(荒れる首都キエフ “flickr”より By Diario El Carabobeño http://www.flickr.com/photos/52324566@N05/12051643705/in/photolist-jmXPNr-jmZQTs-jn3cC1-jmXQ4B-jn3d77-jmDe9J-jnpxSs-jnw1WW-jjwLWz-jo9myZ-jim5FS-jiopVG-jn3dd9-jmZQMf-jmBQGm-jiUVLa-jjbRTZ-jjbtVG-jjbvDF-jjckja-jjfc4u-jjeJvE-jjevmo-jjbUXW-jjcCrr-jjexu1-jjaHBc-jj9Y7g-jjawnZ-jjePiW-jjf9nY-jjaaNT-jj9DoV-jjbGKD-jjbT71-jjbHhS-jjfhab-jjcs8b-jjb5p4-jjfr29-jj9STF-jjeRQj-jjeFCq-jjakiK-jjb7pX-jjcQ8o-jjbw5m-jjcxAf-jke2nj-jnBVFb-jkRoDN)
【昨年11月以降で最大規模の騒乱】
ウクライナを巡るEUとロシアの綱引きについては、150億ドルの緊急融資や天然ガス価格の3割引き下げという条件を提示したロシア・プーチン大統領がウクライナを引き寄せた形となっています。
深刻な財政問題を抱えるウクライナ・ヤヌコビッチ大統領は、長期的なEU市場の可能性よりは、現在の問題の回避を選択したとも言えます。
しかし、ロシア接近に反発する親欧米的な野党勢力・市民はこれに抗議して、国を二分する対立が続いています。
(12月9日ブログ「揺れるウクライナ 反政府デモ拡大、一部暴徒化も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131209)
年が明けても、ティモシェンコ前首相の内閣で内相を務めた野党指導者ルツェンコ氏が1月10日夜、首都キエフでの反政権デモ中に警官隊に殴打されて重傷を負った事件への抗議、更に、ウクライナ最高会議(議会)が1月16日、集会や言論の自由を事実上規制する法案を与党会派の賛成多数で可決したことへの反発から、反政権運動が再び激しくなっています。
首都キエフでの19日の警官隊と反政権デモの衝突では、負傷者が双方で230人以上(負傷者の内訳は警官約100人、内務省軍部隊30人、デモ隊が103人)【1月21日 時事】に上っています。
****ウクライナのデモ、一部暴徒化 強権路線に反発****
ウクライナの首都キエフで19日、ヤヌコビッチ大統領の退陣を求める10万人規模のデモが行われ、一部参加者が暴徒化して治安部隊と激しく衝突した。昨年11月からの反政権デモは年末から年始にかけて沈静化していたが、政権が集会規制の新法を制定するなど強権路線を鮮明にしたのを受けて再燃した。
政権は近く野党側と協議の場をもつとしているが、事態を収拾できるかは不明だ。
報道によると、キエフ中心部で19日に行われたデモでは、若年層を中心とする一部参加者が、会場の広場から議会方面へ向かおうとして治安部隊と衝突。デモ隊側は角材や火炎瓶を使用し、道路を封鎖していた警察車両に放火するなどした。治安部隊は催涙弾や放水で鎮圧を図った。
20日までに警察とデモ隊で計170人の負傷が確認され、昨年11月以降で最大規模の騒乱となった。
ウクライナ議会では最近、デモ集会や反政権運動を封じ込めにつながる一連の法案が与党連合によって強硬に可決され、大統領の署名で成立した。
新法はステージやテント、スピーカーの無許可設置を禁じるなど集会に関する規制を強化。「中傷」や「過激主義」を刑罰の対象とし、外国の資金援助を受ける非政府組織(NGO)にはスパイとほぼ同義の「外国の代理人」と名乗ることを義務づけた。
19日の大規模デモはこうした抑圧的な新法に抗議して行われ、野党指導者らは大統領や議会に対する不信任署名運動などを訴えた。
ロイター通信によると、米国家安全保障会議(NSC)のヘイデン報道官はデモの暴徒化に「深い懸念」を示し、全当事者に事態の沈静化を促した。政権側には「反民主的な法律」の撤回や野党勢力との対話を求めている。【1月20日 産経】
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“外国の資金援助を受ける非政府組織(NGO)にはスパイとほぼ同義の「外国の代理人」と名乗ることを義務づけ”といった措置は、ロシア・プーチン政権でもとられたものであり、ヤヌコビッチ政権のロシア化が窺えます。
そこが、反政権派にとっては許しがたいところでもあります。
【帝国復活に向けて「お買い得」?】
ロシア・プーチン政権としては、ウクライナをEUから引き離し、将来的には関税同盟へ引き入れ、更に、ロシアを中心とする勢力圏を再構築するという流れをつくることに成功したと言えます。
****ウクライナはロシアの「属国」に戻るのか
帝国の復活費用と考えれば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の年末の買い物はかなり「お買い得」と言えなくもない。
150億ドルの緊急融資や天然ガス価格の3割引き下げ(年間20億 相当)などと引き換えに、ウクライナの忠誠心を買い上げ、EUとの提携強化を阻止できたのだから。
「ウクライナ抜きでロシア帝国の復活はあり得ない」──91年にウクライナがソ連圏を離脱した直後、かつて米大統領補佐官を務めたズビグニュー・ブレジンスキーはそう語ったものだ。だからこそプーチンは、あの手この手を繰り出した。
結果、ウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ大統領はEUとの連合協定の締結を見送った。もちろんロシア側は大喜びだが、ウクライナの首都キエフでは抗議活動が拡大。デモ隊は一時、数十万人にまで膨れ上がり、各国の大物政治家が独立広場を訪れてデモ隊を励ました。
ジョン・マケイン米上院議員も現地入りし、「自由世界は皆さんの味方だ」と呼び掛けた。
一方、EUよりロシアを選ぶという政治的犠牲を払ったヤヌコビッチは、12月中旬のモスクワ訪問で国賓級の歓待を受けた。プーチンは「国民福祉基金」の6分の1を拠出してウクライナの国債150億 相当を買い入れる奮発ぶり。東部の工業地帯への経済協力も約束した。
ウクライナのミコラ・アザロフ首相はこれを「歴史的」合意と呼び、これで財政破綻や社会の崩壊を回避できるとした。
短期的にはアザロフは正しい。EUは時代遅れの重工業の再建はおろか、ウクライナの緊急支援にも動かない。連合協定を締結しても、EU加盟が実現するのはずっと先の話だ。
ロシアのドミトリー・ロゴジン副首相の言葉を借りれば、連合協定はサウナの浴室に入るためではなく「更衣室前に並ぶための整理券」にすぎない。彼の言い分も正しい。
EUは今、金融危機だけでなく、存続の危機に立たされてもいる。EUの中核国では、新たに加盟したブルガリアなどからの移民問題が深刻化しており、ウクライナのような巨大で貧しい国々のEU加盟のめどは立たない。
命運を握るのはどっち?
