孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロヒンギャ  上陸を拒否され海を漂う難民船では多数の死者も キャンプでは移送を恐れ感染者が逃亡

2020-06-10 23:14:39 | 難民・移民

(マレーシアの水域に到達したロヒンギャ難民の船(2018年、ランカウイ島沖。今回の船とは別)【6月10日 BBC】)

【新型コロナで海に漂う難民船】
人間は誰しも自分の身の安全が第一ですから、危機的な状況になれば自分第一、自国第一の傾向を強めます。

一定にやむを得ないところではありますが、それによって弾き出された人々が非常に厳しい状況に追い込まれるということに思いを致す必要もあるでしょう。どこでバランスをとるかという問題にもなります。

新型コロナ対策に世界中がやっきになるなかで、最も弱い立場にある移民・難民は、場合によっては死の危機も。

****コロナの陰で死ぬ移民の増加を懸念、地中海の救助活動停止****
欧州諸国は移民の流入増加を受けて港を閉鎖し、人道支援船も救助活動を停止している。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が連日大きく報道される一方で、人権活動家らは地中海が見過ごされた「悲劇」の現場になっているのではないかと懸念している。
 
ここ数週間で欧州に上陸した移民はごくわずかだ。国際機関とNGOは、先週の時点ですべての救助活動が停止されたため、厳しい状況にあると述べている。
 
国連難民高等弁務官事務所のバンサン・コシェテル特使は、1月以降、179人が地中海地域で亡くなっているとみている。
 
コシェテル氏は、状況は悪化していると指摘。リビア沿岸部から出発した移民は前年同期比で4倍近くに増え、1月から4月末までに移民が欧州諸国への入国を試みた回数は6629回に上る。同氏によると、チュニジアからの移民の出発も2倍以上になっているという。

「リビアにいる移民の75%がロックダウン(都市封鎖)のあおりで職を失っており、絶望的な事態になる恐れがある」とコシェテル氏は語った。
 
国際移住機関は、「現在の状況では、国際社会の目が届かない所で人知れず難破船が発生している恐れが高まっている」と警鐘を鳴らしている。 【5月16日 AFP】AFPBB News
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移民・難民に関する新型コロナの影響としては、上記のような「救助活動の停止」の他、入国管理をする側は人道的配慮との兼ね合いが問題となりますが、「新型コロナ流入阻止」という大義名分も得ることになり、今まで以上に厳しい対応に出ることも。

****ロヒンギャ難民270人、新型ウイルスで2か月漂流 マレーシアが拘束****
マレーシアは9日、ランカウイ島沖を漂流していたイスラム系少数民族ロヒンギャの難民約270人を拘束した。ロヒンギャが乗った船は、新型コロナウイルス対策のロックダウンの影響で2カ月近く沖合にとどまっていた。

拘束されたロヒンギャ難民は今年4月初旬にバングラデシュ南部を脱出した。

マレーシア湾岸警備隊が8日、ロヒンギャが乗った破損したトロール船を拿捕(だほ)すると、数十人のロヒンギャが海に飛び込んで岸まで泳ごうとした。

近年、多数のロヒンギャが、迫害を受けるミャンマーから逃れている。
その多くは隣国バングラデシュへ向かい、コックスバザールに難民キャンプを設置している。この難民キャンプでは約100万人のロヒンギャが暮らしている。 

中には近隣のイスラム教国マレーシアを目指す者もいる。マレーシアは安全な避難先とみなされるようになっている。

過去には密入国業者が数万人のロヒンギャを不法にマレーシアへ入国させていた。しかし現在では、マレーシアはCOVID-19(新型ウイルスの感染症)の世界的流行を理由に、ロヒンギャ難民のボートの着岸を拒否している。

船内から遺体も
マレーシア沿岸警備隊は、リゾート地ランカウイ島の沖合いで発見した難民ボートを国際水域まで追い出そうとしたと、AFP通信が報じた。

しかし沿岸警備隊が近づくと、53人が海へ飛び込んだという。
海上パトロールを監督するタスクフォースの声明によると、船内でロヒンギャ216人と女性1人の遺体を発見したという。

難民には食べ物と飲み物が与えられ、船はランカウイ島へと運ばれた。島では269人全員が拘束された。

タスクフォースの声明によると、調査の結果、ロヒンギャが乗っていた船(トロール漁船と報じられている)が「故意に」破壊されていたことが判明した。船が破損していたため、「国際水域まで追い出すのをやめる」ことになったという。

この船に乗っていたロヒンギャと断続的に接触していた人権活動家たちは、バングラデシュ南部を出発した当初は約500人が乗っていたと考えている。その約半数以上が拘束されたことになる。残りは沿岸警備隊の目をかいくぐり、すでに岸に到達した可能性もある。

今年に入って22隻を追い払う
今年、何隻の船がロヒンギャを乗せてマレーシアへ渡ろうとしたのかは明らかではない。しかし当局によると、22隻を追い払ったという。多くの場合、船は小型で狭く、数百人が安全ではない状況下でぎゅうぎゅう詰めになっているという。

今年初めに同様の脱出を試みたあるロヒンギャ女性は、BBCに対し、自分が乗っていた船には水や衛生設備などの基本的な設備が不足していたと述べた。食べ物や飲み物も不足していたという。

また、乗組員は乗船者が死んだことを知られないように、死体を海に捨てる際にはエンジンを両方回し、水しぶきの音をかき消していたと述べた。

今年初め、数百人がぎゅうぎゅう詰めになった船で、少なくとも28人のロヒンギャ難民が死亡した。この船はマレーシアに到達できず、数週間にわたって海上を漂流していた。(後略)【6月10日 BBC】
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拘束された難民は送還されると発表されています。【6月9日 TRTより】

日本もクルーズ船で経験したように、対応は難しいものがあります。
ただ、海に押し戻し、あとは知らない・・・というのも・・・。(一定の環境が確保されたクルーズ船と航行すら危ぶまれる難民船では事情も異なります)

甘い対応をしたら難民が押し寄せ収拾がつかなくなる・・・というのは分かりますが、だったら難民発生源のミャンマー政府にASEANとしてもっと毅然たる対応で事態の改善を迫るべきでしょう。

マレーシアは4月17日にも、海上ルートで同国に入国しようとしたロヒンギャ族の避難民200人について、新型コロナウイルスの危険により上陸を拒否したと発表していますが、バングラデシュ当局が保護した際には“少なくとも32人が死亡していた”とも。

****新型コロナ ロヒンギャ32人、上陸断られ死亡 マレーシア・タイで****
ロイター通信は17日までに、バングラデシュ当局が15日、同国沖合で約2カ月間漂流していた船を救助したと報じた。

船にはイスラム教徒少数民族ロヒンギャが約400人乗っており、マレーシアとタイで難民と認められず上陸を拒否され、保護されるまでに少なくとも32人が死亡していた。新型コロナウイルス予防を理由に上陸を拒まれた可能性があるとみられる。 
 
一方マレーシア軍は17日、約200人のロヒンギャが乗った船を16日に同国北部ランカウイ沖合で発見したが、新型コロナの感染拡大を防ぐため入国を拒否し追い返したと発表した。船の行方は明らかにしていない。マレーシア政府は感染拡大を受け、先月18日から外国人の入国を原則禁止している。
 
マレーシア軍は声明で「不法移民の新たなクラスター(感染者集団)の発生を防ぐためだ」と説明。フェイスブックに公開した船の写真には、子どもを含む多数の人々が窮屈そうに乗り合わせている姿が写っている。【4月18日 毎日】 
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【劣悪な居住・労働環境がクラスターを発生させる外国人労働者 水面下に潜ってしまう不法移民感染者】
船内は三密の極限状態にありますが、上陸しても、その居住・労働環境が劣悪なのは変わりません。

シンガポールで、そうした劣悪な環境にある外国人労働者から新型コロナのクラスターが発生し、第2波に襲われていることは以前取り上げたことがありますが、マレーシアも同様の状況です。

自国民が就きたがらない厳しい環境の労働は、合法・違法の外国人労働者が担う形で社会・経済が回っているとも言えます。

****外国人の感染防止徹底、不法就労は強制送還****
マレーシア政府は、入国管理局の収容施設や建設現場での、外国人の新型コロナウイルス感染拡大防止に注力する。不法就労者は強制送還する。

同国内で新型コロナの新規感染者数は今月4日以降は1日当たり2桁で推移していたが、入国管理局の入国者収容所で集団感染が確認され、25日以降は3桁が2日続いたためだ。27日付地元各紙が伝えた。

イスマイル・サブリ・ヤアコブ上級相(治安担当)は26日、不法就労者については収容所に入れる前に新型コロナの検査を実施し、陽性の場合は病院で治療を施し、陰性の場合は強制送還することを閣僚会議で決定したと明らかにした。強制送還に向け、外務省が各国の大使館に協力を求めていく。

保健省によると、首都圏にあるブキジャリル、スメニ、セパンの3カ所の入国者収容所では、26日までにマレーシア人職員1人を含む383人の陽性が確認された。国籍別ではバングラデシュ、インド、インドネシア、ミャンマー、パキスタン、中国などが多い。

(中略)クアラルンプールとスランゴール州のレッドゾーン(新型コロナ感染者が多い地域)にある建設現場再開に外国人労働者の検査を義務付けたことで、これまでに2万7,383人を検査し、感染者を確認できたと説明。

ただ、建設作業員の寮では1~2メートルの社会的距離を確保できていない所が多いとし、雇用主に感染防止策の徹底を呼び掛けた。

ファディラ・ユソフ公共事業相は、条件付き活動制限令下で操業するための標準作業手順書(SOP)を建設作業員の寮と建設現場で順守しない建設会社には事業再開を認めないとあらためて強調した。【5月28日 NNA ASIA】
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検査態勢や労働環境の整備のほか、基本的には居住環境の改善が必要でしょう。

****シンガポール、6万人の出稼ぎ労働者向け住宅を年末までに建設****
シンガポール政府は、国内の約6万人の出稼ぎ労働者のために新たな住居施設を年末までに建設する計画。出稼ぎ労働者が密集して生活する寮で新型コロナウイルスの集団感染が発生したことに対応する。

人口約570万人のシンガポールでは、新型コロナの感染者が3万5000人を超えており、アジア地域で特に感染者が多い。主に東南アジアから来ている30万人以上の出稼ぎ労働者が共同生活を送る寮でウイルス感染が急速に広がったことが背景にある。

政府は仮設住宅の建設を急ぐほか、使われていない学校や工場なども住居施設にする計画という。

今後は1部屋当たりのベッド数や洗面所などを共有する人の数を減らすなどして、出稼ぎ労働者の居住環境の改善も図る。

長期的には、複数の寮を建設して最大10万人を収容する計画。全ての寮を建設するのは数年先になる見通しだが、今後1─2年で約11の寮の建設を目指す。【6月2日 ロイター】
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ロヒンギャ難民船の記事で“残りは沿岸警備隊の目をかいくぐり、すでに岸に到達した可能性もある。”とありますが、こうした違法入国者になると問題は更に難しくなります。

違法入国者はたとえ感染しても、病院などで治療をうけようとすると拘束・送還されることにもなるので、感染を隠し、更なる感染拡大を招くことにもなります。

【バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプ 難民の強制移送への不安が防疫対策の障害に】
100万人ものロヒンギャ難民が三密状態・劣悪な衛生環境で暮らすバングラデシュの難民キャンプでも新型コロナの感染者・死者が発生しており、その感染拡大が懸念されています。

****ロヒンギャ難民、感染確認 バングラのキャンプ、拡大懸念 新型コロナ****
ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャが暮らす隣国バングラデシュの難民キャンプで14日、新型コロナウイルスの初の感染者が確認された。

100万人以上が密集して暮らしており、感染の拡大が懸念されている。一方で、新天地を目指した船が着岸を拒否されて漂流するなど、ロヒンギャをめぐる状況は厳しさを増している。
 
バングラデシュ南東部のコックスバザールにあるキャンプでは、ミャンマーでの迫害から逃れてきたロヒンギャが、竹や防水シートで作った簡素な家で暮らす。政府によると、感染が確認された難民は隔離し、接触歴や周囲の感染の有無を調べているという。
 
国内での感染拡大に伴って政府は4月上旬、コックスバザールを封鎖し、食料配布や保健衛生以外の活動を禁止。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)もキャンプでせっけんを配るなどしてきたが、感染は防げなかった。衛生状態が悪く、爆発的な感染拡大の恐れも指摘される。

現地のUNHCR渉外担当の細井麻衣さんは「感染が拡大しないよう、支援を強化しなければならない。ただ、職員がキャンプ内に入って十分に活動できないのが壁になっている」と語る。
 
新型コロナの影響はこれだけではない。マレーシア軍は4月16日、約200人のロヒンギャが乗った船の領海侵入を阻止したと発表した。「彼らの住む環境から考えて、コロナのクラスターを発生させる可能性がある」との理由からだ。
 
さらにマレーシア政府は4月末、「難民を受け入れる法律はない」との声明を出した。多くのロヒンギャがイスラム教国のマレーシアを密航船などで目指してきたが、こうしたルートが閉ざされる可能性がある。
 
人権団体によると、マレーシアなどで着岸を拒否された難民船の漂流が相次いでおり、救助されるまでに多くの死者が出ている。

ベンガル湾を数週間にわたって漂流していた船からバングラデシュ海軍に救助された約280人のロヒンギャは今月8日、ほとんど人が住んでいない島に移送された。政府関係者は「難民キャンプはすでに飽和状態で、これ以上は受け入れられない。コロナ感染を拡大させるリスクもある」と話す。
 
政府はこの島へのロヒンギャの移送を数年前から計画してきたが、サイクロンや豪雨に見舞われることが多く、「人が住める環境ではない」との批判が上がっていた。【5月16日 朝日】
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上記記事にある“ほとんど人が住んでいない島への移送”は、他のキャンプ内難民に不安を与え、「感染が明らかになったら移送される」という不安から感染者が隔離から逃げ出すという事態にもなっています。

****ロヒンギャ難民のコロナ感染者が隔離逃れ 島への移送恐れて バングラ****
バングラデシュで暮らすイスラム系少数民族ロヒンギャの難民のうち、新型コロナウイルスに感染した人々が、ベンガル湾に浮かぶ島へ移送されることを恐れ、隔離から逃れていることが分かった。ロヒンギャの指導者たちが4日、明らかにした。
 
この指導者たちによると、ロヒンギャ難民から初めて新型コロナウイルス感染症の死者が報告された2日以降、新型ウイルスに感染した難民少なくとも2人が検査で陽性反応を示した後に行方不明になっているという。
 
バングラデシュの国境地帯にある複数キャンプで暮らすロヒンギャ難民約100万人は、そのほとんどが2017年のミャンマー軍による弾圧から逃れてきた。そして新型コロナウイルスが、彼らに新たな窮状をもたらしている。
 
これまでに確認された感染者数はわずか29人だが、約1万6000人がキャンプ内の隔離エリアにいる。
 
キャンプ内の検査実施件数は現時点では不明だが、保健当局幹部によると、検査で陽性反応を示した2人が「隔離病棟から逃れた」という。
 
また、難民たちは感染者がベンガル湾に浮かぶブハシャンチャール島へ移送されると信じていることから、過去2日間でわずか20人しか検査を受けることに合意しなかったという。
 
これについて指導者のヌルル・イスラム氏はAFPに対し、「大規模なパニックを生み出している」と話した。
 
バングラデシュ当局はブハシャンチャール島に10万人を収容できるキャンプを設置することを長らく望んでおり、これまでにロヒンギャ難民306人を移送している。
 
匿名で取材に応じた保健当局者は、「ロヒンギャたちはすくんでいる」「われわれは彼らに対してどこにも移送されないと伝えている」と話した。
 
複数のロヒンギャ人指導者たちはまた、ブハシャンチャール島に難民306人が移送されたことが、感染者は誰でも合流させるために移送されるとのうわさを招いたと指摘。
 
指導者の一人であるアブ・ザマン氏は、ウイルス検査を受けることを人々は恐れていると語った。 【6月7日 AFP】
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中国  李首相の「月収千元の人が6億人」発言、屋台評価 背後に習主席との政治的対立か?

