【12月19日 毎日】http://mainichi.jp/select/news/20121220k0000m030010000c.html
【父母を暗殺された朴槿恵氏、初の女性大統領へ】
19日に行われた韓国大統領選挙では、軍事独裁政権でもあり、同時に韓国経済発展の基礎を作った朴正熙元大統領の長女、与党セヌリ党・朴槿恵(パク・クネ)氏(60)が大接戦を制しました。
****韓国大統領選:朴槿恵氏が当選 女性初、親子2代*****
韓国大統領選挙が19日投開票され、大接戦の末、与党セヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)氏(60)が最大野党・民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)氏(59)を破り、当選を決めた。東アジアで最初の女性大統領で、60〜70年代にかけて独裁した父、朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領に続き初の親子2代の大統領が誕生する。前回選挙で10年ぶりに復活した保守政権は維持された。朴氏は「準備された女性大統領」をキャッチフレーズに、急激な変革より安定感を望む有権者の支持を集めた。来年2月25日に就任する。(後略)【12月19日 毎日】
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韓国大統領というと、暗殺されたり、退任後に収賄などで逮捕されたりと、暗い話がつきまといます。
権力が集中している政治システムのためでしょうか。民主主義の定着において何らかの問題があるのでしょうか。
****韓国:暗殺、自殺… 歴代大統領、哀れな末路****
韓国の歴代大統領は「建国の父」といわれる李承晩(イ・スンマン)氏の時代から亡命や暗殺、本人や家族の逮捕など哀れな末路をたどってきた。
1948年の建国で就任した初代大統領の李承晩氏は、60年の大統領選での不正に学生らが反発。大規模デモが発生して辞任した。結局、李承晩氏は妻とともにハワイ亡命に追い込まれた。
朴槿恵(パク・クネ)氏(60)の父、朴正熙(パク・チョンヒ)氏は陸軍少将だった61年、クーデターで実権を掌握。大統領となった後、開発独裁で経済成長を実現させた。しかし、74年の在日朝鮮人による暗殺未遂事件で陸英修(ユク・ヨンス)夫人が流れ弾に当たり死亡。本人も79年に側近の中央情報部長に暗殺された。
同年、保安司令官だった全斗煥(チョン・ドゥファン)氏は「粛軍クーデター」で実権を握り、翌年には大統領に就任。しかし、退任から7年後の95年、同クーデターの反乱首謀容疑で逮捕された。80年の光州事件での責任も問われ、無期懲役が確定した。
88年に大統領に就任した盧泰愚(ノ・テウ)氏も秘密政治資金の存在が明らかになり、退任後の95年に収賄容疑で逮捕された。光州事件の責任も問われ、懲役17年が確定した。しかし、両大統領は97年に特赦を受けた。
次の金泳三(キム・ヨンサム)氏は大統領在職中の97年、次男が知人の会社社長らから不正に金を受け取ったなどとして逮捕された。また、金大中(キム・デジュン)氏も息子2人が02年、金銭授受容疑で相次いで逮捕された。
一方、文在寅(ムン・ジェイン)氏(59)が最側近として仕えた盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏は大統領職を退いた後の09年、収賄容疑で検察の事情聴取を受け、自殺した。
さらに、現職の李明博(イ・ミョンバク)大統領も今年7月、国会副議長や韓日議連会長を歴任した実力者の兄が、不正資金を受け取った疑いで逮捕。また、長男も脱税の疑いで国税庁に通報されている。
強大な権力が集中する韓国大統領には、家族も含めさまざまな誘惑の魔の手が伸びるといわれる。【12月19日 毎日】
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【急増する自殺者】
今回の大統領選挙が動き始めた早い段階から、野党だけでなく与党の朴槿恵候補も現職李明博大統領とは距離を置き、李明博大統領の求心力は低下、完全にレームダックと化しています。
現職李明博大統領が国民の支持を失っているのは、ひとつには政権末期には次期候補が現職との違いをアピールする形になりやすいという政治スケジュールの面がありますが、それ以外にも韓国社会の抱える問題があるようです。
****韓国大統領選:李明博氏、庶民への「共感」不足で不人気****
企業経営者出身の李明博(イ・ミョンバク)韓国大統領は07年の大統領選で、経済再生への期待を背に圧勝した。李大統領は、輸出志向の経済政策で成長を実現させ、08年のリーマン・ショックもいち早く乗り切った。本人が誇る実績だが、国民には「財閥をうるおわせて格差を拡大させた」という不満の方が強い。
