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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

反政府活動家の「強制失踪」 自由の弾圧で手を携えるタイ・カンボジア・ラオス・ベトナム

2020-06-20 23:03:39 | 東南アジア

(正義を求めて バンコクのカンボジア大使館前では、ワンチャルームの失踪に市民らが抗議(6月8日) 【6月23日号 Newsweek日本語版】)

【もし政権を批判したことが原因なら、誰もが拉致される可能性がある】
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は6月5日、カンボジアを拠点とするタイの反政府活動家ワンチャルーム氏(37)がプノンペンで何者かに拉致されたとして、カンボジア当局に調査と安全確保を求める声明を出しています。

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ワンチャルーム氏はタイのプラユット首相が政権を掌握するきっかけとなった2014年5月のクーデター後に国外逃亡し、カンボジアからインターネット交流サイト(SNS)を通じ、タイ政府を批判するコメントを発信。

3日には「プラユット首相は国を統治できない」と非難する映像を投稿した。タイの裁判所は18年、コンピューター犯罪法違反の容疑で逮捕状を発付している。【6月6日 時事】
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最近、こうしたラオス、ベトナム、カンボジアなど近隣国に避難したタイ人反政府活動家の「強制失踪」が相次いでいるとのことです。

****カンボジアでタイ反政府活動家行方不明 「政権批判が原因か」****
(中略)タイではこれまでも、民主活動家が避難先の近隣国で行方不明となる事案が相次いでおり、深まる謎に国民のいら立ちが募っている。

行方不明となっている男性はワンチャルーム・ササクシット氏(37)。プラユット政権が発足した2014年のクーデター後にカンボジアに逃亡。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じてタイの政権批判を展開し、タイの裁判所が18年、コンピューター犯罪法違反で逮捕状を出している。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によると、ワンチャルーム氏は4日夕、自宅アパート前で武装した複数の男に取り囲まれ、車で連れ去られる姿が目撃された。アパートの防犯カメラにも映像が残っていた。携帯電話で会話中だったが、「息ができない」との叫び声の後、通話が途絶えたという。

タイでは18年12月、行方不明になっていた民主活動家3人のうち2人が、東北部のメコン川で遺体で見つかった。HRWは14年以降、ラオス、ベトナム、カンボジアなど近隣国に避難したタイ人の民主活動家のうち少なくとも8人が、拉致されるなど「強制失踪」の状態になっていると指摘する。

タイの学生団体などはワンチャルーム氏が拉致事件に巻き込まれたとみて、バンコクのカンボジア大使館前や街頭で救出を求める運動を続けている。

運動を主催する学生団体幹部で、タマサート大学の男子学生パリット・シワラックさん(21)は「彼が拉致された理由は分からない。もし政権を批判したことが原因なら、誰もが拉致される可能性があるということだ」と懸念を示す。

ワンチャルーム氏の失踪は、タイのSNS上でも話題となり、失踪を政権と結びつける投稿もある。

プラユット首相は15日、退役軍人らの集会で、ワンチャルーム氏失踪に言及し、「私は特に大学生について、彼らの将来を奪うことは望んでいない」と語った。【6月20日 毎日】
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【手を携えて自由を奪う各国政府】
反政府活動家の「強制失踪」だけでなく、弾圧を逃れて国外に逃げていたカンボジアの野党指導者が帰国しようとしたところ周辺国の非効力で帰国を果たせないでいるということも。

こうしたことから垣間見えるのは、国内の反政府勢力を強権的に封じ込めようとする東南アジア諸国が互いに協力しあってお互いの便宜を図っている構図です。

****民主活動家たちはどこに消えたのか****
タイで、ラオスで、失踪する反体制派 
手を携えて自由を奪う各国政府の弾圧の魔の手からは亡命しても逃れられない

突然失踪し、永遠に消息を絶った活動家や反体制派、口にしてはならないことを口にした不運な市民-彼ら「ロス・デサパレシドス」の存在は、中南米の歴史に記された血まみれの汚点の1つだ。時には何年もたってから遺体で発見されることもあるが、その多くはいつまでたっても行方不明のままだ。
 
愛する者が殺害されたなら、家族は少なくとも嘆くことができる。だが姿を消したままの場合、何も分からないことに家族は最も苦しむ。アルゼンチンでもグアテマラでも、ロス・デサパレシドスの家族の話からは、分からないという痛みが数十年前の失踪時と同じ生々しさで続いていることが感じられた。
 
ロス・デサパレシドスという呼称は「強制失踪」の被害者、または「失踪者」と訳すことができるが、こうした客観的で法律用語的な表現では、あの恐怖を正確に描写できない。あえて言えば「失踪させられた者」だが、これも多くの場合は単なる婉曲表現だ。
 
「失踪させられた」という言葉によって言いたい(とはいえ証明できない)こととは、ある人が拉致され、おそらく暗殺されたということ。その犯人は通常、自国政府だ。
 
中南米政治におけるロス・デサパレシドスの悲劇は今や、東南アジア政治の特徴にもなりつつある。
 
ラオスの社会活動家、ソムバット・ソムポンが2012年、首都ビエンチャン市内の検問所で停止させられた後に行方が分からなくなった事件は広く知られている。何か起きたのかはいまだに不明だが、ラオス政府との対立が原因だと推測するのが妥当だろう。
 
今年6月4日には、著名なタイ人民主活動家のワンチャルーム・サッサクシットが、亡命先のカンボジアで失踪した。

両国で抗議活動を巻き起こしているこの事件は、著名ジャーナリストのアンドルー・マグレガー・マーシャルらの主張によれば、タイのワチラロンコン国王本人が命じ、治安対策責任者の指揮の下で実行されたという。

広がる抑圧の相互依存
ワンチャルームだけではない。14年の軍事クーデター以来、亡命先で「強制失踪の被害者になっている」タイ人反体制派は少なくとも8人に上ると、国際人権擁護団体ヒユーマン・ライツ・ウォッチは最近の報告書で指摘する。
 
報道などによれば、ラオスでは16年以降、タイ人反体制派5人が失踪したとみられる。そのうち2人の遺体は、胃にコンクリートが詰まった状態でメコン川で発見された。
 
タイ人活動家がラオスで失踪する一方、ラオスの反体制派もタイで姿を消している。昨年8月にバンコクで消息を絶った民主派活動家、オド・サヤボンもそのI人だ。

これらの事例から明らかなように、活動家や民主化を求める反体制派は自国内で行方不明になっているだけではな
い。失踪は外国でも起きており、多くの場合は地元政府が共謀している。
 
現に、カンボジア政府はワンチャルームの失踪事件の捜査について、はっきりしない態度を見せている。
 
カンボジアの独立系メディア、ボイス・オブ・デモクラシーが6月5日に掲載した記事で、内務省のキュー・ソピーク報道官は政府による捜査は行われないと示唆した。
 
「タイ(当局)が自国市民の拉致について苦情を申し立てた場合は(捜査を)する」と、ソピークは発言。「タイ大使館から苦情の申し立てがないなら、何をすべきなのか?」
 
6月9日になってカンボジア政府は態度を翻し、捜査の意向を表明した。ただし、ワンチャルームは17年から同国に不法滞在していたと、政府側は主張している。
 
カンボジアやベトナム、ラオス、タイはそれぞれ、抑圧的な政府の支配下にあるだけではない。これらの国は今や、市民の抑圧に当たって相互依存関係にある。
 
各国は他国から亡命してきた反体制派の所在を特定しており、一説によれば、他国の工作員が入国して亡命者を拘束するのを黙認している。その結果、安全な亡命先を求める反体制派は東南アジアを離れることを迫られている。
 
抑圧的政府の立場で見れば、これは賢いやり方だ。
 
大半の民主活動家や反体制派には、故国からそれほど遠くなく、より安全なシンガポールや台湾、韓国に拠点を移すだけの経済的余裕がない。

彼らの多くが選ぶのは近接する国へ逃れる道だ。それなら何かあればすぐに帰国できるし、同胞に交じって暮らすこともできる。タイには大規模なカンボジア人コミュニティーが存在し、ラオスには多くのタイ人が、タイには多くのラオス人が住んでいる。

もう隣国も安全でない
だが反体制派が隣国で安全を確保できない(または安心できない)環境をつくり出すことで、東南アジアの抑圧的政府は彼らをより遠くへ追いやろうとしている。
 
航空機でしか行けない場所なら、帰国は簡単に阻止できるし、同国人との交流は容易でない。反体制派亡命者なら誰もが知るように、外国にいる年月が長いほど、とりわけ距離が遠いほど、故国の一般市民や現実とのつながりは失われていくのが常だ。
 
昨年11月、カンボジア救国党(CNRP)の指導者サム・レンシーは、フランスでの4年間の亡命生活の後に帰国を宣言して大きな話題になった。

空路を諦め陸伝いにカンボジアヘの入国を目指したが、同国のフン・セン首相の要請を受けて、近隣国も入国を拒否。

民主化運動を率いようとするサム・レンシーの帰国阻止にフン・センが成功したのは、地域内で民主主義が芽生えることを望まない隣国政府の協力のおかげだ。
 
要するにインドシナ半島ではもはや、活動家や反体制派は安心して暮らせなくなりつつある。この地域から遠く離れること。それこそが、多くの者にとって唯一の安全な選択肢かもしれない。【6月23日号 Newsweek日本語版】
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なお、フランス・パリの空港でサム・レンシーの搭乗を阻んだのはタイ航空です。

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サム・レンシー氏はタイ経由でカンボジアに帰国し、フランスでの亡命生活を切り上げる計画だったが、シャルル・ドゴール空港でタイ国際航空の職員に搭乗を拒否された。同氏はフランス国籍を持っており、家族も1960年代にフランスに移住している。【2019年11月8日 AFP】
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フィリピンで政府批判著名ジャーナリストが有罪判決を受けた件は、6月15日ブログ“フィリピン  コロナ感染拡大のなかでの規制緩和 政府批判ジャーナリスト有罪判決 警官の性犯罪”で取り上げました。

インドネシアでは、政界の汚職事件を捜査する「国家汚職撲滅委員会(KPK)」の活動が、警察を操るような力を持つ隠れた存在によって妨害されるような状況にあります。【6月15日 JBpress 大塚智彦氏 “インドネシア、汚職捜査官を襲撃した犯人に大甘求刑”より】

東南アジアの政治は、依然として後進性を脱しきれないようです。

 

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パレスチナ コロナでイスラエルとの協力も 併合を進めるイスラエル ガザ地区のコロナ事情

2020-06-19 23:12:47 | パレスチナ

(パレスチナ人が住む東エルサレムで協力しているユダヤ人とパレスチナ人【5月31日 AERAdot.】)

【コロナで生まれたイスラエル・パレスチナ協力の新しい精神】
新型コロナの感染拡大は、各国が国境を閉ざし、人・物資の往来が途絶え、これまでのグローバリゼーションへの反省・疑問が生まれるという流れを生んでいます。

このような流れは今後も残り、ポスト・コロナの世界はこれまでとは異なる世界になるだろうとの予測もあります。

しかし、一方で、こうした容易に国境を超える脅威に対し有効に対応するためには、世界は協力・結束して対処しなければならず、一国だけでは解決できないことを教えているとも言えます。

壁に隔てられたイスラエルとパレスチナ・・・政治的には世界中でも最も対立が厳しい地域のひとつですが、その一方で経済的関係、人の往来は非常に緊密な地域でもあります。

その緊密性がゆえに、単独でのコロナ対策はありえず、両者は協力し合わねばならないということで、政治的な対立を超えて協調的なコロナ対策がとられているとの報道がありました。

****コロナ禍が生んだ、イスラエルとパレスチナのコラボ*****
感染性の病気は、自然界の鳥や昆虫と同様、国境も民族の壁も区別しません。コロナウイルスの蔓延は、まさにイスラエルとパレスチナ間においてその事例となりました。

高い壁がイスラエルとパレスチナ自治区の間を切り離しているにもかかわらず、イスラエル人とパレスチナ人のコミュニティーは隣接しています。

またイスラエルとパレスチナの経済は複雑に絡み合い、常に労働者や商人の行き来が合法・非合法でおこなわれています。

またパレスチナ自治区は港湾施設を独自に使用できないため、商品の輸出入は全てイスラエルの施設を通さなくてはなりません。多くのパレスチナの村の近くにはイスラエルの入植地があります。いくつかのパレスチナの病院はイスラエルの病院からサービスを受けています。

したがって、コロナウイルスが一方のコミュニティーだけでなく他のコミュニティーにも蔓延するという共通の恐れがあったことは、驚くことでありません。

イスラエルとパレスチナは政治と歴史に対して大きな意見の相違があり、イスラエルがパレスチナ領域の広い部分を占有しているという事実にもかかわらず、二つの民族は、政治的な論争をクールダウンさせて、コロナと戦うために一緒に働く必要があると理解しました。

あるイスラエルの解説者は次のように語っていました。「コロナ禍の長所は、それがイスラエル・パレスチナ紛争に関連がなく、政治問題を含まずに共に直面する問題と戦うことができるという事実です」

過去3カ月に幾つかの注目すべき協力がありました。それは互いの憎悪を超えるものでした。3月にイスラエルとパレスチナ相互の医療チームが、共同セミナーを行いました。そこでは感染者をどのように隔離するかや、病院で働いている医療スタッフを保護する方法などの情報交換がされました。

イスラエルとパレスチナの活動家は、ユダヤ人とアラブ人の混合都市(例えばエルサレム、ヤッファ、アッコやハイファ)で、コロナウイルスの危険性を住民に浸透させるために一緒に働きました。 

パレスチナの都市でのコロナの広がりが同時にイスラエルの都市にも広がるという認識をしたイスラエル当局は、何万もの医療マスクや消毒剤、医療検査キットをパレスチナの病院に提供しました。

また通常は互いにコミュニケーションのないイスラエルとパレスチナの蔵相が、双方のコロナによる経済的影響を抑制する方法について協議するために、数回の情報交換を3月と4月に行いました。

私が住んでいるエルサレム市では、そうした協力はとても多くみられました。エルサレムはパレスチナ人側の東とユダヤ人側の西に分断されていますが、双方のNGOが協力して貧しいパレスチナ家族に食料などの救援物資を配りました。

イスラエル当局は、隔離する必要があるパレスチナ人のためにホテルでの宿泊を準備するのを手伝いました。右派でもあるエルサレムのモシェ・レオン市長は、自主的にこれらの協力作業の一部を差配しました。 

一方、協力が必要なこと以上に憎しみが増すケースもありました。4月、イスラエル警察は、東エルサレムのクリニックを営業停止にし、医療品の押収を行いました。この医院がパレスチナ当局と関係があるとみたからです(東エルサレムの医療はイスラエル当局の管理下)。

5月には、コロナの広がりを抑制するためにUAEから送られた14トンの緊急医薬の援助品を、パレスチナ自治政府が、普段はないテルアビブへの直行便で送られたという理由で受け取りを拒否しました。

援助品には、パレスチナの病院で絶対に必要な10台の人工呼吸機も含まれていました。パレスチナ自治政府の懸念は、この援助品を受け入れることがイスラエルとアラブ世界の関係正常化を認めることを意味すると考えたのです。

イスラエル・パレスチナ間の協力を称賛する人々がいる一方で、反対の声もあります。パレスチナ自治政府のムハンマド・シュタイエ首相は、「イスラエルはパレスチナの都市にコロナウイルスを計画的に蔓延させ、感染した医薬品を病院に配っている」と言って非難しました。

一方、イスラエル側の反対の声は、コロナウイルスの感染を抑制する措置を十分にとっていないパレスチナ人がイスラエル側に働きに来ることを妨がないとして、パレスチナ政府を批判するものです。 

今回の議論は、イスラエルとパレスチナが、コロナウイルスによって双方にある憎悪の気持ちに打ち勝ち、共に働くことができるのか?ということです。この3カ月、イスラエル人とパレスチナ人は、なんとかお互いの違いを脇に置き、双方を敵とみなすのを止めることができました。

イスラエルとパレスチナの当局者たちは、事態を収集させるために密接に一緒に働いていました。またすばらしい協力関係が医療専門家、当局関係者、NGOの間で結ばれました。 

他方、政治家に関しては、誰が正しいかといった「物語の上の闘い」が、今でも幅を利かせています。 

私の望みは、コロナ後もこのイスラエル・パレスチナ協力の新しい精神が続いてほしいということです。【5月31日 AERAdot.】
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【ヨルダン川西岸の一部併合への動きを強めるネタニヤフ首相 ガンツ氏は?】
コロナが蔓延するなかで、数少ない希望を感じさせる記事ではありますが、現実政治はなかなか希望を叶える方向には進まないものです。

****イスラエル首相、ヨルダン川西岸の一部併合へ決意改めて強調*****
イスラエルのネタニヤフ首相は25日、ヨルダン川西岸の一部を併合する「歴史的機会」を逃すことはしないと表明、今月発足した新連立政権の最優先課題の1つだとの見方を示した。

パレスチナ自治政府は占領地の違法な併合だとして反発しており、抗議の意を示すため、先週にイスラエルと米国との安全保障協力の停止を宣言した。

ネタニヤフ首相はヨルダン川西岸のユダヤ人入植地とヨルダン渓谷を主権下に置く方針について、7月以降に内閣で議論を進める考えを示しており、欧州連合(EU)は警戒感を強めている。

ポンペオ米国務長官はこれまで、この問題は複雑で、米国と調整する必要があるとの認識を示している。イスラエルの新政権でネタニヤフ氏の新たなパートナーとなった中道派のガンツ元軍参謀総長は態度を曖昧にしている。

ネタニヤフ氏は自身が率いる右派「リクード」の議員の会合で、ヨルダン川西岸の一部を「外交手段として賢明な形で主権下に置く歴史的機会」があると述べ、「われわれはこれを逃すことはしない」とした。

ネタニヤフ氏はこれまで、トランプ米大統領が1月に発表した中東和平案が事実上の併合に根拠を与えているとの見方を示している。

パレスチナ自治政府は平案を拒否している。和平案はヨルダン川西岸のユダヤ人入植地でのイスラエルの主権を認める内容となっている。【5月26日 ロイター】
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こうしたネタニヤフ首相の姿勢に欧州・ドイツは懸念を強めています。

“ドイツのハイコ・マースは10日、中東エルサレムを訪問し、イスラエルが占領下のパレスチナ自治区ヨルダン川西岸の一部併合を計画している問題について、深刻な懸念を表明した。”【6月11日 AFP】

イスラエル・ネタニヤフ首相としては、イスラエルに有利な和平案を掲げているトランプ大統領が退く前に、ことを進めていきたいという思惑もあるのではないでしょうか。

“イスラエルのネタニヤフ政権は、トランプ米大統領が1月下旬に発表したイスラエル寄りの中東和平案に意を強くし、7月中にも西岸の一部併合に踏み切る姿勢を示している。”【6月12日 時事】

