孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  統計数字の信頼性や感染拡大中の規制緩和は他国でもある話、相次ぐ医師の転落死はロシア特有

2020-05-14 23:16:05 | ロシア

(新型コロナウイルスの感染が急激に広がり、病院の前には救急車の列ができた=ロシア・サンクトペテルブルク、2020年4月27日【5月12日 GLOBE+】)

【新型コロナ死者統計の信頼性への疑念】
ロシア政府発表の新型コロナ感染者数は14日現在、25万2245人で米国に次ぎ世界2位ですが、死者数は2305人と感染者数の規模の割に少なく、統計の正確さに疑問が出ています。

ニューヨーク・タイムズなど米英の有力2紙が相次いで、ロシアの死者数は約70%も少なく申告されているとの疑惑を報道、これに対しロシア外務省は13日、記事は偽情報だとして両紙に訂正を要求しています。

ロシア・モスクワ市は、コロナ感染者が死亡した場合、きちんと検死して死因を特定している、その結果、死亡した感染者のうち6割以上の死因がコロナ感染ではなく、もともとの持病の悪化などによるものだったことが判明しているので、その分はコロナ死亡者には含めていないと説明しています。

****モスクワ市、新型コロナ死者統計の不正否定 検視で6割が他の死因****
ロシアの首都モスクワ市の当局は13日、4月に市内で死亡した新型コロナ感染者のうち、6割以上の死因を新型コロナ以外として統計上処理したと明らかにした。当局は、検視によって「極めて正確」に死因の特定をしたとし、統計の不正を否定した。(中略)

モスクワ市保健局は13日の声明で、4月の死者数(1万1846人)は前年同月より1841人多く、増加数は新型コロナウイルス感染症による死者数のほぼ3倍だったと認めた。しかし、新型コロナ死者数の過少報告の疑惑はきっぱりと否定した。

モスクワ市保健局は、他の多くの国々とは異なり、ロシア政府とモスクワの当局は新型コロナが主な死因である疑いがある遺体全ての検視を実施したと説明、「それ故、モスクワでの検視と死因特定は極めて正確で、死亡統計は完全に透明だ」と強調。

死亡した新型コロナ感染者の6割強は、心臓発作やステージ4の悪性腫瘍など、新型コロナ以外の原因で死亡したのが明白だったとした。新型コロナ感染症が直接の原因だった4月のモスクワの死者は639人だったという。【5月14日 ロイター】
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ただ、どうして4月に死亡者が急増しているのか?という疑問は依然として残ります。

もっとも、例えば検査を受けずに自宅や介護施設で亡くなった者などが含まれていないなど、公表死者数が実態を反映していないのでは?との指摘はアメリカでも欧州でもありますので、統計数字の信頼性の問題はロシアだけの話ではありません。意図的に隠蔽操作しているという話なら、また別ですが。

【感染に歯止めがかからない中での規制緩和】
感染者数が非常に膨らんでいることに関しては、ロシア側は、検査数が多いことも一因だとしています。

しかし、4月末以降、ミシュスチン首相ら閣僚3人の感染が判明したのに続き、12日にはプーチン大統領の側近、ペスコフ大統領報道官の感染も明らかになったというように、感染拡大が止まらない状況にあるのは間違いありません。

そうした厳しい感染状況の一方で、これ以上経済活動を止めると国民不満が拡大して政権の基盤を揺るがしかねないという面もあり、ロシアは12日から段階的規制機序に踏み切っています。

****コロナ禍ロシア、規制を緩和 感染連日1万人増、でも経済失速懸念 市民不満、迫られ企業再開****
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、3月末から全国で企業活動を制限していたロシアが12日、段階的な規制の解除を始めた。国内の感染拡大の勢いは衰えておらず感染者数は米国に次いで多い23万人台だが、経済失速への強い懸念から、対応を迫られた形だ。
 
ロシア政府の12日午前(日本時間夕)の発表によると、国内の累計感染者は23万2243人。1カ月前の約15倍で、今月3日以降は新たな感染者が連日、1万人以上のペースで増えている。
 
そんななか、プーチン大統領は11日、民間企業の休業措置を12日から解除し、建設業や資源採掘などの基幹産業の運営を同日から再開すると発表。「これらの業種は雇用が非常に多い」と述べ、再開することで労働者が給与を得られ、家族の幸せにもつながる、とした。優先させる業種の基準として「消費者と接触する必要がなく、リスクが低い」ことも挙げた。
 