背景には、国民とのコミュニケーション不足というもう一つの問題があったようだ。大統領選で台風の目となった安哲秀(アン・チョルス)氏の人気は、そうした不満の裏返しでもあった。
18日、ソウル駅前で開かれた最大野党・民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)氏の選挙集会に来ていた金東根(キム・ドングン)さん(72)は「経済を立て直してくれるというから、前回は李大統領に投票した。でも、庶民の生活は苦しくなるばかりだ」と話す。今回は、誠実さを感じられる、として文氏支持という。
世論調査で支持率25%程度の李大統領。街頭で話を聞いても批判の声が圧倒的に多い。大統領選でも、与党セヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)氏が「政権交代」を叫ぶ野党に対抗しようと「私が勝ったら『時代交代』」と主張したほどだ。
李大統領が嫌われる理由は、経済運営が期待外れだった▽側近や親族のスキャンダルが多い▽国民や与野党とのコミュニケーション不足−−に大別される。これを意識する朴、文両氏は選挙戦で、財閥規制を中心とする「経済民主化」▽汚職対策の強化▽反対派とも対話する政府−−を強調した。
韓国の社会意識に詳しい金賛鎬(キム・チャンホ)・聖公会(ソンゴンフェ)大教授は、経済については「グローバル化が進む時代の中、韓国だけで対処できない問題も多いのに、大統領への期待が高すぎる」と一定の理解を示しつつ、コミュニケーション面では問題があったと指摘。
今の韓国社会では「共感」がキーワードになっているのに、李大統領にはそれが欠けていたと批判する。「困っている人の声に耳を傾け、大変さを理解し、寄り添ってくれるというイメージが求められているのに、李大統領はそれができなかった」というのだ。
「共感」が求められるようになった背景には、97年の通貨危機で韓国社会が急激に変わらざるをえなかったことがある。
変化を象徴するのが、最大手財閥サムスンだ。
系列会社の元社長は「それまでは解雇などなかったし、同期との年収差も多くて10%という会社だった。それが、能力がなければ自然に姿を消すようになった。年収も、入社5年目で2倍の差がつく」と話す。財閥情報専門サイト・財閥ドットコムによると、サムスン系列会社では、社長の平均在任期間は2.6年。成績が悪ければ、どんどん代えられていくということだ。
元社長は「内部での激しい競争こそ韓国企業が急成長した理由だ」と強調する一方で、いきなり競争社会に放り込まれた人々の不安心理は強くなった。80年代に10万人当たり8人程度だった自殺者数は通貨危機後に急増し、10年は33.5人。80年代には日本の半分以下だったのに、今では日本の1.5倍以上になっている。
大統領選期間中に遊説先の車中で取材に応じたセヌリ党有力者は、格差問題に対応するための福祉拡充が必要だと話しながら、「こんなに自殺率が高いのは問題だ」とため息をついた。こうした問題意識が保守政党であるセヌリ党の中にも、中小企業や庶民を守るために経済民主化が必要だと考える勢力を生んでいるようだ。
そして、金教授は、安氏がカリスマ的人気を得たのも「自分たちの悩みに耳を傾け、共感してくれる」というイメージ作りに成功したからだと見ている。安氏は昨年、若者を対象にした対話集会を何回も開き、就職難などの背景にある社会の構造的問題への批判を繰り返したことで政治的な注目を集め始めた。李大統領が「共感」というメッセージを人々に伝えられず不人気に拍車をかけたのと対照的といえそうだ。【12月19日 毎日】
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自殺者の数は、文化や社会構造の違いがありますので単純な国際比較はできませんが、韓国のここ二十数年の右肩上がりの増加は注目すべきものがあります。
この期間は、政治的民主化や高度経済成長が進展した時期であるだけに目を引きます。
政治の目的が経済成長や国威発揚ではなく、国民の幸せにあるとすれば、自殺者の急増は明らかにこれまでの政治に対する黄信号であると言えます。
【経済民主化を公約するも、「財閥たたき」の空気とは一線を画す】
韓国が日本以上に学歴が重視される超競争社会であることはよく耳にするところです。
競争の結果の格差も、日本以上ものがあるようです。
そうした競争社会の頂点に君臨するのが、韓国経済を牽引する財閥です。
今回大統領選挙では、現在の財閥支配とも言えるような経済構造の変革を訴える「経済民主化」が最も大きな争点となりました。
****韓国をむしばむ財閥ジレンマ 大統領選最大の争点は財閥規制****
繁栄を導いてきた「成長エンジン」はなぜここまで国民の怒りを買ったのか?
