孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  政権側の強硬路線で再燃した反政権運動

2014-01-21 21:12:58 | 欧州情勢

(荒れる首都キエフ “flickr”より By Diario El Carabobeño http://www.flickr.com/photos/52324566@N05/12051643705/in/photolist-jmXPNr-jmZQTs-jn3cC1-jmXQ4B-jn3d77-jmDe9J-jnpxSs-jnw1WW-jjwLWz-jo9myZ-jim5FS-jiopVG-jn3dd9-jmZQMf-jmBQGm-jiUVLa-jjbRTZ-jjbtVG-jjbvDF-jjckja-jjfc4u-jjeJvE-jjevmo-jjbUXW-jjcCrr-jjexu1-jjaHBc-jj9Y7g-jjawnZ-jjePiW-jjf9nY-jjaaNT-jj9DoV-jjbGKD-jjbT71-jjbHhS-jjfhab-jjcs8b-jjb5p4-jjfr29-jj9STF-jjeRQj-jjeFCq-jjakiK-jjb7pX-jjcQ8o-jjbw5m-jjcxAf-jke2nj-jnBVFb-jkRoDN)

昨年11月以降で最大規模の騒乱
ウクライナを巡るEUとロシアの綱引きについては、150億ドルの緊急融資や天然ガス価格の3割引き下げという条件を提示したロシア・プーチン大統領がウクライナを引き寄せた形となっています。

深刻な財政問題を抱えるウクライナ・ヤヌコビッチ大統領は、長期的なEU市場の可能性よりは、現在の問題の回避を選択したとも言えます。

しかし、ロシア接近に反発する親欧米的な野党勢力・市民はこれに抗議して、国を二分する対立が続いています。
(12月9日ブログ「揺れるウクライナ  反政府デモ拡大、一部暴徒化も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131209)

年が明けても、ティモシェンコ前首相の内閣で内相を務めた野党指導者ルツェンコ氏が1月10日夜、首都キエフでの反政権デモ中に警官隊に殴打されて重傷を負った事件への抗議、更に、ウクライナ最高会議(議会)が1月16日、集会や言論の自由を事実上規制する法案を与党会派の賛成多数で可決したことへの反発から、反政権運動が再び激しくなっています。

首都キエフでの19日の警官隊と反政権デモの衝突では、負傷者が双方で230人以上(負傷者の内訳は警官約100人、内務省軍部隊30人、デモ隊が103人)【1月21日 時事】に上っています。

****ウクライナのデモ、一部暴徒化 強権路線に反発****
ウクライナの首都キエフで19日、ヤヌコビッチ大統領の退陣を求める10万人規模のデモが行われ、一部参加者が暴徒化して治安部隊と激しく衝突した。昨年11月からの反政権デモは年末から年始にかけて沈静化していたが、政権が集会規制の新法を制定するなど強権路線を鮮明にしたのを受けて再燃した。
政権は近く野党側と協議の場をもつとしているが、事態を収拾できるかは不明だ。

報道によると、キエフ中心部で19日に行われたデモでは、若年層を中心とする一部参加者が、会場の広場から議会方面へ向かおうとして治安部隊と衝突。デモ隊側は角材や火炎瓶を使用し、道路を封鎖していた警察車両に放火するなどした。治安部隊は催涙弾や放水で鎮圧を図った。

20日までに警察とデモ隊で計170人の負傷が確認され、昨年11月以降で最大規模の騒乱となった。

ウクライナ議会では最近、デモ集会や反政権運動を封じ込めにつながる一連の法案が与党連合によって強硬に可決され、大統領の署名で成立した。

新法はステージやテント、スピーカーの無許可設置を禁じるなど集会に関する規制を強化。「中傷」や「過激主義」を刑罰の対象とし、外国の資金援助を受ける非政府組織(NGO)にはスパイとほぼ同義の「外国の代理人」と名乗ることを義務づけた。

19日の大規模デモはこうした抑圧的な新法に抗議して行われ、野党指導者らは大統領や議会に対する不信任署名運動などを訴えた。

ロイター通信によると、米国家安全保障会議(NSC)のヘイデン報道官はデモの暴徒化に「深い懸念」を示し、全当事者に事態の沈静化を促した。政権側には「反民主的な法律」の撤回や野党勢力との対話を求めている。【1月20日 産経】
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“外国の資金援助を受ける非政府組織(NGO)にはスパイとほぼ同義の「外国の代理人」と名乗ることを義務づけ”といった措置は、ロシア・プーチン政権でもとられたものであり、ヤヌコビッチ政権のロシア化が窺えます。
そこが、反政権派にとっては許しがたいところでもあります。

帝国復活に向けて「お買い得」?】
ロシア・プーチン政権としては、ウクライナをEUから引き離し、将来的には関税同盟へ引き入れ、更に、ロシアを中心とする勢力圏を再構築するという流れをつくることに成功したと言えます。

****ウクライナはロシアの「属国」に戻るのか
帝国の復活費用と考えれば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の年末の買い物はかなり「お買い得」と言えなくもない。
150億ドルの緊急融資や天然ガス価格の3割引き下げ(年間20億 相当)などと引き換えに、ウクライナの忠誠心を買い上げ、EUとの提携強化を阻止できたのだから。

「ウクライナ抜きでロシア帝国の復活はあり得ない」──91年にウクライナがソ連圏を離脱した直後、かつて米大統領補佐官を務めたズビグニュー・ブレジンスキーはそう語ったものだ。だからこそプーチンは、あの手この手を繰り出した。

結果、ウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ大統領はEUとの連合協定の締結を見送った。もちろんロシア側は大喜びだが、ウクライナの首都キエフでは抗議活動が拡大。デモ隊は一時、数十万人にまで膨れ上がり、各国の大物政治家が独立広場を訪れてデモ隊を励ました。

ジョン・マケイン米上院議員も現地入りし、「自由世界は皆さんの味方だ」と呼び掛けた。

一方、EUよりロシアを選ぶという政治的犠牲を払ったヤヌコビッチは、12月中旬のモスクワ訪問で国賓級の歓待を受けた。プーチンは「国民福祉基金」の6分の1を拠出してウクライナの国債150億 相当を買い入れる奮発ぶり。東部の工業地帯への経済協力も約束した。

ウクライナのミコラ・アザロフ首相はこれを「歴史的」合意と呼び、これで財政破綻や社会の崩壊を回避できるとした。

短期的にはアザロフは正しい。EUは時代遅れの重工業の再建はおろか、ウクライナの緊急支援にも動かない。連合協定を締結しても、EU加盟が実現するのはずっと先の話だ。

ロシアのドミトリー・ロゴジン副首相の言葉を借りれば、連合協定はサウナの浴室に入るためではなく「更衣室前に並ぶための整理券」にすぎない。彼の言い分も正しい。

EUは今、金融危機だけでなく、存続の危機に立たされてもいる。EUの中核国では、新たに加盟したブルガリアなどからの移民問題が深刻化しており、ウクライナのような巨大で貧しい国々のEU加盟のめどは立たない。

命運を握るのはどっち?
それでもウクライナ国民の多くは自国の運命をヨーロッパに託したいと考えており、ヤヌコビッチ批判の声は鳴りやまない。
「ヤヌコビッチはウクライナの独立を終わらせた」と、職権乱用罪で服役中のユリア・ティモシェンコ前首相は獄中から声明を発表した。

モスクワでのヤヌコビッチは強気だった。独立広場を訪れてデモ隊を激励する欧米の政治家を「私たちに生き方を説教するやから」と呼んで非難する一方、ロシア主導でベラルーシとカザフスタンが加わっている関税同盟に参加の意向を表明した。

短期で見れば、ロシアの資金と安い天然ガスでヤヌコビッチの政治生命とウクライナの財政は救われたといえるだろう。
しかし15年の大統領選で再選を狙うヤヌコビッチの信用は、同国西部の有権者(大半が親欧州)の間で地に落ちた。

プーチンは南にある旧属国を買い戻せていない。今はまだ、期限付きの忠誠心を借り上げているだけだ。【12月31日号 Newsweek】
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ウクライナはロシアにとって自身の体制にとっての脅威となるかも
“期限付きの忠誠心”かどうかはともかく、ロシアは、財政・政治面で火種を抱えるウクライナという厄介なものを背負い込んだ・・・との見方もあります。

****現政権下では、ウクライナは獲得する価値のない戦利品かもしれない****
・・・・しかし、クレムリンとヤヌコビッチ氏との取り決めはウクライナとEUの交渉を遅らせるものの、ウクライナの政治危機を食い止めることはなさそうだ。また、改革が行われず、破綻状態のウクライナ経済を回復させることもないだろう。

迫り来るウクライナ経済崩壊
というのは、ウクライナの危機は、迫り来る経済崩壊によって悪化しているからだ。そして、この危機は今後、ロシアの問題となる、

ウクライナは外貨準備が底を突きかけており、冬を乗り切り、デフォルト(債務不履行)を回避するために切実に資金を必要としている。

ウクライナとEUの協定を妨害したプーチン氏としては、カネを払う以外に選択肢がほとんどない。
だが、その対価としてプーチン氏が何を手に入れるかは不透明で、ガスの値下げ幅が4半期ごとに見直される理由はそこにあるのかもしれない。

ウクライナ経済の悲惨な状況と、ヤヌコビッチ氏の危うい政治的立場からすると、どんな支援も無駄になりかねない。
国際通貨基金(IMF)の融資とは異なり、ロシアマネー(その大部分はロシアの国家福祉基金から引き当てられる)はひも付きでないからだ。

プーチン氏はヤヌコビッチ氏から、街頭の抗議者を散会させ、2015年の大統領選挙前かその直後にユーラシア連合に加盟するという約束を引き出せたかもしれない。

だが、市民の衝突を引き起こすことなく、そのような約束を果たすだけの手腕をヤヌコビッチ氏が持ち合わせているかどうかは、控えめに言っても不確かだ。

キエフと西ウクライナを含むこの国の大部分にとっては、ユーラシア連合への加盟は存続を脅かす脅威だ。
だが、かつてソ連崩壊を20世紀最大の地政学的惨事と呼び、自らをロシア領土の収集家と見なすプーチン氏にとっては、ウクライナをロシアの勢力圏内にとどめておくなら、どんなに高い代償も高すぎることはない。

また、プーチン氏は、もしウクライナが腐敗した独裁体制から競争力のある民主主義国に変わったら、1968年のチェコスロバキアの改革がソ連にとって脅威になったように、自身の体制にとっての脅威となることも理解している。
(後略)【英エコノミスト誌 2013年12月21・28合併日号】
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プーチン大統領が「お買い得品」を手にいれたのか、それとも“自身の体制にとっての脅威となる”ものを背負い込んだのか・・・未だ不透明です。
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タイ  続く「首都封鎖」 インラック政権の抱える問題

2014-01-20 21:21:58 | 東南アジア

(1月13日 バンコク 反政府派によって踏みつけられるインラック首相のプラカード “flickr”より By nicolas metraux stephanie... http://www.flickr.com/photos/46424642@N02/11930281164/in/photolist-jbeNWQ-jcgLoK-jc594S-jivRaK-jixExY-jdEdev-jbmMCz-jbmLTP-jcVeuq-jcQSNx-jbiicx-jbmVBv-jbpgCC-jbijQ2-jbr5Nu-jcT3vn-jbkDdu-jcSmkH-jbifUg-jbohuD-jcQQyH-jbp7Eh-jbigxv-jcTctU-jbiiat-jcT4QN-jbidCT-jbkv9d-jbpitb-jcV5yE-jbpdFq-jbr7nG-jbjJKx-jcV8Wb-jdEzSd-jgpWV6-jebCtT-jetSaM-je5Cmo-jebQmd-jedW39-je3STw-je5KR3-jebX3B-jgdhHX-jed349-jebuDz-jecvk3-jebzLE-jed94U-jedgCJ)

【「首都封鎖」でも比較的混乱は小さい市民生活
タイでは、総選挙拒否・インラック首相退陣を求める反タクシン派による「首都封鎖」が行われていますが、市民の“慣れ”と対応によって、市民生活にはさほどの影響は出ていないとの報道があります。

****渋滞のタイ、「首都封鎖」で大混雑にならなかったワケ****
タイの首都バンコクの道路は普段からひどい渋滞で知られ、ラッシュ時は車で30分程度の距離に1時間半かかるのが当たり前だ。

反政府デモ隊が主要交差点を占拠する「首都封鎖」初日の13日は大混雑を覚悟した。だが、幹線道路の車の流れは拍子抜けするほどスムーズだった。交通量が減る週末よりもすいていた。

デモ隊が封鎖する交差点や道路の情報を事前周知していたこともあり、多くのドライバーが迂回(うかい)路を使ったり、運転を控えたりしたようだ。

公害管理局によると、バンコクの大気中の粒子状物質は首都封鎖後に全域で低下して基準値を下回り、大気汚染も改善した。

盛り上がりを欠く首都封鎖を見定めたように、バンコクの人々は徐々に日常生活を取り戻している。臨時休校していた日本人学校も、3日目の15日に時間を短縮して授業を再開した。

登下校では3千人近くの生徒が何台ものスクールバスに分乗するが、再開初日の下校時間帯のバス路線が、デモ隊の行進と鉢合わせすることが判明した。心配になって見に行ったが、バスの運転手たちは、脇道を巧みに使ってデモ隊を避け、子供たちを安全に送り届けていた。

繰り返されるデモと渋滞に鍛えられたバンコクのドライバーたちの対応力に、たくましさを感じた。【1月20日 産経】
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総選挙で活路を開きたいタクシン元首相の妹であるインラック首相、不利な総選挙を避けて、社会混乱を拡大する圧力をかけて退陣を迫るステープ元首相率いる反タクシン派の攻防については、最近では1月11日ブログ「タイ  反政府派「首都封鎖」 軍部・司法のクーデターの憶測も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140111)でも取り上げたところですので、その背景等の詳細は省略します。

暴力激化の懸念
“盛り上がりを欠く首都封鎖”であっても、インラック首相がこのまま政権を維持し、総選挙を実施できるか・・・ということになるといくつか問題が出てきています。

ひとつは、17日と19日に反政府デモに手投げ弾が投げ込まれ多数の負傷者が出ているように、事態が暴力的な状況に陥り混乱が一気に加速する恐れもあります。

****暴力激化を懸念=「首都封鎖」1週間―タイ*****
タイの反タクシン元首相派が主要交差点を占拠する「バンコク封鎖」を開始してから20日で1週間。政府機能をまひさせてインラック政権を退陣に追い込むのが狙いだが、双方互いに譲らず、こう着状態が続いている。「封鎖」の長期化とともに暴力のエスカレートが懸念されている。

「封鎖」開始以降、バンコクでは連日のようにデモ隊への発砲や爆弾事件が発生。この1週間で1人が死亡、70人以上が負傷した。17日と19日に起きた爆弾事件で使用された手投げ弾は同一のタイプとされるが、これまで容疑者は捕まっておらず、背後関係は明らかになっていない。

反政府デモを主導するステープ元副首相は19日の爆弾事件後の演説で、「インラック(首相)はわれわれを攻撃するために番犬を送り込んだ」と述べ、デモ隊を狙った一連の事件に政府が関与していると主張した。政府機関を標的とした「封鎖」を今後全国に拡大するなど、対決姿勢をさらに強める意向を示している。【1月20日 時事】 
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事態を暴力化させるメリットが政権側にあるようには思えませんが、単純に反政府勢力を疎ましく思うタクシン支持派による犯行の可能性ももちろんあります。
あるいは、敢えて混乱を拡大し、軍によるクーデターを誘おうとする反政府派の犯行の可能性もあります。

そこらは分かりませんが、事態が混乱するとインラック政権の対応は非常に難しくなります。

司法クーデター的な動き
政権側にとって、もうひとつの問題は、前回11日ブログでも取り上げたように、タクシン元首相に批判的な司法勢力による政権を追い込む動きが進んでいることです。

****タイ:「独立機関」が政権に圧力 汚職委や憲法裁など****
反タクシン元首相派による反政府デモが続くタイで、国家汚職追放委員会や憲法裁判所といった政治・行政をチェックする「独立機関」がインラック政権の不正を追及する姿勢を強めている。かつて憲法裁はタクシン派政権を微罪で退陣させたこともある。デモによる政権打倒が決め手を欠く中、こうした独立機関の包囲網が政権を追い詰める可能性がある。

