孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ペルー  中国への接近 中国資本で建設が進むチャガタイ港 アメリカの「裏庭」に変化

2024-06-19 22:36:59 | ラテンアメリカ

(中国企業による建設が進むペルー・チャンカイ港は水深が約18メートルあり、南米の太平洋側では初の大型船受け入れが可能な港となる【6月19日 WSJ】)

【政治混乱】
南米ペルーは日本でニュースになるのは日系人フジモリ元大統領の動向などで、あまり馴染みが深い国ではありません。

政情はいささか混乱しています。
議会を解散しようとした前大統領が公共事業の不正疑惑で議会によって解任され、副大統領だったボルアルテ氏が女性大統領となっていますが、前大統領解任について南米左派政権はボルアルテ氏を「右翼的なクーデター勢力」として非難しています。

また、ボルアルテ大統領にも収賄疑惑が。

****ペルー大統領を収賄告訴、議会で罷免決議も****
南米ペルーのボルアルテ大統領が高価な腕時計などを受け取るなど収賄を行ったとして最高検は27日、憲法に基づく告訴状を提出した。国家的スキャンダルで、議会審議が進めば罷免決議につながる可能性がある。

疑惑を巡って大統領は既に、控えめな公務員給与に見合わないと思われるロレックスの時計や宝飾品を数個使用したとして、事情聴取や強制捜査を受けている。ただ、大統領は、ある地方知事から借りたものだと主張し、不正行為を否定している。

世論調査で大統領支持率が一段と下がる中での正式な告訴状提出となった。政権発足から2年たたないが、憲法に基づく告訴は2度目。

前回は、不法な議会解散を試みたカスティジョ前大統領が罷免され身柄を拘束された後の混乱で少なくとも40人が死亡した際、当時副大統領だったボルアルテ氏の対応が問題視され、最高検が昨年11月に告訴に踏み切っていた。

こうしたことからペルーでは過去数年間、政治が一段と混乱している。【5月28日 ロイター】
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ロレックスの腕時計は推定数百万円とか。

【中国への接近 アメリカは懸念】
上記のような政治混乱はありますが、ボルアルテ大統領は積極的な対中国外交を今も行っています。

****ペルー大統領が今月訪中、習主席と会談 港湾などの企業幹部とも****
ペルーのボルアルテ大統領は6月中に中国を訪問し、習近平国家主席と会談する。鉱業、ハイテク、港湾運営などの企業幹部らとも面会する。

習氏とは6月28日に会談する。ペルーは今年のアジア太平洋経済協力(APEC)議長国。11月にリマで開く首脳会議に先駆け、習氏と会うことになる。

ボルアルテ氏は華為技術(ファーウェイ)、比亜迪(BYD)、中遠海運港口の幹部らとも面会する。【6月6日 ロイター】
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こうしたペルーの対中国接近にアメリカなどは懸念を示しています。

****ペルーによる中国投資呼び込み、米国の反感は予想せず=首相*****
ペルーのアドリアンセン首相は17日、近く予定されているボルアルテ大統領の中国訪問や、中国企業によるペルー向け投資拡大が、米国の「恨み」を買うことはないとの見方を示した。

ボルアルテ氏は今月末に訪中し、習近平国家主席と会談するほか、通信機器ファーウェイ(華為技術)や電気自動車BYD(比亜迪)といった中国企業の幹部と面会する。

特に南米とアジアの主要貿易拠点として期待されるペルーのチャンカイ港の各種設備建設を主導している中遠海運港口有限公司(コスコ・シッピング・ポーツ)の幹部とは、真っ先に会うことになっている。

ペルーで近年、中国企業の投資が増加の一途をたどっていることは西側諸国の懸念要素となっており、中でもチャンカイ港整備計画は中国に対抗して南米投資を進めたい米国や欧州にとって「目の上のこぶ」的存在と言える。

しかしアドリアンセン氏は「米国などの我が国の友人たちが、中国勢の(ペルー向け)投資を呼び込んだからといって憤慨するとは考えていない」と語った。【6月18日 ロイター】
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【チャンカイ港 アメリカが長年裏庭と考えていた資源豊かな地域で、その影響力に変化が生じる可能性】
チャンカイ港整備計画・・・・中国の南米進出の橋頭堡となるような事業で、アメリカは神経をとがらせています。

****中国の巨大港、米国の「裏庭」で建設進む****
中南米とアジアの貿易が加速し、米国の鼻先に中国の旗が立つ可能性も

南米の太平洋岸の静かな町に、中国が巨大港を建設している。米国が長年裏庭と考えていた資源豊かな地域で、その影響力に変化が生じる可能性がある。
 
水深が深いチャンカイ港の周りには、木製の小舟で釣りをする漁師やペリカンの姿がある。中国の習近平国家主席は年末に予定されている同港の落成式に出席するとみられており、実現すれば新型コロナウイルス流行後では初の南米訪問となる。中国がこの港をいかに重要視しているかがうかがえる。
 
中国の国有海運最大手、中国遠洋海運集団(コスコ・グループ)が過半の権益を握るチャンカイ港が開港すれば、アジア・南米間の貿易は加速し、ブルーベリーや銅など、あらゆる品目の太平洋横断にかかる日数が短縮され、いずれは遠くブラジルの顧客にも恩恵が及ぶだろう。
 
世界各国が中国製の安価な工業製品の大量流入に身構える中、同港の開港により電気自動車(EV)などの輸出品の新たな市場が生まれる可能性がある。中国は大半の南米諸国にとって最大の貿易相手国だ。
 
米国は、南米初の本格的な世界的商業拠点となり得る港を中国が掌握すれば、同国がこの地域の資源に対する支配力を一段と強めるのみならず、米国の近隣諸国への影響力を深め、いずれ米国のひざ元に軍を駐留させかねないと警戒する。
 
「(チャンカイ港を掌握することで)中国はこの地域から資源を根こそぎ手に入れるのが一層容易になる。これは懸念すべきことだ」。米南方軍を率いるローラ・リチャードソン陸軍大将は5月、フロリダ国際大学で開かれた安全保障会議でこう語っていた。
 
元米政府関係者は同港について、米国がウクライナや中東などへ資源を集中させている隙に中南米に外交的空白が生じたことを裏付けていると指摘する。
 
元米国務省高官で、現在はシンクタンク「米州評議会(COA)」のワシントン事務所責任者のエリック・ファーンズワース氏は「状況が一変する」とし、「これまでにない大規模なやり方で、中国が南米で世界市場への玄関口になる。そうなれば単に商業上ではなく戦略上の問題にもなる」と述べた。
 
ペルー首都リマの約80キロメートル北に位置する35億ドル(約5500億円)規模のチャンカイ港は、中国の銀行融資で資金を賄っている。水深が約18メートルあり、南米の太平洋側では初の大型船受け入れが可能な港となる。

この地域には大規模なコンテナ取り扱い能力のある港がある。企業はペルー・中国間を直接行き来する大型船で貨物を送れるようになり、メキシコや米カリフォルニアで積み替える必要がなくなる。
 
コスコはチャンカイ港について、純粋に貿易を促進するためのものだと主張している。
同社のペルー副ゼネラルマネジャー、ゴンサロ・リオス氏は「これは開発を促進するための商業プロジェクトだ」とし、「隠すことは何もない」と述べた。
 
2019年に港湾建設が合意に至ると、中国国営メディアは早々に、ペルーが中国・南米間の貿易拠点になり、海底ケーブルの敷設といった中国の他の重要課題でも協力を得られるかもしれないと大々的に報じた。
 
ペルーは米国の心配は無用との立場だ。外国軍を駐留させるには、港湾運営者ではなく議会の承認が必要となる。
ペルーのハビエル・ゴンサレスオラエチェア外相は、同国で中国の存在感が増すことを懸念しているなら米国も投資を増やすべきだとし、投資する人は「誰でも歓迎する」と述べた。
 
同氏はインタビューで、「米国はほぼ世界中で存在感を示し、大きな主導権を握っているが、中南米ではそうでもない」と指摘。「いわば非常に大切な友人なのに、めったにそばにいてくれない人だ

コスコが2016年にギリシャの港湾の運営権を取得したことで、中国は欧州への足掛かりを得た。中国企業は現在、合わせて国外の港湾100カ所ほどでターミナルを管理・運営している。米バージニア州ウィリアム・アンド・メアリー大学のエイドデータ研究所によると、中国企業は2000~21年に少なくとも46カ国で、工費として合わせて300億ドル近くを融資した。
 
中国は港湾への投資を通じて、投資を切望する国に対して外交的な影響力を持つようになった。中国海軍の艦艇は、自国企業が所有・運営する世界各地の港の3分の1余りに寄港している。
 
ただ、こうした港湾がひそかに中国の軍事拠点化しているわけではなく、艦艇の寄港は式典の意味合いが強い。

また、新たな市場で貿易拠点を確立するには何年もかかるため、中国が進める港湾建設の商業上の費用対効果が判明するのはまだ先だろう。中国の港湾を巡る喫緊の懸念は、モザンビークの債務やケニアの環境破壊の兆候などで顕在化している。欧州でも、現地の利益が後回しにされていることが明らかになりつつある。
 
米国は、チャンカイなどの重要インフラを中国が掌握することへの懸念について、ペルー政府高官と話し合ってきた。協議の内容を知る両国の元政府高官が明らかにした。米国が懸念しているのは、中国の民間企業と政府、特に軍との関係だ。港湾やその設備は民生用と軍用の両方に使用できる。
 
カーネギー国際平和財団のアイザック・カードン上級研究員によると、中国の国内法は自国企業に対し、事業をする上で国防の必要性を考慮することを義務付けている。これは港湾ターミナルで艦艇に利用を譲り、有用そうな情報があれば共有し、防衛や動員を支援することを意味するという。
 
元米外交官でペルーの著名実業家でもあるジョン・ユール氏は「米国人は少し眠っていた」が、「突然目を覚ました」と話す。
 
11月中旬にはその様子を目の当たりにすることになるかもしれない。アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するため、習氏がペルーを訪問するとみられている。米大統領選挙の直後に予定されているこの会議にジョー・バイデン大統領が出席しようとしまいと、西半球で中国の影響力を拡大するためのプロジェクトを引っ提げた習氏の独壇場になる公算が大きい。
 
ペルーはチャンカイ港をきっかけに、南米を舞台にした二大超大国の対立に巻き込まれることになった。
 
中南米最大の経済国であるブラジルは、自国の5G(第5世代移動通信システム)網から中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)を排除するよう米国から求められたものの、これをはねつけ、中国との半導体開発に期待をかけている。

コロンビアの首都ボゴタでは中国企業が地下鉄を建設中だ。ホンジュラスは中国からの積極的な投資を期待して台湾と断交した。アルゼンチンでは、EVに不可欠なリチウムの鉱山を中国が買い占めている。
 
ペルーは、港湾や銅の採掘、電力などあらゆる分野で中国の投資を進んで受け入れた。いずれリマの電力供給の大半を中国企業が握ることになる。
 
中国・中南米関係に詳しいフロリダ国際大学のリーランド・ラザルス氏は「ペルーは中国への経済依存を強めており、その経済支配を受けやすくなっている」と指摘した。

中国政府に批判的な立場を取る団体「ダブルシンク・ラボ」と「チャイナ・イン・ザ・ワールド・ネットワーク」が作成した指標によると、中国の影響を最も受けている国のランキングでペルーは5位。国内では中国製の自動車が目につく。

リマの緑豊かなミラフローレス地区では自治体が、ジョン・F・ケネディ元米大統領にちなんで名づけられた公園の近くに、太平洋を見下ろす「チャイナ・パーク」を設置した。両国の絆の深化を祝して中国から持ち込まれたパーゴラとライオン像が置かれている。
 
チャンカイ港にはスペイン語と中国語の標識が立ち並ぶ。長さ約1.6キロメートルのトンネルが完成すれば、貨物トラックが町を迂回(うかい)できるようになる。自動クレーンや無人車両を導入し、エンパイアステートビルほどの高さがある世界最大級の船に貨物を運搬する予定だ。(中略)
 
中国にとって特に魅力的なのは、ブラジルにこの港を利用してもらうことだ。中国は09年に米国を抜き、ブラジル最大の貿易相手国になった。だが大きな障害がある。ブラジルが別の海に面していることだ。
 
中国はブラジルの鉄鉱石と大豆の約3分の2を購入しているが、輸送するには東回りで大西洋を渡るか、北上してパナマ運河から太平洋に出る必要がある。
 
チャンカイ港を利用すれば、熱帯雨林地帯にあるマナウス市から中国への輸送時間を半分に短縮できる。ペルーの太平洋大学の経済学者オマール・ナレア氏はこう指摘する。
 
ただ、アマゾンの熱帯雨林とアンデス山脈を越えるには難関がある。ペルーとブラジルを結ぶ幹線道路は1本あるが、はるか南に位置している。ペルーはそこからチャンカイまで幹線道路と鉄道を引く計画だとしている。
 
ブラジルのレナン・フィーリョ運輸相は「これは全員が勝者になれるプロジェクトだ」とした上で、「ただし非常に複雑な部分もある」と話した。【6月19日 WSJ】
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“中国企業は現在、合わせて国外の港湾100カ所ほどでターミナルを管理・運営している。米バージニア州ウィリアム・アンド・メアリー大学のエイドデータ研究所によると、中国企業は2000~21年に少なくとも46カ国で、工費として合わせて300億ドル近くを融資した。”・・・・・中国の海外進出には目を見張るものがあるのは認めない訳にはいきません。

【競争力低下の日本】
一方、日本は・・・・

****世界競争力ランキングで「日本は過去最低」と中国メディア、日本人の反応も紹介****
スイスに本部を置くビジネススクール・国際経営開発研究所(IMD)が18日に発表した世界競争力ランキング(2024年版)について、中国メディアの環球時報は19日、「日本は38位で過去最低だった」と報じた。

同ランキングは「経済パフォーマンス」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ」の4項目を基に競争力を算出したもので、今回は67の国と地域が対象となった。

1位は三つ順位を上げたシンガポールで4年ぶりの首位。2位はスイス(前回3位)、3位はデンマーク(同1位)、4位はアイルランド(同2位)、5位は香港(同7位)、6位はスウェーデン(同8位)、7位はUAE(同10位)、8位は台湾(同6位)、9位はオランダ(同5位)、10位はノルウェー(同14位)だった。日本は前回から三つ順位を下げて過去最低の38位だった。

環球時報の記事は日本の報道を引用し、「日本はG7の中では後ろの方(イタリアに次いで2番目に低い)であり、『ビジネスの効率性』に関する項目が全面的に低評価だった。特に『起業家精神』と『企業の俊敏性』では最下位だった」とした上で、IMDが「歴史的な円安が日本国内の年金受給者の購買力低下や財政不均衡などの問題を引き起こしている」と指摘したことを伝えた。

そして、日本のネットユーザーの反応として「国際通貨基金(IMF)の1人当たりGDPを見るに、日本の没落度合いは尋常ではない」「『起業家精神』と『企業の俊敏性』が低いことがすべてを物語っている。失敗を恐れるなと言いながら、いかなる失敗も許されない」「この30年の日本の基幹産業が崩壊しようとしており、世界をリードしてきた製品やサービスを失いつつある。明らかに衰退しているのに、政治家らは数字のマジックで成長しているように見せかけている」などのコメントを取り上げて紹介した。

なお、その他の国では米国が12位(前回9位)、オーストラリアが13位(同19位)、中国が14位(同21位)、カナダが19位(同15位)、韓国が20位(同28位)、ドイツが24位(同22位)、インドが39位(同40位)などとなっている。【6月19日 レコードチャイナ】
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安心安全を呪文のように唱え「いかなる失敗も許されない」内向き姿勢・・・・長期衰退は否めません。もちろん
多くの国民がそこそこの生活を営める安定感はありますが・・・・それもいつまで持続できるのか・・・・。
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デフレマインドが強まる中国 高賃金・物価高のオーストラリア

2024-06-18 22:49:31 | 経済・通貨

(【1月16日 DIAMONDonline】)

【デフレマインドのもとでの経済停滞が続く日本】
停滞が続く日本経済は長らくデフレマインドが定着してきたと言われています。

今回の4万円の手額減税でデフレマインド脱却を実現したいとか、いやすでに物価は上昇し始めておりデフレマインドから脱却しているとか、いやいや個人消費は依然として軟調でデフレマインド脱却は容易でないとか・・・・様々な指摘・意見があります。

****デフレマインド*****
「物価はこの先も上昇しない、またはこの先は下がっていく」と考えることで、「デフレ心理」「デフレ期待」とも呼ばれます。デフレ(デフレーション)とは、モノやサービスの価値よりお金の価値の方が高くなる、つまり、モノやサービスの値段が下がる状態をいいます。