今後、どのようにイスラエルの対パレスチナ政策が進むのかについては、ネタニヤフ首相と連立を組むことを決断したガンツ氏の対応が大きな影響を与えると思われますが、“態度を曖昧にしている”とのこと。

連立参加で「青と白」が分裂したガンツ氏にどれだけの力があるのかも疑問です。

****難航するイスラエルの連立政権****
イスラエル政治は混迷に次ぐ混迷を続け、昨年4月、9月、本年3月の総選挙を経ても、連立政権ができないという状況にあった。コロナウイルスが拡大する中、3月下旬に、野党連合「青と白」の党首ガンツ元参謀総長は結局、ネタニヤフとのいわば共同政権を樹立する決断をした。

合意によれば、ネタニヤフは今後18か月間イスラエルの首相にとどまり、その後、ガンツがイスラエル首相になることになる。
 
合意に対しては賛否が分かれている。今回のガンツの決断を支持する人々もいるが、ガンツの決断に強く反対している人々もいる。

例えば、同じワシントン・ポスト紙でも、4月1日付けの社説‘Netanyahu’s chief rival agrees to join him in government. It’s a patriotic move.’はガンツの決定は愛国的で現実的であると評価したのに対し、イスラエルのジャーナリストゲルショム・ゴレンバーグは‘Benny Gantz just sold out Israel’s perilously ill democracy’(ベニー・ガンツはイスラエルの危機的に悪化した民主主義を売り渡した)との論説を同紙に寄せ、ガンツの決断を強く批判している。

社説は、ガンツが新政権で外相を務めるのではないかとして、トランプとネタニヤフが発表した「出来の悪い」中東和平案が修正されることに期待を示している。
 
ガンツの決断で「青と白」党はほぼ真二つに分裂した。その結果、今後できる連立政権の基盤は、ネタニヤフのリクードとその友党、「青と白」党のガンツ支持派からなることになるが、ガンツ支持派は政権基盤全体の3分の1にも満たないことになる。
 
ガンツが18か月後の首相交代の約束をネタニヤフに守らせられるのか、あるいは、上記WP社説が言うように、ネタニヤフの西岸入植地やヨルダン渓谷併合のような2国家解決をほぼ不可能にする危険な措置を止められるのか。

ガンツがそうしようとするのは確実であるが、イスラエルの閣議決定は全会一致ではなく、多数決で行われる。政権の基盤でガンツ派は「青と白」の分裂の結果、3分の1程度にとどまるので、どこまで主張を通せるのか、疑問がある。 
 
ガンツがアラブ共同リスト(アラブ政党の連合体)を含む支持者を自らの連立政権の基盤とすることが良かったのではないかとも思われるが、それには「青と白」党内で強い反対があり、できなかったのであろう。ラビン元首相はアラブ系議員をも連立の基盤にしたが、ガンツにはそれは無理であったということであろう。
 
この新政権の合意はようやくできたものであり、イスラエルの政治が正常化することが望ましいが、そうなるとの見通しを持ちがたい事情もたくさんある。

ガンツは4月11日に連立交渉の難航を理由にリブリン大統領に対し4月13日の組閣期限を延長するよう要請した。しかし要請は拒否された。リブリン大統領は、ガンツの組閣期限が切れた場合は、国会に対して3週間以内に新たな首相候補を選ぶよう求めた。今後も政権内部で揉める状況が継続するように思われる。【4月24日 WEDGE】
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【ガザ地区の必死の水際作戦 現在はその“封鎖性”により奏功 しかし、いつまで?】
話をコロナ対策に戻すと、パレスチナでも封鎖状態のガザ地区は事情が全く異なります。

「天井のない監獄」「世界最大の監獄」とも呼ばれるガザ地区は、その密集した居住環境、貧弱な医療資源から、新型コロナの爆発的感染も懸念されていますが、現在のところ、そのもともとの“封鎖状態”がゆえに強力な水際作戦が有効に機能しているようです。

****市中感染、いまもゼロ ガザ、必死の水際作戦****
イスラエルによる封鎖政策が続くパレスチナのガザ地区。新型コロナウイルスの感染拡大を、必死の水際対策で食い止めている。市中感染はいまもゼロ。だが医療態勢は貧弱で、いったん感染が広まれば「大惨事になる」とも懸念されている。

 ■検問所閉鎖、強制隔離3週間
ガザ地区では行動制限も緩和され、日常が戻りつつある。砂ぼこりを上げて通りを車や馬車が行き来し、市場にもにぎわいが戻ってきた。
 
しかし、人口密度が高く貧困層が多いうえに、医療レベルは低い。「地区内で1人でも感染者が出れば大惨事になる」と関係者が口をそろえる状況に変わりはなく、外部との人の出入りは厳戒態勢が続いている。
 
ガザ地区で行政を担うイスラム組織ハマスの戦略は徹底的な水際作戦に尽きる。2カ所の検問所を閉じ、入ってくる人は全員に3週間の隔離を強制。他国のように感染者を治療しながら対処するのは難しい。「感染者ゼロ」の状況を維持し続けるしかないというわけだ。(中略)
 
5月末時点で、隔離施設に収容されていたのは1500人近く。当初は学校で代用していた隔離先だが、いまは大規模な専用の隔離施設も建設されるなど、収容力を増やしている。
 
感染者を一人たりとも地区内に入れない――。それが対策の大原則だ。隔離期間は一般的な2週間より長く、3週間。検査態勢が行き届かない場合は、4週間に延ばすルールとなっている。

 ■人口密集地、感染爆発に懸念
ガザ保健省によると、これまでに1万件以上の検査を実施し、確認された感染者は72人(6月17日現在)。死者は1人だ。感染者は地区外から戻った人や隔離施設で働く職員たちで、地区内にウイルスが持ちこまれる前に食い止めたとされる。市中感染はゼロが続いている。
 
地区内の医療態勢は、感染症に対応するベッドも職員も、圧倒的に不足している。人口約200万人が密集して暮らすが、「病院は感染者200人までしか対応できない」との指摘も。感染爆発が起きれば、ひとたまりもないのが現実だ。
 
パレスチナ人権センターのハムディ・シャクラ氏は「ガザ地区は『世界最大の監獄』と呼ばれ、もともとロックダウン(封鎖)に近い状況にあった。出入り口は2カ所で日常的に検問も厳しい。ある意味、水際対策は容易だった」と皮肉交じりに語る。
 
市民の生活は通常に戻りつつあるという。「人々は地区内は安全だと考え、外出も自由にし始めているが、感染者が出れば拡大は避けられない。イスラエルからの攻撃に常にさらされ、人々が新型コロナを特別の脅威だと捉えない面もある」
 
世界が国境を開きつつあるなか、ガザ保健省は「封鎖を解除する予定はない」。境界を接するイスラエルとエジプトは今も感染者が出ている。特に多くの人が出入りするエジプトの状況は深刻だ。シャクラ氏は「周辺国で感染ゼロになるまで境界を封鎖し続けるしかないだろう」と話している。【6月19日 朝日】
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しかし、エジプトなど中東の感染状況は深刻で、「周辺国で感染ゼロになるまで」がいつまでになるのか・・・厳しい状況です。いったんウイルスが流入すれば、イスラエルの攻撃以上の破壊力を発揮する危険も。

【経済的に行き詰まるパレスチナ自治政府】
今のような状況を続けて、経済的にやっていけるのか?
すでにヨルダン川西岸の自治政府は経済的に行き詰まっているようです。

****パレスチナ自治政府「経済激震」の打撃を受け、パレスチナの公務員が無給に*****
新型コロナウイルス感染症の危機対策の支出は、国の財源の70%を占めている。

パレスチナ自治政府(PA)は、国の財政を襲った「経済激震」により、約15万5千人の公務員の5月分の給与の支払いを延期せざるを得なくなった。

イスラエルによる税収移譲の停止と、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による支出、さらにパレスチナの経済不況が相まって、経済的に最悪の状況を作り出している。(中略)

イスラエルは通常、イスラエルの港を経由して輸入された商品に対する税金の還付金を徴収しており、パレスチナ自治政府は、その取り分を西岸やガザ地区の従業員に対する給与の支払いの一部に使用している。その合計は、パレスチナ自治政府の総公支出の約70%を占める。
パレスチナ自治政府の内部収入と海外からの支援により残りを埋め合わせている。

パレスチナのシュクリ・ビシャラ財務大臣は、新型コロナウイルスの危機に取り組むための支出は、70%もの国の財源を占めていると述べた。(後略)【6月10日 ARAB NEWS】
********************

“イスラエルによる税収移譲の停止”がどういう経緯で行われているかは知りません。(これまでも緊張が高まると停止されたことはありますが)

収入が途絶えて、コロナ関連支出が増えれば、財政破綻は当然でしょう。
パレスチナ自治政府が崩壊すれば、パレスチナ情勢はさらに混迷の度を深めます。

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「ウイグル人権法案」に署名したトランプ大統領、暴露本では・・・ “消毒”された文化

2020-06-18 22:45:38 | 人権 児童

(4/13 中国の国旗だらけの商店街を歩くウイグル族の男性たち カシュガル【5月20日 WIRED】)

【「ウイグル人権法案」に署名したトランプ大統領 暴露本では習氏に「ウイグル族強制収容所の建設を進めるべきだと語った」とも】
アメリカ議会が可決していた「ウイグル人権法案」にトランプ大統領が署名したことで、同法案が成立しました。
人権問題にはあまり関心がないトランプ大統領としては中国との「取引」を難しくし、新たな火種を抱え込む同法案には消極的でしたが、対中国批判を強める議会の流れに乗った・・・と言うか、乗るしかなかったというところでしょう。

****米ウイグル人権法成立 トランプ大統領が署名 中国の反発は確実****
トランプ米大統領は17日、中国新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の少数民族ウイグル族らを弾圧する中国当局者に制裁を科す「ウイグル人権法案」に署名し、同法は成立した。

中国はウイグル問題を絶対に譲歩できない「核心的利益」と位置づけており反発を招くのは確実だ。新型コロナウイルスへの対応や香港への統制強化を巡って対立する米中は、新たな火種を抱えることになる。
 
ウイグル人権法は、米政府が180日以内に弾圧に関与した中国の当局者や個人のリストを作成し、議会に報告するよう求めている。対象者には査証(ビザ)発給の停止や米国内資産の凍結などの制裁を科すよう要請する。

また、中国当局が弾圧に使用している顔認証システムなどの先端技術を使った製品の対中輸出制限も盛り込んだ。

トランプ氏は、同法の一部について、大統領の権限を制限する恐れがあるとして「勧告であり、法的拘束力はない」とする声明を出した。
 
米国務省が6月10日に発表した「世界の信教の自由に関する2019年版報告書」では、ウイグル族など100万人以上の人々が施設に収容されて強制労働をさせられているなどと指摘している。
 
法案は、共和党のマルコ・ルビオ上院議員ら超党派のグループが提出し、5月27日までに上下院で圧倒的な支持を得て可決。ホワイトハウスに6月8日に送付されていた。

ルビオ氏は「ウイグル族を支援し、中国の甚だしい人権侵害に対抗するための歴史的な一歩だ」とのコメントを発表した。
 
米政府は、中国によるウイグル族らへの弾圧を繰り返し批判してきたが、トランプ氏自身は対中貿易協議への影響なども踏まえ、これまであからさまな批判は避けてきた。

昨年9月に国連本部で信教の自由擁護に関する国際会合を主催した際も、ペンス副大統領が中国を名指しで非難する一方で、トランプ氏はウイグル問題に触れなかった。
 
新型ウイルスへの対応や、中西部ミネソタ州の黒人男性暴行死事件の抗議デモに強硬姿勢を示したことで、国内ではトランプ氏への批判が高まっている。法案に署名をせずに、拒否権を行使したとしても、上下院による再可決で成立するのは確実。

こうした状況を踏まえ、署名することで改めて対中強硬姿勢を示すことにしたと見られる。【6月18日 毎日】
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興味深いのは、たまたまなのか、意図的なのか、同じ日に、ボルトン前大統領補佐官の「トランプ大統領は、習近平主席に対し、ウイグル族強制収容所の建設を進めるべきだと語った」という暴露本内容が報じられていることです。

****「トランプ氏が習氏に再選協力を懇願」ボルトン氏が暴露****
昨年9月に更迭されたボルトン前大統領補佐官がトランプ政権の内幕を暴露した回顧録の一部が17日、明らかになった。

ボルトン氏によれば、トランプ米大統領は昨年6月、中国の習近平国家主席との会談で、自身の大統領選再選に協力してくれるように懇願したという。

弾劾(だんがい)裁判に発展した「ウクライナ疑惑」に続き、外国政府に大統領選への介入を促したと受け取られかねない発言であり、大きな批判を浴びそうだ。
 
複数の米メディアが17日明らかにした。ボルトン氏の回顧録によれば、トランプ氏は昨年6月29日、G20出席のために訪問した大阪での米中首脳会談の席上、中国の経済力について言及し、習氏に対し自身が大統領選で勝つことが確実になるように懇願。そのうえで選挙においては農家を始め、中国が大豆と小麦の購入を増やすことが重要だと強調したという。
 
トランプ氏はまた、同じ大阪でのG20の開幕式の晩餐(ばんさん)会で、通訳だけを交えて習氏と会談。習氏が中国新疆ウイグル自治区での強制収容所の必要性を説明したところ、トランプ氏は習氏は強制収容所の建設を進めるべきだと語ったという。
 
トランプ政権は中国をロシアと並び「競争国」と位置づけており、米中間の貿易紛争など対立関係を深めてきた。だが、実際の交渉の場ではトランプ氏が習氏に対して再選への協力を要請するという選挙介入を促したと受け取られる発言をしたり、ウイグル族への人権弾圧に理解を示したりしたことが暴露された格好となり、大統領選に向けたトランプ氏の選挙運動に大きな打撃となる恐れがある。
 
回顧録のタイトルは「それが起きた部屋 ホワイトハウス回顧録」で、今月23日に出版予定。しかし、トランプ氏は15日、「(自身との会話は)極めて機密性が高い」と述べ、出版は「刑事責任に問われる」と警告。ホワイトハウスは16日に出版停止を求めて提訴しており、法廷闘争に発展している。【6月18日 朝日】
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「トランプ氏が習氏に再選協力を懇願」に対し、習近平主席の方も「トランプ氏ともう6年、一緒に働きたい」と秋波を送っていたとか。

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ボルトン氏は、18年12月にアルゼンチンであった米中首脳会談の様子も紹介。習氏が「トランプ氏ともう6年、一緒に働きたい」などと、再選に期待する発言をしたと明らかにした。この時もトランプ氏は中国による農産物購入増加を求め、引き換えに関税を下げることを示唆したという。
 
米中は当時、通商交渉の途中だった。今年1月には「第1段階の合意」に署名し、中国は米側に対し、大豆や小麦などの農産物を今後2年間で計800億ドル輸入することを約束した。【6月18日 朝日】
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ウイグル族の問題に関連する人権問題への意識としては、“19年6月に香港で「逃亡犯条例」をめぐって大規模なデモが起きた際には、ボルトン氏に「巻き込まれたくない」と話したという”【同上】とも。

また“トランプ大統領について「陰謀論などにこだわる一方、政権運営について無知」と酷評し、「テレビのショー」となる機会を常にうかがっていたと厳しく批判した。”【6月18日 共同】とも

ホワイトハウスはこうした暴露本内容を否定しています。

****ボルトン氏の暴露「事実無根」=米高官****
米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は17日、トランプ大統領が中国の習近平国家主席に再選に向けた支援を要請したとするボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)の回顧録の内容について「全くの事実無根だ」と強く否定した。上院財政委員会の公聴会で語った。
 
ライトハイザー氏は、トランプ氏が習氏に支援を求めたとされる昨年6月の大阪での会談に同席していた。回顧録の内容に関し「そんな(支援要請という)とんでもないことがあれば、忘れるはずがない」と強調。ボルトン氏の主張に「絶対にない。全くばかげている」と反論した。【6月18日 時事】 
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もっとも、トランプ大統領が自身の再選のために習近平主席と「取引」しようが、人権問題に無関心だろうが、国家権力に盾突く連中は「テロリスト」として厳しく取り締まるべきと考えていようが、テレビ演出のことしか考えていなかろうが・・・今更誰も驚きません。

事実かどうかは知りませんが、問題なのは「彼だったら、そう言うだろうな・・・」と思える人間が、アメリカ大統領というポジションにいることでしょう。

【海外在住ウイグル人 旅券更新停止で、帰国して拘束されるか、不法滞在で怯えて暮らすかの選択】
ウイグル族の問題に関する報道は最近はあまり目にしませんが、海外在住のウイグル族が、パスポートの更新が停止しているため、また、滞在国(多くはイスラム国)の中国への配慮もあって、拘束される危険を冒して帰国するか、そのまま不法滞在して絶えず国外追放におびえながら暮らすかという選択を迫られている実態を報じた記事が下。

****帰国すれば拘束の危険も…中国、海外在住ウイグル人の旅券更新停止****
サウジアラビアに留学中のウイグル人男性は、目に涙を浮かべながら、とっくに期限が切れている中国の旅券(パスポート)を見せた。サウジアラビアと中国は関係を深めていることが、この男性の未来をさらに不透明にしている。
 
駐サウジアラビア中国大使館は、2年以上前からイスラム系少数民族ウイグルのパスポートの更新を停止している。活動家らはこれを、国外に住むウイグル人を強制的に帰国させるために多くの国で中国政府が実施している圧力戦略だと指摘する。
 
AFPはサウジアラビア在留のウイグル人6家族のパスポートを確認したが、いくつかの有効期限は切れており、期限が迫っているのもあった。中国では100万人以上のウイグル人が強制収容所に拘束されていると考えられており、この家族らは口々に帰国するのは怖いと訴えた。(中略)

現在、サウジアラビアのウイグル人には、中国へ帰国する場合にだけ適用される片道の旅行証が提供されている。ウイグル人らは、拘束される危険を冒して帰国するか、サウジに不法滞在して絶えず国外追放におびえながら暮らすかという不可能に近い選択を迫られている。(中略)
 
■沈黙を守るイスラム教国
ウイグル人コミュニティーをさらに不安にさせているのは、ウイグル人に対する中国の扱いに対し、パキスタンからエジプトまでイスラム教徒が大半を占める国々が沈黙を守っていることだ。これらの国々は、経済的な影響力が大きい中国と対立することを避けているのだ。(中略)
 
■中国帰国後、消息不明に
サウジアラビアに在留するウイグル人はわずか数百人と推定されている。主に神学校の学生、貿易業者、亡命希望者などで、その多くは中国で拘束されている家族とのつながりが絶たれている。
 
