【11月3日 AFP】
【英米:「イスラム国」系組織が機内に爆発物を仕掛けた可能性を指摘】
乗客乗員224人を乗せたロシアの旅客機(同機はチャーター便で乗客は全員ロシア人とみらています)が10月31日にエジプト・シナイ半島で墜落した事件(事故)原因については、これまで様々な憶測がなされていましたが、5日、イギリス外相が機内爆博物による可能性が高いことを明らかにし、イギリス旅客機に乗り入れを停止するという措置をとったことで急展開しています。
****【露旅客機墜落】イスラム国の犯行可能性「かなり高い」と英外相、爆発物持ち込みか エジプトは「未確認情報」と不快感****
エジプトのシナイ半島で起きたロシア機の墜落で、ハモンド英外相は5日、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」関連団体による犯行の可能性が「かなり高い」と英メディアに明らかにした。米メディアも、イスラム国系組織が機内に爆発物を仕掛けた可能性があるとする当局者の話を伝え、テロの可能性が高まった。
ハモンド氏は4日、キャメロン英首相が招集した政府の治安対策会合に出席後、「幅広い情報」に基づき、機内に持ち込まれた爆発物が原因になった「かなりの可能性」があると指摘していた。
英政府は、半島南部の保養地シャルムシェイクにいる英国人を輸送する緊急措置をとるとともに、英旅客機の乗り入れ停止を決定。渡航を控えるよう国民に呼び掛けた。
アイルランド航空当局も運航停止を発表。エールフランスなどは半島上空の飛行を回避しているが、国として運航を停止したのは初めて。
ロシア機墜落に関し、イスラム国傘下組織の「シナイ州」は、「航空機を落とすことに成功した」とする犯行声明を出している。
一方、ロシア当局は今のところ公式な反応を示していない。またエジプトのシーシー大統領は英国入りした。エジプト当局側は、英国側が一方的に「未確認情報」を公表したとして、不快感を表明している。
ただ、今のところ爆発物の痕跡など決め手となる物証は発表されておらず、テロと断定できない状況だ。【11月5日 産経】
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墜落機が離陸したシナイ半島のリゾート地シャルムエルシェイクはイギリスでも人気があり、BBC放送によると、現在も約20000人の英国人が滞在しているとのことです。
アメリカ情報機関からも同様のテロ情報があがっているようです。
****【露旅客機墜落】米情報機関がイスラム国による犯行と分析 ロシア機墜落でCNN報道****
米CNNテレビは4日、エジプトのシナイ半島で墜落したロシアの旅客機に関し、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」か関連組織によって爆発物が仕掛けられた可能性があると米情報機関が分析していると伝えた。手荷物などの形で機内に持ち込んだ可能性があるという。
米当局者の話としてCNNが報じたところによると、米政府は事前にロシア機墜落に関する有力な情報は得ていなかった。ただ、事故前後に傍受した内部の通信内容を分析した結果、イスラム国系組織による関与を推定できたという。【11月5日 産経】
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エジプトの空港における安全管理の杜撰さも改めて指摘されています。(まあ、エジプトに限った話ではないでしょうが)
****エジプト空港、ずさんな警備=協力者が存在?―ロシア機墜落****
エジプト東部シナイ半島で起きたロシア機墜落で過激派組織「イスラム国」による爆弾テロ説が指摘され、墜落機が出発した保養地シャルムエルシェイクの空港のずさんな警備態勢の在り方が問われている。
空港で「爆弾を機内に持ち込むのに協力した人物がいるのではないか」との疑惑もあり、エジプト当局が捜査を進めている。
シャルムエルシェイクの空港の利用者は観光客が圧倒的に多く、セキュリティーチェックは甘い。警備員は携帯電話をいじったり、たばこをふかしたりと緊張感がない。
手荷物検査所では外国人を見つけると、検査そっちのけでチップの支払いを求めてくる係官もいる。この実態は広く知られている。
こうした中、空港関係者がロシア機に爆発物を持ち込むのに協力した可能性も取り沙汰されている。英メディアは、墜落したロシア機に機内食を提供した会社の関係者に対し、エジプト当局が事情聴取を行ったと報じた。【11月5日 時事】
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これまでも「イスラム国」(IS)の支部を名乗る武装集団が「自分たちが墜落させた」とする声明を出していましたが、つい昨日までは、「われわれは今のところ、テロにつながる直接の証拠は持ち合わせていない」(2日 アメリカの情報機関を統括するクラッパー国家情報長官)といった発言のように、「イスラム国」等の武装組織には高高度を飛行する旅客機を撃ち落すようなことは難しいだろう・・・といった見方が一般的でした。