たとえば、財布のなかに1万円があって、店でお気に入りのカバンが1万円で売られているのを見つけました。いつほかの人が買ってしまうかわかりません。しかし、デフレマインドが定着していると、少し待てばカバンは9000円で買えると考え、すぐには買わないでしょう。

世の中にデフレマインドが定着していれば、「他の人も同じように考えて、すぐに売れることはない」と考えますから、急いで買わないと売れてしまう心配もしないわけです。

これは会社でも同じです。会社に余分な資金がある時、新たな工場を作るために設備投資をしても、そこで作った製品が売れなければ投資が無駄になって損をしてしまいます。デフレ下では損するかもしれないリスクを背負ってお金を使って設備を増やすよりも、金庫に入れておくだけでお金の価値は上がります。

デフレマインドの下では何もしないのが一番賢いという雰囲気になって、投資は先送りされてしまいがちです。従業員の待遇でも同じです。物価は下がっている(お金の価値は高まっている)のだから、額面上の給料(賃金)も上がらないのが当たり前の時代が長く続いてきたわけです。

しかし、デフレマインドが定着して消費や投資が先送りされると、値下げして割安感をアピールしないとモノやサービスは売れなくなります。価格が下がると消費者の間では一段と値下げ期待が広がって、さらに消費や投資が手控えられてしまいます。

値下げが値下げを呼ぶ悪循環「デフレスパイラル」に至ってしまうと、企業の売り上げは減っていきます。政府や日本銀行が「デフレ脱却」を掲げるのは、デフレが続くと経済が縮小してしまうからです。

これを防ぐには、世の中に出回るお金の量を増やして、お金の価値よりモノやサービスの値段価値が徐々に高まって、「持っているお金を寝かせておくより、消費や投資に振り向けた方がいい」とみんなが思うようにすることが必要です。

世の中に出回るお金の量を増やせば、お金の価値がモノやサービスの値段より低くなるだろうと考えた日本銀行は、2013年からこれまでとは次元が違う「異次元の金融緩和」を行ってきました。

それでも企業や消費者にいったん染みついたデフレマインドはなかなか消えませんでした。モノやサービスの値段が上がり始めたのは、主に海外から輸入している資源や食料の国際価格が大きく上昇し始めた2年ほど前からです。

先ほどの例でいえば、この2年で消費者からデフレマインドが消え、逆に「店にあるお気に入りのカバンはいずれ値上がりして、1万円では買えなくなってしまうかもしれない」というインフレマインドが生まれてきたわけです。

もちろん、物価が上がっても給料(賃金)が上がらなければ暮らしを切り詰めることになって、カバンを買うこと自体をあきらめてしまいかねません。そうなると景気は冷え込んでしまいます。

政府が賃上げをした企業の法人税を減らし、日銀も植田和男総裁が「物価上昇を上回る賃上げを見極めるまで、今の金融緩和を続ける」と約束しているのは、企業が従業員の賃金を大幅に上げて消費者のデフレマインドを完全に消し去り、物価と賃金がともに上がっていく好循環を生み出そうとしているからです。

企業の経営者や消費者の心理がデフレからインフレへと切り替われば、企業は新しいモノやサービスをどんどん作り、消費者も買い控えせずにどんどん買うようになることが期待できます。そうなれば世の中にお金が回り、消費者が実感できる形で景気はよくなっていくでしょう。

今の物価高は暮らしにとっては打撃ですが、デフレから脱却する大きなチャンスとみることもできるわけです。ただ、それには2024年の春闘で、消費者物価の上昇率(3~4%)を上回る率の賃上げが実現することが不可欠といえそうです。
【1月24日 読売】
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2%程度の適度な物価上昇でデフレマインドから脱却し、賃上げで好循環をつくっていく・・・・話としてはわかるのですが、実質賃金が長期的に目減りする日々の暮らしの中で少しでも安いものを購入して家計をやりくりしたいと苦労している立場からすると、物価上昇を期待するよううな論調は生活感覚からして釈然としないものも感じます。

【低価格競争に走る中国経済】
経済停滞が指摘される中国も、日本と似たようなデフレマインドの悪循環に陥りつつあるとの指摘も。

****中国経済がはまる「日本型デフレ」の泥沼...消費心理「どん底」で安売り店が躍進 デフレマインド定着の危険****
中国では一部の小売業者が低価格を売りに積極的にシェアを拡大し、大きな利益を手にしている。しかし、こうした経営戦略が厳しい価格競争を一段と激化させており、中国が慢性的なデフレに陥るのではないかとの懸念が高まっている。

中国の安売り業者は、不動産危機や高い失業率、暗い経済見通しで消費心理が落ち込む中、何とか需要を掘り起こそうとコーヒーから自動車、衣料品に至るまで、あらゆるものを値下げしている。

低価格帯の通販「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」のような企業は、電子商取引大手アリババなどライバルに対抗するために値下げに踏み切り、売上高が増加した。

しかしエコノミストは、こうした戦略が成功したことによって、中国でも消費者の間に日本型のデフレマインドが定着し、慢性化するのではないかと危惧している。

小売業者は何よりも価格で勝負するため、商品の納入業者は厳しいコスト圧縮を強いられ、利益率が圧迫される。その結果、賃金の伸びが鈍ったり、単発で仕事を請け負う低賃金の「ギグワーカー」への依存度が高まったりして家計の需要が打撃を受ける。

豪メルボルンにあるモナシュ大学のヘリン・シ教授(経済学)は、「この状況が続けば中国は悪循環に陥るかもしれない。付加価値の低い消費がデフレを引き起こし、利益率が悪化して賃金が下がり、それがさらに消費を押し下げるという負の連鎖だ」と警鐘を鳴らす。

一方、直近の決算シーズンで安売り業者は利益が市場予想を上回り、競合他社を凌駕した。ピンドゥオドゥオを運営するPDDホールディングスは131%の増収を記録。フードデリバリーアプリの美団は25%、ディスカウントストアの名創と瑞幸咖啡(ラッキンコーヒー)もそれぞれ26%、42%の増収だった。

<安売り業者間の熾烈な底値競争>
消費者心理がどん底に近い環境では、価格こそが王様だ。

中国の自動車メーカーは国内需要の低迷を受けて、ほぼ2年にわたり価格競争を繰り広げており、一部のディーラーや自動車金融会社はこの2カ月間に頭金なし、さらには金利ゼロなどのローンプログラムを開始した。

米スターバックスは、「安売り業者間の熾烈な競争」(ラクスマン・ナラシムハン最高経営責任者)のせいで第1・四半期に中国での売上高が8%減少。この数カ月で割引クーポンの利用を増やし、価格をラッキンコーヒーに接近させている。

アリババの国内電子商取引部門であるタオバオと天猫(Tモール)、およびネット通販大手の京東集団(JDドットコム)は売上高の伸び率が1桁台だったが、いずれも決算後の電話会見で価格競争力が今後の成長のカギになると説明した。

JDドットコムの創業者、リチャード・リュー氏が従業員に送った社内メモに、同社が「肥大化」していると書かれていたことから、JDドットコムが競争激化に対応して人員削減に踏み切るのではないかとの憶測が流れている。これはまさに国内需要の回復に不可欠な策とは正反対の動きだ。

中国欧州国際ビジネススクール(上海)のアルバート・フー教授(経済学)は「長期的には価格競争によってさまざまな産業で弱小プレーヤーが淘汰され、生き残った企業は価格を引き上げてサプライチェーンに一息つかせることができるようになるかもしれない」と話した。

ただ、こうした展開が可能になるのは、価格競争が引き起こす市場からの業者撤退を補うだけの雇用と所得が他の産業で創出された場合に限られるとくぎを刺す。

フー氏は「デフレは深刻な問題であり、日本は30年以上もこれと闘ってきた。重要なのは賃金の伸びだ」と強調した。【6月15日 Newsweek】
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【オーストラリア 「コーヒーを運ぶスタッフに1時間40ドル(6280円)払わなければならない」】
一方、世界有数の賃金上昇、同時に進む物価高騰のさなかにあるのがオーストラリア。

****オーストラリアの最低賃金が更に上昇、ニューヨークよりも高額に****
7月から新会計年度となるオーストラリアでは、年度が変わる前までに新年度から施行される様々な法令や規則等の変更や改正が発表される。その中でも、とくに注目を集めるのが「最低賃金」の改正だ。

今年も6月3日に、フェアワーク・コミッション(公正労働法の下に設置された公正な労働を裁定する独立機関)から、2024年7月からは昨年度より3.75%アップの『24.10豪ドル(約2,510円)』とすることが発表された。

これは、英国の最低賃金11.44ポンド(約2,287円)や米ニューヨーク州の15米ドル(約2,360円)よりも高く、同じニューヨーク州の中でも生活費が高いことから最低賃金も高くなっているニューヨーク市の16米ドル(約2,516円)とほぼ同額になったという。

ここ数年、最低賃金の高さで世界 1、2位を争ってきたオーストラリアだが、さらにその最低ラインが引き上げられたことになる。当然ながら、所得水準も経済協力開発機構(OECD)加盟主要国の中でトップクラスだ。これは円安とは関係ない。

24.10豪ドルは、全国標準の最低賃金
最低賃金と一口に言うが、この24.10豪ドルは、あくまでもオーストラリア全土における標準的な最低賃金として定められたものであり、この額を下回ってはいけないというものだ。

しかもこの額は、正規雇用やパートタイムのように保険や年金、有給などの社会保障が付く雇用形態で平日の一般的なオフィス・アワーに働く場合であり、そういった社会保障がないカジュアルワーク(日本でいう単発のアルバイトや派遣などの雇用形態に近い)の場合は、雇用主はこの金額の25%増しで支払わなければならない。

また、オーストラリアでは、業界や職種ごとに最低賃金が定められており、ほとんどの職種でこれよりも高い設定になっている。

例えば、ファーストフード店勤務の場合、今年度(6月まで)は、正規雇用またはパートタイムが24.73豪ドル、カジュアルでは30.91豪ドルであったので、新年度となる7月からは、この額の3.75%増しとなるはずだ。

これらに加え、一般的なオフィス・アワー時間外や休日勤務等の割増賃金も設定されている。概ね125~175%となっているが、これもまた、業種によって細かく設定されており、例えば小売業(パン製造従業員を除く)のカジュアル勤務の場合、土曜日に勤務した場合は175%、日曜日200%、祝祭日250%などとなっている。

また、雇用主は、スーパーアニュエーションと呼ばれる強制加入の私的年金積立のために、すべての従業員に対して、11.5%(6月までは11%)を給料に上乗せして支払う必要がある。

人件費が重くのしかかり、閉店に追い込まれる店も...
賃金が上がるのは労働者にとっては大歓迎かもしれないが、このように人件費がどんどん膨らむ状況は、雇用主にとっては相当頭の痛い問題に違いない。

コロナ禍に大打撃を受けたブリスベンの人気バー&レストラン「ザ・マトリアーク」は、パンデミック終了後には投資を再開できると踏んでいたそうだが、経済状況は悪化の一途をたどり、そこへさらに追い打ちをかけるような今回の賃上げで、店を閉めることを決意したという。

同店のシェフ兼共同オーナーであるマシュー・デワクト氏は、閉店を決めた理由のひとつに、膨れ上がる莫大な人件費を挙げる。

デワクト氏は、「最低賃金は(時給)24ドルかもしれないが、土曜日なら、カジュアルで働いてテーブルにコーヒーを運ぶスタッフに40ドル払わなければならない」と言い、同店の人件費の割合は、経費の35%を占めると嘆く。

賃金が高く稼げると、日本からも大勢の若者たちがワーキングホリデーでやってくるようになったオーストラリアだが、賃金高がすべての物価に反映され、物価高にも歯止めがかからない状態になってきている。

「ザ・マトリアーク」のように、人件費が重くのしかかって閉店する店舗や事業が増えれば、結果的に失業者も増えることになる。実際、失業率は上昇中だ。

こうなってくると生活はどんどん苦しくなり、経済が回らなくなってしまうのではないかと、私をはじめ、今、オーストラリアで暮らす人の多くが、暗雲たる気持ちになっているのではないだろうか。〈了〉【6月17日 平野美紀氏 Newsweek】
*********************

“社会保障がないカジュアルワーク(日本でいう単発のアルバイトや派遣などの雇用形態に近い)の場合は、雇用主はこの金額の25%増しで支払わなければならない。”・・・・日本では想像できない賃金制度です。

いずれにしても、“コーヒーを運ぶスタッフに40ドル払わなければならない”となるとコーヒーの値段も日本の数倍にしないと経営が成り立たない・・・そうした状況で廃業する店も、失業者も増加、賃金は高いけど市民の暮らしは大変・・・・といった事態にもなりかねません。

デフレにしても、インフレにしても行き過ぎると大変・・・ほどほどのところで安定させるのが肝要でしょうが、それが難しい。

現在、インドネシアのバリ島を旅行中ですが、日本の商品・サービスの質を考えると、日本の物価水準のコスパの良さを感じます。
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イスラエル 政府と軍の間、政権内部で対立・混乱 人質解放優先を求める声も

2024-06-17 23:13:12 | パレスチナ

(イスラエル・テルアビブで15日に行われた反政府デモには、人質の家族など数千人が参加しました。【6月16日 ANNニュース】)

【犠牲祭 「今は、自分たちを犠牲として捧げている」】
パレスチナ・ガザ地区の状況は相変わらず。アメリカなどが仲介する停戦交渉の進展は伝えられていません。

****ガザで犠牲祭始まる 家畜なく「今は自分たちを犠牲として捧げている」****
戦闘の続くガザ地区でも、イスラム教の重要な宗教行事、「犠牲祭」が始まりました。ただ今年は避難生活が続くなか、捧げる家畜もないため、お祝いムードはありません。

他のイスラム諸国と同じく、ガザ地区でも16日から「犠牲祭」の期間に入り、南部ハンユニスでは朝から多くの人が集まり祈りを捧げました。

例年ですと、牛や羊が生贄(いけにえ)として捧げられ、肉を貧しい人々へ分け与えるのが習わしですが、今年は戦闘が続くなか捧げる家畜がなく、人々の表情にもお祝いムードはありません。

礼拝に参加した男性は「捧げるべき動物もありません。今は、自分たちを犠牲として捧げている」と語りました。

地元の保健当局によると、ガザ地区では16日までに3万7337人の死亡が確認されています。【6月17日 テレ朝news】
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【イスラエル軍 人道物資搬入のため地域限定で軍事活動停止】
そうした状況で、少しでもましなニュースも。
イスラエル軍は16日、当面、毎日午前8時から午後7時までの11時間、ガザとの境界にあるケレム・シャローム検問所から北部へ通じる幹線道路沿いの地域で軍事活動を停止すると発表しました。

****イスラエル、ガザ南部で軍事活動停止発表 国際批判受け日中に毎日、物資搬入増目指す****
イスラム原理主義組織ハマスと戦うイスラエル軍は16日、支援物資の搬入増量のため、パレスチナ自治区ガザ南部の一部で日中の軍事活動を一時停止すると発表した。

南部にはエジプトと境界を接する物資供給の拠点ラファがあるが、イスラエル軍が5月初めに攻撃を開始して搬入が滞り、国連などが批判していた。

AP通信によると、軍は現地時間午前8時から午後7時までを「戦術的な一時停止」の時間帯とし、毎日の軍事活動を控える。物資搬入のため、イスラエルが管理するケレムシャローム検問所からガザ南部を経由し、北部に向かう主要道の安全を確保するとした。(後略)【6月16日 産経】
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【政府と軍で食い違い ネタニヤフ首相「受け入れられない」】
ところが、この軍の一部軍事活動停止措置について、ネタニヤフ首相は「聞いてないよ!」「受け入れられない」って。 そんなことがあるのでしょうか。

****政府と軍で食い違い=ガザ南部の軍事活動停止―イスラエル*****
イスラエル軍が16日、イスラム組織ハマスと交戦するパレスチナ自治区ガザへの支援物資を増やすため、ガザ南部の主要道路沿いの一部区間で毎日時間を決めて軍事作戦を停止すると発表したことを巡り、イスラエル政府と軍の間で食い違いが生じている。政府は決定を知らなかったと主張し、軍は通知したと強調している。(中略)

イスラエルのメディアは情報筋の話として、ガラント国防相が今回の決定を知らず、政府としても承認していないと報じた。ネタニヤフ首相も、活動の一時停止は「受け入れられない」と反発したとされる。【6月17日 時事】 
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ネタニヤフ首相は「受け入れられない」などと述べ、批判したとのことですが、現時点で決定は取り消されていないとのことです。

