(アメリカ・テキサス州バーネットのシェールガス採掘 “flickr”より By Oil and Gas http://www.flickr.com/photos/47609639@N04/4365140308/ )
【世界のシェールガス埋蔵量は旧来の天然ガスの約2.4倍】
「フクシマ」を受けて原発の稼働停止や「脱原発依存」がドイツなど先進国で広がっています。しかし、風力や太陽光発電が原発の代替エネルギーとなるには費用面や技術面で、まだ時間を要するように思われます。
そこで、温室効果ガスの排出量の増加を抑えながら当面の電力需要を賄うには、石炭・石油に比べCO2排出量が少ない天然ガスを燃料とした火力発電に頼るというのが現実的な選択肢と考えられています。
その天然ガスのなかでも、最近注目されているのが“シェールガス”のようです。
シェールガスは、地下にある硬い頁岩(けつがん)(シェール)の岩盤に含まれる天然ガスのことで、成分は普通の天然ガスと同じです。
その存在は以前から知られていましたが、掘り出すコストが高く、実用化は最近まで敬遠されていました。
ここにきて、採掘技術の進展によって、実用化も可能になってきたとのことです。
****米で噴き出す夢のシェールガス 埋蔵、国内需要30年分****
地中の岩盤層から噴き出すシェールガスが、米国のエネルギー事情を変えつつある。国内の埋蔵量は需要の30年分以上あるといい、輸出にも意欲をみせる。石油がぶ飲みなどと言われてきた米国が、原発事故でおぼつかなくなりかねない世界のエネルギーの支え手にまわる勢いだ。
航空機や石油関連産業の街、テキサス州フォートワース市郊外の牧場に、住民らがクリスマスツリーと呼ぶやぐらが並ぶ。高さ約20メートル。約75万人の大都市圏をガス田に変える装置だ。
約2千メートル掘り進むとはいえ仕組みはシンプル。ドリルで地中に穴を開けて水を流し込む。岩盤層に亀裂を生じさせ、ガスをしみ出させる。2、3週間で掘り終えれば、何十年も使えるガス井となる。やぐらは解体して次の場所に移る。(中略)
バーネットシェールと呼ばれるこのガス層は、広さ約1万3千平方キロメートル。4年前に参入したエンカナは700以上掘った。米企業も掘削を競い、住友商事も2009年に参画、ガス井の数は計1万4千以上という。
シェールガスはバーネット以外からも次々に見つかる。米エネルギー省は、米国の陸上部で採掘可能なシェールガスは国内需要の30年分以上だと見ている。
欧州や中国でも大量に存在が確認され、英エネルギー大手BPによると、世界のシェールガス埋蔵量は旧来の天然ガスの約2.4倍に達するという。
生産拡大で、米国ではガス価格が急落。いまの天然ガス相場は、最近のピークだった08年の3分の1程度の100万BTU(英国熱量単位)=約4ドルだ。
■エネルギー政策も変化
実用化に道を開いたのは、小さなエネルギー調査会社を経営していたジョージ・ミッチェル氏(92)だ。10年近い試行錯誤を経て、水圧で亀裂を生む方法にたどり着く。02年に会社を35億ドル(約2700億円)で売却すると、各社が一斉に技術を発展させた。(中略)
米国内でもガスへの切り替えが起きる。ペンシルベニア州のエネルギー会社PPLの幹部は「フクシマ後、原子力は地元の理解を得づらくなった。石炭も環境面で厳しい」。同州にはバーネットより大きいシェール層がある。将来、天然ガス発電が同社の5割を超す可能性もあるとみる。(後略)【7月18日 朝日】
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【「天然ガスをポーランドに売れなくなるロシアが反対キャンペーンの背後で糸を引いている」】
これまでロシアの天然ガスに依存してきたポーランドのような国では、自国内に存在するシェールガスは政治的な意味合いも大きなものがあります。
****ポーランド「シェールガス革命」進行 天然資源、ロシア依存脱却に道****
ポーランドの自主管理労組「連帯」が誕生し、ベルリンの壁崩壊とソ連崩壊につながる東欧民主化の発源地となった造船の街グダニスク。中心部から南へ40キロ下った麦畑の中に、世界とこの国のエネルギー事情を一変させるかもしれない天然資源に通じる直径約50センチの井戸があった。
「6月25日までここは一面、麦畑だった」。現場監督のコヴァルスキ・ズジスワフ氏(54)は周囲を見渡した。コンクリートパネルが敷き詰められた試掘現場は100メートル四方にも満たなかった。
