(「石油空母」とも称される中国石油業界にとっての「戦略兵器」である新型オイルリグ「海洋石油981」
http://www.worldoe.com/html/2014/Platform_0506/8652.html)
【中越 友好演出も根深い警戒感】
南シナ海・西沙諸島(英語名パラセル)近海(ベトナム中部沖約221キロの海域)での中国の掘削活動をめぐる中国とベトナムの艦船同士のにらみあいは依然として続いています。
中国船は「中国海警」と書かれた巡視船や軍の船舶など約80隻で、ベトナム側は海上警察の巡視船や漁業監視船など30隻前後とされています。
****南シナ海 ベトナムは先に撤収しないと反発****
南シナ海で起きた中国とベトナムの当局の船どうしの衝突について、ベトナム側は中国が話し合いの前提として要求した船の撤収に、先に応じることはないと反発し、対立の長期化は避けられない情勢となっています。
中国とベトナムが領有権を争っている南シナ海の西沙諸島周辺の海域では、今月、中国の国有石油会社が海底の掘削作業を進めようとしたのを発端に、両国の当局の船どうしが複数回にわたって衝突しました。
ベトナム当局によりますと、9日は衝突は起きていないものの、依然双方のにらみ合いが続いているということです。
中国政府は、ベトナム側が先に船を撤収させるのが話し合いの前提だと要求していますが、ベトナム政府の関係者は9日、NHKの取材に対し、「中国の主張は受け入れられない。ベトナムの主権を守るため掘削装置の撤去を求め続ける」と述べ、船を撤収させる考えはないと強調しました。
また、ベトナムの国営テレビは、中国の船との衝突で破損した巡視船がベトナム中部の港に戻り、船の前の部分を修理している映像を放送し、修理を終えれば再び現場海域に向かうと伝えています。
ベトナム側が中国側への反発を強めるなか、対立の長期化は避けられない情勢となっています。【5月9日 NHK】
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問題の海域は、ベトナム側が「完全にベトナムの排他的経済水域(EEZ)と大陸棚に属する」としているのに対し、中国側は「中国の領土から17海里の接続水域だ」としています。
“中国は南シナ海の大半を占める「9段線」という国際法にはない独自の概念を根拠に同海での実効支配を強化。背景には南シナ海には豊富な地下資源があることや、海底が深く潜水艦が航行しやすいなど軍事的要衝に適していることがあり、領有権を主張するベトナムやフィリピンなど周辺国に対し、軍事力を背景に強硬姿勢も辞さない。
石油の掘削も2012年6月、南シナ海の9鉱区にわたる開発計画を発表するなど、着々と進めてきた。”【5月8日 朝日】
西沙諸島は、旧宗主国フランスが去った後は、西半分を南ベトナムが、東半分を中国が占領して対峙していましたが、ベトナム戦争末期の1974年、中国側が武力で南ベトナムを排除(西沙諸島海戦)し、そのすべてを実効支配しています。
こうした西沙諸島の領有をめぐる経緯や、近海での漁船妨害の問題で、ベトナムは一時フィリピンと同様に中国と厳しく対立もしましたが、最近は関係を緩和させていました。
“中国は昨年10月、李克強(リーコーチアン)首相が就任後初めてベトナムを訪問し、トンキン湾外での共同開発に向けた作業チーム立ち上げに合意するなど、対立するフィリピンとは異なり、友好的な関係を演出してきた。”
基本的には、ベトナムにとって中国は国境を接する経済関係も強い大国であり、また、1979年にはカンボジアへのベトナムの侵攻を巡って実際に戦火(中越戦争)を交えたこともありますので、中国に対する強い警戒心はあるものの、中国批判デモをときには容認したり、再び抑え込んだりと、対中国関係には慎重で過熱しすぎないような対応をこれまでもとってきました。
“友好的な関係を演出してきた”最近の状況から、今回の衝突については、双方とも“意外感”を表しています。
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中国当局がベトナム沖での掘削活動を行うと表明したのは3日。ベトナム外務省は4日に「許可のない外国の行為は違法であり無効」とする声明を発表。ファム・ビン・ミン外相兼副首相は6日に楊潔チー(ヤンチエチー)・国務委員と電話で会談。報道によると「受け入れられない。国民感情にもダメージ」と訴えた。最近は友好ムードだっただけに、外務省関係者は「なぜいま……」と戸惑う。【5月8日 朝日】
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“「正常な企業活動に対しベトナムが激しく妨害する事案が発生したことは大変意外であり、驚きだ。この海域での掘削作業は10年前から行っている」(中国国境海洋事務局の易先良副局長)
もっとも、両国の間には根深い警戒感が存在しています。
“今年は中国がパラセル諸島を実効支配するきっかけとなった西沙諸島海戦から40年、中越戦争から35年という節目のため反中感情が高まっていた。
