170218 医療の公正さ <虚偽診断書 組長収監逃れ 組長と医大学長会食>を読んで
今日は暖かい心地よい雰囲気です。冬の縛れる凍土のような過酷な状態をじっと耐え、去年植えた花(500位の苗)のうちいくつかは枯れた状態から生きる喜びのような緑色をしていきました。生命の力強さを感じます。
さて今朝の北朝鮮の金 正男(キム・ジョンナム)暗殺事件や韓国のサムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長の話題で沸騰しています。もちろん相変わらずトランプ氏の独演ぶりも取り上げられていますが、浜矩子氏による安倍首相のトランプ会談での蜜月ぶりについて相変わらず辛口の批評も思わずにたりとしてしまいます。
ところで、今日は午後大阪に行くので、なんとか午前中にブログを書き上げたいと思っていますが、今朝の毎日には手頃なのがなく、最近話題の見出しの記事、毎日が連続でフォローしているのを、少し法的観点を交えて、医療の公正さというものについて、考えてみたいと思います。
事件の概要は、毎日の14日から16日の記事を整理するとおおむね次のような経過ではないかと思います。
13年6月 京都地裁は高山義友希(60)を恐喝罪などで懲役8年の実刑判決。
14年7月 大阪高裁が高山被告の控訴を棄却。
14年7月 府立医大病院で高山被告に対し腎移植手術が行われた。
15年年6月 最高裁が上告を棄却した。
この後、大阪高検に対し、京都府立医大病院長と武田病院がそれぞれ高山受刑者が収監に耐えられない趣旨の報告書を提出。
16年2月 大阪高検は上記報告に基づき高山受刑者の刑執行を停止し、収監を見送った。
17年2月14日 京都府警は虚偽公文書作成容疑等で、府立医大病院等を家宅捜索
同日 高山受刑者は京都地検に出頭し、大阪高検が大阪刑務所に収監した。
翌15日 京都府警は、虚偽診断書作成容疑で、武田病院を家宅捜索。
おおざっぱな流れは以下のように思います。
で、関係者の情報は、警察発表が中心で、暴力団情報は確かなものと思う一方、伝聞もあり信頼性がどの程度あるか記事からは判明できませんが、おおむね以下の通りです。
高山義友希(よしゆき)受刑者は、指定暴力団・山口組の直系組織「淡海(おうみ)一家」総長で、京都市に本部を置く指定暴力団・会津小鉄会の会長だった登久太郎氏(故人)の子とのこと。
武田病院は、父が診察を受けていたことなどから、高山受刑者も同病院で腎臓透析を受けるなどしていたという。
「康生会 武田病院」(内藤和世院長)は地域の中核病院で、府立医大病院とは連携関係にある。
府立医大の吉川敏一学長(69)は、高山受刑者と京都市内でたびたび会食していた。この2人を引き合わせたのは京都府警のOBだった。
腎移植手術は、吉村了勇(のりお)病院長(64)ら3人が担当した。病院関係者によると、外科ではなく消化器内科が専門の吉川学長も、執刀には携わらなかったが立ち会ったとのこと(なお学長はこれを否定)。
以上は主立った登場人物です。で、次は家宅捜索の被疑事実です。
容疑対象は大阪高検に提出した報告書です。<府立医大病院側が吉村病院長名義で「(高山受刑者が)収監に耐えられない」という内容の報告書を高検に提出。治療が難しく感染率が高いとされる「BKウイルス腎炎」などのため、「(刑務所にはない)最新の医療機器がなければ病状が悪化する」などとする意見も記していた。>とのこと。
他方で、この内容について、<松原弁・回答執刀医の一人が府警の任意の事情聴取に「病院長の指示で事実と異なる内容の報告書を書いた」と認め、他の病院の複数の医師が「収監は可能」との見解を示していた。>と虚偽性を示す指摘をしています。これに対し、吉村病院長は否定し、記者会見でも明確に否定する発言をしていました。
もう一つの武田病院も、<不整脈などにより収監には耐えられないとする虚偽の報告書を作成、大阪高検に提出した疑いが持たれている。>とされていますが、作成者が誰か、どのコメントは記事になっていません。
上記の報告書の虚偽性を裏付ける事実として、以下の内容が指摘されています。
高山受刑者を知る人物によると、高山受刑者は昨年2月に大阪高検が刑執行を停止した後も、同市左京区にある自宅から頻繁に外出。組員とみられる男数人と車で買い物に出かけたり、市内の喫茶店で人と会ったりする姿を見たという。この人物は「自力で歩き、病人という印象を感じることはなかった」と話した。
そして高山受刑者は、先述の通り、家宅捜索が会った日、みずから出頭して収監されていますね。これら一連の流れをどう考えるかというのが今日のポイントです。
この事件では、すぐにいくつかの検討すべき事項といったものが浮かび上がります。まず、①当然、大阪高検に提出した各報告書が虚偽かどうかと言う点、②次に、府立医大病院が高山受刑者の診療を引受、手術したことに問題はなかったかどうかと言う点、③学長と高山受刑者との会食があったとした場合問題はないかと言う点です。
まず、報告書の話から取り上げたいと思います。記事では、報告書と言ったり、診断書と言ったり、どちらが本当なんだと思われるかもしれませんが、法的には医師法上は診断書とみていいのではないかと思っています。おそらくタイトルが報告書となっているので表示上の表現を取り上げたりしているのでしょう。
