孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「脱原発依存」で注目される「シェールガス」

2011-07-21 23:42:34 | 原発

(アメリカ・テキサス州バーネットのシェールガス採掘 “flickr”より By Oil and Gas http://www.flickr.com/photos/47609639@N04/4365140308/

世界のシェールガス埋蔵量は旧来の天然ガスの約2.4倍
「フクシマ」を受けて原発の稼働停止や「脱原発依存」がドイツなど先進国で広がっています。しかし、風力や太陽光発電が原発の代替エネルギーとなるには費用面や技術面で、まだ時間を要するように思われます。
そこで、温室効果ガスの排出量の増加を抑えながら当面の電力需要を賄うには、石炭・石油に比べCO2排出量が少ない天然ガスを燃料とした火力発電に頼るというのが現実的な選択肢と考えられています。

その天然ガスのなかでも、最近注目されているのが“シェールガス”のようです。
シェールガスは、地下にある硬い頁岩(けつがん)(シェール)の岩盤に含まれる天然ガスのことで、成分は普通の天然ガスと同じです。
その存在は以前から知られていましたが、掘り出すコストが高く、実用化は最近まで敬遠されていました。
ここにきて、採掘技術の進展によって、実用化も可能になってきたとのことです。

****米で噴き出す夢のシェールガス 埋蔵、国内需要30年分****
地中の岩盤層から噴き出すシェールガスが、米国のエネルギー事情を変えつつある。国内の埋蔵量は需要の30年分以上あるといい、輸出にも意欲をみせる。石油がぶ飲みなどと言われてきた米国が、原発事故でおぼつかなくなりかねない世界のエネルギーの支え手にまわる勢いだ。

航空機や石油関連産業の街、テキサス州フォートワース市郊外の牧場に、住民らがクリスマスツリーと呼ぶやぐらが並ぶ。高さ約20メートル。約75万人の大都市圏をガス田に変える装置だ。
約2千メートル掘り進むとはいえ仕組みはシンプル。ドリルで地中に穴を開けて水を流し込む。岩盤層に亀裂を生じさせ、ガスをしみ出させる。2、3週間で掘り終えれば、何十年も使えるガス井となる。やぐらは解体して次の場所に移る。(中略)

バーネットシェールと呼ばれるこのガス層は、広さ約1万3千平方キロメートル。4年前に参入したエンカナは700以上掘った。米企業も掘削を競い、住友商事も2009年に参画、ガス井の数は計1万4千以上という。
シェールガスはバーネット以外からも次々に見つかる。米エネルギー省は、米国の陸上部で採掘可能なシェールガスは国内需要の30年分以上だと見ている。

欧州や中国でも大量に存在が確認され、英エネルギー大手BPによると、世界のシェールガス埋蔵量は旧来の天然ガスの約2.4倍に達するという。
生産拡大で、米国ではガス価格が急落。いまの天然ガス相場は、最近のピークだった08年の3分の1程度の100万BTU(英国熱量単位)=約4ドルだ。

■エネルギー政策も変化
 実用化に道を開いたのは、小さなエネルギー調査会社を経営していたジョージ・ミッチェル氏(92)だ。10年近い試行錯誤を経て、水圧で亀裂を生む方法にたどり着く。02年に会社を35億ドル(約2700億円)で売却すると、各社が一斉に技術を発展させた。(中略)
 
米国内でもガスへの切り替えが起きる。ペンシルベニア州のエネルギー会社PPLの幹部は「フクシマ後、原子力は地元の理解を得づらくなった。石炭も環境面で厳しい」。同州にはバーネットより大きいシェール層がある。将来、天然ガス発電が同社の5割を超す可能性もあるとみる。(後略)【7月18日 朝日】
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【「天然ガスをポーランドに売れなくなるロシアが反対キャンペーンの背後で糸を引いている」】
これまでロシアの天然ガスに依存してきたポーランドのような国では、自国内に存在するシェールガスは政治的な意味合いも大きなものがあります。

****ポーランド「シェールガス革命」進行 天然資源、ロシア依存脱却に道****
ポーランドの自主管理労組「連帯」が誕生し、ベルリンの壁崩壊とソ連崩壊につながる東欧民主化の発源地となった造船の街グダニスク。中心部から南へ40キロ下った麦畑の中に、世界とこの国のエネルギー事情を一変させるかもしれない天然資源に通じる直径約50センチの井戸があった。

「6月25日までここは一面、麦畑だった」。現場監督のコヴァルスキ・ズジスワフ氏(54)は周囲を見渡した。コンクリートパネルが敷き詰められた試掘現場は100メートル四方にも満たなかった。
35年間、天然ガスの井戸を掘り続けてきたズジスワフ氏はこの1年、「シェールガス」と呼ばれる新しい天然ガスの試掘を3件立て続けに手掛けた。「掘っているとセンサーが反応した。条件が整えば3~5年で生産できると思う」と期待に胸を膨らませる。

 ◆新技術で安く採取
シェールガスは、シェール(頁岩(けつがん))層という泥岩に貯留する天然ガス。採算に合わないため放置されてきた頁岩に、横井戸を掘り、米国で確立された水圧破砕法と呼ばれる新技術を用いればシェールガスを比較的安く採取できるようになった。

米エネルギー省の報告書によれば、中国、米国、アルゼンチン、メキシコの順に豊富にあり、今分かっているだけで世界の天然ガスの可採埋蔵量を4割以上増やし、世界の資源地図を塗り替えつつある。(中略)

 ◆欧州最大の埋蔵量
カナダの石油・ガス大手「タリズマン」のワルシャワ事務所。同社幹部のトマシュ・グリゼフスキ氏が壁の地図を指さした。
柔らかな頁岩層がポーランド北東から南西につながるベルト地帯の地下約4キロに横たわっていた。「ここにポーランドのガス消費量の100~300年分に相当するシェールガスが眠っている」。欧州では最大の埋蔵量を誇る。

米国やカナダの企業など約25社が93カ所の試掘権を獲得し、すでに10カ所前後で試掘が始まっている。日本の三井物産も6月に参画を発表したばかりだ。
 
今年の経済成長予測が国内総生産(GDP)比で4%を超える東欧の新興国ポーランドだが、電力供給の9割以上を石炭に頼る。(中略)
この点ではEUの劣等生であるポーランドが、燃料を石炭からシェールガスに切り替えれば、温室効果ガスの排出量は半減できる。

しかも、既存の天然ガスはロシアやイランなどが牛耳っているため、シェールガスは地政学上の力関係を変える可能性がある。天然ガス消費量の7割をロシアから輸入しているポーランドにとって、東欧革命後も20年以上続くロシアへのエネルギー依存からの脱却に道を開くものだ。

しかし、今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた米映画「ガスランド」は、米国のシェールガス開発が進む地域で、民家の水道水が燃え上がる衝撃的なシーンを伝え、ブームに冷や水を浴びせた。
EUの欧州議会やフランスでは、水圧破砕法の安全性が百パーセント確認されるまで開発を中止するよう求める動きが活発化している。
これに対し、ポーランド経済省のカリスキ事務次官は「飲料水に使われる地下水にシェールガスの成分が混入することはあり得ない」と力説する。

シェールガスは、ポーランドに革命を起こすのか。
「天然ガスをポーランドに売れなくなるロシアが反対キャンペーンの背後で糸を引いている」。5年後の生産開始を目指して一斉に走り始めたポーランド人からこんなつぶやきが聞こえてきた。【7月20日 産経】
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採掘技術の世界標準化の動き
上記記事にある環境問題については、“水圧破砕には、一つの坑井に多量の水(3,000~10,000m3)が必要であり、水の確保が重要となる。また用いられる流体は水90.6%、砂(プロパント8.95%)、その他化学物質0.44%で構成されることから、流体による地表の水源や浅部の滞水層の汚染を防ぐため、坑排水処理が課題となる。
実際に、アメリカ東海岸の採掘現場周辺の居住地では、蛇口に火を近づけると引火し炎が上がる、水への着色や臭いがするなど)が確認されるようになり、地下水の汚染による人体・環境への影響が懸念されている。
採掘会社はこれらの問題と採掘の関連を否定しているが、住民への金銭補償・水の供給を行っている。
こうした問題に関連したデューク大学などの調査では、着火しうる濃度のメタンが採掘地周辺の井戸水で検出されていることが明らかとなっている。”【ウィキペディア】とのことです。

こうした掘削時に周辺の地下水に与える影響が問題となりますが、採掘技術の世界標準化の動きもあります。
アメリカ国務省は昨年春、「シェールガス・イニシアチブ」という国際会議を発足させています。「世界各国の開発を積極的に助ける」との主旨で、中国やインドが参加を表明しています。
“会議を通じて米国の技術を世界のデファクトスタンダード(事実上の標準)にできれば、「世界のエネルギー開発の主導権を握り続けられる」(米シンクタンク研究員)との見方が出ている。”【7月18日 朝日】

技術開発や原油価格の高止まりなどを背景に、探せばいろんなものがありそうです。
日本海沿岸では、海底面に露出したメタンハイドレートが発見され、低コストで採掘できる可能性があるとも聞いています。
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アメリカ 関係が悪化するパキスタンに対し、軍事援助一部凍結で軟化を促す

2011-07-20 21:43:49 | アフガン・パキスタン

(パキスタンのラワルピンディで米軍のマイケル・マレン統合参謀本部議長(左)と会談するパキスタン軍のハリド・シャミーム・ウィン統合参謀本部議長(4月20日) マレン米軍統合参謀本部議長は、TVインタビューで、「ISIの全員がそうだというわけではないが、ISIはハッカニ・ネットワークと長年にわたって関係がある。これは事実だ」と批判。これに対し、キアニ陸軍参謀長は「ネガティブなプロパガンダを断固として否定する」という声明を発表して反発しています。“flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/5643974253/

世論調査 63%がパキスタンへの援助停止を求める
7月8日ブログ「パキスタン 著名ジャーナリスト殺害について、米軍トップがパキスタン政府関与と発言」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110708)で、冒頭“アメリカにとってアフガニスタンでの対テロ戦争遂行のうえで、北西部国境地帯がイスラム過激派の温床となっている問題や物資補給路の問題で、パキスタンの協力は必要不可欠ですが、パキスタン国内の反米感情や国軍(特に軍統合情報局(ISI))とイスラム過激派のつながりなどで、両国関係はとかくギクシャクしがちです”と書きましたが、きょうも、そのアメリカとパキスタンの関係の話です。

両国関係は、特にウサマ・ビンラディン容疑者の殺害以降悪化していましたが、業を煮やしたアメリカは、パキスタンに対して行っている巨額の軍事援助の4割を凍結する形で、パキスタン政府の態度の軟化を促す手段に出ています。

****米国:対パキスタン援助、大幅に凍結…態度軟化狙い****
米政府は「テロとの戦い」の同盟国として今年約20億ドル(約1600億円)の軍事援助を供与する予定だったパキスタンに対し、総額の4割に相当する8億ドル(約640億円)の援助を凍結する措置に踏み切った。

米軍のパキスタン領内での活動に「主権侵害」と反発するパキスタン政府は、米特殊部隊による国際テロ組織アルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディン容疑者の殺害(今年5月)を機に、米国の対テロ戦に非協力的な姿勢を強めている。米政府は軍事援助の一部凍結で揺さぶりをかけ、パキスタン政府の態度の軟化を引き出したい考えのようだ。
今回の措置は、オバマ政権のデーリー大統領首席補佐官が10日の米ABCテレビの番組で明らかにし、クリントン国務長官が11日の記者会見で追認した。

複数の米メディアによると、パキスタン政府は最近、軍事訓練のため駐留していた米陸軍の教官ら100人以上を国外退去処分にした。デーリー氏は番組で「(この処分が)軍事支援停止の理由になり得る」と述べ、援助凍結がパキスタン側への対抗措置であることを示唆した。(中略)

米政府が同時多発テロ翌年の02会計年度から10会計年度までの9年間に、パキスタンに供与した軍事・民生援助の総額は約207億ドル(約1兆7000億円)。米政府は先月末、アルカイダ打倒に狙いを絞った新たな対テロ戦略を策定したばかりで、パキスタンとの連携は今後も不可欠だ。クリントン長官は11日の会見で「軍事援助凍結の決定は政策の変更を意味するものではない」と述べ、パキスタンを重要な同盟国とする方針に変わりがないことを強調した。

ただ、米世論調査会社がビンラディン容疑者の殺害直後に実施した世論調査では、63%がパキスタンへの援助停止を求め、継続を望む声は15%に過ぎなかった。援助の凍結解除の是非を巡っては、財政難から対外関与の縮小を求める米世論の動向も影響しそうだ。(後略)【7月12日 毎日】
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8億ドルの内訳は、すでに支出された約3億ドルの返還を求め、約5億ドルの援助を凍結するというものです。
同記事はパキスタン側の反応として、「我々は外部の支援なしに武装勢力掃討作戦を実施できている。大した影響はない」(パキスタン陸軍スポークスマンのアッバス少将)と、強気の姿勢を紹介していますが、財政赤字に苦しむパキスタンにとってアメリカの軍事支援が大きな意味を持つことは言うまでもないところです。