本当に聞いていなかったのか、妥協・軟化を拒否する極右勢力への配慮から「知らなかった」ことにしているのか・・・・

もし、本当に知らなかったということなら、軍の文民統制の一大事です。今回と逆のケース、政府は停戦を指示するも、軍が「聞いていない」と戦闘を継続するような事態もあり得ます。

なお、今回の軍事活動停止はあくまでも地域を限定したものです。

****イスラエル、軍事活動の一時停止中も「ラファでの戦闘は継続」…人道支援物資搬入****
イスラエル軍報道官は16日、パレスチナ自治区ガザの情勢について「ラファでの戦闘は続いている」とX(旧ツイッター)に投稿した。

これに先立ち、軍は人道支援物資の搬入拡大のために南部の幹線道路沿いでの軍事活動の一時停止を発表したが、対象外の場所や時間帯での戦闘を排除しない考えを示したとみられる。
 
軍報道官は戦闘の一時停止について、物資の輸送目的に限り、国際機関との連携の下で日中に行われると強調した。軍は毎日午前8時〜午後7時、幹線道路沿いでの戦闘を一時停止すると発表していた。
 
米紙ニューヨーク・タイムズによると、国連人道問題調整事務所(OCHA)報道官は軍の発表を歓迎したものの、「壊滅的な飢餓の解消には、ガザ全域に援助を安全に届けることが重要だ」と指摘した。
 
イスラエル軍が5月上旬にガザへの物資搬入ルートのラファ検問所を制圧して閉鎖して以降、ガザに入る物資は大幅に減少した。AP通信によると、国連は4月に1日平均トラック168台分の物資を受け取っていたが、5月6日からの1か月では1日68台分となった。ガザへの支援物資は、最低でも1日500台分が必要とされている。【6月17日 読売】
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【戦時内閣解散】
軍と政府の間はギクシャクしていますが、政権内部も。

****イスラエル戦時内閣が解散 戦闘継続、極右の発言力増か****
イスラエルのメディアは17日、ネタニヤフ首相が16日の会合で戦時内閣を解散することを明らかにしたと報じた。

連立内閣は維持し、パレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスとの戦闘を継続するとみられる。戦時内閣の解散で対パレスチナ強硬派の極右勢力の発言力が増す可能性がある。
 
戦時内閣で一定の歯止め役を担ってきたガンツ前国防相が9日、辞任を表明していた。
 
連立内閣に参加する極右2政党はハマスとの停戦案合意に反対している。そのうち極右「ユダヤの力」党首ベングビール国家治安相は9日夜、ガンツ氏の後任として自身を戦時内閣に加えるよう要求した。【6月17日 共同】
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戦時内閣は、連立内閣の外につくられたもので、ネタニヤフ氏、ガラント国防相、中道右派野党のガンツ前国防相らで少人数で議論し、対ハマスの重要方針を決める場として機能してきました。

戦時内閣解散の目的については、以下のような見方も。

****イスラエルが戦時内閣を解散 極右閣僚の参加阻止が狙いか****
イスラエルのメディアは17日、同国のネタニヤフ首相が戦時内閣を解散したと報じた。戦時内閣への参加を要求していた極右政党所属の閣僚の参加阻止が狙いとみられる。

戦時内閣を巡っては、中道政党の党首で元軍参謀総長のガンツ前国防相が9日に離脱を表明し、既に機能不全に陥っていた。【6月17日 毎日】
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ネタニヤフ首相もこうでもしないと強硬論の極右勢力を抑えきれないということでしょうか。

【人質解放を軍事作戦より優先させるべきとの世論も】
世論も、軍事作戦と人質解放のどちらを優先させるかで割れています。

****イスラエルで大規模な反政府デモ 数千人が参加 人質解放と総選挙の実施求める****
AP通信などによりますと、イスラエル・テルアビブで15日に行われた反政府デモには、イスラム組織ハマスに拘束されている人質の家族など数千人が参加しました。
 
早期の人質の解放を求めているデモの参加者は、政府のハマスへの対応を批判しました。また、ネタニヤフ首相の退陣と早期の総選挙の実施も要求しています。このデモの数時間前にはガザ地区ラファで装甲車が爆発し、イスラエル兵8人の死亡が発表されました。

現地メディアは、2024年1月に建物の爆発でイスラエル兵21人が死亡して以降、ガザでの1回の攻撃の死者数としては最も多かったと伝えています。【6月16日 ANNニュース】
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****イスラエル国民の56%、軍事作戦より人質解放が最優先 世論調査****
パレスチナ自治区ガザ地区の戦闘に関連しイスラエルのユダヤ系国民の56%がガザで捕らわれている人質の解放のための合意成立がガザ最南部ラファ市での軍事作戦より優先すべき課題と受け止めていることが世論調査で9日までにわかった。

ラファへの地上攻撃がより大事としたのは37%だった。

今回の世論調査は同国のシンクタンク「イスラエル民主主義研究所」(IDI)が実施。ラファでの軍事作戦と人質解放の合意達成のどちらが国家的利益の面で最優先課題かを二者択一の方式で問うた。(後略)【5月9日 CNN】
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これまで、対パレスチナ・アラブでは一枚岩とも見られていたイスラエル国内ですが、今回は相当に大きな亀裂・混乱が見られます。
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南アフリカ 与党過半数を失い白人政党と連立 グローバルサウス外交にも変化が

2024-06-16 23:10:03 | アフリカ

(南アフリカ大統領に再任されて笑顔を見せるシリル・ラマポーザ氏(14日、ケープタウン)【6月15日 BBC】 

【グローバルサウス 大国による紛争を批判 したたかな天秤外交も】
****したたかなグローバルサウスの外交 覇権争い続ける米・中・露に落胆 対立を逆手にとった天秤外交も****
今日、ウクライナや中東では戦争が続き、台湾では依然として軍事的な潜在的脅威が漂っている。しかし、それらをよく見ると、どれでも大国が絡んでいる。

ウクライナではロシアが戦争の当事者となり、米国などがウクライナを背後で支援している。中東ではイスラエルによるガザ地区への容赦のない攻撃が続き、米国はネタニヤフ政権に不満を募らせながらもイスラエル支持に立場を維持している。台湾では米中が紛争の当事者となる可能性が非常に高い。

こういった状況に、ASEANやインド、アフリカや中南米などグローバルサウスの国々はどう感じているのだろうか。

グローバサウスは、本来世界のあらゆる問題でリーダーシップを発揮すべき大国が争い合い、むしろ途上国の経済成長の阻害要因になっていることに強い不満を抱いている。

そういった声は相次いで聞かれる。たとえば、最近シンガポールで開催されたアジア安全保障会議、通称シャングリラ・ダイアローグの席で、インドネシア次期大統領であるプラボウォ国防相は、米中対立など地政学的な緊張の高まりにグローバルサウスは幻滅しており、大国は人類の共通の利益のために責任を持って行動するべきだとの認識を示した。

プラボウォ国防相は昨年の同会議でも、米中対立を皮肉交じりに新冷戦と呼び、大国間対立の激化に強い警戒感を滲ませ、フィリピンのガルベス国防相も昨年のシャングリラ・ダイアローグで同様の見解を示した。

東南アジアの国々だけではない。グローバルサウスの盟主を自認するインドのモディ首相は2022年9月、ウズベキスタンで開催された上海協力機構の会議に合わせてプーチン大統領と会談し、今は戦争する時代ではないとウクライナ侵攻を明確に否定した。

インドは伝統的に全方位外交を展開し、どの陣営とも癒着しない非同盟主義を貫くが、モディ政権もクアッドで日米豪との関係を重視する一方、エネルギー分野などではロシアとの関係を維持している。これも大国間競争とは一線を画す、それに不満を覚えるインドの現状と言えるだろう・

また、ウクライナのゼレンスキー大統領は昨年9月、国連総会の一般教書演説で講演し、諸外国が対ロシアで一致団結する重要性を示したが、グローバルサウスの国々の外交官たちの欠席、空席が目立った。

一昨年、ゼレンスキー大統領はビデオ演説だったが、その時は外交官たちの間でスタンディングオベーションが起きたことから、この1年で“ウクライナ熱”が大きく冷え込んだことが考えられる。

グローバルサウスが大国の争いに強い不満を抱いていることは確かだが、反対にそれを巧みに利用し、実利を得ようとする思惑も見え隠れする。

今日、米中は如何にグローバルサウスを自らの陣営に引き込むかで競争を展開しているが、グローバルサウスからするとそれを天秤にかけることができる。

要は、中国に接近する姿勢を米国に示すことで米国から譲歩や支援を獲得し、反対に米国に接近する姿勢を中国に見せることで見返りを得ようという行動が可能だ。今後、こういった天秤外交を強化するケースがグローバルサウスの中から増えてくる可能性がある。【6月16日 治安太郎氏 まいどなニュース】
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【南ア アパルトヘイト廃止以来国政を担ってきた与党が過半数を失い白人政党と連立】
インドなどとともにグローバルサウスのリーダー国を自認してきた国の一つが南アフリカですが、大きな帰路に立っています。

故マンデラ元大統領の指導でアパルトヘイトを克服し、以来、国民の圧倒的信頼を受けて南アフリカ政治を牽引してきた与党「アフリカ民族会議」(ANC)は、汚職・腐敗、失業、電力不足、治安悪化といった問題を解決できず、その偉大な政治遺産を次第に食いつぶし、5月29日に行われた総選挙ではついに過半数を失いました。

****南ア大統領、主要政党に協力呼びかけ 与党過半数割れで連立協議念頭*****
南アフリカのラマポーザ大統領は、下院総選挙で与党「アフリカ民族会議」(ANC)の過半数議席割れが2日に確定したことを受け、連立協議を念頭に主要政党へ向けて積極的な協力を呼びかけた。

最終的な開票結果によると、ANCの得票率は前回2019年選挙時の57.5%から40.2%に低下し、それに伴って議席数は下院定数400のうち159と、従来の230を大きく減らして過半数に届かなくなる。かつて故マンデラ元大統領に率いられて30年にわたって政権を担ってきた同党としては、最悪の結果となった。

背景には高い失業率や大きな格差、頻発する停電などを巡る国民の怒りや不満があるとみられている。

ANCは第1党の座を維持したものの、政権継続のためには連立相手を探す必要がある。こうした中でラマポーザ氏は「南ア国民は彼らが投票した各政党に対して共通項を見つけ出し、意見の違いを克服して、国民全員のためになるよう協調することを期待している。それが国民の声だ。今こそ政治家全てが国家を第一に考える時だ」と発言した。

選挙結果を踏まえてANCの指導部は4日に会合を開き、今後の基本方針を決める見通し。

外部でラマポーザ氏退任の観測も出ているが、ANC幹部や支持母体の労組は同氏の続投を支持する姿勢を示している。

一方、第2党で白人主体の「民主同盟」(DA)のジョン・スティーンハイセン党首は、他党と政権協議を行うための専門チームを発足させたと明らかにした。

企業や海外投資家らは、ANCとDAの連立政権がより好ましいとの見方をしている。ANCを離脱したズマ前大統領が率いる「民族の槍」(MK)や、急進的な「経済開放の闘士」(EEF)が連立に加われば、政治や経済の混乱が懸念されるためだ。【6月3日 ロイター】
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結局、第2党で白人主体の「民主同盟」(DA)との連立によるラマポーザ大統領続投が決まりました。

*****ラマポーザ大統領が続投、連立政権樹立で合意 南アフリカ*****
南アフリカで5月29日に行われた総選挙で、30年前のアパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃以来初めて過半数議席を失った与党「アフリカ民族会議(ANC)」が、野党との連立で合意した。それに伴い、14日の議会投票で、ANCを率いる現職のシリル・ラマポーザ大統領の再任が決まった。

ANCは、第2党となった中道右派「民主同盟(DA)」や複数の小規模政党と連立を組む。

ラマポーザ大統領は勝利演説で、新しい連立政権の誕生を称え、有権者は各指導者が「我が国のすべての人々のために行動し、連携する」ことを期待していると述べた。

先月末の総選挙で、ANCは30年ぶりに議会の過半数を失った。得票率はANCが40%、続いてDAが22%だった。この数週間、ANCがどこと連立を組むのか憶測を呼んでいた。
ANCのフィキレ・ムバルラ幹事長は、連立合意は「注目すべき一歩」だと述べた。

連立政権の樹立によって、2018年の激しい権力闘争の末にジェイコブ・ズマ氏に代わり大統領とANCトップに就任したラマポーザ氏は、権力を維持できることとなった。
ラマポーザ氏は今後、DAのメンバーを含め、閣僚ポストの割り当てを決定する。

複数政党の連立合意には、ANCを離党したメンバーが立ち上げた2政党は参加していない。有権者が求める経済改革を連立政権が実現できなかった場合は、こうした政党への支持が増える見通し。ただ、多くの国民は今回の前例のない大連立が成功することを望んでいると、世論調査は示している。(中略)

前例のない連立
数十年にわたりライバル関係にある、中道右派のDAとANCの連立は前例がない。

マンデラ元大統領のもと、ANCは人種差別的な政策、アパルトヘイトに反対する運動を主導し、南アフリカ初の民主的な選挙で勝利を収めた。

DAに批判的な人々は、DAがアパルトヘイト時代に築き上げた、少数派の白人による経済的特権を守ろうとしていると非難している。DA側はこれを否定している。

DAのジョン・スティーンハイセン党首は、14日遅くにケープタウンで議員を前に演説し、「今日は我が国にとって歴史的な日だ。新たな章の始まりだと、私は思う」と述べた。

国民議会(下院)はANCから議長を任命し、DAは副議長ポストを得た。

連立合意後に演説した党首の中には、2013年にANCを離党して「経済的解放の闘士」(EFF)を立ち上げたジュリアス・マレマ党首も含まれる。

マレマ氏はEFFは「南アフリカ国民の結果と声」を受け入れるとしつつ、「我々は、南アフリカの経済と生産手段に対する白人の独占力を強化するための、この政略的な連立には同意しない」と述べた。【6月15日 BBC】
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「理念」としては、黒人の地位向上を求めてきた黒人政党ANCと、白人の利益を代表するDAが連立して国勢を行うというのは“あるべき姿”と見ることも可能ですが、現実問題としては、依然として大きく残存する人種的な経済格差を前にして、黒人政党と白人政党が一体となって政策を遂行できるのかは、非常に難しいところです。

ただ、その取り組みに失敗すれば、急進的な黒人の地位向上を求めるズマ前大統領の政党「民族の槍」(MK)やマレマ氏の「経済的解放の闘士」(EFF)が更に台頭し、南ア政治・経済は不安定化することが予想されます。

【欧米寄りのDAとの連立で、グローバルサウス外交にも変化が】
連立を組む以上、外交面でもANCはDAに妥協することが必要で、これまで南アがとってきたグローバルサウスのリーダー国という役回りも難しくなるでしょう。

****ロシア包囲網に加わらず中立の南アフリカ、連立政権でグローバル・サウス外交に岐路****
南アフリカ国民議会は14日、シリル・ラマポーザ大統領の続投を決めた。アパルトヘイト(人種隔離政策)と闘った与党アフリカ民族会議(ANC)と、白人らが支持基盤の民主同盟(DA)との初の連立政権が誕生する。
 
(中略)最大野党DAは、ポピュリズムや過激な黒人優遇策を掲げる野党との連立を拒否。ANCは、ビジネス界に支持基盤があり、現実路線のDAとの連立を選んだ。少数政党も加わる見込みだ。
 
連立によって外交政策は転換を余儀なくされそうだ。ロシアのウクライナ侵略を巡っては中立路線を維持し、米欧主導の対露包囲網に加わっていない。

侵略後も中露と軍事演習を行うなど盟友関係を絶たず、新興5か国(BRICS)首脳会議では、中露が米欧への対抗軸として掲げる多国間主義に同調している。

DAはロシアに批判的で、ビジネス環境の向上を重視するため欧米寄りだ。中立路線の維持は難しくなる。
 
アパルトヘイト闘争を経て民主主義を勝ち取った南アに信頼を寄せる国は多く、南アはグローバル・サウス外交で主導的な役割を果たしてきたが外交の表舞台から遠のきそうだ。
 
「白人の任命、リーダーシップに対する反発は根強く、党内の対立は深い」(ノースウェスト大のアンドレ・ドゥベンヘイガー教授)として連立の行方を危惧する声がある。

特にANC内で横行する汚職にDAがメスを入れようとすれば政権内の対立は不可避となる。経済を巡ってもリベラル重視のDAと社会主義的な左派路線が根底にあるANCには隔たりがある。
 