それでもウクライナ国民の多くは自国の運命をヨーロッパに託したいと考えており、ヤヌコビッチ批判の声は鳴りやまない。
「ヤヌコビッチはウクライナの独立を終わらせた」と、職権乱用罪で服役中のユリア・ティモシェンコ前首相は獄中から声明を発表した。
モスクワでのヤヌコビッチは強気だった。独立広場を訪れてデモ隊を激励する欧米の政治家を「私たちに生き方を説教するやから」と呼んで非難する一方、ロシア主導でベラルーシとカザフスタンが加わっている関税同盟に参加の意向を表明した。
短期で見れば、ロシアの資金と安い天然ガスでヤヌコビッチの政治生命とウクライナの財政は救われたといえるだろう。
しかし15年の大統領選で再選を狙うヤヌコビッチの信用は、同国西部の有権者(大半が親欧州)の間で地に落ちた。
プーチンは南にある旧属国を買い戻せていない。今はまだ、期限付きの忠誠心を借り上げているだけだ。【12月31日号 Newsweek】
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【ウクライナはロシアにとって自身の体制にとっての脅威となるかも】
“期限付きの忠誠心”かどうかはともかく、ロシアは、財政・政治面で火種を抱えるウクライナという厄介なものを背負い込んだ・・・との見方もあります。
****現政権下では、ウクライナは獲得する価値のない戦利品かもしれない****
・・・・しかし、クレムリンとヤヌコビッチ氏との取り決めはウクライナとEUの交渉を遅らせるものの、ウクライナの政治危機を食い止めることはなさそうだ。また、改革が行われず、破綻状態のウクライナ経済を回復させることもないだろう。
迫り来るウクライナ経済崩壊
というのは、ウクライナの危機は、迫り来る経済崩壊によって悪化しているからだ。そして、この危機は今後、ロシアの問題となる、
ウクライナは外貨準備が底を突きかけており、冬を乗り切り、デフォルト(債務不履行)を回避するために切実に資金を必要としている。
ウクライナとEUの協定を妨害したプーチン氏としては、カネを払う以外に選択肢がほとんどない。
だが、その対価としてプーチン氏が何を手に入れるかは不透明で、ガスの値下げ幅が4半期ごとに見直される理由はそこにあるのかもしれない。
ウクライナ経済の悲惨な状況と、ヤヌコビッチ氏の危うい政治的立場からすると、どんな支援も無駄になりかねない。
国際通貨基金(IMF)の融資とは異なり、ロシアマネー(その大部分はロシアの国家福祉基金から引き当てられる)はひも付きでないからだ。
プーチン氏はヤヌコビッチ氏から、街頭の抗議者を散会させ、2015年の大統領選挙前かその直後にユーラシア連合に加盟するという約束を引き出せたかもしれない。
だが、市民の衝突を引き起こすことなく、そのような約束を果たすだけの手腕をヤヌコビッチ氏が持ち合わせているかどうかは、控えめに言っても不確かだ。
キエフと西ウクライナを含むこの国の大部分にとっては、ユーラシア連合への加盟は存続を脅かす脅威だ。
だが、かつてソ連崩壊を20世紀最大の地政学的惨事と呼び、自らをロシア領土の収集家と見なすプーチン氏にとっては、ウクライナをロシアの勢力圏内にとどめておくなら、どんなに高い代償も高すぎることはない。
また、プーチン氏は、もしウクライナが腐敗した独裁体制から競争力のある民主主義国に変わったら、1968年のチェコスロバキアの改革がソ連にとって脅威になったように、自身の体制にとっての脅威となることも理解している。
(後略)【英エコノミスト誌 2013年12月21・28合併日号】
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プーチン大統領が「お買い得品」を手にいれたのか、それとも“自身の体制にとっての脅威となる”ものを背負い込んだのか・・・未だ不透明です。