中国政府は逆にパキスタンを全面的にサポートする姿勢
なお、アッバス少将は“「我々は1カ所からの支援に頼っているわけではない」と述べ、パキスタンに軍事協力をしている中国が支援を増大してくれるとの考えを示唆した。”とも報じられています。
その中国との関係については、アメリカとの関係がこじれた5月ギラニ首相が訪中し、中国政府はパキスタンを全面的にサポートする姿勢を示しています。

****反米感情利用、存在感示す 中国、パキスタン接近 全面支援****
中国を訪問中のパキスタンのギラニ首相は19日、北京で行われた中国とパキスタンの企業家フォーラムに出席し、エネルギー、金融など各分野の中国を代表する企業家らと会談、パキスタンのインフラ整備などで資金援助と技術協力を受けることを確認した。米議会でパキスタンへの援助削減を求める声が高まる中、中国政府は逆にパキスタンを全面的にサポートする姿勢を示しており、中央アジアでの中国の存在感を拡大する狙いがあるとみられる。

パキスタンと米国の関係をめぐっては、国際テロ組織アルカーイダの指導者ウサマ・ビンラーディン容疑者がパキスタン国内で米軍に殺害され、パキスタンが同容疑者の潜伏を支援していたのではないかとの疑念が米国から突きつけられている。ギラニ首相がこの時期に訪中したのは、中国との連携を強化し、国際的孤立を避けたいとの思惑がある。

これに対し、中国はパキスタンに全面支援の手を差し伸べた。パキスタン国内で高まっている反米感情を利用して、同国での米国の影響力を減らす好機ととらえているようだ。
18日に行われた首脳会談で中国の温家宝首相は、「パキスタンの独立と主権、それに領土の保全は尊重されなければならない」と述べ、パキスタン側にビンラーディン容疑者殺害を事前に通告しなかった米国を暗に批判、パキスタンを擁護する姿勢を強調した。

中国人学者の分析によると、米国はビンラーディン容疑者を殺害したことで、中央アジアにおける反テロの戦いが一段落し、今後、パキスタンなど周辺国に対する米国の支援は減少してゆくという。駐アフガニスタン米軍の撤退が本格化するなか、同地域での米国の影響力後退とともに、中国は政治、経済面でパキスタンへの支援をさらに強化している。

また、パキスタン国内には、中国国内の新疆ウイグル自治区の独立を目指すウイグル族に同情的な部族が多い。パキスタン政府を通じ、これらの部族のウイグル人支援の動きを抑え込むことも中国当局のもう一つの目的だと指摘される。【5月20日 産経】
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また、ギラニ首相は中国訪問中、中国製多用途戦闘機JF17(中国名、FC1梟竜=きょうりゅう)を新たに50機購入することで合意してます。JF17は、中国とパキスタンが共同開発し、パキスタンでは14機がすでに配備されています。1機当たり約1500万ドル(約12億円)で、「同等の性能」とされる米戦闘機F16の3分の1の価格だとか。【5月20日 毎日より】

更に、パキスタン政府が南西部バルチスタン州のグワダル港に海軍基地を建設するよう中国政府に要請したとの報道もあります。
*****パキスタン:海軍基地建設を中国政府に要請…英紙報道****
23日付の英紙フィナンシャル・タイムズは、パキスタン政府が南西部バルチスタン州のグワダル港に海軍基地を建設するよう中国政府に要請したと報じた。中国海軍の艦船が利用することを想定しているという。ペルシャ湾に近い戦略的要衝だけに米国やインドなど関係国に波紋を広げそうだ。(中略)

中国はこれまで海外に軍事基地を求めない姿勢を示している。パキスタンは国際テロ組織アルカイダのビンラディン容疑者殺害などで米国への反発を強めており、海軍基地建設の要請は、中国の海洋戦略への警戒を強める米国へのけん制との見方もある。【5月23日 毎日】
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イラン・ハメネイ師「米国はパキスタン国民の真の敵だ」】
こうした一連の中国接近による対米牽制のほか、イランを訪問したパキスタンのザルダリ大統領とイランの最高指導者ハメネイ師が会談、イラン側はパキスタンを「反米」陣営に取り込みたい考えとも報じられています。

****パキスタン:大統領イラン訪問 「反米」陣営構築の狙いも****
イランの最高指導者ハメネイ師は16日、テヘランを訪れたパキスタンのザルダリ大統領と会談した。双方が両国関係強化で一致したうえで、ハメネイ師は、パキスタンに関与を続ける米国を強く批判。イランは、米国との関係がこじれつつあるパキスタンに影響力を強め、アフガニスタンと並んで「反米」陣営に取り込みたい考えだ。

「米国はパキスタン国民の真の敵だ」。ハメネイ師は、ザルダリ大統領を前に米国への非難を繰り返した。パキスタン国内では、米国の無人機による市民への誤爆が相次ぐほか、5月の国際テロ組織アルカイダ最高指導者ウサマ・ビンラディン容疑者殺害時には米軍が単独行動するなど、米国への不信が高まっている。ハメネイ師はこうした反米機運の高まりをたたえ、「神の力で敵は取り除かれるだろう」と語った。
ザルダリ氏の反応は報じられていない。【7月17日 毎日】
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ただ、先述のように、パキスタンにとってアメリカの軍事支援は大きな“金づる”ですので、すぐに「反米」ということはないように思われます。こうしたイランとの関係も、アメリカ側の譲歩を引き出すための牽制策でしょう。

ISI長官、訪米で「ISIの存在価値」をアピール
「アルカイダを支えてきたのはISI」という不信感を募らせている当のアメリカに対しても、3軍統合情報局(ISI)長官がアメリカを極秘に訪れ、アメリカ側の不信感の払拭に努めたそうです。

****パキスタン:高官が訪米 CIA長官と極秘会談*****
パキスタン軍の情報機関、3軍統合情報局(ISI)のパシャ長官が13、14の両日、米国を極秘に訪れ、米中央情報局(CIA)のモレル長官代行と会談した。国際テロ組織アルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディン容疑者のパキスタン潜伏が発覚した後、米国内では「アルカイダを支えてきたのはISI」との疑念が頂点に達しており、危機感を強めたISIが米側との関係改善に乗り出したとみられている。

会談の中身は明らかにされていないが、14日付のパキスタン紙トリビューンは同国情報当局高官の話として、パシャ長官は米側に「CIAがパキスタン国内で『独自の情報網』を使うことへの懸念を伝える」と報じた。
パキスタンでのCIAの活動に詳しい米関係者によると、CIAがアルカイダ・メンバー追跡などでISIに協力を求めると、アルカイダ側に事前に情報が伝わり、作戦が失敗したケースが多々あるという。このためCIAはISIへの不信感を強め、独自の情報網を構築し、ビンラディン容疑者急襲作戦もパキスタン側に事前通告しなかった。

米政権内などには「同盟国パキスタンのISIこそが対テロ戦の最大の障害」との見方が広まっており、ISIへの不信感がオバマ政権による対パキスタン軍事援助一部凍結の下敷きになっている。
ISIとアルカイダの関係を指摘したパキスタンの記者が5月に殺害された際には、米軍内でISI犯行説が浮上。
インド西部ムンバイでの同時テロ(08年11月)の米国人犠牲者の遺族がニューヨーク連邦地裁に起こした民事訴訟では、ISIによる犯行が指摘されている。
8日付の米紙ニューヨーク・タイムズは社説で「ISIはパキスタンと米国の国益を損なう存在になった」と主張し、ISI幹部らへの制裁の必要性にまで言及した。

パシャ長官は訪米で、CIAがパキスタン国内で独自の活動を続けることに懸念を示すとともに、米側の不信感の払拭(ふっしょく)に努めて「ISIの存在価値」をアピールし、軍事援助の継続を求めたものとみられる。【7月17日 毎日】
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中国接近で牽制したり、釈明したり、あの手この手のパキスタンです。
アメリカにとってパキスタンの協力が不可欠だと言う事情から、アメリカ側の足下を見透かしたところもありますし、いずれアメリカはアフガニスタンから撤退する訳で、アメリカ撤退後をにらんだ思惑もあるでしょう。

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ASEAN外相会議スタート  南シナ海問題が焦点 周辺国・中国・アメリカの思惑

2011-07-19 20:44:14 | 南シナ海

(6月14日 南沙諸島のPhan Vinh Islandで訓練するベトナム兵士 “flickr”より By 么么2008 http://www.flickr.com/photos/64066136@N06/5834237660/

会議を前にした各国の動き
中国が領有権を強めていることで関係国間の緊張が高まり、連日のように関係国の動向が報じられている“南シナ海問題”ですが、ひとつの節目ともなる東南アジア諸国連合(ASEAN)の関連会合が、きょう19日に開かれるASEAN外相会議からインドネシア・バリ島で本格的に始まります。

そのASEANの会議を前にした、アピールと思われる行動も見られます。
中国との関係でASEAN地域フォーラムにも参加できない台湾は、実効支配する南沙諸島の島で学生合宿を行っています。

****南沙諸島:台湾の学生が「合宿」 国家安全会議が主導****
台湾が実効支配する南シナ海の南沙諸島最大の島・太平島で、台湾・海洋大学の学生14人が今月12~18日まで国防教育と生態環境研究を目的とする合宿を実施した。
合宿は総統府直属の国家安全会議が主導し、国防部(国防省)が協力した。馬英九総統は「台湾の硬軟両面の力を示し、国際社会に台湾の主権を守る決意を理解させた」と意義を強調した。

太平島での学生合宿は44年ぶり。南シナ海問題が焦点となる東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議が19日から始まるのに合わせて、台湾の存在感を示すのが狙いだったとみられる。【7月19日 毎日】
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一方、ベトナムと並んでこのところの中国との対立の主役となっているフィリピンは、国会議員が南沙諸島をチャーター機で上空から視察する予定とのこと。

****南沙諸島:フィリピン議員ら視察へ 中国の反発は必至****
フィリピンの左派政党アクバヤン(市民行動)の下院議員らが18日、マニラ市内で記者会見し、中国などと領有権を争っている南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島を20日にチャーター機で視察することを明らかにした。フィリピン政府も容認する方向。

一行はフィリピンが実効支配するパグアサ島を訪問。同国の領有主張にもかかわらず、中国が1995年に進出、実効支配したミスチーフ礁などの状況を上空から確認する。中国側の反発は必至だ。
アクバヤン代表のベロ議員は会見で、視察目的について「国内外に(南沙諸島は)フィリピン領だということをあらためてアピールしたい」と強調した。

パグアサ島では、地元自治体幹部や国軍幹部らから現地海域の情勢や警備状況を聴取。中国が海洋調査船を派遣したり、フィリピンの資源探査船が中国船から妨害を受けたリードバンク海域も見て回る。【7月19日 毎日】
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これまでの歴史的経緯や最近の探査船ケーブル切断事件もあって、最も激しく中国と対立しているベトナムは、市民の対中抗議デモを意識的に容認していましたが、10日からデモ規制に方針を転換、中国との軋轢の深刻化や反中感情の高まりが体制批判につながることを警戒している模様です。
ただ、当局の規制にもかかわらず、ハノイでは市民の抗議活動が起きています。

****ベトナム当局、反中国デモを強制排除 体制批判へ拡大も****
ベトナムの首都ハノイで17日、南シナ海の領有権を巡って争う中国への抗議デモをしようとした市民ら約50人が、治安当局に再び強制排除された。政府は10日に反中国デモを規制する方針に転じたが、市民らはそれに従わずにデモに踏み切った形だ。

AFP通信によると、市民らは「打倒中国」を叫ぶだけでなく、「愛国者を逮捕するな」と政府の規制方針も批判した。デモにはベトナム外務省に対し、中国との交渉過程を公開するよう求める公開書簡を出した知識人らも加わった。

南シナ海での中国船によるベトナム船への相次ぐ妨害に反発したデモは6月5日以降、毎週日曜日に続いていた。当初は当局も強制排除はせず、容認していたが、7月10日に一転してデモを強制排除した。
政府の規制方針にもかかわらずデモが再発したことは、市民の反中感情の強さに加え、政府との溝を示しており、今後、体制批判が広がる可能性もはらんでいる。【7月17日 朝日】
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対中抗議デモは規制に転じたベトナムですが、15日からは米海軍との交流事業が行われており、中国への牽制も同時に行っています。