サウジアラビアに住むあるウイグル人実業家は、不法滞在となった同胞ウイグル人の期限切れのパスポート8冊のコピーをAFPに示しながら、彼らの多くが中国のスパイだと疑われることを恐れており、隠れて暮らすことを余儀なくされている人もいると語った。
 
また、サウジアラビアに留学中のウイグル人学生はAFPに、友人3人が2016年後半に強制送還され、中国到着後に「消息不明」となったと語った。友人らは中国政府が対過激派対策だと主張するいわゆる「再教育施設」にいる可能性が高いという。
 
アユップ氏はAFPに、2017年以降サウジアラビアで5件の強制送還を確認していると語ったが、5件以上あるとするウイグル人活動家もいる。エジプトやタイでも同様に、ウイグル人の強制送還が報告されている。
 
強制送還が、中国からの圧力を受けサウジアラビア政府が実施したものか、同国独自の不法滞在者の取り締まりによるものかは定かではない。サウジアラビア当局はコメントの要請に応じていない。
 
駐サウジアラビア中国大使館は「サウジアラビア当局と協力してウイグル人を強制送還」してはいないとAFPに語った。パスポート更新の拒否について尋ねると同大使館は、ウイグル人の「兄弟姉妹」のための領事業務は停止していないとのみ答えた。

■「どうすることもできない」
ウイグル人学生のグループは昨年、西部ジッダの中国領事館に書簡を送った。この中で学生らは、中国領事館はサウジアラビア在留の漢民族のパスポートは更新しているのに、なぜウイグル人の申請は無視するのかと問い、「私たちは同じ国の出身ではないか」と訴えた。

「私たちは2年間も中国の父、母、きょうだいたちと連絡が取れていない…私たちがサウジアラビアで学んでいるために、彼らは拘束されたと聞いている」
 
あるウイグル人の若い女性は青色をしている片道の旅行証を引き合いに出しながらこう語った。「妊娠して子どもを産みたいとは思わない――赤ん坊には青色の書類と暗い未来が待っているだけだ」「私たちにはどうすることもできない」 【4月11日 AFP】
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【中国政府の“もうひとつのウイルス”への勝利? 文化は“消毒”され“ディズニー化”した新疆】
最近あまりウイグル族関連の報道を目にしないのは、中国によるウイグル族文化抹消がすでにある程度完成しているためでもあるでしょう。

****新疆ウイグル自治区の文化は“消毒”され、“ディズニー化”している****
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、中国の西の外れに位置する新疆ウイグル自治区もほかの地域と同じように、ほぼ全面的なロックダウン(都市封鎖)を数カ月前から続けてきた。その態勢も、いまは徐々に解除されつつある。 

一方で中国政府は過去6年にわたり、新疆ウイグル自治区に広がる別の“ウイルス”(であると政府はみなしている)の蔓延を食い止めることに力を注いできた。

そのウイルスとは、イスラム急進主義である。 2019年に『ニューヨーク・タイムズ』にリークされた機密文書には、「宗教に基づく過激思想に感染している者たちには、学習させる必要がある」と書かれている。「人々の思考のなかにあるこのウイルスが根絶され、健全さを取り戻して初めて、自由は実現するのだ」

まるで戒厳令のような現状
(中略)フランス人写真家のパトリック・ワックが新疆ウイグル自治区を初めて訪れたのは、16年から17年にかけてだった。そのときの目的は、米国の風景写真文化にインスパイアされたシリーズを撮影することだった。

しかし、ワックは19年、地元民に対する弾圧の影響を記録すべく、現地を再び訪れた。 「現在の新疆ウイグル自治区には、警察や軍の検問所がいたるところにあります」と、ワックは語る。「まるで戒厳令が敷かれているかのようです」

変わり果てた街の姿
伝統的なウイグル文化を示すさまざまなものが、いまやほとんど消えてしまっていることに彼は気づいた。

「女性たちはスカーフを巻いていません。イスラム教や少しでも中東のように見えるシンボルは、どれも撤去されています。そこはまるで別の場所でした」 

ワックがいちばん驚いたのは、20~60歳の男性が明らかに街からいなくなっていることだった。彼らの多くは、まとめて洗脳キャンプに入れられてしまっているようだった。 

チベットとは異なり(チベット自治区を訪れるには特別な許可が必要である)、新疆ウイグル自治区はいまでも訪問者を自由に受け入れている。だが、そのなかのいくつかの都市では、ワックは私服警官に尾行され、一部の検問所では撮った写真を見せるように命じられたこともあった。

ときには写真の削除を命じられたこともあったが、幸いにも彼はこれらのファイルのコピーをふたつもっていた。 

地元民からキャンプの話を聞くのは不可能だった。「話しかけることもほとんどできません。そんなことをすれば、人々を危険に晒してしまうからです」と、ワックは語る。

「政治的なことを口にしようものなら、すぐに話を切り上げてしまいます」 ワックが洗脳キャンプを訪れることなど許されるはずもなかった。そこで彼は、新疆ウイグル自治区の変わり果てた姿を記録することで、その様子を示唆することしかできなかった。

“ディズニー化”された土地
中国共産党は長年にわたり、ウイグル族のアイデンティティを示すものを取り除き、新疆ウイグル自治区をもっと「中国」に見えるようにつくり変えようとしてきた。

政府は「一帯一路」の一環として、自治区を走る高速鉄道や高速道路などの大型インフラプロジェクトに取り組んでいる。

また、自治区内で暮らすウイグル族の割合を減らすため、中国の主要民族である漢民族に対して、新疆ウイグル自治区への移住を促してもいる。 

「新疆ウイグル自治区の人々は“中国人”のような服を着るようになり、“中国人”のように見えるようになりました」と、ワックは語る。

「それぞれの都市は、完全な中国の都市へと変わりつつあります。各都市の伝統的な部分は破壊されています。たとえ残されたとしても、遊園地につくり変えられているのです」 

事実、新疆ウイグル自治区は漢民族が訪れる観光地として人気を高めている。観光客の目当ては、そこにある砂漠の風景や、かつてシルクロードの一角を占めていたというロマンティックな歴史だ。クムタグ砂漠などの景勝地を訪れる観光客が目にするのは、ウイグル族の「消毒された」文化と歴史である。 

「中国人の友達と話していると、『そう言えば、うちの両親が去年初めて新疆に行ったんだ』と言う人もちらほらいます」と、ワックは語る。

「そうした人たちが体験できるのは、“ディズニー化”された新疆です。支配体制がその文化を滅ぼそうとしている一方で、新疆のエキゾチック化が進んでいるのです」 

悲しいことに、中国共産党が現状を続ける限り、そこに残るのはこの「ディズニー化された新疆」だけなのかもしれない。【5月20日 WIRED】
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中国各地には古い街並みを観光資源とした「古鎮」と呼ばれる街が多くあります。ただ、それらのほとんどは伝統文化とは切り離された、土産物屋が並ぶ“ディズニー化”された観光地です。

新疆全体がそうした「古鎮」のような存在になりつつあるようです。漢族にとっては十分にエキゾチックな観光地なのでしょうが。

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ベラルーシ  国民不満の高まりの中で6選を目指す「欧州最後の独裁者」ルカシェンコ大統領

2020-06-17 23:17:36 | 欧州情勢

(5月24日、ベラルーシ・ミンスクで、ルカシェンコ大統領の6選反対を訴え、マスク姿で演説する(政権批判を続ける映像ブロガーの)チハノフスキー氏【5月25日 共同】)

【新型コロナ 独自対応のタンザニアとベラルーシ】
世界各国が新型コロナ対策に奔走するなかで、アフリカ・タンザニアや東欧・ベラルーシなどのように、検査・隔離・都市封鎖・自宅待機といった通常の対応を軽視(無視?)する国もなかには。

****タンザニア大統領が演説 「神の恩恵でウイルス克服」****
アフリカ東部タンザニアのマグフリ大統領は国民に向けた演説で、同国は「神の恩恵」により新型コロナウイルスを克服できたと述べた。

マグフリ氏は7日、首都ドドマの教会で演説。国民の祈りと医療従事者らの努力が良い結果を生んだと述べた。
礼拝に集まった人々がマスクを着けていないのは、同国が新型コロナウイルスを克服し、国民がもはや恐れていない証拠だとも語った。

マグフリ氏は先週、中心都市ダルエスサラーム市内の病院に残る新型コロナウイルス感染の患者はわずか4人になったと話していた。

同国は4月29日以降、新型コロナウイルス感染に関するデータを公表していない。世界保健機関(WHO)によれば、感染者509人、死者21人の発表が最後となっている。

WHOの地域担当者は、同国が礼拝施設を閉鎖していないことなどに懸念を示してきた。現地の米大使館は先月、感染の危険性は極めて高く、ダルエスサラーム市内の病院はパンク状態だと警告を発した。

しかしマグフリ氏は国民に、「悪魔のような」ウイルスはキリストの体内で生きられないと信じ、祈りでウイルスを追い払うよう呼び掛けた。さらに、陽性判定の増加は検査キットの欠陥が原因だと主張していた。

同国はすでに高校や大学の授業や国際線の運航を再開したが、小中学校の休校措置は続けている。【6月10日 CNN】
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信仰を前面に出すタンザニアのマグフリ大統領に対し、ベラルーシのルカシェンコ大統領はウォッカ?

****新型コロナ「ウオッカが効く」 ベラルーシ大統領が異様発言連発****
四半世紀に及ぶ強権統治を続けるベラルーシのルカシェンコ大統領が新型コロナウイルスを巡り「ウオッカが効く」「ここにウイルスはいない」などと異様な発言を連発している。

世界保健機関(WHO)は21日、多数の人が集まるイベントの延期などを勧告したが、まだ必要ないと退けた。
 
ベラルーシ保健省によると22日現在の感染者は7281人で死者は58人。しかし観客が集まるサッカーなどのプロ競技は現在も通常通り開催。近隣の欧州諸国やロシアが3月には導入した外出禁止措置なども取られていない。

WHOは「急速に感染者が増加している」として対策強化を呼び掛けている。【4月22日 共同】
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もちろん、感染例のある国から入国した自国民、および外国人に対し、自宅または滞在先で2週間の自主隔離を強制しているというように、ベラルーシが全く対応をとっていない訳でもありませんが。

【ベラルーシの国民不満、新型コロナで一気に拡大 そのなかで6選を目指すルカシェンコ大統領】
国民の生命を危険にさらす独善的な新型コロナ対策にかぎらず、ルカシェンコ大統領は「欧州最後の独裁者」とも呼ばれるように、強権的支配を続けています。

ベラルーシでは今年8月9日に大統領選挙が予定されており、ルカシェンコ大統領は「6選」を目指していますが、さすがに国民の間では抗議行動も。

****ベラルーシで大統領6選反対デモ 首都ミンスクに千人超****
ベラルーシの首都ミンスクで24日、ルカシェンコ大統領の6選に反対するデモが行われ、AP通信によると千人以上が参加した。大統領選は8月9日に行われる予定。当局の許可を受けたデモで、治安当局も排除せずに静観したという。
 
1994年から大統領に君臨するルカシェンコ氏は現在5期目。自身に批判的な政治家やメディアを排除し「欧州最後の独裁者」とも称され、昨年11月に6選出馬の意向を表明した。
 
ロシア通信などによると、デモは政権批判を続ける映像ブロガーのチハノフスキー氏らが呼び掛けた。【5月25日 共同】
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まともに選挙が行われれば“あるオンライン世論調査ではルカシェンコ氏の支持率がわずか3%”【下記記事】というルカシェンコ氏の勝利の目はないと思われますが、そこを何とかして圧倒的勝利を実現するのが強権支配国家の「独裁者」です。

2015年の前回大統領選挙では、反ルカシェンコ派は立候補を認められず(立候補を届け出た15人のうち、ルカシェンコ大統領ら8人が受理され、獄中の野党指導者スタトケビッチ氏ら7人は却下)、野党はボイコットを呼びかけるなかで行われました。結果、得票率83%で5選を果たしています。

地元ジャーナリストは選挙が形式にすぎないことを強調するため、猫の出馬を届け出るというエピソードも。

ただ、今回は新型コロナウイルスの感染拡大によって国民不満が大きく膨らんでおり、これまでにない反ルカシェンコの動きが出ているようです。

****【遠藤良介のロシア深層】ベラルーシ異変…揺らぐ欧州最後の独裁者****
ロシア・旧ソ連諸国で反政権デモが粉砕される現場を数多く見てきたが、空恐ろしさを覚えたのは、ロシアよりも隣国ベラルーシ(人口約950万人)の治安機関だった。「欧州最後の独裁者」と称されるアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が26年間にわたって君臨している国である。
 
首都ミンスクで2011年、人々が拍手して政権に抗議するという“デモ”を取材した。約千人がただ歩道上を歩き、時折、一部の者が手をたたく。

それだけの行動だったが、手をたたいた者には即座に私服の治安要員らが無言で襲いかかった。この国ではロシアをしのぐ独裁体制が敷かれ、反政権運動は萌芽(ほうが)にもならないうちに摘まれてきた。
 
そのベラルーシで今、前例のない動きが起きている。次の大統領選を8月9日に行うことが先月発表されると、ルカシェンコ氏の有力対抗馬3人が名乗りを上げ、現職退陣を公然と要求し始めたのだ。
 
ベラルーシでは立候補者の選管登録に有権者10万人の署名が義務付けられている。この署名運動が各地で広範な盛り上がりを見せる。5月末のミンスクでは、署名を求める反政権派運動員に有権者が約1キロもの列をなしたという。
 
大統領の任期制限は04年に撤廃されている。今回の大統領選も「出来レース」となり、ルカシェンコ氏が容易に6選を果たすとみられていた。しかし、経済の低迷などで鬱積していた国民の不満が、新型コロナウイルスの感染拡大によって一気に増幅された。
 
ルカシェンコ氏はコロナをめぐり、国境閉鎖や外出制限などの措置を一切とらなかった。コロナを恐れるのは「精神障害」で、「ウオッカを飲み、サウナに行くこと」が最善の感染予防策だと公言。プロスポーツの試合も軍事パレードも通常通りに行われてきた。
 
米ジョンズ・ホプキンズ大の集計では16日現在、ベラルーシの累計感染者数は約5万5千人、死者は300人強。これすらも実態をどれだけ表しているかは不明だ。国民はすっかり疑心暗鬼に陥り、独裁者が国民の健康に何の思いも致していないことを悟った。
 
ルカシェンコ氏の対抗馬3人は(1)ロシア系銀行のトップを長年務めたババリコ氏(2)外務次官や駐米大使、ハイテクパークの所長を歴任したツェプカロ氏(3)起業家の人気ユーチューバー、チハノフスキー氏=拘束中=の妻−である。民主化や経済の自由化を訴えており、欧米との関係改善の必要性を認識している。
 
むろん、3人の立候補登録が認められない可能性は高い。最有力とみられるババリコ氏の出身銀行には脱税などの容疑で捜査の手が伸びており、同氏が投獄される展開もあり得る。
 
しかし、今回の大統領選に関しては、政権が対処を誤れば国民の怒りが暴発しかねない。ネット上の動画でルカシェンコ氏がゴキブリになぞらえられたのを機に、人々の間では「ゴキブリを止めろ」という過激なスローガンが広がっている。あるオンライン世論調査ではルカシェンコ氏の支持率がわずか3%と出た。
 
強権指導者が居並ぶ旧ソ連地域にあって、ベラルーシ情勢は潮目の変化を予感させる。今後、ベラルーシ併合をもくろんできたプーチン露政権がどう出るかにも注目する必要がある。【6月17日 産経】
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ルカシェンコ大統領も、こうした国民不満の高まりに不安を感じているようで、内閣を解散させ、治安機関経験者の新首相で抗議行動拡大に備えています。

****ルカシェンコ大統領が内閣を解散、新首相に治安・安保経験豊富なゴロフチェンコ氏を任命****
ドル・ルカシェンコ大統領は6月3日に内閣の解散を決定、翌4日には組閣を行い前国家軍産委員長のロマン・ゴロフチェンコ氏を新首相に任命した。(中略)

一方、高等経済学院世界政治経済学部のアンドレイ・スズダリツェフ副学部長は「選挙を控え、ベラルーシの内政は緊張状態にある。社会は反ルカシェンコ大統領のムードに包まれており、再選は難しいとみられる。(治安機関経験が長い)ゴロフチェンコ氏の起用は(抗議デモの発生をはじめとする)惨事に備えた保険だ」と評した(ロシア紙「ガゼータ・ルー」6月4日)。【6月9日 JETRO】
*******************

強引に勝利をもぎとり、抗議行動は力で封じ込める・・・すでにそういう腹積もりのようにも。

【ロシア・プーチン大統領も絶対に避けたいベラルーシにおける親欧米政権誕生】
このベラルーシの動向が気がかりなのは、ロシア・プーチン大統領も同様でしょう。

プーチン大統領はクリミア併合などで拡張主義的野心を実行する政治家・・・というイメージがありますが、冷戦終結後の世界情勢を見れは、東欧のカラー革命、EU・NATOの東方拡大、中央アジアのロシア離れと中国の存在感拡大・・・と、ロシアは“身ぐるみはがされる”ような状況が続いています。

クリミア併合はそういう状況のなかで、ロシア・プーチン政権の不満・不安が噴出した、ごく限られた地域における限定的結果でもあります。

ウクライナ東部の親ロシア勢力を支援しているのも、この勢力にウクライナにおける一定の権限を持たせることで、ウクライナ全体がこれ以上西側に接近するのを阻止したい思惑でしょう。

ただ、ロシアの孤立化・存在感低下という全体的流れは全く変わっていません。

ベラルーシはロシアに残された唯一といっていいロシアに近い国です。
ロシアとベラルーシは形式上は連合国家を構成しており、一時期、プーチン大統領は将来的にこの関係を強化して、その元首の地位につくのではないか・・・といった話も取り沙汰されました。

万一、ベラルーシに親欧米的な政権が誕生すれば、ウクライナに続いてベラルーシも失い、ロシアはまさに孤立することにもなります。

もっとも、ロシアとベラルーシの関係は、それほど単純でもなく、ルカシェンコ大統領は欧州側にも気を持たせて、ロシアと欧州を天秤にかけるようなしたたかさも。プーチン大統領のもとでロシアと一体化するような気持はさらさらないでしょう。

プーチン大統領が新型コロナのために泣く泣く対ドイツ戦勝75年記念日の軍事パレードをあきらめた際も、ルカシェンコ大統領はあてつけるようにこれを強行し、「旧ソ連の国々で唯一のパレードだ」と一人気を吐いていました。