観光が基幹産業であるエジプトとしては、客足が遠のく「テロ」という判断は認めたくないところで、イギリスの突然の発表、イギリス旅客機の乗り入れ停止措置には激怒しているそうです。
おりしもエジプトのシシ大統領が4日夜にロンドン入りし、5日にはキャメロン首相と会談することになっており、イギリスの発表のタイミングは気まずいものになっています。
もちろん、キャメロン首相としては自国民の安全を最優先させた判断でしょう。
6月26日、チュニジア・スースのリゾートホテルで男が銃を乱射して外国人観光客など39人が死亡した事件では、イギリス人30人ほどが犠牲になったということで、こうしたテロに対しては非常に敏感になっている背景があるものと思われます。
【テロを封じ込めないエジプト・シシ政権】
エジプト・シシ大統領は、シナイ半島のイスラム過激派はをほぼ追い詰めており、エジプト軍が同地域をコントロールしているとは発言していますが、実態はなかなか・・・。
エジプトではテロが頻発しているのが現実です。
****爆弾が爆発し警官3人が死亡 エジプト北部****
エジプト北部の北シナイ県にある警察官向けのクラブの外で4日、爆弾が爆発し、少なくとも3人の警察官が死亡したほか、負傷者も出た。国営ナイルテレビが伝えた。実行犯については分かっていない。(後略)【11月4日 CNN】
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(IS関連組織「シナイ州」が犯行声明を出しています)
****エジプト ピラミッド近くで爆発 4人けが****
エジプトの首都カイロ近郊にあるピラミッドのすぐ近くで爆弾が爆発して警察官など4人がけがをし、国内でイスラム過激派の活動が活発化するなか、観光地周辺の治安も悪化しています。(後略)【10月24日 NHK】
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極めつけは、こんな事件もありました。
****エジプト軍が観光客らの車列を誤って攻撃****
エジプトの砂漠地帯で、軍と警察がメキシコ人観光客らの車列を誤って攻撃し、12人が死亡したことについて、メキシコ政府は観光客らはヘリコプターなどで空から攻撃を受けたとして非難しています。(後略)【9月15日 NHK】
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また、8月20日には首都カイロ北部の警察の建物前で自動車爆弾が爆発し、警察官6人が負傷。
7月11日には、カイロ中心部のイタリア領事館前で駐車していた車が爆発し、1人が死亡、11人が負傷しています。
かねてよりイスラム過激派の活動が活発なシナイ半島に近づくつもりはありませんが、これだけ頻発すると、また、ピラミッド近くでも・・・という話になると、やはりエジプト観光には慎重になります。テロリストの思うつぼではありますが。
シシ政権はIS関連組織だけでなく、前政権を支えたムスリム同胞団もテロ集団として徹底した抑え込みを行っていますが、そうした姿勢がムスリム同胞団メンバーを過激派に追いやる結果にもなっているとの指摘もあります。
「安定」を力で確保しようとする強硬姿勢によって、政治的には野党不在の強権支配体制ともなっています。
****投票率27%=政情不安で「意義感じず」―エジプト議会選****
エジプト選管は21日、先に行われた議会選第1ラウンドの第1回投票の結果を発表し、投票率が27%弱にとどまったことを明らかにした。2011年の前回議会選第1ラウンド投票率は約60%で、大幅に落ち込んだ。
投票では、候補者の陣営がバスで有権者を投票所に運んだり、投票と引き換えに現金を支払ったりと、違法性の高い露骨な動員行為が見られた。
それでも、投票率が落ち込んだ背景には11年以降、選挙結果が相次いで覆される政情不安が続き、国民が「議会の存在意義を感じなくなった」(50歳男性)という事情がありそうだ。【10月22日 時事】
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今回のロシア機墜落が爆弾テロということになると、シシ政権の強権支配をもってしても「安全」が確保されていないことを世界に示すことにもなります。
【シリアへの深入りを懸念するロシア世論への影響は?】
一方、爆弾テロによる墜落というのはロシアにとっても都合がよくない事態でしょう。
ロシア機が標的にされたということであれば、背景にあるロシアのシリア空爆に焦点があたってきます。