2020-06-09 23:07:35 | 中国

(総菜を売る屋台に足を運び、「屋台経済、小規模店舗経済は重要な雇用の源であり、中国の生命力だ。我々は皆さんを支持する。」と語る李首相【6月2日 人民網日本語版】)

【外需・内需ともに振るわず】
中国は世界に先駆けて新型コロナを封じ込めましたが、強硬な都市封鎖で大きなダメージを被った経済は、一気にV字回復・・・とはいかない様相です。

輸出先の世界経済が未だ回復していないことや、感染自体もいつ再燃するかわからないという不安定な状況下で「爆買い」に象徴されたような旺盛な消費行動にも変化も見られることなどが背景にあります。


****中国経済回復、険しい道 各国で空港封鎖、滞る輸出 全人代あす開幕****
新型コロナウイルスの「震源地」中国は、政治や経済活動の正常化を急ぐ。22日には2カ月半遅れで全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開幕するが、発展を支えてきた外需と内需の両輪が打撃を受けており、局面の厳しさはリーマン・ショック後を大きくしのぎそうだ。
 
■「メイド・イン・チャイナ」山積みの箱
輸出向けの衣類や雑貨などの工場が集まる中国沿海部・浙江省義烏市。市内にある世界最大級の卸市場はいま、閑散としている。
 
「注文のキャンセルばかりで新規商談はゼロ。先が見えず不安でいっぱいだ」
クリスマス用品業者が軒を並べる一角で、男性店長(45)はスマートフォンをいじりながらそう話した。
 
世界で使われるクリスマス用品の6割を義烏産が占めるとも言われる。例年ならこの時期、欧米からの注文が本格化し工場はフル稼働するが、今年は新型コロナで2月中旬まで工場も市場も閉鎖された。

国内の感染状況が落ち着き始めた3月、従業員も職場に戻ったが、今度は世界各地で感染が深刻化。バイヤーの往来も商談もほぼ止まった。
 
2008年のリーマン・ショックで米欧の注文が激減したため、業者は東南アジアや南米などに販路を広げてきた。店長は「リスク分散したつもりだったが、こんな事態は考えもしなかった」と途方に暮れる。
 
中国で始まったコロナ禍は、国際市場の極端な冷え込みという形で再び中国を直撃し、中国の発展を支えてきた「世界の工場」を締め上げる。義烏の今年1~3月の輸出総額は約510億元(約7700億円)と、昨年同期比14・7%減。右肩上がりを続けてきた街は立ちすくんでいる。
 
市内の物流会社の倉庫には、「MADE IN CHINA」と書かれた段ボールが山積みされていた。周囲の工場から集められた輸出用商品だが、各国の空港や港湾が次々と封鎖され出荷できないのだという。
 
市内のパジャマ縫製工場では人件費を抑えるため、60人の従業員の出勤を交代制にした。国内需要を掘り起こしたいが販路開拓は容易ではない。輸出担当の女性(42)は「輸出分の持ち直しが先か倒産が先か。ぎりぎりの状態が続いている」。

 政府は工場の再稼働を急ぎ、3月以降、各地で工場再開が本格化していった。1~2月に大きく落ち込んだ鉱工業生産は4月、前年同月比3・9%増に転じたが、伸びは昨年12月の半分強。マスクなど特需を迎えた商品以外、輸出向けの工場はフル操業にはほど遠いのが実態だ。

■内需も打撃、縮む消費意欲 車販売店「割引しないと客来ない」
中国の自動車メーカー長安汽車が北京市内に構える販売店。19日は平日にもかかわらず6組の客が販売員と商談をしていた。
 
客の目当ては同社が実施する「新型コロナ割引」だ。売れ筋のスポーツ用多目的車(SUV)は約8%引きの13万2千元(約200万円)で売られていた。
 
4月の中国の新車販売は前年同月比4・4%増の207万台。ただ、そのにぎわいはうわべだけのようだ。「割引がなければ客は来ない」と販売員は言う。購買意欲はまだらで、セールス電話をしても「お金がなくなった」と断る客も多いという。
 
北京市の食品企業で働いていた明心さん(26)は長安のSUVを買ってすぐの3月、職を失った。残ったのは17万元のローン。「月3千元の返済はなんともないと思っていたが、収入のない身には痛い」と話す。
 
月4千元の家賃も払えなくなり、実家のある山東省に戻った。「若者の消費は変わると思う」と明さんは言う。最近多くの同年代が解雇された。中国の消費をリードしてきた世代だ。
 
明さんが得た教訓は貯金の大切さだ。「就職できたら給料の2割は貯金する。家賃の安い家に住み、高い店にも行かない」と話す。
 
北京市のイベント会社を解雇された男性(32)も、故郷の吉林省で家を買ったばかりだ。政府は日米欧のような個人向けの補償や支援金を支給していない。男性は「皆に貯金するよう言いたい。想定しないことはこの先も起こるのだから」。
 
中国で新型コロナによる失業者は7千万人とも推計される。消費者が節約に走れば、世界を驚かせてきた購買力にも影響がでる。食品とエネルギー価格を除く中国の消費者物価(コアCPI)上昇率は4月、1・1%にとどまった。この5年でほぼ最低水準だ。

■リーマン後遺症、景気対策に限界
国際通貨基金(IMF)の見通しで、中国の20年の成長率は1・2%にとどまる。世界(マイナス3・0%)、米国(同5・9%)、日本(同5・2%)に比べれば高いが、新型コロナは中国の外需と内需の両輪を揺さぶっている。
 
政府は有効な対策を打ち出せていない。12年前の後遺症があるからだ。08年のリーマン・ショック後、中国は4兆元の景気対策を打ち、世界経済の底割れを防いだ。だが、旧来型産業への投資は鉄の過剰生産や不動産バブルなどを招き、国内の債務もふくれあがった。
 
22日に開幕する全人代では新型コロナ特別国債の発行による経済対策が話題になりそうだが、当時の4兆元に匹敵する超巨額の対策はとれず、金融を不安定化させる恐れのある大規模緩和も難しい。コロナを契機に中国が低成長時代に突入すれば、厳しい状況にある世界経済は強力なエンジンを失いかねない。
 
「共産党を支持するのは、今日より明日を豊かにしてくれるからだ」。中国人にはそんな意識が広くある。だが、1~3月の実質成長率はマイナス6・8%に低下。四半期統計開始以来のマイナス成長は、中国人の政治意識に影響を与える可能性もある。【5月21日 朝日】
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その全人代では、李克強首相の政府活動報告において「新型コロナと経済・貿易の情勢は不確定性が非常に高い」と指摘、今年の経済成長目標の公表を見送るという異例の扱いとなりました。

【李首相の「中国には月収千元(約1万5千円)の人が6億人いる」発言の真意は?】
新型コロナ後の経済に関する厳しい認識とともに李克強首相の発言で注目されたのは、全人代閉幕後の記者会見における「中国には月収千元(約1万5千円)の人が6億人いる」との発言でした。

****6億人が月収1万5千円、中国 李克強首相の発言が波紋****
中国の李克強首相が5月下旬の記者会見で「中国には月収千元(約1万5千円)の人が6億人いる」と発言したことが反響を呼んでいる。

新型コロナウイルス感染症で景気が低迷する中、中国のインターネット上では「確かに給料が低すぎる」などと共感する声が拡大。国家統計局が火消しを図る事態に発展した。
 
李氏は5月28日、全国人民代表大会(全人代=国会)の閉幕後の会見で「中国の平均年収は3万元だが、月収千元の人も6億人おり、中規模の都市で家を借りることすらできない」と指摘。「新型コロナで影響を受けた人々の生活保障が重要課題だ」と強調した。【6月6日 共同】
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米華字メディアはこの李克強首相発言について「ネットでちょっとでも調べれば誰もが理解できるような事実にすぎない」としたうえで、以下のようにも解説しています。

****「6億人が月収わずか1000元」中国首相の発言に人々が騒然とした理由****
2020年6月1日、米華字メディア・多維新聞は「中国本土で6億人が月収1000元(約1万5000円)という李克強(リー・カーチアン)首相の話が大きな議論を巻き起こしたのはなぜか」とする記事を掲載した。 

記事は、5月28日の全国人民代表大会(全人代)閉幕後に人民日報の記者から質問を受けた李首相が「毎月の収入が1000元の人は6億人いる」と語ったことを紹介。今年が脱貧困の鍵となる年、全面的な「小康社会」の目標達成の年と位置付けられてきたこともあり、「6億人が月収1000元」という発言が国内外から注目を集め、中国のSNS上でもホットワードになったと伝えた。 

その上で、実際のところ中国は自らを「世界最大の発展途上国」を位置付け続けることで、「発展途上地域」としての経済、貿易上の優遇を得続けようとしていると同時に、1人当たりのGDPでは確かに依然として世界の中間レベルに甘んじていると指摘。

「このことから、李首相の話は驚天動地の大暴露ではなく、ネットでちょっとでも調べれば誰もが理解できるような事実にすぎない」とした。

そして、「事実」を述べたに過ぎない李首相の発言がまるで新大陸を発見したかのような反応が世間で見られた背景には、日常的に「中国モデル」「世界第2の経済大国」「世界の工場」といった言葉がニュースとして伝えられる一方で、貧困問題に関するデータの」出が相対的に少ないことがあるとした。 

また、中国収入分配研究所の李実(リー・シー)執行院長が「月収1000元」について、総収入から日常の支出を差し引いた可処分所得であること、「6億人」については高齢者、児童、学生などの被扶養者を含めた人口であることを説明したという。 

さらに、貧困問題に関するデータに日常的に触れている李首相と一般市民の間で「月収1000元」に対する印象がややずれている可能性もあると記事は指摘。

「1000元は都市部においては低収入であるものの、農村の貧困地域では決して低収入ではない」とし、2016年に定められた貧困ラインが「年収約3000元(約4万5000円)、月収約250元(約3800円)」となっていることを紹介した。

また、中国政府がしばしば貧困脱出の模範として挙げている四川省の村でも、1人当たりの年収は6000元(約9万円)前後、すなわち月収500元(約7500円)前後に過ぎないとしている。 

その上で記事は、李首相の発言について「何はともあれ、大風呂敷を広げるよりも事実を語る方がいい」と評価するとともに、「中国本土の『発展中』状態を少しでも理解していれば、『6億人が月収1000元』という表現についてそこまで目くじらを立てることはない」と結んでいる。【6月3日 レコードチャイナ】
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ただ、「事実」を述べたに過ぎないにしても、今年中に「小康(ややゆとりのある)社会」を実現することを掲げている習近平政権にあって、「中規模の都市で家を借りることすらできない」という数字を敢えて李首相が公表するというのは、何か政治的なものを感じるところもあります。

****“中国の貧困”をまさかの暴露、李首相の真意とは?***** 
(中略)一般に、貧困は「絶対的貧困」と「相対的貧困」とに分けられる。世界的には、「絶対的貧困」は1日当たり1.90米ドル(約205円)以下の収入とされる。月収にすると57米ドル(約6150円)、年収は684米ドル(約7万3800円)である。
 
世界的基準から見ると、月収1000元しかない中国の6億人は「絶対的貧困」層には当たらない。
 
では、この月収1000元の6億の人々をどのように位置付けたら良いのだろうか。確かに、「絶対的貧困」とは言えないが、中国国内でも平均年収額の40%しかない。したがって、「相対的貧困」層と言えよう(ちなみに、我が国では、1人世帯の場合、年収約122万円以下が「相対的貧困」に当たる)。
 
問題は、月収1000元の人々が6億人も存在する中国が、(今年中に)「小康(ややゆとりのある)社会」を実現したと言えるだろうか。もちろん“ノー”である。
 
実は、2016年3月、王岐山 中央紀律委員会書記(当時)が、第13次5カ年計画(2016年~2020年)で「小康社会」を実現するという目標を掲げた。けれども、昨2019年から今年にかけ「新型コロナ」の世界的蔓延で、習近平政権は、今年のGDP目標数値さえ打ち出すことができなかった。
 
そのため、王が掲げた今年末までに「小康社会」実現という目標は、“絵に描いた餅”に終わる公算が大きい。

「習近平派」に対する反撃か
さて、この度、李克強首相は、なぜ中国共産党に“不都合な数字”を暴露したのだろうか。
 
元来、経済に関しては、首相の“専権事項”だったはずである。ところが、前述の通り、首相でもない王岐山が、第13次5カ年計画で「小康社会」を実現するとぶち上げた。李首相からすれば、王による“越権行為”である。無論、それを許したのは、習近平主席だろう。
 
同時に、習主席は、かねてより劉鶴副首相を重用してきた。だから、これまで李首相には、ほとんど出番がなかったのである。
 
もしかすると、今回、全人代での記者会見で、李首相は「習近平派」に対する反撃を試みたのかもしれない。習主席の「中国の夢」を打ち砕くためである。
 
当然、李首相には党内で確固たる「反習近平派」の支持があると見るべきだろう。そうでなければ、たとえ首相といえども、やすやすと中国の実態を暴露することはできなかったはずである。

習近平の暴走に眉をひそめる元老たち
「反習派」の代表格は江沢民系「上海閥」に間違いない。習主席と王岐山の「反腐敗運動」で同派は徹底的に叩きのめされた。習主席らに対する同派の深い怨みは、想像に難くない。
 
他方、胡錦濤系「共青団」(李首相の出身母体)は、以前、微妙な立ち位置だった。だが、現時点では「反習派」の一翼を担っているのではないだろうか。(中略)

また、一部の元老たちは、習主席の政治手法―終身制導入や「第2文革」発動等に対し、眉をひそめているだろう。(後略)【6月5日 澁谷 司氏 JBpress】
********************

【背後の路線対立をうかがわせる、手のひら返しの「屋台」評価】
一方、膨大な失業者が存在するなかで、李首相が「中国が生き残る道だ」と持ち上げたのが、なんとこれまで当局による取り締まりの対象にもなっていた「屋台」。

****失業増えた中国、排除対象の「露店」を一転して大絶賛。雇用の救世主と期待も、手のひら返しに怒りの声**** 
中国で「露店」が急速に注目され始めている。新型コロナの影響で、倒産や失業が相次いだのに対し、手軽に始めて収入を得られるためだ。

しかし、これまで取り締まりの対象だった露店を一転して持ち上げる中国政府の姿勢に、現地では戸惑いや怒りの声が上がっている。

■怒号ともに排除に来る
山東省の小さな街に、李克強(り・こくきょう)首相が現れた。地元料理を提供する露店に立ち寄ると「露店経済は働き口の確保に重要だ。中国が生き残る道だ」と語った。
露店商売を中国政府が正式に認め、各地に推奨するパフォーマンスとみられる。

前兆はその前からあった。北京紙・新京報によると、四川省・成都では3月に公道に露店を出すことを許可。およそ2カ月で10万人の雇用につながったという。(中略)

中国の露店は種類も豊富だ。(中略)しかし、露店は街の景観を損なうなどとして取り締まりの対象だった。
筆者がよく使っていた露店も、現地の「城管(都市を管理する組織)」に手荒く追っ払われていた。(中略)城管の手荒いやり方には、反感を持つ人も多かった。

■「何が“露店凄い”だ」
(中略)実際、中国政府が急に“手のひら返し”をした背景には、新型コロナの影響で倒産や失業が相次いだことがあるとみられる。露店は初期費用が比較的安く済み、成都のように雇用が生まれると期待されるからだ。

しかし、波に乗る人がいる一方で、冷たい視線を投げる人もいる。あるネットユーザーは「何が“露店が凄い”だ。一種の後退であり妥協だろう。店舗の賃料がこんなにも高いから露店を開かざるを得ないだけだ。根本的な解決にはならない」と批判している。【6月6日 ハフポスト日本版】
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しかし“だが、北京市共産党委員会機関紙の北京日報は7日、「露天経済は北京に合わない」と批判的に論評し、市内ではすでに取り締まりも始まっている。”【6月9日 朝日】

李首相が現地に足を運んで「中国が生き残る道だ」と持ち上げる「屋台経済」を、当局が再び取り締まる・・・上記情報が事実なら、「毎月の収入が1000元の人は6億人いる」との発言同様、やはり政治的確執があるようにも。

「中国の夢」を華々しく打ち上げる習近平国家主席に対し、厳しい経済状況を直視することを重視し、見てくれは悪い「屋台」だろうが何だろうが、現実に利用できるものは利用しようという李首相・・・そうした路線対立が背景でうごめいているのではないでしょうか。

 

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アメリカ 大統領は国民の変化を読み違えたのか? あるいは、「声なき多数派」が大統領を支持するのか?

2020-06-08 21:22:54 | アメリカ

(抗議デモ隊に対しバットを振り回す白人女性【6月8日 FNNプライムオンライン】)

【「団結させようと試みるそぶりすら見せていない」】
アメリカ・ミネアポリスで黒人男性が白人警官の過剰な対応によって死に至った事件に関しては、激しい抗議デモが続くなか、軍の投入に言及するなど強硬な暴徒鎮圧を主張し「法と秩序」をアピールするトランプ大統領に対し、アメリカ国内のメディア・著名人からも多くの批判があがっていることは報道のとおり。

それらの中から一つだけ挙げるとすれば、当初政権にも加わっていたマティス前国防長官の「トランプ氏は「(米国民を団結させようと試みる)そぶりすら見せていない。それどころか我々を分断しようとしている」との批判でしょう。

****マティス前国防長官、トランプ氏を批判 「成熟した指導力欠如の結果を目撃」****
 米国のマティス前国防長官は4日までに、トランプ大統領について「私の生涯で初めて、米国民を団結させようとしない大統領だ」と述べ、黒人死亡事件をめぐるデモが激しさを増す中でトランプ氏を厳しく批判した。

マティス氏は続けて、トランプ氏は「(米国民を団結させようと試みる)そぶりすら見せていない。それどころか我々を分断しようとしている」と指摘した。

さらに「我々が目の当たりにしているのは、3年に及ぶこうした意図的な試みの結果であり、成熟した指導力の欠如の結果だ。我々はトランプ氏なしでも市民社会に内在する力によって団結できる。この数日の出来事が示すように、簡単なことではないが、他の国民や我々の約束を守るために命を流した過去の世代、そして子どもたちのために、我々にはそうする義務がある」としている。

米国ではマティス氏の発言に先立ち、黒人男性がミネソタ州ミネアポリスで白人警官の暴行により死亡した事件をめぐり、1週間以上にわたり各地で正義を求めるデモが続いていた。

これに対しトランプ氏は今週、自身を「法と秩序の大統領」と呼び、暴動が鎮圧されなければ軍を使って米国の秩序を取り戻すと言明した。

退役海兵隊大将のマティス氏は政権を離れて以来、おおむね沈黙を保ってきた。トランプ氏や軍関連の政策、国防総省などについてコメントを求められることも多かったが、兵士に相反する声を聞かせたくないとして拒否。言いたいことは全て辞表に記したと強調していた。

米軍にはマティス氏を崇拝する兵士が多い。軍の指揮命令系統を忠実に尊重するキャリアを送ってきたマティス氏だが、今回はトランプ氏の指揮なしでも米国は団結できるというメッセージを兵士に送った形だ。【6月4日 CNN】
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民主主義国における多くの指導者は、本音はともかく、人権・自由・国民融和といったものに対し、すくなくともその価値観を尊重する姿勢は見せます。そうした「建前」によって、一定にその言動に対し歯止めがかかります。

“そぶりすら見せていない”という対応は、そうした制止が全くかからないことを意味し、ひたすら自身の再選に都合のいい「分断による支持層固め」に走ることにもなります。

【バイデン氏との差拡大 「大統領は黒人差別に対する国民の意識が劇的に変化していることを読み間違えているようだ」】
全米に広がった抗議デモの矛先は、警察批判にとどまらず、そうした大統領の姿勢にも向けられています。
そうした状況で、大統領選挙に向けた支持率もトランプ大統領にとって厳しいものになりつつあるとの報道も。

****バイデン氏がリード拡大、トランプ氏と支持率11ポイント差-世論調査****
11月の米大統領選に関する最新の世論調査で、民主党候補に事実上確定したバイデン前副大統領が支持率でトランプ大統領に対するリードを一段と広げた。

白人警察官による黒人男性暴行死への抗議活動が一部暴徒化して社会不安が高まる中、米モンマス大学の調査によるとリードは11ポイントとなった。
  
今回の調査結果はバイデン氏の支持率が52%だったのに対し、トランプ氏は41%。5月はそれぞれ50%と41%、4月は48%と44%だった。
  
モンマス大世論調査機関の責任者、パトリック・マリー氏は発表資料で、「今度の大統領選は引き続き、現職であるトランプ大統領への国民投票という意味合いが強い。現在続いている国内の人種問題を巡る社会不安への最初の反応を示す今回の結果は、大半の有権者が大統領の状況への対応はあまり良くないと考えていることを示唆している」と説明した。
  
同調査は5月28日-6月1日に実施。誤差率はプラスマイナス3.6ポイント。【6月4日 Bloomberg】
*********************

****トランプ支持基盤に離反の動き、抗議デモ、逆風の3つの要因****
白人警官による黒人暴行死事件をめぐる抗議デモはトランプ大統領をかつてないほどの窮地に追いやっている。とりわけ固い支持基盤の白人のキリスト教福音派の間での支持率が急落しているのが痛い。

この逆風は3つの出来事が大きな要因になっているが、その背景には「黒人の生命は大切だ」という差別撤廃運動に大多数が賛同するという国民意識の劇的な変化がある。

福音派の重鎮が大統領を“説教”
トランプ氏をホワイトハウスに送り込む原動力となったのは米国内の最大の宗教勢力である白人のキリスト教福音派の支持だ。ところがその支持傾向に大きな変化が表れている。