専門家らで作る国家汚職追放委員会は16日、政府の「コメ買い取り制度」を巡る不正に関与したとして、タクシン派与党・タイ貢献党の元閣僚を含む15人を訴追。インラック首相についても「制度が国家に損失を与えることを知りながら対応しなかった」として、職務怠慢の罪で捜査する方針を明かした。

制度は事実上、コメを市場価格より高値で買い取るもので、現政権が自らの支持基盤である農家を支援するために始めた。
しかし、政府は大量の在庫と1兆円を超える損失を抱え、制度を巡る数々の汚職疑惑も浮上。

ただ、2月2日に総選挙を控える中での汚職委の動きに貢献党関係者は「選挙妨害だ。なぜ捜査公表を急ぐ必要があったのか」と、不信を募らせる。

汚職委など独立機関は今年に入り、政権に厳しい判断を相次いで下している。汚職委は7日、貢献党議員ら308人の罷免に向けた捜査を始めたと公表。

半数が任命制の上院議員を今後、全て民選とする与党連合の憲法改正案について、憲法裁は違憲判決を下し、捜査はこの憲法改正を支持した議員らを対象にしている。

また、憲法裁は8日、貢献党が推進した国際条約締結を巡る別の憲法改正案についても違憲判決を出した。

インラック政権はデモ収束を狙い、昨年12月に解散・総選挙に打って出た。デモ隊や最大野党民主党は選挙ボイコットで対抗するが、政権は退陣要求には応じず、2月の総選挙を予定通り行う構えだ。

しかし、汚職委の捜査が進み、貢献党に公民権停止や解党処分などの司法判断が出れば、総選挙で勝利しても政権運営は不可能となる。このため、独立機関の動きはじわじわ政権を追い詰める。

独立機関は、タクシン元首相をクーデターで追放した軍政が2007年に制定した憲法に基づき権限が強化された。タクシン政権時代、独立機関への政治介入が問題となったためだ。

憲法裁は08年、タクシン派のサマック首相(当時)が料理番組に出演したことを「兼業を禁じる憲法に違反した」と認定し、失職させた。後継のタクシン派政権も憲法裁判所が選挙違反を理由に与党に解党命令を出して崩壊。反タクシン派の民主党への政権交代につながった。【1月19日 毎日】
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サマック首相のケースなどは、“司法クーデター”としか言い様がありませんが、今回もそうした動きが進行しています。

限界に近い首相の精神状態
もうひとつインラック政権の問題をあげれば、インラック首相の気力がどこまで持ちこたえられるか・・・ということでしょう。

政治に関しては全くの素人ながら、タクシン元首相の妹ということで政権の顔に担がれ、懸命に政権を維持してきた感があるインラック首相ですが、長引く反政府行動の圧力で精神的に相当にまいっているようです。

****インラック首相、辞任寸前だった?=土壇場で撤回―タイ紙****
14日付のタイ英字紙ネーションは関係筋の話として、インラック首相が反政府デモ隊の辞任要求に屈しそうになったが、土壇場で考え直したと伝えた。兄のタクシン元首相が職務を続けるよう求めたという。

同紙によると、インラック首相は反タクシン派デモ隊による「バンコク封鎖」開始前日の12日、プラユット陸軍司令官と電話で会話。政治的緊張に疲れたと述べ、助言を求めた。

プラユット司令官は、首相が決断することだとした上で、不測の事態が起きれば首相の責任になると伝えた。首相は12日午後4時までに回答すると応じ、首相が辞任を発表するとの見方が広がった。

首相がその後、タクシン氏と電話で話したところ、タクシン氏は、憲法上辞任は認められていないとし、辞任した場合、反タクシン派から職務を放棄した罪で訴えられ、禁錮刑に直面することになると警告。これを受け、辞任を思いとどまったという。【1月14日 時事】
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インラック首相の“やめたい”という思いは、これまでも報じられています。

****やめたい」漏らしたタイ首相、首都離れ元気に****
タイのインラック首相(46)が、反政府デモの続く首都バンコクをほぼ半月以上離れ、ほとんどの時間を与党・タイ貢献党の地盤である北部や東北部で過ごしている。

首相は9日に下院解散を発表した後、11日以降は北部チェンマイなどをひんぱんに訪問。30日までに閣議などでバンコクに戻ったのは計5日間だけで、1月1日に南部ホアヒンで王室の新年行事に出た後は再びチェンマイに向かうという。

首相同行筋などによると、首相は反政府デモ隊が自身や兄・タクシン元首相以外の親族にも攻撃を強めることに傷つき、「政治家をやめたい」と周囲に漏らすこともあった。デモ隊は首相の自宅も度々包囲し、11歳の息子に警笛を吹き鳴らして威嚇することもあり、首相が記者会見で声を荒らげて抗議する場面もあった。

与党の人気が高い北部訪問は側近の勧めだったが、首相は温かい歓迎にすっかり元気を取り戻した様子だという。最近はチェンマイの国際会議場を事務所代わりに、執務しながらの滞在を続けている。

首相が長期間、首都を離れることには与党内でも批判があるが、党選対幹部は「選挙の顔である首相が倒れれば苦戦は免れない」として、リフレッシュのための北部滞在を支持しているという。【12月30日 読売】
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事態がこれ以上混乱すれば、首相の気力が持ちこたえれなくなることも想定できます。
その意味ではステープ元副首相らの反政府行動は大きな効果をあげています。

仮に総選挙を実施できても、汚職委の捜査や反政府派の行動によって、政権運営は厳しい情勢が続くことが予想されるなかで、精神的に限界が近いとも思われる首相がどこまで頑張れるか。

与党側からすれば、総選挙を乗り切れれば、国民和解のためにタクシン元首相の親族をはずすという意味でも、厳しい政治的圧力のなかで試験を維持していくうえでも、インラック首相の交代を考えたほうがいいのではないでしょうか。
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シリア  転換点を迎えた反政府闘争  22日から国際和平会議

2014-01-19 23:09:33 | 中東情勢

(アレッポの戦局 
薄緑は反体制派支配エリア 黄色が「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」支配エリア 右側のベージュが8月21日以前の政権側支配エリア その周囲のピンクが8月21日以降に政権側が取得したエリア 
政権側は市街北東部の反政府勢力を攻撃する準備をしており、政権側がここを占領すると、市内にいる反政府勢力はその周辺の味方と分断されることになるそうです。【1月14日 WSJ】)

【「自らの庇護者に腹を立て、やがてしぶしぶやってくるだろう」】
シリア内戦終結に向け今月22日からスイス・モントルーで行われる国際和平会議への出席が危ぶまれていたシリア反体制派の主要組織「シリア国民連合」が“参加”を決定しました。

****シリア:反体制派・国民連合 国際和平会議参加を決める****
シリア反体制派の主要組織「シリア国民連合」は18日、トルコで総会を開き、シリア内戦終結に向け今月22日から行われる国際和平会議に参加する方針を賛成多数で決めた。

反対論も強かったが、支援を受ける米欧諸国などの説得で参加を決めた。会議ではアサド政権と国民連合の初の直接協議も行われる見通しだ。

総会では58対14で参加賛成が多数を占めたが、最大派閥「シリア国民評議会」のメンバーら約40人は投票を拒否。国民評議会は参加を決めた場合には国民連合から離脱する意向で、反体制派の新たな内紛の火種となる可能性もある。

国連の潘基文事務総長は18日、参加決定を「勇気ある歴史的な一歩」と歓迎し反体制派代表団の構成に「多様性が幅広く反映されるよう望む」と述べた。米国のケリー国務長官も同日の声明で「政権移行に向け協議を始める反体制派を支援する」と表明した。

会議直前まで国民連合の方針が定まらなかったのは、参加の前提条件だったアサド大統領の退陣が見通せないからだ。アサド政権は一貫して退陣を拒否し、戦闘でも攻勢を強めている。

また国民連合内では昨年後半、米欧からの軍事支援を引き出せない執行部への不満などを背景に、有力武装組織の離脱が相次いでいた。国民評議会や主要戦闘部隊「自由シリア軍」も会議参加に反対で、参加を強行すれば求心力がさらに低下する懸念もあった。

それでも最終的には米欧諸国の説得が奏功した。米英仏などは今月12日にパリで会合を開き、「アサド政権の退陣」を実現させていく方針を確認。米欧が働きかけを強めた結果、自由シリア軍など主要な反体制派武装組織は18日に和平会議への参加を容認する姿勢に転じた。

和平会議は22日からスイスのモントルーで始まり、中立的な移行政府樹立を柱とする2012年6月の「ジュネーブ合意」を下敷きに、和平の具体策が議題となる。激戦地の北部アレッポでの部分的停戦や捕虜交換、政権側の人道支援受け入れ拡充などの案が浮上しており、アサド政権も前向きに検討する方針だ。

ただ政権側は、内戦の混乱に乗じた国際テロ組織アルカイダの勢力拡大を念頭に「対テロ戦争」が主要議題になると主張している。国民連合の目的はアサド政権の排除で、議論がかみ合わないとの懸念もある。

また在外活動家が中心の国民連合にシリア国内の反体制派を統率する力はなく、停戦などの合意内容が履行されない恐れも強い。

国民連合は12年11月に反体制派を統括する組織として設立され、欧米や日本など100カ国以上から「シリアの唯一正統な代表」と承認されている。

だが、反体制派間の戦闘も、イスラム系組織を中心に続いており、今月上旬以降の死者は1000人を超えた。市民や捕虜の処刑も横行し、国連のピレイ人権高等弁務官は16日、「戦争犯罪になりかねない」と警告している。【1月19日 毎日】
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「アサド政権の退陣」が見通せない状況での参加は、アメリカなどの支援国からの強い働きかけがあったと思われます。

“反政府勢力は――少なくとも、うちの一部は――態度を決めかね、のち自らの庇護者に腹を立て、やがてしぶしぶジュネーヴにやってくるだろう。”【1月17日 The Voice of Russia】という、ロシア側の見立てのとおりになっています。

総会での評決は“賛成58、反対14、棄権2、無効1”1月19日 AFP】だったようですが、この数字と“最大派閥「シリア国民評議会」のメンバーら約40人は投票を拒否”ということの関係はよくわかりません。
棄権にも含まれていないということでしょうか。

“国民連合のアハマド・ジャルバ代表は18日の会議参加決定後、「ジュネーブ2は革命要求の全面的な実現、第一に殺りく者(アサド大統領)から全ての権力を剥奪することを目指す片道の道筋だ」と述べた。”【1月19日 AFP】とのことです。

しかし、後述のような現状では反体制派が求めるような「アサド政権の退陣」が明確化されることはまずあり得ず、内部の反対を押し切って参加した国民連合は、会議後は「シリアの唯一正統な代表」という立場も難しくなりそうな感じがします。

イラン「前提条件が付けられるなら参加しない」】
アサド政権側は、早くから出席の意向を示していました。

****シリア和平会議:アサド政権出席…国連報道官****
国連事務総長の報道官は16日の記者会見で、スイスで22日に予定されているシリア国際和平会議について、アサド政権が書簡で出席を伝えてきたことを明らかにした。政権側の代表団はムアレム外相が率いることになる見通しという。(後略)【1月17日 毎日】
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未だはっきりしないのが、アサド政権を支援するイランの参加問題です。
アメリカが、シリア反体制派が参加する「移行政府」の樹立を柱とする「ジュネーブ合意」の受け入れを参加の条件として求めているためです。

****イラン「条件付きなら欠席」 シリア和平会議、米けん制****
イランのザリフ外相は十六日、モスクワを訪れ、ロシアのラブロフ外相と会談した。シリア内戦の収拾を目指してスイスで二十二日に開かれるシリア国際和平会議への対応を協議し、会談後の記者会見で「前提条件が付けられるなら参加しない」と強調した。

二〇一二年六月の一回目に続く次回会議ではシリアのアサド政権を支援し、影響力を持つイランが参加するかが焦点の一つ。米国は、シリア移行政府樹立という和平会議の目的に「賛同するなら歓迎する」と条件を付けている。ザリフ氏の発言は、こうした米国の立場をけん制したものだ。

一方、ラブロフ氏は、イランのほか、シリア反体制派に影響力を持つサウジアラビアも和平会議に参加するべきだと強調。会議でアサド政権側と反体制派が直接対話する可能性にも言及した。【1月17日 東京】
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サウジアラビアは参加しないのでしょうか?
イランが政権側の支援国なら、反体制派の資金的支援国はサウジアラビアです。
両国が参加しないというのは、何のための会議かいささか疑問です。

反体制派にとって厳しさを増す戦局と国際情勢
シリア内戦の現状は再三報じられているように、アルカイダ系「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」の勢力拡大で反体制派内部は分裂抗争状態、結果的に、ヒズボラ参戦以来態勢を立て直している政権側が更に戦局を有利にしています。

****シリア政府が漁夫の利-アルカイダ系勢力の台頭で****
シリア北部ではここ数日、反政府勢力と国際テロ組織アルカイダ系のグループとの戦闘が激化しており、この混乱と戦線の変遷が同国政府を有利にしている。

この結果、政権側勢力は、同国最大の都市で経済の要でもあるアレッポ市内およびその周辺での地歩を固めている。これらの勢力はまた、アレッポ周辺地域でさらに奪還地を拡大しようとしている。

2012年7月に初めてアレッポに入り、その後政権側を市内の一部から追放した反政府勢力にとっては大きな痛手だ。同勢力の活動家やアナリストは、同勢力と「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」と呼ばれるアルカイダ系グループとの戦闘が続けば、政権側はアレッポ全域を占領する可能性があるとみている。(中略)
 
シリア内戦をめぐっては来週、ジュネーブで和平交渉が開かれるが、政権側が反政府勢力の支配地を次々と奪っていることから、政権側が妥協の姿勢を示す公算は小さい。

シリア政府は13日、アサド大統領を戦犯とする反政府勢力を支持する西側とアラブ諸国の中核グループが12日に出した声明を批判した。シリア国営メディアは外務省当局者が「パリでのシリア人民の敵の会議で出てきたこの声明は幻想であり、現実離れした人々によってのみ作られるものだ」と述べたと伝えた。

ケリー米国務長官とラブロフ・ロシア外相は13日、パリで会談したが、アサド政権の主要な軍事支援国であるイランが和平交渉に参加すべきかどうかで応酬があった。両者は、シリア反政府主要組織「国民連合」のジャルバ議長が会議参加の主要条件にしている、激戦地域での停戦仲介で合意したと述べた。

2人は、アレッポやダマスカス東部の東ゴウタなどでの戦闘状態が落ち着けば、身動きが取れないでいる市民に人道援助を施すことができるようになる、としている。

しかし、共同記者会見ではラブロフ氏がケリー氏とブラヒミ国連・アラブ連盟共同特別代表に対してイランを会議に出席させるよう圧力をかけたため冷えた空気が流れた。

また、米国など一部の反政府勢力支援国がシリア北部での戦闘が終わるまで、ISISと戦っている穏健な反政府勢力への支援を増やすことに慎重な姿勢であることもシリア政府の強みになっている。

英国のヘイグ外相は13日、同国は今週、シリアへの新たな「大規模」支援を発表すると述べるとともに、条件が整えば、同国の主要な反政府勢力への非軍事支援を再開し、拡大する方針だと語った。【1月14日 WSJ】
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アルカイダ系ISISの台頭は、単に戦局において政権側に有利に働いているだけでなく、反体制派を支援してきた欧米において“アサド政権の存続やむなし”の意向を増長させいている国際情勢においても、政権側に有利に作用しています。

****シリア情勢:米欧でアサド政権存続論***
シリア内戦を巡り、米欧ではイスラム過激派の台頭を懸念し、アサド政権の存続やむなしとの考えが出ている。

ロイター通信は18日、米欧の一部が反体制派主要組織「シリア国民連合」幹部にアサド政権の存続を容認する姿勢を示唆したと報道。

こうした姿勢に反体制派組織は不信感を強めており、来年1月にスイスで開かれる予定の国際和平会議のボイコットも辞さない構えだ。

 ◇イスラム過激派を警戒
「最も良い選択肢はアサド政権の勝利かもしれない」。AFP通信によると、米中央情報局(CIA)のヘイデン元長官が12日、米国での講演で指摘した。

