圧】
周知のように、ベラルーシでは「欧州最後の独裁者」ルカシェンコ大統領の圧勝と発表された昨年8月9日の大統領選以降、選挙は不正だったとして同氏の退任を求める反体制派勢力や民衆の抗議デモが続いています。
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大統領選の投票終了直後に発表されたルカシェンコ氏の得票率は「80%の圧勝」だった。
選挙戦ではルカシェンコ氏に挑む有力候補らの拘束が続いた末、反政権派の統一候補になった主婦スベトラナ・チハノフスカヤ氏が旋風を起こしていた。26年間の強権体制下で以前は考えられなかった接戦への期待が高まっていただけに、国民の反発は大きかった。
複数の開票所職員が、得票のすり替えなど不正行為を強要されたと独立系メディアに告白し、国民の怒りが爆発した。【12月27日 朝日】
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しかし、政権側は徹底的に抗議行動を抑え込んでいます。
大規模デモは困難な情勢で、同時多発ゲリラ的な少人数デモが行われていますが、これも厳しい取締りに直面しています。外国メディアへの圧力も強まっています。
****「大統領得票8割」、デモ点火 ベラルーシ、一日1000人超拘束も*****
ベラルーシでは、8月の大統領選でルカシェンコ氏の圧勝が発表された。だが、人々は選挙結果が操作されたとし、抗議デモが全国に広がった。同国の人口は約950万人。200万人弱のミンスクで、日曜ごとに数万から十数万人のデモが数カ月続いた。
異例の事態に、政権のデモ弾圧も激しさを増した。治安部隊を大量動員して通りを封鎖。デモ隊に放水や音響閃光(せんこう)弾を浴びせ、11月には全国の日曜デモで拘束者が1日千人を超える日が続いた。デモを取材するジャーナリストも標的にされ、無差別に拘束された。
反政権派は同月末、都心での大規模デモ呼びかけをやめ、数十~数百人規模のデモを同時多発的に行う方針に変えた。当局の注意を分散させ、抗議が力で抑えられるのを防ぐためだ。
記者は20日にミンスク市内の数十カ所で行われたとみられるデモの一つを目撃した。参加者どうしの面識はなく、暗号化されたチャットで場所と時間を知り集まった。「ルカシェンコは辞めろ」。デモ隊がスローガンを唱え住宅街を練り歩くうち、参加者は300人ほどに膨れあがった。
だが、出発から約20分後、当局がデモ制圧の手を緩めていないことを見せつけられることになった。突然、小型バスが乗り付けて、先頭付近で急停止した。飛び出してきたヘルメットをかぶった多数の警官隊が一斉に参加者に襲いかかった。
人々はバラバラになって逃げ出した。記者のいる方向に走ってきた男性は警官に追いつかれ、地面にたたきつけられて、あっという間に連れ去られた。(中略)
政権に抗議する環境は厳しい。人権団体「ビャスナ」によると、(12月)20日のデモでは警官隊に拘束された人が全国で140人を超えた。大規模行進から数十~数百人の同時多発型にデモの戦術は変わっても、警官隊は場所を特定し、ピンポイントで急襲する。治安当局との攻防は情報戦の様相も呈してきた。
拘束されれば通常は「当局の許可を受けないデモに加わった」とされ、行政法上の違反として留置は最大で25日。しかし本格的な刑事犯罪として起訴されるケースも急増している。「ビャスナ」のパーベル・ソペルコ法律顧問は「ベラルーシには集会の自由も表現の自由もない」と憤る。
政権は報道にも神経をとがらせる。ベラルーシ外務省は10月、規則変更を理由に全外国人記者の登録を無効にし、外国メディアの報道が困難になった。
また、取材する記者は「デモ参加者」として扱われ、当局の標的となる。ドブロボリスキー記者は10月に現場での拘束は逃れたが、監視カメラの映像に姿が映っていた。後日、自宅から連行され、15日間留置された。
ただ、留置先で出会った参加者は暴力を振るわれ、狭い場所に閉じ込められても、皆むしろ政権に抗議を続ける意思を固めていたという。「当局の脅しの手法は全く機能していない」と語った。(後略)【12月27日 朝日】
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【政権を支えるロシア ベラルーシ問題はほぼ「ロシアの国内問題」】
ルカシェンコ大統領の強気の背景にはロシア・プーチン大統領の支援があります。
ロシアとしては、ウクライナに続いてベラルーシを失うわけにいかないということですが、ただ、ロシアの意に反して独自の行動をとることが少なくないルカシェンコ氏個人に対しては、ロシア・プーチン大統領も以前から、いささかうんざりしていると言っていいような思いがあります。
