(マレーシアの水域に到達したロヒンギャ難民の船(2018年、ランカウイ島沖。今回の船とは別)【6月10日 BBC】)
【新型コロナで海に漂う難民船】
人間は誰しも自分の身の安全が第一ですから、危機的な状況になれば自分第一、自国第一の傾向を強めます。
一定にやむを得ないところではありますが、それによって弾き出された人々が非常に厳しい状況に追い込まれるということに思いを致す必要もあるでしょう。どこでバランスをとるかという問題にもなります。
新型コロナ対策に世界中がやっきになるなかで、最も弱い立場にある移民・難民は、場合によっては死の危機も。
****コロナの陰で死ぬ移民の増加を懸念、地中海の救助活動停止****
欧州諸国は移民の流入増加を受けて港を閉鎖し、人道支援船も救助活動を停止している。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が連日大きく報道される一方で、人権活動家らは地中海が見過ごされた「悲劇」の現場になっているのではないかと懸念している。
ここ数週間で欧州に上陸した移民はごくわずかだ。国際機関とNGOは、先週の時点ですべての救助活動が停止されたため、厳しい状況にあると述べている。
国連難民高等弁務官事務所のバンサン・コシェテル特使は、1月以降、179人が地中海地域で亡くなっているとみている。
コシェテル氏は、状況は悪化していると指摘。リビア沿岸部から出発した移民は前年同期比で4倍近くに増え、1月から4月末までに移民が欧州諸国への入国を試みた回数は6629回に上る。同氏によると、チュニジアからの移民の出発も2倍以上になっているという。
「リビアにいる移民の75%がロックダウン(都市封鎖)のあおりで職を失っており、絶望的な事態になる恐れがある」とコシェテル氏は語った。
国際移住機関は、「現在の状況では、国際社会の目が届かない所で人知れず難破船が発生している恐れが高まっている」と警鐘を鳴らしている。 【5月16日 AFP】AFPBB News
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移民・難民に関する新型コロナの影響としては、上記のような「救助活動の停止」の他、入国管理をする側は人道的配慮との兼ね合いが問題となりますが、「新型コロナ流入阻止」という大義名分も得ることになり、今まで以上に厳しい対応に出ることも。
****ロヒンギャ難民270人、新型ウイルスで2か月漂流 マレーシアが拘束****
マレーシアは9日、ランカウイ島沖を漂流していたイスラム系少数民族ロヒンギャの難民約270人を拘束した。ロヒンギャが乗った船は、新型コロナウイルス対策のロックダウンの影響で2カ月近く沖合にとどまっていた。
拘束されたロヒンギャ難民は今年4月初旬にバングラデシュ南部を脱出した。
マレーシア湾岸警備隊が8日、ロヒンギャが乗った破損したトロール船を拿捕(だほ)すると、数十人のロヒンギャが海に飛び込んで岸まで泳ごうとした。
近年、多数のロヒンギャが、迫害を受けるミャンマーから逃れている。
その多くは隣国バングラデシュへ向かい、コックスバザールに難民キャンプを設置している。この難民キャンプでは約100万人のロヒンギャが暮らしている。
中には近隣のイスラム教国マレーシアを目指す者もいる。マレーシアは安全な避難先とみなされるようになっている。
過去には密入国業者が数万人のロヒンギャを不法にマレーシアへ入国させていた。しかし現在では、マレーシアはCOVID-19(新型ウイルスの感染症)の世界的流行を理由に、ロヒンギャ難民のボートの着岸を拒否している。
船内から遺体も
マレーシア沿岸警備隊は、リゾート地ランカウイ島の沖合いで発見した難民ボートを国際水域まで追い出そうとしたと、AFP通信が報じた。
しかし沿岸警備隊が近づくと、53人が海へ飛び込んだという。
海上パトロールを監督するタスクフォースの声明によると、船内でロヒンギャ216人と女性1人の遺体を発見したという。
難民には食べ物と飲み物が与えられ、船はランカウイ島へと運ばれた。島では269人全員が拘束された。
タスクフォースの声明によると、調査の結果、ロヒンギャが乗っていた船(トロール漁船と報じられている)が「故意に」破壊されていたことが判明した。船が破損していたため、「国際水域まで追い出すのをやめる」ことになったという。