****ベラルーシは軍事パレード挙行 WHOが自制勧告も、戦勝75年****
旧ソ連諸国が対ドイツ戦勝75年の記念日を迎えた9日、ベラルーシの首都ミンスクでは恒例の軍事パレードが挙行され、ルカシェンコ大統領も臨席した。

新型コロナウイルス対策でWHOが多数の人が集まるイベントを開かないよう勧告し、隣国ロシアが大規模パレードを中止する中で、対照的な対応となった。
 
ベラルーシでは、四半世紀に及ぶ強権統治を続けるルカシェンコ氏の考えから近隣諸国が軒並み導入した外出禁止措置は現在も取られていない。

ルカシェンコ氏は「旧ソ連の国々で唯一のパレードだ。ファシズムから世界を解放した全てのソ連兵に敬意を示すものだ」と意義を強調した。【5月9日 共同】
*********************

プーチン大統領にとってはルカシェンコ大統領はいささか目障りな存在でしょうが、さりとて親欧米政権は絶対に阻止しなければなりません。

8月9日の大統領選挙がどのように行われ、選挙後どうなるのか・・・しばらく注目する必要があります。

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中印国境  今月6日の「平和的解決」合意にもかかわらず、死者が出る両軍の小競り合い 

2020-06-16 23:31:29 | 南アジア(インド)

(【6月16日 毎日】)

【双方の衝突で死者が出るのは1975年以来、45年ぶり】
インドと中国の国境地帯の領有権をめぐる争いは今に始まった話ではなく以前からのもので、しばしば衝突・小競り合いを繰り返しています。

最近も国境をはさんで両軍がにらみ合うなかでの小競り合いが起きており、中国と対立するアメリカは中国を批判し、トランプ大統領が仲介を申し出ているという話は5月28日ブログ“インドが抱える多くの国境問題 中印国境紛争にトランプ大領が仲裁申し出”でも取り上げたところです。

その中印国境で死傷者がでる衝突が報じられています。

****インド「北部で中国軍と衝突、将校ら3人死亡」 中国側にも死傷者報道 ****
インド軍は16日、北部ラダック地方の中国との係争地で、両軍が衝突し、インド軍の将校と兵士計3人が死亡したと発表した。

中国メディアも中国側に死傷者が出たと伝えた。

両軍による小競り合いは長年起きてきたが、死者が出るのは極めて異例。双方は5月上旬からにらみ合いを続けていたが、今月6日には「平和的解決」で合意していた。
 
インド軍などによると、衝突は15日夜に発生。発砲はなく殴り合いや投石があった模様だ。今月6日の合意後は、増派された数千人の両軍兵士の一部撤収も報じられたが、衝突を機に緊張が高まる懸念もある。
 
中国外務省の趙立堅(ちょうりつけん)副報道局長は16日の定例記者会見で「インド側が緊張緩和の合意に違反して境界線を越え、中国側を挑発、攻撃して衝突が起きた」と主張し、インド側に強く抗議したと明かした。

一方で、中国側の犠牲者の有無は明かさず、「引き続き対話によって問題を解決することで合意している」とも指摘。米国との緊張関係が高まる中、インドとの関係を悪化させたくない意向をにじませた。【6月16日 毎日】
********************

インド・メディアによると、双方の衝突で死者が出るのは1975年以来、45年ぶりとか。

ここ数年で見ると、“中印の国境問題では2017年に両軍が約2カ月にらみ合い、緊張が高まる事態も起きたが、モディ首相が中国の武漢を訪れ、習近平国家主席と会談。冷え込んでいた中印関係を改善させる節目をアピールしていた。”【6月16日 朝日】というのが、ひとつのピークでした。

最近5月の状況については以下のようにも。

****中国とインド、国境周辺で衝突 殴り合いや投石で死者****
(中略)インド軍関係者によると、両軍の間ではこれまでも衝突があり、インド北部の連邦直轄地ラダックのパンゴン湖近くなど2カ所では5月5日、両軍の兵士が殴り合ったり、投石し合ったりして双方に負傷者が出た。

インド側が自国の支配地域内に道路を建設したことに中国が反発したことが背景にあるとされ、両軍とも数千人を増派してにらみ合いが続いていた。

インド北東部シッキム州の国境でも同月9日に殴り合いの衝突が起きた。今月6日に両国の軍司令官レベルで協議し、「平和的に解決」することで合意。一部地域では両軍の撤退が始まっていた。
 
インド外務省は「インドの活動はすべて実効支配線からインド側にある」と主張。中国軍によるインド領への侵入が増えており、中国軍の強硬姿勢が緊張の背景にあるとの立場だ。(後略)【6月16日 朝日】
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【中国はインド側の道路建設を問題視 その道路建設に日本が支援】
衝突の経緯は不明ですが、当然ながら、両国は非は相手側にあるとしています。

“インド側が自国の支配地域内に道路を建設したことに中国が反発したことが背景にある”という点に関して言えば、これら道路建設を日本が支援していると中国メディアは報じており、日本もあながち無関係ではありません。

****インドが国境地域で66本の主要道路を整備、大部分で日本が支援していた=中国メディア**** 
中国メディア・東方網は1日、中国との国境地域の強化を進めるインドが、日本の支援を借りて66本の主要道路を整備していると報じた。

記事は、インドがここ数年国境地域のインフラ建設を加速させており、特に道路、橋、トンネルなどの建設に力を入れていると紹介。インド紙エコノミック・タイムズが29日にインド北部ウッタラカンド州のトンネル工事が3カ月前倒しで完了し、今年10月には開通予定であると報じたことを伝えた。

そして、同紙が「わが国では66本の道路の主要道路整備を行い、国境の前線に向けて道を通す予定だが、急速なインフラ整備を完全に自力で行っているわけではなく、日本から大きな支援を得ている。日本が大部分の道路、トンネル建設任務を請け負っているのだ」と解説したことを紹介している。

その上で、日本企業がこのほどインド北東部のラダックとウッタラカンド州を含む大部分の道路建設プロジェクトを請け負い、その総距離が2000キロに達するという日本メディアの報道と伝えた。

記事はまた、インパールとコヒマを結ぶ道路、マニプール州の道路関連プロジェクト、シロンとダウキを結ぶ道路、ダウキの大橋などといった道路交通インフラプロジェクトを主として進めているのがいずれも日本企業であるとした。【6月3日 Searchina】
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このインド側道路建設を日本が支援していることへの中国の反発は数年前からのもので、過去には“日本がインドで中印国境道路を建設、「日本はけんかを売る気か?」と中国は猛反発―露メディア”【2014年11月7日 レコードチャイナ】といった記事もあります。

【武器を使わないなど、本格的な戦闘を避けるための対策とは言うものの、死者がでる殴り合い・投石というのも・・・】
さすがに中印両軍とも大規模衝突に至らないように、「武器は私用しない」という一線は守っているようです。

****中国インド実効支配線付近で両軍殴り合い、投石 武器使わず深刻化避ける****
中国とインドの実効支配線付近で今月上旬以降、両軍が対峙(たいじ)している。インドメディアによると、両軍の兵士250人による殴り合いが発生したほか、双方が兵士5000人を増派した。

沈静化のめどは立っていないが、両国は実効支配線付近で警備する兵士同士が衝突しても武器を使わないなど、本格的な戦闘を避けるための対策を講じており、対話を通じた事態打開の道を探っているとみられる。
 
インドメディアによると、インド北部の連邦直轄地ラダックのパンゴン湖近くで5日、インドが進める道路建設を巡って両軍兵士が殴り合ったり、投石し合ったりして負傷者が出た。
 
その後、他の複数の場所で中国側が兵士を増派し、インド側も対抗する形で兵力を増強した。インド側は「中国側が先に越境してきた」と主張している。9日にはインド北東部シッキム州の両国の国境でも兵士による殴り合いが起きた。
 
両軍兵士による殴り合いなどはこれまでも度々発生してきた。核保有国の両国は、領土問題で緊張が過度に高まることは望んでおらず1993年、96年、2013年の計3回、国境防衛に関する合意を結び、本格的な戦闘を避ける対策を講じてきた。
 
中印関係に詳しい印シンクタンク、オブザーバー研究財団のラジャゴパラン氏によると、両軍とも警備では重武装せず、兵士が衝突しても武器を使用しないことになっているという。
 
ただ、それでも領土問題が絡むだけに17年にはインド、中国、ブータン3カ国の国境地帯で中印両軍が約2カ月にらみ合い、緊張が高まる事態も起きた。
 
一方、今回の両軍の動きについて、中国外務省の趙立堅(ちょうりつけん)副報道局長は27日の定例記者会見で「中印国境地区の情勢は安定し、管理されている。中印両国は関連する問題を対話によって解決することができる」と強調した。
 
中国紙「環球時報」は5月中旬、原因は「インド側の違法な防衛施設建設に対する必要な対抗措置だった」との人民解放軍関係者の主張を伝えていた。しかし、中国としては、香港問題などを巡り米国との関係が深刻化する中で、これ以上の中印関係の悪化は避けたい考えだとみられる。【5月30日 毎日】
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ただ、個人的印象としては、物陰からの銃撃よりは“両軍の兵士250人による殴り合い”の方がよほどホットな感じも。

ましてや今回は死者もでているということで、一体どういう“殴り合い・投石”を行ったのか・・・想像するだけでも凄まじいものを感じます。

冒頭記事にもあるように、今月6日は“手打ち”がされた・・・との報道があったばかりですが・・・

****中国とインド、国境摩擦で「手打ち」 平和的解決で合意と発表 なお火種も****
中国とインドの実効支配線付近で5月から両軍が対峙(たいじ)していた問題で、インド外務省は7日、両軍司令官が6日に会談して「平和的解決」で合意したと発表した。

中国外務省の華春瑩(かしゅんえい)報道局長も8日の定例記者会見で「双方は、意見の相違を争いに発展させないことで共通認識に達した」と説明した。ただ、中印間では近年、国境紛争を巡る摩擦が強まっており、合意の実効性は不透明だ。
 
中印両軍は5月上旬から、インド北部のラダック地方で、インド側が道路建設を進めたことをきっかけに、両軍兵士の殴り合いなどが発生。インド外務省によると、両軍司令官が6日に現地で会談し、「双方は現在の状況を解決し、国境地帯の平和と安定を確保するため軍事・外交的関与を続ける」ことで一致した。
 
中印が事態収拾のために歩み寄った形だが、火種はくすぶっている。中国紙「環球時報」(英語版)は8日、中国軍が中印国境に近い西北部で行った訓練を伝える記事でインドとの国境紛争に言及。軍関係者の解説として「中国軍が国内のどこにでも兵力を迅速に展開できる能力があることを示した」と報道した。【6月3日 毎日】
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今回の小競り合いは“火種はくすぶっている”ことを示す結果にも。

【地域限定的な軍事衝突が発生したら・・・】
こういう状況になると必ず出てくるのが“もし両軍戦わば・・・”という「想像」
もちろん、核兵器を使用しての全面戦争ではなく、あくまでも国境紛争地域における通常兵器による地域限定戦争の話です。

****中印の軍事衝突が発生したら…、米専門家「兵力ではインドの圧勝」―仏メディア****
2020年6月15日、仏国際放送局RFIの中国語版サイトは、米国の専門家が「中国とインドで軍事衝突が発生した場合、兵力面ではインドの圧勝」との見解を示したとする、インドメディアの報道を伝えた。 

記事は、インドメディアであるインディア・トゥデイの報道として、米ハーバード大学ベルファー・センターが今年初めに発表したインドと中国の武力戦略に関する論文で、中国との戦いにたびたび敗れてきたインドは中国を主なターゲットとする戦力配備を進め、中国との国境に約22万5000人の兵力を配備可能であるとした。 

そして「中国軍はインドよりも多くの兵力を動員できそうだが、研究によればそれは誤りであり、中国は対ロシア、新疆やウイグルの反乱などの問題を抱えており、インドとの戦闘に全精力を注ぐことは不可能であるほか、中国の大部分の軍隊はインド国境から離れた場所にあるため、対中防御に専念できるインドに比べると、兵力で確かに劣る」と伝えている。 

また同研究が空軍戦力の比較においても、インドは112機の戦闘機をもっぱら対中戦に投入することができるのに対し、中国軍西部戦区司令部が所有する101機の第4世代戦闘機の一部は対ロシア警戒任務に当たる必要があるうえ、実戦経験でもインドのパイロットの方が上回っており、中国軍は地上の指揮に大きく依存せざるを得ない状況だと分析したことを紹介した。【6月16日 レコードチャイナ】
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どうでしょうか? 個人的にはインド軍に高い戦闘能力があるようなイメージはあまりないのですが・・・
(1962年の中印紛争では中国側がインドを圧倒しましたが、周恩来とネルーの時代の話で、今とは全く状況が異なるでしょう。)

地理的にインドの方が国内中央に近く有利という話はあるのかもしれませんが、“対中防御に専念できるインドに比べると・・・”という点については、もし万一の事態になれば、インド・パキスタンが争うカシミールに飛び火する可能性があり、そうなるとインドは国境地帯全域の防御に追われることにもなります。

【国境での緊張高まりの背景に、中国側が香港問題から国際的批判の目をそらす意図・・・との指摘も】
まあ、いずれしても「想像」の話ですし、両軍ともそこまで愚かでもないでしょう。(突発的・偶発的事態からの紛争拡大という線はありますが)

両国ともいまは国内的にはコロナを抱えてそれどころではない状況です。
インドは制限緩和したものの感染拡大が急増している状況で、再制限の話も出ています。
中国も封じ込めたと勝利宣言したものの、北京での第2波で緊張が高まっています。経済の回復も習近平指導部にとっては死活的に重要な課題となっています。

対外的には、特に中国は米中対立、香港問題を抱えています。

もっとも、そういう時期だからこそ、国内外の関心をヒマラヤ奥地の中印国境に持っていきたい、それで国内求心力を高めたい・・・という思惑が働く余地もあるとも言えますが・・・。

****中印軍1万人が印東北部でにらみ合い 中国挑発の背景は ****
(中略)インド側は外交的な努力を続ける意向だが、中国軍は多数の軍事車両や最新鋭の兵器を持つ砲兵部隊も現地にかけつけている。

中国側が軍事的にインドを挑発している形で、折から欧米から批判を浴びている香港問題に関する関心を逸らす意図も働いているとの指摘もある。米ブルームバーグ通信が報じた。
 
両軍は5月5日、標高が3500メートル以上のチベット高原の氷河湖であるパンゴン・ツォのほとりで衝突、双方の多数の兵士が負傷した。それ以来、にらみ合いが続くなか、両軍の部隊が増強されている。
 
中国軍は5月下旬の段階で、ラダック地域の中国国境に約5000人の兵士と装甲車両を配置し、砲兵部隊も増強。インド側も北部国境に軍を集結させており、両軍で1万人が対峙している。
 
両国は5月22、23日に外交関係者が協議を行ったが、解決には至らず、今後も交渉を続けることにしている。
 
中国側もインド側も軍事的な衝突は望んでいないが、軍の衝突は偶発的なきっかけで起こる可能性もあり、予断は許さない状況だ。
 
インドのモディ首相は26日、国家安全保障顧問のアジット・ドバル氏とビピン・ラワット国防参謀総長らと協議。この結果、国境で厳しい軍事的姿勢を維持しながら外交ルートでの解決を目指すことに決定した。
 
駐インド中国大使は27日、声明を発表し「中国とインドは新型コロナウイルスにともに闘っており、我々は関係を固めるために重要な仕事をしている。我々の若者(兵士たち)は中国とインドの関係を認識すべきだ。私たちは意思を疎通して、問題を解決しなければならない」と指摘した。
 
これについて、あるインド政府の元外交官は「中国人は長い間この地域でプレゼンスを拡大してきたが、問題は、なぜ中国がこれをやっているのか、なぜ今なのかということだ」と疑問を投げかける。

中国は香港問題で、欧米諸国との緊張を高め、東南アジア諸国とも南シナ海問題で関係が不安定になっているとして、「これらの国際的な問題から目をそらせようとするように、インドとの軍事的な緊張が高まっているのは偶然の出来事だろうか」と指摘している。【6月6日 NEWSポストセブン】
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香港問題から目をそらすために中印の衝突を引き起こすほどの“危ない橋”を渡ることもないとは思いますが、起きてしまった衝突をそういった国際状況を睨んで利用するというのはあるのかも。

 

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フィリピン  コロナ感染拡大のなかでの規制緩和 政府批判ジャーナリスト有罪判決 警官の性犯罪

2020-06-15 23:39:42 | 東南アジア

(ニュースサイト「ラップラー」の創始者で、フィリピンの著名ジャーナリスト、マリア・レッサ氏。香港にて(2019年5月16日撮影)【6月15日 AFP】)

【感染は過去最高レベルのなかでの都市封鎖緩和】
フィリピンは、新型コロナの感染拡大が続く中、6月1日から首都マニラのロックダウン緩和に踏み出しています。

****フィリピン、首都マニラの封鎖6月から緩和 感染者は急増****
フィリピンのドゥテルテ大統領は28日、新型コロナウイルスの感染拡大抑止のため首都マニラに導入したロックダウン(都市封鎖)を6月1日から緩和すると発表した。

しかし、28日に報告された国内の新規感染者数は539人と、同国で最初の感染者が確認された1月以降で最多となった。累計感染者数は1万5588人で、うち921人が死亡した。

ドゥテルテ大統領はテレビ会見で、死亡率は低く抑えられているとして「状況は悪くない」と述べた。

デュケ保健相は、国内感染者の90%は軽症で、重症患者は2%に満たないと説明した。

マニラで敷かれたロックダウンは世界的に見ても厳格で、実施期間も中国湖北省武漢で封鎖が行われた76日を今週末で超えることになる。

フィリピンは第1・四半期の国内総生産(GDP)が0.2%減少し、第2・四半期は一段と大幅な落ち込みが予想されている。封鎖措置の緩和は経済への打撃緩和につながる可能性がある。

封鎖緩和により、10人までの集会が認められるほか、マスクの着用や対人距離の確保を前提に、職場や商店、一部の公共交通機関が再開され、マニラ内外の移動も認められる。

一方、学校や観光地は引き続き閉鎖し、レストランの店内飲食禁止も継続する。高齢者と子どもについては引き続き外出を禁止する。

今回の措置は6月1日から15日まで適用する。
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上記にも“マニラで敷かれたロックダウンは世界的に見ても厳格で、実施期間も中国湖北省武漢で封鎖が行われた76日を今週末で超えることになる”とある封鎖の状況は・・・

****検問でID、罰則に腕立て伏せも…地区ごとに細かなルール、フィリピンの感染対策****
(中略)
経済活動の停止で多くの人々が影響を受けていますが、痛手を負っているのは、以前から弱い立場に置かれた人たちです。

豊かな人には深刻な影響はなく、せいぜい食べたいものを食べに行けなくなったとか、そういう制限があるぐらいでしょう。

一方で、貧しい人たちは食べるものがない状況に置かれている。病院に行くお金もないまま自宅で亡くなっています。家族はその死を嘆き悲しむ余裕すらない暮らしをしています。

■マンションも独自の外出ルール
――住まいの地域ではどのような外出規制がありますか。それに対してどのように受け止めていますか?

