孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  大量に押し寄せる帰還難民 欧州は再度の難民流入を警戒 帰還先での生活は?

2024-12-10 23:48:57 | 中東情勢

(【12月10日 TBS NEWS DIG】トルコの国境検問所に押し寄せる帰還難民)

【HTSを主軸に政権移譲が進むものの、どのような統治がなされるのかは不透明】

諸勢力の群雄割拠状態、そこへの関係国の思惑、前回書けなかった、ロシア・イラン・イスラエルの動き(イスラエルはゴラン高原緩衝地帯に進軍し、国連は「停戦協定違反だ」と批判しています)などもありますが、今日は主に難民帰還の話。

アサド政権の突然の崩壊、大統領のロシア亡命・・・今後のシリアは誰がどういう形で統治するのか?
いまのところ、アサド政権崩壊で中心的役割を果たしたイスラム過激派「シリア解放機構」(HTS)を軸に権限移譲が進んでいます。

****反体制派に権限移譲へ=主力組織指導者、首相らと会談―シリア****
シリアのアサド政権崩壊を受け、同国のジャラリ首相は9日、中東のテレビ局アルアラビーヤに対し、2017年に反体制派が設立した「シリア救国政府」に権限を移譲することで合意したと明らかにした。

ただ、実際の移譲には時間を要する可能性があるとも指摘した。権力の空白が生じないよう、スムーズな政権移行ができるかが課題となる。

ロイター通信によれば、反体制派の主力「シャーム解放機構」(HTS、旧ヌスラ戦線)の指導者ジャウラニ氏は、シリアに残っているジャラリ氏のほかメクダド副大統領とも会談し、政権移行プロセスを協議した。ジャウラニ氏はシリアの再建を公言している。

救国政府は、反体制派が拠点とし、前政権の支配が及ばなかった北西部イドリブ県で統治を担っている。ロイターは中東メディアの報道として、救国政府を率いてきたムハンマド・バシル氏が暫定政権のトップを務める見通しだと報じた。【12月10日 時事】
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アサド大統領の支持基盤であったアラウィ派も反体制派を支持するとのこと。ただし、「報復」など今後の対応次第というところも。

****アサド大統領故郷のアラウィ派、シリア反体制派への支持表明****
シリアのアサド政権を打倒したイスラム教スンニ派主導の反体制派は9日、アサド大統領の故郷を訪れ、同氏と同じアラウィ派の長老による支持を得た。

アサド氏を支持していたアラウィ派を反体制派がどのように扱うかは、政権崩壊が同氏に忠実だったグループに対する暴力的な報復につながるかを占う上で注目される。

複数の住民によると、反体制派の代表団はアサド氏の故郷である北西部ラタキア県カルダハを訪れ、数十人の宗教家や長老らと面会した。アラウィ派の有力者らはその後、反体制派を支持する声明に署名したという。

住民によれば、代表団にはいずれもスンニ派の「シャーム解放機構(HTS)」と「自由シリア軍」のメンバーが含まれた。

シーア派の一派であるアラウィ派はシリアの人口の約1割を占め、トルコ国境に近いラタキア県に集中している。人口の約7割はスンニ派で、キリスト教徒、クルド人、ドルーズ派などのコミュニティも存在する。

ロイターが確認した声明はシリアの宗教的・文化的多様性を強調するとともに、新たな統治者の下で国家のサービスや警察を早期に回復することを求める内容。カルダハの住民が持つ全ての武器を引き渡すことにも同意している。

町の有力者約30人が署名し、カルダハが「新たな道と愛国的で自由なシリアを支持し、(HTSや自由シリア軍と)全面的に協力する」ことを確認した。反体制派は署名していない。【12月10日 ロイター】
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「自由シリア軍」・・・・アサド政権への抵抗が始まった頃は反体制派の中心的存在で欧米の支援も受けていましたが、その後主導権をイスラム過激派に奪われ、また、イスラム過激派との共闘も行っていることが明らかになりました。
その後はいろいろ変遷もあって、現在どの程度の規模を持つのか、イスラム過激派に対しどういうスタンスに立つのか・・・良く知りません。

いずれにしてもHTSを主軸した新たな体制がどのような統治になるのか、HTSの指導者ジャウラニ氏が現在主張しているように宗教的・文化的多様性が容認されるのか、あるいはアフガニスタンのタリバン政権のようにひとつの価値観を押し付けるような政治になるのか・・・今は不透明です。

【戦闘の停止を喜び、帰還を始める難民】
いろいろ今後への懸念は山積みですが、とにもかくにもアサド政権が崩壊し政権と反体制派の戦闘は終わったということで、国内外に逃れていた人々の大量帰還が始まっています。

