孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  ミャンマーの少数民族側に国軍と停戦するように圧力 軍事政権支持を明確化

2024-12-05 23:41:03 | ミャンマー

(ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン総司令官(左)と握手する中国の李強首相=6日、雲南省昆明(ミャンマー国軍提供)【11月12日 時事】)

【中国 少数民族武装勢力に国軍との和平交渉に入るように、介入を強める】
少数民族武装勢力及び民主派武装勢力と国軍との内戦が続くミャンマー。

そのミャンマーにあって中国は以前からの少数民族武装勢力とのつながりがある一方で、軍事政権とも一帯一路事業などでつながりがあるということで、中国の対応が注目されていました。

少数民族武装勢力の攻勢が強まり、国軍側が劣勢においやられているのは、昨年10月のシャン州における3つの武装勢力の共同蜂起が契機となっています。

この蜂起が実現した背景には、中国国境に近い地域で活動する詐欺グループの取締りに本腰を入れない軍事政権に業を煮やした中国が、取締りに応じることを約束する少数民族側の蜂起を黙認した・・・ということがあり、現在の状況に中国は深く関与しています。

その後は事態の安定化を求める以外、あまり目立った動きをみせていなかった中国ですが、ここにきて少数民族武装勢力に国軍との和平交渉に入るように、介入を強めているようです。

****中国がミャンマー情勢に本格介入か 少数民族“軍との和平交渉”に協力表明相次ぐ****
2021年のクーデター以降、内戦状態が続くミャンマーで、軍事政権の打倒を掲げ戦っていた少数民族武装勢力の一部が軍との和平交渉に応じる態度を相次いで表明しました。

ミャンマー北東部シャン州では去年10月以降、3つの少数民族武装勢力が共闘作戦を展開し、ミャンマー軍の拠点を次々と占拠するなど、攻勢を強めていました。

こうしたなか、共闘作戦に加わっていた武装勢力のMNDAA=ミャンマー民族民主同盟軍は3日、「ただちに戦闘を停止し、中国による和平の仲介に積極的に協力する」との声明を出しました。

先月、MNDAAの指導者が中国で拘束されたと、一部の独立系メディアなどで報道され、中国が停戦を迫っているとの観測が広がっていました。

また、MNDAAと共闘していたTNLA=タアン民族解放軍も先月25日、中国の仲介によるミャンマー軍との和平交渉に参加する意向を表明しています。

中国政府は投資や貿易といった利害関係を背景に、ミャンマー軍トップを中国に招待するなど、軍政支援を鮮明に打ち出していて、敵対勢力への圧力を本格化させているとみられます。

イギリスBBCなどによりますと、中国当局とミャンマー軍は、「共同警備会社」を設立する計画があるということで、中国から部隊が派遣されるような事態になれば、情勢のさらなる混乱が予想されます。【12月4日 TBS NEWS DIG】
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「共同警備会社」・・・・なんでしょうか。中国軍と国軍が共同でミャンマー国内の治安安定のための活動をするということでしょうか。

いずれにせよ、中国は軍事政権の支持する形で、少数民族側に停戦に応じるように強い圧力をかけているようです。
“地元メディアは11月、中国当局が雲南省を訪れていたMNDAAのリーダーを拘束し、戦闘をやめるよう圧力をかけているなどと伝えていました。”【12月4日 日テレNEWS】

軍政寄りの姿勢を強める中国に対しては、民主派勢力や市民から批判の声も上がっています。【同上】

上記の動きは11月中旬に旅行作家の下川裕治氏がすでに報じていました。

若い頃下川氏の旅行記は大好きでしたが、ジャーナリストの同氏の活動についてはよく知らず、下川氏の下記記事について、「本当だろうか? どうして他のメディアをそれを報じないのだろうか?」という思いから、当該記事をブログで取り上げるのをためらっていましたが、ほぼ同氏が報告したとおりのようです。

逆に言えば、なぜメディアは今までこの内容を報じてこなかったのか、なぜ急に報じることになったのか・・・やや不審に思うところも。

話の前段として、11月に行われたミャンマー軍事政権の最高指導者ミンアウンフライン総司令官の初の訪中があります。

****中国首相、ミャンマーとの関係強化を表明 軍政トップと会談****
中国の李強首相は6日、雲南省昆明でミャンマー軍事政権の最高指導者ミンアウンフライン総司令官と会談し、ミャンマーにおける政治的な和解と政権移行に向けた取り組みへの支援を表明した。国営の新華社が報じた。