マニラ首都圏とその周辺自治体はロックダウンの状況で、私の住まいもその対象地域です。検疫態勢は5月15日現在までで、計8週間にわたる長さです。他地域は4月末から緩め始めています。

ロックダウン中の検疫のルールは、自治体の越境を制限するというものです。私の住まいはリサール州とマニラ首都圏のちょうど境にあるので、この制限はなかなか面倒です。自治体の境にはチェックポイントがあり、たとえ1ブロック先であっても、簡単に越えて行くことはできません。(後略)【6月6日 GLOBE+】
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“痛手を負っているのは、以前から弱い立場に置かれた人たち”“貧しい人たちは食べるものがない状況に置かれている”というのは、フィリピンに限らず、多くの途上国・新興国が直面する問題で、厳格な封鎖措置を続けられず、感染を封じ込めることができない理由でもあります。

ただ、フィリピンの場合は、“食料援助を求める市民の抗議の中、ドゥテルテ大統領からは4月、トラブルがあれば「射殺する」との発言も飛び出した。”【同上】とのこと。

あの麻薬関連で超法規的殺人が横行するフィリピンで、その状況を生み出しているドゥテルテ大統領が「射殺する」というのですから、単なる脅しではありません。住民も従うしかないでしょう。

そうは言っても、ドゥテルテ大統領としても、これ以上は・・・との判断での緩和でしょう。

ただ全面再開ではなく、今も制限は続いています。

****フィリピンの「庶民の足」苦境 乗合自動車ジープニーの運休続く****
フィリピンの「庶民の足」といわれるバス型の乗合自動車「ジープニー」業界が苦境に陥っている。新型コロナウイルス感染抑止のため運行を中止させられて3カ月近くがたつ。

電車やバスが再開した一方で、乗客同士の距離が近いため待ったがかけられたまま。生活に困窮した運転手が悲鳴を上げている。
 
生活に浸透した交通手段だが乗車人数の制限や客同士の距離確保が難しく、政府は運行をまだ認めていない。約60万人いる運転手のほとんどは失業したとみられる。
 
運転手らでつくる業界団体の代表は「政府は運転手の生計手段も通勤者の移動手段も奪っている」と批判し、運行再開を訴えた。【6月8日 共同】
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その後の感染状況については、“フィリピン保健省は12日、国内の新型コロナウイルスの感染者数が同日午後4時時点で累計2万4,787人に増えたと発表した。前日から615人増えた。”【6月13日 NNA ASIA】ということからすると、感染拡大傾向は過去最多レベルで依然として続いているようです。

【政府批判著名ジャーナリストの有罪判決 政府批判に共感しない「世間の実態」】
麻薬問題で超法規的大量殺人を続けるドゥテルテ大統領は、それによって治安がよくなったと、直接の被害にさらされない“一般市民”の受けはよく、依然として高い支持率にあるようです。

ただ、「自分は麻薬とは関係ないから」とは言っても、麻薬問題で見せる「強面(こわもて)ぶり」は、権力の都合の悪い問題に関しては、いつでも、誰にでも示されます。

世間一般では、そういう政治体制を「独裁」「強権政治」と呼びます。
「強権政治だろうが何だろうが、自分の暮らしが安定すればいい」という話であれば、中国共産党称賛と同じです。

****フィリピン著名ジャーナリストに有罪判決 政権批判封じと反発も****
フィリピンの裁判所は15日、サイバー名誉毀損罪で起訴されたジャーナリスト、マリア・レッサ被告(56)に有罪判決を言い渡した。

同被告はロドリゴ・ドゥテルテ大統領に対する批判的姿勢で知られており、裁判は同国の報道の自由をめぐる試金石として注目されていた。

フィリピンではジャーナリストが脅迫されることが珍しくなく、レッサ被告の裁判は国内外の関心を集めていた。
レッサ被告は罪状を否認し、政治的な動機に基づく訴追だと主張していた。

レッサ被告に加え、同被告が設立したニュースサイト「ラップラー」の元記者1人も有罪となった。

2人は上訴審まで保釈が続く。有罪が確定した場合、禁錮6年の刑を受ける可能性がある。
報道の自由を推進する団体はこの裁判について、ドゥテルテ大統領に対する批判の封じ込めを狙ったものだとしている。

一方、大統領と支持者は、レッサ被告とラップラーを「フェイクニュース」だと非難している。
レッサ被告は米CNNの元ジャーナリストで、2012年にラップラーを設立。ドゥテルテ政権と、同政権が進める残忍なまでの麻薬撲滅戦争を批判してきた。

「証拠を示さなかった」
裁判は、ビジネスマンのウィルフレド・ケン氏と元裁判官が癒着があるとした8年前の記事をめぐって争われた。
この記事が出て4カ月後の2012年9月、「サイバー名誉毀損」法が施行。物議を醸す中、同法で訴追された。

検察は、2014年に問題の記事のタイプミスが修正されたことから、記事は同法の訴追対象になると主張した。

この日の判決でライネルダ・モンテア裁判官は、ラップラーがビジネスマンに関する記述を裏付ける証拠を示さなかったとした。

また、判決は法廷での証拠に基づいたものであり、報道の自由は名誉毀損の免責理由にはならないと述べた。

人権団体が非難
フィリピンでは報道の自由は保障されているが、米人権団体「フリーダム・ハウス」は、フィリピンはジャーナリストにとって非常に危険な国だとしている。

「国境なき記者団」は、「地元政治家に雇われることもある私兵がジャーナリストの口を封じ、何の罪にも問われていない」としている。

________________________________________
ドゥテルテ氏に批判的な人々からは、厳しい政権批判をするメディアを、政府が圧力と報復の対象にしているとの見方が出ている。

人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」のアジア・ディレクター代理のフィル・ロバートソン氏は、「この判決は、フィリピンの虐待的な指導者が国にどんな損害が出ようと、批判的で、高く評価されているメディアを追い詰めるために法律を利用できることを見せ付けている」と述べた。

(中略)
ドゥテルテ政権を批判
ラップラーは、大統領となったドゥテルテ氏を正面から批判する、数少ないフィリピン・メディアの1つだ。

多くの死者を出している麻薬撲滅戦争については、たびたび取り上げてきた。レッサ被告は自ら、ソーシャルメディアを利用した政府のプロパガンダ拡散について報じてきた。ラップラーは、女性差別や人権侵害、汚職などの問題も批判的に扱ってきた。

レッサ被告は、2018年には米タイム誌の「今年の人」に選出された。「ソーシャルメディアと、権威主義的傾向をもつポピュリストの大統領という、情報界における2つの非常に強力な巨大暴風雨の中で」ラップラーを率いた手腕が評価された。

________________________________________
ドゥテルテ氏はラップラーに目をつけていた。昨年には、ラップラーの記者に、「我々にごみを投げつけるなら、説明くらいさせてほしい。あなたはどうなのか? 潔白なのか?」と迫った。

また、ラップラーの記者に対し、政府の動きについて報じることを禁止。政府は昨年、ラップラーの運営許可を失効とした。

昨年3月に逮捕
(中略)
フィリピンにはレッサ被告を尊敬する人がいる一方、嫌悪感を示す人もいる。ドゥテルテ氏の支持者はソーシャルメディアで、レッサ被告の印象操作に取り組んでいるとされる。

東南アジア研究が専門の匿名希望の学者は、「ドゥテルテ氏は支持率がまだかなり高く、過去にレッサ被告をあざけったこともあり、レッサ被告はある種の『エリート』扱いを受けている」と説明。

「彼女の仕事は素晴らしいし、ドゥテルテ氏に好き勝手させない抑止として必要なものだが、大衆的な観点では、そしてマニラ以外では、彼女は世間の実態から『ずれている』と思われている」と述べた。【6月15日 BBC】
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記事発表後に制定された法律で裁かれていますが、“2014年に問題の記事のタイプミスが修正されたことから、記事は同法の訴追対象になる”というのも・・・・タイプミス修正というのはどういう経緯で誰が行ったのでしょうか?

“大衆的な観点では、そしてマニラ以外では、彼女は世間の実態から『ずれている』と思われている”ということが、政権側が強気に出る背景にあるのでしょう。

ただ、“世間の実態”とは?
繰り返しになりますが、食べることができて、治安が良くなるなら、犯罪者(および犯罪に近い生活環境にある貧困層)がいくら殺されようが構わないと言うなら、社会に混乱をもたらす連中は徹底的に取り締まる、善良な国民には豊かな生活を保証するという中国流の政治手法と同じです。

【「ラップラー」が明らかにした封鎖下の警官の性犯罪】
上記裁判で問題となっているインターネット・ニュースの「ラップラー」が明らかにした、マニラ都市封鎖および警官の実態

****フィリピンで警察官による“性被害”を訴える女性が続出 「検問所」が被害の温床****
(中略)
フィリピンには「バランガイ」という名の自治体の最小限行政単位が定められている。コロナ禍の現在、その境界を越えて移動する際には警察などによる検問を通過しなければならず、「パス=通行証」が不可欠となる。このパスを巡る現職警察官による不祥事が発覚し、大きな社会問題となっているのだ。
 
インターネット・ニュースの「ラップラー」は5月21日「コロナウイルスの検問所を通ろうとする売春婦はまず警察官に虐待される」という衝撃的な見出しの記事を公開した。
 
記事では、外出自粛や夜間外出禁止などの措置で、商売上がったりの売春婦や夜の仕事の女性たちの現状が紹介される。彼女らは生活維持のため、ネットで知り合った、あるいは馴染みの「お客」の自宅に通うため、「検問所」を通らねばならない状況にある。

その検問所にいる現職の警察官の中に、「パスと引き換えの“行為”」を露骨に要求してくるケースがあるというのだ。
 
女性たちは生活のために、やむを得ず警察官の前で服を脱ぎ、体を開く。「ラップラー」のスクープは、警察官による「レイプ疑惑」という人権侵害、犯罪行為の実態だった。(後略)【7月11日 大塚智彦氏 デイリー新潮】
**********************

こういう記事を発表する「ラップラー」が、警察を暴力装置として活用する政権としては目障りなのでしょう。
一般市民は売春婦や風俗関連女性がどういう扱いを受けようが知ったことではないというのが「世間の実態」なのでしょう。

**********************
アーチー・ガンボア国家警察長官は「我々は女性を尊敬し、その社会的役割に敬意を表す立場から今回のような事案は極めて重大な問題だと認識している」との声明を発表。その上で「社会の防疫態勢の中で権限を有する者が、その権力を悪用して女性に肉体的、性的な嫌がらせや虐待をすることは許すべきではない」と警察官を非難した。
 
匿名で被害を打ち明けた女性たちに対しても「是非名乗り出て被害を届けてほしい。そうしないと事件として捜査できない」と求めた。

しかし、フィリピン社会では警察組織が100%信用できないことは周知の事実。地元のフィリピン人記者は私に「名乗り出ればどうなるか。命の危険すら懸念される、それがフィリピンである」と話した。
 
いくら捜査のためとはいえ簡単に名乗り出ることができない現状がある。ガンボア長官もそれを見越して発言しているのではないかとの見方も出る始末。

「(不正に走る)そうした者と第一線でコロナ対策のために懸命に仕事をしているその他多数の警察官を同一視しないでもらいたい」と組織擁護とも取れるコメントもしているだけに、国民は警察への不信感をさらに深めている。
 
それは長官の声明からも見て取れる。彼は「名乗り出た被害者の保護には全力を挙げるが、裁判になった場合、公判でも保護しきれるかどうかは何ともいえない。有罪にするには証人の法廷での証言がどうしても必要になるだろうから」と付言したことからもよくわかる。

夜の町はロックダウンでゴースト化
マニラ首都圏では、カラオケなどの娯楽施設が集中するマビニ、マカティ地区などのほかにゴーゴーバーが立ち並ぶ「エドサ・コンプレックス」(通称エドコン)などの歓楽街が有名だが、強制力を伴う「コミュニティ隔離措置」が宣言された3月15日以降はいずれも営業自粛や停止に追い込まれ、街はゴーストタウンと化している。

「ラップラー」が報じた女性たち同様、そこで働いていたカラオケのコンパニオンやバーのホステス、ダンサー、売春婦といった女性たちも、生活に困窮し、路頭に迷う境遇に追い込まれている。(中略)

今回の事件に対し、女性人権組織や性暴力被害者保護団体などは、
「コロナウイルス対策で多くの女性が生活困窮に陥り、その結果として売春せざるをえない状況に追い込まれている。その弱みにみつけこむ行為は人権侵害であり犯罪である」
と、ドゥテルテ政権に対して生活保障や経済支援策を手厚くするように求めている。
 
ガンボア警察長官の呼びかけにも関わらず、警察官による性被害の実態を訴え名乗り出た女性は、これまでのところいないという。【同上】
*******************

国家警察長官「被害者は名乗り出て欲しい・・・でも、公判でも保護しきれるかどうかは何ともいえない。」
殆ど「警察に盾突く輩は命の保証はしないぞ」という恫喝と同じです。

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世界に広がる人種差別抗議デモ アメリカでは事態を更に刺激する危険がある事件も

2020-06-14 22:03:14 | 人権 児童

((人種差別反対デモに参加した黒人男性(中央)が、それに対抗するデモに参加して負傷した白人男性を担いで避難させた(13日、ロンドン・ウォータールー駅近く)【6月14日 BBC】)


【イギリス 人種差別抗議行動に対抗する極右デモも】
アメリカ・ミネアポリスで起きた白人警官拘束下で黒人男性が死亡した事件を契機に広がる人種差別反対デモはアメリカだけではなく世界各地に及んでいます。

イギリスでも各地で抗議デモが行われていますが、こうした動きに対抗する極右勢力のカウンターデモも行われ、
警察と衝突するなトラブルも起きています。

****ロンドンで極右デモと警察が衝突 差別反対の平和的抗議も続く中で****
ロンドンでは13日、人種差別に反対するデモやそれに対抗するデモが行われ、当局の制止にもかかわらず大勢が集った。一部では暴力沙汰に発展し、警官が殴る蹴るなどの危害を加えられる場面もあった。

ロンドン中心部の衝突で警察官6人が軽傷を負ったほか、100人以上が暴力、警察への攻撃、武器所持などで逮捕された。

警察と衝突を起こしたのは極右のデモ参加者で、反人種差別活動家からイギリスの歴史や銅像などを守るためだと主張していた。

アメリカで黒人のジョージ・フロイドさんが白人警官の暴行で死亡した事件をきっかけに始まった反人種差別デモが各国に広がる中、イギリスでは人種差別や奴隷制度に関わった歴史人物の像が攻撃対象になっている。

一方、ロンドンやイギリス各地では引き続き、人種差別に反対する平和的なデモも続いている。
ロンドンでは先週、一部のデモが暴力に発展した。ロンドン警視庁は今回、集会を午後5時で終わらせたり、職務質問を拡大したりするなど、暴力抑制に力を入れている。

ボリス・ジョンソン英首相は「人種差別的なごろつきの暴力など、私たちの街にあってはならない」とツイートし、警官に危害を加えたグループを非難。「警察を攻撃する者には誰でも、あらゆる法の力をもって対抗する」と書いた。

殉職警官の慰霊碑に立小便
この日はイギリス各地から、イギリスの歴史のシンボルを守るなどと主張する極右活動家などがロンドンに集まった。

大半が白人男性で、ホワイトホールの戦没者追悼碑の前に集まったほか、ウィンストン・チャーチル元首相の像の回りに囲いを作るなどした。チャーチル元首相は人種差別的な発言で知られており、一連の差別反対デモでは銅像に落書きがされていた。

差別反対デモに抗議する白人の男たちはこの日、腕を振りかざしながら「イングランド」と叫び、警察の治安部隊と衝突を起こした。(中略)

人種差別に抗議するデモに反対する白人男性の1人は、2017年にウェストミンスターで起きたテロ攻撃で命を落としたキース・パーマー巡査の慰霊碑の横で、立小便しているところを写真に撮られた。

プリティ・パテル内相はこれについて、慰霊碑の「冒とく」は「全く恥ずべき行為」だと非難した。(中略)

ロンドン以外でも、グラスゴーやブリストル、ベルファストなどで、戦争記念碑を「守る」ための集会が行われ、数百人が参加した。

BBCのドミニク・カシアーニ内政担当編集委員によると、ロンドンの議会前広場に集まった数百人の多くはすでに酒を飲んでいた状態だった。極右活動家のほか、様々なサッカー・チームを応援するフーリガンたちが、この日はひいきチームの違いを乗り越えて肩を並べて参加していたという。

政治家が相次いで非難
ジョンソン首相は、「一連の行進や抗議は、暴力によってなし崩しに変質してしまった。加えて、現在の(感染対策)ガイドラインにも抵触する。イギリスに人種主義の居場所はない。それを現実にするために協力しなければならない」(中略)

反人種差別デモは平和的に
こうした中、ロンドンのハイドパークや隣接するマーブルアーチでは、反人種差別を訴える平和的なデモが行われ、「Black Lives Matter」運動への支援が呼びかけられた。

ただし、この週末に実施予定のデモ行進については、極右グループとの衝突を避けるため参加しないよう、ロンドンの「Black Lives Matter」運動の主催者たちは呼びかけていた。(中略)

平和的な抗議参加者は、極右活動家と暴力的な衝突によって「Black Lives Matter」の取り組みが「汚されて」してしまうことを恐れていると話した。

抗議団体「Hope Not Hate(ヘイトではなく希望を)」のニック・ロウルズさんも、極右団体が騒ぎを起こそうとしており、「非常に深刻な」状態にあると述べた。「Black Lives Matter」が13日にロンドンで予定していた抗議を中止したのは、賢明な判断だったと評価した。

「銅像や記念碑を本気で心配し、守ろうと思っている人も中にはいるが、大勢はけんかをするためにロンドンに向かった。ソーシャルメディアでも、おおっぴらにそうい話をしている」【6月14日 BBC】
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【フランス 2016年の類似事件とも重なり抗議広がる】
フランスでは以前から移民出身者の多いパリ郊外などで警官の言動が人種差別的だと指摘されてきた経緯があること、また、フランスでもアメリカと似たような黒人と警察のトラブルが2016年に起きていることなどを受けて、今回米ミネアポリスでの事件を契機に人種差別反対を訴える抗議行動が広がっています。