ニューヨーク・タイムズが4日、「公共宗教調査研究所」(PRRI)の世論調査の結果として伝えるところによると、3月の時点で、白人福音派の約80%が大統領の仕事ぶりを評価していたのに、デモが激化した5月末には、62%にまで急落した。
 
同じ宗教勢力である白人のカトリック教徒の間でもトランプ氏の支持率は3月と比較して27ポイントも下落した。

(中略)再選のためには絶対に必要な岩盤支持層の一部が離れていることは大統領にとっては深刻な事態といえるだろう。
 
この支持離れは黒人暴行死をめぐる抗議デモへの大統領の対応だけではなく、それ以前からの新型コロナウイルス対策の遅れに対する批判も反映されていると見られている。大統領は「4月になって暖かくなれば、ウイルスは消え去ってしまう」などと楽観論を繰り返し、初動対応が遅れ、米国が最多感染国になった責任を厳しく問われている。
 
福音派の一部にそっぽを向かれ始めた大統領のデモへの好戦的な姿勢に対し、同派の重鎮で、「キリスト教連合」創設者のテレビ伝道師パット・ロバートソン師はこのほど、「大統領、そんなことをしてはいけない。われわれは1つの人種であり、互いに相手を愛さなければいけない」と“説教”した。同師とトランプ氏は90年代からの旧知の間柄だ。(中略)

身内の共和党からも造反
大統領は最新の世論調査で、民主党の大統領候補に確定したバイデン前副大統領に7~10ポイントもの大差を付けられて劣勢にあるが、抗議デモの拡大でこの傾向がさらに加速しつつあるように見える。

ニューヨーク・タイムズが報じるところによると、5月26日から同28日の間に実施された無党派層に対する調査では、40%が大統領のデモ対応を支持していた。
 
しかし、大統領が同29日、「略奪が始まれば、発砲が始まる」と軍隊の投入をちらつかせて恫喝、力による鎮圧方針をツイートした後、無党派層の支持率は30%までに急減した。高齢者の支持率も58%から41%に落ちた。
 
トランプ氏は60年代のニクソン元大統領の主張を真似て「法と秩序」を強調しているが、デモの背景にある黒人差別の歴史や暗部については語らず、“ANTIFA”(反ファシズム)による陰謀論と、力による強硬姿勢を前面に出して保守層にアピールしようと躍起になっている。だが、結果はうまくいっていない。この29日のツイートが逆風の第1の要因である。
 
第2の要因は6月1日に起きた。ホワイトハウス周辺のデモ隊に催涙弾を浴びせて排除し、側近らを引き連れて徒歩で数分のセントジョンズ教会に行き、聖書を片手に記念撮影するというパーフォーマンスを演じたことだ。なぜこんな稚拙な演出をしたのか。一説には長女のイバンカ氏の勧めとされる。
 
その動機については、福音派にアピールするのが狙いだったこと、またデモ隊がホワイトハウスに向かって来た際、大統領は一時、地下壕に避難したが、一部から“意気地なし”と批判され、そのことに反発したためではないか、といった憶測を呼んでいる。だが、自らのパーフォーマンスのために平和的なデモを蹴散らしたことに対する国民の怒りと批判は予想以上に強い。
 
第3の要因は軍部だけではなく、国民の間でも人気の高いマティス前国防長官が大統領を痛烈に非難したことだ。

(中略)このマティス氏の声明の反響は大きく、共和党のマカウスキ上院議員(アラスカ州選出)は大統領が分断を煽っているとの見解に同意するとし「われわれはもっと正直であるべきだと思う」と表明した。

共和党内部の反トランプ派として知られるロムニー上院議員もマティス氏を称賛した。激怒したトランプ大統領はマカウスキ議員に、次の選挙では再選を阻止してやるとツイート、敵意をむき出しにした。

国民意識の変化を読み違え?
だが、大統領は黒人差別に対する国民の意識が劇的に変化していることを読み間違えているようだ。モンマス大学の世論調査によると、黒人差別が深刻な問題だと考えている国民は76%にも達している。2015年の調査と比べ、26ポイントも上昇している。
 
今回の抗議デモ参加者の怒りは完全に正当なものだとする人は57%、どちらかと言えば正当化できるとする人が21%。実に78%もの人がデモに好意的だ。他の調査でも、「黒人が警察官に不当に扱われている」とする人が57%いるが、白人の半数が「そう感じている」と回答しているのは注目に値する。
 
同紙は「明らかに国民意識の劇的な変化だ」という専門家の見解を伝えている。別の調査によると、オバマ氏が大統領に就任した2009年、黒人が平等な権利を獲得できるよう必要なことをやるべきだとする白人は36%しかいなかったのに、「黒人の生命は大切だ」運動が浸透した17年には、過半数を超える白人が黒人の権利向上に賛同している。
 
トランプ大統領はこうした国民の意識の変化を読み違えたか、あるいは理解しようとせず、再選のことだけを考えて力によるデモ抑え込みを図ろうとしているのではないか。デモの大半は平和的に行われているのに、大統領は一部の略奪者と一緒くたにしてデモそのものを取り締まろうとし、その反発にあえいでいる、というのが実際のところだろう。
 
しかも、政権内部から大統領の方針に公然と反旗を翻す動きも出始めている。エスパー国防長官は「軍投入は最後の手段」と言明し、ワシントン周辺に展開していた1600人の部隊の一部撤収と、同様に投入されていた4000人の州兵に対して武装解除するよう命じた。

トランプ大統領が「反乱法」を適用して軍投入を辞さず、との強硬方針を示していただけに、あからさまな抵抗ともいえる。大統領副報道官は「軍投入を判断するのは大統領だ」と国防長官をけん制しているが、政権中枢の亀裂が表面化した格好だ。【6月7日 佐々木伸氏(星槎大学大学院教授)WEDGE Infinity】
***********************

もともと大統領に批判的なメディアやエスタブリッシュメントからの批判は「当然」のことですが、上記のような「岩盤」を誇った支持層からも批判の声があがり、支持が低下しているという話になると、これまで幾多の批判を浴びながらも、それらを吸収して支持層固めにに利用するようなブラックホールのような存在だったさしものトランプ大統領も、今回は人種問題という「地雷」を踏んだのか・・・という感じもします。

【抗議デモが拡大して過激になればなるほど「声なき多数派」は、トランプ支持に回るのかもしれない】
しかし、必ずしもそうとも言い切れない数字も。

****【全米デモ】暴動鎮圧のための米軍投入、過半数の52%が支持****
米ABCテレビと調査会社イプソスは7日、抗議デモが暴動に発展した場合に米軍部隊を投入するかどうかに関し、過半数の52%が「支持する」と回答したとする世論調査結果を発表した。「支持しない」は47%だった。

白人の56%、中南米系の60%が支持するとした一方、黒人の不支持は73%に上った。
 
党派別では共和党支持者の83%、無党派層の52%が支持、民主党支持者の72%が不支持だった。
 
調査は今月3〜4日、全米の有権者706人を対象に実施された。【6月8日 産経】
********************

あくまでも“暴動に発展した場合”という前提での質問ですが、トランプ大統領の「軍の投入」発言はあながち突飛な主張でもないようです。

****米国民は銃を買い求め、州兵動員を支持している「声なき多数派」がトランプ支持に回る可能性****
「このデモは社会を分断するだけ」
米国ミシガン州グランド・ラピッズ市で3日、静かな住宅街をデモ隊が行進していると、白髪の白人女性が野球のバットを振り回して行手を遮った。(冒頭画像)(中略)

近くに住むカリア・アンダーソンさん75歳で、「私の敷地から出てゆけ。あなたたちはここで暴動を起こす権利なんかない!」とデモ隊に向かって怒鳴っていた。

その後、テレビ局がインタビューをすると彼女はこう言った。
「このデモは黒人の命を大事にするものじゃないわよ。社会を分断するだけよ。扇動して・・・。私は怖くはないわよ。孫もいるし、この地域を平和にしておくためには何でもするから」

ミネアポリス市で、黒人が白人警察官に膝で首を押さえつけられて殺された事件に抗議するデモが全米各地に拡散し、略奪や放火も続いているが、それに対して一般市民の間で反感と不安も広がっていることをうかがわせる映像だ。

住民が最後に頼りにするのは銃か
アンダーソンさんが手にしてたのはバットだったが、今米国では護身用の銃器が飛ぶように売れて、銃砲店の在庫が枯渇しているという。

ニューヨーク州ユニオンデールの銃砲店では問い合わせの電話が鳴り止まず、店外には順番待ちの客の行列ができるほどだと、地元のテレビ局フォックス5のニュースサイトが伝えている。

「十分仕入れをしたつもりだったが、もうほとんど売り尽くしてしまった。考えられなかったことだ」と店主アンディ・チェルノフ氏は言う。(中略)

情勢分析で定評あるモーニング・コンサルト社が2日に発表した世論調査では、街を守るために州兵を動員することに有権者の42%が「強く支持」29%が「どちらかと言えば支持」11%が「強く反対」9%が「どちらかといえば反対」と回答している。
 
州兵の動員に賛成する71%の国民や、アンダーソンさんのような人たちをマスコミは「サイレント・マジョリティ(声なき多数派」と呼び、11月の大統領選にどう影響するのか注目し始めている。

「サイレント・マジョリティ」は誰を支持する?
大統領選があった1968年の夏も、キング牧師の殺害やベトナム戦争に抗議するデモが全米に広がったが、共和党のリチャード・ニクソン候補はひたすら「法と秩序」を訴え「声なき多数派」の支持を得て大差で当選した。

この前例に倣ってか、トランプ大統領も「法と秩序」と言い始めているが、反トランプ急先鋒のワシントン・ポスト紙は、3日の電子版に次の見出しの論評記事を掲載して民主党側に警戒を促した。

「民主党は、トランプの"法と秩序"という虚言をなぜ心配しないのか」

抗議デモが拡大して過激になればなるほど「声なき多数派」は、トランプ支持に回るのかもしれない。
【6月8日 木村太郎氏 FNNプライムオンライン】
*********************

トランプ大統領が黒人差別に対する国民の意識が劇的に変化していることを読み間違えているのか、あるいは「サイレント・マジョリティ」は大統領の強硬姿勢を支持しているのか・・・?

私個人としては、地下室に避難したことが批判されると「視察しただけだ」と子供じみたウソを平気で話す、自分の選挙のことしか頭になく国民分断を煽るような人間には、国際政治の場から1日も早く去って欲しいと思っていますが、どうなるでしょうか?

抗議行動は続いていますが、“これまでのデモは一部が暴動化し、放火や略奪、破壊行為が相次いだことを受けて、複数の州で州兵が動員された。ただ、ミネアポリスの検察当局がフロイドさんを死亡させた元警官デレク・ショビン容疑者を当初より重い第2級殺人の容疑で訴追することを決め、現場にいた他の警官3人も殺人ほう助と教唆の容疑で逮捕・訴追したことから、3日以降、沈静化し始めた。”【6月8日 Newsweek】ということであれば、「サイレント・マジョリティ」が大統領支持に回るという事態はさけられるのかも。

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イギリス  ジョンソン首相「EUとの自由貿易協定なし」も辞さない姿勢 新型コロナ混乱はむしろ好都合?

2020-06-07 23:12:25 | 欧州情勢

(新型コロナ感染症から回復し、医療従事者らに感謝の拍手を送る英ジョンソン首相。しかし、英国のEU離脱には早くも暗雲が立ち込めている【5月18日 DIAMOND online】)

【深刻なコロナ被害 高まる政府批判】
周知のようにイギリスは新型コロナの猛威によって、アメリカに次ぐ大きな犠牲者を出しています。
国内的に、政府のコロナ対応のまずさを批判する声も大きくなっています。

****英国で新型コロナ死者4万人超え 政府対応に批判の声も****
英国政府の5日の発表によると、新型コロナウイルスに感染して亡くなった人は前日から357人増えて4万261人となり、欧州の国で初めて4万人を超えた。

政府の首席科学顧問が当初、「死者を2万人に抑えられたら良い結果」としていた人数の2倍となっている。
 
ハンコック保健相はこの日の記者会見で「私たちみんなにとって悲しい時だ」と述べた。
 
英国内では、先に感染拡大が広がった欧州各国に比べて行動制限をともなう「ロックダウン(都市封鎖)」に踏み切るのが遅かったことや、3月半ばまで数万人規模のスポーツイベントの開催が許されていたことなど、政府の対応に批判の声が上がっている。

一方、人工呼吸器が不足したり集中治療室(ICU)の病床が足りなくなったりする事態は回避されている。【6月6日 朝日】
*********************

ジョンソン政権の支持率も低下しています。
“ジョンソン政権の初動対応や高齢者施設への対策の遅れなどが感染拡大の一因とみられており、政権への批判が高まっている。世論調査会社ユーガブの最新調査によると、政権の支持率は35%。不支持はこれを9ポイント上回っている。”【6月6日 共同】

【行き詰まるEUとの自由貿易協定(FTA)締結交渉】
非常に厳しい状況にあるジョンソン首相ですが、新型コロナ対応だけでなく、EU離脱の方も厳しい交渉が続いています。

イギリスはすでにEUを離脱していますが、現在は年末までの「移行期間」にあって、EUとの間の自由貿易協定(FTA)締結交渉が行われています。

その交渉の節目が中間評価の行われる6月末で、ここで進展がなければ交渉は打ち切られ、イギリスはEUとの間の自由貿易協定なしで年末に移行期間を終了する・・・ということにも。

現時点では、交渉は行き詰まっています。

****FTA交渉、続行か決裂か=英EU首脳が判断へ****
1月末に欧州連合(EU)を離脱した英国とEUは、自由貿易協定(FTA)締結交渉の節目となる第4回会合が5日に終了したことを受け、ジョンソン英首相とフォンデアライエン欧州委員長らで月内に中間評価を実施する。

EUからの自主独立を重視する英国と、英国を自らの影響下にとどめておきたいEUの溝は深く、両首脳は交渉続行か決裂かの判断を迫られる。
 
「大きな進展はなかったというのが真実だ」。EUのバルニエ首席交渉官は5日の記者会見で、会合を何度重ねても行き詰まりを打開できない事態に失望を表明した。
 
交渉の主な懸案は、英EU双方の企業が公平な条件で競争するための枠組み整備や、魚種が豊富な英沖合でのEUの漁業権の在り方。

ただ、突き詰めると、焦点はいずれも離脱に伴う英国の「主権回復」(フロスト英首席交渉官)と言える。現状維持の受け入れを求めるEUに対し、英国が「今後のルールは自ら決める」と反発する構図だ。
 
互いに主張をぶつけ合い対立する英EUだが、今秋の決着を目指す点では一致している。このため、中間評価では交渉続行を決める公算が大きい。

もっとも、英政府は2月にまとめた指針で、「合意の大まかな輪郭」が6月までに見えてこなければ、EUとの物別れも辞さない強硬姿勢を示した。妥結の糸口を見いだせない現状では、決裂リスクはゼロではない。【6月6日 時事】 
********************

新型コロナの影響で、交渉は対面ではなくテレビ電話で行われています。そのあたりが、微妙な交渉が難しい背景ともなっています。

****英EU交渉「進展なし」 行き詰まり打開向け首脳会談調整 自由貿易協定など****
欧州連合(EU)と英国は5日、自由貿易協定(FTA)など将来の関係についての第4回交渉会合を終えた。EUのバルニエ首席交渉官は終了後の記者会見で、「重要な進捗(しんちょく)はなかった」と語った。

英・EUは、年末までの「移行期間」を延長するかどうかを判断する期限を6月末に迎える。行き詰まりの打開に向けて首脳間による会談を調整している。
 
会合はテレビ会議方式で4日間の日程で行われた。交渉は▽一方的な規制緩和などで相手側に不利益を与えない「公正な競争環境」の確保▽英領海でのEU加盟国の漁業権▽安全保障協力――などの論点で停滞している。いずれも英・EUが昨年合意した「政治宣言」に大筋の方向性が盛り込まれており、バルニエ氏は「後退は受け入れられない」と英側の対応に不満を隠さなかった。
 
一方、英国のフロスト首席交渉官は5日に公表した声明で、「遠隔方式の交渉で実現できることの限界が近づいている」として、対面に切り替えて集中的に協議を行うべきだとの見解を示した。
 
英国は1月末にEUを離脱したが、激変緩和のための移行期間として12月末までEUと従来通りの関係を続けている。双方が合意すれば最長2年の延長が可能になるが、「延長の扉はオープン」だとするEUに対し、英国は年内の完全離脱に固執する。

交渉が決裂した場合、英・EU間の貿易には翌年から関税が発生し、新型コロナウイルスの打撃を受けた欧州経済にさらなる悪材料となることが懸念される。
 
双方はFTAなしでの離脱を回避するため、10月末までの交渉妥結を目指す。【6月7日 毎日】
*********************

常識的には、少なくとも現時点での「交渉決裂」は、なんとだかんだで避けるのでは・・・というところでしょう。

【移行期間延長なしに固執し、「FTAなし」も辞さない姿勢のジョンソン首相】
ただ、イギリス・ジョンソン首相は、年内の合意が出来なければ、移行期間延長ではなく「FTAなし」も辞さない・・・との強硬な姿勢をとっていますので、6月末を乗り切っても、いずれ「FTAなし」が現実のものとなる可能性も大きいようにも思えます。

****英「無秩序離脱」の危機再び、6月交渉が山場に ****
欧州連合(EU)を離脱した英国とEUの自由貿易協定(FTA)など将来関係を巡る交渉が膠着し、経済界に混乱を及ぼす「無秩序な離脱」のリスクが再燃している。

6月末までに双方が同意すれば交渉期間が延長できるが、いち早い完全離脱で主権を回復したい英が強く拒否する。新型コロナウイルスの影響が続く中、経済に新たなリスクが加わりかねない。

「ほとんど進展がなく残念だ」。英側で交渉を率いるフロスト首相顧問は15日に終わった第3回交渉をこう振り返った。

交渉は激変緩和のため、英がEUに残っているように扱われる2020年末までの「移行期間」中に、関税ゼロで貿易できる現状に近い協定を結べるかが焦点だが、1月末の離脱以降、主な争点で双方がほとんど歩み寄れていない。

最も対立している「公正な競争の確保」では、EUが英側に、関税ゼロなどの恩恵のために税制や政府補助金などでEUルールに従うべきだと主張、英はこれを強く拒否する。英海域でEU加盟国が今までに近い漁業権を得るかどうかでも、対立は深い。

6月末までに双方の同意があれば最長2年間、移行期間は延長できる。だがジョンソン英首相は延長を拒否するだけでなく、2月には妥結が無理なら「FTAなし」も辞さないと宣言。