国外に逃れた難民の数は480万人(UNHCR)とも。また国内に避難した避難民はそれを上回る720万人とも。正確な数字はよくわからないのが実情ですが、とにかく膨大な数字であることはは間違いないところです。

****アサド政権崩壊で シリア難民の帰還始まる****
シリアのアサド政権の崩壊で戦闘を逃れて国外に避難していたシリア難民は、祖国への期待を抱き帰還を始めています。

隣国ヨルダンの国境近くにあるキャンプでは、難民として避難生活を送る100世帯が暮らしています。 避難した後に生まれ、祖国を知らずに育った子どもたちも多くいます。

シリア難民の女性
「(Q.シリアで子どもたちに見せたい場所は?)昔、住んでいた場所『ハサカ』です。内戦が始まった時に避難してきたから」

この家族はアサド政権の崩壊によってシリアに帰れるという希望を抱いたということです。

現在、シリアと行き来ができるヨルダンで唯一の検問所でも早速、家族のもとに帰る人たちの姿が見られました。
しかし、新しい政権が安定した運営を出来るのかなど、課題も残されたままです。【12月10日 テレ朝news】
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****アサド政権崩壊で多くのシリア難民が帰還****
アサド政権が崩壊した中東シリアの隣国トルコでは、内戦から逃れた多くの難民が国境にぞくぞくと押し寄せています。

記者
「長い間、難民としてトルコで生活してきた人たちが大きな荷物を持って、シリアとトルコの検問所に向かっていきます」

国境検問所には、2011年のシリア内戦が始まって以降、トルコに逃れてきた難民がアサド政権の崩壊を受けて母国に帰還しようと押し寄せています。

「故郷に帰りたい。家を造りたい」
「シリアは自由だ。私たちはこれから国をつくるんだ」

ただ、今回の反体制派勢力の電撃的な攻勢では、異なるいくつものグループが「打倒アサド政権」で一致することはできたものの、全く別の主義主張にたつ勢力も多くあり、新たな政権づくりに向けて、これからが正念場となりそうです。【12月10日 TBS NEWS DIG】
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【欧州 シリア情勢は混沌としており、新たな大量難民発生を懸念】
難民受入国にとって難民の存在は重荷にもなっていましたので、その帰還は歓迎すべき事態でしょう。

数百万人と言われる最大のシリア難民を抱えるのがトルコですが、国境検問所の開放を決定して難民帰還を促しています。

****トルコ、シリア難民の帰還に向け国境検問所開放へ****
トルコのエルドアン大統領は9日、シリアと接するヤイラダギ国境検問所を開放することを明らかにした。シリアのアサド政権崩壊を受け、現在受け入れている数百万人のシリア難民の安全かつ自主的な帰還に対応する。

エルドアン大統領はアンカラでの閣議後、国境付近での戦闘を背景に2013年以降閉鎖されていたヤイラダギ国境検問所を「渋滞防止と交通緩和のために開放する」と表明。難民の帰還については「受け入れ国としてふさわしい方法で自主的帰還の手続きを管理する」と述べた。【12月10日 ロイター】
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欧州も大量のシリア難民で各国の政治が揺らぎ、反移民勢力の台頭を惹起し、そのうねりは今も続いていますので、基本的に難民の帰還は関歓迎すべき事でしょう。

しかしシリアの今後は不透明で、状況が悪化すれば、再び難民が逆流するとの懸念も。

****アサド政権崩壊で欧州に新たな移民危機の恐れ-ラミー英外相が警鐘****
英国のラミー外相は9日、シリアのアサド政権崩壊により、欧州全般に新たな移民危機が発生する恐れがあるとの警戒感を示した。英国はシリア難民申請に関する決定を留保した。
  
ラミー外相は英下院でアサド政権の崩壊について、「危険と機会が同時に訪れる瞬間だ」と指摘。アサド大統領を追放した反体制派の武装組織「シリア解放機構(HTS)」に関して英政府は「慎重な姿勢を維持している」と付け加えた。

HTSは英国では依然として非合法のテロ組織とされており、HTSや紛争に関わる他の勢力が支配地域で民間人をどう扱うかを英政府は厳しく注視していくと外相は述べた。
  
外相は「多くの人々がシリアに戻り始めていることは、アサド大統領が退陣した今、より良い未来を望む彼らにとって明るい兆しではある。

だが、今後の展開は多くのことに左右される」とし、「シリアへのこうした流れが、すぐに逆回転し、危険で違法な移民ルートを使って欧州大陸や英国を目指す人々の数を増やす恐れもある」と付け加えた。
  
英国への移民流入が過去2年間に記録的な数に達したことを示す統計を受け、スターマー首相は移民流入抑制の取り組みを強化している。英内務省は、現状を評価する間、シリアからの難民申請を一時保留すると発表した。
  