****ベトナム:米海軍艦艇3隻が入港 交流事業始まる****
南シナ海に面したベトナム中部の港湾都市ダナンに15日、米第7艦隊所属のミサイル駆逐艦「チャン・フーン」など米海軍艦艇3隻が入港し、米越海軍の交流事業が始まった。米海軍は1週間の予定で、ベトナム海軍との間で医療や船舶の維持管理などの技術交流を行う。実弾射撃などの軍事演習は実施されない模様。インドネシアで23日、米中両国も参加して開かれる東南アジア諸国連合地域フォーラム(ARF)を前に、中国をけん制する狙いもあるとみられる。【7月15日 毎日】
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ASEAN 「行動規範」策定に踏み込む方向
ASEAN加盟の関係国は、02年にASEANと中国が署名した「南シナ海行動宣言」を法的拘束力がある「行動規範」に格上げすることを目指していますが、中国側は格上げを拒否し続けており、そもそも南シナ海問題をASEANの枠組みで多国間協議することに難色を示し、当事国同士での解決を主張しています。
このため、具体的な進展がこれまで実現していませんでしたが、ASEAN側は今回外相会議で、“見切り発車”的にASEAN内で行動規範の議論を始めることを宣言するようです。

****南シナ海の行動規範策定を議論へ ASEAN外相声明案****
インドネシア・バリ島のヌサドゥアで19日に開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議の共同声明案が17日、明らかになった。一部加盟国と中国が領有権問題を抱える南シナ海について、中国との「行動宣言」を実行するための指針作りと並行し、法的拘束力のある「行動規範」策定の議論を11月までにASEAN内で終える意向を示している。

また、23日に開かれるASEAN地域フォーラム(ARF)の議長声明案も判明。南シナ海問題について「最近の状況は、中国とASEANとの行動宣言を実施するための指針作りを早急に終わらせ、行動規範作りへ進むことの必要性を強調している」と指摘し、早急な対応を促している。

外相会議の声明案は「我々は行動規範の議論を開始した」としたうえで、11月に予定されるASEAN首脳会議と東アジアサミットまでに議論を終えたいとしている。
見切り発車的にASEAN内で行動規範の議論を始める背景には、2002年にASEANと中国が署名した「南シナ海行動宣言」を実行するための指針作りが、6回の作業部会を重ねても遅々として進まない現状がある。フィリピンなどASEANの一部の加盟国からは、強い不満の声が出ている。

ASEAN側には行動規範の議論を内部で先行して始めることで、その前段階である行動宣言の指針作りで中国側の譲歩を引き出す狙いがあるとみられる。フィリピンやベトナムなど領有権問題の当事国と他の加盟国との結束力を強める効果も期待している。

南シナ海問題ではフィリピンが最近、スプラトリー(南沙)諸島で中国が建造物の新設を始めたことに強く抗議。フィリピン外務省が内部文書で「中国が一部加盟国に対し、ASEAN関係の会合で南シナ海問題を議論しないよう脅している」と指摘するなど、対立が深まっている。

中国の警戒感も高まっている。中国は行動宣言が行動規範に発展することを嫌っており、ASEANが行動規範策定にも踏み込むことが共同声明で明らかになれば、「中国側が態度をさらに硬化させる可能性もある」(インドネシア外務省筋)との指摘もある。【7月18日 朝日】
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もっとも、“ASEAN側”とは言っても、南シナ海に直接関係しないラオス・カンボジア・ミャンマーなどは中国の影響力が強い国ですので、ASEANとしての一体的行動がどこまで可能か・・・という問題もあります。
中国との南シナ海領有権問題を抱えていないインドネシアなどの非当事国が指針についての合意を待たず、規範の策定に入るべきだと主張しているが、当事国のベトナム、フィリピンなどは「問題の先送りだ」と反対しているとも報じられています。
今回の会議で成果をあげられるかどうかは、共同体を指向するASEANの今後の試金石とも見られています。

【「中国包囲網」を巡る米中の動き
最終日の23日には安全保障問題を協議するASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会議が開かれ、日本の松本剛明外相やクリントン米国務長官、中国の楊外相らが出席します
昨年7月のベトナムでのARFでは領有権問題の当事国ベトナム、フィリピンに日米が同調して「中国包囲網」を形成、対立拡大の契機となりました。これは中国外交の失敗とも指摘されています。

今回、中国は予定になかった南シナ海問題に特化した高級事務レベル協議を20日に開催することに合意しています。アメリカ主導による前回のような「中国包囲網」を避けようとの思惑ではないかとも見られています。

****ASEANと中国、20日に高官会合 南シナ海問題で****
東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国が20日に、膠着(こうちゃく)する南シナ海の領有権問題の解決に向けた高級事務レベル会合を初めて開くことで合意した。複数のASEAN外交筋への取材でわかった。多国間交渉を嫌ってきた中国がどのように会合に臨むかが注目される。

外交筋によると、スプラトリー(南沙)諸島の領有権を主張するベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイの4カ国の外交当局者が17日にインドネシア・バリ島ヌサドゥアで非公式に協議。問題の解決に努力することが地域の安全保障の「中心的な役割」になるとの認識で一致し、議論の場をこれまでの作業部会から事務方トップレベルの会合に格上げすることにした。中国側も基本的に応じた。

ASEANの4当事国は会合を問題解決への突破口にしたい考えだが、中国との距離感をめぐり加盟国内でも温度差があり、議論の行方は予断を許さない。
ASEANと中国は2002年、南シナ海での紛争の平和解決を盛り込んだ「行動宣言」に合意した。だが法的拘束力のある「行動規範」づくりを巡り、多国間の枠組みでの問題解決を狙うASEAN側と、二国間での解決を志向する中国側が折り合わず、双方はまず「宣言」を実行に移すための指針作りに向けて作業部会を重ねてきた。

別の外交筋によると、ASEAN側は11月の東アジアサミットまでに指針づくりの議論を終え、12年末までに「規範」での合意を目指す意向だ。(後略)【7月19日 朝日】
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一方、アメリカは今回の一連の会議で、ASEANの枠組みを使って南シナ海への関与をさらに明確にする方針です。
“「持続的平和と繁栄のための行動計画」と題する文書にASEANと合意する見通しで、「自由航行権を含む海洋問題について協力関係を促進する」と明記する。安全保障問題も含め、ASEANと海洋問題に関する情報を共有するメカニズムを作り、中国包囲網強化を目指している”【7月18日 毎日】

各国の思惑が交差する形で、結果が注目される今回のASEAN会議です。
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インド  男児尊重による人工中絶、性転換手術  人口抑制策あれこれ

2011-07-18 20:19:12 | 南アジア(インド)

(“flickr”より By hbimedialibrary http://www.flickr.com/photos/hbimedialibrary/4266559588/

男児1000人に対して女児914人
家の跡取りとして、労働力として、あるいは女児は結婚などに費用がかかるため・・・などの理由で、女児より男児が望まれる風潮は中国やインドなど各地であります。
こうした風潮は、女児とわかった段階で中絶する、生まれた女児を手放すといったことにもつながって、結果、男女比率が著しくゆがんだものになっています。

そうした国のひとつ、インドにおける状況ですが、安価な持ち運び式の超音波装置が普及したことで、都市部だけでなく農村部でも“産み分け”が進行しているとのことです。

****インド地方部で女児が急減、男女比さらに悪化****
インドで15日に発表された人口調査によると、地方部の子どもにおける女児の比率が急減した。性別を選択して出産するための技術が、インドの最も辺境な地域にまで達したことが示唆される。

最新の調査で、インド農村世帯における6歳以下の男女比は、男児1000人に対して女児が919人だった。2001年には男児1000人に対して女児が934人だったことから、大幅な女児の減少となった。都市部で入手できる安価な持ち運び式の超音波装置が、農村部でも使われ、性別選択による違法な中絶で男児が産み分けられているとみられる。

「以前は農村部住民はソノグラム(超音波検査)を受けるのに都市部まで行く必要があった」と、非営利団体「インド人口財団」のPoonam Muttreja事務局長は語る。「今では、ソノグラム提供者が農村部に訪問して、男児を出産したい人の求めに応じている」

一方、都市部における6歳以下の男女比は、男児1000人に対して女児902人と、農村部よりもさらに開きがある。だが都市部は2001年時点ですでに同906人だった。農村部のほうが女児の比率が急落している。
インド全国における男女比は、男児1000人に対して女児914人と、1947年の同国独立以降最低となっている。世界の男女比は、男児1000人に対して女児は1050人だ。

英医学専門誌「ランセット」が2006年に発表した研究によると、インドで中絶される女児は、毎年最大で50万人に上ると推計されている。【7月17日 AFP】
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意図的誤診で性転換手術
女児の中絶、身売りの話はよく聞きますが、最近は性転換手術で女児を男児にしてしまうことも横行しているとか。

****幼い愛娘に性転換を迫るインドの狂気****
家計の負担になる「娘」を手術で「息子」に生まれ変わらせようとする親が後を絶たない
一家の後継ぎとして、いずれ家族を支える存在になる男の子は大歓迎だが、嫁ぐ時に多額の持参金を持たせなければならない女の子はいらない──そんな考え方が根強く残るインドでは、お腹の赤ちゃんが女の子だとわかると中絶するケースが今も後を絶たない。それどころか、男児を切望するあまり、幼い女の子を男の子に変える性転換手術まで横行している。

地元紙ヒンダスタン・タイムズの報道によれば、マディヤ・プラデーシュ州インドールでは、1歳の赤ん坊を含む300人もの女の子が生殖器形成手術によって男の子にさせられたという。親たちは手術1件につき、約2000ポンド相当の費用を支払うらしい。
この報道を受けて、マディヤ・プラデーシュ州当局は調査を開始。インド医療評議会はこうした手術の必要性を個別の事例ごとに評価・判断する専門組織の立ち上げと、すべての都市におけるアセスメントの実施状況の確認を求めている。

手術費用が格安な上に、周囲に知られずに手術を受けられるため、インドールにはニューデリーやムンバイからも大勢の「矯正」手術希望者が押し寄せていると、ヒンダスタン・タイムズは伝えている。
女性と子供の権利拡大を訴える活動家たちは、こうした手術を「インド女性を馬鹿にした社会的狂気」だと非難している。小説家でフェミニストのタスリマ・ナスリーンは「衝撃! 胎児を殺すだけでなく、生まれた女の子を手術によって男の子に変えるなんて」とツイートした。(後略)。【7月4日 Newsweek】
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手術を行う医師らは、手術を受ける資格があるのは、男女双方の性的特徴を有した「半陰陽」の子供だけだと主張しています。しかし人権擁護団体は、彼らは手術を可能にするために意図的に誤まった診断を下していると批判しています。手術では女性器からペニスを形成した上で、子供に男性ホルモンの注射を打つとのこと。

【「ハネムーン手当」】
男女比の問題を離れて、人口増加全体を眺めると、過去10年、“一人っ子政策”の中国の人口増加率は0.6%以下に抑えられているのに対し、インドは1.8%近くと人口増加の勢いが止まりません。
インドの人口は国勢調査の暫定結果によると、12億1000億人に到達。中国の13億4000万人に肉薄しており、2030年までに中国を抜くと見られています。

こうした人口動向を背景に、多くの経済学者はインドの未来は明るいと予測しています。
“子どもと老人が少なく生産年齢人口が多い「人口ボーナス」期にあるからだ。インドの人口構成は中国より若い。今後10年でインドの就業人口は26%増加し、若い労働者が経済発展を後押しし、貯蓄率を増やし、投資を促進するはずだ。一方、中国は少子高齢化が進み、労働力や貯蓄率は減少するとみられる。”【5月4日 Record China】

しかし、インドの労働人口は毎年新たに1280万人増えているが、うち約4分の1にあたる310万人しか育成することができていないという実情もあって、「若者にいかに十分な技能を身につけさせるか。インドにとって今後30年の大きな課題だろう。インドが抱えるプレッシャーは中国より大きい」との見方もあります。

「人口ボーナス」期がマクロ的に経済成長にプラスに働くことは事実ですが、野放図な人口増加が水・電力・住宅の不足、森林の減少、地球温暖化、天然資源の枯渇、健康管理、雇用不足といった、社会の様々な問題を引き起こすことも事実であり、インド政府も人口抑制策をとっていますが、実現していないのが現状です。

なかには変わった人口政策もあります。
治安状況が悪化し、強盗事件が多発することで知られるインド中部マディヤプラデシュ州のShivpuri地区では、精管切除術(いわゆるパイプカット)を受ければ銃使用許可証の発行手続きを優先的に行う制度が導入されて論議を呼んだこともあります。【08年3月19日 AFPより】

そうした施策に比べればしごく穏当なのが、赤ちゃんを産まなかった新婚夫婦を対象とした「ハネムーン手当」制度です。

****子供を産まなかったら現金を支給、人口抑制と母子の健康増進 インド****
少子化が深刻な問題になっている日本やカナダ、オーストラリアでは、赤ちゃんを産むと「児童手当」がもらえるが、インドのとある地域では、赤ちゃんを産まなかったら現金がプレゼントされる。

マハラシュトラ州(州都:ムンバイ)のサタラ県は、新婚夫婦を対象に、通称「ハネムーン手当」制度をもうけている。結婚後2年間子供が産まれなかったら現金5000ルピー(約9200円)、もう1年間産まれなかったらさらに2500ルピー(約4600円)がもらえるというもので、これには人口増加の抑制と女性の健康増進という2つの目的がある。(中略)