新型コロナの影響を受けた今も、英首相官邸の報道官は「移行期間は年末に終了する。計画に変更はない」と訴え続
********************

移行期間を延長した場合、延長中は離脱によるメリットである対米、対日本などEU域外との通商協定は発効できず、ジョンソン首相が主張してきた「主権の回復」もできない、実質的にEU加盟と同じ状況が続くということが、イギリス側の「延長拒否」の背景にあります。

【イギリス側の“身勝手な”主張】
ただ、イギリス側の主張はイギリスに都合の良い「いいとこ取り」の主張だ、交渉行き詰まりはションソン首相の心変わりにある・・・との批判も。

****英国のEU離脱派はいまだに欧州を理解していない****
離婚するのに変わらぬ特権を要求、次の交渉に期待できないワケ

(中略)
ジョンソン政権はEUという長年の伴侶と関係を断ったのに、夫婦だった頃の特権を引き続き享受できない理由がまだのみ込めていないのだ。
 
6月2日に始まる新たな交渉ラウンドに先立ち、英国側の交渉責任者デビッド・フロスト氏がEU側の首席交渉官ミシェル・バルニエ氏に送った書簡は、タフに聞こえることを狙っていた。
 
しかし実際には、かなり哀れだった。なぜバルニエさんは「ノー」と言い続けるのですか、とフロスト氏は懇願していた。

交渉決裂に備え責任押しつけたい英政府
もちろん、ここには国内政治の要素も絡んでいた。
 
ブレグジットの移行期間はあと7カ月しか残っておらず、その延長を要請できる最後の日(7月1日)も近づいてきており、交渉決裂の可能性が高まりつつある。
 
決裂した場合に英国が負う経済的コストは、最も状況が良い時であっても厳しいものになる。
これがパンデミックのショックと重なったりすれば、壊滅的な重さになる。英国政府は、EUのバルニエ氏がその責任を負うようにしたいと考えているのだ。
 
しかし、政治的な戦術を除いて考えても、この書簡は気の滅入る代物で、EUに40年以上加盟していたにもかかわらず、英国の離脱論者がEUについていかに学んでこなかったかを浮き彫りにする事例だった。
 
ジョンソン氏は、現実に目をつぶる方が政治的に好都合だと判断した。閣僚のほとんどは一度として注意を払いもしなかった。
 
足元の行き詰まりは簡単に要約できる。
EUは、英国との密接な結びつきを維持できる幅の広い経済・貿易協定を結びたいと思っている。
 
片や英国は関税ゼロ・数量割当ゼロの基本的な貿易協定と、いろいろな産業(運輸、エネルギー、医薬品、金融などのサービス業)に関する規制をアラカルト式に組み合わせたものを望んでいる。
 
またEUは英国の漁場に長期間アクセスできるようにしたいと考えているが、ジョンソン氏は1年ごとに協議する案しか示していない。
 
EU側の主張に奇妙なところはない。それどころか、昨年秋に両者が署名した共同政治声明にぴったり符号している。
 
この重々しい意思表示は、貿易面や経済面での協力における「意欲的、広範囲で深く柔軟なパートナーシップ」を前提としていた。
 
これを機能させるために、「公平な競争の場」を下支えする条項も盛り込まれた。

原因はジョンソン首相の心変わり
交渉が行き詰まってしまったのは、ジョンソン氏の心変わりが原因だ。
 
同氏は国際関係の新奇な理論を引き合いに出し、自分は英国の選挙で勝利したことで外国と交わした合意を破棄する権限も授かったのだと語っている。
 
さらに、公平な競争の場についての条項――雇用・環境の基準、国家補助金の規範・共通ルール、そして欧州司法裁判所の発言権をほのめかすあらゆる箇所を指している――は放棄しなければならないと述べている。

英国がした約束に背くことになるが、そんなことはお構いなしだ。(中略)
 
EUの観点から見ると、フロスト氏が示している提案は、EUがカナダ、ノルウェー、韓国、メキシコといった多種多様な国々と結んでいる協定(あるいは協定案)から英国の気に入った部分だけをかき集めてまとめたものとなっている。
 
この特異なパッケージが、サービス業における英国の国益に合わせて調整された取り決めとともに提案されているのだ。

根底にある英国の特権意識
この根底には、どういうわけか英国には特権的アクセスを享受する「権利がある」という認識がある。

だがEU本部やドイツ政府、フランス政府から見れば、英国は今や「第三国」でしかない。
重要な同盟国ではあるが、単一市場の一体性を脅かす恐れも秘めている国でもある、ということだ。
 
となれば、車もプロセッコも関係ない。EUにとっては、ルールと法的監視のシステムを維持することが何よりも重要な利益だ。これに比べれば、ほかの利益など大したことはない。
 
英国のEU離脱論者たちは、かつての仲間たちにとってEUが経済的な事業であると同時に政治的な事業でもあることを、きちんと把握できていない。
 
欧州統合は繁栄の源泉であるとともに、安全保障、安定性および民主的な価値観を共有することへの投資なのだ。英国との貿易協定をまとめるために譲歩することなどあり得ない。【英フィナンシャル・タイムズ紙 2020年5月29日付】
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英フィナンシャル・タイムズはおそらく離脱そのものに反対なのでしょう。そのためションソン政権への評価も辛らつなものとなっています。

“英国のEU離脱論者たちは、かつての仲間たちにとってEUが経済的な事業であると同時に政治的な事業でもあることを、きちんと把握できていない。”・・・ここが、EUというものに対する独仏と英の認識の温度差、結果的に離脱に至ったことの根本的原因でしょう。

単なる経済的利益を求める組織としてしか見ていないため、「主権が制約されている」云々の不満も大きくなります。

【離脱強硬派にとって新型コロナは好都合?】
“決裂した場合に英国が負う経済的コストは、最も状況が良い時であっても厳しいものになる。
これがパンデミックのショックと重なったりすれば、壊滅的な重さになる。英国政府は、EUのバルニエ氏がその責任を負うようにしたいと考えているのだ。”・・・この新型コロナとの絡みは今後に大きな影響を与えます。

常識的に考えれば、上記のように「新型コロナで大変な時期に、更に「FTAなし」なんて・・・・」という話になりますが、ジョンソン首相ら離脱強硬派にとっては、離脱はもはや自明の「神学」の領域ともなっています。

そうなると、別の発想・・・「どうせ新型コロナでダメージをうけるのだから、この際、「FTAなし」のダメージもそこに隠してしまえ」も出てきます。

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延長なしでも、年末までに英・EUが包括的なFTA合意にこぎ着ければ、20年末時点の経済へのダメージは抑えられる。

ただ「FTAなき離脱」となれば打撃は大きい。英経済社会研究所はFTAなしに終わった場合、英の国内総生産(GDP)を10年間で5.6%押し下げると予測する。

ただ英イングランド銀行(中央銀行)によれば、足元の新型コロナの影響で、20年のGDPは前年比14%減少する。これに比べるとFTAなしの打撃は目立たない。

EUのホーガン欧州委員(通商政策担当)はアイルランドの公共放送RTEに「英国は離脱の悪影響をコロナのせいにすると決めたようだ」と発言。英国が主権の回復を優先し「FTAなき離脱」を選ぶとの見通しを示した。【5月17日 日経】
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新型コロナのどさくさに紛れて、すべて新型コロナのせいにしてしまえば、大きな痛みを伴う「FTAなき離脱」を選択した自分たちの責任もあまり目立たずにすむ・・・という「政治的判断」です。

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コンゴ  武装勢力等による殺戮、新型コロナ、さらにエボラ出血熱も 

2020-06-06 23:37:45 | アフリカ

(コンゴ民主共和国マシシで起きた武装集団間の衝突を逃れた人たちを収容するカリンダ国内避難民キャンプで小屋の前に立つ子どもたちとその母親(2020年1月15日撮影【6月6日 AFP】)

【西アフリカ 相次ぐ武装勢力による殺戮】
世の中は新型コロナで大騒ぎですが、禍・不幸の種は浜の真砂のように尽きることもなく、紛争や難民の問題は各地で継続しています。

アフリカ、特に西アフリカおよびコンゴでは武装勢力や民族対立などで大量殺戮が頻発しています。

****ナイジェリアで武装集団が住民74人殺害 負傷者も多数 AFP通信など伝える****
ナイジェリア北西部ソコト州で27日、地元の武装集団が五つの村を相次いで襲い、住民ら74人を殺害した。AFP通信などが伝えた。事件を受け、ブハリ大統領は軍に実行グループの徹底取り締まりを指示した。
 
地元紙「デーリートラスト」が伝えた住民の話によると、集団はバイクに分乗して村を襲撃。銃で住民を次々と殺害し、負傷者も多数に上った。集団は何も奪わずに去ったという。

犯行の動機や集団の実態は明らかになっていないが、現地では25日にも別の複数の村が同様に襲われ、18人が死亡していた。【5月29日 毎日】
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****ブルキナファソで過激派の襲撃相次ぐ、50人死亡****
西アフリカの内陸国ブルキナファソで週末にかけ、イスラム過激派によるとみられる襲撃事件が相次ぎ、合わせて少なくとも50人が死亡した。政府が5月31日に発表した。
 
北部ロルム県で29日、自警団に警備されて移動中の商店主らの車列が銃撃を受け、15人が死亡。翌30日には、東部コンピエンガ県パマ近郊の家畜市場が襲われ、少なくとも25人の死亡が確認された。
 
北部の町バルサロゴでも同日、人道支援団体の車列が待ち伏せ攻撃に遭い、民間人少なくとも5人と憲兵5人が死亡、約20人が負傷した。襲撃を受けた人道支援団体は、北方の町に食料を届けた帰りだったという。
 
旧フランス植民地で最貧国の一つであるブルキナファソでは2015年以降、イスラム過激派の活動が活発化。特に東部と北部で襲撃が多発し、5年間で900人以上が死亡、約86万人が家を追われて避難生活を送っている。
 
こうした中、牧畜民の少数民族フラニ人が過激派を支援しているとの非難が他の民族から上がり、フラニ人を標的とした襲撃事件も相次いでいる。
 
過激派の襲撃は昨年から激化しており、ほぼ毎日のように発生。外国人の拉致事件も相次いでいる。 【6月1日 AFP】
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上記ブルキナファソやニジェール、マリなど西アフリカでは、国際社会の関心が新型コロナに集中していることもあって、国際テロ組織アルカイダとイスラム過激派組織「イスラム国」の系列組織が抗争を繰り広げる状況にもなっています。

“系列組織”と言っても、思想的にアルカイダあるいはISに共鳴して云々というのではなく、単にヤクザが抗争の都合上「代紋をかつぐ」ようなものでしょう。

****アルカイダとIS系組織、サヘル地域で抗争繰り広げる****
アフリカ・サハラ砂漠の南縁に位置するサヘル地域一帯では、専門家によると国際テロ組織アルカイダとイスラム過激派組織「イスラム国」の系列組織が銃を向け合っているといい、数年保たれた両組織による協力の時代を崩壊させている。
 
両者はこれまで、シリアのような他の戦地では対決姿勢を取るものの、サヘル地域ではしばしは提携し、攻撃における連携や、戦闘員の交換すらも行っていた。
 
同地域では数年の間、イスラム過激派との戦闘が続いている。こうした過激派は2012年、マリ北部で最初に姿を現し、その後同国中部や隣国のブルキナファソやニジェールに進出。これまでに多くの兵士や市民が犠牲となり、さらに多数の人々が自宅からの避難を余儀なくされた。
 
しかし今年の初め以降、マリ中部やブルキナファソで散発していたアルカイダとIS系列の組織による衝突が、本格的な戦闘へと拡大したとみられている。
 
こうしたイスラム過激派内での内紛に関する情報はほとんどなく、その多くは強盗団や民兵組織、国軍との相次ぐ衝突によって、すでに情勢が不安定な地域で発生している。
 
専門家や地元当局者は、アルカイダとISによる戦闘の背景に、支配地域の拡大や飼料用農作物の入手をめぐる対立が理由の一部として存在したと話す。
 
国連マリ多次元統合安定化派遣団のマハマ・サレー・アンナディフ団長は、過激派同士の抗争は「もはや内密のものではない」と指摘。「行き着く先がどこになるのか分からない。どちらも相手より優位に立ちたがっている」と述べ、両組織が土地をめぐって争っていると説明した。
 
マリの首都バマコに駐在する欧米の外交官によると、(中略)ある人がある組織、またはもう一方の組織に参加する理由には、周縁へと追いやられた民族集団に所属していたり、仕事がなかったりといった、地元事情に関連するものが多いと説明する。
 
バマコにある安全保障研究所の研究者、イブラヒム・マイガ氏は、争いも同様に局所的な理由で起きることが多いと指摘。「こうした争いについては、イデオロギーの角度からのみで理解すべきではない」と話す。
 
例えば年初の乾季には、ニジェール川デルタで栽培されたブルグと呼ばれる飼料作物をめぐり、マリ中部ではよく戦闘が勃発する。
 
匿名を条件に取材に応じた、マリ中部モプティの安全保障専門家はAFPに対し、イスラム過激派は「他の皆と同じように」ブルグが育つ地域をめぐって戦闘を繰り広げていると述べた。 【5月19日 AFP】AFPBB News
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【コンゴ 資源の呪い 軍・警察の暴力も】
そして、コンゴ。
こちらは豊かな鉱物資源が争いを惹起するという「資源の呪い」の側面も。
また、武装勢力を鎮圧する立場にある国軍も、その残虐性において武装勢力と同様に住民から恐れられています。

****コンゴ、8か月で民間人約1300人死亡 50万人超避難****
コンゴ民主共和国で、紛争や暴力により昨年10月以降の8か月で約1300人の民間人が死亡し、50万人以上が避難した。国連が5日、明らかにした。
 
国連のミチェル・バチェレ人権高等弁務官は、一部の攻撃が「人道に対する罪や戦争犯罪に当たる可能性がある」と警告した。
 
国連人権高等弁務官事務所は、イトゥリ州、北キブ州、南キブ州での衝突の拡大で「一般市民に壊滅的な影響が及び」、同国東部での死者がここ数週間で急増したと発表した。
 
OHCHRによると、武装集団が虐殺や残虐行為をする一方、政府軍も大規模な違反行為に及んでいる。同地域での武装集団による暴力は、性暴力や斬首、遺体の切断など「激しさを増している」という。
 
イトゥリ州では昨年10月から今年5月末までに、少なくとも531人の民間人が死亡された。うち375人は、3月以降の犠牲者だという。同国の軍や警察もこの期間に同州で民間人17人を殺害したとみられているという。
 
北キブ州では昨年11月に軍が作戦を開始し、主要武装勢力である「民主勢力同盟」の報復攻撃で少なくとも514人の民間人が死亡した。南キブ州では、民族対立による暴力が再燃しここ数か月で少なくとも74人の民間人が死亡し、女性と子ども数十人がレイプされた。治安部隊も民間人数十人の死に関与したという。
 
OHCHRのマルタ・ウルタド報道官はAFPに対し、昨年9月から暴力行為が急増したことを受け、北キブ州で40万人以上の民間人が家を追われたと述べた。南キブ州では今年1月以降に11万人を超える人が避難した。その大半が女性と子どもで、避難者は3月以降に急増したという。 【6月6日 AFP】AFPBB News
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****コンゴで市民1300人殺害 鉱物資源巡る紛争激化、8カ月で****
(中略)コンゴでは軍や警察が武装勢力メンバーと見なした住民を拷問し殺害するなど、規律の低さが深刻になっている。OHCHRは「人道に対する罪や戦争犯罪に当たる可能性がある」として軍や警察などを非難した。
 
イトゥリ州では鉱山の支配権を巡り、農耕生活主体のレンドゥ人の武装勢力が、牧畜に従事するヘマ人らを殺害した。【6月6日 共同】
***************

資源を巡る争いはアフリカ周辺国を巻き込み、1998年8月から2003年7月にかけての第2次コンゴ戦争は死者600万人とも推定され、アフリカ大戦(Great War of Africa)とも呼ばれています。

「大戦」は終結したものの、今に至るも、その余波が続いている状況です。

【新型コロナのパンデミックに加え、エボラ出血熱の再燃も】
そのコンゴは、他の国々同様、新型コロナのパンデミックにも襲われていますが、貧弱な医療資源、さらに上記のような状態では、その感染状況を十分に把握することもできません。

****【コンゴ民主共和国】感染拡大が続けば貧困層にさらなる試練*****
(中略)最初の新型コロナウイルスの感染者は3月10日に首都キンシャサで確認されました。フランスから帰国した52歳のコンゴ人でした。

この時点では「新型コロナウイルスは寒い国でのみ起きる」とか「白人のみに感染する」という考え方が国民に広がっていたこともあり、新型コロナウイルスの危険性が伝わりませんでした。そのためキンシャサでは人々が木の根や葉っぱを煎じたものなどの伝統的な民間療法によって予防ができると信じていました。
 
それでも政府がWHO などの機関と連携してラジオやテレビなどのメディアや地域の保健員による啓発活動を進めた結果、新型コロナウイルスの危険性や感染予防の重要性が伝わり、人々が政府に協力するようになりました。

検査は、コンゴ全土で1日120 人程度だったものが、世界保健機関の支援で500 人まで拡大しています。

検査キットと検査機関の不足のために、キンシャサ以外では検査ができないことが大きな課題です。

感染者は現在までにキンシャサのほか7州に広がっています。南キブの新型コロナウイルス対策チームのトップは、性暴力の被害女性への支援活動で、2018年にノーベル平和賞を受賞したムクウェゲ医師です。

ロックダウン対策は貧困者には困難
キンシャサでは感染拡大を防ぐために、ロックダウンが続けられていますが、人々の多くは生活に余裕はなく、食料、水、その他の生活必需品を得るために外出の自粛ができません。貧困者への抜本的な生活支援がない限りロックダウンによる感染予防効果は薄いと思われます。(後略)【5月26日 Hunger Zero】
**********************

更に、コンゴはエボラ出血熱が起きた地域でもありますが、新型コロナに加えて、このエボラも再燃した模様です。

****コンゴでエボラの新たな流行発生 コロナ感染拡大の最中****
コンゴ民主共和国の保健省は1日、エボラ出血熱の新たな流行が、同国北西部で発生したと発表した。同国では東部でエボラ流行が発生しており、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(大規模な流行)も起きている。
 
エテニ・ロンゴンド保健相は記者会見で、「すでに4人が死亡した」と発表。さらに、国立生物医学研究所により、同国北西部の都市ムバンダカで採取された検体が陽性反応を示したことが確認されたと述べた。
 
同国では東部でエボラの感染が拡大し、2018年8月以降2280人が亡くなっているが、今月25日に終息宣言が見込まれていた。 【6月1日 AFP】AFPBB News
********************

【新型コロナへの偏りで増す他の疾病の危険】
踏んだり蹴ったりの状況ですが、疾病の脅威は新型コロナやエボラだけではありません。
新型コロナに資源・関心が集中すれば、他の疾病対策が手薄になるという問題も。