ラマポーザ氏は「我が国の命運にとって歴史的な分岐点だ。我々は団結せねばならない」と強調した。【6月16日 読売】
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ラマポーザ大統領にとっては極めて難しい連立ですが、前述のように失敗すると南アは一気に不安定化する危険があります。
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ロシア原油輸出への制裁をかいくぐる「影の船団」とそのリスク

2024-06-15 22:59:08 | ロシア

(昨年マレーシア沖で炎上したガボン船籍のタンカー「パブロ」【6月12日 WSJ】)

【G7、制裁逃れるロシア「影の船団」取り締まり強化】
欧米はロシアの原油輸出に対して上限価格を設定する制裁措置を課していること、その制裁が効果を発揮しているのか賛否両論があることは、これまでも取り上げてきました。

否定的な見方の根拠は、現実にロシアの原油輸出が相当額にのぼっており、顕著な減少が見られないことです。

効果を認める見解は、たとえロシアからの輸出が中国・インドなどへ行われていても、制裁があることで買い叩かれ、ロシアの利益は確実に圧縮しているとの見方です。

制裁措置は、欧米企業が独占的な地位を占める海運保険を通して実効性を持たされていますが(上限を上回る場合は付保を許可しない)、これをかいくぐるのが「影の船団」と称されるもので、老朽船を使用して保険を付保せずロシア原油を中国・インドなどへ運ぶ闇タンカーです。

欧米側もこの闇タンカー対策を強化しています。

****G7、闇タンカー取り締まり強化 制裁逃れる露「影の船団」とは****
主要7カ国首脳会議(G7サミット)が14日発表した首脳宣言には、ウクライナに侵攻するロシアから中国などに原油を運ぶ「影の船団」と呼ばれる闇タンカーの取り締まり強化が盛り込まれた。

首脳宣言は、G7などによる制裁を回避する影の船団について「詐欺的な代替的輸送行為」だと非難した。こうした輸送に関与した者のほか、ロシア産原油に設けた上限価格違反や影の船団の利用によって利益を上げた団体や個人に対し、新たに制裁を科す。

G7などは2022年12月、ロシア最大の収入源の一つである原油輸出を抑制するため、市場で取引する場合の上限価格を1バレル=60ドル(約9400円)とする追加制裁を導入した。上限価格を上回る取引には、海上保険などを引き受けないよう保険会社に義務付ける仕組みだ。
 
だが、制裁は限定的な成果しかあげられていない。
国際エネルギー機関(IEA)によると、ロシア産原油、石油製品などの輸出収入は23年の月平均で147億1000万ドル。世界的な原油高の恩恵を受けた22年の181億5000万ドルからは減少したが、高い水準にとどまっている。

主な原因として挙げられるのが、廃船間際の老朽船を使う影の船団と呼ばれる闇タンカーによる輸送だ。
 
闇タンカーは欧米の保険に加入せず、船籍を頻繁に変更するのが特徴で、ロシアとのつながりをたどりにくい。位置情報を隠し、タンカー同士が沖合で接近して原油を移し替えるなどするため事故も起きやすい。
 
22年2月のロシアによるウクライナ侵攻直後から数が増え、現在は1400隻程度存在するとみられている。NGOなどが動きを追跡しており、インドや中国が受け入れ国だと特定されている。【6月15日 毎日】
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【制裁対象の石油の輸送で役割が拡大しているアフリカ・ガボン】
この「影の船団」で大きな役割を果たしているのがアフリカ中部のガボンだそうです。
ガボン・・・・多くの者にとって、ほとんど馴染みのない国にです。

****ロシアの石油輸送、小国ガボンの役割拡大****
アフリカ中部のガボンに船籍を置くタンカーは100隻を超えると海運業界関係者はみている

西側が制裁措置の対象とするロシアやイランの石油輸送を目的とした老朽タンカーの運行が増えている。こうした動きはタンカー乗組員を危険にさらすほか、環境破壊を招く恐れもある。
 
制裁対象の石油の輸送で役割が拡大しているのが、世界の海運業界では意外な新顔ともいえるガボンだ。ガボンはアフリカ中部の小国で、海運関連よりも熱帯雨林などで知られる。最近ではクーデターの発生でも注目された。
 
船舶ブローカーや船主など海運関係者によると、ガボンに船籍を置くタンカーは100隻を超える規模に膨らんでいる。ロイズリスト・インテリジェンスでは、このうち70隻以上は所有者がはっきりせず、制裁対象の石油輸送に特化した闇タンカーである「影の船団」の一部だとみている。
 
ガボン以外では、同じアフリカの島国コモロやカメルーンの国旗を掲げるタンカーもある。
 
影の船団は、こうした目立たない「旗国」を選ぶことで、保険加入や船員の待遇改善などを通じて海洋の安全維持に長年寄与してきた枠組みの外で活動している。
 
海運に特化した法律事務所HFWのパートナー、ウィリアム・マクラクラン氏は「誰にとっても大きな問題だ。こうした船の多くは、80年代と90年代の大規模なタンカー事故以来、世界が構築してきた検査・監督体制の枠外にある」と指摘する。「事故が起こるのを待っているようなものだ」
 
マレーシア当局によると、昨年はガボン船籍のタンカー「パブロ」がマレーシア沖で炎上し、乗組員3人が死亡した。公開データベースによると、タンカーは貨物を積んでおらず、船齢26年だった。マレーシア当局者は、現在でもパブロの所有者を突き止めようとしていると語った。【6月12日 WSJ】
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【「影の船団」が沿岸国に及ぼすリスク】
タンカーの所有者がわからないというのも、素人的には不思議ですが、そういうもののようです。

老朽船で所有者もはっきりせず、保険も付保していませんので、事故を起こしやすく、事故が起きると対応が非常に困難です。

****露産原油を運ぶ影の船団 世界に及ぼすリスクは 識者に聞く/上****
ウクライナ侵攻を受け、欧米や日本はロシア産原油の輸出制限を試みたが、「影の船団」と呼ばれる闇タンカーが密輸に関与し、制裁を骨抜きにしようとする。

米シンクタンク大西洋評議会スコークロフト戦略安全保障センター、シニアフェローのエリザベス・ブロー氏は、影の船団がもたらす「別のリスク」も指摘する。2回にわたって報告する。【聞き手・ブリュッセル宮川裕章】

 ――影の船団とはどのようなタンカーを指すのでしょうか。
 ◆所有者が判然とせず、(世界の海上保険の大半を占める)欧米の保険に加入しないのが特徴だ。また所有者を追跡するのは非常に困難で、タンカーは、ある国の船籍で航行したかと思えば、すぐに別の国に船籍を変更する。廃棄処分間近の古い船などが使われることが多い。

 ――世界にどのようなリスクをもたらしますか。
 ◆事故による油漏れなど環境へのリスクだ。影の船団には廃棄処分間近の老朽船が使われるほか、多くの場合、欧米の保険に加入していないため、保険加入時に義務づけられる定期的なメンテナンスなども受けていないケースが多い。

また沖合で別の船と接近して原油を移し替える時に危険が生じるなど、通常のタンカーより事故のリスクが格段に高い。

 ――ロシア政府の原油輸出による収入の動向や、NGOや調査企業、各国海運当局などによる航行ルートの分析から、影の船団は露産原油の輸送に関与しているとみられています。ロシアは、事故のリスクを意図的に武器としているのでしょうか。
 ◆最初から意図的だったとは思わない。ロシア政府やロシア企業は制裁をかいくぐりながら、輸出や貿易を続けることを意図し、影の船団はそのための手段だとみられる。

だが、影の船団がさまざまな国の領海で事故を起こす可能性があることは、ロシアにとって非常に都合がいい。
 
自由な航行を保証する海洋法上、ロシアから来るタンカーの接近を禁止したり止めたりすることは難しい。また、影の船団に保険がかけられていないと、事故後の処理費用は現実的に、沿岸国が負担することになる。つまり、ロシアは自らは害を被ることなく他国に脅威を与えられる。

例えば、露産原油を運ぶ老朽化したタンカーが日本の領海に入り、事故で油漏れを起こせば、日本の納税者が事故の処理費用を負担しなければならなくなる。

 ――タンカーの所有者が判然としないため、責任の所在が分からなくなるからですか。
 ◆影の船団のタンカーの所有企業は多くの場合、登録した住所に郵便受けがあるだけで、所有者にたどりつくことが困難だ。また、所有者はロシアやベネズエラ、イランなどの実態不明の保険に加入することが多く、保険金が支払われない可能性が高い。結局、被害を受けた国の納税者が費用を支払わなければならなくなるのだ。(中略

 ――国際社会はこの問題にどう対処すればよいのでしょうか。
 ◆大きな問題だ。ウクライナでの戦争が長引けば長引くほど、ロシアは影の船団を使って自国経済を回そうとし続ける。

それが他の国々にとってよくないメッセージとなる。ルールに従う必要もなく、欧米の保険に加入する必要もなく、ルールに違反しても何も起こらないというメッセージだ。ロシアが影の船団の利用に成功するのを見て、他の不謹慎な国も同じことをするかもしれない。(後略)【2月14日 毎日】

****影の船団がもたらすリスク 世界はどう対処するのか 識者に聞く/下****
 ――老朽船も多いとみられる影の船団が事故を起こすリスクに対し、沿岸国は何ができるでしょうか。
 ◆沿岸国は非常に難しい立場に置かれている。海洋法上、特定の国の船舶の接近を禁止することはできないからだ。

さらに、ロシアとのつながりが疑われる船であっても、必ずしもロシアの旗を掲げて航行するわけではない。(中部アフリカの)ガボンのような国の旗を使うこともある。たとえガボン船籍が影の船団に使われることが多いと広く知られていても、ロシアの船だと証明するのは難しい。

一方、多くの沿岸国は善良で法を順守する国だ。日本もこれらの船舶に対して攻撃的な行動を取ることはないだろう。

 ――有効な対応策はないのでしょうか。
 ◆世界には海洋ルール違反を監視するNGOがある。この分野は、そうしたNGOが活躍できる場だと考えられる。例えば米国に本部を持つ反捕鯨団体「シー・シェパード」はルール違反の疑いのある船舶を追跡することにたけている。彼らは長期間、違法漁業の監視に力を注いできたが、(影の船団の監視が)新たな重点分野になる可能性がある。

結論として、多くの人々は陸上と比べ、海洋で起きることに無関心だ。影の船団は、法を順守し、自国の海域を安全に保つためにあらゆる努力をする国にとって、大きなリスクを生み出している。影の船団がルールを破って領海に侵入しても、沿岸国は基本的にどうすることもできない。この問題への意識を高めることが、対応への第一歩だ。

 ――そもそも影の船団の数はなぜ急速に拡大したのですか。
 ◆一番の理由は、対露制裁に参加しない国がたくさんあるからだ。そうした国々は露産原油を買い、影の船団を受け入れている。

 ――影の船団とみられるタンカーの数はどれぐらいですか。
 ◆正確な数は不明だが、さまざまな海事研究グループや調査企業が調査している。昨年より、その数は倍増し、現在は1400隻程度とみられている。ロシアだけでなく、同様に(欧米からの)経済制裁の対象となっているベネズエラやイランなどとも行き来する。

 ――影の船団とロシア政府との関係を証明するのは可能ですか。
 ◆所有者を特定するのが難しいため、ほぼ不可能だ。誰もが、その存在を知り、目で見ることもできるのに、公式には存在しない。

影の船団には、ロシア政府が直接関与する必要はなく、ロシアの企業、特に原油を輸出する企業が利用している。なぜならロシア企業は欧米による制裁で上限価格以上で原油を輸出できないからだ。だがもちろん、ロシア企業が輸出収入を増やすことは、税収を通じてロシア政府にとって大きなメリットとなる。

 ――影の船団の行き先は、インドや中国だと言われています。
 ◆行き先の特定は容易ではない。こうしたタンカーはロシアの港を出発後、沖合で別のタンカーに原油を移し替え、原油がどこから来て、どこに向かうのか分かりにくくしている。

この移し替えを見抜かないと、外形的には最初にロシアを出航した船が、どこにも行かずにロシアに戻ったように見える。だが世界各国のNGOや調査企業が、影の船団の動きを追跡しており、インドや中国が受け入れ国だと特定している。【2月14日 毎日】
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インドネシア  現在バリ島を旅行中 ジョコ大統領の縁故主義など

2024-06-14 23:25:28 | 東南アジア

(インドネシアバリ島 ウブドの王宮)

今年2月に行われたインドネシア・大統領選挙では、高い人気を誇るジョコ大統領がキングメーカー的な役割を果たし、同氏が支持したかつての政敵プラボウォ国防相が当選しました(プラボウォ氏は10月に就任)

その際、副大統領候補としてジョコ氏の長男キブラン氏が立ちました。これは単に「縁故主義」というだけでなく、ルールを権力で捻じ曲げて無理やり自分の長男を副大統領に押し込んだ・・・そういう側面が濃厚です。

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自身は大統領選で支持する候補を明言していないが、ギブラン氏を副大統領とし、政界での影響力を保持したいもようだ。

ただ、ジョコ氏は「縁故主義」との批判に直面しており、選挙戦に影響する可能性がある。インドネシア憲法では正副大統領の立候補を40歳以上に限定しており、36歳のギブラン氏はそもそも出馬資格がなかった。

だが、憲法裁判所が立候補届け出直前に年齢制限を緩和。判断を示した憲法裁長官はジョコ氏の親族であり、他候補陣営は「身内を優遇」「司法操作」と攻撃材料としている。【2923年11月28日 産経】
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さらに次男も。

****首長選前に出馬年齢引き下げ=大統領次男絡みか―インドネシア最高裁****
インドネシア最高裁が地方自治体の首長選に立候補できる年齢を引き下げたことが30日、分かった。

これまで知事や副知事の立候補者の要件は30歳以上だったが、就任時に30歳になっていれば問題ないとする決定を出したという。地元メディアは、ジョコ大統領の次男(29)の出馬を可能にするための措置と指摘している。決定は29日付だが、公表されていない。【5月30日 時事】
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インドネシア大統領は従来エリートや軍部出身者が独占してきましたが、ジョコ氏は国民的人気を背景にした庶民派大統領として「民主主義の星」として期待もされました。

しかし、上記のような強引な縁故主義を見ると、エリートだろうが庶民派だろうが、権力欲には大差ないようです。

ジョコ大統領は交通マヒ。地盤沈下などの問題を抱えるジャカルタからの首都移転を、議会で十分に審議することなくやや強引に進めてきました。

プラボウォ次期大統領はジョコ大統領の方針を引き継ぐとしてはいますが、やや不透明感も出てきています。

***インドネシア首都移転、担当トップが辞任 計画に懐疑的な見方広がる****
インドネシアの首都をジャカルタからカリマンタン島(ボルネオ島)東部に移転して新首都「ヌサンタラ」を建設する計画で、担当する新首都庁のバンバン・スサントノ長官とドニー・ラハジョエ副長官が突然辞任した。

プラティクノ国家官房長官は3日、大統領が暫定的にバスキ・ハディムルヨノ公共事業・国民住宅相と農務副大臣を後任に任命したと発表した。

政府は公務員移動の第1陣として9月に1万2000人を移動させる計画で、インフラ建設を急ピッチで進めている。

ただ、計画は既に2度延期された。ジョコ大統領が掲げる約32億ドルの看板プロジェクトだが、民間資金不足に直面しており、スサントノ長官らの辞任観測は以前からあった。これが現実化したことでプロジェクトの先行きに懐疑的な見方が強まった。

インドネシア戦略国際問題研究所のアナリスト、アリア・フェルナンデス氏は「問題は、投資家をどのように納得させるかだ」と話した。

公共事業・国民住宅相は3日に記者会見し、新首都計画地の土地所有権で障害があると述べた。ただ、早期解決の見通しを表明し「売却するにせよ、賃貸するにせよ、政府と企業が協力するにせよ、投資家が疑念を抱かないようにスピードアップして対処する」と話した。

インドネシア次期大統領のプラボウォ国防相は首都移転計画の継続を公約に掲げている。【6月4日 ロイター】
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インドネシアの話題を取り上げたのは、13日からインドネシア・バリ島に来ているため。いつもの観光です。

インドネシアも他の国同様にインフレが進んでおり、更に何と言っても円安・・・・ということで、コロナ以前のインドネシアのイメージと違って、食事にしても何にしても「高い!」というのが個人的実感。