ヘイデン氏は、イスラム教スンニ派とシーア派の過激派同士の抗争激化▽シリアの分裂−−などが予想されると分析し、そうした結論を導いた。

米欧はこれまで「アサド政権が存続する選択肢はない」との立場を明示し、反体制派への軍事支援の強化に再三言及してきた。

だが「イスラム過激派の手に渡る恐れがある」として、反体制派が求める高性能兵器を供与していない。
8月にダマスカス郊外で化学兵器が使用された際も、米仏などは政権側への軍事攻撃を直前で回避。アサド政権に化学兵器を全廃させる妥協案を受け入れ「政権の存在を容認する行為だ」と反体制派を失望させた。

ロイター通信の報道によると、米欧側は現時点で政権が崩壊すれば、イスラム過激派が台頭し混乱が拡大するのを懸念したという。

国民連合はアサド大統領の退陣を和平会議への参加条件に挙げており、複数のメンバーは毎日新聞の取材に「報道は単なるうわさだと考えているが、事実であれば、会議に参加しない」と述べた。

反体制派内では今春以降、国際テロ組織アルカイダが影響力を拡大。また、国民連合と協力してきたイスラム武装勢力も「イスラム戦線」を新たに結成し、国民連合とは一線を画す動きを強めている。

今月上旬にはイスラム戦線がトルコとの国境付近で、国民連合傘下の「自由シリア軍」の武器庫を襲撃する事件も発生。米国はトルコ経由の反体制派支援を見合わせている。

シリアでは2011年3月に反政権デモが始まってから今月8日で1000日を迎えた。在英の反体制派組織「シリア人権観測所」や国連によると、一連の武力衝突による死者は12万人を超え、国外に逃れた難民は約230万人、国内避難民は約650万人に上る。

アサド政権は、反体制派がレバノンからの主要補給路にしている西部山岳地帯で攻勢を強めている。また15日以降、北部アレッポの反体制派支配地域を重点的に空爆し、死傷者が多数出ている。【12月19日 毎日】
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破綻している武力による政権打倒
化学兵器処理の責任を政権に委ねたこと、更に、アルカイダ系組織の台頭への懸念ということで、欧米諸国のアサド政権容認の流れは加速しているようです。

現実問題としては、“一連の武力衝突による死者は12万人を超え、国外に逃れた難民は約230万人、国内避難民は約650万人に上る”という惨状、更にイスラム過激派の台頭という事実から判断して、反政府派の武力による政権打倒という戦略はもはや破綻していると言うべきでしょう。

破綻した戦略にいつまでもしがみついて、いたずらに犠牲者を増やすのは愚かしい判断です。
戦闘参加者は自らの命をささげる覚悟でしょうが、一般国民の屍と犠牲の上に政権打倒を実現しても意味がありません。

本来は、22日からの国際和平会議を機として、停戦に向けた取り組みを行うべきですし、関係国はその方向で働きかけるべきです。

将来に向けては、停戦を実現させ、反体制派はその後の政治参加によってアサド政権の非を主張し、選挙によって発言力を強めていくことが考えられます。

ただ、今の反体制派にそうした方向転換を受け入れる余地はないでしょう。
非常に難しい役割ですが、アメリカは反体制派に引導を渡すことを考えなくてはならないのではないでしょうか。
それはアメリカ自身にとっても外交戦略の失敗を認めることであり、国内的に大きな問題となります。

そうであっても、犠牲者をいたずらに増やす現状に歯止めをかけるためにはやむを得ないことではないでしょうか。
戦闘での勝ち負け、外交的な成功・不成功より、犠牲者をこれ以上増やさない決断が重要です。それが本当の意味での指導力だと考えます。

非人道的行為も多々あるアサド政権存続を容認するというのはなかなか言いづらいことではありますが、屍の山を築くよりはましです。

反体制派がそうした流れを受け入れないのであれば、関係国の反体制派への支援停止、アサド政権側の戦闘面での勝利という形で進めるしかないようにも思えます。
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アフガニスタン  米軍完全撤収をめぐる綱引き  タリバンの戦略は?

2014-01-18 21:21:57 | アフガン・パキスタン

(国連やアメリカが支援する団体によって進められている女子教育が今後どうなるのか?
“flickr”より By The Asia Foundation http://www.flickr.com/photos/46887593@N08/4418009030/in/photolist-7Jpsau-amm6qq-dUdArL-apLSkD-dnyCxJ-8ivjYX-dnxoGi-9zLo35-ajYZUf-8cxPkY-8cusUM-8cuu1M-8cxRaJ-8cuurH-8cxP3o-8cuuYK-dnxoAD-e5jAiH-8cussv-8cxRBY-8ivhMp-8iyxRW-8hdirh-8iyMqh-8iyyEE-8iyye7-7RSHhS-8iNwPe-9spKHp-8AK5ys-d3oF3w-8MMs3E-ajYZTA-7FVDLT-ccsSdU-8AGaQz-d347qA-d347n9-d347y5-d346YW-d347i9-d347u5-d347eU-ajWdpi-7FZAkA-9LxSBM-9VHn2v-bV6Aa4-bV6BTr-8oKnHt-9GFtru

【「アフガニスタンもイラクの二の舞いになりかねない」】
アフガニスタンからの米軍などの外国部隊撤退は、いよいよ今年2014年末までに行われることになっています。

しかし、一部部隊を残留させて治安悪化を防止したいアメリカと、国民に不人気な米軍残留を任期中に自分の責任で認めたくないカルザイ大統領の間で、米兵の犯罪行為の裁判権などを含む安全保障協定署名を巡って対立が続いていることは昨年も取り上げてきたところです。

****アフガン:米特別代表、協定署名を改めて訴え****
アフガニスタンで来年以降の米軍駐留継続を可能にするための米・アフガン安全保障協定の署名をカルザイ大統領が引き延ばしている問題で、米政府のミラー次席特別代表(アフガニスタン・パキスタン担当)は16日、訪問先のインドで会見し「完全撤収の計画を立てねばならなくなる」と、改めて早期署名を訴えた。

ミラー氏は、ニューデリーで開かれたアフガニスタン・パキスタン支援のための「国際コンタクト・グループ」(53カ国、議長国ドイツ)に米代表として参加。「米軍が不在となれば、治安への不安が高まり、国際的な復興支援の継続にも直接影響する」と懸念を表明した。

アフガニスタンから参加したアフマディ副外相は、署名の条件として、アフガン大統領選挙(4月5日実施予定)への不介入などを米側へ求め「しかるべきときにカルザイ大統領が署名するだろう」と、カルザイ氏が在任中に署名することへの期待を表明した。【1月17日 毎日】
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アメリカ側は早期に署名がなされない場合は“完全撤収”せざるを得ないと圧力をかけています。
実際、イラクでは同様の問題でマリキ政権と交渉が決裂し、米軍は完全撤収を行いました。

ただ、そのイラクはシリア内戦に連動する形でスンニ派・シーア派の宗派間の対立が激化、特に、アルカーイダ系スンニ派の武装組織「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」がかつての宗派対立の激戦地でもあったファルージャなどを制圧するまでに勢力を拡大し、イラク情勢は混迷を深めています。

アメリカにおいては、今のイラクの混乱は米軍が完全撤退したことによるものであるとの批判が保守派からなされています。

****イラク撤兵の代償/ウォールストリート・ジャーナル(米国****
米紙ウォールストリート・ジャーナルは6日付の社説で、シリア内戦やイラクの混乱が中東全体の不安定化につながる可能性に警鐘を鳴らした。

また現状の背景にはオバマ政権が2011年末にイラクから米軍を完全撤退させたことがあるとし、中東全体で「イラク撤兵の代償と結果が明らかになっている」とオバマ外交を批判した。

社説は中東情勢について、シリア内戦の影響が周辺国に広がっていると分析。オバマ大統領が昨年9月に一度は打ち出したシリアのアサド政権への軍事行動を思いとどまったことに触れ、「米国はシリアやイラクを忘れようとしているが、シリアやイラクは米国を忘れていない」とし、米軍の関与が求められていると指摘した。

またシリアの反体制派が、アサド政権を支援するレバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラへの報復テロを行っていることに注目。ヒズボラがミサイル攻撃能力を拡大させていることや、イスラエルが核兵器開発が疑われるイランを攻撃する可能性にも言及し、これらの状況が「新たな戦争に発展しかねない」と論じた。

さらに社説は、ISILを念頭にアルカーイダ系の武装組織が、シーア派が主導するイラクのマリキ政権がスンニ派住民からの支持を得ていない事情を背景に、同国で勢力を伸ばしていることに憂慮を示した。

一方、社説はオバマ政権がイラクへの軍事支援に取り組んでいることを踏まえ、「米国が武装勢力を打ち破ることは明確に米国の国益にかなう」と主張した。

ただしオバマ氏が11年末にイラクから米軍を完全撤退させたことについては、翌年の大統領選で「戦争の潮流は弱まっている」とアピールするためだけの判断だったと批判。

「米国の安全保障にとっては5千~1万人を残した方がはるかに良い結果を得られた」とし、オバマ氏らは「紛争は善意と戦略的な撤兵で回避できると米国民に信じさせようとしている」と揶揄(やゆ)、関与の重要性を強調した。【1月14日 産経】
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ISILの攻勢については、当のマリキ首相は自らのISILへの強硬姿勢をシーア派が多数を占める国民にアピールして、来るべき総選挙を有利に運びたいという思惑があるとも指摘されていますが、宗派間対立の激化、イラクの混乱はアメリカにとっては「何のために多くの米軍兵士が血を流したのか?」という問いにもなります。

マケイン上院議員(共和党)らからは「(イラクの混乱、ISIL台頭は)米軍の完全撤退が原因であり、アフガニスタンもイラクの二の舞いになりかねない」との声が上がっています。

また、最近話題になっているゲーツ元国防長官の回顧録においても、オバマ大統領のアフガニスタンへのやる気のなさについて“オバマ氏は増派に対するひどい判断をしていたにもかかわらず大統領になった。だが、戦争を主に国内政治として扱う習慣は執務室にまで持ち込まれ、彼自身の政策を台無しにした。アフガニスタンの場合が特にそうだ。大統領は「自分の戦略を信じていないし、この戦争を他人事のようにとらえている。彼にとって、(戦争から)抜け出すことがすべて」だった。”と手厳しく批判しています。

****米のいらだち、イラクの二の舞い懸念 中東への関与低下****
オバマ米政権は、国際テロ組織アルカーイダ系武装勢力「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)がイラク、シリア、レバノンで勢力を拡大していることに、脅威の認識を強めている。

イラク情勢の深刻化は、米国の中東への関与と影響力の相対的な低下に対する批判を、米国内に呼び覚ましており、今年末までに予定されているアフガニスタンからの米軍戦闘部隊撤退に微妙な影響を与える可能性もある。

ISILがイラク中部ファルージャを制圧した事態などを受け、米政府は6日、空対地ミサイル「ヘルファイア」100基、無人偵察機「スキャンイーグル」10機、「レイブン」48機をイラク政府に供与すると発表した。バイデン副大統領も、イラクのマリキ首相に電話で支援を伝えた。

オバマ政権は「米地上部隊の派遣は検討していない。これはイラクの戦いだ」(ケリー国務長官)という認識でいる。
イラクからの米軍撤退が完了し約2年。政府高官は「撤退は不可逆であり、小規模の部隊を投入しても事態を改善できない」としている。

そもそもイラクとアフガニスタンという、ブッシュ前政権からの「負の遺産」を引き継いだオバマ政権は、両国から“足抜け”する動きと相まって、中東への関与を低下させてきた。

「アラブの春」では、影響力の限界と一貫した中東政策の欠如を強く印象づけた。具体的には(1)反体制勢力に対し、リビアでは早期軍事支援に踏み切り、シリアでは支援をぎりぎりまで避けた(2)エジプトではムバラク大統領(当時)の失墜を食い止める策がなかった(3)民主化要求デモが起きたバーレーンに改革を要求したが、サウジアラビアの反対で阻止された-などだ。

リビアへの空爆をめぐり、主導的役割を担うかどうかで揺れ動いたことは、記憶に新しい。「内向き」の米国は軍事介入を避けつつ、エジプトの暫定政権などに対するように、武器や資金の供与を凍結したり、逆に支援を強めたりすることにより、中東情勢を“操作”しようとしている。

米国という“重し”が軽くなったことは、多国間外交を動かす一方、中東のタガを外した側面がある。こうした延長線上に、イラク情勢の深刻化もあろう。
 
ジョン・マケイン上院議員(共和党)らからは「米軍の完全撤退が原因であり、アフガニスタンもイラクの二の舞いになりかねない」との声が上がる。関与の低下はオバマ政権に、ジレンマをもたらしている。【1月8日 産経】
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イラクへの再派遣などは、一般世論の厭戦気分を考えても論外ですが、現地での混乱拡大は“無策”との批判を強めます。

そうしたことからも、アフガニスタンについては今後の治安を一定に担保する形で一部を残留させたいところでしょうが、アメリカとの不仲が言われているカルザイ大統領がこれに応じないということで、オバマ大統領も苦しいところです。

硬軟両方のタリバンの姿勢
アフガニスタンの今後は米軍の存在以上に、タリバンの意向に大きく左右されます。

タリバンが今後について、どういう戦略を描いているのかは知りませんが、最近の動きには柔軟姿勢と強硬姿勢両方が混在しています。オマル師の生存も定かではない状況で、組織的に統一された戦略があるのかも疑問です。

17日夜、外国人が多く集まるレストランが襲撃され外国人13人を含む21人の死者が出たと報じられています。不特定多数の外国人を狙ったテロ行為に対し衝撃が広がっています。

****首都中心部で自爆テロ=IMF駐在代表ら16人死亡―アフガン****
アフガニスタンの首都カブール中心部で17日、反政府勢力タリバンによる自爆テロがあり、国際通貨基金(IMF)アフガン駐在代表や国連職員ら16人以上が死亡した。うち13人は外国人だったが、在カブール日本大使館によると、在留邦人全員の無事が確認された。犠牲者は最終的に30人程度に上るとの情報もある。

警察によると、17日午後7時(日本時間同11時半)ごろ、武装した3人がワジル・アクバル・カーン地区にあるレバノン料理レストランを襲撃した。1人が入り口付近で自爆。残る2人は店内に侵入しようとしたが射殺された。

IMFは、この自爆テロでレストランにいたワベル・アブダラ・アフガン駐在代表(60)が死亡したと明らかにした。アブダラ氏はレバノン人で、2008年6月から代表を務めていた。国連は、国連職員4人がテロに巻き込まれ犠牲になったと発表した。【1月18日 時事】 
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一方で、批判の強い女子教育に関するイメージ改善を狙うような対応もあるようです。

*****アフガン・タリバン、女児の就学を復活―イメージ改善狙う****
1990年代にイスラム原理主義勢力タリバンが女児の就学を禁止した際、ムラー・ワキル・アハマド・ムタワキル氏は タリバン政権の外相だった。

現在、ムタワキル氏の娘はカブールにある同氏が設立した学校である「アフガン学校」に通っている。「娘は2年生で、クラスでも優秀な成績だ」と同氏は誇らしげに言い、彼女の宿題を手伝うこともしばしばあると語った。

彼女はムタワキル氏が元タリバン幹部たちと協力して3年前に設立した学校に通う少女たち約250人の1人だ。
これら元幹部は近年、従来よりも柔軟な立場をとっている。設立者にはムタワキル氏のほか、タリバン政権の元パキスタン駐在大使だったムラー・アブドル・サラム・ザイーフ氏も含まれる。

タリバン政府が2001年に追放された後、2人は米国によって拘置所に数年間入れられた。両氏はアフガニスタンの首都カブールにアフガン現政府の監視下で生活している。
2人ともムラー・オマル師の率いるタリバン指導部を否定したことはない。

タリバン指導部は、米国主導の多国籍軍が今年12月に撤退したあと再び権力を掌握しようとしており、過去2、3年間、公のイメージを柔軟にしようと努めてきた。
タリバンは公式声明で、少女たちがイスラム主義環境の中で教えられている限り、女性教育を支持すると述べている。

ムタワキル氏と、その仲間の元タリバン幹部によって設立されたこの学校も、こうした教育方針を堅持していると強調している。
それは、反政府勢力の支配下になった場合、その支配下地域の教育がどのようなものになる可能性があるかを垣間見せている。

