孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キリスト教会弾圧を続ける中国 バチカンと接近の動きも

2015-10-18 22:10:39 | 中国

(当局によって十字架が撤去される中国・舟山の教会【2014年5月2日 CHRISTIAN TODAY】

米・キューバ:ローマ法王の仲介で歴史的和解
バチカン・ローマ法王が単に宗教界のリーダーにとどまらず、現実政治世界においても非常に大きな影響力を有していることは周知のところですが、先のアメリカ・キューバの関係正常化においても、そうした現実政治とのかかわりの一端が示されています。

****米・キューバ国交回復】交渉の舞台裏、明らかに 法王のキューバ訪問に合わせ****
54年間にわたって敵対してきた米国とキューバが今夏、ローマ法王の仲介で歴史的和解を成し遂げた内幕が明らかになりつつある。「スパイ小説」(米メディア)をほうふつとさせるもので、双方の秘密交渉が極めて困難な状況下で行われたことが浮き彫りになっている。

米CNNテレビなどによると、秘密交渉が始まったのは法王就任から3カ月後の2013年6月。キューバは拘束中の米国人、アラン・グロス氏を釈放するのと引き換えに、米国で服役中のキューバ諜報員5人の釈放を要求した。
だが、米国はグロス氏が諜報員ではないとして拒絶。キューバ側も米国の代替案を退け、早くも暗礁に乗り上げた。

カトリック教徒向けの雑誌によれば、法王は14年3月にバチカンを訪れたオバマ米大統領に対し、「(和解は)キューバだけでなく、米政府とあなた自身のためにもなる」と強調。カナダが交渉の舞台を提供してもなお妥協点を見いだせない中、法王は8月、国交回復を迫る文書を両首脳に送り付ける決断をした。

ところが、「秘密裏の交渉であるため、法王がオバマ氏に電子メールを送るといっても不可能」(米歴史家ピーター・コンブラフ氏)な状況。使者として白羽の矢が立ったのが、キューバ・カトリック教会最高位のオルテガ枢機卿(78)だった。

枢機卿は元ピアニストで、革命後に労働収容所に8カ月間入れられた。神父に転じた後、カストロ政権と市民との橋渡し役として、政権が信頼を寄せていた人物だった。

法王の密命を帯びた枢機卿の行動は巧妙を極めた。ワシントンの大学街で講演するとの名目で渡米、その足でホワイトハウスに向かった。ロイター通信によれば訪問者は通常名簿に記載されるが、米政府は名前を削除し情報漏れを防いだ。

交渉が行き詰まる中、枢機卿に一通の手紙が届いた。送り主は、キューバ諜報員でありながら、米中央情報局(CIA)の二重スパイとして投獄されたロランド・サラフ氏。枢機卿は獄中で受刑者に説教した際、同氏と知り合っていた。手紙は「私が米国との交換対象になり得る」と強調。枢機卿は直ちに手紙を政権に届けた。

秘密交渉にはラウル・カストロ国家評議会議長の息子アレハンドロ・カストロ氏も関与したという。カストロ政権はこの事実を公表していないが、釈放されたキューバ諜報員がフィデル・カストロ前議長と面会した際、アレハンドロ氏も同行したという。

コンブラフ氏によれば、アレハンドロ氏の関与をカストロ政権が公表しないのは、米国と今後交渉する際の「効果的」な仕掛けとするため。今後、対米交渉の重要な局面で再び登場するとみられている。

宗教ジャーナリストのアウステン・イベレイ氏はCNNに対し、「米南部マイアミとキューバに横たわる海は、ヨハネ・パウロ2世時代の『ベルリンの壁』に相当する」と指摘。法王フランシスコが今回キューバを訪問したのは、過去の恩讐(おんしゅう)を両国が乗り越えるのを全力で支援するためだと解説している。【9月22日 産経】
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もちろん、バチカン・ローマ法王の動きは、単に「世界平和のため」というだけでなく、アメリカにおけるカトリック教会へのテコ入れといったバチカンの利害にも関わってのことと思われます。