****パリでも人種差別抗議集会、警察と衝突 催涙ガス使用****
黒人に対する警察の過剰暴力と人種差別に抗議するデモが、アメリカからフランスにも飛び火し、パリ中心部では13日、抗議に参加した人たちと機動隊が衝突した。

パリ中心部のレピュブリック(共和国)広場では、人種差別反対を訴える約1万5000人が集まった。無許可の行進を敢行しようとして警察に規制されたため、投石が始まり、機動隊は催涙ガスでこれに応酬した。

集会は許可されていたものの、行進は許可されていなかった。オペラ座地区への行進は、沿道の店舗や事業所への被害を懸念して禁止されていた。

パリのデモは、2016年にパリ郊外で黒人男性アダマ・トラオレさん(当時24)が逮捕され、警察車両の中で意識を失い、警察署で死亡した事件に抗議するもの。「アダマ・トラオレに正義を」と訴える抗議者たちは、「正義がなければ平和もない」などとシュプレヒコールを繰り返した。(中略)

フランス警察への抗議とは
フランスの警察監視団体によると、昨年は1500件近い警察に対する苦情を受理し、その半数は暴力被害を主張する内容だったという。

5月にはパリ近郊ボンディで、スクーターを盗もうとした疑いで拘束された14歳少年が、警察によって重傷を負ったとされる事件があった。

クリストフ・カスタネル内相は8日、警官が容疑者を羽交い絞めにして首を絞める逮捕術を禁止した。
内相はさらに、警察における人種差別は「一切容認しない」と公約し、人種差別が強く疑われる警官は休職させると述べた。

これには多くの警官や警察労組が強く反発し、自分たちの間に人種差別がはびこっている事実などないと主張。12日にはパリ中心部のシャンゼリゼに多くの警官が集まり、地面に手錠を投げつけて抗議した。【6月14日 BBC】
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【警官からは反発も】
「悪者」扱いされていると感じる警官の側からの反発は、上記フランスだけでなくアメリカでも。

****市警の特殊部隊員10人辞任、安全な任務遂行「不可能」 米フロリダ州****
 米フロリダ州南部の街ハランデールビーチで、警察の特殊部隊員10人が安全上の懸念を理由に辞任したことが分かった。

隊員らは市警察のキノネス署長に9日付で書簡を送付。最低限の装備や訓練しか与えられず、「隊員より犬の安全を優先するような」政治的風潮に動きを封じられることも多い現状が改善されない限り、任務を十分に果たすことはできないと主張した。自身や家族がいわれのない危険にさらされているとも訴えた。

隊員らはさらに、黒人男性が警官に暴行され死亡した事件への抗議デモに、キノネス署長らが8日、現場でひざまずき連帯を示した行動に異議を唱えた。

ハランデールビーチはマイアミから北へ約30キロの沿岸部に位置する人口約3.8万人の街。CNNが入手した市長の声明によると、署長は8日午後に隊員らと会合の場を設けて意見を聴き、装備を回収した。

市長は声明で、辞任を遺憾とする一方、住民の安全を守る任務に影響はないと強調。10人は特殊部隊から外れるものの、市警察にはとどまると説明している。【6月14日 CNN】
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【人種差別に声を上げ始めたアフリカ諸国 ガーナ「帰還」を促す】
なお、アフリカ諸国も今回の一連の人種差別への抗議行動に大きな関心を寄せています。

****反人種差別の議論を国連に要請 アフリカ54カ国****
アフリカ54カ国は12日付で国連人権理事会に書簡を提出し、世界各地で起きている黒人などへの人種差別について、早急に対応策を議論するよう要請した。米国で起きた白人警官による黒人男性暴行死事件は一例にすぎず、アフリカ人の子孫は各地で同様の被害に遭い注目もされてこなかったと訴えた。
 
書簡はアフリカを代表し、駐ジュネーブ国際機関代表部のブルキナファソ大使名で作成された。「組織的な差別、警察の残虐行為、平和的な抗議デモへの暴力」を議論のテーマにするよう求めた。
 
「武器を持たないアフリカ人が警察の残虐行為で苦しめられる事件が、世界各地で数多く起きてきた」と言及した。【6月14日 共同】
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かつて奴隷貿易の主要拠点で、大勢の奴隷が船に乗せられて北米に渡ったガーナからは、「今の場所で必要とされていないならとどまることはない、アフリカは皆さんを待っている」と帰還を促すメッセージも。【6月11日 Newsweekより】

【アメリカ 更に事態を刺激しかねない事件も 自殺か「奇妙な果実」か?】
一方、問題の発端となったアメリカでは、さらに事態を刺激しかねない事件も。

****警官が発砲し黒人男性死亡、警察署長が辞任 米アトランタ****
米ジョージア州アトランタで、警官が黒人男性を拘束しようとした際に発砲し男性が死亡したことを受けて、アトランタ市警のエリカ・シールズ署長が辞任することになった。ケイシャ・ランス・ボトムズ市長が13日、明らかにした。
 
公式報告書によると、死亡したのはレイシャード・ブルックスさん。ブルックスさんは12日夜、ファストフード店のドライブスルーレーンに止めた車の中で寝ていたため、従業員が他の客の迷惑だと警察に通報した。
 
警官らが飲酒検査で陽性だったブルックスさんを拘束しようとすると、ブルックスさんは抵抗。監視カメラの映像には、「警官らともみ合っていたブルックスさんが警官の一人のテーザー銃を奪い、現場から逃走しようとする」様子が映っていた。

「警官らが走ってブルックスさんを追うと、ブルックスさんは振り返ってテーザー銃を警官に向けた。警官が発砲すると、銃弾がブルックスさんに当たった」という。ブルックスさんは病院に搬送されて手術を受けたが死亡した。警官1人も負傷した。(中略)
 
ブルックスさんの死に抗議しデモ隊が再びアトランタ市内の通りに繰り出した。ボトムズ市長は、ブルックスさんを射殺した警官が免職処分を受けたことを明らかにした。
 
トムズ市長は、米大統領選で民主党候補指名が確実となったジョー・バイデン前副大統領の副大統領候補としても名前が挙がっている。 【4月14日 AFP】
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また、下記のような事件も。まだ詳細はわかりませんが、万一他殺という話になると、相当なインパクトがありそうです。

****木につるされた黒人男性の遺体、住民が捜査要求 米ロサンゼルス****
 米カリフォルニア州ロサンゼルス郡の保安官事務所は12日、同州パームデール市で24歳の黒人男性の遺体が樹木からつり下がっている状態で発見されたと発表した。

遺体は通行人が8日未明に見つけたもので、現場に出動した消防士が死亡を確認した。

同市は自殺の疑いがあるとの見方を表明。声明で、新型コロナウイルスの感染拡大後、今回のような事例は初めてではないと指摘。現在の困難な時期に市は精神衛生の問題への対処に努めていると強調した。

ただ、保安官事務所が12日、遺体発見時の初期段階の状況を記者会見で発表した際、数十人規模の住民らが市議会に集結して怒りを示し、捜査開始を要求する事態ともなった。

住民らは現場周辺にある監視カメラの映像分析を要求。市側はそのようなカメラはないとし、捜査は続いていると説明。市長も現れ、住民らに平静さを促しながら、男性の死去の正確な経緯の把握に努めていると大声で説得する一幕もあった。

保安官事務所によると、全面的な検視は近く実施される見通し。
市側は会見後、地域社会が今回の死去への全面的な捜査を求めることは理解しているとも述べた。

パームデール市はロサンゼルスから約60マイル(約97キロ)離れている。【6月14日 CNN】
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ビリー・ホリデイのレパートリーとして有名な歌に「奇妙な果実」があります。“奇妙な果実”とは木にぶら下がる黒人の死体であり、南部を中心に黒人へのリンチ・暴行が当時日常のようにあったアメリカ人種差別への抗議の歌です。

その「奇妙な果実」を再現するような事件となったら、混乱は必至でしょう。

【事態の沈静化・国民融和よりは自身のアピール演出に執心するトランプ大統領】
こうした人種差別への抗議が広がる不安定な状況で、トランプ大統領からは国民融和を促す“そぶり”もあまり見られません。

ミネアポリスの事件で問題になった容疑者拘束時の警官による首締めについては“トランプ氏は「一般的に言えば禁止が望ましい」と語った。同時に、1対1で激しく抵抗する相手と向き合う場合など、状況次第では認める余地を残すべきだとの考えもにじませた。”【6月13日 読売】とのこと。

不本意ながらも「一般的に言えば禁止が望ましい」と語ったあたりは、一応“そぶり”は見せているというべきでしょうか。

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トランプ氏は新型コロナウイルス感染拡大が始まって以来初の支持者集会を19日にオクラホマ州タルサで開くといったん発表したものの、これが奴隷解放記念日にあたることから、日にちを変更した。

1865年6月19日は、テキサス州で奴隷解放宣言が読み上げられた日。奴隷制維持のために戦った南部連合のうち、テキサス州は奴隷解放を受け入れた最後の州だった。南北戦争は1865年4月に終結している。

6月19日は国民の祝日ではないが、多くのアフリカ系市民が「Juneteenth(ジューンティーンス)」と呼んで祝う。
トランプ氏が支持集会の場所にタルサを選んだことも、批判されている。

1921年には白人集団がタルサ市内のグリーンウッド地区を銃や爆発物で襲撃。当時のグリーンウッドは「ブラック・ウォール・ストリート」と呼ばれ、黒人が経営する多くの事業が成功し、繁栄していた。白人集団の襲撃で最大300人が死亡し、約1000件の事業や住宅も破壊された。【6月14日 BBC】
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****トランプ大統領、州兵に感謝 デモ対処方針に言及なし****
トランプ米大統領は13日、東部ニューヨーク州ウエストポイントの陸軍士官学校の卒業式で演説し、白人警官による黒人男性暴行死事件で全米に拡大した抗議デモへの対応を念頭に「街の平和と安全、法の下の秩序を守ってくれた州兵に感謝する」と述べた。

今後の対処方針をどう説明するか注目されたが、言及はなかった。
 
米メディアによると、卒業予定の士官候補生ら約千人は3月、新型コロナウイルス感染拡大を受け自宅に帰っていたが、トランプ氏が4月、卒業式で演説する意向を唐突に表明。士官候補生らは呼び戻され、2週間の自主隔離を行ってきた。【6月14日 共同】
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ホワイトハウス前の抗議集会を強制排除して、教会へ向かい記念撮影した件もそうですが、いかに自分をアピールするかということしか頭にはないように見えます。

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「情報」戦略で問題を惹起する中国プロパガンダとトランプ大統領のつぶやき

2020-06-13 21:40:46 | インターネット SNS

(「暴力の賛美についてのTwitterルール違反」で非表示になったトランプ氏のツイート【5月29日 IT media NEWS】

【「天安門事件」に触れないという中国要求に応じた「ズーム」】
多くの世界市場を見据える企業にとって、今後さらに拡大が予想される中国という巨大市場を無視することができないのは言うまでもないところですが、政治体制が異なる中国での活動が(日本や欧米の基準からすると)多くの問題をはらんでいることも、これまた言うまでもないところです。

特に、考え方・規制が全く異なる「情報」を扱うIT企業やソーシャルメディアにとっては、非常に厄介な問題が伴います。

****米IT企業、中国政府対応に苦慮 巨大市場魅力も検閲懸念****
新型コロナウイルス感染拡大に伴うビデオ会議ブームで急成長した米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズが中国政府の要請に従い、人権活動家の利用を停止したことを11日に発表した。

ズームに限らず米IT企業は中国政府への対応に苦慮。14億人の巨大市場は魅力的な半面、インターネット上の検閲に懸念は根強い。対中協力姿勢は自由な企業イメージを損なう危険もある。
 
「われわれは間違えた」。在米活動家のアカウント停止を欧米メディアが報じると、ズームは対応の誤りを認めた。ニューヨーク・タイムズ紙は「米中両国で事業展開する企業の厄介な問題」と伝えた。【6月12日 共同】
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上記「ズーム」の件は、中国にとっても最も敏感な部分でもある「天安門事件」に関して生じたものです。

****ズーム、会議閉鎖とアカウント停止は「中国の要求に応じた」****
米ビデオ会議サービス「ズーム」は11日夜、中国の天安門事件に関するビデオ会議を閉鎖し参加していた米国や香港の人権活動家らのアカウントを停止したことについて、中国政府からの要求に応じた措置だったと明らかにした。
 
ズームの声明によると、天安門事件を追悼する4つのビデオ会議について「中国政府が、中国国内で違法とされている活動だと通告してきた。会議の閉鎖と主催アカウントの停止を要求された」という。
 
これらのビデオ会議には中国本土在住のユーザーも参加していたが、「特定の参加者を会議から除外したり、特定の国からの会議参加を阻止したり」する機能は現在ズームには備わっていないため、「ビデオ会議4つのうち3つを閉鎖し、それらに関与していた主催者アカウントを停止する決断に至った」と説明している。 【6月12日 AFP】
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“ズーム側は、中国政府の要求に応じたとしたうえで、「ズームは開かれた議論の促進を目指しているが、事業を行う国の法律を守る必要がある」などとコメントしている”【6月12日 FNNプライムオンライン】とのことですが、政治的立場からの情報管理を否定する欧米・日本の基準には著しく反する行為であり、中国の要請に従えば、今度は欧米からの「中国に屈して重要な価値観を損ねた」と厳しい批判にさらされることになります。

【おびただしい中国プロパガンダアカウント 削除してもスピードと量で圧倒】
「天安門事件」といった敏感な問題にかぎらず、中国と西側では「情報」の位置づけが異なります。
中国にあっては、「情報」は国家の政治的意図を反映したプロパガンダの一環です。

一方、「公正中立」を旨とする西側基準からすれば(現実問題として、そういうものがありうるのかは議論の余地が多々ありますが)、中国政府の意図を反映した「情報」(虚偽情報も含め)を意図的にまき散らすような行為は許されないということにもなります。

****米ツイッター、中国関与疑いの偽情報アカウント17万件削除****
米交流サイト大手ツイッターは12日、中国政府主導の偽情報拡散作戦と関連があるとみられるアカウント17万件超を削除したと発表した。これらのアカウントは香港の民主化運動を標的にしていたほか、米国の信用をおとしめようともしていたという。
 
中国をめぐっては、米ビデオ会議サービス「ズーム」が天安門事件に関するビデオ会議に参加していた米国や香港の人権活動家らのアカウントを停止したことについて、中国政府からの要求に応じた措置だったと明らかにしたばかり。
 
また、中国はニュースや情報へのアクセスを制限するため「万里のファイアウオール」と呼ばれるネット検閲システムを導入しており、ツイッターはユーチューブ、グーグル、フェイスブックなどと同様に中国では利用が禁止されている。
 
だが近年、中国の外交官や国営メディアは政府の主張を広めるため、これらのサービスをこぞって利用している。
 
専門家や一部の欧米政府は、中国政府が自らの主張や虚偽の情報を拡散するため、国が直接管理するか、つながりのあるアカウントを一見そうではないように偽りながら大量に展開しているのではないかとの懸念を示している。
 
ツイッターの発表によると、同社は「非常に積極的な中核」の役割を果たしていたアカウント2万3750件に加え、「拡散係」に当たるアカウント15万件超によって運用・拡大されていた「国家が関与する」ネットワークを解体。
 
また同社の分析によると、これらのアカウントは「主に中国語でツイートしており、中国共産党に都合の良い地政学的な話題を拡散する一方、香港の政治の動きについては虚偽の情報を拡散し続けていた」という。 【6月12日 AFP】
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しかし、中国の情報工作は、スピードと量で「圧倒」するものがあり、対応は困難なようです。

****中国のSNS情報工作、未熟だが「執拗さ」で圧倒 *****
中国政府が背後にいるとみられる欧米のソーシャルメディア上における情報工作は、手口は未熟だが極めて執拗(しつよう)であることが、新たな分析結果から分かった。時間ともに洗練される可能性があり、注意が必要だという。 
 
豪シンクタンク、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が2万人以上のユーザーを分析した。大半は中国語によるもので、親中メッセージを展開していた。

ツイッターは11日、中国政府が運営する偽アカウントと判断した約17万4000件のアカウントを削除したと発表したが、ASPIが分析対象としたユーザーは、削除された一連のアカウントの中核をなしていた。 
 
ASPIが公表した分析によると、すでに新規のアカウントや別の目的にすり替えたアカウントがツイッターやフェイスブック上に存在しており、黒人男性の殺害事件を発端とする米国内の抗議デモなどに問題に乗じて、これまでと同じく中国寄りのメッセージを拡散させている。 
 
ASPIのリサーチャー、エリーズ・トーマス氏は、中国のツイッター上の情報工作は、2016年の米大統領選に干渉したロシアの「洗練度に比べると足元にも及ばない」レベルだと指摘する。むしろ、大量のスパム攻撃でネット上の議論を圧倒するようなやり方だという。 
 
だが、中国は2019年9月以降、複数のアカウントが削除されても「驚くほど執拗に続けている」とし、「今後改善する可能性があり、注視する必要がある」と話す。(中略)
 
ASPIによると、ツイッターが大規模なアカウントの削除に乗り出しても、中国の工作員は時には数日以内で、新たなアカウントを立ち上げるか、従来のアカウントを別の目的にすり替えるなどして、空白を埋めているもようだ。

ツイッターは今年1-3月に偽アカウントを一掃しているが、すでに似たようなアカウントが出現している。 
 
6月に米国内で警察の残虐行為や人種差別に対する抗議デモが拡大すると、米国の人権に対する「二重基準」を批判する中国政府系とみられる投稿が増えた。米国は二重基準だとの批判は、中国外務省も繰り返し唱えている。 
 
他には「非現実的な幻想をすぐに捨て、米国側との関係を断ち切れ」、「過ちを犯す前に再考しろ」といったツイッター投稿もあり、民主化で米国に支援を求める香港市民をけん制しているとみられるものもあった。 【6月13日 WSJ】
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なお、ツイッターが中国政府系のアカウントを削除したことに対し、中国外務省の華春瑩報道官は12日、削除されるべきなのは、中国を組織だって非難中傷するアカウントだと主張。「中国は偽情報の最大の犠牲者だ」と反論しています。

****ツイッターは中国中傷するアカウント閉鎖すべき=中国外務省****
中国外務省の華春瑩報道官は12日の定例会見で、中国は偽情報の最大の被害者だと主張、米ツイッター<TWTR.N>が偽情報対策に取り組むのなら中国を中傷するアカウントを閉鎖すべきだと述べた。

