孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

韓国  朴槿恵氏、新大統領へ 困難な財閥規制・経済民主化

2012-12-20 21:29:35 | 東アジア

【12月19日 毎日】http://mainichi.jp/select/news/20121220k0000m030010000c.html

父母を暗殺された朴槿恵氏、初の女性大統領へ
19日に行われた韓国大統領選挙では、軍事独裁政権でもあり、同時に韓国経済発展の基礎を作った朴正熙元大統領の長女、与党セヌリ党・朴槿恵(パク・クネ)氏(60)が大接戦を制しました。

****韓国大統領選:朴槿恵氏が当選 女性初、親子2代*****
韓国大統領選挙が19日投開票され、大接戦の末、与党セヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)氏(60)が最大野党・民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)氏(59)を破り、当選を決めた。東アジアで最初の女性大統領で、60〜70年代にかけて独裁した父、朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領に続き初の親子2代の大統領が誕生する。前回選挙で10年ぶりに復活した保守政権は維持された。朴氏は「準備された女性大統領」をキャッチフレーズに、急激な変革より安定感を望む有権者の支持を集めた。来年2月25日に就任する。(後略)【12月19日 毎日】
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韓国大統領というと、暗殺されたり、退任後に収賄などで逮捕されたりと、暗い話がつきまといます。
権力が集中している政治システムのためでしょうか。民主主義の定着において何らかの問題があるのでしょうか。

****韓国:暗殺、自殺… 歴代大統領、哀れな末路****
韓国の歴代大統領は「建国の父」といわれる李承晩(イ・スンマン)氏の時代から亡命や暗殺、本人や家族の逮捕など哀れな末路をたどってきた。

1948年の建国で就任した初代大統領の李承晩氏は、60年の大統領選での不正に学生らが反発。大規模デモが発生して辞任した。結局、李承晩氏は妻とともにハワイ亡命に追い込まれた。

朴槿恵(パク・クネ)氏(60)の父、朴正熙(パク・チョンヒ)氏は陸軍少将だった61年、クーデターで実権を掌握。大統領となった後、開発独裁で経済成長を実現させた。しかし、74年の在日朝鮮人による暗殺未遂事件で陸英修(ユク・ヨンス)夫人が流れ弾に当たり死亡。本人も79年に側近の中央情報部長に暗殺された。

同年、保安司令官だった全斗煥(チョン・ドゥファン)氏は「粛軍クーデター」で実権を握り、翌年には大統領に就任。しかし、退任から7年後の95年、同クーデターの反乱首謀容疑で逮捕された。80年の光州事件での責任も問われ、無期懲役が確定した。

88年に大統領に就任した盧泰愚(ノ・テウ)氏も秘密政治資金の存在が明らかになり、退任後の95年に収賄容疑で逮捕された。光州事件の責任も問われ、懲役17年が確定した。しかし、両大統領は97年に特赦を受けた。

次の金泳三(キム・ヨンサム)氏は大統領在職中の97年、次男が知人の会社社長らから不正に金を受け取ったなどとして逮捕された。また、金大中(キム・デジュン)氏も息子2人が02年、金銭授受容疑で相次いで逮捕された。

一方、文在寅(ムン・ジェイン)氏(59)が最側近として仕えた盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏は大統領職を退いた後の09年、収賄容疑で検察の事情聴取を受け、自殺した。
さらに、現職の李明博(イ・ミョンバク)大統領も今年7月、国会副議長や韓日議連会長を歴任した実力者の兄が、不正資金を受け取った疑いで逮捕。また、長男も脱税の疑いで国税庁に通報されている。

強大な権力が集中する韓国大統領には、家族も含めさまざまな誘惑の魔の手が伸びるといわれる。【12月19日 毎日】
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急増する自殺者
今回の大統領選挙が動き始めた早い段階から、野党だけでなく与党の朴槿恵候補も現職李明博大統領とは距離を置き、李明博大統領の求心力は低下、完全にレームダックと化しています。
現職李明博大統領が国民の支持を失っているのは、ひとつには政権末期には次期候補が現職との違いをアピールする形になりやすいという政治スケジュールの面がありますが、それ以外にも韓国社会の抱える問題があるようです。

****韓国大統領選:李明博氏、庶民への「共感」不足で不人気****
企業経営者出身の李明博(イ・ミョンバク)韓国大統領は07年の大統領選で、経済再生への期待を背に圧勝した。李大統領は、輸出志向の経済政策で成長を実現させ、08年のリーマン・ショックもいち早く乗り切った。本人が誇る実績だが、国民には「財閥をうるおわせて格差を拡大させた」という不満の方が強い。
背景には、国民とのコミュニケーション不足というもう一つの問題があったようだ。大統領選で台風の目となった安哲秀(アン・チョルス)氏の人気は、そうした不満の裏返しでもあった。

18日、ソウル駅前で開かれた最大野党・民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)氏の選挙集会に来ていた金東根(キム・ドングン)さん(72)は「経済を立て直してくれるというから、前回は李大統領に投票した。でも、庶民の生活は苦しくなるばかりだ」と話す。今回は、誠実さを感じられる、として文氏支持という。

世論調査で支持率25%程度の李大統領。街頭で話を聞いても批判の声が圧倒的に多い。大統領選でも、与党セヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)氏が「政権交代」を叫ぶ野党に対抗しようと「私が勝ったら『時代交代』」と主張したほどだ。

李大統領が嫌われる理由は、経済運営が期待外れだった▽側近や親族のスキャンダルが多い▽国民や与野党とのコミュニケーション不足−−に大別される。これを意識する朴、文両氏は選挙戦で、財閥規制を中心とする「経済民主化」▽汚職対策の強化▽反対派とも対話する政府−−を強調した。

韓国の社会意識に詳しい金賛鎬(キム・チャンホ)・聖公会(ソンゴンフェ)大教授は、経済については「グローバル化が進む時代の中、韓国だけで対処できない問題も多いのに、大統領への期待が高すぎる」と一定の理解を示しつつ、コミュニケーション面では問題があったと指摘。

今の韓国社会では「共感」がキーワードになっているのに、李大統領にはそれが欠けていたと批判する。「困っている人の声に耳を傾け、大変さを理解し、寄り添ってくれるというイメージが求められているのに、李大統領はそれができなかった」というのだ。

「共感」が求められるようになった背景には、97年の通貨危機で韓国社会が急激に変わらざるをえなかったことがある。
変化を象徴するのが、最大手財閥サムスンだ。
系列会社の元社長は「それまでは解雇などなかったし、同期との年収差も多くて10%という会社だった。それが、能力がなければ自然に姿を消すようになった。年収も、入社5年目で2倍の差がつく」と話す。財閥情報専門サイト・財閥ドットコムによると、サムスン系列会社では、社長の平均在任期間は2.6年。成績が悪ければ、どんどん代えられていくということだ。

元社長は「内部での激しい競争こそ韓国企業が急成長した理由だ」と強調する一方で、いきなり競争社会に放り込まれた人々の不安心理は強くなった。80年代に10万人当たり8人程度だった自殺者数は通貨危機後に急増し、10年は33.5人。80年代には日本の半分以下だったのに、今では日本の1.5倍以上になっている。

大統領選期間中に遊説先の車中で取材に応じたセヌリ党有力者は、格差問題に対応するための福祉拡充が必要だと話しながら、「こんなに自殺率が高いのは問題だ」とため息をついた。こうした問題意識が保守政党であるセヌリ党の中にも、中小企業や庶民を守るために経済民主化が必要だと考える勢力を生んでいるようだ。

そして、金教授は、安氏がカリスマ的人気を得たのも「自分たちの悩みに耳を傾け、共感してくれる」というイメージ作りに成功したからだと見ている。安氏は昨年、若者を対象にした対話集会を何回も開き、就職難などの背景にある社会の構造的問題への批判を繰り返したことで政治的な注目を集め始めた。李大統領が「共感」というメッセージを人々に伝えられず不人気に拍車をかけたのと対照的といえそうだ。【12月19日 毎日】
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自殺者の数は、文化や社会構造の違いがありますので単純な国際比較はできませんが、韓国のここ二十数年の右肩上がりの増加は注目すべきものがあります。
この期間は、政治的民主化や高度経済成長が進展した時期であるだけに目を引きます。
政治の目的が経済成長や国威発揚ではなく、国民の幸せにあるとすれば、自殺者の急増は明らかにこれまでの政治に対する黄信号であると言えます。

経済民主化を公約するも、「財閥たたき」の空気とは一線を画す
韓国が日本以上に学歴が重視される超競争社会であることはよく耳にするところです。
競争の結果の格差も、日本以上ものがあるようです。
そうした競争社会の頂点に君臨するのが、韓国経済を牽引する財閥です。
今回大統領選挙では、現在の財閥支配とも言えるような経済構造の変革を訴える「経済民主化」が最も大きな争点となりました。

****韓国をむしばむ財閥ジレンマ 大統領選最大の争点は財閥規制****
繁栄を導いてきた「成長エンジン」はなぜここまで国民の怒りを買ったのか?
韓国経済を牽引してきた財閥が国民から嫌われ規劃策が大統領選の争点に その最大の原因は財閥が「独り勝ち」しているからだ
 
1950年代、朝鮮戦争の戦禍で荒廃した韓国は世界で最も貧しい国の1つだった。それから半世紀余りがたち、韓国経済はアジア屈指の規模へと成長を遂げた。その最大の立役者の1つが、政府と二人三脚になって経済を牽引し続けてきた財閥であることに疑いはない。

ところが格差拡大が深刻な現在の韓国では、国民の怒りの矛先がその財閥に向いている。
そもそも大半の国民は、サムスンや現代といった世界で稼ぐ財閥系の巨大企業グループとは無縁の生活を送っている。その一方で財閥は経営多角化を進め、個人経営商店や中小企業を圧迫。広がり続ける格差の元凶とされている。

単に財閥をなくせば韓国経済の抱える問題が解決するわけではない。ここに、韓国経済のジレンマがある。いまだに内需が弱く、輸出依存度が高いこの国で、輸出で稼ぐ財閥企業の成長を阻害すれば、経済にとっては命取りになりかねない。

12月19日に投開票が行われる韓国大統領選の最大の争点は格差是正を意味する「経済民主化」だが、その核心は財閥問題だ。今回の選挙では「経済民主化=肥大化した財閥の規制」と位置付けられ、リベラル系は財閥の厳格な規制を主張し、一方で保守系は経済成長に欠かせない財閥の擁護を叫んでいる。

「パン屋から手を引け」
成長の牽引役だったはずの財閥が国民から嫌われ、大統領選最大の争点になっているのは、財閥が「独り勝ち」していると国民の目に映っているからだ。
サムスン、現代、LG、SKグループなど韓国の財閥企業トップ10社の昨年の国内売上高が韓国GDPに占める割合は約40%。さらに情報サイトの財閥ドットコムによれば、国外売上高を含めると、財閥企業トップ10社がGDPに占める割合は実に76.5%にもなる。

一方で国民は経済成長を実感できていない。財閥関連の雇用は韓国の労働者全体の10%程度にすぎないと言われ、残り約90%は過去最高益を更新し続けるトップの財閥企業とは直接関係のない暮らしを送っている。
さらに韓国では就職難が深刻化し、昨年の大卒者の就職率は54.5%にとどまっている。大学を卒業しても2人にI人は仕事がないのが現状だ。

財閥の多角経営が個人経営の小売店や中小企業を圧迫していることも、国民から目の敵にされている理由の1つだろう。ホテルやレジャー産業、大型スーパーから食料品店チェーン、ブランドショップまで、財閥の事業拡大はあらゆる分野に及んでいる。
最近では、財閥一族の2世や3世がそろって高級ベーカリー事業に進出。中小企業の経営を圧迫しているという世論の反発が高まり、李明博大統領が今年1月に財閥系企業に対して「パン屋から手を引け」という異例の勧告を行ったほどだ。

韓国財閥のオーナー一族は、増え続ける利益を広く国民と分かち合うっもりなどさらさらない。彼らは複雑な株式の持ち合いでグループ企業の支配を維持する「循環出資」を利用して、財閥の経営権を今も独占し続ける。さらにその経営権は、世襲によって次世代に引き継がれる。まさに社会の公器であるべき企業の私物化だ。

完全解体ができない理由
しかも韓国では「ほとんどの財閥のオーナー一族が横領や背任で捕まったことがある」と言われるほど、財閥トップの不祥事が頻発している。こうした事件の多くは、グループ企業の経営権を一族内で引き継ぐ過程で起きている。

今回の大統領選の立候補予定者は、リベラル系と保守系で財閥に対する政策が分かれている。なかでも厳しい政策を打ち出しているのが最大野党・民主統合党の文在寅だ。文は財閥など大企業の国内事業拡大を規制する制度の復活や循環出資の禁止など、オーナー一族の支配の下で多角経営を進める財閥の構造に根本的なメスを入れようとしている。

同じくリベラル系の無所属候補だった安哲秀は、財閥規制を唱えていた点では文に近いが、より具体的な市場の公正化を重視していた(先週、安は出馬を断念し、野党系候補は文に一本化された)。韓国では昔から中小企業の技術力の乏しさが指摘されているが、安は財閥が市場を独占し、中小企業からの納入単価を低く抑えていることがその原因だと主張。段階的な循環出資の禁止による規制を目指していた。

一方、保守系与党セヌリ党の朴様恵は経済民主化こそ公約に掲げているが、「財閥解体の方向に流れるのは韓国のためにならない」と、社会に充満する「財閥たたき」の空気とは一線を画している。
その主張は財閥解体ではなく、市場独占を取り締まる公正取引関連法の厳格な運用や、財閥オーナーーの違法行為への恩赦不適用といったレベルにとどまっている。

経済民主化が大統領選の大きな争点となっていることを考えれば、次期政権下で何らかの財閥規制は行われるだろう。
ただ国内事業の拡大や同族支配の抑制で国民の不満を抑えはしても、財閥をバラバラにすることまではできそうにない。現時点で文も朴も説得力あるポスト財閥時代の成長モデルを描けていないし、これまで財閥に強く依存してきた政府や国民が、今さら成長エンジンである財閥を失う「痛み」に耐えられないからだ。

次期韓国大統領の財閥政策に求められるのは、綱渡りのように微妙なバランス感覚だ。ただどちらの候補者が当選しても、財閥の完全解体に向けて綱から飛び降りる勇気はないだろう。【12月5日号 Newsweek日本版】
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現代グループの中核である現代建設の会長として辣腕をふるった李明博大統領も、財閥に対して果敢な姿勢を見せたことはありますが、腰砕けに終わっています。

****韓国新大統領にも財閥は変えられない****
韓国国民にとって、世界有数の巨大財閥グループ、サムスンを率いる李健煕(イ・コンヒ)会長(当時)は、誰も手を出すことができない絶対的な国王のような存在だった。
それだけに4年前、李明博(イ・ミョンバク)政権の発足直後に、サムスン本社ビルや李の自宅に家宅捜索を入ったときには大きな衝撃が走った。裏金疑惑と脱税の容疑で逮捕された李は08年7月、有罪判決を受けた。

この一件は、韓国の民主主義が成熟しつつある証かと思われた。だが実際には、韓国の権力構造は簡単に変わるようなものではなかった。
1年後、李政権は李健煕に恩赦を与えた。韓国の平昌が立候補していた2018年の冬季オリンピックの招致活動に貢献できる人物だからという理由だったが、権力が正義をゆがめたという批判が巻き起こったのは言うまでもない。

それから3年、12月19日の大統領選に向けて、候補者たちは財閥支配に終止符を打つと息巻いてきた。だが現実には、どの候補者も手軽な攻撃対象として財閥を利用しているにすぎず、誰が新大統領になろうと真の意味での財閥改革は進みそうにない。(後略)【12月19日 Newsweek】
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“社会に充満する「財閥たたき」の空気とは一線を画している”という朴槿恵氏が当選したことで、今後のドラスティックな財閥規制などはないようです。
韓国社会の抱える問題もあまり変わることなく・・・といったところでしょうか。
まあ、そこまで言うには、就任すらしていない現段階では早過ぎるでしょうが。
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シェールガス革命へのロシア・プーチン大統領の苛立ち

2012-12-19 23:40:16 | ロシア

(埋蔵シェールガスの分布 【12月5日 The Wall Street Journal】より)