ムタワキル氏の説明によると、同氏らの設立した「アフガン学校」の背景にある理念は、「近代的な学校とマドラサ(学院)の間の溝を埋める」ことだという。
マドラサは伝統的なイスラム学校で、宗教科目を集中的に学生たちに教え込む教育機関だ。

アフガン学校は小学校から高等学校まで運営しており、男子と女子は厳密に区別される。彼らは別個の建物に通い、そこでは教師たちも男女別に峻別される。
それでも、少女を含む女子学生は制服の一部として桃色のベールを着用している。

男女とも、宗教科目はカリキュラムの大きな部分を占めている。最近、学校を訪れた際、1年生はコーランの言葉であるアラビア語のアルファベットの暗唱に専念していた。
しかし、彼らは英語も学習しており、コンピュータークラスにも定期的に通っている。

授業はアフガニスタンの2つの国語の1つであるパシュート語でおおむね行われている。これは南部と東部で話されている言葉だ。タリバン運動が最も活発な地域だ。

政府が設定するカリキュラムに加えて、学校では職業訓練コースも提供している。少女には調理と裁縫を教え、少年には電気工の訓練を施している。
男子と女子が共有する唯一の部屋が化学の実験室だ。彼らは別々の入口から別々の時間に入ってくる。

注目されるのは、これがアフガン政府とタリバンがともに承認するモデルであるということだ。
アフガン教育省は現在、このアフガン学校をカブールで最良の学校にランク付けしている。

同省のカビル・ハクマル報道官は「イスラム規則とアフガンの文化規則によれば、それは良い制度だ」と述べ、「それは一般の家庭が娘たちを学校に通わせるよう促すシステムだ」と述べた。

この極めて保守的な社会では、多くの親は娘を学校で勉強させたがらない。2001年以降、学校に通う女児は着実に向上しているが、依然として立ち後れている。

2012年の政府統計では、小学校に通う女子は約66%にとどまっており、男子の92%に大きくリードされている。これが、女子が思春期に入り慣習としては結婚年齢になる中等学校だと、26%に低下する。
それでも、1999年のタリバン支配のピーク時だったころと比べると大きな改善だ。
米国国際開発庁の推測によると、タリバン支配下では小学校就学年齢の女児で何らかの教育を受けているのはわずか6.4%だった。【ウォール・ストリート・ジャーナル 1月17日】
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タリバン内部でこのような“柔軟”な方向がどこまで是認されているのかわからないため、判断に困るところです。
10日ほど前には、こんな事件も。

****10歳少女を自爆テロ未遂で拘束 アフガニスタン****
アフガニスタン南部ヘルマンド州で自爆テロ未遂事件があり、10歳の少女が拘束された。当局によると、少女は調べに対し、警察署に対して自爆テロを試みるよう強要されたと話しているという。

内務省によると、少女の兄はイスラム武装勢力タリバーンの司令官で、この兄と友人が少女に自爆テロを試みるよう強要。警察署近くの川に連れて行って爆弾を仕込んだベストや着替えを渡し、川を渡ったら朝まで待って警官がパトロールの準備をしているところを狙うよう指示したとされる。

しかし川を渡ろうとした少女が水の冷たさに悲鳴を上げたため、これを聞きつけた警官が駆けつけて少女を保護した。兄は爆弾ベストを持って逃走したという。

少女が報道陣に語った内容には多少の食い違いがあり、事件についての情報は錯綜(さくそう)しているが、幼い少女が拘束されたという事実は大きな衝撃を与えた。

カルザイ大統領は声明で「国家の未来を担う子どもたちは保護され、教育を受けさせるべき存在だ」「自爆テロの道具として使われることがあってはならない」と強調している。

少女は現在、政府の保護下にあり、普通の子どもとして生活させるよう約束させたうえで保護者の元に返す予定だという。

アフガニスタンではこれまでにも自爆テロ犯にされそうになった子どもが多数拘束されている。警察は昨年、6~11歳の子ども41人の未遂事件を食い止めた。【1月8日 CNN】
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フランス  オランド大統領の「ファーストレディ」騒動 「結局、サルコジ前右派政権とどう違うのか」

2014-01-17 21:42:50 | 欧州情勢

“1968年フランス映画「個人教授」(主演:ルノー・ベルレー、ナタリー・ドロン)より”

高まるファーストレディー不要論「ベッドと国家を分離せよ」】
事実婚状態のフランス・オランド大統領が、夜な夜なスクーターで愛人の待つ部屋に通っていた・・・という話が週刊誌に報じられ話題になっています。

フランスでは基本的には政治家の私生活は詮索しないという風潮ですので、今回報道についても、“世論調査では77%が「私的な問題だ」とし、支持率が低迷しているとはいえ、84%は大統領への評価は変わらないと答えた”【1月15日 朝日】という冷静な対応のようです。

個人的な印象としては、大昔のルノー・ベルレーなどが出ていたようなフランス青春映画を彷彿とさせるものがあり、政治家にありがちな黒塗り高級車で愛人マンションを密かに訪れる・・・といった隠微なイメージに比べれば、さわやかなものも感じます。

ただ、事実婚相手のトリルベレールさんが公職にある訳でもないのに大統領府に公的なスタッフを6人抱え、「ファーストレディ」として相当の公費が支払われていることから、その立場はどうなるのか? 今の「ファーストレディ」は誰なのか? そもそも「ファーストレディ」が必要なのか?・・・という議論はあるようです。

****オランド大統領:密会認める パートナーと「つらい時間*****
フランスのオランド大統領(59)は14日、エリゼ宮(大統領府)で行われた年始の記者会見で、女優、ジュリー・ガイエさん(41)との密会報道について事実関係を認め、事実婚のパートナー、バレリー・トリルベレールさん(48)との仲について「私たちにとってつらい時間だ」と語った。オランド大統領は記者からの密会報道についての質問に「誰でも個人生活の中で試練を経験する」と述べ、2月11日に予定されるオバマ米大統領とのワシントンでの会談にトリルベレールさんを同伴するかについて「会談までに答えたい」と語った。

その上で、「私的なことは私的に扱われるものだ。ここはその場でもそのための時間でもない」と語り、私生活に焦点を当てた質問を拒否した。ただ、トリルベレールさんは大統領の配偶者として公的スタッフが付いており、費用は月額1万9700ユーロ(約280万円)との報道もある。
記者からは「私生活と公的生活を明確に切り離すのは難しいのでは」との声も相次いだ。

密会時の警備が手薄だったのではないかとの指摘には「私の安全は公務、私的な旅行にかかわらず、いつでも、どこでも確保されているので心配する必要はない」と答えた。【1月15日 毎日】
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オランド大統領は、かつては同じ社会党の大統領候補でもあったロワイヤル氏との事実婚関係があり、4人の子供もいます。

ロワイヤル氏と別れた後のパートナーがトリルベレールさんですが、社会党公認で選挙に立候補したロワイヤル氏への対抗心から、トリルベレールさんが対立候補を支援するツイートをした・・・という出来事が話題になったこともあります。

事実婚パートナーであるトリルベレールさんは今回騒動で「休息が必要だ」と入院しましたが、この人の評判があまり芳しくないことも話題が大きくなった一因のようです。

“フランス政治が専門であるリーズ大学のデビッド・ベル名誉教授はトリエルベレールがフランス中で嫌われており、ほとんどの国民が彼女の贅沢のために税金を払わなければならないことに腹を立てていると指摘する。”【1月15日 Newsweek】

更には、週刊誌報道への圧力が殆どなかったことなども含めて、愛情も冷め、評判もよくないトリルベレールさんを大統領府から追い出すために、オランド大統領側があえてこの報道を抑えず、あるいはリークしたのではないか・・・というかなり穿った見方もあるようです。

この春に迎える統一地方選の社会党候補の間では「大統領が現在のトリルベレールさんと別れ、女優、ジュリー・ガイエさんと一緒になったら、党の支持も上向きになるのでは」との期待が出ているとか。【1月16日 Foresight[
“フランス大統領の「夜這い」はプライバシーにあらず”より】

ちなみに、前任のサルコジ前大統領は任期中にセシリア夫人と離婚して「権力者在任中の離婚はナポレオンとジョゼフィーヌ以来」などと言われたそうです。【同上】

【「それでも社会党政権と言えるのか」】
まあ、男女の仲がサルコジ前大統領と同じ流れになるのは一向にかまわない話ではありますが、低支持率(昨年11月の世論調査では支持率20%に低下。1958年に始まった第5共和制下の大統領支持率で過去最低を更新しています。)に喘ぐオランド大統領にとって悩ましいのは、下記のような「サルコジと同じじゃないか!」という批判でしょう。

****オランド政権:相次ぐ企業優遇策に「それでも社会党か****
フランスのオランド大統領は14日、エリゼ宮(大統領府)での年始の記者会見で、家族手当の原資となる企業拠出金を2017年までに廃止し、300億ユーロ(約4兆2700億円)の企業負担軽減を実施すると発表した。

オランド社会党政権は200億ユーロ分の法人税控除制度の今年からの導入も決めており、仏企業の国際競争力低下に歯止めをかけたい意向だ。だが相次ぐ企業優遇策に、仏メディアからは「それでも社会党政権と言えるのか」との声が出ている。

家族手当はフランスの「2」を超える高水準の出生率を支えているが、企業が従業員給与の5.4%相当分を拠出して原資としており、企業負担の重さが国際競争力の低下につながっているとの批判があった。オランド大統領は会見で、「(拠出の)穴埋めは公共支出削減でまかなう。家計に転嫁することはない」と説明するが、詳細な補填(ほてん)策は明らかにしていない。

「経済成長重視」を旗印に12年大統領選で誕生したオランド政権だが、経済好調の隣国ドイツを尻目に、仏企業の競争力低下傾向が止まらない。

経済成長率もマイナスに落ち込んでおり、昨年には、法定最低賃金の2.5倍以下の従業員給与について、14年に4%、15年に6%の法人税控除を実施することも決めた。

家族手当の企業拠出金廃止は、仏経営者団体が昨年まとめた1000億ユーロ規模の企業負担軽減要求に沿った内容で、記者会見では「結局、サルコジ前右派政権とどう違うのか」などの質問が相次いだ。オランド大統領は「企業負担軽減は雇用拡大との引き換えだ」と説明した。【1月15日 】
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オランド大統領の不人気は、景気と雇用の改善が遅れる中、オランド政権の経済・財政運営に対する不信感が高まっていることが背景にあると見られています。

その不振のフランス経済をなんとかしたい・・・という思いからの企業優遇策ではありますが、そこに左派色を出すのはなかなか難しいものがあります。

結局は、経済運営は市場を重視し、左派色は所得分配面で出すしかないと思われますが、家族手当が削られるようなことになると、「結局、サルコジ前右派政権とどう違うのか」との批判にもなります。

ロマ人排除政策にも人権団体から批判
経済での独自色が難しければ、社会党の看板でもある人権問題で・・・ということにもなりますが、こちらも「結局、サルコジ前右派政権とどう違うのか」という状況にあります。

****仏政府のロマ人送還、2013年は過去最多の2万人****
フランスで、2013年に国外退去処分を受けたロマ人の数が、前年の2倍以上に急増し、過去最多の1万9380人に達したとする2人権団体による合同報告書が14日、発表された。
同国のフランソワ・オランド大統領はこの報告を受け、政府が掲げるロマ人排除政策を改めて擁護している。

非政府組織(NGO)「人権連盟(LDH)」と「欧州ロマ人権センター」は、当局によって強制退去させられたロマ人の数は、2012年に9404人、2011年には8455人だったと述べ、「強制退去はほぼ毎回、きちんとした替わりの住居も社会的支援もないまま継続されている」と指摘。

両団体の合同報告書によると、政府の方針では排除の前に社会的な審査が義務付けられているにもかかわらず、「実施されることはまれ」だという。

フランスのロマ人排除政策に対しては、各人権団体から批判が集中。特にマニュエル・バルス内相が、ロマ人にはフランスに定住する意思のある人などほとんどおらず、出身国に帰るべきだと発言した際には、同国でロマに対する敵意が高まっている現状が浮き彫りになった。

現在フランスには、ロマ人が約2万人いると推定され、その多くが町外れに違法な居住キャンプを設営して生活している。仏政府は近年、キャンプから一部のロマ人に退去を命じる政策を実施し、ロマ人に金銭を渡してルーマニアやブルガリアといった出身国へ送還するという措置が取られることが多い。

オランド大統領は、14日の記者会見で、ロマ人に対する政策について質問を受けると「自らの過去の行いを恥じるべきだろうか、答えはノーだ」と述べ、同国ではロマ人排除の法律がこれまで一貫して適用されてきたことを強調した。【1月16日 AFP】
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“ロマ人に金銭を渡してルーマニアやブルガリアといった出身国へ送還する”ということですが、フランスだけでなく英独などEU富裕国は今、域内ルーマニアやブルガリアからの移民流入を警戒する状況となっています。

****EU富裕国、移住増を警戒 ルーマニア・ブルガリア、就労制限撤廃****
 ■「移動の自由」か「差別扱い」か…議論呼ぶ
欧州連合(EU)で、ルーマニアとブルガリアの労働者に対する就労制限が1日に撤廃された。域内の最貧国である両国からの移住者急増を恐れる裕福な加盟国は対策に動くが、両国は「差別扱いだ」と反発している。
欧州統合の要である「移動の自由」にかかわるだけにEUも懸念を強めている。

「社会保障を得る目的での移住は拒否する」。ドイツではメルケル政権の一角、キリスト教社会同盟が昨年末、移住者に入国後3カ月は社会保障の給付金を支給せず、不正受給者は追放・再入国禁止とすることを要求。政府は8日、必要か否かも含めて対策の検討を始めた。

EUでは労働市場が自由化されている一方、各国は新規加盟国の国民に対して最大で7年、自国内での就労を制限できる。
英独仏など9カ国は2007年加盟のルーマニアとブルガリアの国民に、労働許可取得などを義務付けていたが、両国民は撤廃を受けて他国で自由に職探しができるようになった。

ただ、経済的に豊かな国では他国の求職者が殺到し、失業手当など社会保障の負担増につながることへの警戒心が強い。「手当目的の観光」と報じるメディアもある。ドイツの世論調査では、移住者に直ちに同等の社会保障上の権利を与えることに「反対」するとの回答が約8割に上った。

英国も1月から、EU域内からの移住者に対して入国後3カ月間は失業手当を支給せず、就職先を6カ月間見つけられない場合、手当を打ち切る方針を表明している。路上で物乞いをすれば強制送還し、再入国を1年間禁じる。

英国は04年、ポーランドなど東欧諸国が加盟した際、就労制限の措置を取らず、大量の移住者が押し寄せた経験がある。キャメロン首相は「とてつもない過ちだった」とし、今回の措置の必要性を強調する。

こうした国々には5月の欧州議会選を前に、反移民や反EUを掲げる政党の台頭への警戒感もある。15年に総選挙を控える英国では小党の英国独立党が支持を拡大、ドイツでも反ユーロ政党の伸長が懸念される。

他の加盟国に居住しているルーマニアとブルガリアの国民はすでに300万人を超えており、EUは規制撤廃で移住者が急増する可能性は低いとしている。ドイツでは労働力不足の補充につながるとの意見も強く、英国では過去の東欧からの労働者が経済成長に貢献したとも指摘される。

EUにとり人、物、サービス、資本の「移動の自由」は欧州統合の原点にさかのぼる基本原則で、域内で自由に働く権利はその重要な柱の一つだ。アンドル欧州委員(雇用・社会問題・同化政策担当)は、「垣根を設けることは解決策にならない」と強調している。【1月9日 産経】
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フランス世論は、ロマや移民には厳しい見方をしており、社会党オランド政権としてもその流れに掉さすことはできないところでしょう。
ただ、それだけでは「結局、サルコジ前右派政権とどう違うのか」という話になります。
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核ミサイル・核爆弾の管理における不祥事・ミス・事故