解除の背景には、経済への危機感がある。コロナ禍と原油安で、今年の経済成長率はマイナス7~8%に落ち込むとの見方が出ている。また、長引く規制で生活が困窮した市民は不満を募らせており、プーチン氏の支持率が過去最低の59%に落ち込んだとする世論調査結果もある。
 
ただ、企業活動の再開や外出規制などの解除は、地域の実情に委ねられている。感染者の集中するモスクワでは、国による規制が緩和されても、市長の判断によって多くの業種は再開が認められない。市内の飲食店やショッピングモールなどの休業や、外出規制は5月末まで続く見通しだ。
 
感染をいかに抑えるかも、問われている。急激な伸びについて、政府は「検査数を大幅に増やしたことも一因だ」と説明する。

1日の検査数は現在17万件前後で、英オックスフォード大の研究者グループのまとめによると、人口あたりの検査件数は世界トップクラスだ。

しかし、経済活動を抑制しているなかでも感染者が増えていただけに、緩和するとさらに加速する懸念がある。
 
また、ロシア政府が発表する新型コロナの死者数は約2千人で、同じ規模で感染が広がる他国と比べても死亡率が低い。ロシアのノーバヤ・ガゼータ紙は、死因の分類方法が国によって異なることや、モスクワ市の死者数などから「新型コロナによる死者数は、公式発表の3倍近い可能性がある」としている。(後略)【5月13日 朝日】
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【“大きな賭けに出た”プーチン大統領 憲法改正案国民投票の成否は視界不良】
盤石の政権基盤を誇ってきたさしものプーチン大統領も、厳しい局面に立たされています。

*****露、企業の活動制限を段階的解除 プーチン氏、求心力低下を危惧****
(中略)これまで2回にわたり延長してきた活動制限を再び延長すれば、プーチン氏の判断の甘さを露呈することになり、低下傾向が続く自身の支持率がさらに低下するとの懸念もありそうだ。
 
実際、プーチン氏は新型コロナの具体的な収束対策は実質的に各自治体に任せてきた。これについて露メディアからは「(自身の終身大統領化も可能になる)改憲の国民投票を控え、感染拡大の責任が自身に及ぶことを避ける思惑がある」との分析も出ていた。
 
ただ、制限解除後も感染状況が悪化すれば、不満がプーチン氏に集まるのは避けられない。プーチン氏は大きな賭けに出た形だ。【5月12日 産経】
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もっとも、感染が抑制しきれに状況での経済活動再開はロシアだけでなく、アメリカやインドなども同様です。
日本を含めた各国が、そのバランスには悩むところです。

政治的に“大きな賭けに出た”というあたりも、再選戦略から規制緩和に前のめりになっているトランプ大統領と似たような立場にあります。

プーチン大統領の今後を左右する憲法改正案国民投票に見通しついては、“予断を許さない”状況とも。

****先行き不透明なプーチンの任期延長****
ロシアでは3月に、プーチンの大統領任期を2024年から後12年間延長する憲法改正案が議会で可決されている。プーチンはそれを憲法の規定に従って国民投票にかけなければならない。

この国民投票は本年4月22日に行われる予定であったが、新型コロナウイルス感染者が増えている状況の中で、プーチンは国民投票を延期する決定をした。いつ行うかは決まっていない。
 
憲法改正案が国民投票で承認されるためには、投票率が50%以上、かつ、賛成票が投票の50%以上である必要がある。ロシア国民が、このプーチン任期を延長するための投票に行き、投票率50%を超えられるか、投票者の50%が賛成票を投じるか、予断を許さないように思われる。
 
これについて、ロシアの民主活動家ウラジーミル・カラムーザがワシントン・ポストに4月14日付で‘Vladimir Putin has a popularity problem — and the Kremlin knows it’(プーチンは人気の問題を抱えており、かつクレムリンはそのことを知っている)と題する論説を寄稿しており、参考になる。

カラムーザは、プーチンの任期延長、大統領の年齢制限についての最近のレバダ社による世論調査の結果を紹介している。

それによれば、プーチンの任期延長については、賛成48%、反対47%、大統領の年齢上限については58%が「元首は70歳より高齢であるべきではない」と回答した由である。