サウス・ストリーム着工
ロシア経済を支え、国際的影響力の基盤となっているのが資源輸出、特に天然ガスの欧州向け輸出です。
ロシアから欧州へ向けた天然ガスのパイプラインは、ベラルーシからポーランドを経由するものと、ウクライナを経由するものがあります。

ベラルーシとロシアの関係は必ずしも良好な時期だけではありませんが、今は一応おちついています。
問題はウクライナとロシアの関係で、ガス価格交渉の紛糾から、頻繁に、代金未払い、ガス抜き取り、ガス供給停止といった問題が発生しています。2006年、08年、09年に問題化していますが、09年1月のときは、問題がこじれてロシア側が供給を停止したため、下流の中東欧諸国は大きな被害を受けています。

ロシア・ウクライナ関係がうまくいかない大きな要因であったウクライナの親欧米政権が親ロシア政権に代わったことで、改善の可能性は大きくなっていますが、それでもやはりまだ、すっきりはいっていないようです。

****ロシア訪問、急きょ中止=ウクライナ大統領****
ウクライナのヤヌコビッチ大統領は、18日に予定していたロシア訪問を急きょ中止した。プーチン大統領との首脳会談に向けた事前調整が不調で、大きな成果が望めないためとみられる。

ヤヌコビッチ大統領はロシア、ベラルーシ、カザフスタンでつくる関税同盟へのウクライナの参加など経済問題を中心に協議する予定だった。ウクライナ大統領府は「合意にはさらなる協議が必要」と、訪問中止の理由を説明した。

10月に行われたウクライナ最高会議(議会)選挙の結果、親ロシア派のヤヌコビッチ大統領の与党・地域党は第1党を維持したものの、欧州連合(EU)との関係を重視する親欧米派の新党などが台頭。対ロ関係で国論が二分している。【12月8日 時事】
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ロシアとしては厄介なウクライナを経由せずにガスを送りたいということで、バルト海の海底を経由してロシアとドイツを結ぶノルド・ストリーム、黒海周辺からオーストリア、イタリアなどに至るサウス・ストリームが計画されました。

ノルド・ストリームは2010年4月に着工し、11年11月には稼働を開始しています。
総工費は海底部だけで74億ユーロ(約8000億円)、陸部の建設費用も約60億ユーロ。ロシアのブイボルクとドイツのグライフスワルトを結ぶ、海底1224キロ メートルもにわたる長大なパイプラインとなっています。

一方、サウス・ストリームの方も、今月7日、着工式が行われています。
****ロシア、サウスストリームパイプライン計画着工****
ロシアのGazpromとパートナーは12月7日、南ロシアの黒海東岸の Anapa市でSouth Stream pipeline の着工式を行った。
South Streamはロシアと中央アジアの天然ガスを欧州に送るもので、黒海の湖底を通って対岸のブルガリアに渡り (900km)、その後、2手に分かれる。
北西ルートはブルガリア、セルビア、ハンガリーを通ってスロベニア、オーストリーに通じる。
南西ルートはギリシャからイタリアに通じる。(中略)

欧州への天然ガス供給は2016年第1四半期にスタートする予定。
プーチン大統領は第1段階の供給先としてブルガリア、セルビア、スロベニア、ハンガリー、イタリア、クロアチアの6カ国をあげた。
既に完成しているバルト海を通るNord Streamに並び、ウクライナを迂回して欧州にガスを輸出するルートを確保する。(後略)【12月13日 化学業界の話題】http://blog.knak.jp/2012/12/post-1178.html************************

サウス・ストリームは、ロシアへのエネルギー依存を懸念する欧米が主導して進めているナブッコと競合しています。
ナブッコは、カスピ海地域の天然ガスをトルコ、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー経由でオーストリアまで輸送する延長3300kmのガスパイプラインプロジェクト で、2013年のパイプライン建設着工、2017年の完成が計画されています。
しかし、問題が多く、特に肝心のガス供給元が確保できておらず、今後については不透明と言われています。

一変する世界のエネルギー需給
数年前であれば、問題国ウクライナを迂回したルートを南北に確保する形で、ロシアの天然ガス支配は安泰・・・ということになったでしょうが、現在は別の問題が起きて、必ずしも安泰とは言い難い状況になっています。

別の問題というのは、世界のエネルギー需給構造を大きく変えると言われている「シェール革命」です。

****米が最大産油国、世界の需給変化(1*****
国際エネルギー機関(IEA)は、水圧破砕(フラッキング)が世界のエネルギー情勢を一変させ、2017年までにアメリカがサウジアラビアを抜いて世界最大の産油国となるとの見通しを明らかにした。さらにアメリカは、ガス生産でも3年以内にロシアを上回り、世界最大の生産国の座に着くとも予測されている。

どちらも数年前までは誰もが想定できなかった展開かもしれない。
パリに事務局を置き、エネルギーの安全保障を担うIEAによれば、アメリカの「エネルギー復興(Energy Renaissance)」は将来の供給マップを大きく変化させているという。
シェールガスを採掘する水圧破砕や深海油田の採掘といった技術は議論を呼んでいるが、アメリカの再躍進を後押ししていることは間違いない。さらにエネルギー業界が、豊富で未開拓の天然ガスや石油の産地に手を伸ばす道筋を示した。今やペンシルバニア州やノースダコタ州は、新エネルギーフロンティアの地として注目を集めている。

アメリカにとっての最初の目標は、約40年間、7人の大統領が苦戦を強いられてきたエネルギー自給の確立だ。現在、総エネルギー需要の約20%を輸入に依存している同国は、業界のバイブル、IEAの年次報告書『世界エネルギー展望(World Energy Outlook)』によると、2035年までに自給態勢をほぼ確立する。2030年までには、スチーム補助重力排油法という新技術の開発に沸くカナダ、アルバータ州のオイルサンドも加わり、北米全体で石油の純輸出地域が形成されるという。

「北米は、石油・ガス生産の抜本的な変革の最前線に位置しており、世界の全地域に影響を与えるだろう」と、マリア・ファン・デル・フーフェン(Maria van der Hoeven)IEA事務局長は語る。

だがあまりにも急な展開に、各国政府の対応は不十分だとの声も上がっている。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のエネルギー持続可能性チャレンジ・プログラム(Energy Sustainability Challenge Program)の最高責任者、フランシス・オサリバン氏は、自国の政策立案者に疑問の目を向ける。「彼らは、未開拓の産油地における最近の開発ブームがどういう事態を引き起こすか、わかっているのだろうか。さらに、国内の石油資源の増大という観点からの意味合い、高まるエネルギー安全保障の潜在性を十分に考慮しているとは思えない」。

◆サウジアラビアを追い抜く
IEAのチーフ・エコノミストで報告書の主著者のファティ・ビロル氏は、ロンドンで開かれた記者会見の場で、「アメリカの石油輸入量は、1日あたり1000万バレルから400万バレルへと減少傾向にある」と説明。一方、バイオ燃料などを含む国内生産の増加は、大幅な減少分のわずか55%を賄うにすぎないと同氏は続ける。残りの45%は、乗用車やトラックに対して連邦政府が定める燃費基準の厳格化の結果だという。

IEAは、2011年のアメリカの石油生産量1日あたり810万バレルから、2020年には1110万バレルにまで達する一方、サウジアラビアの生産量は1110万バレルから1060万バレルへ減少すると予測している。また、2025年にはアメリカは1日あたり1090万バレルに減少するが、サウジアラビアは同1080万バレルの増加に留まるという。

天然ガスはさらに劇的な変化となる。アメリカの天然ガス生産量は、2010年の604bcm(10億立方メートル)から2015年までには679bcmにまで増加すると予測されている。ロシアでも同様に増加すると見られるが、同時期までには675bcmが限界とされ、生産量トップの地位を奪取するには十分だ。2020年には、アメリカが747bcm、ロシアは704bcmと、両国の差は一層顕著になると見られる。この時点でアメリカは天然ガスの純輸出国になるだろうと報告書には記されている。 【11月15日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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シェールガスについては、11月15日ブログ「アメリカで拡大するシェールガス革命 日本への影響 国際関係・温暖化対策・原発政策にも影響」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121115)でも取り上げましたが、すでに、アメリカのシェールガス増産・価格下落でアメリカ国内の発電用石炭が天然ガスに変わり、余った石炭が安値で欧州に輸出され、欧州ではロシアからの高い天然ガス輸入を減らし、ロシアは欧州に変わる天然ガスの販路として日本にアプローチする・・・といった変動も起きています。
将来的には、液化天然ガス(LNG)として北米から欧州などへ輸出されることも考えられます。

ロシアの焦り
シェールガス革命に代表される供給源多様化・価格下落よって、せっかくのロシアの大プロジェクト「サウス・ストリーム」も“壮大な無駄”になるかも・・・といった見方もあるようです。

****時代の逆風に揺らぐロシアの天然ガス支配****
新パイプライン「サウスストリーム」は欧州市場を逃したくない一心の壮大な無駄

欧州のライバル諸国との長年にわたるぎりぎりの契約交渉が実って、ロシアの国営ガス会社ガスプロムは先週、遂に大規模なパイプライン「サウスストリーム」の建設に着工した。欧州のエネルギー市場に対する支配強化の野望へ向け、大きな一歩を踏み出したといえる。

国際エネルギー市場の新たな動きは、供給源の多様化と価格下落。そんななか、南欧および中欧諸国にロシアから直接天然ガスを供給するための高価なパイプラインはロシアの追い風になるかお荷物になるか・・・専門家は様子見の構えだ。

「これは中期的プロジェクトだ」と、オックスフォード・エネルギー研究所のジョナサン・スターンは言う。
サウスストリームはロシア南西部から黒海海底を通り、ギリシャなどを経由してオーストリアやイタリアに至る200億ドルのプロジェクト。ロシアと何度もガス紛争を起こしているウクライナは迂回する。
イタリアのENIなど独仏伊の資源エネルギー3社が半分を出資、2015年後半までに年630億立方㍍を輸送できるようにする予定だ。

既に天然ガスの4分の1をロシアからの輸入に頼っているヨーロッパ人は、ざわざわと不安が広がるのを感じている。

心配性なヨーロッパ人
サウスストリームを壮大な無駄とあざ笑う批判派もいる。ロシア政府は欧州諸国がロシアの天然ガスに依存し続けるよう、セルビア、ブルガリアなどパイプラインが通過する国すべてと個別に交渉をした。
その狙いは、EUも出資して進めているナブコパイプライン計画をつぶすことだともいわれる。トルコなどの中央アジアから、ロシアを迂回して天然ガスを欧州に輸入するパイプラインだからだ。

ロシアの焦りもみえる。欧州の大国は、天然ガスを液化してパイプラインがなくても船で運べるようにした液化天然ガス(LNG)を世界中から輸入し始めている。天然ガスより高価とはいえ、供給源が増えたことでロシア産の天然ガスにも既に値下げ圧力がかかっている。

モスクワの証券会社URALSIBキャピタルのアナリスト、アレクセイ・コキンは、LNGのシェアが急速に拡大するのを見てガスプロムは、小国だけでもつなぎ留めようと思ったのだろうと推察する。「パイプラインの狙いの1つは、欧州の小国がLNGの受け入れ基地を遣るのを阻止することだ」

アメリカで新しいタイプの天然ガスを大増産している「シェールガス革命」も、いずれは欧州におけるロシアの天然ガス支配にとっての脅威になるだろう。
だがスターンによれば、シェールガス革命はヨーロッパ人の目にはまだ遠い。いつか北米のシェールガスLNGが欧州市場に到達する日も来るかもしれないが、それが現実になる2015年頃にはサウスストリームも操業を始めている。

ヨーロッパ人はもっと自信を持つべきだというのは、フィンランド国際問題研究所のアルカジイ・モシェスだ。そもそも欧州はガスプロムの支配下にあるわけではない。取引は相手があって初めて成り立つもの。欧州が天然ガスを買ってくれなければ困るのはロシアも同じだ。
「長いこと、欧州は誤った認識を抱いていた。欧州は一方的にロシアの天然ガスに依存しているわけではない」とモシェスは言う。「常に天然ガス収入を必要としていたのはロシアのほうだ。時はヨーロッパの味方だ」

欧州の不安は本当に杞憂なのか、その答えを知るにはもう少し時間がかかりそうだ。【12月19日 Newsweek日本版】
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各国で異なるシェールガスに関する事情
アメリカの天然ガス産出はシェールガスにより急増しています。
****米国、天然ガス生産見通し上方修正 シェールガス急増で****
米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)は5日、国内の石油・天然ガス生産見通しを上方修正した。岩盤に含まれる「シェールガス」の生産が急増するためで、天然ガス生産量は2035年に31兆4400億立方フィート(従来予想は27兆9900億立方フィート)に達するとしている。

EIAによると、天然ガス生産量は40年までに33兆2100億立方フィートにまで拡大し、そのうちシェールガスが約半分を占める見込み。天然ガスの生産増に伴って輸出も拡大し、16年にも米国が純輸出国になるとしている。全発電量に天然ガスが占める割合も11年の25%から、40年には30%まで上昇するとみている。

また、メキシコ湾など国内油田の開発の拡大で、石油生産は19年に日量750万バレルでピークに達すると予想(従来予想は20年に670万バレルでピーク)した。

一方で、太陽光や風力など再生可能エネルギーも着実に広がり、全発電量に占める割合は11年の13%から40年は16%に増える見込み。【12月6日 産経】
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シェールガス産出がアメリカで先行しており、他の地域ではあまり進展していない背景としては、中国ではその大半が乾燥地帯や人口密集地にあり、岩の水圧破砕に必要な量の水を確保できないこと、欧州では使用する化学物質による地下水の汚染という環境問題が重視されていることがあります。フランスでは「水圧破砕法」を禁止し、欧州の多くの国が一時停止措置などをとっています。
また、地震誘発の問題や、温暖化の点でも排出されるメタンの温暖化効果の問題が指摘されています。
シェールガスの大量供給による値崩れを恐れるロシア・プーチン大統領は「欧州各国の人々が、地下水汚染の可能性というその環境リスクを理解すれば、破砕法の使用は禁止されるだろう」と“俄か環境保護論者”になっているようです。

アメリカ以外では通常、地下の鉱物権は政府が保有しており、地元民には大規模な商業採掘を我慢する見返りがほとんどないのに対し、アメリカでは地下ガスの多くが私有であり、掘削によって地主が利益を受ける(環境保護の議論には反対する)ということも、アメリカで開発が進む要因となっています。

アメリカ以外でシェールガス開発が進まないなかで、イギリスが開発に本腰を入れ始めたことが注目されています。

****英政府、シェールガス開発禁止措置を解除****
英政府は13日、シェールガス開発禁止措置を解除する方針を示した。即日付で実施する。エドワード・デービー・エネルギー・気候変動相は「私の決定は証拠に基づくものだ。科学的な調査や、この分野の専門家による見解を受けた決定だ」と語った。

ただ、大量の水や化学品を用いるシェールガスの採掘技術に対しては厳しいコントロールを課していく考えを示した。

英国では、イングランド地方北西部のブラッププール近郊のシェールガス掘削現場近くで地震が観測されたことから、2011年夏に「フラッキング」と呼ばれる水圧を用いた破砕活動を暫定的に禁止していた。
今回の禁止措置解除により、欧州最大のガス消費国である英国における天然ガス生産の落ち込みが和らぐとみられる。【12月13日 ロイター】
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日本周辺には大規模なシェールガス埋蔵はないようですが、世界的に天然ガス産出が増大し、安価なLNGが北米などから輸入できるようになれば、日本も大きな影響を受けることになります。
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アメリカ  銃社会アメリカでも規制強化への機運か?