申請は簡単で、婚姻届を提出していることと、自由意思でこの制度を利用したことを確認する書類に署名することが条件だ。ただし申請後2年間は3か月に1度、夫婦でカウンセリングならびに家族計画に関する授業を受けなければならない。コンドームや避妊薬は無料で配布され、中絶手術の手配も可能。
07年の制度開始以来、約4300組の夫婦が申請した。途中で離脱したのは150カップル程度にとどまっているという。

■18歳未満の出産は、新生児にも妊婦にも危険
・・・インド社会、特に保守的な農村部では、子供はいまだに重要な稼ぎ手、一家の担い手と見なされている。その一方で、同国では女性の早婚傾向が根強い。保健当局によると、マハラシュトラ州では花嫁の10人に4人が法定年齢の18歳未満だという。サタラ県では女性はたいてい19歳で結婚し、その80%以上は1年以内に妊娠する。

ある医師は、出産を遅らせることを奨励するハネムーン手当のような政策は、赤ちゃんと母体の健康のために極めて重要だと話した。18歳未満の出産は、産婦または新生児が命を落とす危険性が極めて高くなるという。実際、サタラ県では1歳未満で死亡する新生児は1000人中31人、妊娠に関連した要因で死亡する女性はインド全体で出産10万回(死産を除く)につき254人(08年)となっている。

サタラ県のハネムーン手当制度は来年で終了する予定だが、現在州内の別の3県が同様の制度を検討しているほか、中部のマディヤプラデシュ州、東部のジャルカンド州も関心を寄せている。【4月30日 AFP】
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【「管理下における精子の可逆的抑制」】
確実な避妊方法は男性のパイプカットですが、実行する男性はそう多くはありません。
そうしたなかインドで、1回の注射で、外科的手術を受けることなくパイプカット(精管切除)と同じ効果を10年間得られるという方法が開発されているそうです。

****注射1本で効き目10年の男性用避妊法****
コンドームもパイプカットもいらなくなる画期的避妊法が、人口増加に悩むインドで完成間近

およそ400年前、ある賢人が自分の男性器に羊の腸を被せるというアイデアを思いついた。これがコンドームの始まり。以来、様々な改良が重ねられてきたとはいえ、男性用避妊具は基本的には今も初期の形状を踏襲している。
だが間もなく、男性の避妊法をめぐる常識が一変する日が来るかもしれない。

インド人技術者のスジョイ・K・グハは30年に及ぶ研究の末、生殖技術の世界でピル(女性用経口避妊薬)以来の大革命となりえる画期的な避妊法を完成させようとしている。今回のターゲットは男性だ。
「管理下における精子の可逆的抑制」の略称で「RISUG」と名づけられた新メソッドは、精管にゲル状のポリマーを注入し、精子の細胞膜を破裂させて受精能力を奪うというもの。1回の注射で効果は10年。外科的手術を受けることなくパイプカット(精管切除)と同じ効果を得られるうえに、性欲減退などの副作用もないという。

生殖機能の回復も注射1本で簡単に
それだけではない。猿などを使った動物実験では、別の薬剤を注入することで、簡単に生殖機能が回復することも確認されている。つまり、この方法を使えば、ホルモン剤を使わなくても一時的に生殖機能を停止でき、しかも好きなときに元の機能を取り戻せるのだ。

今も女性の避妊手術が最もポピュラーな避妊法だというインドにとって、この発明は劇的なインパクトをもたらすかもしれない。インドでは、37%の女性がリスクの高い卵管切除手術を受けているのに対し、パイプカット手術を受ける男性はわずか1%。人口を抑制するために男性の手術率を引き上げたい当局は、様々なインセンティブを用意している。ラジャスタン州では、手術を受けた男性は銃のライセンスに加えて、車とオートバイ、テレビまでもらえる。

「体にメスを入れる必要がないのは、RISUGの重要なメリットの1つで、心理的インパクトは大きい」と、グハは言う。「2つ目の利点はもちろん、機能が復活する可能性がある点だ」
RISUGによる避妊法は、まだ商品化には至っていない。だが、長年に渡って人知れず重ねてきた研究は最終段階を迎えている。(後略)【7月14日 Newsweek】
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“長年に渡って人知れず重ねてきた研究”ということで、果たして実用化できるものかどうかは知りません。
少なくとも、女性側に負担を負わせることが多かったこれまでの避妊法にくらべ、“元から断ってしまう”方法は、方向としては妥当なのでは。

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ベネズエラ・チャベス大統領の健康不安で、キューバ経済に暗雲

2011-07-17 20:49:33 | ラテンアメリカ

(4日に帰国して、国民にバルコニーから挨拶するチャベス大統領 両脇の女性はお嬢さんです。“flickr”より By SerieAdict@  http://www.flickr.com/photos/33376694@N06/5904598342/ )

【「まだ死ぬときではない、生き続ける」】
その反米的な言動でなにかと話題となることも多いベネズエラのチャベス大統領は、友好国キューバで骨盤膿瘍が見つかり6月10日に手術を受けましたが、その際、悪性腫瘍が見つかり、20日にがん摘出手術を受けました。
腫瘍は「野球のボールほど大きかった」とのことで、100キロ以上だった体重は85キロに減ったそうです。

普段能弁なチャベス大統領の動静がわからなくなったことで、一時いろんな憶測がなされましたが、本人ががん治療を告白、今月4日にはベネズエラに帰国、騒動は一段落したようにも見えました。
しかし、16日には手術後の化学療法を受けるため、再びキューバへ出発、健康不安と政治的思惑が再燃しています。

****チャベス大統領、がん治療でキューバ再訪****
キューバでがん摘出手術を受けたベネズエラのウゴ・チャベス大統領(56)が16日、手術後の化学療法を受けるため、再びキューバへ出発した。治療にかかる日数は明らかになっていない。

AFP記者によると、チャベス大統領は出発前、「この新たなステップを終えなければならない」と語り、「数日間(キューバを)訪問する予定だが、別れのあいさつをするつもりはない。もっと元気になって戻ってくる」と述べたという。チャベス氏は「まだ死ぬときではない、生き続ける」と強調した。
またチャベス大統領は、首都カラカスを出発前にテレビ演説を行い、「私は楽観的であると言っておこう。いま、私は人生を、これまでなかったように愛している」と語った。

出発に先立ち、ベネズエラ国会は、大統領が5日以上国を離れるときに必要な渡航要請を全会一致で承認した。大統領のキューバ訪問中は、エリアス・ハウア副大統領とホルヘ・ジョルダニ財務相が大統領の一部行政権限を執行する。

だが野党指導者らは、チャベス氏がキューバから大統領の行政権限を行使することは憲法違反であり、外国訪問中は副大統領に全権限を委任するべきだと要求。チャベス大統領は「自分の能力が損なわれたと感じたら」、ハウア副大統領に全権限を委譲するとしている。【7月17日 AFP】
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「まだ死ぬときではない、生き続ける」と言われると、逆に「大丈夫だろうか・・・」とも思ってしまいます。
一時、ブラジルのルセフ大統領が、ブラジルでの治療を勧め、チャベス氏も受け入れたと伝えられていました。“地元メディアは、結局、病状など秘密が保持できるキューバで治療を続けた方がいいと判断したのだろうと評している”【7月16日 朝日 朝日】 とのことです。

【「ベネズエラとキューバは同じ国だ」】
独裁者チャベス大統領の動静がベネズエラ国内政治に大きな影響を与えるのは当然のことですが、治療先であるキューバにとっても、チャベス大統領の健康は国の方向を左右しかねない重大事だそうです。
もし、チャベス大統領が病に倒れれば、同じ左派政権としてこれまで優遇を受けていたベネズエラからの原油供給が滞り、キューバは社会不安に直結する恐れがある・・・というものです。

****チャベスの癌で絶体絶命のキューバ*****
キューバで癌の手術を受けたベネズエラのウゴ・チャベス大統領が7月4日、約1カ月ぶりに母国へ戻った。キューバの首都ハバナを発つ際には、空港の滑走路でラウル・カストロ国家評議会議長に向けて「ベネズエラとキューバは同じ国だ」という言葉を贈り、友情を確かめ合った。
その言葉通り、キューバの命運は、癌と戦うチャベスの健康状態にかかっている。ベネズエラからキューバ(と中南米諸国の左派政権)に流れる巨額の支援が今後も続くかどうかは、チャベスの体調次第なのだ。
 
ソ連崩壊によって、キューバが慢性的な停電と経済停滞に苦しめられた時代から20年。キューバは今もベネズエラという寛大な友好国に依存して国家経済を維持している。石油需要の3分の2以上はベネズエラが格安で提供してくれる原油でまかなっているし、昨年の対ベネズエラ貿易は推定35億ドルに上った。

56歳のチャベスは、キューバで骨盤膿瘍の手術を受けた際に「癌性細胞」が発見されたと語っているが、癌の具体的な部位や予後の見通しについては公表していない。
スペインからの独立200周年を機にベネズエラに帰国したチャベスは、陽気でエネルギッシュだった。食事を「ガツガツ食べている」とテレビカメラの前で請け合い、ツイッターの170万人のフォロワーに向けて「神に感謝!これは復活の始まりだ」とツイートした。

停電解消はベネズエラの原油のおかげ
一方、キューバにとっては不安の始まりだ。キューバでは革命の英雄フィデル・カストロの弟である80歳のラウルが国家財政の健全化に悪戦苦闘しつつ、自由経済への段階的移行を進めている。だがチャベスの健康不安は、キューバ経済の脆弱さをあらためて浮き彫りにした。
 
キューバの共産党政権は今後数年間で何万人もの国営企業の従業員を解雇し、小規模な営利企業の増加を認めようとしている。キューバがこうした改革をマイペースで進められるのは、ベネズエラから様々な形で支援を受けられるおかげだ。
病気のため、あるいは来年12月の大統領選に敗れてチャベスの時代が終わりを迎え、医療従事者中心にベネズエラで出稼ぎ労働者として働く4万人のキューバ人が帰国する事態になれば、財政は一段と厳しさを増すだろう。

さらに深刻なのは、エネルギー供給の問題だ。ベネズエラから安定的に原油を入手できるおかげで、キューバでは90年代前半のような慢性的な停電と暴動はほとんどなくなった。キューバ人が大挙して、ボートでアメリカを目指すこともなくなった。
当時、まだ政治権力の頂点に君臨していたフィデルは毎日のようにテレビに出演し、意志の力だけで国民を危機から救い出そうとしていた。しかし彼は今、85歳。再び国を救うには弱りすぎている。

キューバの社会情勢は、灼熱の夏季の電力供給と密接に結びついている。キューバは過去10年間、比較的小規模な火力発電所を設置することで電力供給を安定化させてきた。燃料の一部はベネズエラ産の石油で、ここ数カ月原油価格が1バレル=100ドルを超えたときでも、キューバはベネズエラのお陰で電力の安定供給を続けることができた。

すぐにベネズエラの原油の代わりを見つけることも難しい。キューバは既に国内油田で1日5万バレルの石油を生産し、そのほとんどを発電に使っている。スペインの石油大手レプソルは近くキューバ北部の沖合で石油採掘を始めようと計画している。だが専門家によれば、大規模な原油を掘り当てても原油を市場で流通させるまでには何年もかかる。【7月7日 Newsweek】
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“絶体絶命”かどうかはともかく、チャベス政権の存続がキューバ経済に大きな影響を持っているようです。
キューバをはじめとする中南米左派政権諸国は、チャベス大統領の健康状態に、重大な関心を寄せている状況のようです。

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タイ  敗れた民主党、貢献党の解党を申し立て 再び「司法クーデター」?