2014-01-16 21:54:23 | アメリカ

(1966年1月、スペイン・パロマレースに落下した水爆 落下の衝撃で先端がひしゃげているようです。この事故では実際に核物質が飛散しました。ただ、このように公開されていれば、反省・改善も期待できます。問題が大きいのは隠蔽しているような国々でしょう。 “flickr”より By Chris http://www.flickr.com/photos/33013673@N07/6886277800/in/photolist-buvYtA-daANVx-dgRgAM-8LSV3L-aiqmEw-7XKDKL-bMJc46-dssNNP-9DsGeH-eW1Ew4-dRZH43-dRZFkj-dRZz6Q-dRZNwE-dRZQ6A-9kY5wg-9NKVq9-9LPBnH-dLHNZo-dFcMeP-ac1dLS-a44392-a82jnN-biLrj6-bg8TQR-bgEKR6-bgELxe-gzCMJF-b6BJdD-a4niHm-954Uu4-dRZv8C-d6osaw-hCMqb5-9teRTR-hqVxz8-hqTxB6-hqXL8S-hqXdt8-hqXdxX-hqXLff-hqXLfL-hqXdxB-hqVxog-hqTxLp-hqXdcr-hqXL31-hqXdsr-hqXdjk-hqVxor-hqVxoB)

【「孤独な任務」に忍び寄る危険
アメリカやロシアなどが保有する大量の核兵器は、当然ながら厳格に管理されている・・・・はずです。
核ミサイルは2名の将校が同時にキーを回さないといけないとか、もう1名が乱心した場合に備えて常に拳銃を所持している・・・といった類の話を聞いたこともあります。

ただ、核ミサイル発射担当将校が薬物を違法所持していたといった、目を疑うような不祥事もあるのも事実です。

****米核ミサイル担当将校2人、違法薬物所持の疑いで取り調べ****
核ミサイル発射を担当する米空軍の将校2人が違法薬物所持の疑いで取り調べを受けていることが9日、複数の米国防当局者の話で明らかになった。

米国防総省のアン・ステファネク報道官がAFPに語ったところによると、米モンタナ州のマルムストローム空軍基地に配属されている将校2人が、違法薬物所持の疑いで空軍特別捜査室の取り調べを受けているという。

米軍はこの件について詳細を明らかにしていないが、このニュースに先立ち、チャック・ヘーゲル米国防長官はモンタナ州に隣接するワイオミング州にある大陸間弾道ミサイル(ICBM)基地に異例の訪問を行い、「諸君の任務は間違いが許されないものだ」などと述べて激励していた。

ヘーゲル長官は8日にもニューメキシコ州のカートランド空軍基地を訪れ、「孤独な任務」に就いているミサイル担当者らは「自分たちが正しく評価されていないと何度も感じている」と述べ、ミサイル担当者の士気に懸念を示していた。【1月10日 AFP】
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この事件には、後日談があるようです。

*****米空軍:核ミサイル基地将校34人が習熟試験で不正行為****
米空軍は15日、核ミサイルの運用を担当する西部モンタナ州のマルムストロム空軍基地所属の将校34人を習熟試験で不正行為を行ったとして職務停止にしたことを明らかにした。

昨年夏の試験で携帯電話のテキストメッセージで答えを教えあったり、不正を知って報告しなかったりしたという。

空軍では、将校らが違法薬物所持の疑いで空軍特別捜査室の取り調べを受けている。うち複数の将校が核ミサイルの運用部隊に所属しており、捜査の過程で今回の不正行為が明らかになった。
同基地には190人の運用担当将校がおり、約2割が処分を受けたことになる。

ジェームズ空軍長官は15日の記者会見で「絶対に受け入れられない行為だ」と批判したうえで、これは何人かの空軍将校の怠慢であり、核ミサイル運用の怠慢ではない」と語り、核兵器の安全は確保されていると強調した。
しかし、核ミサイル部門では昨年10月、少将が飲酒によるトラブルで免職処分になるなど不祥事が相次いでいる。【1月16日 毎日】
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昨年10月にも杜撰な核ミサイル管理が報じられています。

****核ミサイル発射施設の防爆扉開け放しに 不祥事続く米軍核管理部門、4人処分****
米空軍の核ミサイル発射を任務とする複数の担当者が、本来は閉じておくべき発射施設の防爆扉を開け放しにして4人が処分されていたことが分かった。AP通信が22日、空軍当局者の話として伝えた。

米軍の核管理部門では今月に入り不祥事が相次いでいる。
今回のような不手際が明らかになるのはまれ。防爆扉は今年2回、閉じておくべきなのに開け放しになっていたという。APは「核兵器の取り扱いで重大なトラブルにつながりかねない」との見方を示した。

核ミサイル部隊は管理に落ち度があった場合の影響が大きいことから扉の開け閉めを含め、決められた手順に従って行動するよう訓練を受けているが、今回の失態を防げなかった。

米軍の核管理部門では今月、戦略軍の副司令官(海軍中将)や第20空軍の少将がギャンブルや任務遂行能力を理由に相次いで解任された。【2013年10月23日 msn産経】
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この手の話は残念ながらゴロゴロあって、アメリカなどは、まだましな方でしょう。
旧ソ連では、泥酔したミサイル担任将校が発射ボタンを押して危うくICBMが発射されてしまうところだったという事件もあったようです。このときはたまたま定期点検の為、ミサイル燃料を抜かれていたので発射されなかったとのことです。

ましてや、北朝鮮やパキスタンなどの核管理体制がどうなっているのかなどは、失礼ながら非常に危うい感じもします。(実態は全く知りませんが)

どんなに厳重なシステムを構築しても、“ヒューマンエラー”は必ず発生するということにつきますが、ある意味、非情に納得できる話でもあります。

非常に危険なものを扱う場での不祥事が起きると、「どうしてそんなことが・・・」と叩かれますが、1年365日、5年、10年と扱っていると、どうしても感覚が“慣れ”てきます。
ちょっとした“省略”や“この程度は・・・”といった取扱いが起きてくるのは、自分の仕事を考えても理解できます。

【「氷山の一角」】
一方で、核爆弾が誤って投下されてしまうという“事故”もときどき起きているようです。

****核爆弾落下事故は「氷山の一角」 米軍兵器事故の実態****
米南部ノースカロライナ州ゴールズボロの上空で1961年1月、飛行中に故障した米軍の爆撃機から2つの核爆弾が落下し、あと一歩で大惨事を招く事態に陥っていたことが明らかになり、米国民を震え上がらせている。

核爆弾の威力は広島に投下された原爆の実に約260倍。
落下した核爆弾は、4つの安全装置のうちの3つが外れて陸地に着弾したが、最後に残された初歩的な安全装置が正常に動作し、奇跡的に大惨事を免れたという。(中略)

事故が起きたのは、ケネディ大統領が就任した直後の61年1月下旬。米軍の爆撃機B52がゴールズボロ上空で燃料漏れを起こし、緊急着陸の準備をしていた際に重量の不均衡が発生して機体がきりもみ状態に陥った。

B52は「マーク39」と呼ばれる水素爆弾2つを搭載しており、そのうち1つはきりもみの直後から、爆弾が発射されたのと同様の起動を開始。安全装置3つが解除され、降下速度を調整するパラシュートも開いていたという。

核爆弾は広島型の原爆の約260倍という途方もない威力。ゴールズボロのある米東海岸沿いには主要都市が点在している。爆発していれば、被害は約400キロ離れた首都ワシントンを始め、ボルティモアやフィラデルフィア、ニューヨークにおよび、数百万人の犠牲が危険にされされた可能性があったという。(中略)

公文書を入手したシュローサー氏は米CBSニュース(同)に対し、国防総省が認定する重大な兵器事故が32件あることを明らかにした上で「それも氷山の一角だ」と述べ、他の公文書の分析から、50~68年の間だけで、少なくとも700件の重大な事故が起きていると警鐘を鳴らしている。

CNNテレビ(同)によると、米国では2007年、ノースダコタ州から飛び立ったB52に搭載された訓練用のはずの核弾頭搭載ミサイル6発が、実弾だったことが着陸後に判明し、米空軍の危機管理体制が厳しい批判にされされた。

また、現代では核兵器施設へのハッキング攻撃も懸念の一つ。とりわけ、北朝鮮やパキスタンでは、核爆弾の安全性や維持施設の信頼性が疑問視されることもあり、既存の核兵器の安全管理のあり方が改めてクローズアップされている。【2013年9月28日 産経】
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この手の“事故”では、1966年に起きた「パロマレース米軍機墜落事故」もあります。
上記のノースカロライナ州ゴールズボロの事故では初歩的な安全装置によって危うく爆発は回避されましたが、スペイン・パロマレースで起きた事故では、実際に起爆用火薬が爆発し、核物質が飛散しています。

*****パロマレース米軍機墜落事故****
1966年1月17日にスペイン南部の上空で米軍機同士が衝突し、パロマーレス集落に水素爆弾4個が落下した事故である。

冷戦中のクロームドーム作戦で、4発の水爆を積んでいたアメリカ空軍戦略航空軍団(SAC)に所属する爆撃機B-52Gと、空中給油機KC-135Aが地中海の3万1千フィート上空で空中給油中に衝突、墜落した。

KC-135Aの乗員4名は全員死亡。B-52Gの乗員は4名が脱出した。

4個の水爆(B28RI[3])のうち3個がパロマーレス近くの地上に落下し、1個が海中に落下した。
地上に落下した水爆のうち2個で起爆用の通常火薬が爆発し、ウランとプルトニウムが飛散して2平方キロの土地が汚染された。

米軍は1750トンの土を除去し、サウスカロライナ州のサヴァンナ川核施設に運んだ。しかし2011年現在でも、30ヘクタールの5万立方メートルに500gのプルトニウムが残る。(中略)

海に落ちた水爆は米海軍による長い探索ののち、80日後の3月17日に深海探査艇アルビン号に発見され、潜水艦救難艦ペトレルの上に引き上げられた。【ウィキペディア】
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爆撃機が墜落し、核爆弾が行方不明になっているという事故も起きています。

****米軍、冷戦期に行方不明の核兵器をグリーンランドに遺棄 英BBC ****
英国放送協会(BBC)は10日、1968年に核兵器を搭載した米軍のB52爆撃機がグリーンランド北部チューレの米空軍基地近くに墜落した際、米国は懸命の捜索にもかかわらず行方不明となった核兵器を発見できず、そのまま遺棄していたと報じた。関係者の証言や情報公開法によって入手した機密文書によって明らかになったという。(後略)【2008年11月12日 AFP】
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ノースカロライナ州ゴールズボロ、スペイン・パロマレース、そいてグリンランド・・・いずれも1960年代の冷戦時代の事故であり、それらの教訓から現在は適正に管理されている・・・と信じたいものです。

ただ、いずれも比較的公開性のある米軍関連の事故であり、その他の核保有国の事故は・・・・どうでしょうか?

個人的には、どんな分野であれ、人間の営みにはすべてリスクはつきまとうものであると考えていますので、この種のヒューマンエラーや事故の存在をことさらに言い立てるつもりもありません。

ただ、現実にこうしたリスクが存在するということも承知しておかねばならないとは考えています。
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メキシコ  麻薬組織に対応する自警団拡大  新たな混乱の危険も

2014-01-15 22:15:41 | ラテンアメリカ

(2013年3月ゲレロ州 町を制圧した自警団が警察官を逮捕。ハイウェイに検問所を設け、従わない観光客の車に発砲、負傷者が出たそうです。【NYDailyNews.com】 http://www.nydailynews.com/news/world/armed-vigilantes-sieze-coastal-mexico-town-arrest-police-article-1.1301605

州内では月間平均108人が殺害
メキシコでは、カルデロン前大統領のもとで麻薬組織との間で「麻薬戦争」が強行され多大な犠牲者を出しました。
ペニャニエト政権に代わって、そのあたりはどうなったのでしょうか?

本題に入る前に、昨年後半に目にした記事をいくつかピックアップします。
最初は、まるでハリウッドのマフィア映画の暗殺シーンを彷彿とさせるものがあります。

****ピエロに扮した暗殺者がメキシコ麻薬密売組織「ティファナ・カルテル」のボスを殺害****
10月18日金曜日、メキシコで最も悪名高い麻薬密売組織のひとつである「ティファナ・カルテル」のキングピンが、メキシコの高級リゾート地ロス・カボスにて、家族でパーティを楽しんでいたところ、ピエロに扮していた暗殺者に、子供たちの目の前で、いきなり銃で頭と胸を撃ちぬかれて殺害された。

暗殺者は現場から逃走。警察関係者によると、殺害者はピエロのカツラと赤い鼻をつけていたという。(後略)【2013年10月20日 JAPA+LA MAGAZINE】
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次は、アメリカへの密売ルートをめぐる縄張り争いで麻薬カルテル「セタス」と抗争している麻薬カルテル「ガルフ」の構成員逮捕のニュース。

****79人殺害容疑で20歳男逮捕、麻薬組織の構成員 メキシコ****
キシコ北東部ヌエボレオン州モンテレイの警察は26日までに、計79人の殺害に関与したとみられる麻薬密輸組織構成員の20歳男を逮捕したと発表した。

捕まったのはフアン・パブロ・バスケス容疑者で、取り調べで45人の殺害を自供。2011年から今年の間に起きた別の34人の殺害にも絡んでいるとみている。

同容疑者に殺されたのは、対立組織のメンバー、警官、ストリッパーや犯行現場に居合わせた無関係の住民らとなっている。(後略)【2013年10月26日 CNN】
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さすがに、同容疑者自身が79人全員を自ら射殺したわけではなく、見届け役などとしても加わっていたとのことです。

バスケス容疑者云々より、“ヌエボレオン州では麻薬カルテル間の衝突がやまず、州内では月間平均108人が殺されている。州都モンテレイでは今年これまで223人が殺害された。”【同上】ということの方が問題です

次は、密輸に使用する「スーパートンネル」の話題。
密輸トンネルと言えば、パレスチナ・ガザ地区を連想しますが、さすがにアメリカになるとトンネルもりっぱになるようです。

****米メキシコ国境で麻薬密輸用「スーパートンネル」発見、全長500メートル****
米カリフォルニア州サンディエゴとメキシコ北部の都市ティファナを結ぶ、麻薬密輸を目的とした全長およそ500メートルの精巧な「スーパートンネル」が見つかった。両国当局が10月31日に発表した。

米入国・税関管理局(ICE)の国土安全保障調査部(HSI)によると、トンネルは平均で地下10メートルの深さにジグザグに掘られ、内部は高さ約1.2メートル、幅約1メートル。出入り口には油圧式の鉄製ドアが設置されていたという。

掘られてまだ間もないとみられるが、麻薬の運搬を目的とした電動トロッコや空調設備も整っていた。当局は3人を逮捕し、コカイン約150キロとマリフアナ8トン超を押収したという。

米国とメキシコの国境地帯で「スーパートンネル」と呼ばれる精巧な越境トンネルが発見されるのは、2011年以降これが3例目。当局では、取り締まり強化で麻薬密輸組織の焦りが増していることの表れだとの見方を示している。【2013年11月1日 AFP】
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本当に“取り締まり強化で麻薬密輸組織の焦りが増していることの表れ”かどうかは知りません。

最後に、メキシコの刑務所の大半を受刑者が仕切っている話題。
TVドラマ「プリズン ブレイク」のような世界です。これではいくら逮捕してもきりがないようにも思えます。

****刑務所の大半は受刑者の「支配下」メキシコ****
メキシコの国家人権委員会は19日に発表した年次報告で、同国の刑務所全般で暴力が多発しており、また刑務所の大半を受刑者が仕切っていると警告した。

同委員会によると、2012年、同国にある受刑者数の多い101の刑務所のうち65か所が受刑者の支配下にあり、そうした刑務所の割合は前年から4.3%増加した。

また刑務所内で起きた暴動、乱闘、脱獄、殺人などの件数も昨年増え、発生した暴力沙汰は73件、154人が死亡、103人が負傷した。また261人が脱獄した。

49の刑務所には、受刑者たちの「特権区域」があり、禁止薬物や禁止物質の持ち込みや使用、売春などが野放しになっているという。

また少なくとも52の刑務所が過密状態だった。委員会が昨年訪問した刑務所には、全受刑者23万9089人の8割が収容されているが、同国の刑務所の本来の収容定員は19万4000人とされている。

メキシコでは前週も、北東部タマウリパス(Tamaulipas)州の刑務所で受刑者6人が殺害され、その数日後には同じ刑務所から7人が脱獄している。

また過去最大規模の脱獄としては、北部コアウイラ(Coahuila)州の米国境に近い町ピエドラス・ネグラス(Piedras Negras)で受刑者132人が脱獄した例がある。【2013年11月20日 AFP】
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麻薬カルテル、自警団、軍 三つ巴の混乱
今日の本題は「自警団」