韓国経済を牽引してきた財閥が国民から嫌われ規劃策が大統領選の争点に その最大の原因は財閥が「独り勝ち」しているからだ
1950年代、朝鮮戦争の戦禍で荒廃した韓国は世界で最も貧しい国の1つだった。それから半世紀余りがたち、韓国経済はアジア屈指の規模へと成長を遂げた。その最大の立役者の1つが、政府と二人三脚になって経済を牽引し続けてきた財閥であることに疑いはない。
ところが格差拡大が深刻な現在の韓国では、国民の怒りの矛先がその財閥に向いている。
そもそも大半の国民は、サムスンや現代といった世界で稼ぐ財閥系の巨大企業グループとは無縁の生活を送っている。その一方で財閥は経営多角化を進め、個人経営商店や中小企業を圧迫。広がり続ける格差の元凶とされている。
単に財閥をなくせば韓国経済の抱える問題が解決するわけではない。ここに、韓国経済のジレンマがある。いまだに内需が弱く、輸出依存度が高いこの国で、輸出で稼ぐ財閥企業の成長を阻害すれば、経済にとっては命取りになりかねない。
12月19日に投開票が行われる韓国大統領選の最大の争点は格差是正を意味する「経済民主化」だが、その核心は財閥問題だ。今回の選挙では「経済民主化=肥大化した財閥の規制」と位置付けられ、リベラル系は財閥の厳格な規制を主張し、一方で保守系は経済成長に欠かせない財閥の擁護を叫んでいる。
「パン屋から手を引け」
成長の牽引役だったはずの財閥が国民から嫌われ、大統領選最大の争点になっているのは、財閥が「独り勝ち」していると国民の目に映っているからだ。
サムスン、現代、LG、SKグループなど韓国の財閥企業トップ10社の昨年の国内売上高が韓国GDPに占める割合は約40%。さらに情報サイトの財閥ドットコムによれば、国外売上高を含めると、財閥企業トップ10社がGDPに占める割合は実に76.5%にもなる。
一方で国民は経済成長を実感できていない。財閥関連の雇用は韓国の労働者全体の10%程度にすぎないと言われ、残り約90%は過去最高益を更新し続けるトップの財閥企業とは直接関係のない暮らしを送っている。
さらに韓国では就職難が深刻化し、昨年の大卒者の就職率は54.5%にとどまっている。大学を卒業しても2人にI人は仕事がないのが現状だ。
財閥の多角経営が個人経営の小売店や中小企業を圧迫していることも、国民から目の敵にされている理由の1つだろう。ホテルやレジャー産業、大型スーパーから食料品店チェーン、ブランドショップまで、財閥の事業拡大はあらゆる分野に及んでいる。
最近では、財閥一族の2世や3世がそろって高級ベーカリー事業に進出。中小企業の経営を圧迫しているという世論の反発が高まり、李明博大統領が今年1月に財閥系企業に対して「パン屋から手を引け」という異例の勧告を行ったほどだ。
韓国財閥のオーナー一族は、増え続ける利益を広く国民と分かち合うっもりなどさらさらない。彼らは複雑な株式の持ち合いでグループ企業の支配を維持する「循環出資」を利用して、財閥の経営権を今も独占し続ける。さらにその経営権は、世襲によって次世代に引き継がれる。まさに社会の公器であるべき企業の私物化だ。
完全解体ができない理由
しかも韓国では「ほとんどの財閥のオーナー一族が横領や背任で捕まったことがある」と言われるほど、財閥トップの不祥事が頻発している。こうした事件の多くは、グループ企業の経営権を一族内で引き継ぐ過程で起きている。
今回の大統領選の立候補予定者は、リベラル系と保守系で財閥に対する政策が分かれている。なかでも厳しい政策を打ち出しているのが最大野党・民主統合党の文在寅だ。文は財閥など大企業の国内事業拡大を規制する制度の復活や循環出資の禁止など、オーナー一族の支配の下で多角経営を進める財閥の構造に根本的なメスを入れようとしている。