2012-12-18 22:28:41 | アメリカ

(14日 「5歳から10歳の美しい子どもたちが犠牲になった」と、涙をぬぐいながら声明を読むオバマ大統領 2人の娘を持つ父親として「政治は度外視し、再発防止に有意義な行動を起こす」とも “flickr”より By God's World, USA http://www.flickr.com/photos/loveforallhatredfornone/8274894496/

【「我々は十分なことをしていない。我々は変わらねばならない」】
アメリカ・コネティカット州の小学校で14日に起きた銃乱射事件(児童ら26人が殺害)、同種の事件が繰り返されるにもかかわらず銃規制が進まない銃社会アメリカの現状については、一昨日のブログ「アメリカ  繰り返す銃乱射事件 それでも進まない銃規制の議論」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121216)で取り上げたところです。

オバマ政権の対応についても、「(銃規制に関する議論は)いずれあるだろうが、今日はその日ではない」(カーニー大統領報道官)といった消極姿勢が見られることを指摘しました。

ただ、何度も繰り返される銃乱射事件や銃を使った凶行、そして今回は被害者の多くが幼い小学生児童(亡くなった20名の児童は6、7歳の小学1年)だったこと、容疑者の使用した銃器が殺傷能力の高い半自動式ライフルだったこと・・・などから、さすがに銃社会アメリカにおいても動きが見られるようです。

オバマ大統領は追悼集会で演説し「再び同じような悲劇を起こさないため、できることはすべてやる」と述べ、再発防止に取り組む姿勢を示したそうです。
ただし、銃規制強化への直接の言及はありません。

****米大統領、追悼集会で「もはや耐えられない*****
オバマ米大統領は16日、小学校で26人が射殺されたコネティカット州ニュータウンを訪問し、遺族らと面会した後、地元の高校で開かれた追悼集会に出席した。

大統領は演説で、銃による悲劇について「我々は十分なことをしていない。我々は変わらねばならない」と述べ、再発防止に向けた対策を講じる姿勢を示した。
大統領は、銃規制強化には直接、言及しなかったが、険しい表情で「もはや耐えることはできない」と語り、国家や大人が子供を守る義務を強調。「今後、数週間で、あらゆる権限を使い、このような悲劇を食い止める努力をする」と約束した。

米メディアによると、銃乱射があった小学校からは数百発の弾丸とともに、30発を装填できる弾倉が複数発見された。警察官が乱射現場に到着すると、アダム・ランザ容疑者(20)は乱射をやめ、自身の頭部を撃って自殺したという。【12月17日 読売】
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世論にも変化の兆し
オバマ大統領が銃規制強化をストレートに発言しないのは、銃保有を市民の権利とし、規制に反対する世論の存在があるためで、少なくともこれまでのアメリカ政治においては、銃規制へ踏み込むことは大きな政治的リスクを負うことを意味していました。

その世論にも若干の変化が窺えるようです。
また、民主党のファインスタイン上院議員は16日のテレビ番組で、大量殺人を可能にする軍用ライフルなどの銃器を全面的に禁止する法案を、米上院に1月に提出する考えを示しているように、議会においても動きが見られます。

****米小学校乱射:銃規制、慎重派も「必要」 新法で対策強化****
児童ら26人が殺害された米東部コネティカット州ニュータウンの小学校銃乱射事件を受け17日、銃規制慎重派だった連邦議員から、規制強化を求める声が上がり始めた。事件後の世論調査では、規制強化への支持がわずかだが上昇。オバマ大統領も対策の必要性を強調しており、規制強化への機運が芽生えつつある。

17日に規制強化を訴えたのはワーナー、マンチンの両民主党上院議員。2人とも、銃規制に反対する最強のロビー団体「全米ライフル協会(NRA)」から最高の「Aランク」の支持を受けている。
NRA会員でもあるマンチン議員は、事件で殺傷能力の高い攻撃用ライフルが使用されたことを踏まえ「スポーツ射撃や狩猟に攻撃用ライフルが必要とは思えない」として、攻撃用銃器を規制する新法の必要性を訴えた。
またワーナー議員は「(銃規制の)現状は受け入れがたい」と述べ、やはり攻撃用銃器の規制を訴えた。事件当日の14日、自分の3人の娘から「(銃問題に)どう取り組むの」と問いただされたことが、今回の発言のきっかけという。

前日にはファインスタイン上院議員(民主)が、攻撃用銃器の販売・所持・譲渡を禁止する連邦法案を1月の新議会に提出すると表明し、下院でも同様の法案が提出されることも明らかにしている。

一方、米紙ワシントン・ポストなどが14〜16日に実施した調査(大人602人が回答)で、今回の事件は「米国が抱える問題を反映」との回答が52%、「問題のある個人の特異な行動」の43%を上回った。今年7月にコロラド州の映画館で12人が殺害された銃乱射事件後の調査は、前者が24%、後者が67%で大きく変化した。
また「より厳しい銃規制」を支持するのは54%で、前回8月の51%からわずかに上昇。このうち「強く支持」に限れば39%から44%と上昇幅は拡大する。

下院は共和党が多数派で法案成立の行方は予断を許さない。だが、主要テレビ局が連日、現場から特別番組の放送を続けていることもあり、今回の事件を契機に銃規制議論への関心が高まっていることは間違いない。【12月18日 毎日】
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【「いつでも抜け道を探し、見つけ出すものだ」】
アメリカ政界においては、銃規制に反対する全米ライフル協会(NRA)の影響力が非常に強いことは周知のところです。
その政治影響力によって、近年は大きな事件が起きても銃規制は進んでいません。

****ブレイディ法以降は停滞****
昔はこうではなかった。世間を大きく騒がせる銃関連事件が起きると、規制強化を求める声が強まったものだ。アメリカ初の本格的銃規制である連邦銃器法(NFA)も、1929年の「血のバレンタインデー事件(ギャングのアル・カポネの一味が、敵対組織の6人と通行人1人を機関銃で虐殺)」がきっかけだった。

93年にはロナルド・レーガン大統領暗殺未遂事件をきっかけにブレイディ法が生まれた。同法により銃販売店は、購入希望者の犯罪歴を警察に照会することが義務付けられた。

だがブレイディ法以降は、大規模な銃犯罪が起きても規制強化が図られることはなくなった。なぜか。最大の原因は、全米ライフル協会(NRA)の政治的影響力が高まったことと、銃規制運動が下火になったことだろう。

NRAは南北戦争後の1870年代から存在するが、その活動が先鋭化したのは1970年代半ばに強硬な銃規制反対派が幹部になってからのことだ。新生NRAが銃規制撤廃を活動目標に掲げる一方で、伝統的に銃規制に前向きだった民主党は94年に連邦下院で過半数割れを喫して以来、銃規制問題を避けるようになった(ビル・クリントン大統領ら民主党は、ブレイディ法案を採択したことが過半数割れの原因だと考えていた)。

新たな銃規制法が実現する可能性が乏しくなると、銃規制運動自体が下火になった。現在、主だった銃規制推進団体は資金不足で存亡の危機に立たされている。(後略)【8月1日号 Newsweek日本版】
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ギャング6名と通行人1名を機関銃で殺害したアル・カポネの「血のバレンタインデー事件」は有名ですが、小学1年生20名を含む26名を殺害した今回事件に比べれば残虐性で足元にも及びません。

全米ライフル協会(NRA)の強い影響力の背景には、やはり銃規制に反対する世論がありましたが、その世論に若干の変化も窺えることは先述のとおりです。

現在の銃規制は大きな抜け穴があり、また、州ごとに規制が異なることが銃規制の実効を大きく阻害しています。

*****米国の銃規制、州ごとの違いで効力発揮できず****
米コネティカット州の小学校で14日に起きた銃乱射事件では児童20人と教職員6人の命が奪われ、米国でおなじみの銃規制法をめぐる論争に再び火がついた。しかし、米銃規制は州によって大きく異なる。

1993年に当時のビル・クリントン大統領の署名で成立した通称ブレイディ法は、米国内で銃を購入する者の身元情報を連邦当局に確認するよう義務付けている。犯罪歴や精神衛生に関する履歴などから潜在的な危険を検知しようというものだ。

だがこの規制は、インターネット取引を含む個人間の売買や、銃見本市の展示ブースでの販売など、米国の銃販売の4割には及ばず、こうした売買は連邦政府の規制を受けていないのが現状だ。ブレイディ法の対象はわずかな例外を除き、連邦の認可を受けた販売業者やメーカー、輸入業者などに限られている。さらに北はカナダ、南はメキシコと長く国境を接しているため、銃購入の追跡はいっそう困難だ。

■FBIデータベースから漏れた犯人たち
米連邦捜査局(FBI)が運用している全米犯罪歴即時照会システム(NICS)にも、穴がある。連邦、州、自治体による銃規制強化を求める市長たちの全米組織「不法な銃に反対する市長たち」は、精神的な問題を抱える数百万人に関するファイルがNICSのデータベースに含まれていないことを指摘した。

今回のコネチカット州の事件で銃を乱射したとされるアダム・ランザ容疑者(20)には精神疾患の病歴があったと報じられている。現場で発見された拳銃2丁とセミオートマチック・ライフル1丁は、容疑者の母親が合法的に購入したものとみられているが、銃規制支持派は、もっと徹底したデータベースがあればランザ容疑者のような人物の武器入手を防止できたと主張している。

2011年1月にアリゾナ州で民主党のガブリエル・ギフォーズ下院議員(当時)を殺そうと銃を乱射し6人を殺害したジャレッド・ロフナー被告の場合には、不品行による停学処分歴やドラッグ使用歴があったが、身元照会システムは銃購入を認めていた。

■州ごとに異なる身元照会範囲や銃の規制範囲
これに加え、州によって銃規制が異なることも、規制をかいくぐることをいっそう容易にしている。例えば13州では、売り手側の身元について州外に照会していない。つまり、他州や連邦政府によって記録されている犯罪歴は除外されてしまうのだ。

「銃による暴力防止法律センター」のロビン・トーマス事務局長は、「州境を行き来するのは簡単なので、ある州の規制法が厳重でも、別の州に行って銃を買うことが簡単にできる」と指摘する。

銃販売規制法の大半は、州単位で実施されている。
カリフォルニア州は最も規制が強く、個人売買を含む全ての銃販売に連邦システムへの身元照会を定めている。アサルト武器(assault weapon)や狙撃銃の販売は禁止されており、1人が購入できる銃は1か月に1丁までと制限されている。また、購入には筆記試験を含む州の許可証取得が必要だ。こうした規制措置によってカリフォルニア州では過去20年間に銃を使った暴力事件が大きく減少したとトーマス氏は言う。

米紙ニューヨーク・タイムズによると、今回事件が起きたコネティカット州でも、容疑者が犯行で使ったとされるブッシュマスター0.223やM4カービンといったアサルト武器の所有や譲渡は禁止されている。また、犯行に使われたとされる拳銃2丁は、いずれも購入前に認可証の取得が必要とされるものだった。

1994~2004年まで連邦法ではアサルト武器の製造と販売を禁止していたが、議会はこの規制を更新することができなかった。また何をもってアサルト武器とするかの定義をめぐり論争となった。
例えばカリフォルニア州ではアサルト武器の特徴としてスタビライザーがあることや、素早い連射を可能にする大型弾倉などを挙げている。しかしトーマス氏は、メーカー側は「いつでも抜け道を探し、見つけ出すものだ」と警告している。【12月17日 AFP】
**********************

通常の拳銃についても日本的感覚からすれば容認し難いものがありますが、少なくとも戦場で使用されるような攻撃用の自動小銃や狙撃銃が市民社会で必要とされるとは思えません。
昔、カンボジアを旅行した際に、比較的口径の大きな拳銃を試射したことがあります。
その質感・重量、発砲時の衝撃は想像以上ものがあります。あんなものが普段の生活の中にころがっていては安心して暮らすことなどできません。

アメリカにおける銃規制論議が進展し、具体的成果が出せることを強く期待します。
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エジプト  新憲法案の国民投票 賛成がリード

2012-12-17 23:28:50 | 北アフリカ

(国民投票に並ぶ人々 “flickr”より By Mahmoud Gamal El-Din http://www.flickr.com/photos/mahmoudgamaldin/8278596920/

反大統領派のジレンマ “政治がうまい”ムスリム同胞団
エジプトでは、イスラム原理主義組織ムスリム同胞団を支持基盤とするモルシ大統領が裁判所の判断を一定期間無力化する「憲法宣言」(暫定憲法)を発令し、ムスリム同胞団などイスラム主義主導でまとめられた新憲法草案の国民投票を実施することにしたため、これに反発する世俗派・リベラル派などとの間で激しい衝突が発生、政治的危機が懸念されていました。
結局、モルシ大統領側は強権的な「憲法宣言」は撤廃したものの、15日の国民投票は決行されました。
(12月10日ブログ「エジプト・モルシ大統領、強権を撤回、国民投票は決行 反大統領派の実態、新憲法草案の内容」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121210

野党側は、反対票を投じる形であっても国民投票に参加すれば、モルシ政権による独断的な制憲プロセス(と彼らが考えるもの)を認めたことになってしまう、しかし国民投票をボイコットすれば圧倒的多数でその新憲法が成立してしまうというジレンマに陥り、対応に苦慮しました。

前国際原子力機関事務局長のエルバラダイ氏ら世俗、リベラルの主要勢力でつくる「救国共同戦線」は、投票阻止も辞さない構えでしたが、モルシ大統領が権力強化の宣言を撤回するなどしたため、土壇場で譲歩。投票に参加し、反対票を投じる方針に転じました。

モルシ大統領側の、反対勢力が辞任した憲法起草委員会で短期間で草案をとりまとめ、旧体制の影響が強く残る司法を強権で抑えながら、国民投票という表面的には非常に民主的な手法を掲げることで強行突破する・・・・という戦略がうまくいったように見えます。
「ムスリム同胞団は(リベラル派よりも)政治がうまい」という指摘もあります。【12月19日号 Newsweek日本版より】長年、弾圧されながらも活動を続けてきた「ムスリム同胞団」のしたたかさでしょうか。

なお、国民投票は、モルシ大統領の強権姿勢に反発する判事らの多くが投票の監視活動をボイコットしたこともあって、投票所の監視要員確保のため15、22日の2回に分けて行われる形となっています。

****エジプト:新憲法案の国民投票、兵士12万人動員****
国のあり方を巡り、与野党勢力の衝突で多数の死傷者が出るなど昨年の民衆革命以来最大の危機に直面したエジプトで、15日始まった新憲法案の是非を問う国民投票。国軍は全国各地に約12万人の兵士を動員し、厳戒態勢を敷いた。国論を二分する憲法論争の高まりを背景に、各地の投票所には朝から投票を待つ人々の長い列ができた。

「新憲法で女性や子供の権利、表現の自由が守られるか不安だから、反対票を投じました」。カイロ中心部の高級住宅街ザマレクの投票所。元銀行員で年金生活を送る女性のアブダッラーさん(68)はこう話す。
同じく高齢の大学教授、マスリさんも「モルシ大統領の治世下で大統領権限が強化され、裁判所の地位は低下した。こんな状態を放置できない」と語気を強めた。

投票所の専門学校前には午前8時の投票開始前から続々と地元住民が押し寄せた。周囲には警官や、自動小銃を抱えた国軍兵士が展開。だが、身分証明書を手に順番を待つ人々の表情は概して明るい。昨年初めの革命で崩壊した専制的なムバラク前政権時代には自らの手で国の将来を決められなかったからだ。

新憲法の是非を巡る議論は、地域差が大きい。教育レベルの高い世俗的な富裕層が中心のザマレクでは、イスラム色の濃い憲法案に概して否定的な意見が多かった。同じカイロ中心部でも低所得者が暮らすボラアイラでは、モルシ大統領主導の憲法案に賛同的な見解が多い。大統領の支持母体ムスリム同胞団による貧民層への社会福祉サービスの浸透度の高さがうかがえる。

政府機関で働くアブデルマリクさん(42)は「新憲法でも公共の自由は保障されている」と主張。スカーフ姿の主婦ソブフィさん(30)は「野党の抗議行動でどれだけの血が流れたことか」と憤りを隠さない。信仰深い人々からは「モスク(イスラム礼拝堂)で高位聖職者が賛成票を投じると聞いたので、私も賛成する」(44歳主婦)との動機も聞かれた。【12月16日 毎日】
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ムスリム同胞団支配への懸念
反大統領派は、組織力が強固なムスリム同胞団による支配体制が確立されることを懸念しています。

****エジプト新憲法案、15日から国民投票 議会骨抜きも争点は同胞団支配****
反政権派疑念、自由制限恐れ
エジプトで新憲法案の是非を問う国民投票が15日から始まる。モルシー大統領と、その出身母体であるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団が制憲プロセスを主導していることに反発する世俗主義勢力中心の反モルシー派は12日、自由や権利の抑圧につながる恐れがあるとして同案の否決を目指す考えを強調。否決されればモルシー氏の求心力低下は必至だけに、政権への信任投票の意味合いも持つ。(中略)