華報道官は、ソーシャルメディアなどの多くのプラットフォーム上で中国に関する虚偽の情報が多く出回っており、中国側の客観的視点に立った意見が求められていると述べた。【6月12日 ロイター】
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【トランプ大統領のつぶやきを垂れ流して謝罪に追い込まれたフェイスブック】
情報操作・偽情報の問題は中国のような政治体制の国に限った話ではありません。
中国を激しく非難するアメリカでも、その政治トップが怪しげ、あるいは偏った情報をまき散らしているという問題があります。

ミネアポリスで起きた白人警官による黒人暴行死事件に関して、トランプ大統領のツイートに「暴力賛美」の警告をつけたツイッターと大統領のバトルは周知のところですが、このときフェイスブックは特段の対応を取ることなく、その姿勢に対し従業員からも厳しい批判が出ていました。

****投稿規制強化、米分断に揺れる フェイスブックCEO「謝罪」 SNS「公正中立」に限界 ****
白人警官による黒人暴行死事件への大規模な抗議デモに揺れる米国で、SNS(交流サイト)が表現の自由と安全や安心の間で揺れている。

米フェイスブックが投稿に対する制限を強める方針を5日に示し、運営各社の足並みがそろってきた。ただ、自由な発言を求めるトランプ米大統領らが反発するのは必至で、米社会の分断と軌を一にして各社の苦悩も深まっている。

「自分の先週の決断が多くの仲間を怒らせ、失望させ、傷つけたか分かっている」。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は5日、社内SNSを通じて1400語近い長文のメッセージを発信した。このなかで国家による武力行使などに関する投稿の制限を見直す考えを示した。

ザッカーバーグ氏が実質的な謝罪に追い込まれたのは、トランプ氏の1週間ほど前の投稿を黙認したためだ。「略奪が始まれば銃撃も始まる」。黒人男性の暴行死事件に抗議するデモを武力で抑えつけるととれる内容を放置し、社内外で批判が高まった。

1日にはストライキが起き、複数の社員が辞職している注意を促す注記を加えることも検討すると盛り込んだ。

同様の取り組みでは米ツイッターが先行し、若年層の人気が高い画像・写真共有アプリ「スナップチャット」を運営する米スナップも3日、トランプ氏の投稿の表示を減らす方針を示している。

SNSの運営企業は公正中立を掲げ、利用者の投稿を制限することに慎重な姿勢をとってきた。今回の動きにより、直前まで「当社が真実の仲裁人になるのは適切ではない」と公言していたザッカーバーグ氏が率いるフェイスブックを含め、各社が制限を強める姿勢を鮮明にする。だが、先行きは見通しにくい。

「過激なエバン・シュピーゲルCEOは極左の暴動の動画を拡散し、利用者に米国を破壊させようとしている」。スナップがトランプ氏の投稿の拡散を制限する方針を打ち出すと、同氏の選挙陣営は強い調子で非難した。

本人もツイッターが自分の投稿に注記を付けると激怒し、表現の自由を盾にSNS運営企業への保護を弱める大統領令に署名した。

トランプ氏のめざす法改正が思惑通りに進むかは不透明だが、公正中立の姿勢を維持しきれなくなったSNSの運営企業の先に広がるのはいばら道だ。

そもそも注記を付ける行為が思想や信条を反映しているととられる可能性が高く、社会の分断が深まるなか反発を招きやすくなっている。判断を独立した第三者委員会に委ねる動きもあるが、効果は未知数だ。

11月の大統領選まで5カ月を切り、政治に巻き込まれやすくなっているのも悩みだ。特にフェイスブックでは前回の大統領選で個人情報の不適切な利用や外国政府の介入といった問題が噴出し、対応に追われた経緯がある。

ザッカーバーグ氏は5日のメッセージで選挙対策に自信を示す一方、こう漏らした。「取り組みを進める中でやるべきことがさらに見つかるはずだ」【6月7日 日経】
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【投稿などへの監視強化 どういう基準で?】
フザッカーバーグCEOの謝罪でもフェイスブックへの反トランプ側からの不満は収まっていないようで、バイデン氏が投稿などへの監視強化を求める書簡を公表しています。

****バイデン氏陣営、投稿への監視強化をFBに要求…「トランプ氏の言うことを何でも許容」****
米大統領選で民主党候補となることが固まったジョー・バイデン前副大統領の陣営は11日、米フェイスブック(FB)に対し、「公正な選挙を確保するため」として投稿などへの監視強化を求める書簡を公表した。
 
書簡でバイデン陣営は「FBは、ドナルド・トランプ(大統領)が言うことを何でも許容し続けている」と指摘し、「選挙への参加方法についてウソをつくことなどを禁止する明確なルールが必要だ」と規定の見直しを求めた。
 
トランプ氏は5月、郵便投票について「詐欺だ」などとツイッターやFBに投稿した。11月の大統領選挙で西部カリフォルニア州が郵便投票を認めていることを念頭に置いているとみられている。ツイッターは警告を表示したが、FBは対応をとっていない。
 
FBは、運営会社によるSNS上の監視活動に慎重な姿勢をとっている。FBは11日に声明を出し、「選挙で選出された国民の代表がルールを設定し、それに従う。賛同できない内容であっても、政治的言論は保護する」との考えを示した。【6月12日 読売】
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ただ、「監視」には基準が必要で、どういう立場で「監視」するのか・・・そのこと自体が一定の政治的立場を示すものともなって、反対意見を認めないことになる懸念も。

明確なフェイクはともかく、表現の自由とのかねあいで、なかなか微妙な問題です。

トランプ大統領のように、あることないことまき散らすような存在があると、こうした厄介な問題が表面化します。

 

 

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イタリア  新型コロナ遺族団が首相の責任を問い告訴 検察は首相の事情聴取

2020-06-12 23:00:12 | 欧州情勢

(イタリア・ロンバルディア州ベルガモ近くの倉庫に保管された多数の棺桶【5月2日号 週刊東洋経済Plus】)

【中国政府に賠償を求める訴訟は、責任を問う相手が違う感も】
新型コロナに関する訴訟というと、ひところメディアで散見されたアメリカなどにおける中国の責任を追及するものが思い浮かびます。

****コロナで8か国100兆ドル賠償請求に中国「ならリーマンは?」****
新型コロナウイルスは世界中で猛威を振るっているが、感染拡大の原因は中国の初動対応の誤りが主要な原因だとして、現在、米国、英国、イタリア、ドイツ、エジプト、インド、ナイジェリア、オーストラリアの8カ国の政府や民間機関が中国政府に賠償を求める訴訟を起こしている。
 
これに対して、中国内では大きな反発の声が上がっている。ネット上では「1918年のスペイン風邪で死者が推定で最大5000万人に上ったが、その原因は第一次世界大戦で欧州に派遣された米兵が感染を拡大させたことだ。しかし、そのとき、アメリカ政府は賠償金を支払っただろうか。いま中国に賠償金を要求するのならば、アメリカが当時の責任をとって、賠償金を支払ってからにせよ」などとの痛烈な批判が出ている。

『香港経済日報』によると、今回の新型コロナの感染拡大による中国への賠償金の要求額は総額で100兆ドル(約1京1000兆円)を上回り、中国のGDP(国内総生産)7年分に相当する額に達している。
 
英国のシンクタンク「ヘンリー・ジャクソン協会」は今回の感染拡大は中国当局による情報統制が最大の原因で、多くの湖北省武漢市民が感染に気づかぬまま春節連休前に出国したためだと指摘。経済的損失は先進7カ国(G7)に限っても最低4兆ドル(約425兆円)に上ると試算している。
 
中国政府が世界保健機関(WHO)へ十分な情報提供をしなかったことは国際保健規則に反するとして、国際社会は中国政府に法的措置を取るべきだと提言した。
 
このような賠償請求額について、中国外務省報道官は記者会見で、「中国政府は速やかにWHOや米国を含む関係国・地域に新型ウイルスの情報を提供してきた。これらの訴訟は乱訴というべきだ」と強い不快感を示している。
 
また、共産党機関紙『人民日報』系の『環球時報』は7日付朝刊で「ウイルスはいかなる国にも出現する可能性があり、どの国が最初にまん延しようとも法的責任はない。世界的な疫病のいくつかは最初に米国で広まったが、米国に賠償を求めた国はない」とする大学教授の論評を掲載した。
 
崔天凱・駐米国中国大使も「世界的な経済停滞を招いたアメリカ発のリーマンショックや世界恐慌などで、アメリカに賠償を求めた国はない」と強調。

さらに、崔氏は米紙『ワシントン・ポスト』のコラムに寄稿し、新型コロナ感染拡大の原因が中国にあるとの主張は、世界の2大経済大国である米中を「分断」する恐れがあると指摘した。崔氏はまた、中国への疑念の高まりが新型コロナとの闘いや世界経済の再始動における米中協力を脅かしているとの見解を示している。【5月24日 NEWSポストセブン】
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個人的には、この件に関しては「世界的な経済停滞を招いたアメリカ発のリーマンショックや世界恐慌などで、アメリカに賠償を求めた国はない」という中国側の主張の方に共感します。

仮に、中国がもっと早い段階で情報を開示していたとしても、欧米各国は「アジアの病気にすぎない」という対応を変えることなく、結局は今と同じことでしょう。

どこかの国に責任を転嫁するのではなく、自国政府・自国指導者の対応に問題はなかったかを考えるべきでしょう。

【中国国内でも、武漢で地元政府を責任を問う訴訟】
自国政府の対応・・・ということでは、中国・武漢で中国政府の責任を追及する訴訟が起こされたとか。

****武漢コロナ遺族、地元政府を提訴 情報隠しで謝罪や賠償を要求****
中国湖北省武漢市で新型コロナウイルス感染症により父親を亡くした男性が10日、発生初期に情報を隠し、医療現場からの警告の声を抑えつけたとして、湖北省政府や武漢市政府などに謝罪や賠償を求める訴訟を起こした。中国で新型コロナの遺族による提訴が明らかになるのは初めて。
 
10日付で武漢市中級人民法院(地裁)に訴状を送ったが、受理されない可能性もある。

男性は張海さん(50)で、2月1日に父立法さん(76)を亡くした。「長期間にわたり武漢市政府は遺族の訴えを無視し、責任追及の動きにさまざまな圧力を加えている」と提訴の理由を話した。【6月10日 共同】
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“中国のような国”でこういう行動をとって大丈夫なのか?とも心配になりますが、当然ながら、まともには対応されないでしょう。

【イタリアでは検察が首相を事情聴取】
同じような告発はイタリアでも。

****伊のコロナ遺族団体、首相を刑事告発 検察が事情聴取へ****
新型コロナウイルスの感染の中心となり約3万4千人が死亡したイタリアで、遺族団体が10日、感染拡大の刑事責任を問う告発状を北部ベルガモの検察に提出した。同国メディアによると、検察は12日にもコンテ首相を事情聴取し、政府の感染拡大防止策や当時の医療システムについての実態解明を進める方針。
 
イタリアでは、ベルガモのある北部ロンバルディア州を中心に、2月下旬から感染者が急増。集中治療室がパンクしたり、医療従事者にも感染が広がって在宅医療が機能しなくなったりするなど、医療システムが危機的な状況に陥った。
 
コンテ氏は3月8日に同州全域など同国北部一帯のロックダウン(都市封鎖)に踏み切り、10日には全土を封鎖。

だが2月下旬にはベルガモ県内で最初の死者が出て、同州の死者数は6月10日時点で1万6349人に上った。

遺族団体は「2月下旬の時点でベルガモ県内を封鎖していれば、これほど感染者や犠牲者は出なかった」と主張。何の対策も取られず、当時の医療機関での感染予防策も不十分だったとして、保健医療を管轄する州や政府に感染を拡大させた刑事責任があると訴えている。【6月11日 朝日】
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こちらは中国より“まともな対応”がされており、コンテ首相が検察に事情聴取されます。

****イタリア首相を検察が聴取へ 新型ウイルス拡大、遺族ら告訴****
新型コロナウイルスの感染が拡大したイタリア北部ロンバルディア州ベルガモの検察は、政府の感染対応に不備があった疑いがあるとして、12日にもジュゼッペ・コンテ首相を事情聴取する。COVID-19(新型ウイルスの感染症)で亡くなった患者の遺族50人が10日に告訴状を提出していた。

事情聴取は、今年3月のロックダウン(都市封鎖)開始前に最も甚大な被害が出ていた、ミラノ近郊のベルガモで行われる予定。

コンテ首相は事情聴取について「全く心配していない」と述べた。
検察はルチアーナ・ラモルゲーゼ内相と、ロベルト・スペランツァ保健相についても、12日に事情聴取を行う。

市民団体「Noi Denunceremo」(私たちは報告する)は10日、ベルガモの検察当局に告訴状を提出した。遺族らは、感染のホットスポットをもっと早い段階で封鎖すべきだったと訴えている。

COVID-19の被害者家族らで構成された同団体は、ロンバルディア州の町アルツァーノとネンブロについて、感染のアウトブレイク(大流行)が確認されてからすぐに「レッドゾーン」に指定すべきだったと主張している。

イタリアでは、新型ウイルスのパンデミック(世界的流行)に端を発した集団告訴は今回が初めて。一方でロンバルディア地方では新型ウイルス対応をめぐり、多くの人が中央政府ではなく、右派政党レーガ党率いるロンバルディア州政府を非難している。

ロンバルディア州では欧州で最初に感染が拡大し始めた。イタリアの死者の半数以上は同州で確認されている。
イタリアの公式データによると、11日までの死者数は3万4114人で、欧州ではイギリスに次いで2番目に多い。世界では4番目に死者数が多い。
しかしイタリアの感染数は減少していることから、当局は厳格な制限措置を段階的に緩和している。

中央政府の責任か、ロンバルディア州の責任か
コンテ首相は事情聴取について、「私が知っている全ての事実を誠実に説明する。全く心配していない」と述べた。
「全ての捜査を歓迎する。市民には知る権利があり、我々には回答する権利がある」

コンテ氏は今年4月初旬のBBCのインタビューで、新型ウイルスの危機を過小評価していたとの訴えを否定。新型ウイルスのクラスター(小規模な集団感染)が初めて確認された初期の段階でロックダウンを命じていたら、「人々は私を気がおかしい男扱いしていただろう」と述べていた。

また、感染の発生源となった中国・湖北省武漢市のような大規模なロックダウンを迅速に敷くことができたのではとの指摘を一蹴した。

一方、ロンバルディア当局は感染のホットスポットを封鎖するのは中央政府の責任だったと主張。同州保健当局トップのジュリオ・ガレラ氏は、2月23日からアルツァーノとネンブロで多数の感染者が出ていたのは明らかだったとしている。

しかし中道左派連立政権を率いるコンテ氏は、「ロンバルディア州がその気になればアルツァーノとネンブロをレッドゾーンに指定できた」と反論したと、AFP通信が報じた。
検察は既にロンバルディア州の高官を事情聴取している。(後略)【6月12日 BBC】
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いささか、国と州の責任の押し付け合いのようにも。

【英米でも「1週間ロックダウンが早ければ・・・」】
ロックダウンをもっと早く行っていれば・・・ということでは、イギリスやアメリカでも犠牲者がはるかに少なくてすんだはずだとの数字がだされています。


****イギリスのロックダウン、「1週早ければ死者半数も」 元政府顧問****
イギリス政府で新型コロナウイルス対策顧問を務めていたニール・ファーガソン教授は10日、同国でロックダウン(都市封鎖)が1週間早く始まっていれば、COVID-19による死者は半分に収まったのではないかと発言した。

ロックダウンの判断にも関わっていたファーガソン氏によると、ロックダウン開始直前は3~4日ごとに、アウトブレイク(大流行)の規模が2倍に拡大していたという。

これに対しボリス・ジョンソン首相は、新型ウイルス政策に対する評価を下すには時期尚早だと指摘。
「政府は対策のすべてを振り返り、そこから学ぶ必要があるだろう。だが何もかもが時期尚早だ。この病気はまだまだ続く」と話した。

イギリスでは3月23日にロックダウンが開始された。同国の新型ウイルスによる死者は、10日時点で4万1128人に上っている。

インペリアル・コレッジ・ロンドンに所属するファーガソン教授は5月、ロックダウン中に移動の制限などのルールを破ったとされ、政府顧問を辞任している。(中略)

<解説>ジェイムズ・ギャラガー健康・科学担当編集委員
新型ウイルスは2月と3月に「予想を超えて」広がった。

BBCニュースが取材した科学者らは、イングランドではロックダウンが開始される前、毎日およそ10万人が新たに感染していたと推測している。

ロックダウンが1週間早く始まっていればこの数も大きく減り、その結果として死者も少なかったはずだという。
なぜそうならなかったのか。それが政府のパンデミック対策に対する大きな疑問のひとつだ。

その時その時に判断を下すよりも、過去を振り返るほうが格段に簡単だ。当時は情報が少なく、イギリス全体のアウトブレイクの規模も明らかでなかった。

しかし一部の科学者は、実際にロックダウンが始まる数週間前から、その必要性を説いていた。【6月11日 BBC】
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****アメリカのロックダウン、1週間早ければ「3・6万人の命救えた」=研究****
米コロンビア大学の研究チームはこのほど、アメリカで1週間早くロックダウン(都市封鎖)を始めていれば、新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)が原因の死者数を3万6000人少なく抑えられていたはずだという推計を発表した。

この研究ではさらに、ロックダウンが2週間早い3月1日に始まっていれば、5万4000人の命が助かっていたと試算。これは研究対象となった5月3日までの死者6万5300人の83%に当たる。(中略)

ドナルド・トランプ米大統領は、この研究は「政治的な暗殺が目的だ」と一蹴している。(中略)

トランプ大統領は3月16日に、国民に対し移動を制限するよう指示した。これは世界保健機関(WHO)が、新型ウイルスがパンデミック(世界的流行)になったと発表してから5日後に当たる。

アメリカでは各州が異なる時期にロックダウンに入った。カリフォルニアとニューヨークはそれぞれ19日と23日にロックダウンを開始した。一方、最も遅かった州のひとつ。ジョージアでは4月3日にロックダウンを始めた。

トランプ政権が欠陥のある検査を導入し、その実施が遅れたことで、各州が2月から3月末にかけてアウトブレイクの情報を十分に持っていなかったこ可能性もあると批判する声もある。

トランプ大統領自身もこの期間は、感染リスクを軽視していた。

「私の決断はとても早かった」
ミシガン州を訪問中にこの研究について質問されたトランプ氏は、「私の決断はすごく早かった。だれが考えるよりも早かった」と話した。その上でトランプ氏は、コロンビア大学の研究については、自分への政治的攻撃が目的だと一周した。

しかし研究は、他の政治家が市民に自宅待機を命じた時期についても疑問を投げかけている。
たとえばアメリカの感染の中心となったニューヨーク市では、ニューヨーク州全体がロックダウンされる1週間前に学校の閉鎖を決めている。