バチカンを悩ます同性愛容認問題
いずれにせよ、こうしたローマ法王の仲介もあって事がうまく運んだことで、法王の訪米にあたってはオバマ大統領とバイデン副大統領がそれぞれ妻子を伴って空港で出迎えるという異例の対応で歓迎、歓迎式典においてもオバマ大統領はアメリカとキューバの国交正常化交渉の橋渡し役をした法王に謝意を表明しています。

法王は24日、米議会で演説を行い、不法移民の受け入れについては、
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法王はよりよい生活を求める移民の国という米国の建国の趣旨を示唆。米国内の不法移民とシリアなどから欧州に殺到している難民を関連づけて、「この大陸にも、自分たちと愛する家族のためによりよい暮らしやチャンスを求めて北に向かう人が数多くいる」と指摘し、中南米からの移民を一種の難民として扱うべきだとの考えを示した。【9月25日 CNN】
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地球温暖化対策の必要性については
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地球温暖化が人間の活動由来であることに疑念をもつ保守派を念頭に、「人間の活動が引き起こした環境悪化」を防ぐための勇気と責任ある努力を呼び掛けた。【同上】
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また、格差是正について
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「ビジネスは富を生み出し世界をよりよくすることを目指す高貴な職業だ」と述べた。その一方で、富は分配されるとともに「雇用の創出」に向けられるべきだとも訴えた。【同上】
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といった主張を行っています。
更に、国連本部の演説では「核兵器のない世界(の実現)に向け、緊急に取り組む必要がある」と述べ、核拡散防止条約(NPT)を順守しつつ、核兵器の全面禁止を実現する重要性を訴え、イラン核問題合意についても「政治的善意と法(による解決)に潜在力があることの証左だ」と評価しています。

こうした主張は、フランシスコ・ローマ法王が見せてきたリベラルな姿勢を反映したもので、これまでの言動を考えると想定の範囲内のものですが、下記の報道はやや意外な感もありました。

****法王、ひそかに面会 同性婚証明発行拒んだ米の書記官と****
「キリスト教の教えに反する」として、同性カップルに婚姻証明を発行することを拒んだ米ケンタッキー州の郡書記官が、訪米したローマ・カトリック教会のフランシスコ法王とひそかに面会した、と弁護士が明らかにした。

書記官の弁護士によると「夫と一緒に面会し、励まされた」という。AP通信によると、バチカンのロンバルディ報道官は「コメントしない」と述べ、会談を否定しなかったという。

カトリック教会は同性婚に反対の立場だが、法王は訪米中にこの問題で目立った発言をしなかった。しかし、ローマへ戻る飛行機では婚姻証明の発行拒否について記者から問われ、「良心による拒否の権利はすべての人間にある」「政府の役人にもその権利はある」と述べていた。

ローマ法王と面会したとしているのは、ケンタッキー州ローワン郡のキム・デービス書記官。裁判所の命令に従わずに婚姻証明の発行を拒んだと9月上旬にいったん収監されたが、現在は釈放されている。

デービス書記官の弁護士によると、24日にワシントンで15分ほど面会した。法王は英語で「気持ちを強く持って」と書記官に語りかけたうえでロザリオを手渡したという。

法王の訪米中は注目を避けるため、公表しなかったという。デービス書記官はカトリック教徒ではない。【10月2日 朝日】
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フランシスコ法王は、かねてより自分は同性愛者を「裁く立場にない」と発言するなど柔軟な姿勢を見せ、昨年10月に公表された中間報告書には、教会は同性愛者を歓迎し尊重すべきだとする文言が盛り込まれました。

しかし、同時に開催された世界代表司教会議の臨時総会においてローマ・カトリック教会の司教らからは「教会側にそのような傾向(同性愛)に対する肯定的な評価があるという印象が生じないよう」にする必要性の訴えがあり、結局、同性愛関係に根本的に反対し続ける姿勢を表明、保守派が押し返して方針転換は幻に終わったとも報じられています。【2014年10月20日 時事より】

その後も、昨年11月には、同性愛や再婚を容認しない厳格なカトリック教義を重視する保守派の重鎮で、柔軟とされるフランシスコ・ローマ法王反対派の急先鋒でもあったバーク最高裁長官(枢機卿)が解任されるなど、同性愛容認を巡る綱引きがバチカン内で続いています。【2014年11月9日 時事より】

そうした流れのなかで、法王が同性愛に強く反対するデービス書記官を呼んで激励したというのは意外なニュースでした。バチカン内の“政治的”なものの反映でしょうか?あるいは法王自身の本心でしょうか?