エジプトの新憲法案の是非を問う国民投票で、世俗主義勢力を中心とする反モルシー派の根底にあるのは、モルシー大統領が新憲法を通じ、自らの母体であるムスリム同胞団による支配を確立しようとしているのではないか、との疑念だ。

新憲法案はまず、大統領が国政の重要問題に関し、いつでも国民投票を実施する権限を持ち、その結果は司法を含む「あらゆる国家機関を拘束する」としている。
民意がすべてに優先されるとの“理念”を強調したようにみえるが、反モルシー派や民主化勢力は「国民投票が乱用され、ポピュリズムに陥る危険性が高い」と批判。特に、組織力が強固な同胞団を通じてモルシー氏が大衆を動員し、司法や議会の監視機能を骨抜きにするとの懸念がある。

自由や権利が制限されかねないとの批判も根強い。新憲法案では報道の自由について、裁判所の決定があれば、出版物の発行禁止や報道機関の閉鎖も可能だと規定、必要に応じて検閲も実施することができるとしており、独立系メディアは「恣意(しい)的な運用の余地がある」と反発を強めている。

早くから関心が集まっていたイスラム法(シャリーア)の扱いについては、「シャリーアの諸原則を主要な法源とする」と、ムバラク前政権での旧憲法の表現を踏襲。国民の約9割がイスラム教徒で、同条文への表立った異論は少ないが、モルシー政権下で急速なイスラム化が進むという警戒感も指摘されている。

一方で新憲法案は、モルシー氏が自らに絶大な権限を付与した憲法宣言を発布する中、急ピッチで承認された経緯があるだけに、反モルシー派は「そもそも正当性がない」との立場だ。
国連人権高等弁務官事務所のピレー高等弁務官は、政権側の強引な手法に疑問を呈した上で、女性や宗教マイノリティーの権利擁護などが明文化されていないなど「権利規定は旧憲法より弱まっている」と批判した。【12月14日 産経】
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安定を望む国民
しかし、ムスリム同胞団の強固な組織力に加え、反ムバラク革命以来混乱を続けるなかで、新憲法制定による「安定」を望む一般国民が多く、国民投票は賛成派有利と見られていました。

****声なき大衆」、安定望む=新憲法賛成派が優勢か―15日に国民投票・エジプト****
エジプト新憲法案の賛否を問う15、22両日の国民投票では、ムバラク政権崩壊後に長引く政治の混乱や治安悪化に嫌気した国民が賛成に回るとみられている。
イスラム勢力主導の憲法制定に反発するリベラル系や世俗派の抗議行動が注目を集めるが、憲法制定を通じた政治・社会の安定を望む労働者層や農業従事者ら「声なき大衆」が主役となりそうだ。

新憲法案をめぐり、エジプト政界や国民は、リベラル系や世俗派を軸とした反対派と、モルシ大統領の出身母体であるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団を中心とした賛成派に大きく分裂した。しかし、リベラル系の影響力が強い独立系メディアの反大統領キャンペーンや首都カイロでのデモの騒がしさとは対照的に、地方部の住民には「安定のために新憲法を」という賛成派が目立っている。【12月14日 時事】
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まだ22日の結果を待つ必要がありますが、15日の投票結果で見る限りは、やはり賛成派が多いようです。
****エジプト国民投票、新憲法「賛成」がリード 反対派はデモ呼びかけ****
エジプトで15日行われた新憲法案の是非を問う国民投票で、同国メディアは16日、非公式な暫定開票結果として、賛成が約56%でリードしていると報じた。投票は22日にも実施され、その後、最終結果が発表される。

モルシー大統領が強権的な手法で新憲法案を押し通そうとしているとして反対する世俗勢力中心の反モルシー派は、18日に大規模デモを呼びかけるなど巻き返しを図っており、再び混乱が拡大する恐れもある。

新憲法案は、モルシー氏が自らに強大な権限を付与する憲法宣言を発布したのを受け、同氏の出身母体であるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団などイスラム勢力が主導し強引に起草・承認した。
これに反発する判事らの多くが投票の監視活動をボイコット。15日の投票では監視要員不在の投票所も目立ち、地元の人権団体などによると、政権支持派が有権者を投票所から閉め出すなどの違反行為も多数報告された。【12月17日 産経】
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メディアが報じている数字は、ムスリム同胞団が機関紙を通じて「56.5%が賛成票を投じた」と発表した数字と同じです。おそらく、ムスリム同胞団調査をそのまま使っているのではないでしょうか。
ムスリム同胞団は草の根組織を持っており、ほとんど全ての投票所で出口調査をしたと言われています。このような組織力を持っているのはエジプトでは同胞団だけです。

一方、前国際原子力機関(IAEA)事務局長のエルバラダイ氏ら世俗・リベラルの主要勢力でつくる「救国共同戦線」は、独自集計で「反対票は66%超」としたと発表しています。【12月17日 朝日】
ただその根拠はどうでしょうか?

4割超の反対票も
個人的には、4割を超える反対票が出ていることの方が意外な感もあります。
先の大統領選挙でも、モルシ大統領が勝利したとは言え、旧政権とのつながりも指摘されていた軍将校出身のシャフィク氏がモルシ氏に迫る得票を得ていることと併せ、ムスリム同胞団・モルシ政権への批判・反発もかなり根強いことが窺えます。

いずれにしても、反大統領勢力は大規模デモなどで抵抗を続ける姿勢で、投票結果判明後も混乱が残りそうです。
****正義求め「革命続く」=国民投票後も混乱必至―エジプト****
15日行われた新憲法案の是非を問う国民投票1回目の結果で賛成票が優勢になったのに対し、イスラム勢力主導の憲法制定に反発する野党勢力は16日、正義実現へ「革命は続く」と、モルシ政権への対決姿勢を強めている。「抗議の暴力は必要悪」との声もあり、2回目の投票を22日に控え、混乱の火種が残っている。【12月17日 時事】
********************

ただ、更なる混乱は、安定を求める国民多数派の離反を招きそうですし、暴力沙汰が頻発すれば軍の介入も懸念されます。
民主主義のルールとしては、やはり国民投票結果は尊重されるべきでしょう。
当然ながら、政権側には4割超の反対もあったことを重視した慎重な政治が求められます。
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アメリカ  繰り返す銃乱射事件 それでも進まない銃規制の議論

2012-12-16 23:10:09 | アメリカ

(コネティカット州サンディフック小学校の犠牲者を追悼する人々 個人的には、追悼慰霊するだけでは、同様の事件は今後も繰り返されるだけだと思うのですが・・・。 “flickr”より By steffiekeith http://www.flickr.com/photos/86681342@N00/8274313430/

新車購入者に「自動小銃AK-47」を無料でプレゼント・・・という銃社会アメリカの惨劇
銃社会アメリカでは、銃乱射事件が頻発しています。
2007年4月には、バージニア工科大学の銃乱射事件で33名(教員5名、容疑者1名を含む学生28名)が死亡しています。

今年に入っても、5月にはワシントン州のシアトルにある喫茶店などで男が銃を乱射して5人が死亡。7月にはコロラド州のオーロラにある映画館で男が銃を乱射して12人が死亡し、58人が負傷。さらに、今月11日にもオレゴン州でクリスマスシーズンの買い物客でにぎわうショッピングセンターに入ってきた男が銃を乱射して2人が死亡しています。【12月15日 NHKより】
今度はコネティカット州の小学校で惨劇は起きました。

****米小学校銃乱射:子供20人含む26人死亡 容疑者は自殺****
米東部コネティカット州ニュータウンにあるサンディフック小学校で14日朝(日本時間同深夜)、男が校舎内に侵入し銃を乱射した。AP通信によると、乱射で5歳から10歳の子供20人を含む26人が死亡した。容疑者の男(20)も自殺したとみられ、死亡した状態で発見されたという。米国の学校で起きた乱射事件として過去最悪レベルの大惨事となった。
AP通信によると、容疑者の母親は小学校の教師で、乱射により死亡したとみられる。【12月15日 毎日】
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“容疑者の母親は小学校の教師”という点については、町の教育当局者がこれを否定しているとの記事もあります。なお、容疑者自身が事件のあった小学校に以前は通っていたとも報じられています。
母親の殺害については、“容疑者が自宅で母親を殺害後、小学校に向かった疑いが強いものの、その経緯は明らかになっていない。容疑者と母親が長年不和だったとの情報もある”【12月15日 時事】とも報じられています。

使用した銃器については、「軍用の自動小銃」とか「殺傷能力が高い半自動式ライフル」と報じられています。
****自動小銃で全犠牲者に複数発=動機解明へ「有力証拠」も―米乱射事件****
米コネティカット州ニュータウンの小学校で児童ら26人が殺害された銃乱射事件で、州当局は15日、犯行には殺傷力の強い軍用の自動小銃が使われたことを明らかにした。犠牲者は全員、複数の銃弾を受けていた。これまでは拳銃が使用されたと報じられていた。死亡した児童20人は6、7歳の1年生だったという。

州警察高官は同日の記者会見で、自動小銃の件とは別に、自殺したアダム・ランザ容疑者(20)が犯行に至った動機を解明する「極めて有力な証拠」が見つかったと述べた。ただ、詳細は明らかにしていない。【12月16日 時事】 
******************

“ランザ容疑者の自宅付近の住民によれば、容疑者に自宅で殺害された母親は銃を集めるのが趣味だったという。犯行に使われた銃も母親が購入したものとみられている”【12月15日 産経】とのことです。

拳銃などだけでなく、自動小銃が普通に購入できること自体が日本的常識ではなかなか信じ難いところですが、09年には、アメリカ・ミシシッピ州にあるトラック販売店の、新車購入者に対して「自動小銃AK-47」を無料でプレゼントする・・・という販売促進策が話題になったこともあります。
この販売会社は元々新車購入者に対して拳銃引換券か250ドル分のガソリン引換券を提供するサービスを実施していたそうです。なお、顧客に直接自動小銃を手渡すのではなく、保持許可証を確認した後、銃砲店で利用できる引換券を提供する形だそうです。

【「今日はその日ではない」・・・・その日はいつ?】
当然ながら、今回のような銃乱射事件が起きるたびに、銃社会の弊害を訴え銃規制の促進を求める声も出ることには出ますが、それ以上にアメリカ社会に根付いた銃の存在は大きく、銃規制が大きな動きとはならないことは、これまでもたびたびブログでも取り上げたところです。
銃乱射事件が起きると、人々が自衛のために銃を購入に走る・・・というのが現実です。

****米銃乱射:再発防止に苦慮 権利と規制の間で模索****
児童ら26人が犠牲になった14日の米東部コネティカット州ニュータウンの小学校銃乱射事件を受け、再発防止への「意義ある行動」を主張したオバマ大統領に続き、銃規制に熱心なニューヨーク市のブルームバーグ市長らも規制強化を訴えた。だが、憲法が「銃所持の権利」を認めている以上、銃暴力の根絶は難しく、実効性ある規制の模索が続きそうだ。

「意義ある行動では不十分。迅速な行動が必要だ」。全米600以上の市長らでつくる銃規制支持組織の共同議長でもあるブルームバーグ市長は、14日の声明でそう訴えた。
ブルームバーグ氏が求めるのは、銃購入希望者に犯歴や精神疾患歴がないかを調べる身元調査の強化だ。連邦法では調査が必要なのは登録業者から購入するときだけで、展示即売会では不要。法の「抜け穴」の最たる例だ。

過去には銃乱射事件を受け連邦法が強化された例もある。服部剛丈君射殺事件(92年)などを背景にクリントン政権が94年、殺傷能力の高い半自動式攻撃用銃器19種類の製造、販売、保有を禁じた。だが10年間の時限立法で、ブッシュ政権時に失効した。また、連邦最高裁は08年、市民の拳銃所持を禁じた首都ワシントンの法律を違憲判断している。

今年7月、西部コロラド州の映画館で12人が殺害される乱射事件後は、「自衛」目的の銃購入が増加。こうした「米国人気質」も規制を困難にする。国民の権利意識の強さは、銃規制の動きをことごとく阻止する全米ライフル協会(NRA)に大きな政治力を与えている。「権利」と「規制」の間で、オバマ大統領は有効な再発防止策の構築に苦慮しそうだ。【12月16日 毎日】
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事件の起きたコネティカット州は銃社会アメリカにあっては規制の厳しい州だったようです。

****4番目に銃規制厳しい州での乱射、全米に衝撃****
コネティカット州の銃乱射事件が全米に大きな衝撃を与えたのは、同州が全米屈指の厳しい銃規制を実施していた点も背景にある。

銃規制強化を訴える民間団体は11月、コネティカット州の銃規制の厳しさが全米で4位と発表していた。
同団体によると、コネティカット州の銃規制は5段階評価で2番目の「B」。銃による死亡率の割合は全米で6番目に少なかった。
コネティカット州は、銃購入者の犯罪歴などについて、連邦政府より厳しい独自調査を行い、購入者には適格証明の事前取得を義務化。16歳未満の子供の手に触れる状態で弾丸を装填した銃を保管することも禁じている。

だが、今回の乱射事件で犯行後に自殺したアダム・ランザ容疑者(20)は、銃を購入できる21歳に達しておらず、犯行に使用した銃は母親が合法的に購入したものだった。【12月16日 読売】
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この点は今後の議論にどのように影響するのでしょうか。
「多少規制を厳しくしても事件は減らない。そもそも事件を起こすのは銃ではなく人である」という話になるのでしょうか。
ただ、「事件を起こすのは銃ではなく人である」といくら言っても、身の周りに銃が溢れていなければこんなに事件が頻発することもないように思えるのですが。

「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるため、人民が武器を保有し、また携帯する権利は、これを侵してはならない」という憲法修正第2条の規定、「全米ライフル協会(NRA)」の政治的圧力だけでなく、アメリカ市民社会に新天地移住・西部開拓以来の銃への信奉があるため、銃規制を取り上げることは政治的には非常に難しいのが実情です。

先の大統領選挙中の7月に西部コロラド州の映画館で12人が殺害される乱射事件が起きても、オバマ、ロムニー両候補とも銃規制には殆んど触れることはありませんでした。
今回も、オバマ大統領には銃規制を進める考えはないようです。

*****今日はその日でない」と銃規制議論で米大統領*****
オバマ米大統領は14日、児童ら26人が死亡したコネティカット州での銃乱射事件を受け、再発防止策の必要性を訴えた。
だが、銃規制の是非をめぐっては国民世論が二分しているほか、銃規制反対を掲げる野党・共和党や業界団体「全米ライフル協会(NRA)」からの強硬な圧力もあり、規制強化は進みそうにないのが実情だ。

大統領は14日、ホワイトハウスで記者団を前に涙ながらに読み上げた声明で、「私たちは政治と関わりなく、このような悲劇を防ぐための意味ある行動を取らねばならない」と強調した。しかし、カーニー大統領報道官は同日の記者会見で、銃規制に関する議論は「いずれあるだろうが、今日はその日ではない」と慎重な姿勢に終始した。

大統領は7月にコロラド州の映画館で乱射事件があった後も、銃規制で踏み込んだ見解を示さなかった。11月に大統領選を控え、銃規制が選挙の争点になるのを避けたとみられる。【12月15日 読売】
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大統領選挙も終わった今が「今日はその日ではない」というのであれば、「いずれあるだろうが」という銃規制の議論はいつ行われるのでしょうか。

銃規制を取り巻く環境はむしろ厳しくなっているようにも思われます。
連邦控訴裁判所は12月11日、銃の携帯を禁じるイリノイ州の法律が無効であると宣言しています。

****米連邦控訴裁判所、イリノイ州の銃規制に違憲判断****
米国民には家の外で実弾入りの銃を携帯する権利が憲法で保障されている――。連邦控訴裁判所は11日、こう判断を下し、銃の携帯を禁じるイリノイ州の法律が無効であると宣言した。最高裁が銃を携帯する権利を保障する合衆国憲法修正第2条を巡る主要ケースを次に扱う際には、今回の判決が潜在的に先例として考慮されるだろう。

第7巡回区控訴裁判所は2対1で、イリノイ州の議会が数十年前に制定した法律は違憲との判断を下した。この法律は、弾丸が込められた銃を家の外で携帯したり、弾が込められていなくとも容易に充填(じゅうてん)できる銃を携帯したりすることを、警察を除いて禁じている。

同裁判所は、弾が充填された銃を携帯する権利が修正第2条の条文からきていると述べた。この条文は「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるため、人民が武器を保有し、また携帯する権利は、これを侵してはならない」と定めている。