下記は南スーダンに関する記事ですが、事情はコンゴも同様でしょう。

****コロナ以外の感染症まん延も 南スーダンで国境なき医師団****
南スーダンで国際医療援助団体「国境なき医師団」(MSF)の新型コロナウイルス対策現場責任者を務めるジャンニコラス・ダンゲルサー氏が6日までに共同通信の電話取材に応じた。

内戦で多くの病院が破壊され医療体制は脆弱で、新型コロナの対応に医療資源が偏るとマラリアや下痢などがまん延する恐れがあると指摘、対策を徹底させる難しさを語った。
 
同国では1300人以上が新型コロナに感染、約10人が死亡した。ただ検査施設は国内に1カ所しかない。ダンゲルサー氏は「実際の感染者はもっと多く、まだピークに達していない。増え続ければ医療崩壊まで時間はかからない」と警告した。【6月6日 共同】
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もっとも、新型コロナへの集中で、他の疾患対策がおろそかになりがちなのは、コンゴ・スーダンのような国だけではなく、日本を含めた世界各国共通の問題でもあるでしょう。

コロナが怖いと引きこもるなかで、受診・医療もおろそかになり、他の疾患での死亡者が増加・・・
日本でも医療機関受診者が大幅に減少しています。長期的には、このことにより他の疾患の死亡者が増加するでしょう。

****非感染症への対応不十分に 新型コロナで世界各国****
世界保健機関(WHO)は1日、新型コロナウイルス感染症への対応に各国当局や医療機関が追われる中、高血圧や糖尿病などの非感染症の治療や予防措置が不十分になっている傾向があるとの調査結果を公表した。
 
WHOは5月に3週間にわたり、155カ国での現状を調査。治療などが一部もしくは完全に中断されるなどの影響を受けた国は、高血圧で53%、糖尿病で49%、がんで42%に上った。63%の国ではリハビリへの影響も出ており、半数以上の国では乳がん検診なども影響を受けている。【6月2日 共同】
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****コロナ拡大、感染症連鎖も 予防接種中断で1億人影響****
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う医療現場の逼迫で、他の感染症を防ぐ予防接種の取り組みが各国で中止に追い込まれている。

世界保健機関(WHO)などは、世界で1億1700万人超の子供がはしかの予防接種を受けられない可能性があると予測。接種中断で致死率が高いポリオ(小児まひ)や、結核の流行も再燃する懸念があり、医療保険システムに「壊滅的な影響」をもたらすと警戒を呼び掛けた。
 
感染抑止へ人と人との接触制限が要請される中、必要な医療インフラや人員が新型コロナ対応に割かれ、他の感染症の予防や治療が後回しになっているのが実情で、感染症流行の連鎖を引き起こす恐れがある。【5月5日 共同】
******************

冒頭に書いたように、禍・不幸の種は浜の真砂のように尽きることもありませんので、コロナ・コロナと大騒ぎするのではなく、バランスのとれた対応が必要です。

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イギリス  ジョンソン首相、「良心に照らして」香港からの大量移住受入れを表明 危うさも

2020-06-05 23:18:26 | 欧州情勢

(香港で1日、イギリス植民地時代の旗を掲げる「国家安全法制」に反対する民主派の人々【6月5日 朝日】)

【広がる絶望感】
香港情勢については多くの報道があるように、中国の全国人民代表大会(全人代)で国家安全法を香港に導入することが決定されましたが、国家安全法のもとでの今後を予感させるような動きがすでに始まっています。

香港立法会で争点となっていた中国国歌への侮辱行為に罰則を科す「国歌条例案」が4日、親中国派が民主派の反対を押し切る形で可決。

また、中国が民主化運動を武力弾圧した1989年の天安門事件から31年の4日、毎年続けられてきた香港中心部のビクトリア公園での大規模追悼集会について、香港当局は新型コロナ対策を理由に許可しませんでした。

実際には、ろうそくを手にした市民らが個人として公園に集合し、1万人規模の集会は強行されましたが、国家安全法が施行されれば、こういう集会も認められなくなると思われます。

香港市民の頭越しに中国主導で進む実質的「一国一制度」の押し付けの流れに、有効な対抗手段がないのも現実です。

*****泣き寝入り迫られた香港市民、広がる絶望感 藤本欣也****
「無力感というより、絶望感が市民の間で広がっている」
香港の民主活動家で、政治団体「香港衆志」メンバーの周庭(アグネス・チョウ)氏(23)は、5月下旬に中国の国家安全法の香港導入が決まった後の香港社会の状況について、こう話す。
 
昨年、大規模な反政府デモが起こった「逃亡犯条例」改正案をめぐっては、香港の立法会で審議するプロセスがあったが、国家安全法については中国の全人代常務委員会が制定し、香港側で審議されないまま施行される。香港でデモを行っても、北京に直接、圧力をかけることができない。
 
「国家安全法が怖いと言っているだけではだめ。反対の声を上げないと」(54歳女性)という市民もいる。だが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で集会は規制されている。そもそも、新型コロナの影響で解雇されるなどデモどころではない市民も多い。
 
デモを通じて精神的ダメージを受けた学生を何人も診察してきたという40代の精神科医は、こう語る。
「今回の国家安全法の件で私自身、移民を考えるようになりました」
 
最近、移民斡旋(あっせん)会社への問い合わせが急増している。1997年の中国への返還前も、移民ブームが起きているが、移民できるのは昔も今も経済的に恵まれた一部の人々に限られる。
 
返還前のように、大多数の香港市民は現実の受け入れを迫られている状況だといえる。
 
「民主派や勇武派のデモ参加者にとっては問題だろうが、一般市民には影響がないのでは。生活に支障をきたすとは思えない」(30歳女性)との声もある。
 
ただ、昨年6月以降の抗議デモを通して、これまで政治に無関心だった人々が「若者たちの抗議活動によって目が覚めた」と語り、デモに積極参加するケースが少なくなかった。

この1年のデモが香港市民に変化をもたらしたのであれば、“泣き寝入り”を拒否する新たな動きが出てくる可能性はある。
 
学生や市民が追い込まれているのは事実だ。しかし絶望の先に何が生まれるのか。まだ即断はできない。(後略)【6月5日 産経】
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【ジョンソン首相 「英国は良心に照らして、自分たちの義務を引き受け、別の方法を提示する」】
上記記事にもある「移住」が現実味を増していることは、5月30日ブログ“香港 習近平政権による国家安全法により崩壊する「一国二制度」 「移住」の選択も現実味

そのときにも触れたように、台湾と並んで、旧宗主国イギリスが移住受入れの姿勢を示しています。

****英外相、海外市民旅券の香港人に「市民権も」 国家安全法めぐり****
ニク・ラーブ外相は28日、中国が反体制活動を禁じる「香港国家安全法」の導入を停止しない場合、英国海外市民旅券を保有する香港人に対し、英市民権を獲得する道を開く可能性があると述べた。

英国海外市民旅券(BNO)とは、香港がイギリスの植民地だった時代に香港人に対して発行されたもので、イギリス人が保有する旅券とは異なる。

現在、約30万人の香港人がBNOを保有している。BNO保有者は、イギリスにビザなしで最長6カ月間滞在できる。(中略)

ビザなし滞在を延長、将来的な市民権獲得も
ラーブ英外相は、英国海外市民旅券(BNO)をめぐる方針を変更する可能性を明らかにした。

「中国が国家安全法導入という道を進み続け、実際に施行するのであれば、我々はBNO保有者に認めているビザなしでの英国滞在期間を6カ月から12カ月に延長し、就労や就学を申請するために英国へ渡航できるようにするだろう。また、滞在期間はさらなる延長が可能で、それ自体が将来的な英国市民権を獲得する手段を与えることになるだろう」(中略)

市民権の自動的付与を求める声も
一部の下院議員からは、自動的に市民権を付与する方法を求める声が上がっている。下院外交委員会のトム・トゥゲンハート委員長(保守党)は、BNO保有者には自動的にイギリスに居住し就労する権利が与えられるべきだと述べた。

英政府はこれまで、香港のBNO保有者に対し完全な市民権を与えるよう求める声を一蹴してきた。

昨年、香港で10万人以上が完全な市民権を求める請願書に署名した。英政府はこれに対し、英国市民と英連邦市民だけが英国内に居住する権限を持っているとし、BNO保有者への完全な市民権の付与は、香港返還時の中国との合意違反になると説明した。(後略)【5月29日 BBC】
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英国海外市民旅券(BNO)保有者は約30~35万人ですが、ジョソン首相は更に250万人にパスポートを発行すてイギリスに受け入れる考えを表明しています。

****英ジョンソン首相、香港数百万人にパスポート発行の考え示す****
英国のボリス・ジョンソン首相は2日、中国政府が香港に「国家安全法」を導入した場合、香港住民数百万人に英国のパスポートを発行する方針を示した。
 
ジョンソン氏は英紙タイムズと香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストへの寄稿で、「香港の多くの人々が、自分たちの生き方が脅かされていると感じている」「もしも中国がこの恐怖を正当化するのであれば、英国は良心に照らして、ただ肩をすくめて立ち去るわけにはいかない。代わりにわれわれは自分たちの義務を引き受け、別の方法を提示する」と述べた。
 
ジョンソン氏によると現在、香港住民の約35万人が英国にビザ(査証)なしで入国し最長6か月まで滞在できる英国海外市民パスポートを持っているが、さらに250万人にこのパスポートを申請する資格を付与することを検討しているという。
 
ジョンソン氏は「もしも中国が国家安全法を導入するのであれば、英国政府は移民規則を改定し、香港でこれらのパスポートを持つ全員に更新可能な12か月間の英国内の滞在を許可し、就労権その他の移民権を付与する。これによって市民権獲得への道も開かれ得る」と記した。
 
また、国家安全法は「香港の自由を奪い、香港の自治を劇的に侵食する」ものだと批判。導入されれば「英国は香港の人々との深い歴史と友情の絆を守るしかない」とも書いている。
 
他国と足並みをそろえて中国政府の決定を非難している英政府は、英国海外市民パスポート保有者の在留権を拡大する方針をすでに発表している。だが、ジョンソン氏個人の方針表明は、さらにかなりの圧力となりそうだ。
 
さらにジョンソン氏は、英国が香港の民主派デモを組織しているという主張はまったくの「うそ」だと明言し、「英国はただ『一国二制度』の下での香港の繁栄を願っている」「私は中国もそう願っていることを期待している。その実現に向けて共に取り組みたい」と述べた。【6月3日 AFP】
*******************

イギリスは、香港に高度な自治などを中国が認めた1984年の中英共同声明の当事者であり、香港の「一国二制度」の保証人でもあります。

****香港290万人、英国が移住後押し「将来的に市民権も」****
中国が香港での反体制的な言動を取り締まる「国家安全法制」の導入を決めたことに対し、旧宗主国の英国で対中強硬論が勢い付いている。

新型コロナウイルス対応をめぐる中国への不信感も背景にある。香港では海外への移住の機運が高まるなか、英国のほか台湾も受け入れ態勢の強化に乗り出した。
 
「中国が国家安全法制を制定するなら、各国と協力してさらなる対応を検討する。英国は香港の人々に歴史的な責任や義務を負っている」
 
ラーブ英外相は2日の議会でこう強調した。さらに「ルビコン川を渡って香港の人々の自治や権利を侵害するのか、一歩引いて国際社会の主要メンバーとして責任を果たすのか。決めるのは中国だ」と迫った。
 
中国は5月28日に香港の自由を制限する国家安全法制の導入を決定。香港に高度な自治などを中国が認めた1984年の中英共同声明の下、返還以来保たれてきた「一国二制度」が揺らぎ始めている。
 
英国は香港からの移住を後押しする対抗策にでている。英国が発行する「海外市民旅券」を持つ香港市民について、ビザなし英国滞在期間を現在の6カ月から12カ月に延長する措置だ。

ジョンソン首相は、6月3日付の英紙タイムズへの寄稿でさらなる権利拡大も示唆し、「将来的な市民権獲得に道を開くものだ」と強調した。この旅券の現在の保有者は約35万人、申請資格者もあわせると計約290万人にのぼる。
 
中国が法制導入を推し進めた場合、大量の移住者が香港から英国に押し寄せる可能性が出てきたことになる。

英国では、移民の増加への抵抗が欧州連合(EU)離脱の原動力にもなったが、今回の政府の対応は与野党がほぼ一致して歓迎している。議会でも香港市民に認める権利や対象の拡大を求める意見が相次いだ。

背景にコロナめぐる対中不信
背景には、新型コロナをめぐる中国の対応への不満がある。中国の情報隠しや虚偽情報が被害拡大を招いたと疑う与党議員もいる。

対中政策見直しを求める議員団体も結成され、有力議員らが名を連ねている。団体を率いる英議会下院の外務委員長のトゥゲンハート議員は5月30日、英紙への寄稿で「中国からの投資を歓迎する英中黄金時代は終わった。共産主義国家に立ち向かう」と主張した。
 
また、ハント前外相ら7人の外相経験者は6月1日、ラーブ現外相宛ての書簡で、各国と連携して香港問題に対応する国際的な枠組みを立ち上げ、英国が主導的な役割を果たすよう求めた。

コソボ問題で仲介役を担い、国際社会が協調して対応した成功例とされる欧米ロ6カ国による「コンタクト・グループ」をモデルに提案している。
 
ロンドン大東洋アフリカ研究学院のスティーブ・ツァン中国研究所長は「中国が国家安全法制導入に踏み切れば、香港社会が立ちゆかなくなるほど人が流出するというリスクを中国側に示し、再考を促すのが英国政府の真の狙いだろう」と指摘。

ただ、「中国が対香港で強硬姿勢をとるという習近平(シーチンピン)国家主席の決定を覆すとは考えられない」とし、「英国は国連で問題提起した上で、中英共同声明が形骸化しないよう中国に働きかける国際的な枠組みを探るべきだ」と話した。

香港では海外移住の機運高まる
新法制の導入で、香港では海外へ移住する機運が高まっている。香港のあっせん業者によると、相談件数は平常時の3~4倍に増加。英米、カナダなどの英語圏のほか、台湾も同じ中華圏で物価が比較的安いことから人気という。
 
ただ、実際、移住するには相手国に一定の投資をするなどの条件が課されるのが一般的だ。香港のカメラマンの男性(26)は「資産が少ない若者が移住するのは容易ではない」と話す。
 
香港政府高官は5月末、英国の動きに対し、英BBCの取材に「外国が中国内の立法行為に口を挟まないよう望む」と不満を表明。中国外務省の趙立堅副報道局長も3日の会見で英国側に抗議したことを明かし、「英国は香港に対する主権も監督権もない。中英共同声明を口実に無責任な発言をする権利はない。中国への内政干渉だ」と反発した。
 
一方、台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統は「台湾の友人である香港の人々に支援を提供したい」と表明。香港情勢の緊迫化に備え、香港人の受け入れ強化策を検討しており近く発表する予定だ。

報道によると、入境・滞在条件の緩和や生活支援、労働許可や医療保険の扱いなどの検討を進めている模様だ。(後略)【6月5日 朝日】
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【背景に中国のコロナ対応への不満・・・とは言うものの、大丈夫かね?】
中国への「圧力」という点では、「習近平国家主席の決定を覆すとは考えられない」というところでしょう。

ただ、多くの香港市民に移住という選択を可能にするという点では大いに評価すべきものでしょう。
評価すべきものではありますが、「大丈夫かね?」という感も。

中国の経済的存在感が増しているのは他の欧州諸国とどうようでしょうが、特にイギリスの場合、EU離脱を考えると、中国は離脱に伴う混乱の穴を埋めてくれる存在でもあります。

その中国と「ことを構える」ことをジョンソン首相が本当にできるのか?

とりわけ問題なのは、そもそもイギリスがEU離脱を決めた最大の理由は移民流入を防ぎたいということがあったはずで、そのイギリスが香港からの移住を大量に受け入れる・・・本当にできるのだろうか?

“背景には、新型コロナをめぐる中国の対応への不満がある。中国の情報隠しや虚偽情報が被害拡大を招いたと疑う与党議員もいる。”とのことですが・・・・

****英国人の約5割が「新型コロナは中国の生物兵器」―米華字メディア****
米華字メディアの多維新聞は27日、英国人の約5割が「新型コロナウイルスは中国が開発した生物兵器」と考えているとの調査結果が出たと報じた。 

記事によると、英オックスフォード大学が今月4〜11日にかけて成人2500人を対象に調査を実施した。「新型コロナは中国が開発した生物兵器」という意見に同意した人は、「やや賛成」などを含め約45%。また、「世界保健機関(WHO)はワクチンを得ているのにそれを伏せている」に肯定的な人は約29%との結果も出た。 

調査結果は、「陰謀論の拡散を減らすことが重要」などと指摘している。【5月29日 レコードチャイナ】
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イギリス国内の“中国の対応への不満”というものは、上記“陰謀論”みたいな、あまりレベルの高いものではないようにも思えます。

政治的な問題への認識からの中国不信感というよりは、単なる「黄禍論」「アジア人蔑視」に基づくものではないか・・・とも。

このようなレベルの認識で大量の香港移民を受け入れても、結局移住者は「アジア人蔑視」の犠牲者になってしまうような懸念も感じます。

新型コロナの第2派、第3波が起きたとき「あいつらがイギリスに持ち込んだせいだ」なんてことにも。

移住が可能になるのは資産を有する限られた者かもしれませんが、行き場を失った多くの香港市民にとっては天井から下りてきた一筋の蜘蛛の糸でもあるでしょう。

それを簡単に翻したり、「アジア人蔑視」で悲しませたり・・・といったことがないことを願います。

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「ウィズ・コロナ」のもとで「タフ」な体制整備を

2020-06-04 22:48:50 | 疾病・保健衛生

(フランス北西部のモンサンミッシェルに架かる橋を走るシャトルバスに乗り込む観光客=20日【6月2日 朝日】)

【「警戒感」が強い日本 「ウィズ・コロナ」で日常生活再開に向かう世界】
日本ではようやく新型コロナに関する制限緩和に踏み出したものの、周知のように「東京アラート」が出され、今も継続中です。

****都内28人感染、若年層大半 「東京アラート」継続中 *****
東京都は4日、新型コロナウイルスの感染者が新たに28人報告されたと発表した。うち23人を10代から30代までの若い世代が占めた。都内の感染者は累計で5323人となった。死者は1人が報告され、累計は307人。

都は感染拡大の兆候を受けて今月2日に「東京アラート」を出して警戒を呼び掛けている。 
 
都によると、直近7日間では1日当たりの新規感染者数の平均は18・3人に増加した。新たに報告された28人のうち、感染経路が不明なのは14人だった。 
 
都内の感染者数は3月下旬から急増、4月中旬にピークに達した。5月下旬にかけ減少傾向にあったが緊急事態宣言解除後は再び増加に。【6月4日 共同】
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一方で、海外に目を転じると、ピークアウトしたとは言え、日本基準からすれば一桁多い感染状況にもある欧州各国はバカンスシーズンに向けて制限緩和を本格化し、往来の自由に向けて動き出しています。