法王への注目で、かすんだ習近平訪米
こうした法王に全米の注目があつまるなかで、割を食ったのが、同時期に訪米していた中国の習近平主席です。

****あの習近平もかすんだローマ法王訪米の政治力****
ローマ法王(教皇)フランシスコが、今月19〜27日にキューバとアメリカを歴訪した。法王というとお飾りのアイドルのように思う人もいるが、法王の率いるローマ・カトリック教会は中世西欧を束ねた往時の力こそないものの、今でも全世界に12億人の信者を抱え、180カ国と外交関係を有し、106カ国に大使を常駐させている。

今年、アメリカとキューバは54年ぶりに外交関係を復活させたが、その過程でカトリック教会は自分の「外交力」を使って仲介の労を取った。

米キューバの国交正常化とともに、法王の訪米もまた大きな意味を持つ。米大統領選が始まっているからだ。

アメリカでは、これまでプロテスタントが主流で、カトリックは傍流に甘んじてきた。19世紀後半にアイルランド人、イタリア人などのカトリック教徒が大量に流入して以来、比較的貧困な層の宗派と見なされ、現在は中南米からのヒスパニック系移民の宗派ともなっている。

昨年、カトリックはアメリカで成年人口の20.8%を有し、単一宗派としてはプロテスタントの福音派の25.4%に次ぐ。

近年カトリックはヒスパニック系移民の大量流入にもかかわらず、米総人口の中での比重を下げた。しかもヒスパニック系の間でさえ若年層を中心に福音派教会に宗派替えする例が増え、信者の老齢化を招いている。

最近では聖職者による性犯罪の例も明るみに出た。カトリック教会にしてみれば、ここらでアメリカの教会にテコ入れをしておきたかったことだろう。

カトリック信者の間では、民主、共和両党の支持者の比率が拮抗している。民主党のオバマ米大統領としては、ローマ法王を自らの民主党の側に引き付けておく意味は大きい。(中略)

共和党から大統領選に名乗りを上げたジェブ・ブッシュ(07年までフロリダ州知事)とマルコ・ルビオ(キューバ系の同州選出上院議員)は、キューバとの国交正常化の旗印を掲げて、キューバ系移民の間での支持を固めようとした。

そこをオバマがトンビのごとく、キューバとの国交正常化という油揚げをさらっていってしまった──こういう構図が見える。

こうして法王は、同時期に行われた中国の習近平(シー・チンピン)国家主席の訪米もすっかりかすませ──バチカンと中国には「国交」がなく、関係は対立気味──さっそうと帰国した。

宗教は人、票に関わる。法王の訪米は単なるお祭りではなく、「政(まつりごと)」だった。【10月2日 河東哲夫氏 Newsweek】
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司教の任命権限を巡る中国とバチカンの対立
世間の関心を奪った、奪われたといったこと以上に、国内宗教を管理しようとする中国とバチカンの関係は難しいものがあります。

****ローマ法王もたじろぐ「反キリスト」中国の教会弾圧****
・・・・今日では世界最多の人口を抱える国家に成長した中国は、いずれの宗教も膨大な信者数を抱えるようになった。キリスト教も例外ではないが、中国共産党政権が建国直後から苛烈な弾圧政策を維持してきたので、「チャイニーズ・クリスチャン」の存在は国際問題と化している。

中国のキリスト教徒の総数は1億3000万人に達するとの見方もあるが、政府系の研究機関は3000万人という控えめな数字を公開している。

GDP成長率を水増しして「世界第2の経済大国」の座を死守しようと画策し、民族間紛争の犠牲者数や環境破壊の数値を過小に操作するのが得意な政府が言うところの信者数も信用できない。

