180321 現代農業新見参と未来 <子どもの目線に甘い誘惑><楽に豊かに、建設現場の技><発信と加工、願うは「幸せな食卓」>という3組の取組を読んで
毎日夕刊で<となりのファーマー>というタイトルが昨日で24回も続いているのに初めて気づきました。おそらく私の描く農の姿とは違うので、あまり関心を呼ばなかったのかもしれません。
今回ふと最初の記事を読み、3つの取組を読んだとき、一つのあり方で、潜在的な力があるかなと思ってしまいました。異なる考え方もそれぞれいいものをもっているので、できるだけいいところは取りあげて将来の可能性を広げてもらうといいかと思っています。
まず、昨日の記事<となりのファーマー/24 おさぜん農園(京都府八幡市) 子どもの目線に甘い誘惑>では、<立ったままイチゴ狩りができて、そのままきれいなイチゴを食べられる観光農園。>
<普通、イチゴは地面になっているので、収穫するには立ったり座ったりしなければならない。・・・しかもどうしても実に土が付く。>これは当たり前でしょうと思うのですが、それが嫌という人のために、最近TVでもはやりの問題解消策を提供しているのです。
それは<ここのイチゴ狩りはしゃがまないでいいし、実に土は付かない。腰のあたりの高さのベッドで、土を使わずに栽培しているからだ。高設栽培と呼んでいる。>
具体的な仕組みは<ベッドは保温性のいい発泡スチロール製。土の代わりに、ヤシガラなどの天然素材を培養土に使う。イチゴは水の管理が大事だが、これで保水性と排水性を両立させた。自動灌水(かんすい)で水と液体肥料をやる。ミツバチが花から花へと飛んでいる。受粉を担っているのだ。>
これが子どもに人気だそうです。
<「子どもさんが喜ぶんですよ。小さい子の目線でいっぱいイチゴが見えるんで」。しゃがんでみると、なるほど、目の前には垂れ下がったイチゴが列をなして見える。これはテンションが上がるはずだ。>
最初は失敗も多かったようですが、イチゴ農園10年で今では順調にいっているそうです。
<ハウス14棟に約3万6000株あるイチゴは、酸味が少なくて甘い子どもが好きなあきひめと、果肉がしっかりして酸味もあるべにほっぺの2種類。どちらも甘みが口いっぱいに広がって、ほっぺが落ちそう。年間約2万人のお客さんは、食べ放題の50分で平均2パック(30~40個)を食べるそうだ。>
たしかに土にまみれず、まるでスーパーに並んでいるようなイチゴをたくさん収穫して食べれるのですから、楽ちんですね。子どもに人気というのもわかります。でも私のような自然農を基本と考える立場だと、土に抱かれて育つイチゴこそ天地自然の恩恵を享受し、人も土の背後にある天地に活かされていることを感じることができるように思うのです。
今朝のTVでしたか、幼い子どもがコップを倒して中に入っている水が出て濡れてしまうことから、コップを倒しても大丈夫な栓とストローが開発され、それを利用して重宝しているというのが話題として取りあげられていました。たしかにこぼさないある種の予防措置ですね。でもそのことによる利害得失を考えたことがあるでしょうか。幼子はなんども失敗している中で、コップの持ち方を自然に覚え、手と指の総合的な知恵と筋肉・筋などの動きを調整できるようになることで、単に手や指だけでなく、精神や体全体の成長につながるように思うのです。その機会を失うというか、少なくすることのデメリットも考えてはどうでしょうかと勝手な心配をしてしまいます。
この若夫婦の農業のやり方は、いままで農業をある種の固定観念で避けていた若者にも参入の機会を与えるきっかけになるかもしれません。その意味では、EUなどで相当進化している農業工場に比べればまだ人の営みを中心としている点で、また、きつい・汚れるといった一部の作業面をある種改善している点など、評価されて良いと思います。
次の福祉や学校との連携をも意識した取組をも参考にして、高床式にした分、自分たちだけの農業とせず、多面的な連携をも模索してもいいのではと思うのです。
<となりのファーマー/23 グリーンファーム(大阪府四條畷市) 楽に豊かに、建設現場の技>は、多くの建設業界からの農業参入の一つと思われますが、このケースでは自分たちの特異な技術・資材を見事に活かして、しかも農業以外との連携をとりながら、農業が持つ多面的機能を具現化して実践している例として、十分評価されて良いと思うのです。
その特殊な手法は<高床式砂栽培>であり、単なる高床式でないところが特徴でしょう。
<奈良県との境近くの下田原地区に、株式会社グリーンファームのビニールハウス群がある。前田一隆農場長(56)と竹井喜美恵さんに、2010年の農場設立時からの一番古いハウスに案内してもらった。>
それは<鉄骨が2段に組まれて、人が通れる通路が巡らされており、まるで建設現場だ。人の腰あたりの高さに、鉄骨で細長いベッドが組まれ、チンゲンサイの苗が整然と並んでいる。>仮設資材で構築された高床ベッドに野菜が並べられていたらびっくりしますね。
その組み立て材が足場材なのです。なぜ足場材か
<「地面から切り離した高床式の砂栽培は以前からあるんですが、枠組みが木や普通の鉄骨では砂の重みに耐えられない。足場材は強度が違うんです」>
<1・8メートル×1・2メートルを1ベッドと呼び、それを連ねて野菜の苗を植えているのだが、少しでもベッドが傾いていると、灌水(かんすい)装置で施す液体肥料や水が片方に流れてしまう。>もしこれを業者に頼んで建設してもらえば多額の費用がかかり、コスト倒れになるかもしれませんね。
そこで建設業者としての技術と手持ち材を有効に活かしているのです。