ミャンマー軍事政権は、少数民族との内戦状態などで統治が揺らぐほか、国際社会は軍政を承認していない。李氏は周辺国を含めた多国間協議でもミャンマーとの連帯と協力を強化するとした上で、「中国・ミャンマー経済回廊」を一段と推進したいと述べた。

ミャンマーにおける中国国民などの安全を守るよう求めたほか、オンライン賭博や通信詐欺など国境を越えた犯罪に対して共同で取り組む必要があるとも強調した。

ミンアウンフライン氏は、2021年のクーデターで実権を掌握して以降、初めて中国を訪問した。軍政は、少数民族の民兵組織と連携した武装抵抗運動と争い、中国との国境沿いの地域を含めて混乱が続いている。【11月7日 ロイター】
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“ミャンマー軍の発表によりますと、総司令官は会談で、中国との政治的、経済的な協力を深めることを確認したうえで、「二国間だけでなく、国際的な舞台でも緊密に連携できると信じている」と強調しました。

また、民主派や少数民族との内戦状態が続いているミャンマーの治安状況をめぐっては、「中国政府の仲介で一部勢力との停戦に合意したが、反故にされた」としたうえで、「平和の扉は常に開かれている」と述べ、和平交渉の再開に意欲を示しました。”【11月7日 TBS NEWS DIG】

【軍事政権支持を明確化した中国に対し、ミャンマー国内では批難・悲鳴】
こうした動きを背景に、下川氏が指摘した記事が下。

****中国の裏切りで「もうミャンマーは終わりです」 軍政権を支援で国民からは絶望の声****
国軍のクーデターによって今も混乱が続くミャンマー。ここにきて中国が国軍支援を鮮明に打ち出したことで、ミャンマー国民からは絶望の声が聞こえてくる。旅行作家の下川裕治氏が取材した。
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11月6日、ミャンマーの国軍トップであるミンアウンライン総司令官が中国雲南省の昆明市を訪問した。2021年2月のクーデター以来初の訪中である。メコン川流域6か国の首脳会議に中国から招待された形で、李強首相との会談も実現した。

ミンアウンラインは演説で、「国軍は和平を求めているが、少数民族軍が応じない」と発言。中国との蜜月を演出し、「これで国際社会から認められた」といった発言も国軍関係者から聞こえてくる。これまで国軍を支援していたのはロシアぐらいだった。中国のこの動きは、状況を大きく変える可能性がある。

ミャンマー国内では、国軍支援にまわった中国への非難の声が強い。「中国は間違った選択をした。さらなる混乱を生む」といった投稿がSNS上に溢れている。

当初は少数民族軍を黙認していた中国だが…
昨年の10月27日、ミャンマーの3つの少数民族軍が連携し、国軍に対する一斉攻撃を開始した。MNDAA(ミャンマー民族民主同盟軍)、TNLA(タアン民族解放軍)、AA(アラカン軍)である。その際、中国との国境付近のミャンマー側に拠点を置く特殊詐欺グループの取り締まりも宣言した。

中国はこの詐欺グループに手を焼いていた。中国の高齢者を狙った「振り込め詐欺グループ」による被害は、日本の特殊詐欺グループとは桁違いだったからだ。

当初、中国は国軍に取り締まりを要求したが、詐欺グループから莫大な賄賂を受けとっていた国軍の反応は鈍く、国境付近には、何をしても捕まらない無法地帯ができあがっていった。

その取り締まりを少数民族軍は宣言したわけで、彼らの国軍への攻撃を、中国はほぼ黙認した。結果、士気に勝る少数民族軍は優位に地上戦を進め、国軍は多くの軍事基地を失っていく。少数民族軍はシャン州北部やラカイン州で彼らの支配エリアを広げていった。

この状況は、軍事政権に反対する多くの国民はもちろん、NUG(国民統一政府。クーデター後に発足した民主派政治組織。影の政府とも呼ばれる)、PDF(国民防衛軍。クーデター後、国軍に反発する人々の武装組織)などが歓迎した。

一方、国軍は中国を非難した。ミンアウンラインは「中国が少数民族軍を支援している」とまで語っていたのだ。

6月頃から雲行きが…
ところが今年の6月ごろから、両国の高官の往来が活発になる。まず、国軍ナンバー2のソーウィンが訪中し、武器の購入が目的だったという噂が流れた。8月に入ると中国の王毅外相がミャンマーでミンアウンラインと会談に臨んでいる。