日本経済の地盤沈下によって、格安にアジアを旅行できる時代は終わったことを改めて感じています。

インドネシアの景気はやや改善しつつあるとのことです。

****2月の失業率は4.82%、4年ぶりに5%を下回る*****
インドネシア中央統計庁(BPS)は5月6日、2024年2月時点の失業率が4.82%だったと発表した・。2023年8月時点から0.50ポイント改善、2023年2月時点から0.63ポイント改善した。5%を下回るのは2020年2月以来4年ぶりで、新型コロナウイルス禍以前の水準となった。(後略)【5月16日 JETRO】
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しかし、旅行中の日本語ガイド兼ドライバーをお願いしているS氏は本業はタクシー運転手ですが、「昨日は客が一人もいませんでした」と生活苦を訴えています。

単に、彼個人の問題かもしれませんが。


ということで、旅行中のためブログの方は1週間ほどは基本「休止」、時間に余裕があれば、あるいは気が向けば更新という形になります。
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パレスチナ  アメリカ主導の停戦案に当事者の「前向き」報道はあったものの、溝は未だ埋まらず

2024-06-12 19:45:32 | パレスチナ
(ブリンケン米国務長官とネタニヤフ首相【6月11日 NHK】)

ハマス 民間人の犠牲拡大はハマスに有利 「犠牲は必要」】
6月9日ブログ“イスラエルの人質救出作戦で多大な住民犠牲 バイデン大統領の言う「レッドライン」は?”で、イスラエル軍の人質救出作戦でガザ保健当局は274人のパレスチナ住民が犠牲になったとしている件について取り上げました。

****ガザの死者274人に イスラエルの人質奪還作戦、EUは「虐殺」と非難****
イスラエル軍が8日、パレスチナ自治区ガザ中部でイスラム原理主義組織ハマスに拘束されていた人質4人を救出した作戦を巡り、ガザ保健当局は9日、死亡した住民らが274人に上ったと発表した。

英BBC放送(電子版)によると、イスラエル軍は作戦に伴う住民らの死者数は100人以下だと推計していた。欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表が「民間人虐殺の報道にがくぜんとする」とX(旧ツイッター)に書き込むなど、犠牲の大きさに批判が出ている。

米国務省によると、ブリンケン国務長官は今週、エジプトとイスラエル、ヨルダンとカタールを訪問する。イスラエルが米国に提案したとされる新たな停戦案を軸に、イスラエルとハマスに停戦受け入れを求めるとみられるが、影響は避けられないもようだ。【6月10日 産経】
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この「虐殺」を無視して、「非常に感動的な日だ」「全員帰還までどんな手段でも使う」と作戦成功を誇るネタニヤフ首相、「レッドライン」に相当しないのか明らかにしないアメリカ・バイデン大統領に対して怒りを感じますが、一方でハマスはこうした住民犠牲を交渉を有利に運ぶために「必要だ」としているとか。

十分に想像できる話ではありますが、誰も住民の命など気にしていないというのが現実のようです。 

****民間人の犠牲拡大はハマスに有利 ガザ指導者が伝達と米紙報道****
米紙ウォールストリート・ジャーナル電子版は10日、イスラム組織ハマスのパレスチナ自治区ガザのトップ、シンワール指導者が、イスラエル軍の攻撃による民間人の犠牲拡大はハマスに有利に働くとの考えをガザ地区外の幹部らに伝えていたと報じた。イスラエルとの間接交渉で妥協せず強硬姿勢を維持するよう要請したという。ハマスは恒久停戦を求めている。

同紙が入手したシンワール指導者のメッセージには、民間人の犠牲は「必要だ」と書き込まれていた。犠牲者の増加で国際社会の批判が高まり「失うものはイスラエルの方が大きい」と分析しているとみられる。

ガザ保健当局によると、昨年10月の戦闘開始後のガザ側死者は3万7千人超。うち約7割は女性や子どもとされている。

一方、イスラエル軍は11日、ガザ最南部ラファなど各地でハマス掃討作戦を続け、上空から武器保管庫など35ほどの攻撃目標を破壊したと発表した。パレスチナ通信は、北部ガザ市で軍の空爆を受けて壊れた住宅から多数の民間人の遺体が見つかったと報じた。【6月11日 共同】
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【国連安全保障理事会でアメリカ主導の新停戦案受け入れを求める決議】
冒頭記事では停戦交渉に“影響は避けられないもようだ”とありますが、何事もなかったように・・・

****国連安全保障理事会でアメリカ主導の新停戦案受け入れを求める決議 14か国が賛成 ロシアは棄権****
パレスチナ自治区ガザで続く戦闘をめぐり、国連安全保障理事会は、アメリカが主導した新たな停戦案の受け入れをイスラエルとイスラム組織「ハマス」の双方に求める決議を採択しました。

国連安保理で採択された決議はアメリカが主導したもので、イスラエルとハマスに対しバイデン大統領が公表した新たな停戦案を受け入れ、速やかに履行するよう求めています。

採決では15の理事国のうち日本を含む14か国が賛成、ロシアは棄権しました。

アメリカの国連大使は…
アメリカ国連大使 トーマスグリーンフィールド氏 「イスラエルはすでに同意していて、ハマス次第で今日にも停戦できる」

ロイター通信などによりますと、ハマスは決議の採択を歓迎する声明を発表。「仲介国と協力する用意がある」との考えを示しているということです。

こうしたなか、中東を歴訪しているアメリカのブリンケン国務長官は仲介国のひとつ、エジプトでシシ大統領と会談。中東地域の指導者がハマスに圧力をかけるべきだと訴えました。

アメリカ ブリンケン国務長官 「ガザのパレスチナ人のひどい苦しみを和らげたいのであれば、ハマスが(新停戦案に)賛成するように圧力をかけてほしい」

この後、ブリンケン長官はイスラエルを訪れネタニヤフ首相とも協議し、新たな停戦案が「イスラエルの平穏と地域諸国とのさらなる調和の可能性を開く」などと伝えました。

一方、アメリカNBCテレビはイスラエルとハマスの間接交渉が不調に終わった場合、バイデン政権がハマスとの単独での交渉を検討していると報じました。

5人のアメリカ人の人質の解放について、イスラエルを関与させずに仲介国のカタールを通じハマスと話し合う案だとしています。【6月11日 TBS NEWS DIG】
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【ハマスは決議を「歓迎」、合意に「前向き」 ネタニヤフ首相も停戦案支持・・・とも報じられていたが・・・・結局はハマス・イスラエルの溝は埋まっておらず】
紛争当事者のハマスとイスラム聖戦、更に停戦後に主体となるパレスチナ自治政府は、アメリカ主導の停戦案を支持する国連安全保障理事会の決議を歓迎する声明を発表しています。

****国連安保理のガザ停戦決議、ハマスとパレスチナ自治政府が歓迎*****
イスラム組織ハマスとイスラム聖戦、パレスチナ自治政府は、パレスチナ自治区ガザにおける停戦案を支持する国連安全保障理事会の決議を歓迎する声明を発表した。

ハマスは10日、履行を巡り仲介者と協力する用意があると表明。「ガザでの恒久的停戦、完全撤退、拘束者交換、復興、避難民の居住地への帰還、ガザ地区の人口構成変更やエリア縮小の拒否、住民への援助提供を支持する安保理決議の内容を歓迎する」とした。

イスラム聖戦は11日、「包括的な敵対行為停止とイスラエル軍の完全撤退に扉を開くという点」をはじめ、決議に盛り込まれた内容を「前向き」に見ていると表明した。

パレスチナ自治政府のアッバス議長も、ガザでの即時停戦を求め、パレスチナの土地の一体性を維持するいかなる決議も支持するとして歓迎した。【6月11日 ロイター】
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本当に「イスラエルはすでに同意している」、ハマスとイスラム聖戦も停戦案を歓迎・・・・ということであれば、「今日にも停戦できる」(アメリカ国連大使)ということになりますが、実際は表向きの発言、あるいは停戦案を進めたいアメリカの解釈・発言と当事者ハマス・イスラエルの本音・発言にはかなり差があります。

ハマスもイスラエルも、今の時点で停戦交渉決裂の責任を負わされたくないので、表向きは“前向き発言”をしている面もあるようです。

しかし、「恒久停戦」を求めるハマスに対し、あくまでもハマス壊滅・戦闘継続を主張するイスラエルの間の溝はそう簡単に埋まるものでもないようです。

****ハマスとイスラエル、停戦交渉進むか 強い相互不信 安保理決議*****
パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘を巡り、国連安全保障理事会が10日、停戦案の受け入れを求める決議案を採択した。ただイスラム組織ハマスとイスラエルの相互不信には根深いものがあり、停戦に向けた具体的な交渉に進むかが焦点となる。
 ハマスは一貫して「恒久的な停戦」を求めてきた。バイデン米大統領が5月末に発表した新たな停戦案は、第1段階の休戦中に人質の一部を解放した後、第2段階で「恒久的な敵対関係の解消」を実現するとしており、内容的にはハマスの要求に近い。

ただ、ハマスはイスラエルの「合意破り」を警戒して交渉には慎重で、停戦した場合の実効性を担保するよう要求。これに対してブリンケン米国務長官は10日、訪問先のエジプトで「ハマスが承諾するよう圧力をかけてほしい」と中東諸国に呼びかけた。

今回、米国の和平案が安保理で追認されたのはハマスにとっても追い風で、受け入れを決めて交渉の席に着くかが注目される。

一方、イスラエル側も交渉に臨む姿勢はあいまいだ。
ネタニヤフ政権内でも、極右閣僚から停戦案に批判的な声が上がっていた。さらに9日には「穏健派」とされるガンツ前国防相が戦後統治を巡りネタニヤフ首相と対立し、戦時内閣からの離脱を表明した。

今回の停戦案はイスラエルの戦時内閣が承認しており、バイデン氏も「イスラエルの提案」だとして発表したが、ネタニヤフ氏はその後も「ハマス壊滅」を繰り返し強調。交渉に応じるとしつつも、ガザ地区での軍事作戦を激化させている。

ただイスラエルとしても後ろ盾の米国が提案した今回の安保理決議は軽視できず、一定の外交的圧力になる。

またイスラエル軍が8日にガザ地区で人質4人の奪還作戦を行った際、ガザ側では空爆などにより女性や子供を含む270人以上が死亡したとされ、イスラエルへの国際的な非難はさらに高まっている。

ブリンケン氏は10日、イスラエルを訪問し、ネタニヤフ氏と停戦案について協議した。会談では、イスラエルが提案したとされる停戦案を支持することを強調。米国がイスラエルの安全保障に関与することも約束した。その上で、バイデン米政権が繰り返し求めているガザ地区での戦後統治の計画の重要性も訴えており、イスラエルがどこまで納得するかも焦点となる。【6月11日 毎日】
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“イスラエルが提案したとされる停戦案”というのも、アメリカがネタニヤフ首相の同意なしに公表したものとか。
ブリンケン米国務長官はネタニヤフ氏と10日にエルサレムで会談し、ネタニヤフ首相は、停戦案支持を明言したとい言っていますが、はなはだ怪しい。

****バイデン大統領のガザ停戦案、ネタニヤフ首相は認識に「違いがある」と主張…合意の有無には触れず****
(中略)決議を提出した米国はイスラエルが既に停戦案に合意したと説明したが、イスラエル側は沈黙しており、停戦案の実現は見通せない状況だ。

 停戦案は、〈1〉即時停戦や人口密集地からのイスラエル軍撤退〈2〉全ての人質解放や恒久的な敵対行為の停止〈3〉ガザ再建――の3段階で構成され、先進7か国(G7)やアラブ諸国が支持している。決議には、イスラエルは「停戦案を受け入れている」として「ハマスも承認するよう要求する」と明記された。採決では15理事国のうちロシアだけが棄権し、14か国が賛成した。

しかし、イスラエル国内では停戦案を巡り、連立政権に加わる極右政党を中心に強い反発が出ている。地元メディアによると、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は3日、米国との間で停戦案に関する認識に「違いがある」と主張し、9日の声明では「全人質の解放とハマス壊滅の目標を達成するまで戦い続ける」と改めて強調した。この日の安保理会合で、イスラエルの代表者は停戦案の合意の有無に触れなかった。

一方、ハマスは10日、安保理決議の採択を「歓迎する」との声明を出し、停戦交渉について「仲介国に協力する用意がある」と表明した。

米国のブリンケン国務長官は10日、訪問先のエルサレムでネタニヤフ氏らと会談し、停戦案について協議した。ブリンケン氏は11日、「ネタニヤフ氏は(停戦)案を責任を持って引き受けると再び確約した」と記者団に述べた。【6月11日 読売】
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ハマスの方も“ハマスがイスラエルの停戦案に回答 「合意へ前向きに対処」”【6月12日 毎日】といった前向き記事が報じられていましたが、時間がたつにつれてネガティブな情報が増え、結局のところは・・・・

*****停戦案“ハマス側が事実上拒否” イスラエル報道****
イスラエルとイスラム組織ハマスの停戦案をめぐりイスラエルのメディアはハマス側が事実上拒否したと報じました。停戦交渉をめぐる双方の溝は埋まっていないとみられます。

ガザ地区での戦闘終結にむけた新たな停戦案についてハマス側は11日、声明を発表し、仲介国のカタールなどに正式な回答を伝えたと明らかにしました。

この回答についてロイター通信は、「ハマスがイスラエル軍の撤退に向けた新たなタイムラインを提示し恒久的な停戦を求めた」と伝えています。

そのうえでハマスの幹部は声明で合意にむけての道は開かれているとの考えを示したということです。

一方でイスラエルのメディアは当局者の話として「回答を受け取ったがハマスは交渉条件の重要な部分を変更し、事実上、拒否する内容だ」と伝えています。

双方の溝は埋まっていないとみられ停戦交渉の先行きは依然不透明な情勢です。【6月12日 日テレNEWS】
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*****ハマス、「侵略の完全停止」要求 新停戦案に回答****
イスラム組織ハマスとイスラム聖戦は11日、共同声明を発表し、パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘をめぐるイスラエルの停戦案に回答し、同国による「攻撃の完全停止」を求めたことを明らかにした。
 
声明は、「回答はパレスチナ人の利益を優先し、ガザで続いている攻撃の完全停止の必要性を強調している」とする一方で、「戦争終結に向けた合意に前向きに取り組む」用意があるとしている。
 
休戦交渉を仲介していたカタールとエジプトは同日夜、回答を受理したことを確認。合意に達するまで米国とともに仲介を続ける意向を示した。
 
交渉に詳しい情報筋はAFPに、「回答には恒久停戦への行程表やガザからのイスラエル部隊の完全撤収に関し、イスラエル案を修正する項目が含まれている」と語った。
 
米ホワイトハウスのジョン・カービー大統領補佐官もこの日、ハマスとイスラム聖戦の回答を受け取ったとし、「精査中だ」と述べた。
 
国連安全保障理事会は10日、ジョー・バイデン米大統領が先月公表した、6週間の停戦や、人質と拘束されているパレスチナ人の交換などを含む新提案に支持を表明するとともに、米国が起草したガザ停戦を求める決議案を採択した。 【6月12日 AFP】
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結局のところ、「恒久停戦」を求めるハマスと「ハマス壊滅」をおろさないイスラエルの間の溝は全然埋まっていないように見えます。

いかにも期待をもたせるようなブリンケン米国務長官の発言やハマスの「前向き」発言などで、「ひょっとしたら、停戦交渉が動くのかな・・・」とも期待して今回話題を取り上げたのですが、あまり期待しない方がいいみたいです。
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フランス  与党は極右にダブルスコア敗北 マクロン大統領の解散総選挙という「賭け」の背景

2024-06-11 22:38:56 | 欧州情勢

(第二次世界大戦の記念式典に参加するマクロン仏大統領=仏中部チュールで2024年6月10日、ロイター【6月10日 毎日】)

【予想どおりの右派・極右伸長 ただ、親EU派は過半数確保】
注目された欧州議会選挙は、予想されていたように「反EU」や「反移民」を掲げる右派・極右勢力が伸長しましたが、想定内の数字でもあり、親EU派全体では過半数を確保するということで、“劇的な変化”は避けられたようです。

右派・極右勢力が伸長した背景としては、ロシアによるウクライナ侵攻で、欧州では食料やエネルギー価格が上昇、更に、住宅の高騰もあって市民生活が圧迫されていること、また、移民・難民の流入規模は約10年前の「欧州難民危機」に並ぶ水準にまで達しており、各国の右派・極右勢力の「自国民を優先すべきだ」という主張が有権者の共感を得たことがあります。

****極右伸長、リベラル後退 親EU派が過半数確保―欧州議会選****
欧州連合(EU)欧州議会選挙(定数720)の大勢が10日、判明した。暫定集計結果によると、「反EU」や「反移民」を掲げる極右・右派が勢力を拡大し、ロイター通信によれば、計146議席程度を獲得するもよう。