“メキシコのカルデロン前政権は2006年末、米国の援助を受けて、巨大化した麻薬犯罪組織に対する掃討作戦を開始したが、組織抗争が激化し、現在までに推計7万〜11万人が殺害される「麻薬戦争」状況に陥った。

昨年12月に発足したペニャニエト政権は、武力中心の麻薬犯罪組織掃討から一般犯罪の取り締まりに治安対策の主軸を移し、メキシコ警察・軍と米国捜査機関との情報交換の窓口も中央政府に一本化した。
このため米国側で懸念が高まっていた。”【2013年05月04日 毎日】

メキシコでは、麻薬ギャングは一部の人々の間では“現代のヒーロー”とみなされる風潮もあるようです。また、ギャング大物は地域の学校・病院・教会などに多額の寄付を行って、そうした風潮を作り出しています。

しかし当然ながら、7万〜11万人が殺害されるような状況に憤る人々も多数存在します。
当然、殺人以外にも、誘拐やゆすりなど、その犯罪は多岐にわたります。
彼らの批判は、事態を改善できない政府・治安当局・軍部へも向けられ、結局自分たちで守るしかない・・・との考えを生んでいます。

そうしたことで、現在メキシコでは麻薬組織に対抗する「自警団」が各地で組織されています。

“犯罪に対し人々が立ち上がった”と言えば聞こえがいいですが、法的な手続きを無視し、曖昧な根拠で“私刑”的な報復にも至るという点では、新たな混乱を呼び起こすものとも言えます。

政府・治安当局は自警団の暴走を認めておらず、麻薬カルテル、自警団、治安当局の3者による三つ巴状態の混乱が広がりつつあるようです。

****自警団が麻薬カルテルから町を奪還、メキシコ****
メキシコ西部ミチョアカン州のヌエバ・イタリアで12日、激しい銃撃戦の末、自警団が麻薬カルテルから町を奪還した。

100台以上のピックアップトラックに乗り込んだ自警団のメンバー数百人は、ヌエバ・イタリアの町役場に到着した際、ここに拠点を構える麻薬カルテル「テンプル騎士団」と見られるグループから銃撃されたという。

ラ・ルアナの農業従事者で自警団リーダーのハイメ・オルティズさん(47)は「2か所から銃撃を受けた。銃撃戦は約1時間半続いた」と述べ、自警団員2人が負傷したことをAFPの取材で明らかにした。人けがないヌエバ・イタリアの一部歩道には流血の跡が生々しく残っていた。

同州では、武装自警団結成の動きが約1年ほど前から活発化しており、過去数週間に麻薬カルテルから州内複数の町を奪還している。

過去7年間に約7万7000人が死亡している同州での麻薬戦争は、約1年前に発足したエンリケ・ぺニャニエト大統領政権にとって大きな治安上の課題となっている。

ぺニャニエト大統領は、昨年5月に数千人の軍部隊や連邦警察を同州に派遣していたが、暴力事件を根絶することはできていない。

一方の自警団は、同州内のライムとアボガドの生産が盛んなティエラ・カリエンテと呼ばれる地域のテンプル騎士団が拠点としている人口約12万3000の町アパトシンガンを包囲したという。【1月14日 AFP】
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“100台以上のピックアップトラックに乗り込んだ自警団”・・・自警団という言葉より“民兵”という言葉の方がふさわしいかもしれません。

その自警団が包囲した麻薬カルテルの根拠地アパトシンガンでの市街戦の懸念に対し、軍が投入され、自警団を排除しつつ、町に突入・制圧したとのことです。

****メキシコ軍、自警団と衝突で死者 西部で治安作戦****
メキシコ軍は14日、暴力事件が多発する同国西部ミチョアカン州で治安回復作戦を実施し、麻薬カルテルの拠点となっていた都市を制圧するとともに、武装解除を拒否した各地の自警団と衝突した。

麻薬カルテル「テンプル騎士団」の拠点となっていたアパトシンガンには、メキシコ軍兵士と連邦警察官200人が突入。同市の警察官らを武装解除させた。

その数時間前には、同騎士団とここ1年にわたり戦ってきた自警団の掌握する各地の町に軍部隊が到着し、武装解除を拒否する自警団員らと衝突。

クアトロカミノスの自警団員によれば、自警団への武器の返却を求めて軍部隊の進路を阻止していた住民に向け、軍兵士1人が発砲。11歳の少女を含む少なくとも4人が死亡したという。(中略)

自警団はこのほどさらに多くの町を掌握し、人口12万3000人のアパトシンガンを包囲。市街戦が発生する懸念が高まったことを受け、13日に軍の投入が命じられていた。【1月15日 AFP】
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“同市の警察官らを武装解除させた”・・・麻薬組織の拠点都市における警察官がどのような立場だったのかよくわかりません。組織の一員として活動していたということでしょうか? 十分ありえる話ですが。

軍・連邦警察も、やれるんだったら早くからそうすればいいのに・・・という感もありますが、武力中心の麻薬犯罪組織掃討から一般犯罪の取り締まりに治安対策の主軸を移したぺニャニエト大統領政権の姿勢でしょうか。

前政権は武力中心の麻薬戦争を強行したことで多大な犠牲者を出しました。そのことが大統領選挙敗北にもつながりました。
しかし、ぺニャニエト政権が麻薬組織にどのように対処しようというのか、よくわからないところがあります。

自警団拡大の問題点については、“Vigilantes(自警団) in Mexico: A Warning Sign of Chaos”(英文)http://newmediajournal.us/indx.php/item/11188で指摘されています。

上記が指摘しているのはコロンビアの先例です。
コロンビアでも、1980年代後期から2000年代初期にかけて、麻薬組織と左翼ゲリラの暴力に対し、農村地帯で民兵が組織されました。


“しかし、それらのグループのいくつかはすぐに暗殺団 にすぎなくなりました。やがてコロンビア は破綻国家への道を転げ落ちることになりました。”
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カラシニコフ氏の苦悩  「武器貿易条約」(ATT)のその後

2014-01-14 23:26:16 | 国際情勢

(AK-47(多分)を手にしたシリア自由軍兵士 “flickr”より By Nish Nalbandian http://www.flickr.com/photos/53294072@N02/9926642016/in/photolist-g8bCQh-g8c1Pf-g8cXt4-g8c387-g8cFXe-g8cxQc-g8dmHv-g7MvRy-g8cfJv-g7Npq2-g8cYH8-g7MU5i-g8cfXs-g7MaX5-g8cDnL-g7NjvH-g8cgrH-g7Mkjt-g8cWyt-g8cvHh-g8d2G4-g8cvZ9-g7M323-g7LMT4-g8bPMg-iswTyz-g7LU7h-g8co6q-isxLxg-g8bNnd-g7LT4K-g7MeAW-g8cbT3-g7MYch-g7LLB7-g8ceXR-agE8ud-dthYiv-dQqha9-dx3DmX-dthnmL-dwG74v)

【「一体彼らはどうやってこの武器を手にしたのだろうか?」】
世界各地で頻発している紛争・武力衝突で一番多くの生命を奪っている兵器は、核兵器でもミサイルでも化学兵器でも最新兵器でもなく、自動小銃でしょう。

その自動小銃を代表するのが、通常“カラシニコフ”と呼ばれるAK-47(「1947年式カラシニコフ自動小銃」の意)です。

“AK-47は信頼性が高いことが最大の特徴であり、扱いが多少乱暴でも確実に動作する。これはミハイル・カラシニコフが設計の段階で変化に富んだソ連の気候を想定し、部品同士のクリアランスを大きめに取り、多少の泥や砂、高温または寒冷地における金属の変形、生産時の技術不足による部品精度の低下が起きても、問題なく動作するよう考慮したためである。故に極寒地や砂漠地帯の兵士からも信頼が寄せられている。特に機関部は、内側に泥や砂などが入っても、軽く水洗いすれば射撃できるほどである。”【ウィキペディア】

また、射撃後の分解掃除や故障時の対処が非常に簡便で、銃の扱いの経験が少ない者でも使用できるのも大きな特徴です。

そのため、世界中の武装組織・民兵などに愛用され、不正規品・バリエーションを含めたAKの総数は1億丁を超えるのではないかと推測されています。

このAK-47の設計者であるカラシニコフ氏が亡くなりました。
同氏は、自分が生み出した銃の優秀さが故の深刻な問題に悩んでいたようです。

****心の痛み耐え難い」カラシニコフ氏、手紙に****
13日付のロシア紙イズベスチヤ(電子版)によると、旧ソ連のカラシニコフ自動小銃AK―47の設計者で、昨年12月に94歳で死去したミハイル・カラシニコフ氏が生前、「心の痛みは耐え難い」などと、自分が開発した銃で多数の人々が命を落としたことに心を痛め、ざんげする手紙を書いていたことが分かった。

同氏が昨年4月、ロシア正教会の最高権威キリル総主教に向けて書いた。同銃は世界の紛争地で最も多く使われたといい、手紙では「私の自動小銃が人々の生命を奪ったことは、たとえ敵の死であったとしても、私に罪があるのではないか」と心情を吐露した。

キリル総主教の報道担当者は同紙に対し、正教会の立場は「武器が祖国のために使われたならば、その設計者と軍人を支持する」と説明。手紙を受け取った総主教は、「愛国主義の手本で、国に対する正しい行いだ」と返答したという。【1月14日 読売】
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“毎年、何千人もの人々がこのAK-47によって殺害されている”という現実にあって、どうして彼らはその銃を入手したのだろうか?銃を含む武器取引が管理されていれば、こんなにも世界中で紛争が起きないだろうに・・・というのは素朴な感想ですが、カラシニコフ氏も同様な心境だったようです。

****規制のための運動【ウィキペディア】*****
「AK-47は、無秩序な武器貿易を象徴しており、人々の生命や生活を破壊している。武器を製造する人とそれを誰に売るかを規制する国際的な規制によってのみ、不正な武器の流通を防ぐことができるだろう」と、アムネスティ・インターナショナル事務総長のアイリーン・カーンは語った。

「(他の銃や軽兵器のように)AK-47が無秩序に拡散することは、特に一部の最貧国で、何百万もの死と大規模な被害をもたらす。次に小型武器に関する国連会議が開かれるのは5年後である。もしも各国政府が、銃の不正な移転を防止するためのこの機会を逃せば、次の機会までにさらに180万人の人々が銃によって殺害されるだろう」と、IANSA事務総長のレベッカ・ピーターズは語った。

AK-47の発明者であるミハイル・カラフシニコフも(/ですら)、より厳しい規制を求めている。ミハイル・カラフシニコフは「コントロール・アームズ」キャンペーンに寄せて次のように述べた。

「武器売買に関する国際的な規制が欠如しているため、小型武器は容易に世界に拡散し、国防のためだけでなく、侵略者やテロリストなどあらゆる犯罪者によって使用されている。私は、テレビで犯罪者がカラシニコフを手にしているのを見る時、一体彼らはどうやってこの武器を手にしたのだろうか?」と、自問している。

女性、学童、あるいは教育を受けていない者でも数時間-数日の教習で扱えるよう設計されている点はほかの小銃にない特徴であり、世界中で殺人に使われ、また、人々を不具にするために使われてしまい、紛争の長期化をもたらし、貧しい人々をさらに貧しくする、といった様々な悪影響を世界中にもたらしている。

毎年、何千人もの人々がこのAK-47によって殺害されている。AK-47の製造・売買・使用に関する国際的な規制がほとんどないため、このような事態を招いている、と報告書AK-47:The World's Favourite Killing Machine(「AK-47:世界最強の殺人機器」)は指摘している。

同報告書によると、現在、世界には推計1億丁ほどのAK-47とそのバリエーションが存在する。AK-47は、少なくとも82ヶ国の兵器庫で発見されており、少なめに見積もっても14ヶ国で製造される状態になってしまっており、さらに(今まで北米・南米では製造されていなかったのに)最近、南米のベネズエラまでがAK-47の現地製造工場に関する契約を結んだので、さらに状況が悪化すると見られている。

AK-47のような悪影響の大きい銃をいかに効果的に規制するか、ということが問題になっており、それが銃が世界中にもたらしている不幸を減らすためのひとつの鍵となると考えられているのである。
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国連総会でATT採択 注目されるアメリカの動向
現在はバナナ取引ほどの規制もなされていないという野放し状態にある自動小銃を含む通常兵器の取引ですが、この武器貿易を国際的に規制していこうという動きが、昨年3月30日ブログ「「武器貿易条約(ATT)」採択見送り 今後は国連総会で採決の見通し」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130330)で取り上げた武器貿易条約(ATT)です。

対象となるのは、大型武器7種類(戦車・装甲戦闘車両・大口径火砲・軍用艦艇・攻撃用ヘリコプター・戦闘用航空機・ミサイルおよびミサイル発射装置)および小型兵器・軽兵器の8種類です。

前回ブログでは、全会一致方式の国連会議は北朝鮮やシリア、イランの反対で決裂し、今後は国連総会へ付託される見込み・・・というところまででしたが、その後、4月2日に国連総会において賛成多数で採択されました。

****武器貿易条約:国連総会で採択 通常兵器に初規制*****
国連総会は2日、通常兵器が虐殺などに使われることの予防を目指した武器貿易条約(ATT)の採決を行い、賛成154、反対3、棄権23の賛成多数で採択した。

「年間50万人の命を奪う」と言われながら、核兵器や化学兵器と違い「野放し状態」(国連)だった通常兵器の国際的な取引に、世界共通の法的拘束力を持つ規制が初めて導入されることになる。条約を批准した国が50カ国に達してから90日後に発効する。

ATTは、通常兵器の非合法市場への流出を防ぎ、戦争犯罪やテロ行為など非人道的な行為を予防するのが目的。対象範囲として、戦車や戦闘機、装甲戦闘車両や攻撃ヘリコプターなど大型兵器7種類と、自動小銃などの小型武器の計8項目を明示。武器取引の可否を判断する際の基準を設けた。

最も厳格に規制されるのは、国連安全保障理事会決議に基づく禁輸措置違反や、大量虐殺や「人道に対する罪」、民間人の直接攻撃に使われると分かっている場合だ。輸出入だけでなく、通過、積み替え、仲介といった「あらゆる移転」が禁止となる。

また、国際人道法や国際人権法の重大な違反、テロや国際組織犯罪に関連する協定違反につながる危険性がある場合は、輸出を許可しないことを義務化。武器の非合法市場への流出防止措置をとることも義務とされた。

焦点の一つで、規制推進派国や国際NGOなどが強い措置を求めていた弾薬の移転は、一定の規制を受けるものの流出防止の対象外となるなど、条約の運用の際に議論となりそうな項目も多い。

条約への正式参加には各国議会などによる批准が必要。しかし、条約導入に政府は前向きながら、国内に強硬な武器規制反対派を抱える世界最大の武器輸出国・米国で、批准が実現するかどうかには不安定要素がある。

米国が不参加となれば、ロシアや中国など他の主要武器生産国も消極的になる可能性も出てくる。また、密輸による紛争地への武器供給などを効果的に規制できるかも、今後の運用次第だが、各国の裁量に任されている部分も少なくない。

ATTを巡る交渉は、英国や日本、オーストラリアなど7カ国が共同提案した06年の国連総会決議を受けて開始。昨年7月の国連会議は時間切れで決裂し、先月28日まで行われた再交渉会議ではイラン、北朝鮮、シリアの3カ国の反対で合意による採択に失敗。多数決で採択できる国連総会に持ち込まれた。【2,013年4月3日 毎日】
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対応が注目されているアメリカは、6月3日の署名式での署名を“条約文の国連公用語(英語など6カ国語)への翻訳が終了した後、署名する”(ケリー国務長官)として見送りましたが、9月25日に署名に至っています。
ただ、批准に必要な上院の承認が得られるかどうかは定かではありません。

****米国務長官:「武器貿易条約」に署名 焦点の上院批准****
ケリー米国務長官は25日、国連本部で、通常兵器の国際取引を規制する国際ルール「武器貿易条約」(ATT)に署名した。

世界最大の武器輸出国・米国の署名は条約発効に向けた前進だが、米国内には消極論もあり上院での批准手続きが焦点となる。

同条約は批准国50カ国で発効する。国連によると、25日夕方までの署名国数は108。発効確実と見られるが、米国が不参加だと条約の実効性に疑問符がつく。
国連総会での採決で棄権したロシアや中国も消極姿勢を強める可能性が高い。米国では批准に上院出席議員の3分の2の賛成が必要だ。