2011-07-16 20:44:44 | 東南アジア

(タクシン支持者 “flickr”より By mononoir http://www.flickr.com/photos/59492306@N04/5899013824/
“「私は兄のクローンよ」 選挙戦で与党から「タクシン氏の操り人形だ」と批判されると、笑いながらギクリとすることを言った。「政治や経済を兄から学んだ。決断の仕方も兄とそっくりよ」”【7月4日 産経】)

【「公的な地位に任命することは考えていない」】
タイでは、総選挙で圧勝して次期首相の座を確実にしたタクシン元首相の妹、インラック・シナワット氏(44)が、公約の最低賃金の大幅引き上げなどの取り組む姿勢を見せています。

****タイ:インラック氏、最低賃金上げ 格差縮小へ積極姿勢****
タイ総選挙で圧勝し、次期首相就任が確実になったタクシン元首相派「タイ貢献党」のインラック・シナワット氏(44)が8日、毎日新聞などのインタビューに応じた。低所得層を支持基盤とするインラック氏は、富裕層との格差縮小につながる最低賃金の大幅引き上げなどに積極的に取り組む姿勢を強調した。

インラック氏は「収入減などの経済問題に苦しみ、兄(タクシン元首相)の時代の政策の復活を求める国民の姿を見て政界入りを決めた。どんな地位でもよいと思ったが、首相になるとは予想していなかった」と話した。一方でタクシン氏の復権については「公的な地位に任命することは考えていない」と否定した。

選挙戦で打ち出した最低賃金引き上げなどの公約は、経済界などから「ばらまき政策」「企業経営に悪影響を与える」と批判を浴びる。インラック氏は賃金大幅引き上げについて「副作用があることは理解している」としながらも「企業減税とセットで実現する」と意欲を示した。

福島原発事故を受け、アピシット政権が見直しを表明した原発建設計画は「個人的には(原発を)支持しないが、具体的には後に明らかにする」と明言を避けた。【7月8日 毎日】
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焦点の兄タクシン元首相の帰国などの扱いは、今後の情勢を見極めながら・・・というところでしょうが、どういう形になるのせよ、インラック政権がタクシン氏の意向を反映した運営になるのは間違ないでしょう。

【「国民和解」は早くも頓挫?】
一方、敗れたアピシット首相は民主党党首を辞任することを明らかにしていますが、民主党は、タイ貢献党に政党法違反があったとして、選挙管理委員会に貢献党の解党を申し立てています。

****タクシン派政権阻止へ タイ 民主党が解党申し立て****
タイの下院(定数500)総選挙で敗北した民主党は9日までに、タイ貢献党政権の樹立を阻止するため、貢献党に政党法違反があったとして、選挙管理委員会に貢献党の解党を申し立てた。貢献党は強く反発しており、「国民和解」は早くも頓挫しそうだ。

申し立て内容は「5年間の政治活動禁止処分を受けた者が、貢献党の政策立案や候補者選定などに関与した」というもの。「処分を受けた者」とは、次期首相就任が確実なインラック氏の兄で、貢献党のオーナーであるタクシン元首相や、ソムチャイ前首相らを指す。

タクシン派政党は過去に2度、解党の憂き目に遭い、タクシン氏らが参政権停止処分を受けている。タクシン氏が2006年のクーデターで失脚後、同氏が率いるタイ愛国党は07年、憲法裁判所の解党命令(選挙違反)で瓦解(がかい)し、同氏ら党役員111人が5年間の参政権停止処分を受けた。
07年の選挙で第一党となり政権の座に就いたタクシン派、国民の力党も08年、解党命令により政権に終止符が打たれ、ソムチャイ前首相が参政権停止処分を受けた。このときは「司法クーデター」と呼ばれた。

今回の申し立ては、過去の処分が現在も有効であるとし、選挙管理委員会が受理すれば、憲法裁判所に告発し、審理される。これに対し、貢献党は法的な対抗措置をとる構えだ。【7月10日 産経】
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上記記事にあるように、これまでもしばしば繰り返されてきた「司法クーデター」ですが、タクシン派が対立する既得権益層のひとつでもある司法関係者はタクシン派に批判的とされるだけに、今後の展開が注目されます。
解党命令が出されても、新たな党をつくるか、あるいは別の既存党を乗っ取るかの形で、権力自体は維持可能ですが、そうは言っても与党解党、責任者の処分となると打撃は避けられません。

タイが直面する最大課題は言うまでもなく「国民和解」ですが、司法による与党解党といったクーデターまがいの手段は、タイの政治・社会に更なる混乱をもたらすだけでメリットはありません。
民主党が、インラック政権の誕生前に、その施策を確認することもなく、こういう措置に踏み切ったことが残念です。

【「(タクシンは)タイに生まれつつある新しい秩序を求める『声』を反映している」】
反タクシン陣営の動向としては、今のところ軍は静観しているようです。
激しい街頭行動でタクシン派政権を崩壊させた黄シャツ隊も選挙結果を受け入れると表明しています。

反タクシン派からすれば、タクシン元首相は金権・腐敗の政治家であり、国王の権限を奪おうともした・・・ということになるようですが、こうした批判はタクシン元首相によって利権を失った既得権益層からのものであり、「(タクシンは)タイに生まれつつある新しい秩序を求める『声』を反映している」との指摘もあります。

****タイ「美女首相」の危うい勝利 インラックヘの「警告*****
・・・・政治学者のティティナンも、「確かにタクシンは傀儡を通じて党を動かしてきた」と語る。ただし、重要なポイントは別にあると付け加える。「(タクシンは)タイに生まれつつある新しい秩序を求める『声』を反映している。反タクシン派はそれを認めようとしない。彼らに言わせれば、タクシンは私利私欲のために人々を操り、陰謀を企てた人間、となる」

実際、タクシンは通信ビジネスで巨万の富を築いた億万長者だが、多くの国民に庶民の痛みが分かる人物と思い込ませ、自分を「人々の味方」に仕立て上げた抜け目ない政治家でもある。「(タクシン派は)有権者の望みを探り、それを見つけ出し、願いをかなえた」と、ティティナンは指摘する。

アピシットもこの手法に倣い、たびたび「貧しい人々」について語ったが、説得力に欠けていた。貧困層の多くが首相の言葉を本気にしなかったことは明らかだ。
「アピシットの場合、大衆向けの政策と呼べるのは福祉の拡大ぐらいだ」と、ティティナンは言う。

だが「人々のための政治」とは、要するに「アメ」を有権者に配ることだ。インラックも歴代の首相と同様、農家への低利融資や地方出身者の大学進学支援、貧困層向け住宅だけでは国家の統治はできないことに気付くだろう。
「タイ経済のための長期的なプランが見当たらない」と、CIMBタイ銀行の首席研究員ブンルアサック・プサルンスリは言う。「あるのは選挙で当選するための短期的な『ばらまき』だけ。その点ではどの政党も同じだ。最低賃金の引き上げを語るのは簡単だが、実際にそれをやれば製靴、繊維、衣料といった業界は立ち行かなくなる可能性がある」

タイ貢献党は経済の安定やバランスの取れた経済成長、国家の競争力強化仁ついて語るべきだと、ブンルアサックは言う。「多額の公金を短期間でばらまき型の政策につぎ込めば、景気後退になりかねない。場合によっては経済危機を引き起こすかもしれない」
インラックはこの警告を心に刻んだほうがよさそうだ。さもなければ、兄を帰国させるチャンスが来る前に政権を失うことになりかねない。【7月20日号 Newsweek日本版】
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“長期的なプランが見当たらない”のは別にタイに限った話でもありません。
政治の“メルトダウン”が指摘される日本も同様でしょう。

ばらまき型の政策によるポピュリズム、民意を無視した司法クーデーター、軍部の軍事クーデター、市民団体の街頭行動による政治マヒ・・・こうしたものを脱却して、“長期的なプラン”を確定する政治を実現する方向へ一歩でも近づいてほしいものです。

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アフガニスタン  和平を模索するアメリカ タリバン側にも変化の兆し?

2011-07-15 20:37:02 | アフガン・パキスタン

(08年11月、学校へ行く途中、タリバン支持者によって顔に酸を浴びせられた17歳少女 “flickr”より By tanweer1 http://www.flickr.com/photos/7282565@N08/3034343433/

【「外国軍からの解放」】
先月22日にオバマ米大統領が発表したように、アフガニスタン駐留米軍約10万人のうち年内に1万人、来年9月までに3万3000人が撤退することになっていますが、その第1陣が数日中に帰還する予定です。

****アフガン駐留米軍の撤退始まる 650人、数日中に帰還****
アフガニスタン駐留米軍の最初の撤退部隊となる650人が13日、東部パルワン州にあるバグラム米軍基地で、任務を米本土から新たに派兵された500人の別の部隊に引き継いだ。AP通信が報じた。基地の報道担当によると、数日中に米本国に帰還するという。
今回撤退するのは、昨年11月に派兵されたパルワン州担当の部隊。今回の交代で駐留米軍が150人減ったことになる。当面はこうした部隊の交代を繰り返して人員を減らしていくと見られる。【7月14日 朝日】
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アフガニスタン側は、撤収を「外国軍からの解放」と位置づけており、今年で10年となった米軍侵攻と、10年に及んだソ連軍侵攻とを同列に扱い、旧ソ連軍の撤退(89年)を祝ったような撤収開始の記念式典を大々的に祝う計画とか。
一方、駐留米軍は月内の撤収を800人にとどめ、旧支配勢力タリバンなど武装勢力の活動が雪や寒さで鈍くなる冬季以降に本格撤収を始める考えとも。【7月8日 毎日より】
また、アメリカの撤退に合わせるように、英仏、カナダの撤退計画も報じられています。

【「アフガン人主導の和解プロセスをいまや国際社会が支持している」】
ロドリゲス駐留米軍副司令官は「我々は過去6カ月で1000人以上の武装勢力を拘束・殺害した。昨年同期の250%増だ」と“成果”を強調しています。
確かに、カンダハルやヘルマンドなど南部のタリバン拠点における米軍増派による大規模掃討作戦によって、この地域のタリバン勢力が弱まったのは事実ですが、最近では東部に潜むパキスタン人らの武装勢力も活発化しています。

本格的撤退時期までにタリバン勢力を一掃するのは不可能に近く、タリバン側との和平交渉も現実味を帯びてきます。
****米、和平にかじ切る ****
経済の低迷が続き、巨額の戦費に国内の厭戦(えんせん)世論が高まる米国はアフガンからの撤退を始める。対タリバーン戦略も転換し、和平を模索し始めた。

国際社会では「タリバーンを軍事的に壊滅させるのは不可能」(カブール駐在外交官)との認識が広がっている。さらに、タリバーンの目標はアフガンの再支配であり、米国本土へのテロ攻撃には関心がない▽タリバーン指導部に対するアルカイダの影響力が薄れた――ともみられている。

国連安全保障理事会は先月、これまで一つの決議で制裁を科してきたアルカイダとタリバーンを分離し、別々の制裁決議を全会一致で採択した。パキスタン人ジャーナリストのアハメド・ラシッド(63)は、新決議は米国とタリバーンの和平交渉の成果だと見る。ラシッドによれば両者の会談はドイツの仲介で昨年11月に始まり、今年5月までに3回持たれた。

カルザイ政権もタリバーンとの接触に動き始めた。高等和平評議会事務局長のモハンマド・マスム・スタネクザイ(52)は「アフガン人主導の和解プロセスをいまや国際社会が支持している」と意欲を見せる。

だが、国内では反発も強い。前国家保安局長官のアムルラ・サレ(39)や元外相アブドラ(51)らは5月、首都カブールで和平に反対する集会を開いた。アブドラ率いる野党の報道官アガ・フセイン・サンチャラキ(51)は「表現の自由や民主主義といったこの10年の成果を受け入れるかどうか、タリバーンは何の意思表示もしていない」と話す。NGOアフガン女性協議会代表のファタナ・ギラニ(52)も「人権や女性を犠牲にするようなことは許されない」と語った。

タリバーン側も一枚岩ではない。かつての政権で外務省高官を務めたワヒド・ムジュダ(56)は「和平には内部で反発が出るし、彼らが求めるイスラム法による統治と民主主義は相反する」と指摘する。タリバーンは6日声明を出し、米国との交渉を「根拠のないうわさ」と否定した。【7月14日 朝日】
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タリバン 女子教育是認に方針転換?】
和平交渉にあたっては、タリバン側が「表現の自由や民主主義」、「人権や女性の権利」といったものにどれだけ理解を示すのかが懸念されるところです。
かつてのタリバン政権の施策には、イスラム原理主義だけでなく、タリバンの主な出身部族であるパシュトゥン人の農村・部族社会の伝統・風習が色濃く反映していたと考えられています。

“タリバーン政権は90年代、特に都市部で女性の抑圧など極端な政策をとった。政権の国連代表を務めたアブドゥル・ハキム・ムジャヒドは、それはイスラム法ではなく、農村の風習や文化に基づいていると説明する。「彼らの村では女性は(全身を覆う)ブルカを着て家の中にいるのが普通。タリバーンがそれを強要したことで、西洋化された都市住民と農村部の人々の間でメンタリティーの衝突が起きた」”【7月14日 朝日】

タリバン側にも変化の兆しはあるようです。
最も懸念される問題のひとつである女性の権利に関して、タリバン“影の政府”が女子教育を認めているとのことです。

****アフガン東部 女子教育推進に方針転換 タリバン、政治力誇示****
パキスタンに隣接するアフガニスタン東部クナール州で、イスラム原理主義勢力タリバンが女子教育も含めた学校の再開や、外国政府の支援も入った開発計画を支持するだけでなく、積極的に推進していることがわかった。
                   ◇
女子教育を否定してきたタリバンが方針を転換したことが具体的に確認されたケースは珍しい。外国部隊撤退やアフガン政府との和解が実現すれば、タリバンの政権参加もありうることから、政治的な“力量”を住民に見せる狙いもあるようだ。

「ここの子供たちはちゃんとした教育を受けている。いま、目の前で子供たちが遊んでいるよ」。タリバンのメンバーで、クナール州の“影の政府”に勤めるラフマトゥラ・カシミ氏は、電話の向こうで声を弾ませた。
“影の政府”は、ほぼ全州に設置されているタリバンによる非合法政府。汚職や機能しない行政府にかわって、税金を徴収したり裁判所や警察署を運営したりすることもある。最近はタリバンの拠点であるアフガン南部にかわって、影響力が強まっている同国東部の“影の政府”が力を持つ傾向が広がっている。