リチャード・ポスナー判事は多数派の意見として、「家のなかで武器を“携帯する”という表現は、どんな時にもおかしな言い方だ」と指摘、「よって武器を携帯する権利は、家の外で弾が充填された銃を持ち運ぶことを暗示している」と書き残した。

連邦最高裁判所は2008年、ワシントンDC対ヘラー事件で、個人の拳銃携帯の権利を認める判決を下した。しかし、判事らは意見書のなかで、家の外で銃を携帯することを禁じる法律が修正第2条に違反するかどうかについては、ほとんど指針となる見解を示さなかった。

下級裁判所の中には、最高裁の決定が家の外で銃を携帯するいかなる権利をも拡大していない、と解釈するところもあった。今回の第7巡回区による影響力を持った判決は、全米の判事に銃の携帯に対する規制はますます疑わしいとの見解を喚起させる可能性がある。

第2巡回区控訴裁判所は最近、外部から見えないように隠して銃を携帯する許可証を制限するニューヨーク州の法律を擁護した。この「携帯に対する規制」を巡る法的訴訟は少なくとも他3カ所の巡回区控訴裁判所で係争中となっている。

今回のイリノイ州のケースで、州法に挑戦する住民を代表したデービッド・ジェンセン氏は「最高裁がこの問題について明確にルールを決めるまで、家の外における修正第2条の解釈を巡り、巡回区控訴裁判所のなかで見解の相違が続くことになる」と述べた。イリノイ州は家の外で弾が充填された銃を所持することを一律に禁じた唯一の州だった。【12月13日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
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「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要である」という修正第2条制定当時(1791年)の政治・社会情勢と、犯罪への自衛のため個人が銃を求める現在の社会情勢では、前提とするものが全く違うようにも思えるのですが、アメリカ司法当局の判断はそうではないようです。

オクラホマでは、同様の事件が計画されていたことも報じられています。
コネティカットの事件が起きる前に計画・通報されていますので、事件の影響を受けた模倣犯ではないようです。
同時多発的に独立してこうした事件が計画されたり起こったりするというのは、社会の病状もそれだけ深刻であるとも言えます。

****オクラホマ州の高校で乱射計画=警察、18歳を逮捕―地元紙*****
米オクラホマ州バートルズビルの高校で乱射・爆弾事件を計画していたとして、警察当局は14日、同校に通う男子生徒(18)を逮捕した。地元紙タルサ・ワールド(電子版)が報じた。米国ではこの日、コネティカット州ニュータウンの小学校で26人が死亡する乱射事件が起きている。

警察によると、男子生徒は講堂に高校生を集めて銃を乱射し、警察が駆け付けたところで仕掛けておいた爆弾をさく裂させようと画策。12日、別の複数の生徒に実行への協力を求め、断れば殺害も辞さないと脅した。計画を知った高校側が13日、警察に通報した【12月16日 時事】
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イタリア  ベルルスコーニ前首相の政権復帰表明で政局混乱 財政改革の行方への懸念も

2012-12-15 22:39:22 | 欧州情勢

(今年2月頃のモンティ首相(左)とベルルスコーニ前首相(右) “flickr”より By daw_news http://www.flickr.com/photos/68221559@N04/6917865989/

緊縮策が「景気後退の悪循環を招いている」】
イタリアでは昨年11月、ベルルスコーニ首相(当時)が、自身の金銭・セックススキャンダルと政治的無策も絡むなかで、信用不安が高まる金融市場の圧力に押し切られる形で退陣しました。当時、イタリアの10年物国債の利回りは、「危険水準」とされる7%超で欧州の債務危機の最大の懸案の一つとなっていました。

ベルルスコーニ退陣を受けてモンティ内閣が選挙を経ずに誕生。モンティ氏は経済学者で首相就任直前に名誉職である終身上院議員に指名されています。組閣は難航しましたが、国会議員が1人もいない実務者内閣を組閣、最大政党であるベルルスコーニ前首相の率いる自由国民党などの支持で政権を維持してきました。

健全財政化に取り組むモンティ内閣によってイタリアを取り巻く金融市場は落ち着きましたが、痛みを伴う改革には国民の不満も大きくなっています。

****イタリア:財政緊縮策に抗議、15万人デモ行進…ローマ****
イタリアのモンティ政権が進める財政緊縮策を巡って(10月)27日、ローマで約15万人(労組などの主催者発表)による抗議のデモ行進が行われた。一部が警官隊と小競り合いになったが、大きな混乱はなかった。これに関連し、最大与党を率いるベルルスコーニ前首相(76)は27日、緊縮策が「景気後退の悪循環を招いている」と批判し、モンティ政権の不信任に動く可能性を示唆するなどイタリア政界をかく乱している。

デモはモンティ政権発足から来月で1年になるのを前に実施。「モンティ政権を追い出せ」などの横断幕を掲げて行進した。参加した労組活動家のリュック・チボーさん(53)は「モンティ政権は増税で人々を圧迫している。社会のシステムを変え、富裕層や政治家が貧困層を助けるべきだ」と緊縮策への不満をあらわにした。

一方、前首相はミラノでの記者会見で「モンティ首相の下では景気後退は終わらない」と指摘。自ら率いる中道右派政党・自由国民が「現政権への信任を取り下げる方が良いかどうかを数日中に決める」と述べた。
下院第1党の自由国民が不信任を決めれば、モンティ内閣は総辞職を強いられ、来春予定の総選挙が前倒しされる公算が大きい。そうなれば政治空白を招き、モンティ政権下で沈静化した債務危機がぶり返す恐れがある。

前首相は所有するメディアグループ絡みの脱税事件で26日に有罪判決を受けたばかりで、政権をけん制する思惑もあるようだ。次期総選挙で首相候補にはならないとしつつ「(判決は)判事の独裁。競技場(政界)に残り、司法改革に取り組む義務を感じている」と述べ、下院議員候補として再出馬する可能性を示唆した。【10月28日 毎日】
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事実上の「不信任」】
ベルルスコーニ前首相はこのところ、政界を引退するとか、いや政権復帰を目指すとか、その発言が二転三転していましたが、結局内閣信任投票においてモンティ首相から離反することを明確にし、今のところは4度目の首相就任を目指す意向を示しています。
一方、ベルルスコーニ前首相の離反を受けて、モンティ首相は予算成立後の辞任を表明、イタリア政局は大きな混乱に直面しています。

****伊首相辞意 欧州危機の対応に影 ベルルスコーニ氏は復権に意欲****
イタリアの政局が欧州債務危機の不安材料となる恐れが強まってきた。
財政健全化を進め、国際社会や金融市場の信用の厚いモンティ首相が2013年の予算成立後に辞任すると表明。一方で危機対応をめぐり昨年、退陣に追い込まれたベルルスコーニ前首相が4度目の首相就任を目指す意向を示すなど、来年の総選挙を前に政治情勢は不透明感を増している。

モンティ首相は8日、ナポリターノ大統領と会談。大統領府はその後、首相が「任務継続は不可能になった」として、議会で審議中の予算成立後に辞任する意向を大統領に伝えたとの声明を発表した。
10日にはイタリアの国債価格が急落し、欧州株も売られるなど、経済学者のモンティ氏が主導してきた同国の改革の行方に市場の不安は強まっている。

辞意のきっかけは、議会最大勢力で政権を支えてきた中道右派、自由国民の“造反”だ。ベルルスコーニ氏率いる同党は6日、上下両院で行われた信任投票で棄権。かろうじて政権は信任されたが、アルファノ幹事長は「政権の役割は終わった」と語り、首相は事実上の「不信任」と受け止めた。

来年予算は年内に成立する見通し。首相の辞任により、来年3~4月の実施が見込まれていた総選挙が前倒しされる可能性が高まっており、その場合、早ければ2月にも行われる。

昨年11月に発足したモンティ政権は過去約1年間、累積債務が国内総生産(GDP)比約120%に上る財政の改善のため歳出削減などに取り組み、労働市場改革なども断行。同国への市場の信頼を回復させた。
だが、来年も経済成長はマイナスの見込みで、失業率は過去最悪。国民の不満は強く、世論調査では、ユーロに懐疑的な主張や反緊縮を掲げる政治勢力「5つ星運動」が支持率2位に台頭している。

自由国民が信任投票で棄権に回ったのは、支持率が3位に低迷する中、こうした世論を取り込み党勢回復を図るためとみられる。8日には、モンティ首相への批判を強めるベルルスコーニ氏が従来の姿勢を一転させ、首相候補として総選挙に出馬する意向を示した。

モンティ首相を支え、支持率が3割強で首位の中道左派の民主党は、首相候補のベルサニ書記長が基本的に改革路線を踏襲する考えを示すが、国民の「痛み」への配慮も示し、改革が確実に継続されるかは不透明さも残る。

欧州連合(EU)のファンロンパイ大統領は10日、「モンティ首相が行ったこと以外によい選択肢はない。彼はユーロ圏の安定維持に大きな助けとなった」と語った。【12月11日 産経】
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モンティ首相の辞任表明については、改革への国民の不満に迎合するベルルスコーニ前首相らに対抗して、前倒し総選挙に向けて、改革路線堅持を目指す捨て身の反撃に出た・・・とも見られています。
しかし、金融市場では改革の頓挫を不安視する向きも強まっています。モンティ首相の辞任表明でイタリア国債10年物利回りが急上昇(価格は急落)、株価は急落しています。

改革を頓挫させないよう首相の職をかけた反撃
****伊首相、捨て身の辞意表明 構造改革の継続狙う****
・・・・「ノーベル平和賞を受ける私たち欧州が、誤った道を歩むわけにはいかない。ナショナリズムとポピュリズムに警戒が必要だ」。モンティ氏は8日、仏カンヌでの国際会議の場でこう発言。とって返したローマで大統領に辞意を伝えた。
批判の矛先は、この日に首相返り咲きを目指す意向を示したベルルスコーニ前首相に向けられていた。「国民は緊縮策で破滅に陥りつつある」「独仏両国の言いなりになっている」と批判を強めていたからだ。

経済学者のモンティ氏は昨年11月、財政不安のさなかに退いたベルルスコーニ氏の後を大統領に託された。増税や規制緩和など矢継ぎ早の対応で、市場は落ち着く方向に向かった。
ただし、マイナス成長は続き、失業率も高まった。国民には「改革疲れ」の感が漂う。11月には就職難を訴える学生や労働組合が、反緊縮デモや集会を繰り返し、警察当局と衝突した。

選挙で選ばれたわけではないモンティ氏の基盤は、ベルルスコーニ氏率いる「自由の国民」と、民主党の2大政党。ベルルスコーニ氏らの離反がはっきりしたことで、改革を頓挫させないよう首相の職をかけた反撃に出たとみられる。
2月に前倒しが予想される総選挙では、改革を続けるかどうかが争点になる。

ベルルスコーニ氏には中小企業主らの支持が厚い。お笑い芸人ベッペ・グリッロ氏が率いる「五つ星運動」は「(改革が)救うのは国民ではなくユーロと金融機関だ」と批判。2009年に始動し、支持は20%近くに達している。
支持率トップの民主党の首相候補、ベルサーニ書記長はモンティ改革の継続を掲げるものの、支持母体の労働組合は労働市場改革などに強く反発している。

劣勢にみえる首相だが、下がったとはいえ支持率はなお33%。経済界にも続投を期待する声がある。財界のリーダーである高級車メーカー・フェラーリのモンテゼモロ会長は、続投の受け皿となる新しい政治団体の設立を表明した。旧キリスト教民主党系の中道政党も賛同する。

首相の辞意表明にローマのタクシー運転手は「厳しい緊縮は嫌だが、やらないわけにはいかない」。国民も厳しい選択を迫られる。

■市場も反応 くすぶる不安
モンティ首相の辞意表明を受け、10日の欧州金融市場では、財政不安からイタリア国債が売られ、10年物の利回りは一時4.9%台に上昇した。財政再建に取り組んだモンティ氏の退陣で、構造改革が遅れる可能性があるとの見方が出た。イタリアの株価指数は一時、前週末比3%超下げた。財政不安があるスペインの国債も売りが先行した。

ベルルスコーニ氏は昨年11月、信用不安が高まる金融市場の圧力に抗しきれずに退陣。イタリアの10年物国債の利回りは当時、「危険水準」とされる7%超で欧州の債務危機の最大の懸案の一つだった。
モンティ政権の緊縮財政は一定の評価を受け、欧州中央銀行(ECB)が9月に打ち出した国債買い入れ策のもと、国債利回りは低下(価格は上昇)し、最近は4%台半ばだった。
ただ、モンティ氏はもともと来春までが任期。市場は次期政権の改革路線の行方に注目している。【12月11日 朝日】
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ベルルスコーニ流の「ジョーク」?】
騒動の引き金を引いたベルルスコーニ前首相ですが、相変わらずのお騒がせぶりです。モンティ首相が出馬するなら自分は身を引く用意がある・・・といった発言をしており、その真意がどこにあるのか注目を集めています。

****ベルルスコーニ氏、返り咲き断念=モンティ首相に出馬提案?―伊****
来年のイタリア総選挙で首相返り咲きを目指すベルルスコーニ前首相(76)は12日、モンティ首相(69)が中道右派の首相候補として出馬を決断すれば、自身は身を引く用意があると語った。ただ「現時点では私が引き続き首相候補」とも述べ、発言の真意をめぐり臆測を呼んだ。

AGI通信によると、ローマで開かれたイベントに出席したベルルスコーニ氏は「もしモンティ首相が(中道右派を)率いるなら、私は出馬しない」と明言。「自ら進んで出馬したのではなく、支持者が推したからだ」と釈明した。
また、自らが率いる政党「自由国民」を軸とする中道右派連合の首相候補になるようモンティ氏に提案したと説明。ただ同氏は出馬意向を示さなかったという。

その直後、「(中道右派の)首相候補は引き続き私だ」「(自由国民の)アルファノ幹事長が首相の有力候補だ」と発言が二転三転。伊紙はベルルスコーニ流の「ジョーク」として、同氏は出馬を断念しないとみている。【12月13日 時事】
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“お騒がせ男”ベルルスコーニ前首相の言動に、イタリアの危機再燃を懸念する欧州首脳も警戒感を強めています。

*****ベルルスコーニ氏けん制に躍起=返り咲きに警戒感―欧州首脳****
イタリアで首相返り咲きを狙うベルルスコーニ前首相に対し、欧州の首脳が警戒感を強めている。同氏の奔放な言動や反緊縮財政の姿勢が、沈静化しつつある債務危機を再燃させかねないためで、13日にブリュッセルで開幕した欧州連合(EU)首脳会議などでは、ベルルスコーニ氏をけん制する発言が相次いだ。

ドイツのショイブレ財務相は「イタリアはモンティ首相の下、前政権と違い多くを成し遂げた」と発言。EU欧州委員会のバローゾ委員長は「(ベルルスコーニ氏が返り咲きを狙う)来年のイタリア総選挙は、構造改革や財政健全化をやめたり、手綱を緩める言い訳にはならない」と訴えた。

一方、ベルルスコーニ氏は党派会合で、学者出身で無党派のモンティ首相が中道右派の首相候補として総選挙に出馬すれば、自分は身を引くと発言。真意は定かではないが、同首相に揺さぶりをかけた可能性もある。【12月14日 時事】
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なお、ベルルスコーニ前首相は、“自由国民党の公式ウェブサイトに掲載された公開書簡では、イタリアを「崖っぷち」に導いているとモンティを批判、状況は(自身が汚職と性的スキャンダルで辞任に追い込まれた)「1年前よりはるかに悪化している」と嘆いている。「企業は倒産し、市場はめちゃくちゃだ。私はこの国が終わりなき経済の悪循環に陥っていくのを見過ごすわけにはいかない」”【12月19日号 Newsweek日本版】・・・と主張しています。

ベルルスコーニ前首相の訴訟については、“イタリア有数の富豪でもあるベルルスコーニ氏は裁判で多数の係争を抱えていることでも有名で、今年10月には脱税で禁錮4年の有罪判決を受けていた。しかし、同国の司法制度では被告のベルルスコーニ氏らには2回の上訴が認められ、事件の時効が来年成立するため、被告ら全員が服役を免れる可能性がある。ベルルスコーニ氏はまた、未成年少女の買春の罪でも起訴されている”【12月9日 CNN】