欧州統合推進勢力のうちリベラル派は後退したが、中道右派・中道左派の主流2会派を中心とする親EU派全体では過半数を確保する見込みだ。

欧州委員長、続投に不安要素 親EU派過半数も極右伸長
親EUの中道右派「欧州人民党(EPP)」(ドイツ・キリスト教民主同盟、フォンデアライエン委員長など)は185議席(改選前176議席)と、事前予想を上回り、最大会派の座を維持する公算となった。同じく親EUで中道左派「欧州社会民主進歩同盟(S&D)」(ドイツ・社会民主党、ショルツ首相など)は137議席(同139議席)になる見通し。

極右会派「アイデンティティーと民主主義(ID)」(フランス・国民連合、ルペン氏など)は58議席(同49議席)、右派「欧州保守改革(ECR)」(イタリア・イタリアの同胞、メローニ首相など)は73議席(同69議席)にそれぞれ伸長。IDが選挙2週間前に除籍したドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」も、6議席前後増やすとみられている。

極右・右派の勢力拡大で割を食ったのは、2019年の前回選挙で主流派の受け皿となった親EUのリベラル派や環境派だ。暫定結果によると、中道リベラル会派「欧州刷新」(フランス・再生、マクロン大統領など)は79議席(同102議席)、「緑の党・欧州自由連盟」は52議席(同72議席)に後退する。

特に欧州刷新は、中核を担うフランスのマクロン政権の与党連合が極右政党「国民連合」に大敗。マクロン大統領は自国の国民議会(下院)解散・総選挙を表明した。

欧州議会選は6~9日に加盟各国で投票が行われた。暫定投票率は51%で、前回選挙の50.66%並みだった。【6月11日 時事】
**********************

右派・極右の伸長はありましたが、親EUの中道右派「欧州人民党(EPP)」が善戦して最大会派を維持したこと、親EU派全体では過半数を確保することで、フォンデアライエン欧州委員長続投の可能性も(未だ不透明ながらも)強まっています。

****欧州委委員長が続投へ「支持固め」開始、右派躍進の欧州議会選踏まえ****
欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、右派勢力が躍進した欧州議会選の結果を踏まえ、早速2期目の続投を視野に「支持固め」へ動き始めている。

欧州議会選では、フォンデアライエン氏を支えてきた中道系の親EU会派が過半数を維持したものの、議席数は減少。このため同氏が欧州議会で続投を確実に承認してもらうには、より幅広い勢力に働きかけて安定的な多数派を形成する必要がある。

こうした中でフォンデアライエン氏は、緑の党や、右派ながらこれまで緊密な関係を保ってきたイタリアのメローニ首相が率いる会派などとの連携を模索するかもしれない。

ただ中道左派の「欧州社会民主進歩同盟(S&D)」、中道リベラルの「欧州刷新」、緑の党はいずれも極右と手を組むことを拒否しており、フォンデアライエン氏にとって政治的な調整は極めて難しくなりそうだ。

一方、フォンデアライエン氏の続投には、EU諸国首脳の後押しも欠かせない。

2人の関係者がロイターに明かしたところでは、フランスのマクロン大統領はフォンデアライエン氏の続投支持に傾きつつある。欧州議会選で与党が敗北したとはいえ、マクロン氏の存在感は欧州首脳間において依然として大きい。

ドイツのショルツ首相は、フォンデアライエン氏の続投支持を公表していないが、同国も支持に回るとの見方が広がっている。ショルツ氏は10日、EU首脳ポストは早急に決定するのが望ましいとの見解を示した。

これに対してイタリアのメローニ氏は、フォンデアライエン氏の続投を決めるのはまだ尚早だとくぎを刺し、自身が影響力を行使する余地を残そうとする気配が見受けられた。【6月11日 ロイター】
*********************

【今後のEU政治のカギを握るイタリア・メローニ首相】
フォンデアライエン氏の続投については、今回選挙で勝利したイタリア・極右のメローニ首相の意向がカギとなりそうです。

****イタリア:首相の人気投票に****
イタリアではジョルジャ・メローニ首相が、国内政治での支配力を確実なものにした。

極右政党「イタリアの同胞」を率いるメローニ氏は、投票用紙の同党の欄の一番上に自身の名前を記載。今回の選挙を利用して、自らの人気上昇を狙った。そのギャンブルは結果的に成功。得票率は29%に上り、2022年総選挙での同党の得票を上回った。

ただ、成功を収めたのは同党だけではない。中道左派の野党「民主党(PD)」も期待されていた以上の健闘をみせ、得票率は2014年以降で最も高い24%に達したのだ。(後略)【6月11日 BBC】
********************

【各国の様々な結果】
一方、ドイツでは、最大野党の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が大勝し、難民排斥を掲げる右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が2位に。ショルツ首相の社会民主党(SPD)や環境保護政党「緑の党」などの連立与党は敗北しました。

****ドイツ:連立政権が敗北も解散総選挙はなし****
ドイツの3党連立政権にとっては残念な結果となった。だがオラフ・ショルツ首相は、マクロン仏大統領のように総選挙を求めることはしないとしている。

「社会民主党(SPD)」、「緑の党」、リベラル派の政党による連立は、前々から危ういものだった。ロシアがウクライナを侵攻すると、ドイツは経済およびエネルギー面でロシアと関係を断ち、かつての平和主義的な感情は国民の間から無くなった。

こうした状況が、一部のコアな与党支持者の熱を奪い、政党間の亀裂を生み、全体的に有権者を動揺させた。移民の急増も地方議会の財源を圧迫した。

政府は軍事費を増やし、安価なロシア産エネルギーからの脱却に成功した。だが、財政は行き詰まっている。

そこに、平和と繁栄を早期に取り戻すと約束する、ポピュリストの極右と極左が割って入った。「プーチン(ロシア大統領)と交渉し、ロシアのガスをまた買おう」。極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」はそう訴えた。

結果、今回の選挙で「AfD」は得票率15.9%で国内2位となり、ショルツ氏のSPDは同13.9%で3位だった。トップは同30%の保守政党「キリスト教民主同盟(CDU)」だった。

「私たちは戦争を終わらせたい。ウクライナへの武器提供をやめ、移民が来るのを止めろ」。元共産主義者で扇動的な政治家ザーラ・ヴァーゲンクネヒト氏が率いる、ポピュリストの極左新党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)」はそう主張する。

国内の有権者や政治家のほとんどは、ロシアや移民への対処が簡単ではないと考えている。半数以上はウクライナを支持している。しかし、不安と不確実性の時代には、単純なメッセージのほうが魅力的だ。【6月11日 BBC】
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ハンガリーではオルバン首相の与党に対抗して3カ月前に設立されたばかりの中道右派の政党「ティサ」が大健闘、オーストリアでは極右の「自由党」がトップに、スペインではサンチェス首相率いる中道左派が勝利・・・と、子国ごとに見ると、各国事情を反映して様々な結果に。

【フランス・マクロン大統領の「危険な賭け」】
そのなかで注目されているのはフランス。予想されていたようにマクロン与党は大敗し、極右「国民連合」が躍進しましたが、この結果を受けてマクロン大統領は下院を解散して総選挙に打って出るという「賭け」にチャレンジ。

****極右旋風に追い込まれた仏大統領、議会解散で危険な賭け パリ五輪前に政局混迷****
フランスのマクロン大統領は9日、欧州連合(EU)欧州議会選での与党大敗を受けて国民議会(下院)解散を宣言した。

厳しい移民規制を訴える極右「国民連合」の躍進に押され、大統領は政権基盤立て直しに向けて危険な賭けに出た。7月26日のパリ五輪開幕を前に、政局は一気に流動化した。

大統領はテレビ演説で、政治の安定を取り戻すため「フランスには明確な多数派が必要だ」と有権者に訴えた。下院選は6月30日に第1回投票、7月7日に決戦投票が行われる。

仏公共放送の推計によると、欧州議会選で国民連合の得票率は32%。フランスで1勢力の得票率が30%を超えたのは、1979年に欧州議会選が始まって以降2度目で、歴史的な快挙となった。マクロン氏の与党連合の得票率は15%で、ダブルスコアの差をつけられた。

国民連合は移民強硬策が看板。子育て支援など社会保障手当支給で国民と移民の間に格差を設けるよう主張し、フランス生まれの移民2世への国籍付与は制限せよと訴えている。

28歳の若さのバルデラ党首の人気もあって、今回の欧州議会選はマクロン政権に対する信任投票の様相を帯びた。推計投票率は51〜53%で、過去25年間の欧州議会選では最高になる見通し。

フランスで58年に現在の大統領制が始まって以降、大統領が下院を解散するのは6度目となる。前回は97年だった。このときの下院選で当時のシラク大統領の中道右派与党は惨敗した。大統領は左派のジョスパン首相とのコアビタシオン(保革共存政権)を迫られ、政局運営の手を縛られた。

マクロン大統領は22年の大統領選で勝利し、2期目に入った。だが、この年の下院選で与党は議席の過半数を割り込んだ。政府は予算などの重要法案を可決させるため、20回以上、憲法で認められた強権の発動を余儀なくされた。【6月10日 産経】
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****マクロン仏大統領、国民議会解散で「大きな賭け」…「極右」国民連合に過半数明け渡しのリスクも****
(中略)
フランスで大統領が下院解散に踏み切ったのは1997年のシラク大統領(当時)以来だ。電撃解散には、マクロン氏の残り任期が3年を切る中、対立構図を改めて鮮明にして局面打開を図る意図も指摘されている。
 
ただ、マクロン政権に対する支持は長期低迷しており、短期間での立て直しは容易ではない。
 
マクロン政権は、2期目始動後の2022年6月に行われた国民議会選で与党の過半数を失った。各種世論調査でマクロン政権の支持率は20%台が続いている。

27年春の次期大統領選に向けて4月にフィガロが報じた世論調査結果では、RNを実質的に率い、マクロン氏と2度大統領選で決選投票を戦ったマリーヌ・ルペン氏の支持率がマクロン氏の中道勢力の有力者を上回った。マクロン氏は憲法上の規定で出馬できない。

RNは元々、欧州議会選で勝利した場合、国民議会を解散するようマクロン氏に迫っていた。ルペン氏は9日、「準備はできている」と述べた。仏紙「レゼコー」(電子版)は9日、「マクロン氏が勝利する可能性は低い」と分析し「RNが過半数を得るリスクを背負っている」と評した。【6月10日 読売】
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【思い付きではなく、熟慮したうえでの決断・・・ではあるものの・・・】
「危険な賭け」「大きな賭け」と評されていますが、マクロン大統領は選挙結果を受けて急遽思い立ったのではなく。敗北は事前に予想されているなかで、長い期間熟慮した結果としての選択でしょう。

今回ダブルスコアで負けたのに勝算があるのか?・・・という点では、マクロン大統領が期待するのは「決選投票」制度というフランスの選挙制度です。そこで国民の「反極右」感情が国民連合躍進を阻止することへの期待があるのでしょう。

****フランスの国民議会選挙について****
フランスの議会下院にあたる国民議会は定数が577議席ですべてが小選挙区となっていて、選挙は、場合によって2回にわたって投票が行われる仕組みになっています。

1回目の投票では、過半数を得票し、かつ有権者の4分の1以上の票を獲得した候補者が当選します。1回目の投票で、当選した候補者がいない場合は1週間後に決選投票が行われます。

決選投票では、1回目の投票の上位2人と、1回目の投票で有権者の12.5%以上の票を獲得した候補者が進み、最も多くの票を獲得した候補者が当選することになります。

前回・2022年の選挙では1回目の投票で当選した候補者は5人だけで99%は決選投票で決まっています。

そして前回の決選投票での全体の得票率をみるとマクロン大統領の与党連合や、左派連合などは1回目の投票に比べて上がったのに対し、極右政党の「国民連合」は1回目の投票に比べやや下げています。

この決選投票では、「国民連合」よりそれ以外の政党の候補者にやや有利だった傾向がうかがえます。

現在の国民議会では、マクロン大統領の与党会派が250議席で過半数の289議席に届かず少数与党になっています。また「国民連合」は88議席となっています。【6月10日 NHK】
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実際、これまでの大統領選挙などでは、決選投票で候補者が絞られると、極右への抵抗感から極右候補は伸び悩み、対抗候補に票が集まり、極右候補は敗退することが多々ありました。マクロン大統領としてはその再現を狙っているのでしょう。

また、そうした中で左派勢力の穏健派を急進派から引き離して、中道勢力との連携にへ取り込もうという狙いも。

更に、「有権者が(欧州議会選の)選択の衝撃におそれをなし、投票行動を国民議会選で修正することを計算している」との見方も。

しかし国民連合(RN)が掲げる「反移民」は、かつては人種差別的ともみなされていましたが、今では社会全体に見られる「普通」の声にもなっています。 右傾化した社会全体と極右政党の垣根は非常に低くなっています。

また、国民連合も「反移民」などを除くと、国民受けのするポピュリズム的主張をしており、マリーヌ・ルペン氏が進めてきた脱極右イメージが一定に奏功しています。

そうした状況で、これまでのように「反極右」で乗り切れるか・・・非常に「危うい賭け」でもあります。

【マクロン大統領にとって「本丸」は次期大統領選挙】
現状での予測は・・・

****仏総選挙、極右優勢も過半数届かない公算 与党連合半減か=世論調査****
欧州議会選挙でフランス与党勢力が極右政党に大敗したことを受けマクロン仏大統領が国民議会(下院、定数577)の解散総選挙を急きょ決めたが、10日に公表された総選挙発表後初の世論調査ではマリーヌ・ルペン氏の極右「国民連合(RN)」の勝利が予想されている。ただ、過半数には届かない見通しだ。

トルナ・ハリス・インタラクティブがシャランジュ、M6、RTL向けに行った調査によると、EU懐疑派で反移民を掲げるRNは235─265議席を獲得し、現在の88から大きく躍進するものの、過半数の289は下回るとみられる。

一方、マクロン氏の中道連合は125─155議席と、現在の250から半減する可能性がある。左派政党は合わせて115─145議席となる見通し。

RNが政権を獲得するかどうかは定かでなく、主要政党による幅広い連立や、完全なハングパーラメント(宙づり議会)というシナリオもある。

RNが過半数を獲得しても、マクロン氏は大統領にとどまり、国防・外交政策を担う。ただ、経済や財政など国内政策の決定権を失い、そうなれば議会の予算承認が必要なウクライナ支援など他の政策にも影響が及ぶことになる。

解散総選挙の決定を受け、フランスの株式と国債が売られたほか、通貨ユーロも下落するなど影響が広がった。

大統領に近い関係者は、2年前に議会で絶対多数を失って影響力が低下していたマクロン氏にとっては、サプライズと言える総選挙に踏み切ることで議会で過半数を回復できるとの計算があると指摘した。

しかし、RNが過半数を獲得すれば政権運営が今後3年機能不全を起こし、2027年大統領選への逆風となるとの見方も出ている。

ルメール経済・財務相はRTLラジオで、解散総選挙は「フランスとフランス国民にとって第5共和制以降で、最も重要な議会選挙となる」と述べた。【6月11日 ロイター】
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マクロン大統領しては、前述のように単なる思い付きではなく熟慮した結果としての戦略ですので、当然にRN(国民連合)が過半数を得た場合、主要政党による幅広い連立で政権担当する場合、政権運営が今後3年機能不全を起こす混乱・・・なども考慮しての決断でしょう。

いずれにしても、マクロン大統領にとっては総選挙結果がどうなろうと、「本丸」は今度の総選挙ではなく次期大統領選挙です。ここで手をうたないと極右ルペン大統領実現が現実味を増す・・・どうやって極右ルペン大統領実現を阻止するかです。そこを見据えての決断がどういう展開を生むのか・・・。

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ウクライナ  欧米は自国供与兵器でのロ領内攻撃容認 核使用を含めたロ・米・仏の“腹の探り合い”

2024-06-10 22:45:30 | 欧州情勢

(【6月9日 SPUTNIK】 フランスがウクライナへの供与を発表した第四世代戦闘機「ミラージュ2000」 核搭載が可能で、アメリカのF-16戦闘機に近い性能を持つとされています。)

【ロシア軍のハルキウ州侵攻は勢いが止まる】
ウクライナは依然としてロシアの激しい攻撃にさらされています。
特に発電施設などインフラへの攻撃で、電力はほとんど(攻撃を受けにくい)原子力発電頼みの状態にもなっています。