ひとまず当局の分類に従うと、3000万人中プロテスタントは約2500万人で、残りはカトリックだという。

プロテスタント系の教会は「中国基督教三自愛国運動委員会(三自会)」に組織化されており、カトリック系の教会は「中国天主教愛国会」という社会団体にまとめられている。「三自」とは「自治、自養、自伝」の略で、「反動的な外国勢力から独立して自治し、聖職者を自ら養成し(経済的にも自力で教会を養う)、独自に伝道する」との意だ。

宗派を問わない排外的な組織化はすべて建国直後に周恩来首相の主導で確立した政策。「キリスト教は欧米の帝国主義による中国侵略の先兵にして道具だった」との認識からの断罪だ。建国後、共産中国とバチカンは外交関係が断絶したまま今日に至る。

法王を阻む高いハードル
・・・・フランシスコが法王に選出された直後には中国政府から祝電が届き、昨年の韓国訪問時に中国上空を通過した際は習に挨拶の打電をしていた。相思相愛と思われていたが、訪米時に接近は見られなかった。

「中国に行きたい」と、法王はアメリカからの帰途に語ったそうだ。しかし、バチカンと中国が外交関係を結ぶには3つの高いハードルがある。

まず、「宗教はアヘン」とのイデオロギーを中国共産党が放棄しない点だ。「外国の反中国勢力は宗教を利用して中国を転覆しようとしている」として、警戒を緩めない。キリスト教徒が外国に憧れるのを防ごうとして、教会を破壊したり、十字架を引き下ろそうとしたりする暴力事件が中国内で頻発している。

次に、信教の自由のない中国で、政府系の「三自会」や「愛国会」を敬遠する信者たちは独自の場所に秘密裏に集まってミサを行う。これを当局は「地下教会」と断定して信者を逮捕、拘束し、両者の対立は先鋭化している。

バチカンは司教の任命権を確保しようとしているし、中国共産党は逆に任命権こそが外国の干渉の手口だとみて排除しようとしている。

第3に、中国はバチカンに関係正常化の前提条件として台湾との断交を掲げているが、バチカンは台湾の「教友たちを捨てる」決断を容易に下せない。

大勢のクリスチャンに正しい福音を伝えるのを優先すべきか、それとも共産党統治下で殉教者が続出するのを黙認するのか。法王は習の動きを見極めながら模索中であろう。【10月13日号 Newsweek日本版】
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両者に接近の動きも そのうち法王が訪中?】
ただ、バチカンにとって中国は「巨大な未開拓市場」でもありますし、「大国」を自任する中国にとっても世界に強い影響力を有するバチカンとの関係改善はメリットが大きいと思われます。

****<バチカン>中国側と会談 関係改善へ、法王訪中の意向****
キリスト教カトリックの通信社UCAニュースは16日、中国と国交を結んでいないバチカン(ローマ法王庁)の担当者が今月中旬、北京で中国側と会談したと報じた。フランシスコ・ローマ法王は対中関係改善を目指しており、中国を訪れたいとの意向を示している。

UCAニュースによると、バチカン側代表団は11日に北京に到着し、中国側との会談を終えて既にローマに戻ったという。会談に参加した双方の代表団の構成や人数、議題は明らかになっていない。

中国は1951年にバチカンと断交。中国のカトリック教会は政府公認の「中国天主教愛国会」と、法王に忠誠を誓う非公認の地下教会に分かれ、バチカンと中国は聖職者である司教の任命権限を巡って対立している。

だが、現地からの報道によると、中国河南省安陽教区で今月4日、バチカンが承認する神父が愛国会の規定に基づいて司教に就任した。バチカンの承認する司教が中国で就任するのは約3年ぶりという。

フランシスコ法王は9月28日、中国と接触していることを認め、「中国は世界に偉大な文化をもたらしている大国だ。そのような大国を友人に持てるのはうれしい」と語った。

前任法王のベネディクト16世時代に対中接触を担当したバチカンのパロリン国務長官(首相に相当)は11日、「法王は中国行きを望んでおり、門戸が開かれればすぐにでも出かけると思う」と述べた。【10月17日 毎日】
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中国の過酷な宗教管理はチベット問題でもあきらかですが、信教の自由を堅持した形でバチカンが中国と和解ができるのか・・・?それとも“政治”優先で関係修復が図られるのか?

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