この船に乗っていたロヒンギャと断続的に接触していた人権活動家たちは、バングラデシュ南部を出発した当初は約500人が乗っていたと考えている。その約半数以上が拘束されたことになる。残りは沿岸警備隊の目をかいくぐり、すでに岸に到達した可能性もある。
今年に入って22隻を追い払う
今年、何隻の船がロヒンギャを乗せてマレーシアへ渡ろうとしたのかは明らかではない。しかし当局によると、22隻を追い払ったという。多くの場合、船は小型で狭く、数百人が安全ではない状況下でぎゅうぎゅう詰めになっているという。
今年初めに同様の脱出を試みたあるロヒンギャ女性は、BBCに対し、自分が乗っていた船には水や衛生設備などの基本的な設備が不足していたと述べた。食べ物や飲み物も不足していたという。
また、乗組員は乗船者が死んだことを知られないように、死体を海に捨てる際にはエンジンを両方回し、水しぶきの音をかき消していたと述べた。
今年初め、数百人がぎゅうぎゅう詰めになった船で、少なくとも28人のロヒンギャ難民が死亡した。この船はマレーシアに到達できず、数週間にわたって海上を漂流していた。(後略)【6月10日 BBC】
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拘束された難民は送還されると発表されています。【6月9日 TRTより】
日本もクルーズ船で経験したように、対応は難しいものがあります。
ただ、海に押し戻し、あとは知らない・・・というのも・・・。(一定の環境が確保されたクルーズ船と航行すら危ぶまれる難民船では事情も異なります)
甘い対応をしたら難民が押し寄せ収拾がつかなくなる・・・というのは分かりますが、だったら難民発生源のミャンマー政府にASEANとしてもっと毅然たる対応で事態の改善を迫るべきでしょう。
マレーシアは4月17日にも、海上ルートで同国に入国しようとしたロヒンギャ族の避難民200人について、新型コロナウイルスの危険により上陸を拒否したと発表していますが、バングラデシュ当局が保護した際には“少なくとも32人が死亡していた”とも。
****新型コロナ ロヒンギャ32人、上陸断られ死亡 マレーシア・タイで****
ロイター通信は17日までに、バングラデシュ当局が15日、同国沖合で約2カ月間漂流していた船を救助したと報じた。
船にはイスラム教徒少数民族ロヒンギャが約400人乗っており、マレーシアとタイで難民と認められず上陸を拒否され、保護されるまでに少なくとも32人が死亡していた。新型コロナウイルス予防を理由に上陸を拒まれた可能性があるとみられる。
一方マレーシア軍は17日、約200人のロヒンギャが乗った船を16日に同国北部ランカウイ沖合で発見したが、新型コロナの感染拡大を防ぐため入国を拒否し追い返したと発表した。船の行方は明らかにしていない。マレーシア政府は感染拡大を受け、先月18日から外国人の入国を原則禁止している。
マレーシア軍は声明で「不法移民の新たなクラスター(感染者集団)の発生を防ぐためだ」と説明。フェイスブックに公開した船の写真には、子どもを含む多数の人々が窮屈そうに乗り合わせている姿が写っている。【4月18日 毎日】
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【劣悪な居住・労働環境がクラスターを発生させる外国人労働者 水面下に潜ってしまう不法移民感染者】
船内は三密の極限状態にありますが、上陸しても、その居住・労働環境が劣悪なのは変わりません。
シンガポールで、そうした劣悪な環境にある外国人労働者から新型コロナのクラスターが発生し、第2波に襲われていることは以前取り上げたことがありますが、マレーシアも同様の状況です。
自国民が就きたがらない厳しい環境の労働は、合法・違法の外国人労働者が担う形で社会・経済が回っているとも言えます。
****外国人の感染防止徹底、不法就労は強制送還****
マレーシア政府は、入国管理局の収容施設や建設現場での、外国人の新型コロナウイルス感染拡大防止に注力する。不法就労者は強制送還する。