カシミ氏によると、クナール州の“影の政府”は今年に入ってから、州内14地区にある州政府の教育担当者に学校再開を“通達”。以降、女子教育に反発する武装勢力が学校運営を妨害しないよう、タリバン兵による警備を行うだけでなく、教師の質や勤務態度も監視しているという。
州知事報道官のワシフラ・ワシフィ氏に確認したところ、「タリバンから女学校も含めて学校の再開のお墨付きを得たおかげで、州内の全419校で授業を行っている」と述べ、タリバンの方針転換を歓迎した。

1990年代後半から2001年までアフガンのほぼ全土を支配したタリバンは女子教育を否定してきた。各地で女子学校だけでなくさまざまな教育施設の爆破や、教員の殺害を行ってきたタリバンが、まだ全土的な動きにはなっていないとはいえ、なぜ方針を変えたのか。

カシミ氏は「人々に奉仕するのはタリバン指導層(パキスタンにある最高機関クエッタ評議会)の指示」で、新たなものでないと強調。これまで指示を実行できなかったのは「タリバン政権は国家を運営していくには未熟で、政権がアフガン国民のためになる政策を行うことを(タリバンを支援する)パキスタン当局の一部が良しとしなかったからだ」と説明する。

クナール州の政治アナリスト、シュジャ・ウル・ムルク氏は「この州のタリバンのメンバーは地元住民が多いだけに、自分の子供たちの教育の重要性に気づいたのだろう。また、外国部隊の撤退後、タリバンが住民のために奉仕できるというアピールの意味もあるのでは」と解説している。【7月14日 産経】
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「表現の自由や民主主義」、「人権や女性の権利」といった基本的価値に関する一定の共通認識がないと、和平交渉や政権参加も砂上の楼閣になります。
こうした変化がどこまでタリバン全体に共通した認識になっているのか、政権参加後も保証されるのか・・・気がかりな点は多々ありますが、変化の兆しがあること自体は歓迎すべきことでしょう。

ただ、タリバン側と基本的な価値観の違いはまだ大きなものがあります。
例えば、最近タリバンは“扱いやすい”子どもを使った自爆テロを増加させています。
“国連によると、タリバーンは2007年以降、ほぼ週3件のペースで自爆攻撃をしている。今年は3月に増え始め、4月は17件に上った。最近は、子どもを自爆犯として使い始めた。治安当局に怪しまれにくいうえ、タリバーン思想を教え込みやすいためと考えられる。5月には東部パクティカ州の市場で12歳の少年が自爆。6月には南部ウルズガン州で、小包爆弾が警察車両近くで爆発し、8歳の少女が死亡した。武装勢力から運ぶよう頼まれたとみられる。”【7月15日 朝日】

【「政府は何もしてくれない」】
一方、交渉の相手側になるアフガニスタン政府側の評価は“腐敗・汚職”“無能”と、相変わらずよくありません。

****投降の元部隊長「政府、こんな無能とは*****
・・・・ズマライは部隊長として政府軍と戦った。部下も死んだ。だが宿敵の元軍閥が死ぬと、そのまま戦闘を続ける意味を問い直した。
「政府は、身の安全を保証し仕事もくれる」。昨年末、そう言って反政府勢力に投降を促す和解委員会の呼びかけに応じた。
半年が過ぎた。故郷の村に帰れず、近郊の町で息を潜めて暮らしている。タリバーンの報復を恐れているからだ。ヘラートの和解委員会の事務所で取材に応じたズマライは「政府は何もしてくれない。こんなに無能だとは思わなかった」と言い切った。和解に応じたことを後悔している。

1994年に出現したタリバーンは、内戦に明け暮れたムジャヒディン(イスラム戦士)や軍閥とは違う新興勢力として人々を引きつけた。当時、ヘラート州シンダン地区の宗教学校にいたサイード・アフマド(35)も共鳴した。「タリバーンは清廉だった。共に戦い、祖国に和平をもたらしたかった」と振り返る。
300人の部隊を率いたこともあった。左足に受けた銃弾の痕は今も残る。
1年前、和解委員会の説得に応じた。いつまで続くかわからない戦いに疲れたからだ。「選挙を経て、国際社会の支援を受ける今の政権の方がタリバーン政権よりも本当の政府に近い」とも思った。
だが、やはり和解を後悔している。「少なくともタリバーンは給料をくれたし、汚職や腐敗はなかった」と語った。 【7月14日 朝日】
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こうした状況では、仮にタリバン側との和平・政権参加が実現しても、遠からずタリバン支配あるいは内戦再開といった事態になるでしょう。

カルザイ大統領の弟で南部カンダハル州議会議長のアフメド・ワリ・カルザイ氏(49)が12日、自宅で暗殺され、タリバンが犯行声明を出しています。
同氏は、アヘン取引や民間警備会社と裏でつながっているという疑惑が取りざたされてきた“腐敗”の象徴でもありますが、カルザイ大統領は、「これがわが国の現実だ。アフガニスタン人は皆、同様の苦難を味わっている。このような苦しみを終わらせたい」と語っています。

なお、国連は14日、アフガニスタンで今年上半期に戦闘などに巻き込まれて死亡した民間人が1462人に上り、2001年以降最悪だった昨年の同期に比べ15%増加したとの報告書を発表しています。

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台湾  次期総統選挙選スタート 与野党とも対中関係問題への深入り避ける

2011-07-14 20:59:19 | 東アジア

(民進党候補の蔡英文(ツァイ・インウェン)・同党主席 “flickr”より By .::Q Q::. http://www.flickr.com/photos/hiroshi062/5615308382/ )

【「私は台湾人」】
台湾では、来年1月14日に投開票される総統選に向けて今月2日、与党・国民党候補の馬英九(マー・インチウ)総統(60)と野党・民進党候補の蔡英文(ツァイ・インウェン)・同党主席(54)が、それぞれ本格的な選挙運動をスタートさせています。
各種世論調査では、馬総統が蔡主席を若干リードしているものの、ほぼ互角の戦いが予想されています。

過去の台湾総統選では対中国政策が最大の争点となっています。
国民党・馬政権は対中接近を進め、中国との交易で経済浮揚をはかってきました。一方で、中国の影響力が増大することが台湾の主権を脅かすのではないかとの不安も存在します。
対中接近を進める国民党に対し、台湾の主権を重視して過度の対中接近を警戒する民進党という構図になりますが、両党ともあまりこの問題を強調するのは得策ではないとの判断もあるようです。

****対中政策、乏しい新味 台湾総統選まで半年****
・・・・最大の争点は緊張をはらみながらも密接化する中国との関係だが、双方とも新機軸を打ち出しあぐねている。

■馬総統、拭えぬ「親中色」
 「我が中華民国は主権独立国家であり、自主防衛が必要だ」
馬総統は6月30日、台中市の空軍系メーカーを訪れ、気勢を上げた。自主開発戦闘機「経国号」の性能向上プロジェクト完成を祝う式典でこう強調したのは、台湾防衛をめぐる自身の姿勢への疑念を意識してのこととみられる。

実は馬政権下、仮想敵の中国軍が増強しているにもかかわらず、軍事費が年々減っている。陳水扁・民進党政権で国防部長を務めた蔡明憲氏は「馬総統は親中国。戦争しないから武器は要らないというのが本心」と批判する。経国号プロジェクトは陳政権が推進し、馬総統はその成果を「収穫」したにすぎない。

中国大陸生まれの親を持つ外省人の馬総統は、どうしても「中国寄り」と見られがちだ。就任後、一時は中国指導者との直接対話に臨むとの観測が浮上したが、国民党のある長老は「負い目がある分、思い切った対中政策はとれない」と見通す。12日には馬総統自らフェイスブックに「私は台湾人」と記し、野党系メディアから「選挙前症候群」と揶揄(やゆ)された。

台湾の有権者は2008年の前回選挙で、摩擦が続いた対中関係の改善を望み、政権交代を実現させた。馬総統は中台直行便や経済協定締結を通じて応えた。しかし中台間で合意しやすい項目を急いだ分、その後の交渉は停滞気味だ。選挙前に新味を出すことが難しくなっている。

■野党・蔡氏は論議封印
親中イメージと格闘するのが馬総統の宿命なら、対中方針を出し渋っているのが民進党の蔡主席だ。
馬政権や与党・国民党は、中台関係者が1992年に合意したとされる「92年コンセンサス」を対中政策の基礎とする。台湾側は「中華民国」、中国側は「中華人民共和国」を正統政府と主張するが、「中国は一つ」という合意はあるというものだ。

中国側もこれを認めているが、民進党は「台湾と中国は別の国」との立場にある。このため中国と安定した関係を構築できるか経済界から不安視され、同党の弱点となっている。
蔡主席は立候補に当たり台湾独立派長老らの支持をいち早く取り付けることで、かえって対中関係をめぐる論議の封印に成功した。その後も中国への言及を避け、語るのは脱原発や貧困対策ばかりだ。民進党は昨年から新たな対中政策を検討しているが、まだ公表されていない。

専門家レベルでは民進党と中国側の対話は頻繁に行われ、蔡主席が候補者に決まったころにも2人の学者が北京へ赴いた。政権奪回に備え、ことを荒立てるつもりはないというシグナルだ。
ただ中国側が色よい反応をしているわけではない。中国国務院台湾事務弁公室の楊毅報道局長は6月29日、「台湾独立、分裂の立場で長期的な交流の枠組みができるのか?」と改めて圧力をかけた。【7月14日 朝日】
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米中台の間で微妙なF16戦闘機新型C/Dの供与
「対中傾斜」のイメージを薄めて、自主国防にも十分な配慮をしていることをアピールしたい馬総統が希望しているのが、アメリカからのF16戦闘機の新型C/Dの供与です。

****新型戦闘機「台湾へ売却を」 米議会、政府に要望****
台湾への武器売却を求める大合唱がワシントンで起きている。台湾や米議会は中国の軍拡に懸念を強めるが、売却に踏み切れば米中関係の冷却化は避けられない。いつ、何を売るか。米政府は慎重に落としどころを探っている。

「台湾海峡における軍事的不均衡は日ごとに強まっており、中国と渡り合うには防衛力強化が不可欠だ」
台湾で対中政策を担う閣僚、頼幸媛・大陸委員会主任委員は7日、ワシントンでの講演で売却への切迫感を訴えた。超党派の立法委員4人も10日にワシントン入りし、陳情を展開。米議会では5月末、上院の半数近い45人の超党派議員が売却を求める書簡をオバマ大統領に送った。

台湾や米議員らがそろって求め、焦点となっているのが、F16戦闘機の新型C/Dの供与だ。
台湾にとって、新型機の導入は2005年以来の悲願だ。06年から予算も手当てしている。中国は高性能の戦闘機配備を進め、今年1月にはステルス機の試験飛行を実施。一方、初期型のF16A/Bなどを主力とする台湾軍は更新が進まず、5年ほど前から空軍力で逆転したとされる。

半年後の選挙で再選を目指す馬英九(マー・インチウ)総統はこれまで対中関係の改善を進めたが、中国寄りすぎるとの批判も強い。新型導入が決まれば対米関係の良好さと台湾防衛の意思を同時にアピールできることになる。

■米政府は慎重、中国に配慮
米側では雇用問題の側面もある。「新型」とはいえ、米軍は調達を終え、テキサス州の生産ラインは数年内に閉鎖の可能性が出ている。台湾向けに生産が続けば「延命」が可能だ。同州選出のコーニン議員は売却に向けた調査が終わるまで、次期国務副長官の人事を棚上げする構えを見せ、米政府を揺さぶっている。

南シナ海などで中国の圧力を受けるアジア各国にとって、米国が武器を売却することで台湾を守ろうとする姿勢を示すかどうかが「米国の信頼の問題になった」(戦略国際問題研究所のボニー・グレイサー上級研究員)との指摘もある。

ただ、米政府は「いかなる決定も下していない」(ヌーランド国務省報道官)と多くを語らない。
昨年1月に台湾への武器売却を決めた際には、中国が猛反発した。8月にバイデン副大統領の初訪中、11月に米ハワイで開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)、さらに胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の後継者に内定した習近平(シー・チンピン)国家副主席の訪米と重要日程が続く。対中関係悪化は避けたい事情がある。

このため、関係者の間では、副大統領訪中とAPECの間に、新型の売却は認めず、既存の初期型の性能を上げる改造で妥協を図る――との観測が主流だ。「総統選での馬総統再選を望む中国は強くは反対しないはずだ」(馬政権関係者)との読みもある。【7月13日 朝日】
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なお、米華字サイト・多維新聞は、“米政府高官によると、米軍はこのほど台湾へのF16戦闘機売却を決めた。今回売却されるのは改良前のA/B型で、9月に正式発表される見通し。・・・今回売却されるのは最新のC/D型ではないことから、米国側は中国の反発はそれほど大きくないと楽観視している。”【7月12日 Record China】と報じています。