その目的が明らかになってくるのは8月末だ。中国と少数民族軍との仲介役をはたしてきたのは、ワ区を事実上統治するUWSA(ワ州連合軍)だが、彼らと中国側関係者が雲南省で行った会議の議事録が流出。

そこで中国は少数民族軍に圧力をかけようとしていることが判明した。それを受けるかのように、国軍に一斉攻撃をした少数民族軍のひとつMNDAAは、「NUGとの協力否定」を表明した。

この報道を耳にしたとき、ヤンゴンで法律関係の仕事につくMさん(48)はフェイクニュースかと思ったという。
「しかしその後の情報をみると、どうも本当のよう。これはまずいと思いました。ミャンマーの国民は、クーデター以来、国際社会に国軍の弾圧について訴えてきました。しかしどの国も積極的に動いてはくれなかった。そして中国が国軍支援にまわると……」

「この国が嫌です」
日本に暮らすLさん(48)は、少数民族軍が支配する北部出身のシャン族だ。独自の情報ルートがあるらしい。
「問題は民主派政府のNUGにあるよう。NUGは欧米の支援を受けています。少数民族軍がNUGと手を結ぶということは、欧米側に近づくことになる。中国はそれを警戒して圧力をかけたようなんです」

現地の民主派メディアは「中国はミャンマーの軍事政権を中国の傀儡にしようとしている」という論調で、民主派と少数民族軍を分断させようとしていると主張している。中国はかねて「停戦」を呼びかけているものの、その背後にはさまざまな策動が見え隠れする。

10月18日にはマンダレーの中国領事館に手りゅう弾が投げ込まれた。反発する民主派の犯行という見立てだが、ミャンマー国民の間では国軍の自作自演という推測も流れてきた。

これらを経て、11月に国軍トップが訪中したわけである。中国が国軍の支援に動いたことは、多くのミャンマー国民に焦燥感を生んだ。厭世的な言葉を口にする人も少なくない。

ヤンゴンの会社で働く女性のCさん(22)はこういう。
「その話、もう訊かないでください。森のなかで私たちの代わりに戦っている若者を思うと息が詰まってしまって。中国が支援すれば、国軍はもっと強く出る。もうミャンマーは終わりです。この国が嫌です」

男性のMさん(26)は、
「僕は徴兵される可能性がある。田舎の友達の何人かは拉致されるように国軍に連れ去られて兵士にされた。僕らになにができるっていうんです?」

仲買業者のNさん(42)の声には覇気がない。
「私たちはもうなにもできない。猛烈な物価高で、生きていくのがやっとなんです。もう国軍のことを考える余裕もない」

「和平を求めている」と言いながら空爆
トップのミンアウンラインは「和平を求めている」と言いつつ、少数民族軍に支配権を奪われた街やエリアに、国軍は激しい空爆を加えている。

そんな地域に住む人の意識は違う。AA(アラカン軍)と国軍が衝突しているラカイン州。いま州内のほとんどのエリアはAAが支配している。国軍は地上戦では太刀打ちできないため、空爆でAAに対抗している。ある村の村長さんが話してくれた。

「私の村も空爆に遭い、娘が足を失いました。これだけ激しい戦争をしてきて、そこで中国から停戦を促されても、言うことは聞きませんよ。私たちはそんな状況じゃない」

国軍の空爆は激しさを増しつつある。最近では見境がなくなりつつある。ラカイン州では、戦闘が再び起きる可能性のある市街を避け、住民は郊外に仮設の避難村をつくって生活しているが、そこへの空爆も厭わなくなってきている。

10月21日、国軍は、1000人ほどが暮らすラカイン州の避難村のひとつへ空爆を行い、市民5人が死亡した。ラカイン州ではこの2ヵ月間の空爆で、民間人約400人が犠牲になっている。そこには約130人の女性と、18人の子供が含まれているという。【11月18日 下川裕治氏 デイリー新潮】
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要するに中国は、欧米とのつながりがある民主派と手を切って、国軍と停戦するように少数民族武装勢力に圧力をかけており、実際“少数民族軍のひとつMNDAAは、「NUG(民主派政治祖組織)との協力否定」を表明した。”ということのようです。

中国がそういう形で介入を強め、国軍と少数民族武装勢力との停戦が実現すれば、強い軍事力を持たず、軍事的には少数民族武装勢力に大きく頼っていた民主派勢力は孤立し、国軍の鎮圧の対象となっていきます。