<建設作業の要は「水平・垂直・対角」だという。つまり、縦横まっすぐ、ぶれなく足場材を組むのはお手のものなのだ。>
この高床氏砂栽培で一網打尽ではないですが、問題の多くを解消させたというのです。
<農作業は立ったり座ったりを繰り返さないといけないから、膝や腰を痛めるが、高床式だとしゃがまないで作業ができる。水はけがよく水持ちもいい砂栽培だから土作りも不要。連作障害も病気もほぼないという。小松菜やパクチー、レタス、ネギなど葉物を中心に栽培。年間9~10回も収穫でき、品質もほぼ均一で、安定供給できるのも強みだ。>
そしてこの成果により、事業は拡大する一方のようです。
<近隣農家の休耕地を借りるなどしてハウスを増やし、今は16棟。段々畑を生かしたハウスは3段組みだし、平屋もある。土地の形に応じてハウスの形も違う。変幻自在だ。>
さらに、食育、地産地消といった農がもつ本質的な役割を学校と連携して具現化しています。
<四條畷市の学校給食にも納入。学校給食センターに1年前に高床式のハウスを設け、小学1年生が収穫体験をする。「すると食べ残しが一気に減りました。野菜嫌いの子も食べてくれます」とセンターの担当者は話す。また、給食メニューや野菜を使ったふりかけの開発にもグリーンファームが協力するなど、地産地消の取り組みにつなげている。>
それにとどまらず、今度は高床式という造りを活用しようと、就労支援施設を設立して、障害者にも農作業が可能なように場所提供を行っています。
<車椅子でも楽に作業ができる高床式の特徴を生かし、障害を持つ人の就労支援として「私の太陽農園」も12年に設立した。>
やはり普通には初期投資が相当かかるようですが、すでに対策を講じているようです。
<1坪(3・3平方メートル)あたり8万~12万円と結構なお金がかかる。使用済みの足場材を2次加工してコストダウンを図るという。>
足場材は、私も昔(30年くらい前)、仮設資材のレンタル業をしている会社が依頼人でしたので、若干記憶が残っていますが、当時は相当紛失がありますし、単価が低いことも影響してか管理が適切でないため壊れやすいこともありました。AIを活用して適切な管理をしつつ、加工技術を高めれば、十分コストダウンのチャンスがあるように思えます。
三番目は<となりのファーマー/22 北野農園(大阪府貝塚市) 発信と加工、願うは「幸せな食卓」>です。いずれも近畿圏の農家が対象ですが、私自身、都市農業のあり方を見直すのにも、この連載記事は整理して、検討してもいいのではと思っています。
今回は< 大阪・泉州名物の水ナスに新風を吹き込む若い夫婦>だそうです。
<みずみずしくて生でも食べられる水ナスって、夏野菜とちゃうの? 露地ものはそうだが、今やハウス栽培が主流。・・・ハウスでは、膝丈くらいの苗にぽつぽつと実がなり、紫色の花が咲いていた。温風でハウス内を25度に保つ加温栽培だ。>
<「2、3月がピーク。丈は人間の背くらいまで伸びますよ」と北野忠清さん(34)。露地、無加温ハウスと生育の時期をずらして3パターンの畑をやりくり。年間約60トンを収穫する。ほかに貝塚極早生タマネギやシロ菜、春菊など150アールの田畑を持つ。「このあたりでは平均規模」という農家を継いで8年。>
北野さんは元はIT企業のシステムエンジニアで、モーレツ社員だったそうですが、代々続いた農業、祖父も両親も弱ってきて、継続が危なくなってきたことで、思い立ち、農業の道に入ったそうです。そしたら若者が一杯農業をやっているというのです。たしかに大阪南部は農家が多いですね。そこに若者が自分の働き場所として選んだとするとこれは面白いです。
奥さんも夫について<ずっと日に当たって体に筋肉が付いて、人間らしくなっていった」。ITから農業へ。それが人間らしさを取り戻す道だったんだ。>
そうです、農業は、農は人間らしさを取り戻す道ではないかと思うのです。それは都市生活にはとても必要だと思うのです。
北野さんはITの経験を活かします。
<「土から芽が出る感動を、なぜ誰も伝えないのか」。ウェブサイトを始め、芽が出る映像を発信し、ネット販売も始めた。さらに加工品。母親が作るぬか漬けを販売すると、注文が殺到して手が足らなくなり、人を雇い、加工場を借りた。さらには水ナスの古漬けを使った郷土料理のじゃこごうこもパックで売り出した。>
現在は、ネット画像が人の選択・判断に多大な影響を与えていますね。たしかに画像は、まして動画だと、人の感情が移入しやすいでしょう。さらにこの当たりの技術はよりすぐれた描写力で人の関心を呼ぶようになるでしょう(私のような文字だけというのは、ますますマイナーになるでしょうけど)。
食品の伝統的な加工に加えて、最新技術により付加価値をつけて売り出し成功したようです。
<タイミング良く、フリーズドライの技術が開発され、それを使って、貝塚特産の三つ葉と水ナスのお吸い物もなかを昨春発売。お歳暮に大人気だった。水ナスの色味や食感が残るように、皮も実もしっかりした露地ものを使うこだわりようだ。>
簡潔に3つの記事を取りあげましたが、このような特定の取組も大事ですが、地域での連携、地域全体で農業環境の増進を図る、といった仕組みというか仕掛けというか、それは近世に生まれた若者組といった組織的活動が、それぞれの地域で現代版として生まれると、さらに面白いと思うのです。あるいは都会と田舎との連携という意味でも・・・
今日はこのへんでおしまいとします。また明日。
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