一方、中国の専門家が「ベトナムが西沙を釣魚島(尖閣諸島の中国名)のように争いのある国際問題にして突破口を開くことは可能だ」と話すなど、中国側はベトナムに対し警戒心をあらわにしていた。”【5月7日 NHK】
【石油開発をめぐる状況を一変させるものになる可能性がある新型オイルリグ】
中国側は“の海域での掘削作業は10年前から行っている”としていますが、今回中国が投入したオイルリグは「海洋石油981」と呼ばれ、中国海洋石油が約750億円を投じて建造し、2011年に完成。海上移動が可能なことから「石油空母」と称されるものです。
****中国、南シナ海で周辺国と米国の出方を探る****
・・・・・このリグはありきたりのリグではない。高さ138メートルのプラットフォームは中国初の深海リグで、水深3000メートルでの作業ができる。2年前に鳴り物入りで完成したこのリグは、中国石油業界にとっての「戦略兵器」と言われる。
このリグは、石油開発の大幅な拡大という以前からの中国の目標を実現可能にすることで、石油開発をめぐる状況を一変させるものになる可能性がある。
シンガポール国立大学エネルギー研究所のフェロー、クリストファー・レン氏は南シナ海での中国の石油掘削について、「その意図は以前からあった」とし、「今やそれができるようになったということだ」と述べた。
しかし、安保問題のアナリストは、紛争は石油リグ、それに南シナ海の天然資源の開発をめぐって起きているが、問題はこの対立がもたらす結果がどのような先例として残るかであり、中国の周辺国と米国が、中国に対し紛争海域の戦略資源をほしいままにすることを認めるかどうかだ(と指摘している)。
専門家らは、アジアの一部の同盟国がオバマ政権のアジアでの軸足がぐらついていると不安を抱いている時に、中国は、米国がこれらの同盟国に対する支援の約束を守るかどうかを試しているのだと指摘した。(後略)【5月9日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
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対アメリカで言えば、アメリカ国務省のサキ報道官が「中国が争いのある海域で一方的に掘削を始めた。挑発しているのは明らかだ」と述べたことに対して、「最近のアメリカによる事実を顧みない無責任で誤った一連の発言が、一部の国の危険な挑発を助長している。アメリカにはこの問題で言動を慎むよう求める」(中国外務省の華春瑩報道官)と強くけん制しています。
また、菅官房長官や岸田外務大臣が「境界が未確定の海域における中国の一方的かつ挑発的な海洋進出活動の一環だ」と指摘したことに対しても、「日本があわてて出てきて、こんな発言をするのは、事の是非を混同し火事場泥棒をたくらんでいるからだ」と強く反発しています。【5月9日 NHKより】
【フィリピン:国内法に基づいて手続きを進める方針】
一方、これまで中国と激しく領有権を争ってきたフィリピンが、南シナ海の係争地域である南沙諸島(英語名スプラトリー)付近でウミガメの密猟をしたとして中国漁船を拿捕した件も、対立が深まっています。
****中国船員逮捕 中国と比の対立激化か****
南シナ海でフィリピンの警察が中国の漁船を拿捕(だほ)し、これに中国側が反発している問題で、フィリピン側は逮捕した乗組員についてあくまで国内法に基づいて手続きを進める方針を示し、身柄の即時解放を求める中国側との対立が深まりそうです。
この問題は6日、南シナ海の南沙諸島付近でフィリピンの警察が中国の漁船を拿捕(だほ)し乗組員11人を逮捕したのに対し、中国側が、一帯の海域の主権は中国にあるとして乗組員の即時解放を求めているものです。
フィリピンの国家警察は、8日首都マニラで会見して逮捕の経緯について明らかにし、不審なフィリピンの漁船を見つけ追跡した結果、中国国旗を掲げた漁船に近づき、国際的な取引が規制されているウミガメを洋上で受け渡したことから、中国の漁船の乗組員11人を含む双方の乗組員16人の逮捕に踏み切ったと説明しました。
警察は、現在フィリピンのパラワン島の施設で乗組員を取り調べており、今後の身柄の取り扱いについては、あくまで国内法に基づいて手続きを進める方針を示しました。
フィリピン政府は、警察による一連の行為はフィリピンの排他的経済水域内で行われた正当なものだと主張していますが、中国側は強く反発しており、今後両国の対立が深まりそうです。【5月8日 NHK】
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中国に対し慎重な対応をとってきたベトナムと異なり、フィリピンは中国への一貫した強硬姿勢をとってきました。
フィリピンは南沙諸島の領有権をめぐり国連海洋法裁判所に仲裁を申し立てています。
また、フィリピンは中国との対立にあたりアメリカの後ろ盾を求める姿勢も明らかにしています。
****米軍、比に再駐留へ=新協定調印、中国けん制****
米国、フィリピン両政府は28日午前、新軍事協定に調印した。