この研究について聞かれたニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は、「この国がもし情報をより多く、より早く得ていたら、もっとたくさんの人を救えたかもしれない」と認めた。(後略)【5月24日 BBC】
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“その時その時に判断を下すよりも、過去を振り返るほうが格段に簡単だ。”というのは事実でしょう。
こうした議論がイタリアのように刑事告発に馴染むものなのかについては疑問も。

ただ、政治の場にあっては、議会等で議論・検証され、最終的には政府の対応の妥当性について国民が判断すべきものでしょう。

もっとも、イタリアでは、2009年のラクイア大地震に関して、当時起きていた群発地震は大地震につながらないと発表した(その数日後に本震が発生)国家委員会の科学者たちが告訴され、一審では殺人罪で有罪となっています。(二審では無罪)

専門家たちが安全を保証したため、住民たちは家の中に留まることになり、本震に襲われたときの被害(309人が死亡)が拡大したとの告発でしたが、一審の裁判官は科学者らに対し、起訴よりも2年長い禁固刑を命じる判決を下したため、科学界では、イタリアの裁判所が科学そのものを裁判にかけたとする批判が高まりました。

そうしたことを考えれば、今回の新型コロナに関する刑事告発も、あながち現実味がない訳でもありません。

そのイタリアでも封鎖は解除されつつありますが、告発云々はともかく、欧州の中でもとりわけ深刻なダメージを受けていることは間違いありません。

そして、そのことは、EUとしてイタリア経済の救済にどのように対応するのかという厄介な問題を惹起するでしょう。

そのあたりの話は長くなるので、また別機会に。

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インド  感染拡大が続く中での段階解除を進めざるを得ない実情

2020-06-11 23:06:40 | 南アジア(インド)

(手洗い方法を実演するアシャ(公認ヘルスワーカー)のデヴァラティさん【6月6日 NATIONAL GEOGRAPHIC】)

【感染拡大が続く中での都市封鎖を段階解除】
新型コロナ感染拡大の中心は南米・アフリカに移り、沈静化しつつある欧州や日本では制限の緩和が進んでいます。

13億人の人口を抱えるインドでも都市封鎖の段階的な解除が始まっていますが、インドの場合は感染拡大はいまだピークアウトしていません。これ以上の規制は経済的に耐えられないというのが実態でしょう。

****インド、都市封鎖を段階解除 まず飲食店など再開 ****
インド政府は8日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため実施している都市封鎖の段階的な解除を始めた。
第1弾として飲食店やショッピングモールなどを再開し、落ち込んだ個人消費の回復につなげる。

だがインドでは都市封鎖したにもかかわらず感染拡大に歯止めがかかっておらず、解除によって感染ペースがさらに勢いづく恐れもある。

「3カ月ぶりに宅配と持ち帰りの営業を再開できる。給与を2カ月もらえなかったので働けてうれしい」。首都ニューデリーのインド料理店で働くネリン・シン氏(43)は8日、安堵の表情をみせた。これから消毒作業を実施し、店内でも食事できる体制を整える。デリーは社会的距離を保ちながら、モールやホテルも営業を再開し始めた。

インドは3月25日から始めた都市封鎖の期限をこれまでに4度延長し、6月末までとしていた。しかしインド準備銀行(中央銀行)のダス総裁が「内需の6割を占める個人消費が大きく吹き飛んだ」と語るなど景気低迷が深刻で、期限を待たずに一部解除せざるを得なくなった。

解除は3段階で進め、第1弾では飲食店などのほかホテルや宗教施設、その後に学校や飛行機の国際線の再開を検討する。

世界保健機関(WHO)によるとインドの感染者は7日時点で24万6628人。足元の新規感染者は1日あたり1万人弱のペースで増えている。封鎖を2カ月以上続けているにもかかわらず、感染ペースが鈍化する兆しがみえない。感染者が最も多い商都ムンバイは8日、飲食店やモールの再開を見送った。【6月8日 日経】
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【「新型コロナとの共存」を目指さざるを得ないインドの実情】
感染拡大が未だ続く中での制限緩和については、一言で言えば、インドの実態に対応した「新型コロナとの共存」を目指す現実的判断と言えます。

****新型コロナとの共存を模索するインド 見えてきた「ニューノーマル」****
(中略)
インドでは都市部の人口密度が高く、人と人の距離感も近い。衛生についても問題は多い。だから厳しい封鎖を実施したとしても新型コロナを完全に封じ込めるのは難しかった。

ただ3月の時点では新型コロナに関する情報が圧倒的に不足していた。このウイルスが引き起こす症状の重さや致死率など不明な点があまりにも多かったのだ。最大で3億人程度が感染し、1000万人近くの患者が重体に陥るといった専門家の予測もあった。

脆弱な医療体制で新型コロナに立ち向かうためには、経済活動を犠牲にしてもとにかくまずは封鎖を実施して感染拡大のペースを落とし、態勢を整える必要がある。そこで政府は早い段階から封鎖に踏み込んだと見ている。
 
累計の感染者数だけを見れば増加の一途をたどっているものの、人口比で見るとインドの感染者数や死者数は欧米を大きく下回っている。統計サイト「ワールドメーター」の集計によれば、100万人当たりの感染者数、死者数は日本と大差はない。

厳しい封鎖がその背景にあるとすれば、インドは感染をある程度は抑え込むことができているとも言える。その間にも新型コロナについての知見は増え、病床の確保も進んだ。
 
現状を見る限り、少なくともインドで新型コロナは共存できない相手ではなさそうだということも分かってきた。足元の死者数は約7000人だ。

少ない数ではないし、今後も増加する恐れも十分にある。それでも他の病気や事故に比べて突出しているわけではない。

例えばこの国では交通事故により年間15万人もの人々が亡くなっている。また狂犬病による死者数は同2万人を超え、10万人以上がデング熱に罹患する。年によっては20万人近くに上ることもある。ちなみに新型コロナと同様に、デング熱にも特効薬はない。
 
一方で、封鎖措置による経済への打撃は大きく、深刻な落ち込みを見せている。インドは日雇い労働者が多い。経済活動がストップしたため、彼らの仕事は容易に奪われてしまった。

モディ首相は企業経営者やオーナーに対し従業員を解雇しないように求めたが、彼らとてない袖は振れない。封鎖下で雇用主が長期にわたり従業員に給与を支払い続けることは困難だった。

都市部では大企業からスタートアップに至るまで、解雇の嵐が吹き荒れ始めている。封鎖後1カ月で失業率は27%を超え、日本の人口とほぼ同じ約1億2000万人が職を失ったとされている。都市部から遠い農村では通常の3分の1、時には10分の1の価格で作物を買いたたかれるという事例が出ている。
 
政府はGDP(国内総生産)の10%に当たる20兆ルピー(約29兆円)という巨額の支援を打ち出したものの、それでも貧困層を十分に支えることができているとは言い難い。

政府の予算は潤沢とは言えず、無理をすれば財政赤字がさらに拡大し、通貨の下落にも歯止めがかからなくなる。封鎖による経済停滞で企業の資金繰りは悪化し、税収は増えず、直接投資も滞ってしまう。

こうした負の連鎖を考えるならば、全土を丸ごと厳しい封鎖下に置くような措置はもう取れない。新型コロナとの共生を試みる方が現実的と言える。(後略)【6月9日 繁田 奈歩氏 日経ビジネス】
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上記のような認識について、個人的に共感できる点は“今後も増加する恐れも十分にある。それでも他の病気や事故に比べて突出しているわけではない。”という点です。

いつも言うように、世の中、特にインドのような社会にあっては、生命にかかわるような病気・事故は多々存在し、新型コロナだけに大騒ぎするのはバランスを欠いた対応でしょう。

また、絶対的貧困が多く残るインドと、それなりに豊かな社会にある日本では、経済的な耐久力が全くことなります。

“すでに数百万人が仕事や生計の道を失い、企業は閉鎖に追い込まれている。また、飢えへの恐怖から、日雇いの出稼ぎ労働者が多数、都市部を逃げ出した。一夜にして公共交通機関が停止したため、その大半は徒歩で移動した。
人類の悲劇と呼ばれる状況の中、出稼ぎ労働者の多くは極度の疲労や飢えで死亡した。”【6月11日 BBC】

“けがした父乗せ、自転車で1200キロ インド・15歳少女、8日かけ故郷に”【5月27日 毎日】ということが話題にもなりましたが、美談というより、厳しいインドの実態を示すエピソードでしょう。

このまま規制を続ければ、新型コロナ予防対策のために多くの餓死者が出る、あるいはそういう危機感から大きな社会混乱が起きて、とても規制どころではなくなる・・・というのが、インド社会の現状でしょう。

一方、上記【日経ビジネス】に示された認識には注意を要する点も。

“人口比で見るとインドの感染者数や死者数は欧米を大きく下回っている”とありますが、インドの場合はこれから増加することが予想されます。また、“病床の確保も進んだ”というのも楽観的に過ぎるでしょう。

****インド・ムンバイの感染者、5万1000人に 中国・武漢を上回る****
インドの金融の中心地ムンバイで10日、新型コロナウイルスの感染が確認された人が5万1000人に達し、感染の発生源となった中国・湖北省武漢市を上回った。

インドでは感染者が急増しており、米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、これまでに確認された感染者の数は27万6583人となっている(日本時間11日午後2時時点)。

このうち約9万人は、ムンバイが州都の西部マハーラーシュトラ州で確認されている。
首都デリーでも感染者が急増している。当局は7月末までに同市でさらに50万人以上が感染すると予測しているという。(中略)

数週間もの間、インドでは比較的COVID-19(新型ウイルスの感染症)患者の数が少なく、専門家たちを困惑させた。人口が密集し、公立病院の資金が不足しているにも関わらず、多数の感染者や死者は出なかった。

感染者の少なさは、ウイルス検査の実施率が低いことが要因と言える。しかし、死者の少なさは説明がつかなかった。感染が確認されていないインド人の多くは入院が必要なほど重症化しないのではないかとの期待があった。これが、政府にロックダウン緩和を促すことにもなった。

しかし最近の感染者数の増加は、インドでは単純に感染のピークが遅かったことを示していると専門家たちは指摘する。

一方で専門家たちにとって気がかりなのは、各州がロックダウン期間中に医療施設の強化を進めたにもかかわらず、複数の主要都市の病院がひっ迫しつつあることだ。COVID-19のような症状が現れている人たちが追い返されていると訴える声が複数上がっている。【6月11日 BBC】
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****インドのデリーで新型コロナ患者急増の恐れ、病床足りず****
インド・デリー政府のマニッシュ・シソディア副首相は9日、7月末までに域内の新型コロナウイルス感染者数が50万人を超える見通しで、病院の収容能力が足りないと表明した。

デリーでは入院できない新型コロナ感染者が猛スピードで増えている。病院に受け入れてもらえず、入り口前で大切な人が亡くなったとの話も耳にする。(中略)

感染のホットスポットの一つであるデリーの感染者数は約2万9000人。副首相は記者団に対し、7月末までに55万人に上ると話した。その時点で8万床の病床が必要となるが、現在の病床能力は9000床にすぎない。「感染者数が伸び続ければデリーにとって大きな問題だ」と話した。もう一つのホットスポットはムンバイだ。

医療機関はすでに正常に機能していない状態だ。デリーの大学生、Aniket Goyalさんの祖父は先週、6つの公営病院から受け入れを拒否された。政府の新型コロナアプリでは空きがあると表示されていたという。

民間施設に出向いたところ、治療費が高過ぎて断念した。裁判所の仲介を求め、家族で嘆願書を提出。裁判所が翌週に審理の場を設けることとしたが、それまでに祖父は亡くなった。(中略)

Manish Tewari議員は「デリーの医療システムは崩壊している」と述べた。【6月10日 ロイター】
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少ないとされてきた死者数もこれから増える、医療崩壊の危機もある・・・・それでも経済的に耐えられない以上「新型コロナとの共存」の線で進むしか選択肢はないといったところです。

【「新型コロナとの共存」のもとでの「ニューノーマル」】
「新型コロナとの共存」のもとでの「ニューノーマル」とはどういうものになるのか?

****インドのニューノーマルとは****
新型コロナの感染拡大と封鎖措置は、インド社会が抱える様々な課題を顕在化させた。

例えば広大な面積と複雑な社会構成を抱えるインドでは、政府が意図する封鎖措置を国の隅々まで浸透させるのが容易ではなかった。(中略)

教育水準に差があるため規律を守れなかったり、理解できなかったりする人がいる一方、都市部の中間層や富裕層の間では、掃除や洗濯といった仕事で移民労働者への依存度合いの高さが改めて浮き彫りになった。
 
新型コロナは課題を露わにすると同時に、社会や経済に変化も促している。その一部は今後も定着し、いわゆる「ニューノーマル」として受け入れられていくだろう。
 
ではインドのニューノーマルとは何なのか。全容はまだ見えづらいが、これを理解する手がかりはある。

新型コロナを背景とする国際的なヒトとモノの移動制限はインドでサプライチェーン問題を引き起こした。政府は今後、より積極的に外資製造業を自国に呼び寄せて産業集積を図るだろう。

もともとインドは「メーク・イン・インディア」というスローガンを掲げ、自国の製造業を強化する方針を示していた。その取り組みは加速しそうだ。 
 
インドの人たちの間では価値観に変化が起きている。ひどい渋滞にはまって過ごす時間の無駄が意識され、健康に対する関心が高まった。

在宅勤務が一般的になり、若者やビジネスパーソンにとどまらず多くの人が、仕事と生活の両面でオンラインやデジタルの利便性に気づき始めた。これを背景にデジタル化も一層速いペースで進むとみられる。
 
新型コロナの感染拡大を契機に、4000万人以上いるといわれる国内の移民労働者のうち、750万人以上もの人々が帰郷したようだ。さらに、その多くは新型コロナが収束しても、もう都市には戻りたくないと感じている。

これが影響し、大都市に近い工業団地や都市部では労働者不足や労働コストの上昇に直面し、機械化や自動化を促進することが避けられなくなるだろう。

同時に、大都市に集中してきた経済圏の在り方も変わる可能性がある。中規模都市、小規模都市、そして農村エリアまで巻き込んだ新しいインフラ開発モデルが生まれるかもしれない。(後略)【6月9日 繁田 奈歩氏 日経ビジネス】
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“新型コロナの感染拡大と封鎖措置は、インド社会が抱える様々な課題を顕在化させた。”・・・・インド社会に限った話ではありませんが、特に“BRICs”(今では“死語”の感もありますが)と一時呼ばれて将来が期待されていた新興国では、その底の浅さ・社会矛盾が露呈した感もあります。

【最前線で働く女性の地域ヘルスワーカー 不十分な報酬・装備】
そうしたインドが直面する危機的状況の最前線で働いているのが女性の地域ヘルスワーカーたちですが、経済的報酬も十分ではなく、防護具等の支給もほとんどないのが実情です。

****コロナと闘う女性ヘルスワーカー、350万人が劣悪な状況、インド****
新型コロナウイルスの警戒地域に指定されたインド、ニューデリーの衛星都市ノイダで、地域衛生員のビジャヤラクシュミ・シャルマさんは、アパートを一軒一軒回り、住人の健康状態を調査している。
 
シャルマさんが働く「アンガンワディ・センター」は、貧困女性と子どもの栄養不良問題に取り組むために、1975年にインド政府が立ち上げた施設。現在は全国に130万カ所以上ある。

ところが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し始めてからは、地域における保健所の役割を担うことになった。同センターで働く270万人は、通常の仕事に加えて、食料の配給や調理された食事の配達、感染者の特定、ウイルスに関する知識の周知に奔走している。
 
その他にも、約100万人の「アシャ(Accredited Social Health Activists=ASHA、ヒンディー語で「希望」の意味)」と呼ばれる公認ヘルスワーカーがいて、出稼ぎから戻ってきた労働者の追跡、接触者追跡、感染疑い例の報告などの責任を負っている。症状がある人に付き添って、近くの病院へ行くこともある。
 
総勢350万人以上のこうした女性の地域ヘルスワーカーたちは、わずかな読み書きしかできず、ろくに報酬も受け取っていない女性たちだ(編注:インド政府は「スキームワーカー」と呼ぶが、労働者としての地位はない)。

その働きにすっかり依存している政府は、彼女たちを称賛こそすれ、感染を予防する防護具や支援、報酬をほとんど与えていない。

「彼女たちが感染すれば、その責任を誰が取るのでしょうか」。ウッタル・プラデーシュ州の女性アンガンワディ職員組合長ギリシュ・パンデイ氏は、そう訴える。「彼女たちにも家族がいるんです。名前や顔のない殉職者ではありません」

防護具なしでの活動
インドでは、人口14億人の3分の2以上が公的医療を利用している。だが、病院の病床数は人口1万人当たり8.5床、医師は8人しかいない。比較として、日本では1万人当たりの病床数はおよそ130床、韓国では120床だ。

そのため、インドでは多くの地域住民、特に弱者である女性や子どもたちが頼りにできるのは、シャルマさんのような身近で活動する衛生員だけということになってしまっている。
 
アンガンワディの働き手は、子どもや妊婦、授乳中の母親に補助栄養物を支給し、子どもの栄養について母親を指導し、未就学児に教育を施す。一方、アシャは、自宅出産よりも病院での出産を勧め、避妊に関する知識を教え、予防接種を受けさせ、応急処置を施し、抗マラリア薬や抗結核薬を与える。
 
インドの医療が危機に直面するなかで、重要な役割を果たす彼女たちは、本来ボランティアやパートタイムの身分であるため、定期的な賃金を受け取っていない。

ところが、需要が急増して、ほとんどの女性はフルタイムの労働者と同じように働かざるを得なくなっている。平均して、住人1000人につきアシャは1人しかいない。
 
アンガンワディの働き手への謝礼は約5000ルピー(約7200円)だが、これはインドの平均月給の半分にも満たない。

アシャの報酬は歩合制だ。予防接種1件につき約1ドル、子どもの死亡を報告すると50セント、出産のため女性に付き添って病院へ行くと4ドル、6〜7カ月間にわたり抗結核薬を出すと13ドル、そして新型コロナウイルスの対応に当たると13ドルが支払われる。

「政府は、こうした女性たちに多くの重要な医療サービスの提供を期待していながら、正当な報酬を支払っていません。また、今回のような命に関わる病気の最前線で働く人々に、適切な防護具を支給するのは人として当然のことです」と、「進歩的な医師と科学者のフォーラム」会長で医師、活動家でもあるハルジット・シン・バッティ氏は訴える。(後略)【6月6日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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“「バラの花びらも拍手もいりません。私たちに必要なのは、防護具と人道的な勤務時間です」と、医療専門家同盟のラジェシュ・バーティ氏は言う。”【同上】

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