****政権は強硬、ロシア支援に自信****
ベラルーシの政治学者ワレリー・カルバレビッチ氏は「今起きているのは政権と反政権派の闘いではなく、政権とベラルーシ社会の闘いだ」と話す。
国外に逃れたチハノフスカヤ氏ら反政権派はルカシェンコ氏の退陣と再選挙の実施を要求するが、ルカシェンコ氏は対話を拒み続ける。欧州連合(EU)は対話を促すため、制裁対象を閣僚らにとどめていたが、11月にはルカシェンコ氏への制裁発動に踏み切った。
ルカシェンコ氏が強硬姿勢を保てるのは、ロシアのプーチン政権からの支援に自信を深めているからだ。カルバレビッチ氏は「ルカシェンコ氏は、ロシアが自分を必要としていることを知っている」と指摘した。
ベラルーシはロシアと国家連合を組む。ルカシェンコ氏は、14年にロシアがウクライナのクリミア半島を併合して国際的非難を浴びると一時欧米に接近した。その欧米が今回の大統領選後の危機で批判を強めると再びロシアを頼った。
ルカシェンコ氏はもともとは自らの権限が奪われるのを嫌い、ロシアのプーチン大統領が求める国家連合の深化には消極的だ。ロシアにとって、世論の離反を招き、政治基盤が弱体化するルカシェンコ氏は理想のパートナーではない。
一方で、ロシアは欧米との「緩衝国」としてベラルーシを自国の勢力圏に置き続けることを最重要視する。プーチン氏は欧米が反政権派を通じてベラルーシに影響力を広げるのを強く警戒してきた。ベラルーシの世論を敵に回してでも、当面はルカシェンコ氏の後ろ盾の立場を維持し、危機の沈静化を待つ方針とみられる。【同上】
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ジョージア、ウクライナに続いて、昨年はベラルーシ、キルギス、アルメニア、モルドバと、旧ソ連圏での政治混乱が続いており、ロシアの影響力に陰りも見えますが、そうしたなかにあってもベラルーシはロシアのとって「別格」の存在でしょう。
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もう一つ、ロシアと近隣諸国の関係性には、当然のことながら、具体的な相手国によって濃淡があります。
ロシアにとって、国境も接しておらず、住民がムスリム系のタジキスタンなどは、遠い存在です。ジョージアやアルメニアあたりは、同じキリスト教系といっても、ロシアの思い入れはそれほど強くないでしょう。
それに対し、歴史・言語・宗教などの紐帯で結ばれた東スラブ系のウクライナおよびベラルーシは、そう簡単に未練を断ち切れる相手ではありません。
実際のところ、クレムリンの感覚では、ベラルーシ問題はほぼ「ロシアの国内問題」なのではないでしょうか。だからこそ、プーチンは欧米諸国に対して、「ベラルーシに介入することは許されない」と警告しました。
プーチン政権は、ウクライナで手痛い後退を強いられただけに、ベラルーシだけは自国の勢力圏として死守しなければならないと考えているはずです。【1月5日 GLOBE+】
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【遅かれ早かれ、限界が来るとの指摘も 一方で、ベネズエラ・マドゥロ政権のような事例も】
では、このままルカシェンコ政権が国民の抵抗を力で押さえきれるか・・・という点に関しては不透明です。
(「そうあってはならない」という思いもこめて)「いずれ限界が来る」との指摘も。
****ベラルーシ危機は越年*****
昨年8月の大統領選挙をきっかけに、ベラルーシで発生した政治危機に関しては、当時我が国でも大きく報道されましたし、この連載でも数回取り上げました。その後、ベラルーシに関する報道量はかなり少なくなり、一般の関心も薄れているのではないかと思います。「ベラルーシは安定した」などとおっしゃる方もいます。
しかし、問題は何一つ解決しておらず、「安定した」というのは違うと思います。確かに、官憲の徹底的な弾圧を受け、夏から秋口にかけてのような数万人規模の反政府デモなどは、見られなくなりました。
それでも、「我々はこの暴力支配を許さない」という決意は、引き続き多くの国民によって共有されています。A.エリセエフという専門家は、「ベラルーシにとって、2020年の最大の出来事は、多数派がルカシェンコを支持しているという神話が、最終的かつ不可逆的に崩壊したことだ」とコメントしており、まさにそのとおりでしょう。
暴力(ルカシェンコ体制)VS非暴力(市民)という構図なので、すぐに体制が崩れるということはありません。まだしばらく、ルカシェンコ側が実力を行使して、権力の座にしがみつくこと自体は、可能なのかもしれません。
ただ、国民の多数派が現体制に拒絶反応を示し、国際的にも孤立する中で、ルカシェンコが正常な意味で国を統治することは、もはや困難です。遅かれ早かれ、限界が来るはずです。【同上】