医師法は、診断書の作成について、いくつかの規定を置いていますが、その定義規定はなく、解釈に委ねられると思います。診断書について、解説書を読んでいませんが、ウィキペディアの規定、<医師が診断したものについては、社会通念上、医師が患者について証明書として書面に記すものを指す。ただし、死亡に関しては死亡診断書のように、名称は診断書のみとは限らない。>が一般的な理解ではないかと思います。その中には、運転免許能力などに係わる記述も含まれたり、文書のタイトル表現に関係なく、内容が医療行為に基づき作成された患者の健康状態等に関するものであれば、すべて含まれると考えます。
続いて、その診断者が虚偽かどうかは、簡単には判断できないと思います。たしかに高山受刑者が外出したりして元気そうな様子を目撃されていることが事実なら(おそらく本人が出頭していることからその可能性が高いと思います)、虚偽性は高まるとはいえますが、医師が診断時に患者の健康状態を客観的なデータや問診に基づき、診断したときは収監に耐えられないと判断したのであれば、それが事実と異なったとしても、虚偽の事実について認識を欠くことになり、故意犯としては成立しないと思います。過失の可能性はあり得ても、この犯罪では過失犯は問われません。
むろん、他の医師が病院長の指示で内容を書き換えら得たといった情報があり、それが事実なら虚偽性の認識が裏付けられる一要素と思います。ただ、取材の状況から見ると、この府立大学病院内になにか内部的に問題がありそうな印象もぬぐえず、その医師からの取材だけでは明確な判断はできないと思います。
しかしながら、他方で、いくつか気になる点もあります。なぜ武田病院では腎移植手術ができなかったのか、専門医がいなかったために府立医科大病院に転医したのか、そこも検討する必要があるかと思っています。
少し余談になりますが、覚せい剤関係の被告人などといろいろ話をしていると、覚せい剤や薬物を長く使用したり、荒れた生活をしている人が少なくなく、腎臓病を罹患していて、その情報が相当、裏情報的な形で流通していて、あそこの医師や病院が結構診断が甘いとか、といった情報は相当出回っていることが分かります。詳細情報は、弁護人にも伝えませんが、彼らは収監されることをとても嫌がりますので、なんとか治療が必要という診断を得て、医療刑務所など、少しでも待遇のいいところに入りたがります。むろん高山受刑者のような人は、そういった情報はレベルの違うものだったと思われます。
その高山受刑者が学長と頻繁に先斗町当たりで頻繁に会食していたといった情報が正確なものであれば、手術日が控訴棄却と同じ月であることから、上告しても棄却が予定されており、収監が想定されている中、意味があるようにも思えます。大阪高検としても、武田病院は、父親の会津小鉄会トップの治療を長年やってきていることから、その診断書の内容については、さっ引いて判断するだろうとの予測は、高山受刑者としても考えるのが自然でしょう。
すると、学長への接近と、府立医大への転移、手術が、関係する可能性も高まってきます。
京都府警の捜査を推測するならば、被疑事実は、刑法上の、虚偽公文書作成罪ということにとどまらず、学長、引いては院長の受託収賄罪をも視野に入れている可能性があるかと思われるのです。学長自体に、一連の行為に関連して、職務といえるものがあるかといえば、直ちには認めがたいと思います。ただ、病院長が、暴力団組長の受け入れに反対する声があったという中で(これは記事ですので事実の確認が必要でしょう)、あえて入院を認め、自ら執刀し、虚偽の疑いが高い報告書を提出したということになれば、病院長が虚偽公文書作成罪に問われる可能性は高まります。それが、学長からの指示によるものだとすると、そのような職務命令は不当と意識するのが通常ではないかと思うので、高山受刑者から請託を受けてやっているとの認識をもつことは十分ありえます。学長は教唆なりの共犯の疑いがでてくる余地もあるでしょう。
なお、まだ検討できていませんが、医療法上の次の違法行為もより問題になる可能性があるかもしれません。報告書自体が問題ですが、それ以前の入院・手術といった一連の行為も不正の請託を受けて、財産上の利益を収受した(茶屋での接待も含まれると考えます)という可能性も否定できません。
医療法
第七十一条の十一 社会医療法人の役員又は代表社会医療法人債権者若しくは決議執行者が、その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
だいたい暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律、京都府暴力団排除条例などで、暴力団からの取引なり関与を排除するのが本来ですが、医師法上、次の規定は基本的な医師の義務を定めていますが、この規定を暴力団に巧妙に活用される危険もありうると思っています。
第十九条 診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。
以上、毎日の記事をざっと読んで、ほんの一つの推論を簡単に書いてみましたが、そろそろ出かけないといけないので、中途半端ですが、この程度で今日はおしまいとします。
最後に、多くの医師が誠実で真摯に患者に向かって医療行為を行っており、この問題となった医師や学長もそうだと信じたいと思いますが、やはり世間の期待に応えるには、「李下に冠を正さず」との姿勢が大事ではないかと思うのです。その意味で、それぞれの病院のコンプライアンス・マニュアルの改善を求めたいと思うのです。