武器規制に反対する強力なロビー団体の全米ライフル協会(NRA)は、米国での武器売買・保有の権利を制限すると条約に反対。武器所有を市民の権利として認めた米憲法修正第2条との関係が焦点だ。

ケリー長官は署名式で「この条約は誰の自由も狭めない」と憲法上の問題は生じないと強調し、理解を求めた。

同条約の規制対象は、戦車や攻撃用ヘリコプター、自動小銃などの小型武器。大量虐殺やテロなど非人道的な使われ方をする危険性が高い場合は輸出を禁じるほか、輸出入の条約事務局への報告を義務づけ通常兵器がテロや犯罪などに使われないようにする。【2013年9月26日 毎日】
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一方、ロシアのリャプコフ外務次官は9月26日、「武器貿易条約」には「欠陥」があるとして、ロシアはまだ加盟しないとの立場を明らかにしています。
ロシアは国連会議においても、条約が「非国家組織への武器供給を禁じていない」ことを理由の一つとして棄権しています。国内のチェチェン独立派武装勢力の存在が念頭にあるとみられています。【2013年04月03日 毎日より】

ただ、おそらくそれは表向きの理由で、実際は武器貿易の規制自体を望んでいないのでしょう。
ソ連崩壊・冷戦終結後の90年代、ロシアやウクライナなどの備蓄武器が大量にアフリカに流出したことが、アフリカの内戦・混乱の一因とされています。

昨年9月のアメリカの署名で、108の国が条約に署名したことになりますが、昨年10月時点で批准したのは7ヶ国です。

12月6日には、日本を含む武器貿易条約原提案国(日本以外では,アルゼンチン,豪,コスタリカ,フィンランド,ケニア,英)が提出した、各国に対し早期の署名及び締結を呼びかける武器貿易条約決議案が圧倒的多数で採択されました。

日本が批准したという話はまだ聞きませんが、原提案国ですから批准し、アメリカなどへの働きかけを行うのでしょう。
ただ、国内銃規制でつまずいたアメリカはどうでしょうか?オバマ大統領の指導力も低下しているようですし、難しい情勢です。

米中ロ抜きでも今後の流れをつくるという意味で一定に効果はありますが、やはりアメリカの参加・不参加は当面の実効性に大きく影響します。

武器輸出三原則
なお、日本はこれまで武器輸出三原則という規制がありましたが、政府はこれを撤廃する意向です。

ただ、公明党は「武器の輸出は抑制的かつ限定的でなければならず、一定の歯止めをかけるための仕組みが不十分だ」などと懸念を示しており、武器輸出を巡る新たな原則の策定に向けた政府・与党内の調整は今後、手間取ることも予想されます。【1月8日 NHKより】

****武器禁輸原則、撤廃へ 「安全保障に資すれば」 政府原案****
安倍政権は5日、武器輸出を原則として禁ずる武器輸出三原則に代わり、新たな武器輸出管理原則を作ることを決め、原案を与党に示した。

原則として、武器輸出を禁止してきた従来の方針を撤廃する内容だ。政府は年内の決定を目指すが、新原則は政府方針の大転換になる。

武器輸出三原則は1967年、佐藤内閣が(1)共産圏(2)国連安保理決議により武器輸出が禁止されている国(3)国際紛争の当事国またはそのおそれのある国――のケースで武器輸出を禁止。

三木内閣が76年、三原則以外の国にも原則、輸出禁止を決めた。ただ、米国への武器技術供与などは個別に官房長官談話を出して「例外」を設けてきた。

政権が示した原案では「我が国の安全保障に資する場合」は輸出できるなど、幅広く解釈できる文言を新しく設ける。ただ、(2)と(3)の禁止条項は維持する。輸出の審査・管理基準も設けるが、三木内閣の原則禁止の方針は撤廃の方向だ。武器輸出の品目や地域が大幅に広がる可能性がある。

新原則が決まれば、輸出の可否は外交・安保政策の「司令塔」となる国家安全保障会議(日本版NSC)などでの協議を経て判断される。【12月6日 朝日】
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エジプト  着実に体制を固める軍主導の暫定政権 明日、憲法改正国民投票

2014-01-13 21:47:16 | 北アフリカ

(「国民の要請があれば・・・」と、大統領選出馬を明らかにしたシーシ軍最高評議会議長兼国防相 写真は【12月31日 ロイター】http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE9BU00120131231

ムスリム同胞団をテロ組織に指定
エジプト情勢を取り上げるのは、12月2日ブログ「エジプト暫定政権 強権的姿勢を強める アメリカは軍事支援で苦慮」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131202)以来と、久しぶりです。

この間、ドラスティックな展開こそないなかで、着実に軍部主導の体制固めが進行しています。

****エジプトで衝突、17人死亡****
エジプトで3日、失脚したモルシー前大統領の復権を求めるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団などのデモ隊と治安部隊が衝突し、保健省によると全土で少なくとも17人が死亡、50人以上が負傷した。
内務省は同日、デモ参加者250人以上を逮捕したと発表した。【1月5日 産経】
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上記のようなムスリム同胞団支持者と軍主導の暫定政権の衝突は相変わらずですが、暫定政権側の締め付けは更に厳しくなっています。

****エジプト:ムスリム同胞団を「テロ組織に指定」 暫定政権****
エジプト軍主導の暫定政権は(12月)25日、7月の軍事クーデターで追放されたモルシ前大統領の出身母体・イスラム組織ムスリム同胞団を「テロ組織に指定した」と発表した。

暫定政権は同胞団への弾圧をさらに強める可能性が高い。ただ、同胞団がテロに関与した明確な証拠は示していない。同胞団はテロへの関与を否定しており、今後もクーデターへの抗議活動を続ける方針だ。

暫定政権は、同胞団のテロ組織指定について、北部マンスーラの警察施設で24日に発生した爆弾テロ事件を受けた措置だと説明した。

事件で警察官ら16人が死亡。東部シナイ半島を拠点とするイスラム過激派組織「エルサレムの支持者」が犯行を認める声明を発表した。同胞団は関与を否定しているが、暫定政権は以前から両組織が連携しているとの見方を示していた。

暫定政権はクーデター後、同胞団幹部を軒並み拘束し、非政府組織(NGO)登録を取り消すなど、同胞団の弱体化を図ってきた。

今後はデモなどの抗議活動も一切認めない構えで、同胞団員や支援者に対する弾圧をさらに強めるとみられる。同胞団が貧困層向けに運営してきた学校や病院にも影響が出そうだ。

ただ、強権的な抑圧策をとる暫定政権に対し、同胞団に批判的だったリベラル派からも懸念の声が高まっており、今回の措置で暫定政権への批判が強まる可能性もある。

政府系紙アルアハラム(電子版)によると、外務省は25日、同胞団の拠点がある他のアラブ諸国に対し、同様の措置をとるよう求めた。同胞団は、シリア内戦で反体制派としてアサド政権と戦っている。また、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)も同胞団が反王制的だとして警戒している。

同胞団は1928年、イスラム教に基づく統治の実現を目指してエジプトで設立された。
50年代以降は歴代政権の弾圧を受けたが、2011年の革命後の選挙で圧勝し、モルシ氏が12年6月に大統領に就いた。緩やかなイスラム化を志向しており、テロを頻発させるイスラム過激派とは一線を画してきた。【12月26日 毎日】
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8日に予定されていた、デモ参加者殺害を扇動した罪に問われたムスリム同胞団出身のモルシ前大統領の裁判は、2月1日に延期されました。
延期理由について内務省は、モルシ前大統領暗殺計画があったためだとしています。【1月10日 朝日より】

軍主導の“民政移行” 強まる軍の権限
暫定政権側は、体制固めのひとつの区切りとなる憲法改正案の賛否を問う国民投票を明日14日に行います。
憲法修正案では、クーデターを主導した軍や、裁判所の権限が強化されたほか、男女平等や宗教政党の禁止などが明記されています。

****エジプト、軍靴の響き 憲法改正案、14日に国民投票 民間人を裁く権限明示****
昨年7月の軍クーデターでイスラム系政権が倒されたエジプトで14日、憲法改正案の賛否を問う国民投票が行われる。

軍主導の暫定政権下で審議された改正案は、女性の権利などを新たに盛り込む一方、民間人を軍事法廷で裁く規定など軍の権限を明示し、憲法で裏づけた。軍総司令官のシーシ国防相兼副首相の大統領就任に向けた布石との見方も出ている。

エジプトでは突然、身に覚えのない罪で軍事法廷にかけられるケースが後を絶たない。(中略)

エジプト革命後の12年に採択された憲法は、市民が軍事法廷にかけられる罪を漠然と規定。軍主導の暫定政権による今回の改正案では、細かく規定された。
憲法起草委員会のアムル・ムーサ委員長は「軍に対する犯罪が、軍施設や軍人への攻撃などに限定された」と胸を張る。

だが、在カイロの人権団体のイスハク・イブラヒムさん(37)は「軍事法廷は不透明で、情報は外に出ない。改正案は犯罪の対象を限定したように見えるが、軍の意向でいかようにも解釈できる」と懸念する。

同国ではこれまで、様々な分野に軍が広く力を及ぼしてきた。13年の調査では、11年以降少なくとも約1万2千人の市民が軍事法廷にかけられたとの結果が出たが、実数ははるかに多いとされている。
(中略)
国民が憲法改正案に賛成すれば、軍は自らが描く民政移行の筋書きが承認され、軍の権力に「お墨付き」が与えられたと判断。エジプト革命前まで続いた軍を柱とする体制の復権を進める可能性がある。(後略)【1月13日 朝日】
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今回憲法改正案は、憲法委員会の委員の大多数を占める世俗・リベラル派の意向が反映されたものでもあり、軍が勝手に作ったものではありませんが、軍による文民統制を強めるものともなっています。

****エジプト:宗教政党禁止の憲法修正案****
エジプトの憲法修正について審議していた憲法委員会は1日、宗教政党の禁止などを盛り込んだ修正案をまとめた。修正案には委員の大多数を占める世俗・リベラル派の意向が反映された。

1月にも行われる国民投票で修正案が承認されれば、クーデター後に弾圧されたモルシ前大統領の出身母体・イスラム組織ムスリム同胞団の政治的復権はさらに困難になる。

憲法委員会は政界、宗教界、労働者、市民団体などの代表者50人で構成され、ムスリム同胞団は参加していない。

修正案では「宗教に基づく政党の設立」は禁止される。人民議会解散時に立法を担うシューラ評議会は廃止される。宗教政党の廃止について、昨年6月に人民議会が解散されるまで同胞団系政党に次ぐ第2のイスラム政党だったヌール党の委員は反発したが、多数決で決まった。

ヌール党は「他宗教の出身者も受け入れている」として禁止規定の対象にならないと主張しているが、存続が難しくなる可能性もある。

一方、クーデターを主導した軍を巡って、国防相は軍側が選んだ候補者の中から選任される規定が新たに盛り込まれた。国防相人事を巡っては、モルシ前大統領が昨年8月、軍側の意向に反して国防相を交代させた経緯がある。軍予算が国会の審議対象外となる条項も継続されており、修正案が承認されれば、軍に対する文民統制がさらに弱まる。

現行憲法は11年のムバラク政権崩壊後、イスラム勢力が多数派を占める憲法起草委員会が草案を策定し、12年12月の国民投票で承認、施行されたが、今年7月のクーデターで効力が停止されていた。【12月2日 毎日】
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軍の実権が強化されれば、憲法の文言にかかわらず、その解釈はいかようにもできることはエジプトだけの話ではありません。“民政”も、軍の意向に反しない限りにおいて・・・というものでしょう。

憲法改正案が国民投票で承認されれば、数カ月後には大統領選や議会選が行われる見通しです。
現在、大統領選で唯一の有力候補に取りざたされているのが、軍トップのシーシ軍最高評議会議長兼国防相・副首相です。

****エジプト軍トップのシシ議長、大統領選出馬の意欲を示す****
エジプト軍トップのアブデルファタフ・サイード・シシ軍最高評議会議長兼国防相は11日、「国民の要請があれば選挙に立候補する」と述べ、多方面から予測されている大統領選への出馬に意欲を示した。

政府系日刊紙アルアハラムが報じたところによると、シシ議長は政府関係者などが参加した集会で「もし私が立候補するとしたら、国民の要請と軍の委任が必要だ」と述べたという。

シシ議長は、昨年7月にイスラム組織出身のムハンマド・モルシ前大統領が軍によって解任された後では最も人気のある指導者だ。複数の軍関係者がAFPに語ったところによると、軍内部では今年行われる予定の大統領選へのシシ議長の立候補が支持されているという。

エジプトは、新憲法についての国民投票を数日後に控えている。軍が主導する暫定政府はこの国民投票を、モルシ氏解任後のエジプトに選挙を通じた統治を復活させる最初の選挙と位置付けている。【1月12日 AFP】
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続く混乱から、安定を求める国民
国民の間にはモルシ政権とその崩壊後の政治・社会混乱を嫌気する空気が強く、暫定政権による「混乱はテロ組織・ムスリム同胞団によるもの」というアピールが奏功しているようです。

****混乱収まらぬエジプト、観光地ルクソールの悲鳴****
古代ファラオの遺跡で有名なエジプトのルクソールはかつて観光客であふれていた。だが同国の政治情勢の激変により、観光客の姿は消えてしまった。

エジプトの政情不安は2011年、長年独裁を敷いてきたホスニ・ムバラク元大統領を退陣に追い込んだ民衆蜂起から始まった。2013年7月には軍の事実上のクーデターによりムハンマド・モルシ前大統領が解任。その間も暴動や混乱は続き、同国の経済を支える観光産業は大きな痛手を負っている。

ルクソールで観光案内の仕事をするサラーハさん(51)の馬車には、この何か月間も客が乗っていない。「以前は月に2000~3000エジプト・ポンド(約3~4万5000円)を稼いでいたが、今ではポケットに10ポンド(約150円)あればいいほうだ」という。4人の子供がいて、末っ子はまだ18か月だ。

エジプト南部、ナイル川の岸に位置する人口約50万のルクソール市。同国最大の観光地の一つだが、過去3年にわたる政変の影響をもろに受けている。

市民の大半はサラーハさんのように観光業で生計を立てている。観光はエジプトのGDP(国内総生産)の11%以上を占め、最近まで400万人以上の雇用を維持していた。

■市内はゴーストタウン化
しかし、ルクソールに毎日約1万人もの観光客が訪れる日々は過ぎ去ってしまった。「馬をもう1頭持っていたんだが、売ってしまった」とサラーハさんはいう。「子供と馬2頭、どちらを養っていくかの選択だった」。
サラーハさんのように馬車による観光ガイドはルクソールで340件が営業しているが、うち20件の馬が餓死したという。

かつては潤っていたルクソールは、今やゴーストタウンと化している。空港に人影はなく、ホテルの前に停まっているタクシーに乗り込む客もほとんどいない。

エジプトではモルシ退陣後も、軍主導の暫定政府によるモルシ支持派の弾圧は続き、暴力をともなう衝突で1000人以上が死亡した。治安が悪化する中、諸外国政府はエジプト渡航に注意を喚起しており、観光業が回復する見込みも立たない。

ルクソールではこれまで暴動は起きていないが、観光業に携わる人たちはモルシ前大統領とその出身母体であるイスラム組織「ムスリム同胞団」に非難の矛先を向けている。

再び安定を取り戻すため、ルクソールの住民は、暫定政府が約束通り民主的な政権移行を迅速に実行することを求めている。今月には新憲法案の是非を問う国民投票が実施される予定で、今年半ばまでに議会選と大統領選挙も行われる見込みだ。【1月8 日 AFP】
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従って、ムスリム同胞団の反対・「投票拒否」の訴えにもかかわらず、国民投票は賛成多数で承認されるものと思われます。
都市部から農村部まで張り巡らされた草の根ネットワークを持ち、福祉・慈善活動などによって国民の2~3割程度の支持を得ているとされていたムスリム同胞団ですが、投票率が注目されます。