また、数日前の現地TVニュースでは、ベルルスコーニ前首相が首相復帰を目指しても、その実現可能性は低く、政権復帰云々の発言は、自身の政治勢力の退潮を食い止め、政界への発言力を維持するためのものだといった意見を報じていました。そして政治的発言力に固執するのは、自身の訴訟や経営的に苦しくなっている自身の事業への影響力を行使したいためだとも。
辛辣な意見ですが、「そうかもしれないね・・・」と思わせるところが、不徳の致すところでしょう。
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タイ  終わらない対立 タクシン・反タクシンと深南部のイスラム過激派テロ

2012-12-14 23:13:41 | 東南アジア

(2010年5月15日の「赤シャツ隊」強制排除の際、兵士に向かって発砲する「赤シャツ隊」側のメンバー “flickr”より 当時の「赤シャツ隊」の状況について、“本来非暴力主義を貫こうとしているようだが、過激な行動に出る者もいて統制が取れない面もある”【ウィキペディア】との指摘も By ReportageEditor http://www.flickr.com/photos/reportageonline/4766760992/

アピシット前首相を殺人罪で告訴の方針
「騒乱で殺人容疑、前首相が出頭=訴追に向け手続き開始―タイ」という新聞見出しを見て、“海外逃亡中のタクシン元首相が帰国して出頭するのか・・・タクシン・反タクシンの対立続いていたタイも、これで国民和解に向けて大きく動くかも・・・”と一瞬勘違いしてしまいました。
出頭するのはタクシン元首相ではなく、アピシット前首相です。

****アピシット前首相らを告訴へ…タイ法務省****
タイ法務省の特別捜査局(DSI)は13日、アピシット前首相とステープ前副首相を召喚し、2010年にバンコクで起きたタクシン元首相派のデモ隊と治安部隊の衝突を巡り、2人を殺人罪で検察に告訴する方針を伝えた。

衝突では、デモ隊や市民、警察官など90人以上が死亡したが、告訴の対象は、タクシー運転手が治安部隊の発砲で死亡したことを裁判所が認定した件。治安対策の最高責任者だった前首相らが実弾の使用を認めたことが死亡につながったとして、刑事責任を求める。ただ、告訴や裁判の手続きは複雑なため、判決まで長期間かかるとみられる。【12月13日 読売】
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2010年4月10日の反タクシン派・アピシット政権によるタクシン支持派「赤シャツ隊」(UDD)強制排除では、日本人カメラマンの村本博之さんも犠牲になっています。
当時、タイ軍は兵士数人が威嚇目的で空に向かって実弾を撃ったことは認めましたが、それ以外の兵士がデモ隊を散らすために使ったのは空砲とゴム弾だったと主張、政府も「部隊はデモ隊に向け実弾射撃は行っていない」と主張していました。

アピシット首相(当時)の決断による強制排除は失敗に終わり、政権求心力は著しく低下。
タクシン派の抗議行動はその後も続きましたが、内部的に混乱・対立もあり、5月13日UDD強硬派リーダーが狙撃されたのをきっかけにデモ隊側と軍が衝突、軍は実弾の使用を宣言する形で強制排除を断行しました。

アピシット首相は混乱の収拾のため下院の早期解散に打って出ますが、結局、現在のタクシン派・インラック政権に替っています。
4月の強制排除失敗当時も、アピシット前首相とステープ前副首相は赤シャツ隊側の求めに応じ法務省特別犯罪捜査局に出頭して調べを受けると報じられていましたので、今回の出頭もその一連の捜査によるものでしょう。

“(アピシット首相らが出頭した)法務省特別犯罪捜査局(DSI)周辺には、タクシン元首相支持派の数十人が集まり、前首相に対する抗議の声を上げた”【12月13日 時事】とのことですが、意外に“静かな”対応に思われます。
“判決まで長期間かかる”ということですから、ヒートアップするのはまだ先の話なのでしょう。
なお、DSIは前首相らの身柄拘束はせず捜査を続ける方針とのことです。

一方、反タクシン派の反政府行動としては、08年の空港占拠で現在まで続く混乱の火ぶたを切った形の「民主市民連合」(黄シャツ隊)とは別組織によるものが、先月末報じられています。

****群衆に催涙ガス、けが人も=首都で大規模反政府集会―タイ****
タイの首都バンコクで24日、インラック政権に批判的な退役軍人らの団体「ピタク・サイアム」が大規模反政府集会を開いた。規制を突破しようとした参加者らに対し、警察が催涙ガスを使用。AFP通信によると、37人が負傷した。

集会は数万人が参加し、首相府近くで行われた。首相府前の道路では、デモ隊の一部が警察の封鎖を突破しようと試みたところ、警察は催涙ガスを発射してこれを抑え込んだ。その後も警察とデモ隊のにらみ合いが続き、小競り合いに発展することもあった。

集会を主催したのは愛国主義を掲げる団体で、2008年に空港を占拠した反タクシン元首相(インラック首相の兄)派「民主市民連合」とは別。しかし、同連合の支持者も一部が集会に合流したもよう。

政府は22日、「集会は暴動に発展する恐れがある」として、バンコクの一部に治安維持法を発令。会場周辺に数千人の警察官を配置し、厳戒態勢を敷いた。【11月24日 時事】
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インラック首相はタクシン元首相の妹ということで、反タクシン派からすれば元首相の傀儡ということになります。また、政権・与党側では元首相復権への動きも画策されているようです。
タクシン・反タクシンの対立はまだしばらくは続きそうです。

和平に消極的な国軍、分裂を繰り返し、統制がとれていない武装勢力
タクシン・反タクシンの対立と並んで、「微笑みの国」タイの抱えるもう一つの深刻でより凄惨な問題が、タイ深南部の反政府イスラム武装勢力によるテロ。
首都バンコクから遠く離れていることもあって、タクシン・反タクシンの対立ほど大きく扱われることはありませんが、イスラム教徒のマレー系住民が9割近くを占めるタイ最南部では8年前から独立を目指すイスラム武装組織と治安当局との間の紛争が続いており、すでに5000人以上の犠牲者が出ています。暴力の応酬は泥沼化したまま出口が見えていません。

****テロ続くタイ南部、1200校を臨時休校に****
イスラム過激派のテロが続くタイ南部で最近、教師が銃撃で死亡するケースが相次いでおり、13日に現地の小学校など約1200校を臨時休校にして、インラック首相が現地で関係者と治安対策を協議した。

南部のヤラ県など3県では2004年以降、分離独立を求めるイスラム過激派のテロが頻発し、11日も学校内で校長と教師が銃撃で死亡、別の地区では乳児を含む住民6人が犠牲になった。先週も女性教師が射殺されており、学校関係者の犠牲者は04年以降、教師124人、職員34人の計158人にのぼっている。

政府は安全確保のため、軍兵士や警官を学校などに配置しているが、教師からは「治安要員が足りず、対応は不十分だ」との不満が強く、多くは安全な地域への異動を希望しているという。【12月13日 読売】
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学校関係者の他、仏教寺院僧侶、治安当局関係者などがしばしばテロの対象となっています。
最近目にした記事だけでも、
“タイ最南部ナラティワート県で11月18日朝、列車が駅で停車していたところ、線路に仕掛けられていた爆弾が爆発、直後に武装集団が列車に向けて銃撃。地元メディアなどによると、民兵2人が死亡、乗客ら30人以上がけがをした”【11月18日 朝日】
“タイ最南部パタニ県で9月21日、車が爆発し、AFP通信によると少なくとも5人が死亡、約40人が重軽傷を負った。車に爆発物が仕掛けられていたとみられる” 【9月21日 時事】
“タイ最南部のマレー系武装組織によるとみられるテロ活動がイスラム教の断食月(ラマダン)に入った7月20日以降、活発になっている。8月1日未明までに20件を超える爆発や襲撃事件で、25人が死亡し、約40人が負傷した”【8月2日 朝日】
といった事件が報じられています。

宗教・民族・文化歴史の違いという背景はありますが、泥沼化した対立が収まらない原因として、軍の消極姿勢、武装組織側の統制の不十分さが指摘されています。

****忘れられた戦争〉和平の道 阻む内部対立****
・・・・最南部の情勢に詳しいプリンス・オブ・ソンクラー大学のシーソンポップ助教授は、紛争が長引く大きな要因として、(1)和平に消極的な国軍(2)分裂を繰り返し、統制がとれていない武装勢力の2点を挙げる。

インラック政権は今年1月以降、初めて陸軍将校を加え、隣国マレーシアなどで武装勢力との接触を始めている。複数の関係者によると、インラック首相の兄、タクシン元首相も3月にクアラルンプールでPULO(マレー系武装組織「パタニ統一解放機構」)と面会したという。
だが「国軍は、武装勢力に屈したという印象は避けたいし、和平が実現すれば予算は大幅に削られる。消極姿勢に変化はない」(消息筋)という。

2年前、事実上の停戦が限定的に試みられたこともあった。武装組織幹部の統率能力を示すため、1カ月間、ナラティワート県の一部でPULOなどが一方的に戦闘停止を表明した。
この経緯を慎重に見極めていた前政権の首脳は「事件は減ったが、皆無ではなかった。結局、PULOなどの影響力は検証できなかった」と明かす。カストゥリ氏も「和平を快く思わない集団がいるのは事実。戦闘員の過半数は我々の指揮下にある」と述べ、一部では統制が利いていないことを暗に認める。

双方が問題を抱えるなか、暴力の応酬がやむ気配はない。【6月7日 朝日】
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野党・アピシット前首相はインラック首相に対し、問題解決に向けて主導的役割を果たすよう要求しています。

****最南部テロ、野党が首相に主導的役割を要求****
タイ最南部でイスラム過激派がテロ活動を活発化させている問題で、最大野党・民主党のアピシット首相は9月16日、インラック首相に対し、問題解決に向けて最南部の治安回復と開発促進で、主導的役割を果たすよう要求した。

問題の解決策については、政府と同党の間で18日に協議が行われることになっているが、アピシット党首は、首相が南部問題の解決を複数の関係者に任せており、これが混乱を招いていると指摘。
また、同党首は先に、過激派100人あまりが治安当局に投降したことについて、「現在も多くの過激派グループが暗躍しており、『政府の努力が実った』と評価するのは早計」としている。【9月17日 バンコク週報】
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上記記事にある“過激派100人あまりが治安当局に投降した”というのは、ナラティワート県で9月11日、過激派91人が陸軍第4管区司令部に出頭した件のことです。
投降者はすでにテロ活動にはかかわっていないとして、平穏な生活に戻るための法的支援をウドムチャイ同管区司令官に求めていると報じられています。【9月12日 バンコク週報より】

他の武力衝突と同様に、対応は“対話・交渉”を重視した路線と、強権的対応の路線が交互に繰り返されていますが、解決に至っていません。
宗教・民族・文化歴史の違いは如何ともしがたいものがありますので、政府としては国軍への指導、経済格差是正のための開発促進、イスラム文化の尊重といった面での努力が求められています。
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北アイルランド 英国旗問題で宗派間衝突が再燃

2012-12-13 22:18:53 | 欧州情勢

(ベルファストでは、カトリック系住民とプロテスタント系住民の居住区域は“平和の壁”とも呼ばれる壁で隔てられています。抗争の激化を防ぐために造られた壁で、相互の往来は可能ですが、壁越しに火炎瓶や石が投げ込まれることもあるとか。 “flickr”より By KP! http://www.flickr.com/photos/gokp/216169148/
 
和平プロセスの進展
プロテスタント系住民の希望するイギリスとの連合維持か、カトリック系住民の希望する南部アイルランドとの統一かで激しい対立があり、繰り返されたテロにより約40年間で3600人もの犠牲者を出した「北アイルランド問題」については、政治的枠組みとしては一応の合意がなされており、テロ活動も収束しています。

そのあたりの話については、エリザベス女王が元首としてはほぼ100年ぶりに隣国アイルランドを公式訪問することを発表した際に、ブログでも取り上げました。
(2011年3月6日ブログ 「近くて遠い国」アイルランド 英エリザベス女王、初訪問 http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110306

政治的合意内容について、再録すると以下のようなものです。
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1998年4月10日のベルファスト合意により、イギリスとの連合維持のプロテスタント系ユニオニストとアイルランドとの統一を目指すカトリック系ナショナリストの双方が北アイルランド政府に参加することとなり、一応の終息に向かっています。感情的な“しこり”は別問題ですが。

1998年の和平合意では、南北の統一は北アイルランドの住民が合意しない限り実現できないこと、アイルランド共和国が憲法を修正し、北アイルランドの領有権を訴えている部分を取り除くことが定められています。
これを元にアイルランド共和国では憲法修正を行い、領有権の主張を放棄しています。
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エリザベス女王は11年5月にアイルランドを訪問し、一定の成果を収めました。
“同女王の訪問前夜にはバスから爆発物が見つかり、数百人の抗議活動も行われたが、独立戦争の犠牲者に弔意を表した女王に対し、最後の訪問先、南部コークの市場では歓声が上がったほどだ。
アイルランド紙は「未来への希望でしかなかったことが今、目の前を通り過ぎた」と感激を表した。IRAの政治組織シン・フェイン党のアダムズ党首も英紙への寄稿で「今回の訪問はわれわれを悩ませるものだったが、新しい関係の可能性を示した」と述べた”【11年5月22日 産経】

また、今年6月には北アイルランドのベルファストで、エリザベス女王がIRA元指導者と握手を交わすセレモニーも行われました。

****英女王、元IRA司令官と握手=和平プロセス進展象徴****
エリザベス英女王は27日、北アイルランドのベルファストで、反英テロ活動を繰り広げたカトリック系過激組織アイルランド共和軍(IRA)の元司令官で現在は北アイルランド自治政府の副首相を務めるマクギネス氏と握手した。

IRAは「英国による北アイルランド支配」を終わらせるため1970年代からテロ活動を本格化させ、79年には女王の夫フィリップ殿下の叔父マウントバッテン卿も爆弾テロで殺害した。

北アイルランドでは98年のプロテスタントとカトリック双方の政党による和平合意後、和解プロセスが進展。今回の女王と元IRA司令官の握手はこれを象徴する出来事と位置付けられている。【6月27日 時事】
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根深い“感情的しこり”】
前回ブログで“いろいろな紆余曲折はあるものの、概ね和平定着の方向に進んでいるものと思われます”と書いたように、政治的枠組みとしては“和平定着の方向”にあります。
ただ、これも前回ブログで取り上げたように、“感情的しこり”はまた別問題です。

前回ブログで紹介した下記記事が、そのあたりの“しこり”を表しています。
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それでも、北アイルランドの約170万人の人口をほぼ2分するプロテスタント系(53%)とカトリック系(43%)の住民がそれぞれ一定の地域に住み、交流をしない傾向は強まっていると指摘する。「一言で言うと、アパルトヘイトだ」。

2001年の国勢調査を見ると、ベルファーストのアルドイン地区には圧倒的にカトリック系住民が多く、プロテスタント系は1%だけ、逆にプロテスタント系が多いシャンキル地区ではカトリック系は3%のみとなっている。ベルファーストだけに限らず、北アイルランドの大部分の地域ではいずれかの住民が宗派ごとに固まって住む傾向がある。多くの人が自分が所属する宗派同士で住んだほうが安全だと考えるからだ。ある地域で少数派となれば、いじめや暴力行為の対象になりやすく、それぞれの宗派の自警民兵組織(実際は「暴力団」と言ったほうが近いのだが)に、出て行けと様々な脅しを受けることも珍しくない。(10年6月18日 日刊ベリタ 「北アイルランドは今」(http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201006180042035)
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容易に再燃する憎しみ・不信感
エリザベス女王のアイルランド訪問後の11年6月にも、宗派間の衝突が報じられています。

****北アイルランド・ベルファストで宗派間衝突、ここ数年で最悪****
北アイルランド・ベルファスト東部で20日、プロテスタント勢力とカトリック勢力の大規模な衝突が起きた。暴徒化した人々は警官隊とも衝突を繰り返し、21日には取材中のカメラマンが銃撃され負傷。3日目の22日夜は武装警察が展開し大きな衝突はなかったが、にらみ合った200人ほどが石や瓶などを投げ合うなど、ここ数年で最悪の宗派間抗争が続いている。