同国内で新型コロナの新規感染者数は今月4日以降は1日当たり2桁で推移していたが、入国管理局の入国者収容所で集団感染が確認され、25日以降は3桁が2日続いたためだ。27日付地元各紙が伝えた。
イスマイル・サブリ・ヤアコブ上級相(治安担当)は26日、不法就労者については収容所に入れる前に新型コロナの検査を実施し、陽性の場合は病院で治療を施し、陰性の場合は強制送還することを閣僚会議で決定したと明らかにした。強制送還に向け、外務省が各国の大使館に協力を求めていく。
保健省によると、首都圏にあるブキジャリル、スメニ、セパンの3カ所の入国者収容所では、26日までにマレーシア人職員1人を含む383人の陽性が確認された。国籍別ではバングラデシュ、インド、インドネシア、ミャンマー、パキスタン、中国などが多い。
(中略)クアラルンプールとスランゴール州のレッドゾーン(新型コロナ感染者が多い地域)にある建設現場再開に外国人労働者の検査を義務付けたことで、これまでに2万7,383人を検査し、感染者を確認できたと説明。
ただ、建設作業員の寮では1~2メートルの社会的距離を確保できていない所が多いとし、雇用主に感染防止策の徹底を呼び掛けた。
ファディラ・ユソフ公共事業相は、条件付き活動制限令下で操業するための標準作業手順書(SOP)を建設作業員の寮と建設現場で順守しない建設会社には事業再開を認めないとあらためて強調した。【5月28日 NNA ASIA】
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検査態勢や労働環境の整備のほか、基本的には居住環境の改善が必要でしょう。
****シンガポール、6万人の出稼ぎ労働者向け住宅を年末までに建設****
シンガポール政府は、国内の約6万人の出稼ぎ労働者のために新たな住居施設を年末までに建設する計画。出稼ぎ労働者が密集して生活する寮で新型コロナウイルスの集団感染が発生したことに対応する。
人口約570万人のシンガポールでは、新型コロナの感染者が3万5000人を超えており、アジア地域で特に感染者が多い。主に東南アジアから来ている30万人以上の出稼ぎ労働者が共同生活を送る寮でウイルス感染が急速に広がったことが背景にある。
政府は仮設住宅の建設を急ぐほか、使われていない学校や工場なども住居施設にする計画という。
今後は1部屋当たりのベッド数や洗面所などを共有する人の数を減らすなどして、出稼ぎ労働者の居住環境の改善も図る。
長期的には、複数の寮を建設して最大10万人を収容する計画。全ての寮を建設するのは数年先になる見通しだが、今後1─2年で約11の寮の建設を目指す。【6月2日 ロイター】
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ロヒンギャ難民船の記事で“残りは沿岸警備隊の目をかいくぐり、すでに岸に到達した可能性もある。”とありますが、こうした違法入国者になると問題は更に難しくなります。
違法入国者はたとえ感染しても、病院などで治療をうけようとすると拘束・送還されることにもなるので、感染を隠し、更なる感染拡大を招くことにもなります。
【バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプ 難民の強制移送への不安が防疫対策の障害に】
100万人ものロヒンギャ難民が三密状態・劣悪な衛生環境で暮らすバングラデシュの難民キャンプでも新型コロナの感染者・死者が発生しており、その感染拡大が懸念されています。
****ロヒンギャ難民、感染確認 バングラのキャンプ、拡大懸念 新型コロナ****
ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャが暮らす隣国バングラデシュの難民キャンプで14日、新型コロナウイルスの初の感染者が確認された。
100万人以上が密集して暮らしており、感染の拡大が懸念されている。一方で、新天地を目指した船が着岸を拒否されて漂流するなど、ロヒンギャをめぐる状況は厳しさを増している。
バングラデシュ南東部のコックスバザールにあるキャンプでは、ミャンマーでの迫害から逃れてきたロヒンギャが、竹や防水シートで作った簡素な家で暮らす。政府によると、感染が確認された難民は隔離し、接触歴や周囲の感染の有無を調べているという。