*****【新型コロナウイルス】 欧州の状況****
感染症の欧州の拠点となっているイギリスでは新型コロナウイルスによる死者数が過去24時間に324人増の3万9369人に症例数も1613件増の27万7985件に達した。

イタリアでは新型コロナウイルスによる死者数が過去24時間に55人増の3万3530人に、症例数は318件増の23万3515件に達した。(中略)。他方では、3月10日に課された国内での自由移動規制を正常化の枠組みで今日(6月3日)解除するイタリアは、欧州連合(EU)の国民に国境も開放する。

フランスでは感染症による死者数が過去24時間に107人増の2万8940人に達した。同国の症例数は18万8829件と記録された。

スペイン保健省は、過去48時間に同国で新型コロナウイルスによる死亡が確認されなかったと公表した。声明ではまた、過去24時間に新たな症例数が137件増の23万9932件に達したと伝えられた。(中略)

ポルトガル政府は、新型コロナウイルスにより過去24時間に12人が死亡して感染症による死者数が1432人に達したことを発表した。同じ期間に新たな症例が195件確認され、症例数は3万2895件に達したことが報告された。【6月3日 TRT】
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****欧州、観光客受け入れ再開に本腰 バカンス控え、国境開放へ*****
新型コロナウイルスで甚大な被害が出た欧州各国が観光客受け入れ再開に本腰を入れ始めた。夏のバカンスシーズンを控え国境を開放し、壊滅的打撃を受けた観光業の復興を図る。

一時、世界最多の死者を記録したイタリアは3日、欧州連合(EU)諸国や英国などからの入国制限を解除した。
 
観光業が国内総生産(GDP)の約13%を占めるイタリアでは、首都ローマのコロッセオや中部ピサの斜塔など世界的名所が既に再開。ディマイオ外相は欧州メディアに「われわれの国で休暇を過ごし、海や山で料理を楽しんでください。笑顔で待っています」と呼び掛けた。
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“仏でレストランやカフェなど再開、2か月半ぶり…テーブル1メートル以上離すなど条件”【6月3日 読売】
“独、欧州への渡航警告解除へ=3カ月ぶりに観光解禁―新型コロナ”【6月3日 時事】
“ベルギー、8日からほぼ全業種を再開 15日には国境も=暫定首相”【6月4日 ロイター】
“スペイン、6月22日に仏・ポルトガル国境規制を全面解除”【6月4日 ロイター】

アメリカも新規感染者数は2万人超と「高止まり」状態にありますが、経済再建を急ぐトランプ大統領の方針もあって、すでに5月段階から全国で緩和に向けて動き出しています。
“アメリカ、全50州で経済活動を部分再開”【5月21日 BBC】

インドは未だピークが見えない状況です。

****インドの新型コロナ感染者、20万人突破 ピークはかなり先に****
インド保健当局は3日、新型コロナウイルスの感染者が前日から8909人増えて20万7615人になったと発表した。1日の増加数は過去最大級だが、ピークは数週間先になるとみられている。

インド医学研究評議会のニベディタ・グプタ博士は「(感染の)ピークはまだかなり先だ」と述べた。インド政府当局者は感染者数の増加が減少に向かうのは6月後半か7月になる可能性があるとの見方を示している。

累計の死者数は5815人となった。

感染者の数は米国、英国、ブラジルなどに次いで7位。だがインド保健当局者によると、同国の死亡率は2.82%と世界の平均(6.13%)よりもかなり低い水準にとどまっている。【6月3日 ロイター】
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そのインドも段階的解除に動き出しています。

*****インド、全土封鎖を段階的解除へ 新型コロナ、感染拡大続く懸念も****
インド政府は30日、新型コロナウイルス対策として3月から続けている全土封鎖を、6月1日から段階的に解除すると発表した。
 
13億人超の人口を抱えるインドでは感染者が増え続け、30日に計17万人を超えた。封鎖が解除されることで感染拡大が続くことが懸念される。
 
新たな指針によると、夜間外出禁止は時間を短縮して継続。感染者が多く住民の外出を特に厳しく制限している「封じ込め地区」では、6月30日まで封鎖を続ける。
 
一方、封じ込め地区以外では、州が制限しない限り州境を越える移動の制限を解除。飲食店やショッピングモールの営業は6月8日から許可する。【5月31日 共同】
*******************

インドがこの段階で緩和に踏み出すのは、これ以上の制限状態は経済的に耐えられないからです。
特に、貧困層では、「コロナ予防ために飢えで死ぬ」ような状況が現実のものとなりかねません。

制限緩和を急ぐ多くの国の事情はインドと似たり寄ったりでしょう。

今後、感染の中心地基となると予想される南米やアフリカの感染拡大は「これから」の状況です。

総じて、諸外国が相当の感染状況のなかで日常生活に戻ろうとしているのに対し、日本は極力「感染ゼロ」に向けて総力を挙げているようにも。何事につけ、完璧を目指す国民性でしょうか。

【鎖国状態を続ける訳にいかないなかで、一定の感染を「受容」した「タフ」な体制づくりを】
日本と同レベルの低い感染状況を達成しているのは、アジアでは中国、台湾、香港、韓国、ベトナム、タイなど。
あとオーストラリアにニュージーランドでしょうか。

こうした国々のなかのベトナム・タイ・オーストラリア・ニュージーランドとは往来の再開も予定されているようです。

****入国、一部緩和の方針 政府、豪など4カ国対象 ビジネス客ら****
新型コロナウイルスの感染拡大防止のための水際対策について、政府はタイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国と緩和に向けた交渉に入る方針を固めた。条件面で折りあえば、相互にビジネス関係者などを受け入れる。早ければ夏前にも、国際的な人の往来が一部再開される可能性が出てきた。
 
複数の政府関係者が明らかにした。政府は「第2波」を警戒して水際対策緩和に慎重な姿勢を守りつつ、国家安全保障局(NSS)を中心に検討した結果、4カ国は感染状況が日本と同程度に収束していると判断。第1弾の対象国とすることが固まった。
 
政府は2月から水際対策を順次強化し、入国拒否の対象は計111カ国・地域に及ぶ。外国人の入国を原則拒否するとともに、帰国する日本人にもPCR検査を受けてもらい、結果が陰性でも自宅などで2週間待機するよう求めている。近く交渉に入る4カ国も現在、入国拒否の対象だ。
 
政府が入国を認めるケースとして想定するのは、自国で受けたPCR検査で陰性が証明されているなど、一定の条件をクリアしたビジネス関係者ら。

入国時のPCR検査でも陰性なら、ホテルなどの滞在先に加え、取引先の企業や工場など限定された拠点での活動を認める方向で検討している。移動には公共交通機関を使わないよう求める。
 
政府は日本人のビジネス関係者の受け入れ条件についても交渉し、相互に往来を再開させたい考えだ。4カ国から帰国する日本人のビジネス関係者も、勤務先で仕事ができるようにする方向で調整している。【6月1日 朝日】
********************

対象国に中国が含まれていないのは、昨今の米中対立の状況では、日本が中国との往来を再開させることをトランプ大統領が良しとはしないだろう・・・という政治的判断でしょう。

韓国や台湾も、政治的に微妙な問題がつきまといます。

****日本の入国規制緩和リストになぜ中国が含まれないのか―中国メディア****
(中略)
記事は、中韓両国の制限緩和は第2弾以降になる見通しだとし、「5月中旬の日本の報道では、経済活動再開のために日本は中国と韓国のビジネス客に対して入国制限緩和を検討していた。しかし、今回の緩和対象国にこの2カ国が含まれなかったことは、日本の世論から大きく注目されている」と伝えた。 

中韓両国が第1弾に入らなかった理由について、記事は読売新聞の報道として「米中関係の緊張で、新型コロナウイルス問題に関して米国による中国へ批判が高まっていることが関係している」と紹介。

「日本が日中間の往来制限を過度に早く緩和すると、米国の反発を招く可能性があるためで、日本は慎重な態度を取る必要がある」とした。韓国については、外出制限緩和後にクラスターが発生していることが主な理由だとしている。 

記事は、日本の世論からは「日中間の貿易往来は密接であり、中国が感染を抑え込んだことで日本国内のビジネスマンからは両国間の出入国制限を早く緩和してほしいとの声が出ている。

日本政府が米国の態度に配慮していることは残念で、経済再開には悪影響だ」との声が出る一方で、「日中や日韓の往来はベトナムやタイよりも多いため、早すぎる緩和は第2波の発生につながる」との見方もあると伝えた。 

日本政府は、今後の新規感染の状況などを基に、緩和の時期や最初に制限を緩和する国を正式に決定する。【6月1日 レコードチャイナ】
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記事にもあるように、人数の多い中国・韓国との往来再開の前に、今回4か国のようなところで「再開時の様子を確認する」のは現実的な対応かも。

ただ、そうした感染が殆ど抑え込まれている国は少数で、それらの国との往来を再開させたそのあとは?
欧米とは?インドや南米・アフリカ・中東とは?

****1日10人の感染者入国で「再宣言」に 西浦教授ら試算**** 
新型コロナウイルスの感染者が海外から1日10人入国すると、90日後には99%の確率で大規模な流行が起こると、西浦博・北海道大教授(理論疫学)らのグループが試算した。

国外との人の往来再開を目指す動きが出るなか、西浦さんは「第2波」に備え、リスクに応じた入国者の制限など体制整備が必要だと訴えている。
 
日本は現在、計111カ国・地域を入国拒否の対象とし、厚生労働省はこの国・地域から帰国する日本人全員にPCR検査をして、陰性でも自宅などで2週間の待機を求めている。この他の国・地域からの入国者も2週間待機する。
 
西浦さんらは数理モデルを使い、どのくらい感染者が入国すると大規模流行が起きるか確率を計算した。入国者全員にPCR検査を行い、陰性の人も2週間ホテルなどで待機を求める。それでもPCR検査の精度の限界や、待機を守り切らない場合があると想定し、一部の人が入国後に感染を起こす条件とした。
 
その結果、感染者が1日10人入国すると90日後には99%の確率で、緊急事態の再宣言が必要となる規模の流行が起きた。1日2人なら確率は58%、1日1人なら35%に抑えられた。

一方、検査しないと確率が上がり、感染者の入国が1日2人の場合95%、1日1人でも77%だった。【6月4日 朝日】
*******************

「リスクに応じた入国者の制限」というよりは、鎖国状態を続ける訳にもいきませんので、ある程度の感染者の流入、その結果の国内感染の増加を前提にしたうえで、感染爆発や医療崩壊を招かない「タフ」な体制を整備し、一定の感染を受入れる国民の「受容」を醸成していく方向に発想を切り替えていくべきと思うのですが。

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フランス  感染残る中での日常生活再開  黒人に関する米同様の事件に対する追悼抗議デモ

2020-06-03 23:33:26 | 欧州情勢

(パリにおける、抗議デモと警官隊の衝突【6月3日 BBC】)

【感染が残る中での日常生活再開 C'est la vie「人生って、こんなものさ」】
フランスでは5月11日の規制緩和の第1段階に引き続き、今月2日から飲食店(これまではテイクアウトのみ)や美術館、スポーツ施設などの営業が再開、自宅から100キロ圏内に制限されていた自由な移動の制限の撤廃され、「ほぼ通常通りの生活ができるようになる。試練の後にようやく一息つける」(フィリップ首相)状態になっています。

****仏でレストランやカフェなど再開、2か月半ぶり…テーブル1メートル以上離すなど条件****
フランスで2日、レストランやカフェ、バーなどが約2か月半ぶりに営業を再開した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う営業禁止令が解除された。外出制限を緩和していく計画の第2段階にあたる。
 
ただ、感染予防策として、テーブルの間隔を1メートル以上離すことなどが営業再開の条件となっている。

パリを含むイル・ド・フランス地域圏は感染リスクが高いとして、屋外のテラス席のみ営業が許された。【6月3日 読売】
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もっとも、ピークアウトしたとは言っても、感染状況は日本基準からしたら相当なレベルですが。

*****仏、新型コロナ死者2.8万人 13日ぶりに100人超増加*****
フランスで確認された新型コロナウイルス感染症による死者が2日、107人(0.4%)増え2万8940人となった。1日当たりの死者数が100人を超えるのは13日ぶり。フランスは新型コロナ死者数で世界で5番目に多い。

新型コロナ感染症による入院者数は260人以上減少し1万4028人。集中治療室(ICU)で治療中の患者は49人減少し1253人だった。【6月3日 ロイター】
*******************

日本での1日の死者数は、ピーク時で30人余り、現在は数人レベルですから、100人超の死者が出る状況で「ほぼ通常通りの生活」というのは、感覚が違います。

街のテラスで飲食を楽しむフランス人にそのあたりを尋ねれば、おそらく「まあ、運が悪ければ感染して大変なことになるかもね。でも人生なんてそんなもんさ(C'est la vie)」って肩すくめるでしょう。

【フランスでも4年前、黒人男性が警察に拘束され死亡した事件 当局禁止にも関わらずアメリカ事件と連帯して追悼抗議デモ】
アメリカで起きた白人警官による黒人男性の拘束死事件に対する抗議運動は、日常を取り戻したフランスにも及んでいます。

****米黒人拘束死 パリで2万人以上がデモに参加 一部は投石や放火など暴徒化****
パリでは2日、米国で起きた白人警官による黒人男性の拘束死事件に対する抗議運動に合わせたデモが催され、地元テレビ局BFMによると、警察の発表で2万人以上が集まった。デモの終了後、参加者の一部が投石や放火をするなど暴徒化した。
 
デモを呼びかけたのは、2016年にパリで警察に逮捕された後に死亡した黒人男性の遺族らで作るグループ。参加者はパリ北西部の裁判所前に集まり、全米で広がる抗議運動へ連帯を示しながら、警察の暴力と人種差別に反対の声を上げた。
 
フランスでは2日、新型コロナウイルス対策のため営業停止していた飲食店などが再開したばかり。カスタネール内相はツイッターで「集会は感染予防のため禁止されており、正当化できない」と表明した。【6月3日 毎日】
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黒人と警察との軋轢は、フランスにも存在します。
4年前の事件の追悼デモに対し、当局は新型コロナ対策を理由にこれを認めていません。

*****仏当局、16年死亡の黒人男性追悼デモを禁止 米の飛び火警戒か****
フランスの警察当局は2日、2016年に警察に逮捕され、拘束中に死亡した黒人男性を巡る追悼デモを禁止すると発表した。

アダマ・トラオレさん(当時24)は16年7月、パリ北西のバルドワーズ県で口論を理由に警察に逮捕され、その後、車両で警察署に移送中に死亡した。

家族側はトラオレさんが警察によって殺されたと主張。これに対し警察当局は、検視で遺体に目立った暴行の跡は見られなかったが、本人は重篤な感染症を発症していたと報告した。この対応に住民の怒りが爆発し、数日間にわたって暴動が起きた。

今回の追悼デモ禁止について、警察当局は声明で、社会不安に加え、新型コロナウイルス感染を引き起こす恐れがあると説明。ただ、米国では白人警官による黒人暴行死をきっかけに全米各地で抗議活動が拡大しており、デモの飛び火を警戒しているもようだ。【6月3日 ロイター】
**********************

【6月3日 毎日】にある「パリで2万人以上がデモ」というのは、単にアメリカの事件への連帯抗議だけではなく、4年前にフランスで起きた事件への(当局の禁止を無視する形で行われた)追悼デモとしての側面もあるようです。

****フランスでも4年前の黒人死亡めぐり抗議デモ 集会禁止に反し****
フランスで2016年に黒人男性が警察に拘束され死亡したことに対する抗議行動が2日、国内各地であり、数万人が参加した。新型コロナウイルス対策で警察は集会を禁じたが、それを無視した格好となった。

アダマ・トラオレさん(当時24)は4年前、パリ郊外で警官に逮捕された。警察車両の中で意識を失い、警察署で死亡した。

トラオレさんの死は、アメリカで警官に取り押さえられる際に死亡したジョージ・フロイドさんの事件に類似したものとして、フランスで再び注目されている。フロイドさんの死を機に、全米では各地で抗議行動が相次いでいる。

パリ郊外ではこの日、大規模集会の禁止令に逆らって、約2万人が抗議行動に加わった。はじめは平和的に行進していたが、やがて暴力的になり、警官隊に石が投げられ、警官隊は催涙ガスを発射した。

ツイッターには、群衆に向けて催涙ガスが使われる様子が投稿されている。抗議者たちはバリケードを作り、警官隊に物を投げつけたという。火災や道路閉鎖が起きていることを伝えるものもある。

参加者らは当初、抗議行動の許可を求めたが、警察はこれを拒否した。新型ウイルス対策で、公の場所における集会は10人までに制限されている。
パリ警視庁のトップは、警察は人種差別主義だとの批判を、断固として否定した。

抗議デモは、マルセイユやリヨン、リールなどの都市でも発生。「Black Lives Matter」と書かれたプラカードを手にした参加者もいた。この言葉を掲げた運動はアメリカで生まれ、フランスやイギリスなど他国へも広がっている。

「Black Lives Matter」は、2013年から2014年にかけて、アメリカの黒人に対する差別や暴力に抗議する運動の合言葉となり、2014年8月に南部ミズーリ州ファーガソンで18歳の黒人男性が白人警官に射殺されたのを機に、全国的な抗議運動と共に広がった。「白人と同じように黒人の命にも意味がある」という意味が込められている。

警官が体重をかけて押さえた
トラオレさんの死をめぐっては、警官の1人が、同僚2人とともにトラオレさんを体重をかけながら地面に押さえ付けたと調査で述べた。

公式報告書では、トラオレさんの死因は心不全で、基礎疾患が関係した疑いがあるとされた。トラオレさんを拘束した警官たちは先月28日、警察の調査により、責任はないとされた。

トラオレさんの死後数日間にわたり、パリで激しい抗議行動が続いた。

その後もトラオレさんの事件は、警察の暴力に対する抗議行動のスローガンとなっている。フランスでは少数民族の若者らが、警察のターゲットになっていると訴えている。

AFP通信によると、トラオレさんの姉妹のアサさんは抗議行動の参加者らに、「私たちはいま、トラオレの家族の闘いだけを訴えているのではない。これはみんなの闘いだ。ジョージ・フロイドのために闘うとき、アダマ・トラオレのためにも闘うのだ」と述べた。