衝突が起きているのは、ベルファスト東部のプロテスタント地区にはさまれたカトリック地区、ショートストランド付近。地元当局によると衝突は、プロテスタント系とみられる一団が同地区の住宅を襲撃したことがきっかけで始まった。北アイルランド警察は、英国による統治存続を望み和平プロセスに反対しているプロテスタント系武装組織、アルスター義勇軍(UVF)の東ベルファストのグループが衝突の発端だと非難している。

21日夜の衝突では、暴徒らが警官隊に向けて火炎瓶などを投げ、警官隊が放水で応酬するなか、現場で取材していた英通信社プレス・アソシエーション(PA)のカメラマン1人が足を撃たれ病院に運ばれた。現場にいたAFPカメラマンによると、レンガ塀の向こうに銃を持った手が見えた直後に4、5発の銃声が聞こえた。銃撃はカトリック地区側から無差別にあったという。

北アイルランドでは、プロテスタント勢力が毎年7月、1690年にプロテスタント英国王ウィリアム3世(オレンジ公ウィリアム)がカトリックのスコットランド王ジェームズ2世を破ったボイン川の戦い(Battle of the Boyne)の勝利を祝う大行進を行い、しばしばカトリック勢力と衝突を繰り返している。【2011年6月23日 AFP】
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そして、今回は市庁舎での英国旗(ユニオンジャック)の掲揚をめぐって衝突が再燃しています。
****英国旗掲揚めぐり紛争再燃 北アイルランド過激派が暴動*****
英国・北アイルランドで「紛争」が再燃している。主要都市ベルファストの市庁舎での英国旗(ユニオンジャック)の掲揚をめぐる衝突で、警察車両などへの放火が連日続く。来夏に主要8カ国(G8)首脳会議を北アイルランドで開く英国は、火種を抱え込んだ。

発端は北アイルランド自治議会の決定。カトリック系の政党が英国旗の掲揚廃止を求めたが、プロテスタント系の政党が反対した。中間派の政党が、エリザベス女王の誕生日など年20日に限って掲揚する妥協案を提出し、3日、成立した。

これに反発したプロテスタント系の過激派が放火や暴動を繰り広げ、警官や報道のカメラマンら30人以上が負傷している。
10日夜にはベルファスト市内でパトカーの窓ガラスが割られ、火炎ビンが投げ込まれた。乗っていた警官は逃げて無事だった。攻撃の矛先はとりわけ、中間派政党に向かっており、パトカーは、殺害予告を受けた同党の議員の事務所を警備中だった。

北アイルランドは、1937年のアイルランド独立後も英国に残った。アイルランドへの併合を求めるカトリック系住民と英国統治の継続を望むプロテスタント系住民の対立が激化し、60年代からのテロで3千人以上が死亡。98年に和平合意が成立し、07年に自治政府ができて紛争は落ち着きを見せていた。【12月13日 朝日】
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“感情的しこり”、もっと端的に言えば、“憎しみ”“不信感”が癒されるまでには、どれだけの時間が必要なのでしょうか?数十年でしょうか?数百年でしょうか?
自分たちだけの正義を振りかざし、ことさらに対立を煽る者の存在、社会的・経済的問題の原因を対立するグループのせいにする風潮・・・そうしたことによって再燃し、なかなか容易には解決しない問題です。
中国・韓国の反日感情、日本国内の嫌中・嫌韓感情などもその類でしょう。

“十曰。絶忿棄瞋。不怒人違。人皆有心。心各有執。彼是則我非。我是則彼非。我必非聖。彼必非愚。共是凡夫耳。是非之理詎能可定。相共賢愚。如鐶无端。是以彼人雖瞋。還恐我失。我獨雖得。従衆同擧。”
このようにありたいものです。
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アルゼンチン  景気悪化とインフレーション インフレ率操作の疑惑も

2012-12-12 23:46:12 | ラテンアメリカ

(支持者サービスでしょうか、フェルナンデス大統領(写真右の女性) “flickr”より By Tecnópolis Argentina 2012 http://www.flickr.com/photos/tecnopolis2012/8159455852/)

経済失速
2001年にデフォルト(債務不履行)を経験したアルゼンチンに今も残るデフォルトの影響については、5月29日ブログ「アルゼンチンに見るデフォルトの後遺症」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120529)で取り上げたことがあります。

デフォルトに至った経緯を再録すると、以下のとおりです。
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以前は経済的豊かさを背景に、政治的・軍事的にもラテンアメリカをリードする国であったアルゼンチンですが、フォークランド紛争・政治的混乱・経済失政から1988年にはハイパーインフレーションを招きました。(1989年には対前年比50倍の物価上昇)
90年代には一旦経済は回復したものの、99年のブラジルの通貨切り下げで国際競争力を失い国際収支が悪化、2001年11月14日には国債をはじめとした対外債務の返済不履行宣言(デフォルト)を発する事態に陥り、国家経済が破綻しました。
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その後は、マクロ経済的には10%近い高い成長率を維持して順調な回復していましたが、このところは欧州債務危機と世界的な景気減速の影響を受け、急速に経済が悪化しています。

****2012年第1四半期の成長率が5.2%に減速****
国家統計センサス局(INDEC)は6月15日、2012年第1四半期の実質GDP成長率は前年同期比5.2%と発表した。08年のリーマン・ショックの影響で景気が冷え込んだ後、10年第2四半期に11.8%と回復。それ以降、9%前後の成長を遂げてきたが、11年第4四半期に7.3%と失速した。12年通年のGDP成長率は2%台との見通しが世界銀行から出されるなど厳しい見方もある。【6月22日 JETRO】
****************

11月2日、ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)は、アルゼンチンの経済成長率について、2012年1.5~2.1%、2013年5%との見通しを発表しています。また、11月8日には、IMFは2012年3.1%、 2013年2.6%との見通しを発表しています。

デフォルトの後遺症
デフォルトから10年以上が経過しましたが、日本政府など先進国からの借金は今も返していません。
そのため、国の格付けは、「投資不適格」とされる「B」(米スタンダード・アンド・プアーズ)のまま。海外市場で実質的に国債を発行できない孤立状態が続いています。
国も銀行も長期資金を海外で借りられないため、インフラ投資が出来ず、住宅ローンも存在していません。

デフォルト(借金踏み倒し)の混乱は今も続いており、アルゼンチンの軍用帆船が、訓練航海で寄港したガーナで差し押さえられるという事件も起きています。その後どうなったのか知りませんが・・・。

****帆船「拘束」1カ月=アルゼンチンが債務未払い―ガーナ****
南米アルゼンチンの軍用帆船が、訓練航海で寄港した西アフリカのガーナで突然差し押さえられたまま、1カ月近くも身動きできなくなっている。アルゼンチン政府による債務未払いに対し、憤慨した債権者のヘッジファンドが資産回収に向け、帆船没収という強硬手段に出たためだ。アルゼンチン政府は国連に支援を求めているが、解決の道筋は見えない。

アルゼンチンは2001年、デフォルト(債務不履行)を宣言。過剰債務削減のために債権者が元本の約7割の損失を被る債務交換を実施し、93%の債権者が受け入れた。しかし残る債権者はあくまで全額返済を主張し、交換を拒否。各地で資産没収を狙い、政府側との対立が続いている。

差し押さえられた帆船は、海軍士官候補生など約320人を乗せたフリゲート艦「リベルタ」。10月初旬、ガーナに入港したが、司法当局は債権者の米ヘッジファンドの訴えに応じ、出港を禁じた。アルゼンチン政府にとっては想定外の事態で、海軍責任者らの解任に発展した。

報道によれば、ヘッジファンド側の債権は計3億7000万ドル(約296億円)に達し、出港許可には2000万ドル(約16億円)を仮払いするよう主張。これに対しアルゼンチン政府は「差し押さえは外交特権の侵害」と譲らない構えだ。【10月28日 時事】
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このヘッジファンドは、“これまでにもフェルナンデス大統領のヘリコプターを差し押さえようとするなど何度も法的手続きをとっており、同国政府は「ハゲタカ」と評している”【10月16日 朝日】とのことです。
借金を踏み倒した側から「ハゲタカ」呼ばわりされるのは、ヘッジファンドとしては納得いかないところでしょう。

先月末には、前回のデフォルト処理に関するアメリカでの訴訟から、新たなデフォルトの可能性も取り沙汰されていました。

****アルゼンチンを3段階格下げ=「デフォルトの可能性高い」―フィッチ****
格付け大手フィッチ・レーティングスは27日、アルゼンチンの外貨建ての長期格付けを「B」から「CC」に3段階引き下げたと発表した。CCは一定のデフォルト(債務不履行)が起きる可能性が高いことを示す格付け。

米連邦地裁が21日、2002年にデフォルトとなったアルゼンチン国債の保有者に対する債務返済を命じたことに対し、アルゼンチン政府が反発。この結果、デフォルト後に債務交換に応じた国債保有者らへの支払いも滞る可能性が高まってきたことが理由。【11月28日】
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この件に関しては、ニューヨーク連邦高裁の判断で、とりあえず当面のデフォルトは回避されたようです。

****米連邦高裁、債務支払い命令の効力停止を認める****
米国ニューヨーク連邦高裁は11月28日、連邦地裁が同月21日に行ったアルゼンチンの債務再編に応じなかった債権者への支払い命令に対して、アルゼンチン政府が申し出ていた効力停止を認め、控訴審における当事者双方の口頭弁論を2013年2月に開催すると決めた。これによってアルゼンチンによるデフォルトは当面回避された。【12月3日 JETRO】
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【「実態を隠して適切な政策がとれるわけがない」】
現在の経済問題は景気悪化と、もうひとつインフレーションです。
11月20日は、全国的なストライキが行われいます。

****元祖デフォルト国家アルゼンチンの受難****
経済無策が招いた景気後退とインフレに抗議する大規模ストで公共サービスはマヒ状態

欧州債務危機と世界的な景気減速の影響を受け、アルゼンチン経済が急速に経済が悪化している。11月20日には、国内の2つの労働組合が所得減税と各種手当の増額を求めて全国的なストに突入した。

労働総連盟(CGT)とアルゼンチン労働者セントラル(CTA)は、合計50万人が加盟する労働組合。首都ブエノスアイレスなど全国の都市で、労働をほぼ完全に停止する24時間のストに踏み切った。2001年の債務不履行(デフォルト)宣言以降で最大の規模だ。(中略)

ストには空港職員やトラック運転手、電車の車掌も参加している。そのため、国内線フライトのキャンセルや、バス・電車の運休、多くの幹線道路の封鎖などを招いた。さらに銀行は休業し、通りにはゴミが放置され、多くの公立病院が急患以外の診察を停止した。

今回のストが意味するのは、昨年の大統領選で圧勝し、再選を果たした左派クリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領への不満の高まりだと、米ロサンゼルス・タイムズ紙は分析する。とはいえ、今年8月の調査の時点で、すでに大統領に肯定的な見方をしている回答者は35.4%しかいなかった。
国民の怒りの矛先は高いインフレ率や治安悪化、役人の汚職、外貨両替えを規制する政策などに向けられている。ストの直前、11月8日にはこうした問題に抗議するデモが行われたばかりだった。【11月21日 Newsweek】
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急激なインフレーションで通貨ペソの価値は低下していきます。そのためドル建て預金、ドルでの取引も多く行われていますが、ペソ防衛のため政府は国民には外貨購入の規制を強化しています。その一方で、大統領など多くの政治家が多額のドル預金を保有していることが問題になったこともあります。

****アルゼンチン閣僚、こっそりドル預金 国民には購入規制****
外貨不足から、国民による米ドル購入を制限しているアルゼンチンで、フェルナンデス大統領や多くの閣僚に多額のドル建て預金があることが分かり、批判を浴びている。大統領は今月上旬、近日中にペソ建てに替えると表明。閣僚にも同じ対応を呼びかけた。

地元紙クラリンなどが、昨年7月に公開された閣僚資産(2010年分)を基に調べたところ、フェルナンデス大統領が307万ドル、ティメルマン外相が33万ドル、アラク司法相が20万ドル、ブドゥー副大統領が15万ドルなど、現閣僚の多くが多額のドル預金を保有。預金総額の8割以上がドル建てという閣僚も複数いた。
資産公開当時、首相だったアニバル氏は「ペソで預金を」と国民に呼びかけていたが、預金の3割にあたる2万4千ドルの預金があることが報じられると「自分の金だ。したいようにする」と開き直った。

アルゼンチンは、過去にペソの価値が暴落するハイパーインフレを経験しており、ドル建てで貯金する国民が多く、不動産もドルで取引されることが多い。だが、国民がペソでドルを買えば買うほど、国が輸入などに使えるドルが減り、ペソの価値も下がる。

このため、政府は、国民の預金額に応じた外貨購入制限に加え、3月以降、国内のペソ預金者が海外の現金自動出入機(ATM)でドルを引き出せないようにしたり、海外旅行用にドル購入を希望する人に、行き先や旅程、旅費が一括払いか分割払いかなどを事前に届けることを義務づけたりするなど規制を強化。
国民から「政治家や企業経営者がためているドルこそペソに替えるべきだ」と批判の声が上がっていた。【6月15日 朝日】
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こうした政治家のプライベートな面での不適切行為以上に問題なのは、政府が国家施策としてインフレーションの実態を隠ぺいしようとしていることです。

****アルゼンチン、物価の闇 インフレ率操作か、政府に疑惑****
アルゼンチン政府はインフレ率を低く操作しているのではないか。そんな疑惑が消えない。「実態」を独自に公表した民間企業や団体は次々と罰金などの処分を受けた。国際通貨基金(IMF)が求める改善の期限が17日に迫るが、政府は「IMFと戦う姿勢」を鮮明にしており、応じる様子はない。

■補助金で安価演出?
「アルゼンチンでは、ビッグマックが格安」。そんな話を聞いて、首都ブエノスアイレス中心部のマクドナルドをのぞいてみた。
確かに安い。飲み物とフライドポテトがつくセットは、13種類中で最安の26ペソ(約440円)。最も高い商品の半額だ。しかもメニューの一番下に、写真なしでひっそりと載っていた。

「物価上昇を隠すため、担当大臣が企業側に価格を上げないよう指示している」と同国の複数の経済アナリストが話す。ビッグマックの価格は、通貨価値や物価の国際比較でよく使われるためだ。ある店員は「宣伝しないのは、多く売れるともうからないからだと聞いた」と明かす。

ハンバーガーの材料の牛ひき肉はいくらするのか。ブエノスアイレス中央市場の精肉店を訪ねてみると、「公定価格」と書かれたコーナーに、1キロ12ペソ(約200円)の商品があった。一般商品の6割程度の値段だ。だが、品ぞろえは薄く、明らかに白い脂身が目立つ。買い物客は見向きもせず、一般商品だけがどんどん売れてゆく。

公定価格品は、政府の補助金で価格を抑えた商品で、コメや油など数十種類あると言われる。
市内の大手スーパーをのぞくと、トマトが1キロ28ペソ(約470円)していたが、店員に安いものはないかと尋ねると、かなり小ぶりだが1キロ3ペソ(約50円)のトマトが出てきた。これも公定価格品だ。だがこうした品を置いている店はごくわずかだ。買い物に来ていた主婦(69)は「公定価格品は少ないし、たいてい質が悪い。買うことはほとんどない」と話す。

同国の国家統計局(INDEC)が公表する物価やインフレ率の計算に、補助金を入れて安くした公定価格品の物価が使われているのではないか。こうした「疑惑」を同国の複数の経済アナリストが指摘し、「実態を反映していない」と批判している。INDECに取材を申し込んだが、回答は得られなかった。

■民間の統計に圧力
INDECが発表した今年8月のインフレ率(前年同月との比較)は10.0%。だが野党の国会議員有志が民間データを元に発表する「議会指標」では24.2%だ。消費者支援をうたう非政府組織(NGO)コンスミドールリブレが計算した今年1~10月のインフレ率は約19%だった。

違いが明白になったのは2007年からだ。公式のインフレ率が10%を超える時期が続き、当時のネストル・キルチネル政権下で「運営改善」を名目に複数のINDEC職員が更迭された時期と重なる。以後、公式統計では一時、5%台にまで下がった。

一方で最近、民間への締め付けが目立つ。コンスミドールリブレは今年8月、「公表数値が信頼できない」などの理由で、政府から団体資格を停止された。エクトル・ポリノ代表(79)は「都合の悪い情報を隠したいのだろう。裁判で戦う」と話す。民間コンサルタント数社も昨年来、相次いで50万ペソ(約850万円)の支払いや訂正記事の掲載を命じられ、次々に指標の公表を取りやめた。