同じくリベラル系の無所属候補だった安哲秀は、財閥規制を唱えていた点では文に近いが、より具体的な市場の公正化を重視していた(先週、安は出馬を断念し、野党系候補は文に一本化された)。韓国では昔から中小企業の技術力の乏しさが指摘されているが、安は財閥が市場を独占し、中小企業からの納入単価を低く抑えていることがその原因だと主張。段階的な循環出資の禁止による規制を目指していた。
一方、保守系与党セヌリ党の朴様恵は経済民主化こそ公約に掲げているが、「財閥解体の方向に流れるのは韓国のためにならない」と、社会に充満する「財閥たたき」の空気とは一線を画している。
その主張は財閥解体ではなく、市場独占を取り締まる公正取引関連法の厳格な運用や、財閥オーナーーの違法行為への恩赦不適用といったレベルにとどまっている。
経済民主化が大統領選の大きな争点となっていることを考えれば、次期政権下で何らかの財閥規制は行われるだろう。
ただ国内事業の拡大や同族支配の抑制で国民の不満を抑えはしても、財閥をバラバラにすることまではできそうにない。現時点で文も朴も説得力あるポスト財閥時代の成長モデルを描けていないし、これまで財閥に強く依存してきた政府や国民が、今さら成長エンジンである財閥を失う「痛み」に耐えられないからだ。
次期韓国大統領の財閥政策に求められるのは、綱渡りのように微妙なバランス感覚だ。ただどちらの候補者が当選しても、財閥の完全解体に向けて綱から飛び降りる勇気はないだろう。【12月5日号 Newsweek日本版】
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現代グループの中核である現代建設の会長として辣腕をふるった李明博大統領も、財閥に対して果敢な姿勢を見せたことはありますが、腰砕けに終わっています。
****韓国新大統領にも財閥は変えられない****
韓国国民にとって、世界有数の巨大財閥グループ、サムスンを率いる李健煕(イ・コンヒ)会長(当時)は、誰も手を出すことができない絶対的な国王のような存在だった。
それだけに4年前、李明博(イ・ミョンバク)政権の発足直後に、サムスン本社ビルや李の自宅に家宅捜索を入ったときには大きな衝撃が走った。裏金疑惑と脱税の容疑で逮捕された李は08年7月、有罪判決を受けた。
この一件は、韓国の民主主義が成熟しつつある証かと思われた。だが実際には、韓国の権力構造は簡単に変わるようなものではなかった。
1年後、李政権は李健煕に恩赦を与えた。韓国の平昌が立候補していた2018年の冬季オリンピックの招致活動に貢献できる人物だからという理由だったが、権力が正義をゆがめたという批判が巻き起こったのは言うまでもない。
それから3年、12月19日の大統領選に向けて、候補者たちは財閥支配に終止符を打つと息巻いてきた。だが現実には、どの候補者も手軽な攻撃対象として財閥を利用しているにすぎず、誰が新大統領になろうと真の意味での財閥改革は進みそうにない。(後略)【12月19日 Newsweek】
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“社会に充満する「財閥たたき」の空気とは一線を画している”という朴槿恵氏が当選したことで、今後のドラスティックな財閥規制などはないようです。
韓国社会の抱える問題もあまり変わることなく・・・といったところでしょうか。
まあ、そこまで言うには、就任すらしていない現段階では早過ぎるでしょうが。