一方で、パリ警視庁のディディエ・ラルマン警視総監は警官たちへの手紙で、「ソーシャルネットワークや特定の活動団体が、警察暴力や人種差別を再現なく攻撃している」なか、警官たちが感じているに違いない「苦しみ」に共感すると書いている。【6月3日 BBC】
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【強気のマクロン大統領、一方で国民融和に向けた対話姿勢も】
フランスでは、2018年11月から続いた抗議行動「黄色いベスト運動」において、一部若者らによる破壊行為が問題になりました。

マクロン大統領も抗議行動に対する強気の姿勢ということではトランプ大統領と似ていますが、ただ、その強気姿勢の一方で、国民の声に耳を傾ける姿勢は示しています。

****仏大統領、黄ベスト対策で「国民大討論」 本人も対話行脚へ****
フランスのエマニュエル・マクロン統領は13日、国民向けの手紙で、「国民大討論」と銘打った対話集会への参加を国民に呼び掛けた。

国民大討論は反政府運動「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」の沈静化を目指すもので、税制、民主主義、環境、移民などのテーマについて国民が直接話し合える場とする。
 
ジレ・ジョーヌ運動は料税引き上げに対する抗議行動から生活水準をめぐる反政府運動へと拡大し、広範な支持を得ている。デモは12日まで9週間にわたって土曜日ごとに全国で実施されており、中には暴力的なものもあった。
 
デモ参加者が増加に転じる中、マクロン氏は13日、「フランス国民への手紙」というメッセージを発表。討論を通じて「(国民の)怒りを解決策に変えたい」との意向を示した。
 
マクロン氏は国民大討論について「選挙でも国民投票でもない」と断り、「どの税を最初に引き下げるべきだと考えるか」「具体的にどのような案であれば、環境配慮型社会への移行が促されると思うか」といった35の議題をめぐって話し合ってほしいと訴えた。
 
実施期間は1月15日から3月15日で、結果は終了から1か月後にも「直接報告する」という。
 
マクロン氏本人も、15日に北西部ブールトルールドで地元首長らと行う対話集会を皮切りに、各地で集会に参加する予定。【2019年1月14日 AFP】
**********************

トランプ大統領に欠けているのは、こうした対話の姿勢です。

****抗議デモに共感64%、大統領の対応は55%が不支持=米世論調査*****
2日公表のロイター/イプソス世論調査によると、米ミネソタ州で起きた白人警官による黒人暴行死事件への抗議デモが全米に広がっていることについて、抗議活動参加者に「共感する」と答えた人の割合が64%に達し、否定的な27%、「分からない」の9%を大きく上回った。

逆にトランプ大統領の対応を支持しないという割合は55%超、このうち「強く反対」が40%となり、支持は33%にとどまった。共和党員に限っても、トランプ氏の対応に肯定的だったのは67%と、大統領としての職務全般を評価する声が82%あったのと比べてかなり低い水準だった。

トランプ氏はデモへの強硬措置を打ち出し、暴動の鎮圧には軍を出動させる考えも示唆しているものの、調査結果から見ると、そうした姿勢は国民の反発を招き、政治的にマイナスとなる恐れがある。

日中に行われている多くのデモは平和的だが、夜間には一部が暴徒化し、警官隊との衝突も発生。共和党員、民主党員ともに平和的デモには賛成との意見が過半数を占めた半面、結果的に暴力に至った行動が適切だったと答えたのは25%弱だった。

別のロイター/イプソス調査では、11月3日の大統領選で共和党のトランプ氏対民主党のバイデン前副大統領の争いとなった場合、バイデン氏に投票すると述べた登録有権者は47%、トランプ氏が37%で、その差10%ポイントは、バイデン氏が民主党の大統領候補指名をほぼ手中にした4月上旬以降で最大になった。【6月3日 ロイター】
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アメリカ  中国・香港・イランと同様に「暴徒鎮圧」しか念頭にないトランプ大統領

2020-06-02 23:17:34 | アメリカ

(米ワシントンで1日、ホワイトハウス近くの教会を訪れて、聖書を手に持つトランプ米大統領【6月2日 朝日】 この撮影のために、警察がホワイトハウス近くの平和的抗議行動を催涙ガスを使って強制排除)

【「法と秩序の大統領」 軍の投入も】
前日に続き、白人警官に首を圧迫されて黒人男性が死亡した事件によって惹起されたアメリカの混乱とトランプ大統領の対応について。

トランプ大統領は「法と秩序の大統領」として、暴動・略奪などの混乱に対し軍の投入も辞さない姿勢を見せています。

「強いリーダー」をアピールしたいということもあるでしょうが、自分の意に沿わない事態を我慢できない、そういう動きは力でねじ伏せようとする「性格」的な面もあるように思われます。

****トランプ米大統領、騒乱鎮静に軍の投入も辞さないと 「法と秩序の大統領」自認****
白人警官に首を圧迫されて黒人男性が死亡した事件を受けて、アメリカ各地で抗議や騒乱が続くなか、ドナルド・トランプ米大統領は1日夜、ホワイトハウスで演説し、事態の鎮静に陸軍の投入も辞さない姿勢を示した。野党・民主党の知事などからは強い反発が出ている。

トランプ氏は1807年制定の「Insurrection Act(反乱法)」を発動し、陸軍の投入を含め、連邦政府の持つあらゆる手段を使って、暴動や略奪、攻撃や建物の打ちこわしなどを取り締まると述べた。

連邦政府と州政府の権限が分かれているアメリカでは、国内の緊急事態には各州知事の命令で州兵が配備されるのが通常。国内の治安維持に陸軍が投入されるのは、きわめて異例。

トランプ氏は「もし市や州が住民の生命と財産を守るため必要な行動を拒否するなら、私が合衆国軍を投入して、代わりに問題を速やかに解決してあげる」と主張。

「自分は法と秩序の大統領で、あらゆる平和的抗議に連帯する」と強調し、「法に従うアメリカ人の権利」を守り、「この国に広がった暴動と無法状態をただちに終わらせる」と述べた。

「こうして話している今も、重装備の兵士や軍関係者、法執行官たちを何十万人も(首都ワシントンに)投入し、暴動と略奪と破壊と暴行と無差別な財産の破壊を止めさせる」と、トランプ氏は表明した。

トランプ氏は、ジョージ・フロイドさんが白人警官に圧迫されて死亡した事件について「すべてのアメリカ人がおぞましく思っている」ものの、フロイドさんを追悼する思いが「怒る暴徒」にかき消されてはならないと強調。

「この数日、我々の国はプロの無政府主義者、暴力的な群衆、放火犯、窃盗犯、犯罪者、暴徒、アンティファその他に、がんじがらめになっている」、「しかし一部の州や地元政府は、住民を守るために必要な対応をとってこなかった」と批判した。

「反ファシズム」を掲げる左派活動家たちの連携運動、アンティファを「テロ組織」に指定する方針のトランプ氏は、演説でアンティファの行動を「テロ」と呼び、テロ主導者は厳しい刑事罰と長期刑で処罰されることになると強調した。

この演説に先立ち、トランプ氏は各州知事との電話会議で、州政府の対策が「弱腰」のため、アメリカが世界の笑い者になっていると批判。抗議者を「圧倒する」強硬な取り締まりを求めていた。これには民主党だけでなく与党・共和党の知事からも反発が出ている。【6月2日 BBC】
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抗議行動の99%は平和的に行われるものの、なかに一部暴徒化する者も出てくる事態にあって、一国のリーダーとしてまずとるべきことは、何が彼らを怒らせているかについて耳を傾け、改善をめざそうとする姿勢でしょう。

それによって、暴徒化するような1%を孤立させ、その行動を抑制することも可能になります。

しかし、トランプ大統領にはそうした「共感」の姿勢は皆無で、ただ暴徒を力で抑え込むことしか念頭にないように思われます。

各州知事との電話会議では州知事を「弱腰だ」と非難し、これは戦争のようなもので速やかに制圧する必要がある、そうでないと相手にあなどられ、つけこまれる云々といったことも主張しているようです。

“「制圧しなければ、時間を無駄にするだけだ。(暴徒らに)付け込まれ、あなた方が間抜けに見えることになる」と叱咤(しった)。「人々を逮捕し、裁判にかけ、刑務所に長期間収容しなければならない」”【6月2日 時事】

深刻な分断を和らげようとする発想はないようです。

かつて、中国・天安門事件では趙紫陽総書記は民主化を求めて広場に集まった若者たちの中に入り、涙ながらにその行動への共感をしめしました。

しかし、その姿勢は鄧小平らには入れられず趙紫陽は失脚、中国共産党が選択した方策は、抗議者を「暴徒」として戦車で踏みつぶすことでした。

その後の中国共産党のたどる道を決める分岐点でした。

今、トランプ大統領は趙紫陽ではなく、鄧小平の側にいるように思われます。

【ホワイトハウス前のデモ隊をガス弾等で強制排除し、教会に向かう姿をアピール】
そして、あろうことか、平和的な抗議行動をとっている者をガス弾や閃光弾を撃ち込んで蹴散らし、自身が教会へ向かうというデモンストレーションを行ったとのこと。

****トランプ氏の通過前に催涙ガス****
トランプ氏の演説が始まる約20分前には、ホワイトハウス前のラフィエット公園広場で警察暴力に抗議していた人たちに対し、機動隊が催涙ガスや閃光(せんこう)弾などを使い、強制退去させた。

トランプ氏は演説の最後を、「ではとても、とても特別な場所にうかがって敬意を表する」と締めくくった。この後、随員たちとラフィエット公園を徒歩で通過し、ホワイトハウス近くのセントジョン米聖公会教会へ向かった。教会前では他の政権幹部と並び、聖書を手に記念撮影した。

同教会は1816年以来、歴代の大統領が訪れる「大統領の教会」と呼ばれる。5月31日夜に火がつけられたものの、地下の火事はすぐに鎮火され、被害も少なかった。

ワシントンのミュリエル・バウザー市長は、市内の夜間外出禁止令が始まる午後7時より「25分も早い時点」で連邦警察が平和的な抗議者たちに、催涙ガスなどを使って排除したことに、強く抗議。連邦警察のそうした行動によって「DC(コロンビア特別区)警察の仕事が、いっそう難しくなった」と批判した。

米聖公会ワシントン教区のマリアン・ブッド主教は、トランプ氏が教会を「小道具」に使ったと批判している。

主教は米紙ワシントン・ポストに対して「激怒している」と述べ、「私たちの教会を小道具として使うため、(抗議集会を)催涙ガスで排除するなど、儀礼的な事前連絡さえなかった」と話した。

「しかも聖書を手にして。神とは愛だと聖書には書いてあるが、(トランプ氏の)言うことなすことすべて暴力を駆り立てるものだ」。「トランプ大統領に、聖ジョン(ヨハネ)を代弁してほしくない」と、主教は述べた。

イリノイ州のJ.B.プリツカー州知事(民主党)はCNNに対して、ホワイトハウス外の抗議者たちが強制排除されたことについて、「アメリカではこんな真似はしない。この国の警官たちは、市民を守るために街なかにいる。少なくともここシカゴでは、平和的抗議集会を摘発などしない」と述べた。

さらに、演説に先立ちトランプ氏と知事たちが電話会議をした際には、トランプ氏が「狂ったこと」を話していたとして、「国内のすべての都市の道路を支配すると言っていた」と批判。プリツカー氏はトランプ氏を、「人種差別主義者だ」と非難した。

今年秋の大統領選でトランプ氏と争う見通しのジョー・バイデン前副大統領は、「彼はアメリカの人たちに対してアメリカの軍隊を使おうとしている。平和的な抗議者に催涙ガスとゴム弾を使った。写真撮影のために」とツイートした。

民主党幹部のチャック・シューマー上院院内総務は、「この大統領はどこまで下劣になれるのか」、「その行動から本性があらわになっている」と非難した。【6月2日 BBC】
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トランプ大統領がなぜ徒歩で教会に向かうというデモンストレーションに拘ったのか、なぜそれを報道陣に見せたかったのか・・・

“CNNは、情報筋の話として、最近、大統領が地下室に避難していたとの報道が流れたため、堂々と外を歩く映像を撮らせたかったと伝えています。”【6月2日 日テレNEWS24】

****NY州クオモ知事が大統領を非難 軍の派遣警告「恥ずべきこと」****
米東部ニューヨーク州のクオモ知事は1日、白人警官による黒人男性暴行死事件を巡り、トランプ大統領がデモ隊鎮圧のため各州に軍の派遣を警告したことについて「恥ずべきことだ」とツイッターで非難した。
 
クオモ氏は、トランプ氏がホワイトハウス近くの教会で記念撮影をするために、催涙ガス弾でデモ隊を排除させたことにも言及。

「トランプ大統領は米市民に向けて米軍を招集している。教会前で写真撮影をするため、軍を使って平和的な抗議デモを追い払った。大統領のためのリアリティー番組のようだ」と痛烈に批判した。【6月2日 共同】
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*****トランプ氏は「米軍を米国人に向けた」、バイデン氏が非難****
米大統領選の民主党候補指名を確実にしたジョー・バイデン前副大統領は1日、黒人男性死亡事件に抗議するデモ隊の鎮圧を軍に指示すると明言したドナルド・トランプ大統領について、「米軍を米国人に向けて使った」と非難した。
 
バイデン氏はツイッターで、トランプ氏が暴動の被害を受けたホワイトハウス近くの教会で写真を撮るために、ホワイトハウス前のデモ隊を一掃しようと警察官や憲兵を用いるとの決定を下したとの投稿をリツイートした。
 
その上で、「トランプ氏は平和的な抗議デモの参加者たちに催涙ガスを浴びせ、ゴム弾を撃った」「われらが子どもたちのため、わが国の魂そのもののため、われわれはトランプ氏を打倒しなければならない」と訴えた。 【6月2日 AFP】
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****オバマ氏、政治参加による「変革」呼び掛け 黒人男性死亡の抗議デモ受け****
米ミネソタ州で黒人男性が死亡した事件への抗議デモが激化し、暴動が各地に拡大するなか、オバマ前大統領は1日、ブログサイトに論説を投稿し、市民らの政治参加による問題解決を呼び掛けた。

オバマ氏は先週、事件について「2020年の米国でこれが普通のことであってはならない」とコメントしていた。
新たな論説では「暴力を容認したり正当化したり、自ら加担したりするのはやめよう。刑事司法制度や米国の社会全体がもっと高い倫理性に基づいて動くことを望むなら、私たち自身でそれを形にしなければ」と訴えた。

トランプ大統領の名前を出してはいないが、人種問題に取り組もうとする人が大統領や連邦議会議員、司法当局者らになるよう、市民の力で戦うべきだと主張。「真の変革を起こしたいなら、抗議活動か政治かを選ぶのでなく、両方やる必要がある。結集して関心を高めたうえで、変革に取り組む候補者が選ばれるよう、まとまって票を投じなければならない」と結論付けた。(後略)【6月2日 CNN】
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トランプ大統領が使用している「法と秩序」という言葉は、やはりデモが全米に広がった1968年の大統領選で勝利したニクソン元大統領が用いたフレーズで、黒人を規制する隠語だとの指摘も。

****トランプ氏の「法と秩序」は隠語? 平和的デモへ催涙弾****
黒人男性の死亡をきっかけとした抗議デモが全米に広がるなか、トランプ大統領が鎮圧のために米軍を派遣する意向を表明した。11月の大統領選に向け、「秩序の回復者」を演じる狙いが指摘されるが、反発も起きている。
 
「我々は国内に広がっている暴動と無法状態を、直ちに終わらせる」
 
トランプ氏は1日、演説でこう述べ、警察や州兵による強硬な取り締まりを求めた。この日、州知事らとの電話会談も行い、「我々は逮捕を望んでいる。あなたたちはもっと強硬にならなければいけない」と要求。「(街頭を)制圧しなければ時間の無駄だ。人々を逮捕して長期間刑務所に入れる必要がある」と迫った。電話会談には、エスパー国防長官も参加し、州兵の活用を促した。
 
トランプ氏が繰り返しているのは、「法と秩序」という言葉だ。やはりデモが全米に広がった1968年の大統領選で勝利したニクソン元大統領が用いたフレーズで、米政治史に詳しいオマール・ワーソウ米プリンストン大助教授は「黒人を規制する隠語だ。トランプ氏はニクソンの成功例を当てはめようとしている」と指摘する。

しかし、米国の分断をあおるトランプ氏の作戦が成功するかは見通せない。現職大統領として、統治能力も問われる。
 
1日の演説直前まで、ホワイトハウス前では大勢の人々が集まり、「私を撃たないで!」など声を上げながら平和的に抗議をしていた。現場で取材していた記者は、警察が催涙弾を撃ち込み、白い煙が上がるのを見た。直後には参加者たちが現場から走って逃げた。
 
演説を終えたトランプ氏は側近を引き連れ、デモ隊が退散させられた現場を通り過ぎ、前夜に一部が焼けた教会に到着。そこで、聖書を片手に持つポーズを取って記念撮影に応じた。
 
これには、一斉に批判が出ている。事前の相談がなかった教会側の司祭は米メディアに「大統領はこの国の苦悩を理解していない」と憤った。(後略)【6月2日 朝日】
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【香港・イランと同じ鎮圧行動の「ダブルスタンダード」】
抗議行動を一部が暴徒化した側面で「暴動」と規定して、抗議行動全体を力で鎮圧する・・・というのは、これまでアメリカが批判してきた香港やイランの当局者と同じ手法です。

当然のごとく香港・イランからは、トランプ大統領を揶揄する言葉が。

****香港行政長官、米国を「ダブルスタンダード」と批判 抗議行動への対応めぐり****
香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は2日、暴力的な抗議行動への対応において米国が「ダブルスタンダード(二重基準)」を用いていると批判した。
 
林鄭氏は記者会見で、抗議活動に対する香港政府と米政府の対応を念頭に「ここ数週間でダブルスタンダードの広がりを最もはっきりと目の当たりにしている」「米国で暴動があり、地元政府がどのように対応しているか注視している。香港で同様の暴動があった時、私たちは米当局がどのような立場を取ったのか見てきている」と述べた。 【6月2日 AFP】AFPBB News
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****中国とイラン、米国の人種差別と警察の暴力をすかさず非難****
米ミネソタ州ミネアポリスで警察官が非武装の黒人男性を過剰な力の行使によって死亡させた問題をきっかけに全米で抗議活動が激化する中、これまで人権問題に関して米政府から批判を受ける側にいた国々が形勢を逆転し、喜々として米国に矛先を向けている。
 
米国の人種差別の事例を非難したのは中国だ。米国はこの数日前、香港への「国家安全法」を導入する方針を決定した中国に対して対抗措置を講じる構えを見せたばかりだった。イランも非難の輪に加わった。イラン当局は、昨年11月に反政府デモを鎮圧したことを理由に米国から制裁措置を受けていた。(中略)
 
「米国の人種的なマイノリティー(少数派)に対する人種差別は、同国の社会の慢性病だ」と、中国外務省の趙立堅報道官は主張。「現在の状況は、同国における人種差別と警察による暴力という問題の深刻さを改めて浮き彫りにしている」と北京で記者団に語った。
 
さらに、イランのアッバス・ムサビ外務省報道官はテヘランで、ドナルド・トランプ政権がイランの反体制派への支持を表明して繰り返し呼び掛けたメッセージをまね、英語で次のように述べた。

「米国民に告ぐ。抑圧された状況に対するあなた方の怒りの声を世界が聞いている。世界はあなた方と共にある」「米当局と警察に告ぐ。国民に対する暴力をやめ、国民が息ができるようにせよ」(中略)【6月2日 AFP】
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香港の林鄭月娥行政長官の「ダブルスタンダード(二重基準)」批判は当然でしょう。
トランプ大統領の軍を投入しての抗議行動鎮圧が正当化されのなら、香港当局の行っている鎮圧行動も是とされるべきでしょう。

先日イラン内相が225人が死亡したと発表した、燃料価格の値上げに端を発した昨年11月の抗議デモに対するイラン当局の武力鎮圧もまた正当化されるでしょう。

【銃社会アメリカで対立の行きつく先は】
アメリカは言うまでもなく銃社会です。対立が先鋭化・暴力化すれば、対立の場に銃が持ち込まれることも容易に想像できます。

****米デモ隊対応の警官が銃で撃たれる、セントルイスとラスベガス****
白人警官の暴行による黒人死亡事件に対する抗議デモが各地で激化する米国で1日夜、デモ隊に対応していた警官が銃で撃たれる事態がセントルイスとラスベガスで発生した。

セントルイスでは警官4人が撃たれた。病院に搬送されたが、命に別状はないという。

AP通信は、ラスベガス警察の話として、警官1人が撃たれ、もう1人の警官も「銃撃に巻き込まれた」と伝えた。銃撃の詳細や、警官の容体は不明。

ラスベガス警察はロイターの取材に対し、コメントを差し控えた。

ロサンゼルスではデモ隊が小規模なショッピングセンターに放火。ニューヨーク市では店舗で略奪が起きている。【6月2日 ロイター】
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アメリカは、トランプ大統領は、この分岐点で踏みとどまることができるのか?