「議会指標」の公表は、こうした状況を懸念して始まった。民間コンサルタント8社のデータの平均値で、「実態に近い」と評価されている。民間企業や公務員の賃上げ交渉でもこの指標が参考にされている。

■「貧困を隠す狙い」
インフレ率が低いと、どんな利益があるのか。操作を指摘する専門家の多くが挙げるのは、インフレ率によって元本や利率が変わる国債の償還額抑制だ。
中央銀行などによると、同国の債務残高1800億ドル(11年9月末時点)のうち、インフレ連動債は375億ドルと全体の2割を占める。01年の債務不履行(デフォルト)以来、同国は外貨獲得に頭を悩ませており、償還で海外に流出するドルはできるだけ少なくしたい。

ポリノ代表は「貧困の現実を隠す狙いもある」とも指摘する。賃金が現実の物価上昇を反映して上がる一方で公式のインフレ率が上がらなければ、統計上、可処分所得が増える形になるからだ。
IMFは10年以降、アルゼンチンの経済指標の信頼性に疑問を示し、政府に改善を求めてきた。今年2月にも改善を勧告。だが、期限になっても成果が見られないとして、さらに3カ月の猶予期間を与えた。IMFのラガルド専務理事は「改善されなければレッドカードを出す」と制裁をほのめかしたが、アルゼンチンのフェルナンデス大統領は国連総会の一般演説の場で「いかなる圧力にも屈しない」と反論した。

90年代にアルゼンチンの民営化や規制緩和を推進してきたIMFに対する国民の拒否感は根強い。大統領の強硬姿勢はそんな国民感情を反映しており、専門家の多くは、政府は修正に応じないと見る。ポリノ代表は「IMFと戦うことが大統領の人気を高める可能性もある」と話す。

ブエノスアイレス繁華街の売店で店頭の新聞の見出しを眺めていた男性(62)は「公式統計が実態と違うことは生活していればわかる。でも、外国人投資家への支払いが減るなら国のためになる」と政府を擁護した。だが街では批判的な声が目立つ。タクシー運転手の男性は「実態を隠して適切な政策がとれるわけがない。世界の信頼まで失ってしまう」と嘆いた。 【12月12日 朝日】
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「実態を隠して適切な政策がとれるわけがない」というのが正論でしょう。
フォークランド紛争のイギリスや、IMFを相手にした国民受けのいい対応に終始していては事態は改善しません。
“フェルナンデス大統領自身は、エビータの再来の線を考えているようですが、大衆受けを狙ったポピュリズム的な施策は、かつてのハイパーインフレーションやデフォルトという失敗にもつながります”というのが前回ブログの結論でしたが、今回も同じです。
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アフガニスタン  外国部隊撤退、次期大統領選挙などに向けた動き 美容整形を希望する女性たち

2012-12-11 23:46:47 | アフガン・パキスタン

(3月20日 カブール 新年を祝う人々で賑わう街並みを見下ろす丘の上のカップル これは“平和のしるし”でしょう。 “flickr”より By mardomak 2012 http://www.flickr.com/photos/77615748@N08/7748060488/

数字上は治安状況に大幅な改善は見られなかった
アフガニスタンでのタリバンの戦闘・活動状況に関する記事を最近あまり目にしませんので、現在アフガニスタンでの力関係がどのようになっているのかよく知りません。
目にする機会が比較的多かったのは、米軍・ISAFとタリバンの戦闘というよりは、アフガニスタン治安関係者が外国軍人に発砲するなどの「身内攻撃」に関するニュースでした。

****反政府勢力の襲撃微増=アフガン情勢で報告書―米****
米国防総省は10日、今年4~9月のアフガニスタンの治安情勢に関する定期報告書を発表した。それによれば、同国内で起きた反政府武装勢力による襲撃件数は前年同期比約1%増で、数字上は治安状況に大幅な改善は見られなかった。

報告書はさらに、アフガン兵が味方であるはずの外国駐留部隊などを襲う「身内攻撃」の発生件数について、2011年は43件だったのに対し、今年は9月末までで66件に達したと明記。こうした攻撃は駐留部隊の任務遂行を「著しく阻害する恐れがある」と警告し、攻撃の一因として、アフガン兵に外国軍を襲うようけしかける武装勢力側の「プロパガンダ」の影響を挙げた。【12月11日 時事】 
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アフガニスタンは厳しい冬季に入っていますので、少なくとも来年春までは大規模な戦闘は起こりにくい状況ではないでしょうか。

14年末撤退の後は・・・・
国際社会の関心も、NATO主導の国際治安支援部隊(ISAF)がアフガニスタンから14年末に撤退した後のことに移っているようです。

****NATO外相会議:アフガン撤退後の軍支援協議入り****
北大西洋条約機構(NATO)の外相会議は5日、NATO主導の国際治安支援部隊(ISAF)がアフガニスタンから14年末に撤退後、アフガン治安部隊に資金提供するメカニズムについて協議を開始した。
日本も協力国として会議に招かれた。

年約42億ドル(約3400億円)と見込まれる資金提供で汚職や横領を避け、いかに透明化を図るかが焦点だ。
年42億ドルのうち約半分を米国が、約10億ドルを各国が拠出する想定で、目標達成のため分担協議を継続する。アフガン支援関連の基金を通しての提供や外部監査を強化するなど透明化を図る見通し。

ISAFが撤退した後、15年から新たに国際訓練助言支援部隊(ITAM、仮称)をNATO主導で設置する予定。NATO加盟28カ国以外のITAMへの協力国は、6カ国からウクライナなど8カ国に増えた。2月の国防相会議に向け、規模や任務など具体案を詰める。

日本は今年5月のNATOサミットで15年からも治安部隊への「適切な支援」を表明した。5日は坂場三男ベルギー大使が出席して協力を確認する。【12月5日 毎日】
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なお、アメリカは15年以降についても、アルカイダなどのテロ組織対策として1万人規模の米兵駐留を求めているようです。

****15年以降も1万人維持=アフガン駐留軍、テロ戦継続―米紙****
26日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルなどは、米政府が2014年末を期限とするアフガニスタンへの治安権限の移譲後も、アフガンに米兵約1万人を駐留させる方向で検討に入ったと報じた。米政府は、駐留継続を定めた協定締結のため、アフガン政府と協議を始めたという。

米軍は現在約6万6000人のアフガン駐留兵力を段階的に縮小し、14年末までに大規模な戦闘任務を終結させる方針を固めている。同紙などによれば、これ以降も駐留を続ける約1万人は、国際テロ組織アルカイダや、アフガン北東部で活動するパキスタンのイスラム過激組織「ラシュカレトイバ」などの掃討に当たる。【11月27日 時事】
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タリバン:和平交渉再開に向けた動きも
タリバン側の動きとしては、10月末に、中断している和平交渉に向けた協議に応じる用意があることを示唆したオマル師の声明がありました。オマル師が生存しているのかも定かではありませんが。

****タリバーン、対米協議の再開を示唆 オマール師が声明****
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバーンの最高指導者オマール師は24日に声明を出し、今年3月から中断している米国との和平交渉に向けた協議について「武力闘争とともに政治的な取り組みも続ける」と述べ、協議に応じる用意があることを示唆した。

声明は、アフガン駐留の国際部隊が撤退した後について「われわれが権力を独占することはなく、国内で戦争を始めることもしない」と述べた。また、米国やアフガンなどに収容されているタリバーンの捕虜の解放も要求した。
タリバーンは今年1月、中東カタールで米国との協議を再開したが、米国が捕虜交換などに応じなかったことを理由に協議打ち切りを宣言していた。 【10月26日 朝日】
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対米テロなどを繰り返している強硬派ハッカニ・ネットワークも11月13日、ロイター通信の電話取材に対し、「タリバンの最高指導者、オマル師が率いる中央評議会(シューラ)が米国との間で和平に向けた協議を行うと決めた場合は、われわれはそれを歓迎する」と述べています。【11月14日 産経より】

近くパリで開催されるアフガン関連会議にタリバンも代表者を送ることが発表されています。
****タリバンが仏会議に出席へ=和平交渉は予定なし****
アフガニスタンの反政府勢力タリバンのムジャヒド報道官は10日、タリバン関係者2人を近くパリで開催されるアフガン関連会議に派遣する考えを明らかにした。AFP通信が報じた。

この会議にはアフガン政府も代表者を派遣する。しかし、和平交渉が行われる予定はなく「タリバンの主張が世界に発信される場」になると報道官は主張している。米メディアによれば、この会議は仏シンクタンク主催の非公開会議で、具体的な時期や場所は明らかにされていない。【12月11日 時事】 
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兄が次期大統領候補?】
アフガニスタン政府・カルザイ政権については、14年4月にはカルザイ大統領の後任を決める大統領選挙が行われます。

****アフガン:14年4月に大統領選 カルザイ氏は退任****
アフガニスタンの独立選挙委員会(中央選管)は31日、カルザイ大統領の任期満了に伴う大統領選挙を14年4月5日に実施すると発表した。現在2期目のカルザイ大統領は、3選を禁じた憲法の規定により退任する。

14年は駐留外国軍からの治安権限移譲完了と重なるため、カルザイ大統領は一時、大統領選の時期を1年程度前後にずらす可能性を示唆していた。予定通り14年の選挙実施が決まったのは、アフガン安定化を目指す米国などの強い要請があったためとみられる。

また、次期大統領選の日程が決まったことで、中断している米国と旧支配勢力タリバンとの和平に向けた接触も再開へと向かう可能性がある。カルザイ大統領は武装解除などを条件にタリバンの政治復帰を歓迎する考えを示しており、米国も同様の考えとみられる。

アフガニスタンでは01年10月に米軍などが攻撃を開始し、04年10月の初の大統領選でカルザイ氏が当選。09年8月の大統領選ではカルザイ氏側の不正疑惑が問題となり、カルザイ氏と米政府との関係が悪化した。【10月31日 毎日】
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和平の先行きが不透明なまま退任次期が迫るカルザイ大統領の心中は穏やかではないようです。
“国際部隊の撤退期限は約2年後に迫る。しかし、治安は改善しない。タリバーンとの和平協議も見通しが立たない。カルザイは感情をあらわにすることが多くなった。大統領府で怒鳴る姿がしばしば目撃されている。数カ月前に辞職した側近は「大統領と一緒に仕事をするのはとても難しい」とこぼした”【11月23日 朝日】

カルザイ大統領本人は、兄弟を後継者にしたい思いがあるとも報じられています。

****後継に兄の名****
孤立を深めるカルザイが信頼を寄せた人物がいた。異母弟アフマド・ワリ。カンダハル州議会議長を務め、対タリバーン作戦を通じて米中央情報局(CIA)との関係を深め、「南部の王」と呼ばれた。麻薬密輸や汚職への関与が指摘されても、カルザイはかばい続けた。しかし、昨年7月、護衛に紛れていたタリバーンの刺客に射殺された。追悼式でカルザイは、公衆の目をはばからずに大泣きした。

カルザイの任期切れまで2年を切った今年6月、政界を揺るがすニュースが流れた。米紙ニューヨーク・タイムズが「(兄の)カユムが大統領選への立候補を検討中」と報じた。直後、今度は兄マフムードが地元通信社に「カユムが後継の準備をしている」と発言。カユムはカルザイ後の最有力候補と目されるようになった。

カユムには政治経験がないわけではない。04年、下院議員に当選した。しかし、生活基盤は米国に置いたままで、議会で欠席をとがめられて辞職した。それが最近は、ひと月の3分の2を母国で過ごし、1日おきに大統領府へ足を運ぶ。

10月初めにあった記者会見でカルザイは「大統領選は予定通り行われる。投票所へ行き、好きな候補に投票して下さい」と言った。それが本心なのか。やはり兄への権力継承を望んでいるのか。さわやかな弁舌の奥にある本音が明らかになる日は遠くない。【11月23日 朝日】
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国内の部族・政治勢力の対立、国外のアメリカのカルザイ批判など、兄弟間の権限移譲を許すような状況とも思えませんが、複雑な事情があるだけに「神輿は軽いほうがいいい」という考えもありうるのでしょうか。

平和なときでなければ考えないことに目を向け始めたしるし
そうしたアメリカ・タリバン・カルザイ政権などの話とは全く異なる次元で、興味深い記事がありました。
“戦乱・内戦”のイメージが強いアフガニスタンで、美容整形を希望する女性が増えているそうです。
“平和なときでなければ考えないことに目を向け始めたしるし”とも評されています。

****ベールの下で増える、アフガニスタン女性の美容整形****
ベールを身にまとって生涯の大半を過ごすアフガニスタンの女性だが、一部には女性の美しさの理想に近づかなければならないと感じ、首都カブールにある一握りの美容外科医院に列を作っている女性たちがいる。

数年前ならば、こうした医院で女性が受ける手術の大半は、戦争や家族の暴力によって受けた傷や、酸を使った襲撃によるやけど、男性優位社会の戦乱の世に絶望した果ての自傷行為による傷の修復などだった。しかし現在、最も人気があるのは鼻の美容整形だ。しわ取りや豊胸、腹部の整形手術なども人気が高い。

「10年前は傷の修復がすべてだった」と、カブールで医院を経営するアミヌラ・ハムカル医師(53)は語る。「ときどき、ここに来る若い女性たちに何故、美容整形をしたいのか聞くのだが、彼女たちはただ単に『見た目を良くしたい、より美しくなりたいから』と答えるだけだ」
このことは良い傾向だとハムカル医師は言う。少なくとも首都カブールでは人々が、旧支配勢力タリバンの暴力を乗り越えて、平和なときでなければ考えないことに目を向け始めたしるしだからだ。(中略)

■中流階級の勃興
(中略)鼻を大きくする手術の料金は一般的に300ドル(約2万5000円)程度。アフガニスタンの多くの人々にとっては月給1か月分に相当する。
だが、11年前のタリバン政権崩壊以降、大量の支援金が流入し、中流階級が出現した。この層はイランやアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ、それに欧州諸国の流行に敏感で、美容目的のためだけの整形手術にも出費を惜しまない。

■ドバイから帰国した夫に「美しくない」と非難され
ハムカル医師は、18歳の既婚女性の例を挙げた。この女性は、ドバイに働きに出て帰国した夫に胸がたるんでいると非難され、外国で見てきた「普通」以下だから、もう別れたいと言われたという。

「彼女の夫は、ドバイのような、より開放的でリベラルな都市に行って、そこで美しく整形した女性たちを見たのだろう。帰って来て妻の姿に嫌気がさしたら、整形外科に行くことさえ許可したのだ。アフガニスタンほど保守的ではない所に行って帰ってくると、生き方や性に対する考え方が変わる人が多い」

元軍幹部のモハマド・イブラヒムさんは、娘から鼻を小さくしたいと言われ、その方が気分が良いのならいいだろうと許可したという。「60年代、70年代の政府は多様な文化を学ぶことを奨励し、政府職員が外国に旅行することを支援さえしてくれた」とイブラヒムさんは語る。だが、1979年の旧ソ連の侵攻以来、数十年も続いた戦闘とタリバンの台頭により、そうしたものは奪われたという。

「今は比較的民主的だ。娘には自分が醜いと感じたり、疎外感を持ったりしてほしくない」とイブラヒムさんは語った。【12月11日 AFP】
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女性が美しさを求めることは、確かに平和のしるしでもあり、結構なことです。
ただ、「大量の支援金が流入によって生じた中流階級」という、特定の階層の人々の話ではないでしょうか。
まあ、そうであっても、それぞれの人々が、それぞれの形で平和を享受している全体的流れの一端・・・ということであれば、やはり結構なことでしょう。

また、“アフガニスタンほど保守的ではない所に行って帰ってくると、生き方や性に対する考え方が変わる人が多い”ということも重要です。
96年のタリバン政権時代、オマル師をはじめとするタリバン兵はアフガニスタンの片田舎カンダハル出身で、都市文化や外国文化との接点がありませんでした。

もしオマル師がパキスタン都市部に潜伏しているのであれば、96年当時とは見聞きする世界が全く異なるのではないでしょうか。多くのタリバン幹部も多くの情報に接し、多くの経験をつんでいるのでは。結果、タリバンの姿勢も柔軟なものになっている・・・・ということであればいいのですが。
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