****露攻撃で電力供給能力4割以下、キーウでは1日4時間しか電気使えない地域も…英紙報道****
英紙フィナンシャル・タイムズは5日、ウクライナを侵略するロシア軍による発電所などへの攻撃で、ウクライナの電力供給能力が2022年の侵略開始前の4割以下に落ち込んだと報じた。首都キーウで計画停電を迫られ、市民生活に大きな影響が出ている。

同紙によると、従来は欧州最大規模の約55ギガ・ワットあったウクライナの発電能力は現在、20ギガ・ワット以下に低下した。露軍は今年春以降、発電所への攻撃を強め、5月31日〜6月1日の攻撃では南部ザポリージャ州にある同国最大の水力発電所が稼働を停止した。

5月以降、各地で計画停電が頻繁に行われている。ニュースサイト「ウクライナ・プラウダ」などによると、キーウでも1日約4時間しか電気が使えない地域があり、市民は小型の発電機に頼った生活を送っている。【6月8日 読売】
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5月からのロシア軍の北東部ハリコフ州(ウクライナ語名では“ハルキウ”)への侵攻によって犠牲者も増加しています。

****ウクライナ民間人死者、5月は174人 約1年ぶりの多さ=国連****
国連人権高等弁務官事務所によると、5月のウクライナ民間人の死者数は174人と、4月から31%急増し、2023年6月以来で最多となった。北東部ハリコフ周辺の人口密集地域でミサイルや爆弾による攻撃が増加したことが背景にある。

ロシアは5月に国境に接するハリコフ州への地上侵攻を開始。攻撃はここ数週間で激化している。5月25日には大型商業施設がロシア軍の誘導爆弾2発で攻撃され、少なくとも14人が死亡し、数十人が負傷した。

国連ウクライナ人権監視団を率いるダニエル・ベル氏は、ハリコフのショッピングセンターなどへの攻撃について、「日常的な行動でさえ、命の喪失につながりかねないという民間人の極めて脆弱な状況を浮き彫りにした」と述べた。

ロシアとウクライナはともに、軍事攻撃において民間人は標的にしていないと主張している【6月8日 ロイター】
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ただ、ひと頃のロシア軍の攻勢、ウクライナ側の劣勢(それは今でも同じですが)という状況は、欧米の支援を受けるウクライナ側の抵抗で(後述の欧米供与兵器によるロシア領内攻撃容認も影響していると思われます。)幾分押しとどめられているというか、ロシアも動きが鈍ったようにもなっています。

****ウクライナ軍、ハリコフ州ボフチャンスクで徐々に戦況改善 市中心部を奪還か****
ウクライナ軍参謀本部は3日、ロシア軍による東部ハリコフ州への越境攻撃で攻防が焦点化している小都市ボフチャンスク市内で戦闘が続いていると発表した。

これに先立つ2日、ウクライナ軍のボロシン報道官は「ウクライナ軍がボフチャンスクの7割を確保している」と説明。1週間前にはウクライナ軍の確保地域は約5割だったとされ、同国軍が徐々に戦況を改善していることを示唆した。(後略)【6月4日 産経】
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****ロシア軍のハルキウ攻勢「止まった」 米大統領補佐官****
米国のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は9日、ウクライナ東部ハルキウ州でロシア軍の進撃が「止まった」との認識を示した。米政権はウクライナに対し、供与した武器をロシア国内への攻撃に使用することを一部解禁していた。

サリバン氏はCBSテレビに対し、「(ロシア軍の)ハルキウにおける作戦の勢いが止まった」と指摘。「ハルキウはなお危険な状況にあるが、ロシアはここ数日、同地で有用な進捗(しんちょく)を遂げられていない」と語った。

米政権は先に、ロシア国境に接するハルキウ州の防衛に向け、米国が供与した兵器をロシアに向けて使用することを容認した。これまでは、そうした攻撃は北大西洋条約機構をロシアとの直接戦争に引きずり込む恐れがあるとして認めてこなかった。

サリバン氏は「米大統領からすればこれは当然のことだ」とし、「自分たちを攻撃してくる重火器や砲台に対する国境を越えての攻撃をウクライナに認めないのは筋が通らない」と述べた。 【6月10日 AFP】
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【欧米の供与兵器ロシア領内使用容認にプーチン大統領反発 核のエスカレーションも】
こうしたウクライナ・ロシアの両者によるリング上で足を止めての“力比べ”状態の今後を左右する可能性があるのが、アメリカなどがウクライナへ供与した武器をロシア国内への攻撃に使用することを一部解禁したことです。

もともとウクライナの戦争は“ロシア対アメリカなどNATOの対決”という側面がありましたが、その色彩が一段と強まり、ロシアと欧米が互いを牽制しあう状況も強まっています。

****アメリカ兵器でのロシア領内攻撃容認、プーチンの「最大最後の一線」を越えた?****
<アメリカがロシア領内への攻撃をウクライナに認めた今、プーチンは本気でNATOに攻撃を仕掛けるつもりか、あるいはアメリカと同じくエスカレーションを恐れているのか、腹の読み合いが続く>

アメリカはついにウクライナに対し、アメリカが供与した武器で、ロシア領内を攻撃することを認めた。ウラジーミル・プーチンが引いた最後の一線(エスカレーションへのレッドライン)を越えることを意味するバイデン政権の新方針は、今後の戦況にどのような影響を与えるだろうか。 

ロシア軍は5月半ばからウクライナ北東部の都市ハルキウに対して激しい攻撃を仕掛けており、ウクライナ軍はハルキウ周辺を標的にするロシアのミサイル攻撃を防ぐことができずにいる。そのためウクライナ政府は、ロシア軍の攻撃の拠点があるロシア領内も欧米の兵器で直接攻撃させて欲しいと要求してきた。 

アントニー・ブリンケン米国務長官は、アメリカはこの戦争に「適応し、調整しなければならない」とコメントしたが、これはウクライナへの軍事援助をさらに段階的に増やすという姿勢を反映している。 

アメリカの武器支援は対戦車ミサイル「ジャベリン」や対空ミサイル「スティンガー」からロケット砲の「ハイマース」、M1エイブラムス戦車へと次第に強力さを増し、ウクライナにとって垂涎のF16戦闘機も準備中だ。ただしそれでも、陸軍戦術ミサイル(ATACMS)の長射程版を含む長距離攻撃兵器の供与は検討されてこなかった。(注:ATACMSについては、バイデン大統領は4月に、2月時点で供与を密かに決定し、すでに供与が始まっていることが明らかにしています。)

これは、ウクライナ軍がロシア領内を直接攻撃することにより、戦火が拡大することをバイデン政権が警戒したからだ。 

核攻撃も示唆
ロシア政府はウクライナ戦争をロシアとNATOの代理戦争とみなしており、この戦争で越えてはならない一線について言及している。国家存亡の危機に至った場合は、核兵器を使うことさえ示唆している。それがどういう場合なのか具体的には示されていないため、どこがレッドラインになるかははっきりしない。 

プーチンはウクライナを支援した西側諸国に罰を与えると宣言したが、それを軍事的に実行するには至っていない。だが、5月に核兵器訓練を行うと発表したことを考えると、今後はどうなるかわからない。(中略)

ロシアが匂わせる報復
ロシア外務省は5月、イギリスがウクライナに供与した兵器がロシア国内への攻撃に使用されれば、ロシアはウクライナ国内外のイギリスの軍事関連施設に対する攻撃で報復する、と述べた。

アメリカの外交政策における平和と外交を重視するアイゼンハワー・メディア・ネットワーク(EMN)のアソシエイト・ディレクター、マシュー・ホーは、ロシアのこの脅しはアメリカが供与した武器にも当てはまると述べた。(中略)

すでに「一線」は越えている?
2023年10月、ロシアの独立系メディアAgentstvoによるロシア政府のメッセージの分析で、ロシア当局は同年9月、西側諸国とウクライナへの脅しとして「越えてはならない一線」や「意思決定中枢への攻撃」というフレーズの使用を実質的に止めたことがわかった。 

セキュリティ会社グローバル・ガーディアンの主任情報アナリスト、ゼブ・フェイントゥッチは、2014年以来ロシアが占領しているクリミア半島の重要軍事拠点をウクライナが繰り返し攻撃して大きな損害を与えていることを指摘。「プーチンがクリミアを正式なロシア領とみなしていることからすれば、プーチンにとってはすでに一線を越えている」と述べた。 

「同様に、ウクライナと国境を接するロシアの都市ベルゴロドやブリャンスク、クルスクなどの軍事施設も攻撃されているが、ロシアは何もできていない」 

フェイントゥッチは、NATO各地で原因不明の火災が相次ぎ、ロシアの関与が非難されていることは、ロシアがどのような破壊工作を用意しているかを示している、と述べた。(後略)【6月5日 Newsweek】
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プーチン大統領はアメリカなどの関与強化に怒っていますが、最後は戦術核兵器の使用も辞さない・・・という恫喝です。

****核使用の可能性「軽く見ないほうがいい」とプーチン、西側の「掟破り」に激怒****
<アメリカを含む複数国が、ウクライナに供与した武器によるロシア領内への攻撃を許可。プーチン大統領は、ロシアも「西側の敵」に武器を提供すると警告した>

ロシアのプーチン大統領は6月5日、外国の記者団に対し、西側諸国がウクライナに武器を供与し、アメリカを含む複数国がロシア領内への攻撃を許可したことを批判。ならばロシアも自国の武器を西側の敵に提供すると警告した。

アメリカがこれまでウクライナに行った軍事支援は約510億ドルに上る。5月下旬にはそれまでの方針を転換し、ウクライナ東部ハルキウ(ハリコフ)周辺の国境地帯に限ってロシア領内への米国製の武器使用を認めた。

一方でアメリカはウクライナに長距離攻撃が可能な陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)の使用は許可していない。

アメリカの方針転換を受け、ロシアのメドベージェフ前大統領は「アメリカとその同盟国に、第三国がロシア製武器を使う直接的な影響を分からせてやろう」「アメリカを敵とする国は、われわれの仲間だ」と発言。

プーチンはまた、西側はロシアが核兵器を使う可能性を「軽く見ないほうがいい」とも警告した。【6月10日 Newsweek】
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【フランス・マクロン大統領 ミラージュ2000供与でウクライナの核報復を可能にする動き?】
「軽く見ないほうがいい」とは言ったものの、また、実際にベラルーシにも戦術核を配備していますが、さりとて核使用がロシアにとっても破滅的な結果をもたらすことは十二分に承知していますので、いたずらにエスカレーションしないようにブレーキもかけつつ・・・といったところ。

****核兵器使用の必要性「否定」 プーチン氏、侵攻前線で****
ロシアのプーチン大統領は7日、ウクライナでの戦況はロシアにとって核兵器の使用が必要な状況には至っていないとの認識を示した。ウクライナを軍事支援する北大西洋条約機構(NATO)諸国を巻き込んだ核戦争に発展しないことを望んでいるとも述べ、核使用に慎重な姿勢をみせた。

プーチン氏は5日の各国通信社代表との会見で、国家の存続が脅かされる場合には核使用の可能性があると主張していた。7日の発言には、核使用の可能性を限定することで欧米との緊張を緩和し、「核の脅し」との対ロ批判をかわす狙いがあるとみられる。

ロシア北西部サンクトペテルブルクでの国際経済フォーラム全体会合でプーチン氏は、前線で核兵器を使用すれば進軍の速度が上がる可能性はあるとする一方、「前線にいるロシア兵の命と健康のほうが大切だ」と強調。軍事ドクトリンが核使用を容認している国家主権や領土の一体性維持が危ぶまれる状況にはないとの見方を示した。【6月8日 共同】
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一方、欧米側の対応は・・・。
アメリカは戦術核供与をしないので、ウクライナがロシアの戦術核攻撃を受けた時の核反撃ができませんが、慎重なアメリカに代わって報復攻撃を可能にする動きを見せているのがフランスだとのことです。プーチン大統領の“ブレーキ”発言もそこらを受けたものとの指摘もあります。

6月7日、フランスのマクロン大統領はウクライナに対し、アメリカ製のF-16戦闘機に近い性能を持つミラージュ2000戦闘機を供与すると発表しました。

一方で5月28日にスウェーデンはグリペン戦闘機のウクライナへの供与の計画を一時的に停止し、F-16戦闘機の供与の邪魔にならないように後回しにする方針を決定しています。

****目には目を、核には核を。徹底的にプーチンを潰しにかかる欧州「ロシア恐怖症」の深刻度****
(中略)
ロシア領内攻撃で核エスカレーションが起きている
ウクライナ戦争で、ウ軍は欧米兵器によるロシア領内攻撃を行ったが、プーチンは核の脅しを強めている。今後を検討する。

ロ軍は、ハルキウ国境を超えて攻撃してきたことで、欧米諸国はウ軍へ供与した兵器でのロシア領内への攻撃を容認し、その攻撃で、ロ軍はこの方面での損害が大きくなり、特に補給トラックのHIMARS爆撃で補給ができなくなった。このため、攻撃の重点を再度、ドネツク市北側のオチェレティネ周辺に移したようである。

米国も、ハルキウ州、スームィ州やチェルニーヒウ州の国境付近へのロ軍軍事目標への攻撃を容認したが、ATACMSの使用を許可せずに米武器での攻撃を細かく指示してくる。ロシアの核攻撃を恐れていて、エスカレーションを高めないようにしている。

これに反して、マクロン仏大統領は、ロシアの核攻撃に対してウ軍の核反撃を行う準備をするようだ。「ミラージュ2000-5提供のための訓練が数日以内に始まる」と言及したが、スェーデンのグリペン戦闘機の供与をやめた理由は、F-16の訓練を優先するとしたが、実は核反撃を想定して、ミラージ2000-5の訓練を優先することであったようだ。

F-16訓練の人数が米国は16人に絞っているので、ウクライナは、米国で訓練を開始できるパイロットが30人いるというが、また、2年程度で供与される90機のF-16もパイロット不足で稼働できないし、米国は戦術核供与をしないので、ロシアの戦術核攻撃を受けた時の核反撃ができない。

フランスには、ミラージュ2000Nが核搭載可能であり、ウクライナがもし戦術核での攻撃を受けた時には、フランスはミラージュ2000Nと戦術核の供与をして、報復攻撃を可能にするようである。

このことで、ロシアの戦術核攻撃に対応することで、ウクライナへの核使用の抑止力を効かそうとしているようであるが、徐々に核使用のレベルが低くなってきたように見える。(中略)

5日、サンクトペテルブルクで各国の通信社幹部らとの会見で、プーチンは、ロシア国内を攻撃できる兵器をウクライナに供与する国があれば、その国と敵対する国や地域にロシアも兵器を供給することを「検討している」と述べた。また、ウクライナに兵器を供与した国の「重要目標がロシア製兵器で攻撃される可能性がある」と警告した。
事実、原潜含むロシア海軍艦船4隻がキューバへ向かっている。

このような脅しで、欧米に対ウクライナ軍事支援の停止やロシア国内攻撃の許可の取り消しを迫った形だ。プーチンはまた、欧米が兵器供与を停止すればウクライナでの戦闘は2〜3カ月で停止すると主張した。

ロシアが行き詰っていることが、この会見で見て取れる。ロ軍でも装甲車両が足りないので、ロシアの兵器とは核兵器しかない。核の脅しであるが、その脅しで、欧州は新たな行動に出るので、核のエスカレーションが起きていることになる。

しかし、ウクライナに核反撃のために、ミラージュ2000-5の提供をフランスが発表したら、プーチンは7日、ウクライナ情勢について、通常兵器による戦闘で勝利を得られるとの見通しを示した上で「核兵器を使うような状況でなく、その必要もない」と述べ、核の脅しを止めた。ウクライナの核反撃は抑止力を発揮したことになる。(後略)【6月10日 津田慶治氏(日本国際戦略問題研究所長) MAG2NEWS】
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【緊張の高まりで、ロシア・アメリカ・フランスなどの“腹の探り合い”】
マクロン大統領が核兵器による報復攻撃をどこまで本気で考えているのかは分かりません。(そもそもプーチン大統領が本当に核を使うのかも分かりませんし) マクロン大統領は以前はロシアに宥和的でしたが、最近はウクライナへの派兵など強硬姿勢を強めています。その真意は?

ただ、あくまでもウクライナの状況は“海の向こう”での出来事であり、自国に飛火しないように慎重姿勢のアメリカに比べると、フランスなど欧州各国にとってはロシアの脅威はより切迫・切実なものであるのは事実でしょう。

供与兵器によるロシア領内攻撃を容認したことで、緊張のステージがひとつ上がり、戦術核兵器使用を含めたロシア・アメリカ・フランスなどの“腹の探り合い”が激しくなっています。

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イスラエルの人質救出作戦で多大な住民犠牲 バイデン大統領の言う「レッドライン」は?