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ただ、暴力も厭わぬ権力を突き崩すことが困難な事例も多々あります。
そのひとつが南米・ベネズエラのマドゥロ政権。
一時はいつ倒れてもおかしくないような状況でしたが、民兵組織の暴力などもあって、権力は維持。
野党勢力は権力奪取の道筋を描けず、野党がボイコットした議会選挙を経て、マドゥロ政権は当面は権力基盤をむしろ強化したように見えます。
****マドゥロ大統領、三権完全掌握=新国会発足、独裁完成―ベネズエラ****
南米ベネズエラで5日、新国会が発足した。
これまで多数派だった主要野党が昨年12月に行われた総選挙を「自由、公正さが担保されていない」としてボイコットしたため、統一社会党(PSUV)など反米左派与党連合が議席の9割を独占。マドゥロ大統領が三権を完全掌握し、これにより確固とした独裁体制が完成したことになる。
野党に牛耳られていた国会を「目の上のたんこぶ」と見なし攻撃してきたマドゥロ氏は、ツイッターで「祖国に希望の道を開く歴史的な日だ」と称賛。「(破綻状態にある)経済の回復と国民和解、国家平和の防衛に向け、共に飛躍しよう」と呼び掛けた。
一方、新国会の正統性を否定して1年間の任期延長を宣言している主要野党はこの日、独自の国会を開き、欧米の支援を受けて「暫定大統領」を名乗るグアイド議長の続投を決定した。
グアイド氏は「(マドゥロ政権は)民主勢力を滅ぼそうとしているが、われわれはベネズエラを差し出しはしない」と述べ、徹底抗戦を誓った。【1月6日 時事】
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今後のマドゥロ政権の持続可能性を左右する要因は、アメリカ・バイデン新政権の対応と財政の根幹をなす石油価格の動向でしょう。
【「煮ても焼いても食えない」ルカシェンコへの今後のロシアの対応は?】
一方、ベラルーシ・ルカシェンコ政権の命運を左右するのはロシア。
****ロシアは本当に「帝国」から脱皮できるのか?****
(中略)それでは、一時期窮地に陥っていたルカシェンコに、救いの手を差し伸べたロシアのプーチン政権は、ベラルーシ問題をどうしようとしているのでしょうか?
大前提として、ロシアの息のかかった国で、民衆蜂起により既存の政治体制が転覆されるというシナリオ(クレムリンの世界観によればそこでは必ず欧米が糸を引いている)は、プーチン政権にとって許容できないものです。したがって、ルカシェンコが革命で倒れるという事態は阻止するというのが、プーチンの基本姿勢です。
しかし、ルカシェンコという人物については、ロシアもほとほと手を焼いています。昨年8月の大統領選直後こそ、完全にロシアに恭順するかのような姿勢を示していたルカシェンコでしたが、結局それは「死んだふり」にすぎませんでした。
その後、態勢を立て直すと、ルカシェンコはロシアに課せられていた宿題をこなさないばかりか、再びロシアと一定の距離を置き多元外交に乗り出そうとしています。
プーチンも、「やはりルカシェンコという男は煮ても焼いても食えない」と、改めて思い知っているところでしょう。クレムリンは、ルカシェンコに取って代わる別の親ロシア派の擁立を水面下で画策しているとも伝えられます。
プーチンがルカシェンコに求めていたのは、憲法改革および早期の大統領選挙を実施すること、国民との対話を進めること、それによって情勢を沈静化させることでした。
しかし、実際にルカシェンコがやろうとしているのは、憲法を変えて、自らが大統領とは別の形で絶対権力者に留まり続けることです。こんなまやかしの政治改革は、反ルカシェンコ派の市民にとっては論外ですし、プーチンも納得はしないでしょう。
ベラルーシ情勢で次の節目となるのが、2月11〜12日の開催が決まった「第6回全ベラルーシ国民大会」です。これはかつてのソ連共産党大会を思わせるような一大政治セレモニーであり、5年に一度、ルカシェンコの新たな大統領任期に合わせて開催されているもの。
果たしてこの場でルカシェンコはどのような構想を示すのか、そしてベラルーシ国民とクレムリンがどのような反応を見せるのかが注目されます。(後略)【1月5日 GLOBE+】
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抗議行動で政権が倒れるのは絶対に阻止したいが、“ルカシェンコは煮ても焼いても喰えない”ということで、今後の成り行き次第では、ロシア・プーチン大統領はルカシェンコ大統領を見限って、“首のすげ替え”を図る・・・ということもあり得るでしょう。
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