その先にあるのはシーシ大統領ですが、2011年のエジプト革命直後、軍が政権運営の表に立ち、反軍政デモを招いたとの反省から、慎重にことを運んでいるようです。

許されない軍批判
軍部主導の流れに対し、かつてのムバラク政権以上に抑圧的だとの批判もあります。

****エジプト、強まる言論統制 「現政権、ムバラク時代よりひどい****
エジプトで7月に軍主導のクーデターでイスラム系のムルシ政権が排除されて暫定政権ができてから、言論統制が強まっている。

人気コメディアンの政治風刺番組が打ち切りとなり、記者への圧力や拘束が相次ぐ。北部ではデモに参加した女性らが逮捕され、一時は長期刑が言い渡された。

 ■放送中止命令、相次ぐ
コメディアンのバセム・ユーセフさん(39)は2011年のエジプト革命後、テレビの政治風刺番組で人気を集めるようになった。

ところが、度重なる圧力にさらされた。12年に政権に就いたムルシ前大統領を皮肉り、今年3月に一時拘束された。10月下旬、クーデターでムルシ氏を排除したシーシ国防相を風刺すると、今度は番組が打ち切りとなった。(中略)

政治記者サブリさんは「ムバラク時代でも批判の余地はあり、ムルシ時代にそれが広がった。だが今、ゼロになった」と話す。

7月以降、デモを取材していた記者や写真家ら少なくとも8人が死亡。「軍の空爆で市民が負傷」と報じた記者が「誤報を流した」として軍事法廷で訴追されるなど、数十人が拘束された。

軍の行動を批判的に報じたカタールの衛星放送アルジャジーラのエジプト国内ニュース専門局や、同胞団系のニュース局など10以上の放送局が「社会の平穏を脅かす」などの理由で放送中止命令を受けた。

 ■デモ規制も強
デモに対する圧力や規制も強まっている。

「禁錮11年1カ月の刑を言い渡す」
11月27日、北部アレクサンドリアの裁判所が女性14人に判決を言い渡した。さらに、15~17歳の少女7人を少年院送致と決めた。

21人は10月末、アレクサンドリアで軍部を批判するデモに参加し、「テロ組織」に所属して警官を襲ったりしたとして起訴された。「テロ組織」とは、ムルシ前大統領の出身母体ムスリム同胞団を指す。

これに対し、21人の弁護を担当するアフマド・ハムラウィ弁護士(58)は「21人のほとんどは同胞団員ではない」と反論する。(中略)

一連の経緯には、国内外の人権団体などから強い批判が出た。裁判所は今月7日、14人への判決を執行猶予付きの禁錮1年に、未成年者は保護観察に減刑。21人は全員、その日のうちに釈放された。

暫定政権は11月下旬にデモを規制する法律を制定。事前に届け出のないデモを取り締まりの対象とし、参加者の逮捕、拘束をより容易にした。

ヤスミン・ホサム弁護士(26)によると、7月以降、推計で7万5千人が拘束されたといい、刑務所は定員を超えているという。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのタマラ・リファイさんは「前例のない数の人々が逮捕されている」と語り、同法の下で人権状況が悪化する恐れがあると警告する。

一方、暫定政権のベブラウィ首相はテレビ取材などに「法律はデモの権利を認めている。安全を脅かす行為や暴力を規制しているだけだ」と反論。

メディアの状況について「批判の自由は必要だがメディアは偽情報であふれている。より客観的な事実の報道が必要だ」と述べている。【12月13日 朝日】
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こうした批判はあるものの、おそらく国民が今求めているのは“安定”でしょう。その結果は・・・?
結局イスラム社会は原理主義を排しようとすれば強権支配しかないのか・・・・異なる者を認める寛容の精神とイスラム主義は相いれないのか・・・・中東世界を揺り動かした「アラブの春」の意味が改めて問われます。
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中央アフリカ  暫定大統領、周辺国の圧力で辞任 混乱は未だ収まらず

2014-01-12 22:22:02 | アフリカ

(中央アフリカの首都バンギで、店を略奪している最中に発砲音が聞こえ、逃げる人々 2014年1月11日撮影 【1月12日 AFP】http://www.afpbb.com/articles/-/3006348
笑顔も見えるようで、略奪をゲーム感覚で楽しんでいるようにも・・・)

多数の住民がこれで暴力行為が収まるだろうと期待を表した
中央アフリカでは、昨年3月、反政府武装勢力「セレカ」が首都バンギを攻略し、ボジゼ大統領は国外脱出。
セレカの指導者ジョトディア氏が暫定大統領就任を宣言しましたが、ボジゼ氏支持派も武装して抵抗。
セレカがイスラム教徒(国民の約15%)主体で、旧政権・ボジゼ氏支持派がキリスト教徒が多かったことから、宗教間対立となり、衝突が激化しました。

ジョトディア暫定大統領は1年半の移行期間を経て、15年までには総選挙を実施すると宣言。
更に、自らの地位の正統性を確保するためにセレカの武装解除を表明しましたが、政権奪取に貢献した戦士の多くがこれに猛反発し、国内各地で暴れる混乱状態となっています。
ジョトディア暫定大統領自身、もはや傍若無人な武装集団の行動をコントロールできないと認めています。

国連安全保障理事会は12月5日、アフリカ連合(AU)の部隊と旧宗主国フランスの軍事介入を認め、AU部隊約4000人、仏軍約1600人が展開していますが、状況は収まっていません。

****中央アフリカ:避難民93万5000人に・・・・宗教対立で****
新旧政権を支持する武装勢力同士の衝突からイスラム、キリスト両教徒の宗教対立に発展しているアフリカ中部・中央アフリカ共和国で、国内避難民の数が93万5000人に達した。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が3日発表した。

総人口(約450万人)の5分の1が避難民となったことになり、未曽有の危機的状況が続いている。UNHCRによると、首都バンギでは、人口の半数以上に相当する51万人が避難生活を余儀なくされている。【1月4日 毎日】
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また、アフリカの内戦ではしばしば少年兵が問題になりますが、中央アフリカの混乱でも子供の犠牲が大きくなっています。

****中央アフリカの武装勢力、子供を斬首=手足切断もとユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ)は30日、戦闘が続く中央アフリカ共和国で少なくとも子供2人が首を切断され殺されたと発表した。他に手足を切断された子供も1人確認した。「子供に対する残虐さは前例のないレベルに達している」と訴えている。

イスラム教徒とキリスト教徒の対立を軸にした戦闘で「各武装勢力がますます少年兵を集めるようになった」とユニセフは指摘。各武装勢力が互いに報復を繰り返す中で「少年兵が報復の対象として狙われている」と悲惨な実態を訴えた。【12月31日 時事】 
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事態を取集できないジョトディア暫定大統に周辺国は辞任を要求、ジョトディア暫定大統もこれを受け入れました。

****中央アフリカのジョトディア大統領が辞任か=チャドで地域首脳会議****
宗教対立で混乱状態に陥った中央アフリカ共和国情勢に関し、同国が加盟する中部アフリカ諸国経済共同体(CEEAC)は10日、ジョトディア大統領とチャンガイ首相が辞任したと明らかにした。AFP通信が報じた。

CEEACは9日からチャドのヌジャメナで臨時首脳会議を開催。AFP通信によれば、ジョトディア大統領らの辞任は首脳会議の最終声明に盛り込まれた。首脳会議は中央アフリカ議会の議員全員をヌジャメナに呼び、ジョトディア政権を存続させるかどうか、判断を求めていた。【1月10日 時事】 
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中部アフリカ諸国経済共同体(CEEAC)なる組織に一国の指導者を解任する権限があるとも思われませんが、混乱の波及を警戒する周辺国から相当の圧力があったのでしょう。
あるいは、ジョトディア暫定大統領自身、コントロールできない事態に嫌気がさしていたかもしれません。

このジョトディア暫定大統領辞任の報に、キリスト教徒が多数を占めると思われる多くの住民が喜んでいると報じられています。

****中央アフリカ大統領、宗教間の衝突を阻止できず辞任****
宗教間の衝突で国が引き裂かれた状況にある中央アフリカのミシェル・ジョトディア暫定大統領は10日、宗教間衝突の阻止に失敗したとして中部アフリカ諸国からの圧力を受け、辞任した。

同大統領とニコラ・チャンガイ暫定首相辞任の知らせは首都バンギで歓声をもって迎えられ、多数の住民がこれで暴力行為が収まるだろうと期待を表した。

9日よりチャドで開かれていた中部アフリカ諸国経済共同体(ECCAS)の臨時首脳会議で、ジョトディア暫定大統領に辞任の圧力をかけていた地域首脳らは、同大統領の辞任を「極めて愛国的な決断」と呼んだ。
一方フランスは移行政府に対し、新たな暫定大統領を速やかに決定するよう主張した。

バンギでは、ジョトディア暫定大統領とチャンガイ暫定政府首相辞任のニュースを歓迎する大勢の人々が街頭へ繰り出した。

空港近くの大規模キャンプに避難場所を求めに来た何万人ものキリスト教徒たちの1人は、「神のご意志なら、キリスト教徒とイスラム教徒は今晩から互いに仲良く暮らすようになり、私は日曜までに家に戻れる」と語った。

中央アフリカでは、宗教間の対立による衝突で、先月だけで1000人以上が死亡している。【1月11日 AFP】
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報復、食人行為も
ただ、事態をコントロールできていなかったジョトディア暫定大統領が辞任しても、そのことで混乱が自動的に収まるとは思われません。
少なくともかつてはセレカを指導していた同氏が辞任することで、更に無秩序状態が加速することも懸念されます。

****中央アフリカ、大統領辞任後に暴力行為が続発****
反体制勢力の指導者から大統領に転じたミシェル・ジョトディア暫定大統領が辞任した中央アフリカの首都バンギで、激しい暴力が起きている。一部では、食人や広範囲での略奪の報告も上がっている。

激しい外交的圧力を受け10日に辞任したジョトディア氏は、翌日ベニンの首都に到着した。
一方バンギでは激しい暴力が起きており、同暫定大統領の辞任が、衝突で引き裂かれた国家の緊張を和らげるだろうとの期待が打ち砕かれている。

中央アフリカ赤十字が発表した最新の死者数によると、ジョトディア氏が辞任してから数時間のあいだに少なくとも5人が死亡。夜間にはたびたび銃声が聞こえたという。

またAFP記者の報告によると、市内で略奪が相次いでおり、群衆が店のドアを壊しているという。
略奪された店の多くはイスラム教徒が経営しており、地元の赤十字の代表は、昨年3月に「(イスラム教系の)セレカ(Seleka)がこの地に到着した時に略奪の被害に遭った人々が、今度は逆に略奪を行っている」と語る。

目撃者の話から、略奪を行った者の中には食人行為に及んだ者もいると報告されている。【1月12日 AFP】
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国連・EUに積極関与を求めるフランス
旧宗主国として部隊を派遣しているフランスは、マリへの介入のときと同じように、現地では大歓迎を受けているそうです。

****フランスとアフリカ連合、中央アフリカへの派遣部隊を増強****
・・・混乱が続く中央アフリカに展開したフランス軍は7日、地元住民の大歓迎を受けた。アフリカ連合(AU)は、多数の死者を出している宗教間の衝突の根絶を目指して兵力をほぼ倍増させると発表した。

中央アフリカ西部の都市ブワルの住民たちは、ダンスを踊り、警笛を鳴らし、鍋をたたいて同地に入った約200人のフランス軍部隊を歓迎した。

今年3月に政府を転覆させた反政府勢力の攻勢はイスラム教徒とキリスト教徒の間で流血を伴う衝突を招いた。
数か月にわたる暴力にうんざりした住民らは仏軍部隊に「ありがとう!」「私たちを助けて!」などと声をかけた。(後略)【12月8日 AFP】
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“内向き姿勢”を強めるアメリカに代わって、リビア、マリ、中央アフリカと介入を進めるフランスは国連に対し、より積極的なPKOを展開することを求めています。

****PKO展開急ぐ=仏大統領と中央アフリカ協議―国連総長****
フランスのオランド大統領は27日、国連の潘基文事務総長と電話会談し、治安回復のため仏軍などが介入した中央アフリカ共和国で、国連がより大きな役割を果たすよう求めた。AFP通信によると、事務総長は現地での国連平和維持活動(PKO)展開に向け、作業を急ぐ方針を明らかにした。

潘事務総長はオランド大統領との協議後、数日中にも安保理やアフリカ連合(AU)と中央アフリカ情勢を協議する考えを示した。既に展開しているアフリカ諸国の派遣部隊をPKOに切り替える可能性を検討しているという。【12月28日 時事】 
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南スーダンでの内戦も抱える国連PKOとしてはなかなか大変なところですが、すでに派遣されているAU部隊の衣替え的なものであればなんとか・・・というところでしょう。

一方、フランスはEUに対しても、より積極的な関与を求めていますが、フランスの“孤立”も報じられていました。

****中央アフリカ単独介入に協力“二の足” 仏、EUで孤立感****
中央アフリカの人道危機を受け、今月初めに軍事介入に踏み切ったフランスに孤立感が漂っている。欧州連合(EU)の各国は介入を支持する一方で、単独行動に対する踏み込んだ協力には二の足を踏んでいるからだ。こうした事態は安全保障分野でのEU協調の難しさも示している。

オランド仏大統領は20日、EU首脳会議終了後の記者会見で、「軍事行動への参加を求めているのではない。見たいのは欧州の存在感だ」と、介入に向け欧州諸国への協力を求めた。

首脳会議は、「内戦や大虐殺の回避に寄与した」(ファンロンパイEU大統領)と仏軍介入を支持。来年1月に外相らがEUの関与策を検討することにした。だが、仏紙フィガロは「オランド氏の目標は達成できなかった」と報じた。

仏軍は部隊1600人を展開し、新旧政権派武装集団の武装解除を急ぐ。だが、イスラム過激派武装勢力を相手としたマリへの介入と違い、中央アフリカは敵味方の判別が困難で、「より厄介」(専門家)ともされる。介入直後には仏軍兵士2人が殺害され、仏国民の介入への支持は51%から44%に下落した。

フランスは作戦をEU全体の活動とすることで負担軽減を模索。だが、期待したポーランドなどの部隊派遣は見送られ、加盟国は輸送支援などにとどまる。首脳会議では戦費を賄う共通の基金の創設も狙ったが、加盟国の反対で頓挫した。

EUでは外交・安全保障政策の決定には全会一致が必要だが、介入は仏単独の行動。加盟国としては意思決定に関与できない活動の支援はしづらい。
アフリカへの影響力を保ちたいのでは-などと、フランス側の思惑を推し量る向きもある。【12月23日 産経】
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フランスが“アフリカへの影響力を保ちたい”のは間違いないでしょうが、旧宗主国として放置できないという自負心みたいなものもあるでしょう。
ただ、英独としては、そんなフランスのパフォーマンスに付き合うのは・・・というところでしょう。

年が明けて、EU各国が部隊を派遣することが検討されていることが報じられています。
多少は前向き姿勢に変わったということでしょうか。ただ、実際の派遣にはまだ時間を要しそうです。

****EU、部隊派遣へ=仏介入の中央アフリカに****
欧州連合(EU)は10日の大使級会合で、フランスが軍事介入した中央アフリカ共和国の治安回復に向けた部隊派遣の是非を議論した。EU外交筋によると、部隊派遣は大筋で支持され、20日のEU外相理事会で決定される公算が大きくなった。

同筋によれば、約10万人が避難する中央アフリカの首都バンギの空港にEU各国部隊を派遣し、治安確保に当たる案が有力。実現すれば部隊規模は500~1000人になる見込み。ベルギーが部隊提供に前向きだ。【1月11日 時事】 
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ベルギーの積極姿勢は以前から報じられているものです。
フランスのルパンタン欧州問題担当相は12月18日のラジオで、治安回復のため仏軍が介入した中央アフリカに、ベルギーが2014年1月末にも部隊を派遣する可能性があると明らかにしていました。

ベルギーの内情は全く知りませんが、英独が“二の足”を踏む中での積極姿勢は、かつてルワンダPKOでジェノサイドの犠牲者を見殺しにしたとの批判にさらされた同国として、悪夢を払しょくしたいという思いでしょうか?それとも権益とか、より現実的な要請でしょうか?

いずれにしても、イスラム教徒とキリスト教徒の報復の応酬、子供の首や手足が切断、食人行為も・・・という混乱に早急な歯止めをかける必要があります。
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