焦点は貧富の格差の解消
世論の大半が中台関係について「現状維持」を希望する状況で、「対中傾斜」や「対中強硬」の印象を強めすぎるのは得策ではないとの判断で、敢えて両党ともこの問題への深入りは避け、現時点での議論の焦点は貧富の格差の解消になっているとのことです。

****台湾総統選:あと半年、両陣営の舌戦過熱*****
・・・・「台湾はどんどん貧困化している」。蔡陣営が馬政権3年間の執政をこう批判すると、馬陣営は「失業率は下がっており、雇用は増えた」と反論した。

馬総統は08年5月に就任し、対中関係の改善を最優先させてきた。政府による最新の世論調査では、馬政権の発足以来、中台間で締結した15項目の協定に62.2%が「満足」と回答した。好調な対中貿易に支えられ、昨年の域内総生産(GDP)成長率は10.88%に達し、24年ぶりの高い成長を記録した。

業績を上げながらも、馬総統の支持率は30%台と低迷している。最大の成果であるはずの中台間の自由貿易協定に当たる経済協力枠組み協定(ECFA)も、大企業の利益は大きいが、台湾に多い中小零細企業は厳しい競争にさらされている。「むしろ景気は悪くなった」と感じている人は少なくない。

一方、独立志向の強い野党・民進党だが、中国の存在感が増すにつれ、蔡主席も「中国との対話を排除しない」と現実的な対中政策にシフトしている。だが、党内外で中国との距離感に格差があり、調整は難しい。いまだに明確な対中政策を打ち出せていないのが現状だ。

政府の世論調査では、中台関係の「現状維持」を希望する人は88.4%にも上る。支持政党のない中間層も拡大している。与野党いずれも「対中傾斜」や「対中強硬」の印象を強めすぎると、選挙の勝敗を決する中間層の支持が得られなくなる可能性が高い。このため、対中政策よりも民衆の支持を得やすい貧富の格差解消に重点を置く結果となっているようだ。【7月13日 毎日】
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李元総統起訴の影響
なお、“蔡主席を支持する李登輝元総統(88)が先月30日に横領などの罪で起訴されたことに、蔡主席への影響を懸念する民進党は「馬総統の政治介入」と批判を強めており、元総統の「汚職」が選挙戦にどう影響するかも焦点の一つになりそうだ”【7月2日 毎日】という問題もあります。

****台湾総統選:与野党、活動を本格化…李元総統起訴で影響も****
・・・・蔡主席を支持する李元総統は、88~00年に総統を務めた。退任後は国民党を離れて「台湾団結連盟」を結成。台湾独立の主張を強め、近年は馬総統批判を展開していた。
民進党への入党が04年と党歴が浅い蔡主席にとって、李元総統は独立志向の強い古参の民進党員を取り込む効果が期待できる存在だ。蔡主席は1日、台湾団結連盟が開いたパーティーに出席し、李元総統との連携をアピールした。
だが民進党はまだ副総統候補を擁立できず、国民党に後れをとっている。民進党政権時代の陳水扁前総統は、昨年末に収賄罪などが確定して服役中。李元総統の起訴で再び「汚職」のマイナスイメージに悩まされる可能性もある。【7月2日 毎日】
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将来の統一に向けた布石
中国は・・・と言えば、こんな話題も。
****台湾:暴落のバナナ、中国が購入 馬総統知らぬ間に****
台湾バナナの卸売価格が先月末から暴落し、農民が窮状を訴える中、中国政府が産地に乗り込んで大量のバナナを購入し、台湾の「農民救済」に乗り出した。中国への警戒感が強い野党・民進党の地盤である台湾南部の農民に対し、バナナ購入という「善意」を示すことで、将来の統一に向けた布石を打つ狙いがありそうだ。

中国側は、台湾の馬英九総統が状況を把握する前に大量購入していた。馬総統は「なぜ(農民は)先に言ってくれなかったのか」と嘆いたが、民進党は「(総統の)反応が鈍い」と批判している。(中略)
地元の農業協同組合関係者によると、購入価格は1キロ15台湾ドルで、農民らは「中国大陸の人は誠意がある」と好評。同弁公室はさらに購入を続ける考えを示しているという。
一方、中国のバナナの産地・海南省でも卸売価格が暴落し、農民は困窮している。【7月11日 毎日】
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欧州信用不安  ギリシャ危機は回避したものの、表面化してきた“イタリア問題”

2011-07-13 21:29:53 | 欧州情勢

(6月28日アテネ デモ隊の投石・火炎瓶に警察は催涙ガスで応戦 ギリシャ旅行にはガスマスクが必需品のようです。 “flickr”より By makisraf http://www.flickr.com/photos/efthymios-gourgouris/5888861951/in/photostream/

終わりにはほど遠いギリシャ危機
深刻な財政危機に陥っているギリシャは、先月29日、政府がまとめた追加緊縮策の基本方針を国会が賛成多数で可決(賛成155、反対138、棄権・無効7)。翌30日は関連法案も可決してEUとIMFからの第5弾融資の条件をクリアし、かろうじて債務不履行(デフォルト)の危機を脱したことは記憶に新しいところです。融資が受けられなければ、7月中旬に迎える国債償還ができなくなるところでした。

ギリシャは昨年5月、緊縮策と引き換えにEUとIMFから総額1100億ユーロの協調融資を受けることで合意しました。しかし財政赤字削減が計画通り進まず、EUなどがこのうちの第5弾融資の条件として、追加緊縮策を要求。これを受けてギリシャ政府は、さらなる増税や歳出削減により2015年までに約280億ユーロの赤字削減を目指す緊縮策を決定したものです。

“国民は追加緊縮策が景気後退や失業率の増加に拍車を掛けるとして反発し、野党も反対を表明。28、29の両日には同国の官民2大労組連合組織が抗議の48時間ゼネストを実施した。アテネの国会議事堂前では29日、警備に当たる警官隊と一部の若者たちとの衝突が起こり、騒然とした雰囲気となった。”【6月29日 毎日】という状況の中での採決でしたが、これによって当面の返済のめどは付いたものの、全借金を返せる見込みはほとんどなく、危機を先延ばししただけに過ぎないとの見方があります。

更に、EUとIMFが支援条件として要求した緊縮策は、ギリシャの財政状況をかえって悪化させるという見方も根強くあります。現にこの1年の歳出削減はギリシャの不況を悪化させ、ギリシャ政府が借金返済のための金策に奔走しているときに、税収は逆に減ってしまったと言われています。【7月13日号 Newsweek日本版より】
この先“秩序だったデフォルト”とか、ギリシャのユーロ圏離脱といった根本的対応が求められる可能性も大きいのが現状です。

【「欧州に関する評価となると、市場には偏向があるようだ」】
ギリシャの後に控えているのはポルトガル、スペインですが、アメリカ格付け会社がポルトガル国債を「投資不適格」水準に格下げしたことが、欧州各国の怒りを買っています。

****ムーディーズのポルトガル国債格下げに欧州が怒り****
米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスがポルトガル国債を「投資不適格」水準に格下げしたことをうけ、欧州各国は7日、米国の格付け機関に対する怒りをあらわにしている。
欧州が特に憤慨しているのは、格下げのタイミングだ。ポルトガルは欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)から780億ユーロ(約9兆400億円)の緊急支援を受ける条件として4月に合意した緊縮財政政策に、まさに着手しようとしていたところだった。

EU欧州委員会のジョゼ・マヌエル・バローゾ委員長は、「欧州に関する評価となると、市場には偏向があるようだ」と述べ、米国の格付け機関は欧州に不利な格付けを行っていると示唆。さらに、米国の格付け機関に対抗しうる欧州の格付け機関の台頭が必要だと強調した。
ポルトガル国債の格下げをうけて、ユーロは下落し、ポルトガルの債務は膨らんだ。これにより、スペインやイタリアも影響を受けた。【7月7日 AFP】
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欧州財政不安の焦点は11日から、ユーロ圏3番目の経済大国イタリアへ
信用不安は更に“大物”イタリアにも及んでいます。このところイタリア国債は市場で売り込まれており、週明け11日の取引では5.7%まで上昇、12日には一時的には6%を超えるなど、11年ぶりの水準にまで上昇しています。EU首脳もこのイタリア問題への早急な対応を求められています。

****EU財務相会合:金融安定化基金充実で一致****
欧州連合(EU)のユーロ圏諸国(17カ国)は11日、ブリュッセルで定例財務相会合を開き、財政危機が再燃しているギリシャをはじめ欧州信用不安への対応を協議した。会合後に会見したユンケル議長(ルクセンブルク首相)は欧州金融安定化基金(EFSF)の機能充実を図ることで一致したとする声明を発表した。財政危機が経済規模が大きいイタリアなどに波及するとの懸念が広がることに対処する狙いもある。

ユンケル議長は会見で、昨年5月に国際通貨基金(IMF)とともに設立した、総額7500億ユーロ(約84兆円)のEFSFの機能強化を図ると表明した。具体的には、ギリシャやポルトガルなど、EFSFから支援を受けている国の返済期間延長や利子の低減など、より柔軟な対応が取れるよう作業部会を設置して早急に詰める。

一方、これに先立ちファンロンパウEU大統領、バローゾ欧州委員長、ユンケル議長らEU首脳はイタリア問題を巡り緊急協議した。イタリアの国債は先週から市場で売られ始めた。指標となる10年物国債の利回りが5%台を突破、週明け11日の取引では5.7%まで上昇するなど11年ぶりの水準にまで上昇している。

背景には、ギリシャへの追加支援策を巡り、国債を保有する民間金融機関にも応分の負担を求める調整が難航していることがある。危機収束が見通せない中、米格付け会社大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスが5日、ポルトガル国債の格付けを投機級格付けの「Ba2」に4段階引き下げるなど不安拡大が続いている。【7月12日 毎日】
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イタリアの数字の悪さは今に始まった話ではありませんが、「景気回復が遅いことや、国内政治の不安定さなどが注目されるようになった」ことで、市場のターゲットにされているようです。

****揺らぐ欧州、難局再び 各国で財政不安・ユーロ急落****
■もたつくギリシャ支援 イタリア・スペインにも飛び火
12日、欧州連合(EU)の財務相らによる会議が続くブリュッセル。イタリアのトレモンティ経済・財務相は、会議を中座して帰国の途についた。AFP通信によると「財政再建計画を仕上げるためだ」と記者団に語った。

欧州財政不安の焦点は11日から、ユーロ圏3番目の経済大国イタリアに移り、国内の国債市場も株式市場も下落した。12日も、イタリアの10年物国債は一時、年6%を上回った。スペインの国債も売られている。

イタリアの2010年の国内総生産(GDP)比の政府債務残高は127%と、ユーロ圏ではギリシャについで悪い。それでもこれまで市場の標的にならなかったのは、自動車やファッションなどの産業基盤に加え、毎年の財政赤字を抑えてきたからだ。国債の約半分が国内で消化されていることも防波堤になっていたといわれる。

しかし、ここにきて「景気回復が遅いことや、国内政治の不安定さなどが注目されるようになった」(吉田健一郎みずほ総合研究所ロンドン事務所長)。少女買春疑惑や反原発の逆風を受けるベルルスコーニ首相が国民の人気取りのために財政抑制をゆるめるのではとの見方が出ている。

欧州不安は、ギリシャなどの財政危機に陥った国々が借金を減らすために財政支出を削り、景気悪化を招く恐れがあることだけが背景にあるのではない。ギリシャなどがお金を借りるために発行した国債を欧米の銀行が大量に持っているため、お金を返してもらえなくなると銀行が大損を抱え、金融危機につながるという懸念もはらんでいる。

11日午後のユーロ圏17カ国による財務相会合でも、火元であるギリシャへの追加支援の具体策は決まらなかった。
各財務相は、大枠では追加支援で合意している。しかし、ギリシャ国債を保有する銀行などの投資家に一定の損失をかぶってもらう案の詳細がまとまらない。投資家の負担は公的支援の前提としてドイツなどが強く求めていたものだ。官民の負担割合など、追加支援の具体策がまとまるのは9月ごろになるとの見方が広がっている。

11日夜、財務相会合の後に発表した声明と記者会見では、結論の代わりに検討メニューを並べた。EU各国によるギリシャへの融資の返済期限を延ばしたり、金利を引き下げたり、運用条件を柔軟にする手法。融資総枠4400億ユーロに上る欧州の金融安定化のための基金(EFSF)で、直接ギリシャなどの国債を買い上げる可能性も示唆した。
ただ、メニューをどこまで実施するか、いくら支援するつもりなのかは依然、不透明で、市場をなだめるには至っていない。ユーロ圏首脳は近く、緊急サミットを開く方向を模索し始めた。【7月13日 朝日】
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この重大局面にあたって、ベルルスコーニ首相が表に出てこないことへの批判があります。