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アメリカの混乱 黒人は何に怒っているのか? 「#WalkWithUs(一緒に歩こう)」

2020-06-01 23:10:35 | アメリカ

(「一緒に歩こう」と、デモ参加者とハイタッチをかわす保安官・スワンソンさん【6月1日 CNN】)

【地下シェルターに避難したトランプ大統領】
米ミネソタ州で黒人男性のジョージ・フロイドさんが死亡した事件をめぐる抗議行動の拡大および一部暴徒化の状況は報道のとおり。

****米抗議デモ、各地で暴徒化 黒人暴行死、4千人拘束****
米ミネソタ州で黒人男性のジョージ・フロイドさん(46)が白人警官に暴行され死亡した事件を巡り、5月31日も米各地で抗議デモが起き、一部が暴徒化した。

米メディアによると、デモ激化を受けて夜間外出禁止令が出たのは、首都ワシントンなど全米の40都市以上に達した。AP通信によると、この数日間に少なくとも4100人が拘束された。
 
米紙ニューヨーク・タイムズは、外出禁止令を出した都市の数は公民権運動を率いたマーチン・ルーサー・キング牧師が暗殺された1968年以来の規模だと伝えた。一連のデモはこれまでに全米の75都市以上に拡大した。【6月1日 共同】
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TVで、今の事態は1910年代のスぺイン風邪と1930年代の大恐慌と1968年のキング牧師暗殺が一緒に起きているような状況だとの解説。なるほど。それは大ごとです。

更に言えば、それらは別個に重ね合って起きているのではなく、白人よりも高い感染リスクの仕事・生活を余儀なくされ、失業の恐怖にさらされている黒人たちの怒りが爆発しているというように、複合・連鎖して起きているのでしょう。

この件に関してまとまった意見を述べるほどの見識は持ち合わせていないので、印象に残った記事をいくつか。

警官隊との衝突は首都ワシントン、ホワイトハウス近くでも。ワシントンでは31日、夜間外出禁令が出されています。

****トランプ氏、地下に避難 抗議デモ激化受け一時****
米メディアは1日までに、ワシントンのホワイトハウス前で白人警官による黒人男性暴行死事件に対する大規模な抗議デモが起きた5月29日夜、トランプ大統領が地下に一時避難したと報じた。大統領警護隊(シークレットサービス)の判断だったとしている。「バンカー」と呼ばれる地下室は核シェルターにもなる。
 
ニューヨーク・タイムズ紙は実際に危険が迫ったという事実はないが、トランプ氏やその家族はデモに「動揺した」と伝えた。

CNNテレビによると、近くで炎が上がった31日夜にも避難したという。米誌アトランティックは「トランプ氏は怖がっている」などとやゆした。【6月1日 共同】
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【因縁の反ファシズム運動「アンティファ」をテロ組織に指定すると息巻くトランプ氏】
そのトランプ大統領は、今回の混乱は反ファシズム運動を展開する「Antifa(アンティファ)」に扇動されたもので、同組織を「テロ組織」に指定すると息巻いています。

****トランプ米大統領、反ファシスト「アンティファ」をテロ組織に指定すると発言****
ドナルド・トランプ米大統領は5月31日、反ファシズム運動を展開する「Antifa(アンティファ)」をテロ組織に指定すると発言した。トランプ氏は、黒人男性が白人警官に殺害された事件を受けた抗議活動が、アンティファのせいで暴動に発展したと非難している。

(中略)これまでに15州で、州兵が鎮圧に投入されている。アメリカ各州の州兵は、国内の緊急事態に対応するのが任務。ミネアポリスではフロイドさんの死後、5日にわたって放火や盗難などが横行している。

なぜ抗議行動が暴動に発展したのか、米政府当局者は大幅に異なる見解をそれぞれ示している。外部のグループや個人の関与を示唆する意見もある。

ミネソタ州のティム・ウォルツ知事(民主党)は30日、外国勢力や白人至上主義者、違法薬物カルテルなどが暴力の背景にいると話したが、詳細は説明しなかった。

一方でトランプ大統領はツイッターで、「アンティファ主導の無政府主義者」や「左翼の無政府主義者」が騒ぎを起こしていると書いているものの、こちらも詳細は明かさなかった。

その上でトランプ氏は、「アメリカ合衆国はアンティファをテロ組織に指定することになる」とツイートした。
https://twitter.com/realDonaldTrump/status/1267129644228247552

ただし、アンティファのテロ組織指定をいつ、どのように実施するのかについては説明はなかった。
米政権が特定の団体や個人を外国テロ組織に指定する方法は、法制化や大統領令などいくつかある。

しかし、法曹関係者からは、アンティファに「国内テロ組織」というレッテルを貼る権限が、トランプ氏にあるのかどうか、疑問視する声が出ている。

元司法省高官のメアリー・マコード氏は、「国内組織をテロ組織に指定できる法的権限は現在、存在しない」と説明した。「そのような指定を追求すれば、合衆国憲法修正第1条に違反する懸念が出てくる」
修正第1条は、表現の自由や平和的集会の権利、信教の自由などを保障している。

一方で、連邦議会の上院では昨年、共和党の議員団が、アンティファを「国内テロリスト」に指定する拘束力のない決議案を提出した。

暴動は誰のせいだと
抗議活動は当初、フロイド氏の死や、アフリカ系アメリカ人に対する警察暴力に怒る市民らが、平和的に市街地を占拠するものだった。

その怒りが加速して暴動に発展したが、その原因ははっきりしていない。

しかしここ数日、連邦当局や各州の高官らは、証拠を示さずに断定的な主張を重ねている。
トランプ大統領は30日に、「アンティファと極左のしわざだ。それ以外の人を責めないように!」とツイートした。

ウィリアム・バー司法長官も大統領に調子を揃え、アンティファなどの「扇動者」らがアメリカ全土に広がる抗議活動をハイジャックしていると批判した。(中略)

一方マイク・ポンペオ国務長官は、それよりも慎重な姿勢をとっている。フォックス・ニュースに出演したポンペオ氏は、暴徒は「アンティファのような」グループだと述べながらも、平和的な抗議がどうやって暴力的なものに変質したのかは、「まだ分からない」と強調した。(中略)

アンティファとは?
アンティファは「Anti-Fascist Action(反ファシスト活動)」の略語で、ネオナチやファシズム、白人至上主義者、差別主義などに強く反対する抗議活動を指す。指導者などはなく、ゆるやかに連携する活動家たちの集まりだと考えられている。

メンバーの大半があらゆる人種差別、性差別に反対しており、トランプ氏の様々な政策を国粋主義、反移民、反ムスリム的だとして、強く反対している。

一方で反政府主義かつ反資本主義であるため、アンティファのメンバーは主流左派よりも、無政府主義に近いとみなされることが多い。

アメリカでは、2017年8月に米ヴァージニア州シャーロッツヴィルで開催された極右集会に抗議するいわゆる「カウンター」行動が注目され、その名前が知れわたった。

トランプ大統領はこの集会と、それに抗議する人たちの衝突について「双方に非がある」と述べたほか、当初は集会を主催した白人至上主義者を非難しなかったことで、大きな批判を浴びた経緯がある。【6月1日 BBC】
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「アンティファ」は、2017年8月に米ヴァージニア州シャーロッツヴィルの件以来、トランプ大統領にとっては苦々しい存在だったようです。

ただ、話を極端に単純化した「○○のせいだ!」というのは、新型コロナ禍での中国叩きと同様に、問題のすり替え的なところがあって、話の本質は、なぜ黒人たちがこれほど怒っているのか?というところでしょう。

一国のリーダーとしては、そこに踏み込むべきですが、それをトランプ氏に期待してもないものねだりでしょう。

【白人の進歩派で、ヒラリー・クリントンの支持者こそが問題と怒る黒人も】
黒人の怒りの矛先は、必ずしも人種差別主義者や差別的なトランプ大統領ではなく、“共和党、民主党の区別なく米国の白人の意識に染みついているもの”に向けられているとの指摘も。

****人種差別は政治的対立を越えたのか アメリカ社会の固定的問題なら抗議は収まらない****
「問題なのはKKKではなく進歩派だ」
「問題なのは(白人至上主義秘密結社の)KKKの人種差別主義者じゃない。(ニューヨークの)セントラルパークを犬を連れて散歩をする白人の進歩派で、ヒラリー・クリントンの支持者なのだ」

米国ミネアポリス市で、警察官が黒人男性の首を膝で押さえつけて殺害した事件をめぐって29日(現地時間)に放送されたCNNの番組内で、コメンテーターのバン・ジョーンズ氏はこう言った。

ジョーンズ氏は黒人で、トランプ大統領が当選した時の番組では「悪夢だ」と涙声で語り、民主党支持で知られる。そのジョーンズ氏が、今回白人の警察官がリンチ(私刑)にも例えられる方法で黒人を殺害した事件の背景にはKKKよりも進歩派の方に問題があると言ったのには含みがある。

「アフリカ系アメリカ人に襲われている」と通報
ミネアポリスの事件と同じ日、ニューヨークのセントラルパークを散歩していた白人女性から911番(日本の110番)で「アフリカ系アメリカ人の男性に襲われている」と通報があった。

この女性、犬と散歩していたのだが、パークの規則に従わずリードをつけていなかったのでバードウオッチイングをしていた黒人男性に注意されると口論になり警察に「助け」を求めたのだった。

その様子は黒人男性の妹がビデオに撮っていてSNSに投稿すると全米に拡散し、女性が警察を呼ぶのに「アフリカ系アメリカ人」という言葉を重ねて使ったことが「人種問題を利用した」と非難され女性は投資会社を解雇されてしまった。

この女性が民主党支持者だったかどうかは明らかではないが、「警察は人種差別的だからアフリカ系アメリカ人に襲われていると言えばすぐに駆けつけてくれる」というのは民主党支持者によくある偏見だと考えられ、いつしか女性は「リベラルでヒラリー・クリントンの支持者」とSNSなどで取り沙汰されるようになった。

もう一つ最近人種差別が問題になったのが、民主党の大統領候補が確実なジョー・バイデン 氏の発言だ。バイデン 氏は22日のラジオのインタビューで「トランプと私とどちらを支持するか決められないのは黒人じゃない」と言ったが、黒人は民主党を支持するのが当然だという態度こそ人種差別的と批判された。

また「黒人じゃない」というのも、英語でain't blackと黒人口調で「クロじゃねぇよ」と言ったことに「背筋が凍るような思いになった」と、黒人で米下院のジム・クライバーン副院内総務は語っている。(ニュースサイト「ポリティコ」5月26日)

今度のミネアポリスの事件で、当局が白人警察官をすぐに訴追しなかったことが抗議運動を煽ることにもなったが、ミネアポリス市の市長もミネソタ州の知事も民主党系の民主農労党の党員だ。

冒頭のジョーンズ氏の指摘は、人種差別に共和党、民主党の区別なく米国の白人の意識に染みついているものだが、民主党支持者は建前では公平さを口にしながらも心の底では差別的な志向を抱えているので、よりたちが悪いと言ったように受け取れる。

今度の事件に反発するデモが全米に広がり激化しているのも、人種差別が政治対立を越えた米国社会の固定的な問題だと黒人側が意識したからかもしれない。

もしそうであれば、この事件に対する抗議活動は当分収まりそうもないように思える。【6月1日 FNN PRIME】
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【不安に駆られる白人は銃購入へ】
一方で、今回のような混乱は白人層の不安を一掃掻き立てることにもなっているでしょう。
アメリカ社会では、混乱が起きるたびに、「自分の身は自分で守らねば」ということで銃保有に流れる傾向がありますが、新型コロナ禍でもその傾向は一掃強まっています。おそらく今回暴動で更に・・・。

****新型コロナで銃販売数が過去最高に 社会不安と密接にリンク、あぶり出された米国の闇****
新型コロナウイルスのまん延は世界中の人々の生活に大きな影響をもたらしている。175万人を超える感染者がいる米国もそうだ。

外出の制限で24時間眠らなかった大都市から人けがなくなった。生活必需品の品薄状態が続き、行列嫌いとされる米国人が食料や消毒液などを求めて店の前に並んだ。いずれも半年前には考えられなかったことだ。
 
今回の騒動では、米国社会が内包する暗部もあらわになった。アジア系の人々が攻撃や嫌がらせの標的にされたことは知られているだろう。

その影で銃や銃弾の売り上げが大きく伸びている。米国人の心の中で何が起きているのだろうか。

 ▽大手スーパーでも購入可能
米国内で新型コロナウイルスが感染拡大し始めたのは3月初めだった。このことを伝えるニュースなどに触れた人々が水や食料、トイレットペーパーなどの買い占めに走り多くの店で商品棚が空っぽになった。

このことはテレビや新聞で連日のように報道された。その裏で銃や弾薬も小売店から消えていた。しかし、大きく報道されることがなかった。
 
米国で銃を購入するのはそれほど難しいことではない。銃器販売店に加えてウォルマートなどの大手スーパーやスポーツ用品店などでも販売されている。(中略)

それが、飛ぶように売れたというのだから尋常ではない。中でも弾薬は品切れが続出し、CNNテレビなどが報じた。銃や弾薬を求める人々が販売店の周りを取り巻いている映像は筆者にとって衝撃的だったが、新型コロナウイルスに関する報道に埋もれて注目されることはなかった。(中略)

3月と4月で少なくとも約665万丁の銃の購入希望があったと推定される。(中略)

 ▽自分で身を守るしかない
銃購入希望者数は、社会不安の高まりと見事にリンクしている。米国人にとって、銃は一種の精神安定剤のようなものと指摘する識者もいる。そのため、不穏な事態が起こる度に人々が銃や弾薬の購入に走ることになる。(中略)
 
今回の敵は目に見えないウイルス。銃で対抗できるとは思えない。販売店に走った彼らは銃で何を守ろうとしたのだろうか。
 
米国の銃社会に詳しいジョージア州立大学のティモシー・リットン教授は、二つの理由を挙げている。それは①感染者の爆発的増加を目の当たりにして、政府が機能不全に陥る恐れがあると判断。その際は自分で身を守るしかないと考えた②非常時において銃の販売が規制されることを恐れた―だ。
 
銃規制が予想される状況になると、一種の駆け込み需要が発生するというのは皮肉といえる。銃規制を掲げたバラク・オバマが大統領選挙に勝利した08年11月も、申請数は前月比で30%上昇した。

 ▽新たな問題
不安ゆえに銃を求める―。米国が陥っている依存症かもしれない。友人の米国人は次のように語る。「外出が規制されてずっと家にいると精神が不安定になってくる。誰かが押し入ってきたら、という不安を持つ人がいるのは理解できる」。そして、彼はこう続けた。「だからと言って銃を買おうとは思わないけれど」
 
米国における新型コロナウイルス感染は終息に向かいつつあるが、この2カ月間で全米にばらまかれた銃を回収する手だてはない。米国は新たな問題を抱えてしまった。【6月1日 47NEWS】
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【デモ隊に笑顔で「一緒に歩こう」との保安官も】
そうした中で、非常に印象的な行動を示した保安官も。

****デモ隊に笑顔で「一緒に歩こう」 米保安官に共感広がる****
黒人男性が警官に取り押さえられて死亡した事件を受けて全米で警察に対する抗議デモが激化する中、1人の保安官の行動をめぐってソーシャルメディアで共感が広がっている。

米ミシガン州フリントタウンシップで5月30日に開かれた抗議デモ。暴動鎮圧の装備で出動した警官隊とにらみ合う市民らに語りかけたのは、ジェネシー郡の保安官クリス・スワンソンさんだった。地元放送局WEYIが伝えた。

スワンソンさんは警棒を下ろすと、「抗議ではなくパレードにしたい」とデモ参加者に語りかけ、「私たちがここにいる唯一の理由は、あなた方が確実に声を上げられるようにするためです。ここにいる警官たちはあなた方を愛しています」と訴えた。(中略)

スワンソンさんが笑顔でデモ参加者とハイタッチを交わすと、集まった人たちの中から「一緒に歩こう」という声が巻き起こった。スワンソンさんは「レッツゴー」と応じ、歓声を上げる人たちと一緒に歩きながら、「どこまで歩きたい? 一晩中歩こう」と声をかけていた。

ソーシャルメディアにこの映像が流れると、「#WalkWithUs(『私たちと一緒に歩こう』の意味)」のハッシュタグとともに、スワンソンさんの行動を称賛する声が広がった。

ツイッターには「これこそ警察の正しい対応」「WalkWithUsこそ、ジョージ・フロイドさんを殺害した体制を変える方法だ」といったツイートが相次いでいる。

スワンソンさんはこの前日、フェイスブックに「この恐ろしい犯罪に関与した警官それぞれの即時逮捕と訴追を求める」と投稿していた。【6月1日 CNN】
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こういう人が大統領になれたらいいのにね。

 

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