国内での感染拡大に伴って政府は4月上旬、コックスバザールを封鎖し、食料配布や保健衛生以外の活動を禁止。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)もキャンプでせっけんを配るなどしてきたが、感染は防げなかった。衛生状態が悪く、爆発的な感染拡大の恐れも指摘される。
現地のUNHCR渉外担当の細井麻衣さんは「感染が拡大しないよう、支援を強化しなければならない。ただ、職員がキャンプ内に入って十分に活動できないのが壁になっている」と語る。
新型コロナの影響はこれだけではない。マレーシア軍は4月16日、約200人のロヒンギャが乗った船の領海侵入を阻止したと発表した。「彼らの住む環境から考えて、コロナのクラスターを発生させる可能性がある」との理由からだ。
さらにマレーシア政府は4月末、「難民を受け入れる法律はない」との声明を出した。多くのロヒンギャがイスラム教国のマレーシアを密航船などで目指してきたが、こうしたルートが閉ざされる可能性がある。
人権団体によると、マレーシアなどで着岸を拒否された難民船の漂流が相次いでおり、救助されるまでに多くの死者が出ている。
ベンガル湾を数週間にわたって漂流していた船からバングラデシュ海軍に救助された約280人のロヒンギャは今月8日、ほとんど人が住んでいない島に移送された。政府関係者は「難民キャンプはすでに飽和状態で、これ以上は受け入れられない。コロナ感染を拡大させるリスクもある」と話す。
政府はこの島へのロヒンギャの移送を数年前から計画してきたが、サイクロンや豪雨に見舞われることが多く、「人が住める環境ではない」との批判が上がっていた。【5月16日 朝日】
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上記記事にある“ほとんど人が住んでいない島への移送”は、他のキャンプ内難民に不安を与え、「感染が明らかになったら移送される」という不安から感染者が隔離から逃げ出すという事態にもなっています。
****ロヒンギャ難民のコロナ感染者が隔離逃れ 島への移送恐れて バングラ****
バングラデシュで暮らすイスラム系少数民族ロヒンギャの難民のうち、新型コロナウイルスに感染した人々が、ベンガル湾に浮かぶ島へ移送されることを恐れ、隔離から逃れていることが分かった。ロヒンギャの指導者たちが4日、明らかにした。
この指導者たちによると、ロヒンギャ難民から初めて新型コロナウイルス感染症の死者が報告された2日以降、新型ウイルスに感染した難民少なくとも2人が検査で陽性反応を示した後に行方不明になっているという。
バングラデシュの国境地帯にある複数キャンプで暮らすロヒンギャ難民約100万人は、そのほとんどが2017年のミャンマー軍による弾圧から逃れてきた。そして新型コロナウイルスが、彼らに新たな窮状をもたらしている。
これまでに確認された感染者数はわずか29人だが、約1万6000人がキャンプ内の隔離エリアにいる。
キャンプ内の検査実施件数は現時点では不明だが、保健当局幹部によると、検査で陽性反応を示した2人が「隔離病棟から逃れた」という。
また、難民たちは感染者がベンガル湾に浮かぶブハシャンチャール島へ移送されると信じていることから、過去2日間でわずか20人しか検査を受けることに合意しなかったという。
これについて指導者のヌルル・イスラム氏はAFPに対し、「大規模なパニックを生み出している」と話した。
バングラデシュ当局はブハシャンチャール島に10万人を収容できるキャンプを設置することを長らく望んでおり、これまでにロヒンギャ難民306人を移送している。
匿名で取材に応じた保健当局者は、「ロヒンギャたちはすくんでいる」「われわれは彼らに対してどこにも移送されないと伝えている」と話した。
複数のロヒンギャ人指導者たちはまた、ブハシャンチャール島に難民306人が移送されたことが、感染者は誰でも合流させるために移送されるとのうわさを招いたと指摘。
指導者の一人であるアブ・ザマン氏は、ウイルス検査を受けることを人々は恐れていると語った。 【6月7日 AFP】
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