かねてより、イスラム過激派は「ヌスラ戦線」がロシア兵士に懸賞金を懸けるなど、ロシアを狙っています。
現在のところプーチン大統領の支持率はシリア空爆を受けて89.9%という驚異的な数字となっており、シリア空爆も72%から支持されているという数字が出ています。
ただ、シリア空爆については、深入りしたくないという国民の考えもあるように指摘されています。
ロシア政府もそのあたりに非常に気を使っています。
****ウクライナ・シリア「2正面作戦」の撤収を図るプーチン****
・・・・ロシア国内ではシリア空爆は支持されており、レバダセンターの調査では、72%が空爆を支持した。
別の調査では、プーチン大統領の支持率はシリア空爆を受けて89.9%に上昇した。
ただ、「アフガニスタン紛争の二の舞になる恐れがある」と答えた人も46%に上り、国民は介入長期化を望んでいない。ロシアの1500万人以上のイスラム教徒はスンニ派であり、イスラム教徒の9割は同胞であるスンニ派空爆に反対しているとの情報もある。
これまでの死者は兵士1人だけで、兵舎で自殺したと発表された。空爆コストは1日400万ドル。今のところ作戦自体は淡々と推移しているが、長期化したり、犠牲者が出ると国民の厭戦気分を高めるだけに、引き際を検討せざるを得ない。(後略)【10月30日 名越健郎氏 フォーサイト】
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実際、空爆開始後もロシア政府は国民の反発を気にしていた。
国防省は、シリアに派遣されるロシア兵は契約軍人の中でも特に志願した者に限られる、とわざわざ発表した。1990年代のチェチェン紛争であったような、徴兵された若い兵士がいきなり戦闘現場に送られるようなことは今回はない、ということをはっきりさせて、社会不安を打ち消す狙いだ。【11月2日 dot.】
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イスラム過激派のテロによって安全が脅かされるという事態とれば、シリア空爆に対する世論も厳しくなります。
経済制裁はさほど効果をあげていないとも言われていましたが、長引く原油安の影響は大きく、ロシアには経済的制約もあります。
****原油安でロシア財政が崖つぷちに****
ウクライナ危機をめぐり欧米諸国からの経済制裁が始まって1年半以上。苦しい台所事情が続くロシア財政がいよいよ危険水域に近づきつつある。
シルアノフ財務相は先週、政府系ファンド「予備基金」の資金が来年までに底を突く恐れがあると語った。予備基金は原油価格の高騰に乗ってロシア経済が好調だった08年に運用を開始した巨大ファンドで、原油価格の下落に備えて蓄えられているものだ。
ロシア政府は毎年、予備基金を使って財政赤字を補填してきた。だが最近の原油価格の低迷を受けて、その残高は今年中に現在の半分以下に目減りする見込みだ。財政赤字の穴埋めに使えるのは「来年が最後になる。それ以降はそんな資金は残されていない」と、シルアノフは警告する。
現在のような原油安とルーブル安が続けば、来年のロシア財政は141億ドルの赤字に陥る恐れもある。シリア内戦で難しい舵取りを迫られているプーチン大統領にとっては、内憂外患の日々が続きそうだ。【11月10日号 Newsweek日本版】
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****<ロシア>記録的な石油増産 政権苦境の可能性も****
昨年後半からの原油安が長引く中、税収を確保したい政府の意向を受けたロシアの石油会社が記録的な増産を続けている。
ただ、ウクライナ問題を巡る米欧の対露経済制裁によっての新規の大規模投資は難しくなっており、中期的には減産に転じる見通しだ。
資源大国ロシアでは、エネルギー資源の輸出収益が国家財政に直結している。プーチン政権は苦境に陥る可能性もある。(後略)【10月31日 毎日】
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“ウクライナ危機以降、欧米からの制裁と批判にさらされている今のロシアにはある種、戦時中にも似た社会心理が広がっているようにも思える。「大統領を支持するか」という質問が「ロシアを愛しているか」という質問とほぼ同一視され、「ニェット(ノー)」とは答えにくい状況が生まれているという指摘もある。”【11月2日 dot.】とのことですが、テロ攻撃の泥沼に引きずり込まれ、財政的にも苦しくなる・・・という状況になれば、シリアからの“引き際”の検討の要請が更に強まるのかも。
イギリスやアメリカがエジプト調査を待たずに一方的に「爆弾」説を打ち上げたのも、そうしたロシアへの影響を考えてのものでしょうか?
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