もとより少数民族武装勢力はミャンマー全土の民主化にさほど強い関心がある訳ではなく、かれらの目的は国境地帯での経済活動をを守ることにありますので、国軍がそのあたりを保障すれば停戦に向かうことになります。

中国がミャンマー民主化には僅かの関心もないことは言うまでもありません。

ですから、少数民族武装勢力に頼った民主派の国軍との戦いは、そもそも無理があり、仮に国軍を打倒したとしても少数民族側とミャンマー族の民主派の間で統一的なミャンマーの政治体制(連邦制が云々されていますが)を構築できるのか疑問もありました。

また、「裏切られた」というのは中国が少数民族及び民主派側を支援してくれているという思いが前提でしょうが、そもそも中国にはそんな意図はなく、中国への過剰な思い入れからくるものでしょう。中国が関心があるのは、国境での安定と全土における一帯一路事業の推進といった中国の権益維持だけです。

なお、“オランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察官は、ミャンマーのミンアウンフライン国軍総司令官の逮捕状を請求する意向を明らかにした。ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャに対する迫害に関する人道上の犯罪が理由だ。”【11月28日 ロイター】といったことは、中国と国軍の接近の支障には全くならないでしょう。

ICCはプーチン大統領に続いて、ネタニヤフ首相、更にはミンアウンフライン国軍総司令官と逮捕状を連発する状況ですが、多くの関係国がこれを無視する形で実効性が伴っていないという問題があります。

【軍事政権との関係を強化するロシア 軍事政権は中ロ支援で総選挙を実施し正統性アピールの狙い】
下川氏の上記記事にある“これまで国軍を支援していたのはロシアぐらいだった”というロシアの動き。

****ロシア企業“ミャンマー人の労働者受け入れへ”国営紙  ウクライナ侵攻による労働力不足が背景か****
ウクライナ侵攻によりロシアで兵士や労働者が不足するなか、ロシアがミャンマーからの出稼ぎ労働者を受け入れる方針だとミャンマーの国営メディアが報じました。

ミャンマーの国営紙は25日、軍事政権との関わりがある「海外人材派遣企業協会」の関係者の話として、ロシア企業などが「ミャンマー人の出稼ぎ労働者の募集を始めた」と報じました。「製造業や農業、畜産業でミャンマーからの労働者を受け入れる方針だ」としています。

ロシアではウクライナ侵攻以降、多くの人々が戦地に動員されたり、国外に逃れたりしていて、ミャンマーの人材派遣業者はJNNの取材に対し、「ロシア国内での労働力不足を補うものだ」と話しています。

一方のミャンマーでは、2021年の軍事クーデター以降、内戦状態が長期化しており、タイや日本などを目指す出稼ぎ労働者が急増していましたが、軍事政権は今年から海外での就労に制限をかける措置をとっています。【11月30日 TBBS NEWS DIG】
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****ロシア代表団がミャンマー訪問 軍トップらと会談“総選挙への支援”表明****
ロシアの代表団が3日、ミャンマーで軍事政権のトップらと会談し、軍が計画している総選挙に向け、ロシアが協力していくことで一致しました。

ロシア下院のショルバン・カラ・オール副議長が率いる代表団は3日、ミャンマーの首都ネピドーを訪問し、軍トップのミン・アウン・フライン総司令官らと会談しました。

ミャンマー国営メディアによりますと、ロシア側はミャンマー軍が来年2月に実施を予定している総選挙への支援を表明。ロシアから監視団を派遣するなど、総選挙に向けて協力していくことで一致したということです。

ミャンマー軍は、アウン・サン・スー・チー氏率いる民主派政党が圧勝した2020年の総選挙で「不正があった」として軍事クーデターを強行し、国内各地で抵抗する反軍勢力との激しい戦闘を続けています。

総選挙には中国政府も協力する意思を示しており、ミャンマー軍としては、中国・ロシアの支援を得ることで、軍主導の総選挙を正当化する狙いがあるとみられます。【12月4日 TBBS NEWS DIG】
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中ロ支援のもとで、少数民族武装勢力の妨害を排し、民主派を排除した軍主導の総選挙・・・結果は見えています。
そうした形で軍事政権は国軍支配の正統性をアピールし、中国はその“正統な”軍事政権との関係強化で権益維持を目指すという構図です。
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