2015年の欧州における移民危機は、アサド政権による残虐な弾圧から逃れるためにシリア市民数十万人が国外に避難したことが一因だった。【12月10日 Bloomberg】
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2015年の欧州における移民危機への思いから、シリア情勢に警戒感を抱いているのはイギリスだけでなく欧州各国に共通しており、欧州各国は状況が混沌としている今は難民受入れを一時停止する措置をとっています。

****シリア人難民受け入れ、独仏英など欧州約10カ国が停止へ 2015年の流入危機で警戒****
2015年の欧州における移民危機シリアのアサド政権崩壊を受けて9日、ドイツやフランス、英国など欧州約10カ国がシリア人の難民申請受け入れや審査を一時停止する方針を発表した。

「シリアの状況が流動的で審査が困難になった」のが主な理由だとしている。2015年、シリア内戦による難民流入で欧州が大混乱に陥った「教訓」が背景にある。

申請受け入れ停止は、ドイツが最初に決定した。政府は声明で、難民申請者の審査も延期し、「状況が安定すれば、再開する」と表明した。

現状ではシリアから難民が流出するのか、あるいはドイツ在住シリア人の帰還が進むのかの予測ができないとしている。

ドイツでは11月までに、シリア人の難民申請が約7万5千件にのぼった。国別では最多で、申請全体の3割を占める。

来春予定の総選挙では、移民問題が争点のひとつになっており、保守系の最大野党「キリスト教民主同盟」(CDU)からは、シリアへの帰国希望者に1千ユーロ(約16万円)を支給し、出国を後押しするべきだという主張も出た。

フランスではルタイヨー内相が「シリア人の難民申請受け入れの停止に取り組んでいる。数時間で決める」と発言。

イタリアやベルギー、ギリシャ、スウェーデンなど北欧諸国も続いた。

オーストリアではカルナー内相が公共放送ORFで、難民申請の受け入れに加え、定住した難民の家族呼び寄せも停止すると述べた。さらに、「シリア人の秩序ある帰国や送還」に向けて準備を進めると表明した。

一方、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は9日の声明で、難民の安全で自発的帰還には「忍耐と警戒」が必要だとして、各国の性急な動きを牽制した。

欧州には15年のシリア難民危機で、100万人以上が流入。寛容な受け入れ政策が不法移民を増加させ、イスラム過激派の侵入も招いたという不満が広がった。現在は、各国で移民排斥を訴える右派政党が支持を伸ばしている。【12月10日 産経】
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“(シリア難民の)出国を後押しするべき”・・・難民自身の自主的な判断ではなく、難民を追い出したいような風潮に繋がらないか心配もあります。

【疲弊したシリア経済 帰還した難民の生活が成り立つのか?】
帰還を喜ぶ難民が多い中で、実際に帰還して生活が成り立つのかどうかの不安も。

****アサド政権崩壊で中東のパワーバランス激変か シリア難民480万人の進路は?****
(中略)
■9割が貧困ライン以下で生活 帰還阻む国内経済
内戦で大量の難民が発生
シリアでは2011年の内戦勃発以来、多くの人々が難民として国外で不安定な生活を続けている。
 
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によると、先月時点でおよそ480万人がシリアから国外へ避難していて、トルコは最多のおよそ294万人を受け入れ。また、ドイツの国際放送局ドイチェ・ヴェレによると、ドイツも7月時点で90万人以上を受け入れたという。

こうしたシリア難民は、アサド政権崩壊でどうなるのか?
HTSのリーダー・ジャウラニ氏はCNNのインタビューで、アサド政権から解放した地域に難民・避難民を帰還させる考えを示した。しかし、難民の帰還は簡単には進まない可能性もある。

難民の帰還は進むのか
世界銀行によると、シリアのGDP(国内総生産)は2011年にはおよそ675億米ドル、現在のレートでおよそ10兆円だったが、2021年にはおよそ89億米ドル、およそ1.3兆円に。10年で7分の1以下になった。

また、WFP(国連世界食糧計画)によると、シリア国民の9割が一日あたり2.15米ドル(およそ320円)の貧困ライン以下で生活していて、人口の4分の3にあたる1670万人が人道支援を必要としているという。

さらに、シリアの失業率は2023年時点の推定で13.54%。15歳から24歳の若者に限れば33.5%にも上る。

大規模な難民帰還の実現可能性は?
アメリカメディア・GZEROは、大規模な難民帰還の実現可能性について「シリア経済の安定、将来の政府の形、復興努力にかかっている。HTSが主導する政権は、帰還を望む難民にとって魅力的ではないかもしれない」と伝えている。(「大下容子ワイド!スクランブル」2024年12月10日放送分より)【12月10日 テレ朝news】
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新たな統治体制がどのようなものになるのか、実際に帰還して生活が成り立つのか・・・今はその行方を見守るしかありません。
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