2024-06-09 22:38:16 | パレスチナ

(【6月9日 HUFFPOST】 6月8日 ホワイトハウス周辺で行われたイスラエルへの抗議デモ 参加者たちは「バイデン、あなたは隠れることはできない。私たちはあなたを大量虐殺で告発する」などと声を上げた。)

【多大な住民犠牲も、ネタニヤフ首相「非常に感動的な日だ」「全員帰還までどんな手段でも使う」 人質救出に歓喜する国民】
周知のようにイスラエルはガザ地区で大規模な人質救出作戦を行い4人を救出しました。
しかし、一方で多数(ハマス側の数字では210人、あるいはそれ以上)のパレスチナ人住民に死者が出ています。

****イスラエル人質救出作戦 激しい銃撃戦 空爆で住民に多数死者か****
イスラエル軍はガザ地区の中部で人質4人を救出した作戦について数週間にわたって入念に準備を重ねた上で実施されたとしていますが、ハマス側と激しい銃撃戦となり空爆なども行ったことで、住民に多数の死者が出たとみられています。

ハマス側は反発を強めていて、停戦や人質解放に向けた交渉にも影響を与える可能性があります。

イスラエル軍は、8日にガザ地区中部で行われた女性1人と男性3人の合わせて4人の人質を救出した作戦について情報機関が人質の居場所を突き止め、特殊部隊などが数週間にわたって入念に準備を重ねた上で実施されたとしています。

作戦は午前11時に開始され、女性が拘束されている建物と男性たちがいる別の建物を同時に襲撃したということです。

アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは、夜間ではなく、あえて日中に作戦を開始したのは、ハマス側の隙を突くためだったと伝えています。

イスラエルの有力メディアハーレツによりますと、女性の救出は比較的順調に進んだものの、男性3人を救出する際に、ハマスの戦闘員と激しい銃撃戦となり、空軍の支援も受けて周囲に空爆も加えながら人質を脱出させたということです。

イスラエル軍は、作戦によるパレスチナ人の死者は100人以下だとしていますが、ハマス側は住民210人が死亡したと主張し、反発を強めていて、停戦や人質解放に向けた交渉にも影響を与える可能性があります。

ガザ地区の保健当局は、今回の人質救出作戦が行われる前の時点でこれまでに3万6654人が死亡したとしていて、交渉に進展が見られない中、住民の犠牲が増え続けています。【6月9日 NHK】
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仮にイスラエル側の言うように“100人以下”であったとしても、多大な犠牲であることには変わりありません。
ガザ保健当局は、死亡した住民らは274人、負傷者は698人としています。

イスラエル・ネタニヤフ首相は「(人質の)全員帰還までどんな手段でも使う」とも。

****ガザ人質奪還で274人死亡 ハマス「残虐な犯罪」非難****
パレスチナ自治区ガザ中部ヌセイラトでイスラエル軍が8日に実施した人質4人の奪還作戦で、ガザ保健当局は9日、死亡した住民らが274人に上ったと発表した。負傷者は698人。

イスラム組織ハマスは8日の声明で残虐な犯罪行為だと非難した。イスラエルのネタニヤフ首相は記者会見し、ハマスが人質解放に応じなければ「全員帰還までどんな手段でも使う」と述べ、軍事作戦の継続を主張した。

ガザ保健当局は9日、昨年10月の戦闘開始後のガザ側死者は3万7084人になったと発表した。

ハマスは声明で「イスラエルが犯した罪を問うよう国際社会に求める」とし、多くの人質を依然拘束しているとして対抗する姿勢を示した。

イスラエルとハマスを仲介するエジプトは「最も強い言葉で非難する」との声明を発表。ヨルダンも「戦争犯罪」だとし、アラブ諸国にイスラエルへの反発が広がった。

イスラエルメディアによると、救出された人質4人は200メートルほど離れた二つの民家で拘束。軍は周囲に多数の民間人がいる中で奪還作戦を実行した。【6月9日 共同】
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“ネタニヤフ首相は「非常に感動的な日だ」とし、人質全員の解放に向け今後も尽力していくと強調しています。”とも。【6月9日TBS NEWS DIG】
人質の家族会は救出について「奇跡の勝利」「英雄的な作戦」とたたえています。

*****イスラエル軍、ガザで人質男女4人救出 家族会「英雄的な作戦」とたたえる*****
イスラエル軍は8日、パレスチナ自治区ガザ中部ヌセイラトで、イスラム原理主義組織ハマスに拘束されていた人質4人を救出したと発表した。軍が作戦で人質を救出するのは2月以来で、救出者は計7人になった。

ロイター通信によると、救出されたのは昨年10月7日にガザ境界付近の野外コンサート会場から連れ去られた20代の女性1人と20代〜40代の男性3人。いずれも健康状態に問題はないとみられる。

大統領府が公開した映像では、ヘルツォグ大統領からの電話に救出された人質の女性ノア・アルガマニさんが「ここにいられて、とても幸せです。ありがとうございます」と笑顔で答えた。人質の家族会は救出について「奇跡の勝利」「英雄的な作戦」とたたえた。(後略)【6月8日 産経】
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人質の家族だけでなく、TVニュースによればイスラエル一般国民も歓喜に湧いており、街はお祭りのような雰囲気も。

公平を期すために言えば、ハマスがイスラエルを急襲して多数のイスラエル人を殺害し、人質を連れ去った際にも、ガザ地区では同様の歓喜・お祭り騒ぎがありました。

しかし、部外者の目で見ると、4人の人質救出のために200人以上の住民犠牲者というのは、あまりにもバランスを欠いているように思えます。

現在のガザ地区の状況は、ハマスによる急襲によって始まった訳ではなく、双方の相手側への憎しみ、共感の欠如が長年続く中で生まれてきたものでしょう。

【国連 イスラエル軍が拘束したパレスチナ人に暴行 拷問との報告書 児童への暴力犯罪者リストにも】
イスラエル側の対応については、国連はイスラエル当局が拘束したパレスチナ人に対し暴行や拷問を行っているなどとする報告書を公表しています。

****“イスラエル 拘束したパレスチナ人に暴行 拷問”国連など報告****
イスラエル軍はガザ地区での軍事作戦を続ける一方で、ハマスとの関連を調べるためなどとして、これまでに数多くのパレスチナ人を拘束しています。地元の人権団体によりますと、イスラエルとハマスの戦闘が始まった去年10月7日以降、ガザ地区ではこれまでに推定で4000人、ヨルダン川西岸では、9000人以上のパレスチナ人が拘束されたということです。

これについて国連などは先月釈放された人たちや医療関係者の証言などから、イスラエル当局が拘束したパレスチナ人に対し暴行や拷問を行っているなどとする報告書を公表しました。

報告書では拘束された人たちが、外部から隔離され、非人道的な状況に置かれているとしたうえで性的な暴行や激しい殴打、さらに犬にけしかけられる脅迫や水責めなどを受けていると指摘しています。

国連はパレスチナの人々に対する暴行や拷問などについて、徹底的な調査と再発防止のための措置を求めています。

左足を負傷 切断を余儀なくされた拘束者も
イスラエルの人権団体によりますと、ガザ地区ではこれまでに推計で4000人が一時、拘束され、今も一部の人が施設で拘束されたままだということですが、詳しい状況は明らかになっていません。

ガザ地区南部のハンユニスに住むソフィアン・アブサラさんは、ことし2月から2か月近くにわたりイスラエル軍に拘束されました。

家族6人で暮らしていたアブサラさんは、イスラエル軍の地上侵攻でハンユニスの自宅を追われ、たどりついた先の避難所の学校にもイスラエル軍が侵攻し、ほかの住民とともに拘束されたといいます。

そして両手を縛られ目隠しをされ、トラックの荷台に乗せられてイスラエル国内にあるとみられる施設に送られました。

その際にイスラエル軍の兵士から棒や銃で殴られたり、蹴られたりといった暴行を受けたということで、アブサラさんは左足に傷を負いました。

当時の状況についてアブサラさんは「兵士たちは私たちを銃や棒で殴ったり、蹴ったりし、拘束されている中で最悪の時間でした。私は足にけがを負いましたが、トラックに4時間も乗せられ、足の感覚もなくなっていたので、その時はけがに気付きませんでした」と話していました。

拘束された施設でもアブサラさんは毎日のように暴行を受けたということで、劣悪な衛生環境で左足の傷は化のうし、次第に腫れていったといいます。

アブサラさんは薬を求めましたが、受け入れられず、けがをしている足を棒で殴られたこともあったということです。

症状を訴え続け、ようやく病院に運ばれた時には治療するには手遅れで、左足を切断することを余儀なくされました。

アブサラさんは「命のためには足の切断を選択しなければならないと医師は言いました。私は孤独で家族もいない中で、とても難しい決断を迫られました」と話していました。

アブサラさんは15年以上タクシーの運転手として働き、政治とは無縁でハマスとの関わりがないことを訴えて釈放されましたが、ハンユニスの自宅は破壊され、いまはテントでの生活を強いられています。

アブサラさんは「足を失ってから家族の面倒を見ることも食料や水を探しに行くこともできません。すべてが180度変わり、状況は本当に悪くなりました」と訴えていました。

イスラエル軍は収容施設の状況についてNHKの取材に対し「施設では1日に1回、健康状態を確認し、必要であれば十分な医療を提供している。イスラエルの法律と国際法に従っている」とコメントしています。

拘束問題 ヨルダン川西岸のパレスチナでも急増
イスラエル当局によるパレスチナ人の拘束はヨルダン川西岸のパレスチナでも急増していて、地元の人権団体によりますと去年10月以降だけで9000人以上のパレスチナ人が拘束されたということです。(中略)

パレスチナ人の拘束をめぐってはイスラエル国内でも問題視する声があがっていて、イスラエルの人権団体は問題が指摘されている複数の施設のうち1か所の閉鎖などを求めて最高裁判所に訴えを起こしています。

訴えを起こした人権団体の1つで法務部門を担当するダニエル・シェンハルさんは「10月7日以降の刑務所の状況は深刻で非常に悪いです。人々をこのような非人道的な環境で拘束し、拷問することは許されません。イスラエル当局や軍が法を破っていることが問題で、その違法行為を止めるために私たちは活動しています」と話していました。【6月9日 NHK】
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また、国連事務総長は7日、イスラエル軍を児童に対する暴力を犯した犯罪者の国際リストに加えたことを明らかにし、イスラエル側は激しく反発しています。

****国連、イスラエルを児童への暴力犯罪者リストに イスラエル反発****
イスラエルのエルダン国連大使は、国連のグテレス事務総長がイスラエル軍を児童に対する暴力を犯した犯罪者の国際リストに加えたことを明らかにした上で、この決定を「恥ずべきこと」と批判した。ソーシャルメディアに動画を投稿した。

イスラエルのネタニヤフ首相は、国連は「イスラム組織ハマスを支持する側に加わったことで、歴史のブラックリストに載った」と非難。ただ外交筋によると、国連はハマスのほか、パレスチナ自治区ガザの過激派「イスラム聖戦」も同リストに掲載する予定。

エルダン氏は7日にこの決定に関する正式な通知を受けたと述べた。国連報道官も、グテレス事務総長の事務局が7日にエルダン氏に電話で通知したと確認した。

このリストは、14日に国連安全保障理事会に提出される予定の児童と武力紛争に関する報告書に含まれている。イスラエルのカッツ外相も、この決定はイスラエルと国連の関係に影響を与えるとの認識を示した。

エルダン氏は投稿した動画で「事務総長のこの恥ずべき決定に、私はショックを受けている」と述べた上で 「イスラエル軍は世界で最も道徳的な軍隊だ。この決定はテロリストを助け、ハマスに利益をもたらすだけだ」と強調した。【6月8日 ロイター】
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【高まるイスラエル批判のなかでネタニヤフ首相を超党派で議会に招くアメリカ】
イスラエルに対しては国際的に批判が高まっていますが、例外がアメリカ。
米議会は超党派でネタニヤフ首相を議会に招いています。

****ネタニヤフ氏、米議会での演説は来月24日に****
米議会指導部は6日、イスラエルのネタニヤフ首相が来月24日に上下両院合同会議で演説すると発表した。
ネタニヤフ氏には先月31日、共和党のジョンソン下院議長、民主党下院トップのジェフリーズ院内総務、民主党上院トップのシューマー院内総務、共和党上院トップのマコネル院内総務が連名で書簡を送付し、合同会議に招いていた。(中略)

訪米の日程にホワイトハウスでの首脳会談が含まれているかどうかは明らかでない。
パレスチナ自治区ガザ地区でイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が続くなか、バイデン氏とネタニヤフ氏の間では戦闘の行方やガザの人道状況をめぐって不協和音が生じている。

米議会では4月にウクライナやイスラエルを支援するための法案が可決されたものの、民主党内部ではイスラエルの対応をめぐって意見の対立が続く。一部の民主党議員は、ネタニヤフ氏の演説をボイコットする構えを示している。【6月7日 ロイター】
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【バイデン大統領の「レッドライン」はどこにあるのか?】
バイデン大統領は、米国内の若者らにおけるイスラエル批判の高まりといった状況での大統領選挙対策もあって、ネタニヤフ首相の頑な姿勢には苛立っているとも報じられており、また、イスラエルへの武器供給の停止を判断する「レッドライン」にも言及してはいますが、伝統的な「イスラエル支持」の大枠からは抜けだしてはいません。

今回の人質救出作戦についても、“アメリカのバイデン大統領は「人質が救出されたことについて歓迎する」とコメントしました”【6月9日 TBS NEWS DIG】とのこと。

知りたいのは、多大な住民犠牲者が出たことを踏まえてどのように評価するのか・・・ということですが、今現在はその点に関する報道は目にしていません。

5月26日、ラファの避難民密集地気の学校へのイスラエル軍の空爆で、少なくとも45人が殺害され、数百人が負傷したと報じられている件でもホワイトハウスは「レッドライン」は越えていないとの認識を示しています。

国際社会が今のイスラエル・ネタニヤフ首相に何を言っても無駄ですが、唯一イスラエルを動かせるのがアメリカです。

200名超の住民が犠牲になっても「レッドライン」は越えていないのなら、「レッドライン」とは一体何なのか?

****「もうたくさんだ」殺害されたパレスチナ人たちの名前掲げて「レッドライン」引く。米ホワイトハウス前で大規模な抗議デモ****
ガザ攻撃を続けるイスラエルに軍事支援するバイデン政権に抗議する大規模なデモが現地時間の6月8日、米ワシントンのホワイトハウス周辺で行われた。

赤い服を着たデモ参加者たちはバイデン政権に対し、イスラエルへの全ての軍事援助を停止することや、即時停戦を要求。ホワイトハウスの周辺約1.6キロに輪をつくり、イスラエルの攻撃で殺害されたパレスチナ人たちの名前を書いた赤い横断幕などを広げた。

デモ団体が掲げた赤い布や横断幕は、米政府がイスラエルへの武器供給の停止を判断する「レッドライン(越えてはならない一線)」を想起させることを意図したものだ。

カービー米大統領補佐官は5月、イスラエル軍が同26日にガザ地区南部ラファを空爆したものの、「レッドライン」は越えていないとの認識を示した。この空爆で、少なくとも45人が殺害され、数百人が負傷したと報じられている。
デモ参加者のプラカードには、「バイデンのレッドラインは嘘だ!」と書かれたものもあった。

デモを呼びかけた団体のメンバーは、「イスラエルによるガザでのジェノサイドに対し、バイデンが引かないレッドラインを引くのがデモの狙い。私たち市民が今日一線を引いて、もうたくさんだと示すのです」と述べている。

ホワイトハウス近くのラファイエット広場にある複数の像は、スプレーでペイントされたり、「ガザを解放しろ」と書かれたりした。

抗議活動は警察も出動する事態となっている。ニューヨーク・タイムズによると、デモ参加者に対し、警察官が催涙スプレーを使用する場面もあったという。

バイデン氏本人は現在、フランスに滞在中でホワイトハウスにはいない。

ガザ保健当局の発表によると、2023年10月7日からの約8カ月間にガザ地区では3万6000人以上が殺害された。6月6日には、ガザ地区で国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が運営する学校がイスラエル軍により空爆され、子どもを含む40人が殺された。【6月9日 HUFFPOST】
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ネタニヤフ首相を議会に招くような政治情勢にあっては、バイデン大統領は「レッドライン超え」を認める訳にはいかないでしょう・・・しかしそれではアメリカの掲げる人道尊重はどこへ行くのか?
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