****今度はイタリアを襲った国家破綻の危機****
国債利回りが急上昇し、緊縮策を主張して対立する財務相が脚光を浴びるなか、姿を消したベルルスコーニの真意は(アレッサンドロ・スペチアーレ)

イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ首相はいったい今、どこにいるのだろう。7月11日、イタリア国債の保証コストが過去最高に上昇。ドイツ連邦債とイタリア国債の利回り格差が急拡大し、イタリアがヨーロッパにおける次の財政危機国家になる恐れが広がる中、この国の首相はいつになく静かに沈黙を決め込み、イタリア国民を戸惑わせている。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相も戸惑ったに違いない。事実、メルケルは11日の午後にベルルスコーニに電話し、金融市場からの信頼が厚いイタリアのジュリオ・トレモンティ経済・財務相が推進している緊縮財政法案を承認するよう説得しようとしたと、独政府は語っている。

指図とも受け取れるメルケルのこの行動は、イタリアの世論を刺激した。政治との結びつきが強いこの国のメディアはこれまで、ベルルスコーニや政治家たちのスキャンダルを取り上げることばかりに熱を上げ、イタリアの財務状況についてほとんど報じてこなかったのに、今度ばかりは大騒ぎだ。
だがメルケルからの呼びかけにもかかわらず、ベルルスコーニは姿を現そうとしない。「イタリアはギリシャ型の危機を回避する」と宣言して世界の投資家たちを安心させようとするつもりはないらしい。

ベルルスコーニは、イタリアサッカーのセリエAで自らの保有するチーム、ACミランの初トレーニングを視察するはずだったが、予定をキャンセル。政府報道官によれば、「経済状況」に対処するために12日にはローマに戻ったという。

政争で見えない統一見解
イタリアの経済指標に注目するにつけ、投資家たちは不安を募らせている。債務残高はGDPの120%近くにまで膨らみ、EU内ではギリシャに次いで多い。イタリアの債務は合計1兆8000億ユーロにも上り、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、アイルランドの債務を足したよりも多い。
その上、イタリアの経済成長率はここ数カ月ほぼ横ばいで、他のヨーロッパの国々に遅れをとっている。失業率は上昇し、輸出主導の国にとっては致命的なことに、金融危機以前のピーク時に比べて輸出は13%減で推移している。

これらはすべて目新しいことではない。だがユーロ圏を債務危機が襲い、ギリシャやポルトガル、アイルランドがデフォルト(債務不履行)に陥る危険性が高まってEUやIMF(国際通貨基金)から救済を受けるという事態に迫られる中、イタリアはこれまでどうにかして危機を回避してきた。

ローマのルイス大学のマッシモ・スピスニ教授によれば、イタリアにとって救いだったのは金融市場での「評判が良かった」こと。「イタリアの問題点はよく知られているものの、これまでのところ、約束したことは守ってこられた」とスピスニは言う。
だがそんな評判が様変わりしてしまう可能性もある。「ひとたび評判が傷つけば、名誉を回復するにはとても長い時間がかかる」とスピスニは指摘する。

だからこそ今、政府が沈黙を続け、政治的対立が続いていることが、スピスニの不安をかき立てている。「イタリアは明確な統一見解を発信していない。今回私たちにとって必要なのは、アメリカがまさに今そうしているように、市場の一歩先を行き、市場に明確で力強いメッセージを送ることだ」

イタリアにとっては14日が1つの正念場になるだろうと、スピスニは言う。この日、5年ものと10年ものの長期国債の入札が行われる。「投資家は1年もののイタリア国債には手を出すだろうが、長期国債となるとどうだろうか」とスピスニは言う。(後略)【7月13日 Newsweek】
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経済大国イタリアが救済へ追い込まれるような事態になると、その規模もギリシャの比ではありませんので、救済が可能かどうかも問題になります。もちろん救済できない、デフォルトなどという話になると世界経済へのその影響は甚大です。
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シリア  米仏大使館襲撃で、米国務長官は“アサド大統領の退陣は不可避”との認識

2011-07-12 21:16:13 | 国際情勢

(4月8日 シリア中部のホムス ホムスでは7月10日から戦車を投入しての鎮圧が行われています。 “flickr”より By syriana2011 http://www.flickr.com/photos/syriana2011/5650788154/

「ハマの虐殺」の街で
アサド大統領による親子2代の強権支配が続く中東シリアでは、民主化を求める反政府活動と、これを徹底弾圧する治安当局の動きが依然続いています。

特にここ数日懸念が深まっていたのは、中部の都市ハマの情勢です。
当局側は4日未明にハマへの入り口を戦車で封鎖。若手活動家の拘束を始めたほか、デモ参加者に発砲するなどして市民十数名の死者が出ています。住民側は道路にバリケードを設置し国軍の移動を防ごうとしているとも報じられています。今週に入ってからの状況はよくわかりません。

ハマでは、アサド大統領の父、故ハフェズ・アサド前大統領の時代の82年にもムスリム同胞団主導の反乱が発生。政権側は空爆を含む徹底した鎮圧を実施、推定1万~3万人が死亡したとされています。
この事件は「ハマの虐殺」として知られており、戦車が突入した市街では、犠牲者のほとんどは戦闘に巻き込まれた女性や子供だったと言われています。またムスリム同胞団メンバーとその支持者と見られた市民多数が連行され拷問・処刑されたとも。
背景には、政権を支えるイスラム教シーア派の一派であるアラウィー派に対し、ハマはスンニ派住民が多いという宗派的な事情もあります。
そうしたハマの過去の経緯、土地柄からも、今後の状況が懸念されています。

****治安部隊がシリア中部ハマを包囲、市民11人を殺害 人権活動家****
反体制派の拠点であるシリア中部のハマで5日、治安部隊が都市を包囲、市民が進攻阻止に動くなか、少なくとも11人が殺害された。
ロンドンを拠点とする「シリア人権監視団」の活動家が医療関係者の話として伝えたもので、負傷者も35人を超えたという。また、4日にハマ郊外で治安部隊に射殺された市民3人のうち、1人は子供だという。

シリア人権監視団の代表、ラミ・アブドル・ラーマン氏はAFP通信に対し、「北側を除き、ハマに通じる道の入り口に複数の戦車が配置された。一方、市民らは結集し、ハマを守るため命をも惜しまない覚悟でいる」と語った。市民らは進攻阻止のため、路上に障害物を積み上げているという。【7月6日 AFP】
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【「国民対話」会議に、反体制派は「見せかけ」と反発
こうした事態に、国際社会の批判も強まっています。
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・・・米国務省は5日、「平和的デモ隊への攻撃を継続している」と批判、ハマなどから治安部隊を撤収するよう要求した。国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は6日に公表した報告書で、治安当局が5月に大量拘束や拷問、拘束者の殺害など「人道に対する罪」を犯した疑いがあると指摘。国連安全保障理事会に対し、シリア問題を国際刑事裁判所に付託するよう求めた。

アサド政権は、今年3月中旬に始まった一連の蜂起を「外国の陰謀」「武装勢力の扇動」と主張して弾圧を継続。一方で、民主化改革と国民との対話を約束しているが、反体制派からは「国際的圧力をかわすことだけが目的」との批判が出ている。【7月6日 毎日】
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上記記事にもある政権側からの「国民対話」については、反体制派は「対話は見せかけ」と反発、多くが参加を拒否しています。

****シリア:「国民対話」開始 反体制派の多くは拒否****
シリア各地で続く民衆蜂起の沈静化を図るアサド政権は10日から2日間の日程で国内各派の融和を目指した「国民対話」会議を始めた。しかし、中部ホムスなどで11日も住民の武力弾圧や大量拘束を続けており、反体制派は「対話は見せかけ」と反発、多くが参加を拒否している。

複数の反体制派団体によると、過去2週間で拘束者は1万5000人、死者は住民側と治安部隊を合わせ1900人を超えた。
シリア国営テレビによると、シャラ副大統領は会議の冒頭、複数政党制の民主的体制への移行に期待を表明した。シリアは与党バース党のみが指導政党として憲法で規定され、野党勢力の活動は厳しく制限されている。

在英反体制シリア人のラミー・アブドラフマン氏は取材に「対話には反対しないが、弾圧中止や政治犯釈放が必要」と語った。
反体制派団体「地域調整委員会」によると、中部ホムスでは10日から戦車も投入して反体制派の抑え込みを図り、民家を急襲して住民を拘束し、少なくとも住民2人が射殺された。【7月11日 毎日】
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アサド支持派 米仏大使のハマ訪問に内政干渉と反発
一方、首都ダマスカスでは、アサド大統領を支持する群衆が、アメリカ、フランスの両大使館を襲撃する事件が発生。今月7~8日にかけ米仏両大使が中部ハマを訪問し、デモ隊支持を示した行動にアサド大統領の支持者らが反発した可能性があるとされています。

****シリア政権支持する群衆、米仏大使館を襲撃****
シリアの首都ダマスカスで11日、バッシャール・アサド大統領を支持する群衆が、米国、フランスの両大使館を襲撃する事件が起きた。
反体制派の抗議活動が続くハマが政府軍の戦車に包囲され、弾圧が懸念されるなか、米仏両大使が前週、ハマを訪問したが、これに対する抗議行動とみられる。

仏外務省によると、襲撃を受けて守衛が3回、威嚇発砲した。群衆との衝突で大使館員3人が負傷したという。一方、米政府当局は「けが人は出なかった」と述べている。
仏政府報道官によれば、群衆は破壊槌を使って大使館の敷地内に侵入し、建物の窓や車を破壊した。仏大使館に駆け付けたAFP通信のカメラマンによると、「大使館専用車が破壊され、アサド大統領のポスターが立てられた」という。【7月12日 AFP】
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アメリカ国務省によると、“群衆約300人が米大使館と大使公邸に押し寄せ、一部が塀を乗り越えて敷地内に侵入し、窓ガラスを割った。シリア当局の警備要員は制止せず、米海兵隊員が追い払った。けが人はなかった”【7月12日 読売】とのことです。

アサド大統領は正統性を失い、(改革の)約束を果たすのに失敗した」】
民衆の反政府行動を徹底弾圧するシリア・アサド政権に対し、アメリカなど各国は一応の批判はするものの、踏み込んだ反応は控えてきました。これは、シリア・アサド政権が中東のイスラム過激派、ハマスやヒズボラとも関係が深く、その後ろ盾であると同時にブレーキ役も果たしており、アサド政権の崩壊は中東のパワーバランスに空白を生み、更なる混乱を招きかねない・・・との懸念がアメリカなどにはあるからと見られています。
アメリカの本音を言えば、“アサド政権には存続してほしい”というところです。

しかし、今回の大使館襲撃は“一線を越えた”ものとも取られ、アメリカ側の反応も厳しさ増しています。

****米国務長官:大使館襲撃で「シリア大統領退陣は不可避*****
クリントン米国務長官は11日、シリアの首都ダマスカスの米国大使館と米大使公邸がアサド大統領支持派のデモ隊に襲撃されたことを受け、「アサド大統領は正統性を失い、(改革の)約束を果たすのに失敗した」と述べ、アサド大統領の退陣は不可避との認識を示した。欧州連合(EU)のアシュトン外務・安全保障政策上級代表と国務省で会談後の共同記者会見で語った。

米政府は、オバマ米大統領が5月19日の中東政策に関する演説でアサド大統領に「退陣」か「民主化」かの二者択一を迫った後、民主化要求運動に対するアサド政権の姿勢を注視してきた。クリントン氏の発言は、弾圧の手を緩めないアサド大統領の退陣要求に向け一歩踏み込んだ形で、米政府は今後、政権崩壊後を見据えてシリア国内の反政府勢力との連携を一層強化していくとみられる。

クリントン氏は会見で「アサド大統領は必要不可欠な人物ではない」と明言。「彼らは(襲撃によって)世界の目を弾圧からそらそうとしている」と述べ、アサド政権が米大使館襲撃を主導したとの見方を示した。そのうえで「襲撃がどのように発生し、背後に誰がいるのかを調べている」と、背後関係を調査する考えを強調した。
駐シリアのフォード米大使は襲撃発生前の7~8日、反政府デモが続く中部ハマをシリア政府の許可を得ずに訪問。シリア側が「内政干渉だ」と抗議し、両国間の緊張が高まっていた。

11日に記者会見した国務省のヌーランド報道官によると、フォード大使は襲撃発生前の10日にシリアのムアレム外相と会談し、シリア当局による米大使館の警備態勢が不十分だとの懸念を伝えていたという。
ヌーランド報道官は会見で、大使が事前に警備上の懸念を伝えていたにもかかわらず襲撃が発生したことに不快感を表明。シリアの国営テレビ局が襲撃を扇動した可能性を指摘したうえで、「米国はシリア政府に損害の責任を負わせる」と被害への補償を求める考えを明らかにした。
米国務省は11日、在米シリア外交団を呼んで抗議し、外交官や在外公館の保護を定めたウィーン条約に基づき大使館の安全を保障するよう求めた。【7月12日 毎日】
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もっとも、今後アメリカなどがシリアへの対応を厳しくするとしても、リビア・カダフィ政権すら持て余している欧米の事情からすると、シリアへの介入などは考えらません。
なお、都市部若者には、一連の反政府行動に関し、世俗主義的なアサド政権に対する地方の保守的スンニ派住民の反発として、アサド政権を支持する声もあるようです。
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