35年間、天然ガスの井戸を掘り続けてきたズジスワフ氏はこの1年、「シェールガス」と呼ばれる新しい天然ガスの試掘を3件立て続けに手掛けた。「掘っているとセンサーが反応した。条件が整えば3~5年で生産できると思う」と期待に胸を膨らませる。
◆新技術で安く採取
シェールガスは、シェール(頁岩(けつがん))層という泥岩に貯留する天然ガス。採算に合わないため放置されてきた頁岩に、横井戸を掘り、米国で確立された水圧破砕法と呼ばれる新技術を用いればシェールガスを比較的安く採取できるようになった。
米エネルギー省の報告書によれば、中国、米国、アルゼンチン、メキシコの順に豊富にあり、今分かっているだけで世界の天然ガスの可採埋蔵量を4割以上増やし、世界の資源地図を塗り替えつつある。(中略)
◆欧州最大の埋蔵量
カナダの石油・ガス大手「タリズマン」のワルシャワ事務所。同社幹部のトマシュ・グリゼフスキ氏が壁の地図を指さした。
柔らかな頁岩層がポーランド北東から南西につながるベルト地帯の地下約4キロに横たわっていた。「ここにポーランドのガス消費量の100~300年分に相当するシェールガスが眠っている」。欧州では最大の埋蔵量を誇る。
米国やカナダの企業など約25社が93カ所の試掘権を獲得し、すでに10カ所前後で試掘が始まっている。日本の三井物産も6月に参画を発表したばかりだ。
今年の経済成長予測が国内総生産(GDP)比で4%を超える東欧の新興国ポーランドだが、電力供給の9割以上を石炭に頼る。(中略)
この点ではEUの劣等生であるポーランドが、燃料を石炭からシェールガスに切り替えれば、温室効果ガスの排出量は半減できる。
しかも、既存の天然ガスはロシアやイランなどが牛耳っているため、シェールガスは地政学上の力関係を変える可能性がある。天然ガス消費量の7割をロシアから輸入しているポーランドにとって、東欧革命後も20年以上続くロシアへのエネルギー依存からの脱却に道を開くものだ。
しかし、今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた米映画「ガスランド」は、米国のシェールガス開発が進む地域で、民家の水道水が燃え上がる衝撃的なシーンを伝え、ブームに冷や水を浴びせた。
EUの欧州議会やフランスでは、水圧破砕法の安全性が百パーセント確認されるまで開発を中止するよう求める動きが活発化している。
これに対し、ポーランド経済省のカリスキ事務次官は「飲料水に使われる地下水にシェールガスの成分が混入することはあり得ない」と力説する。
シェールガスは、ポーランドに革命を起こすのか。
「天然ガスをポーランドに売れなくなるロシアが反対キャンペーンの背後で糸を引いている」。5年後の生産開始を目指して一斉に走り始めたポーランド人からこんなつぶやきが聞こえてきた。【7月20日 産経】
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【採掘技術の世界標準化の動き】
上記記事にある環境問題については、“水圧破砕には、一つの坑井に多量の水(3,000~10,000m3)が必要であり、水の確保が重要となる。また用いられる流体は水90.6%、砂(プロパント8.95%)、その他化学物質0.44%で構成されることから、流体による地表の水源や浅部の滞水層の汚染を防ぐため、坑排水処理が課題となる。
実際に、アメリカ東海岸の採掘現場周辺の居住地では、蛇口に火を近づけると引火し炎が上がる、水への着色や臭いがするなど)が確認されるようになり、地下水の汚染による人体・環境への影響が懸念されている。
採掘会社はこれらの問題と採掘の関連を否定しているが、住民への金銭補償・水の供給を行っている。
こうした問題に関連したデューク大学などの調査では、着火しうる濃度のメタンが採掘地周辺の井戸水で検出されていることが明らかとなっている。”【ウィキペディア】とのことです。
こうした掘削時に周辺の地下水に与える影響が問題となりますが、採掘技術の世界標準化の動きもあります。
アメリカ国務省は昨年春、「シェールガス・イニシアチブ」という国際会議を発足させています。「世界各国の開発を積極的に助ける」との主旨で、中国やインドが参加を表明しています。
“会議を通じて米国の技術を世界のデファクトスタンダード(事実上の標準)にできれば、「世界のエネルギー開発の主導権を握り続けられる」(米シンクタンク研究員)との見方が出ている。”【7月18日 朝日】
技術開発や原油価格の高止まりなどを背景に、探せばいろんなものがありそうです。
日本海沿岸では、海底面に露出したメタンハイドレートが発見され、低コストで採掘できる可能性があるとも聞いています。