カラムーザは、権威主義国家では世論調査で政権寄りの結果が出る傾向にある、いわゆる「権威主義バイアス」がある中でこういう結果が出たことは驚きである、と指摘する。
 
カラムーザは、さらに、ロシア政府は正規の国民投票ではなく超法規的な「人民投票」を目指しているようだが、問題はその後で、ロシアの社会の大部分は、プーチンが任期延長はないと繰り返し約束したにもかかわらず任期を延長しようとしていることを信頼の裏切りとみなしているとして、プーチンの前途が明るくないことを示唆している。
 
カラムーザはロシアの民主化を願望している人であり、ネムツォフ関係財団に関与している人であるので、上記の分析は、彼の希望的観測である可能性があるが、彼の言うような結果になる可能性も十分にあるように思われる。
 
ロシアの経済は、原油価格の低下で苦境にあることに加え、新型コロナウイルス感染拡大によってさらに下押しされることはほぼ確実である。

サウジアラビアとロシアが減産合意に失敗した後、原油価格が急激に下がり、サウジもロシアも苦境に陥り、減産合意に改めて合意したが、新型コロナウイルスで世界経済は不況入りしており、需要が減産以上に減っている。プーチンが最初減産を拒否したのは間違いであったと言える。経済困難は国民の不満につながり、プーチンの人気は当然下降する。
 
プーチンは2024年から12年間大統領に留まることを目指しているが、そうなると引退時には83歳になる。ロシアでは男性の平均寿命が70歳にもならない中で、83歳というのは大変な高齢者との印象がロシア人にはあるだろう。
 
投票率、開票の操作などは当然予測できるが、プーチン政権が今後も盤石であるとの前提で対応することは難しいと思われる。【5月11日 WEDGE】
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これまでのロシアの投票事例からすれば、ハードルが高いのは賛成票の割合よりも、“投票率が50%以上”の方でしょう。

【当局に不都合な医師が相次いで窓から転落死】
以上見てきたように、ロシアの統計数字の信頼性とか、感染拡大が収まりきらないなかでの制限緩和といった話は、ロシア特有の話でもありませんが、当局に不都合な医師などが相次いで転落死する・・・という話になると、ロシア特有の話にもなります。

これまでも、ロシアでは政権に不都合なジャーナリストや政敵などが暗殺などの方法で“消されてしまう”という事例が多々あります。(他の国でも、無い訳でもないのでしょうが)今回の医師転落死もそういった類では・・・・という疑惑がぬぐえません。

****窓から転落死する医師、ロシアで続々…脆弱な医療態勢を公表しないよう圧力か****
新型コロナウイルスの感染が拡大しているロシアで4月下旬以降、医師の転落死が相次いでいる。ロシアでは脆弱な医療態勢を公表しないよう当局が病院や医師に圧力をかけていると指摘されており、背景に関心が集まっている。
 
露インターネットメディア「メドゥーザ」などによると、東シベリアのクラスノヤルスク地方で4月下旬、病院5階の窓から転落した院長代理の女性医師が今月1日に死亡した。女性医師はテレビ会議で、当局からの感染症患者受け入れ要請を、態勢不備を理由に拒否していたという。
 
また今月2日には、南西部ボロネジ州の男性救急医が窓から落ち、重体となった。救急医は4月下旬、自身の感染確認後も勤務を続けるよう求められていたと公表していた。
 
このほか、モスクワ郊外の病院の救急医療責任者だった女性医師も4月24日に、窓から落下して死亡した。勤務先の病院で集団感染が起きた責任を問われ、自殺したとの見方が出ている。【5月10日 読売】
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(これらの事件が、ロシア当局が関与した殺害であるとすれば)新型コロナ感染以上に怖い話のようにも思えます。

イギリスで起きたロシア二重スパイ・リトビネンコ氏暗殺事件では、放射性物質ポロニウム210が使用されるといった手の込んだ方法がとられたようですが、一番足がつきにくい殺害方法は“窓から突き落とす”といった単純な方法でしょう。

南西部ボロネジの病院で窓から転落し重傷を負った男性医師は、投稿した動画で、新型コロナに感染した後も勤務を続けていたことや防護具の不足を訴えていましたが、その後この発言を撤回。地元当局が何らかの圧力をかけた可能性が取り沙汰されています。【5月12日 毎日】

ロシアでは昔から権力に盾突く者には、その存在を抹殺しようとする情報機関等の「長い手」がどこまでも追ってくるという話があります。

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