フィリピン国内基地の共同使用など米軍の事実上の駐留を認める内容。1992年に全面撤退した米軍が再び拠点を構築することで、軍事力を背景に南シナ海への海洋進出を強める中国をけん制する狙いがあるとみられる。
調印式は、マニラ首都圏の国軍本部(アギナルド基地)で、フィリピンのガズミン国防相とゴールドバーグ米大使が署名。同日午後にはアジア歴訪中のオバマ米大統領がマニラに到着し、アキノ大統領と南シナ海問題などについて話し合う。
協定期間は10年で、フィリピン国軍施設の共同使用や米軍の一時的施設の建設、合同軍事演習の強化などが柱。フィリピン憲法は外国軍の駐留を禁止しているため、米軍はローテーション形式で駐留し、協定にも「常駐」ではないことも明記された。
軍の展開地域については、一部の国軍基地内としたが、具体的な場所は付属文書で定めるとした。ただ、これまでの交渉では、対象に冷戦時代に米軍が拠点とし、現在国軍施設があるスービック地区も含まれている。【4月28日 時事】
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アメリカ側からすれば、フィリピンとの協定は“オバマ政権が掲げるアジア太平洋地域を重視する「リバランス(再均衡)」政策の一環。東西冷戦期にアジア最大の戦略拠点としていたフィリピンに米軍が「回帰」し、南シナ海でフィリピンを含めた周辺国を威圧する中国を強くけん制する。”というものになります。
中国はフィリピンに対し、“華報道官は「ただちに無条件で乗組員と船を解放し、二度と同じようなことを起こさないよう重ねて要求する。中国側はさらなる行動をとる権利を留保する」と述べ、フィリピンに対する報復の可能性を示唆しました。”【5月9日 NHK】と、強い姿勢を見せています。
【ASEAN 今年の議長国ミャンマーにとって最初の大舞台】
豊富な天然資源が眠るとされる南シナ海では、中国、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが領有権を主張していますが、対立回避のため東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国は2002年に行動宣言を結んで自制と協調を目指しました。
しかし、中国側の規制に対する消極的な対応と現場海域での強硬な姿勢で、実効をあげていません。
明日から開催されるASEANの会議では、当然にこの南シナ海問題が焦点にると思われます。
****ASEAN:議長国ミャンマー融和へ重責 11日首脳会議****
ミャンマーの首都ネピドーで11日、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議が開かれる。10日には外相会議もあり、今年の議長国ミャンマーにとって最初の大舞台となる。
2015年末に控える「ASEAN共同体」創設や領有権争いが続く南シナ海の緊張緩和に向け、重要なかじ取りを担う。
ミャンマーは1997年、ASEANに加盟し、06年に議長国就任が予定された。だが当時の軍政は、民主化勢力への弾圧などを理由に米欧から批判を受け、辞退した。11年の民政移行を受け、今年の議長国就任が決まった。
テインセイン大統領は昨年のブルネイでのASEAN首脳会議で、域内統合の深化を目指すASEAN共同体の実現に向け「他の加盟国と一丸となり取り組む」と決意を表明。国内では「(民主化)改革の良い手本を加盟国に示し、国際社会に国家の威厳を示す千載一遇のチャンスだ」と演説している。
だが、南シナ海を巡り、中国と対立するフィリピンやベトナム、多額の経済支援を背景に中国寄りの姿勢を示すカンボジアなど、加盟国の間で立場に違いがある。
米国と新軍事協定を結んだばかりのフィリピンは先日、「違法操業」を理由に中国漁船を拿捕(だほ)し、中国と非難合戦。ベトナムは中国の石油掘削を巡って中国と艦船同士の衝突を招くなど、緊張が再び高まっている。今回の一連の会議で、フィリピンやベトナムといった反中派が中国への危機感共有を強硬に訴える可能性もある。
12年のASEAN外相会議では、当時のカンボジアが加盟国間の調整に失敗、共同声明を出せないという異例の事態を招いた。
ミャンマーは軍政時代、米欧の経済制裁を受けて中国との関係を強化したが、国際社会との協調外交に転じた今、各国の利害対立をどう乗り越え、ASEAN統合を主導するか注目される。
ミャンマーでは今年1月の非公式外相会議を皮切りに年内に240以上の関連会議が予定される。8月には米中に北朝鮮も参加するASEAN地域フォーラム(ARF)、11月には日米中露印などが出席する東アジアサミットが開かれる。【5月8日 毎日】
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民主化の努力が国際的に認知され、ようやく手にした“最初の大舞台”で、議長国ミャンマーがどのような議事運営を見せるか非常に注目されます。
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