161129 国立公園考 インバウンドと公園システムの役割
今朝の毎日・オピニオンでは、「インバウンド時代の国立公園プロジェクト」を「地方創生、基幹産業に」といった趣旨の意見が掲載されていました。
すでに環境省が、政府のインバウンド施策の一環として、7月25日、「国立公園満喫プロジェクト」の対象として、日本国内にある33箇所のうち、8つの国立公園を選定して発表していますが、それを受けた意見かと思います。
私自身も、国立公園制度には興味を持ち、国内各地を訪問したり、北米ではカナダの東西10箇所程度、アメリカは主に西海岸を訪ねたことがあります。各国の国立公園制度は相当異なり、比較制度論はこれまでも結構議論されてきたかと思います。それは横に置いて、少し私の体験を語ってみたいと思います。
とくにカナダの国立公園では、バンフ・ジャスパーは例外ですが、ほとんどが自然そのままのような状態で保全されている印象です。訪問者も個人ないし小グループでその自然の中にすっぽり包まれている様子を感じます。たとえば荒涼たる自然もあれば、潮位の高低差で地球の営みを感じたり、ただただ灌木が続く道をひたすら走るといったある種、単一の生態を経験することもあります。いずれにしても人が多数訪れ、お土産物を買ったり、ホテルで宿泊したりといったことはないと思います。といってもロッキー山脈の東西では、スパが自然の営みのごとく河沿いにこっそりあったり、あるいは大規模な人工のプール状のものがあったり、それなりに日本的な観光もありますが、カナダの国立公園としては例外だと思っています。むろんバンフ・ジャスパーのような高級リゾートホテルやお土産物店などは例外中の例外だと思います。
で、基本的に、公園内は、入園料をとり、レインジャーによる案内説明が一般的な体験システムではないかと思います。このような入園料は公園の保護管理に使用されています。で、その保護システムこそ、国立公園の基本的な枠組みではないかと思います。交通計画も重要で、バンフ・ジャスパーのように基幹道路が真ん中を走っている例はないと思います。とはいえ、バンフでも交通が渋滞したりするような入れ込み数が過大にならないよう抑制策も採っています。とりわけ基幹道路以外の道路は少なく、そこへの入り込みは制限されているのが普通ではないかと思います。このような保護と利用はゾーニングを通じて行われ、公園計画に基づきますが、それが住民参加の徹底した議論で行われるところが基本です。
わが国の公園計画も基本的にはそのような形式をとっていますが、実態は大きく異なると思います。計画内容自体、一般に理解されにくいようなものと思います。たとえば、普通地域、3種の特別地域、特別保護区その他さまざまなゾーニングは、はたしてどれだけの利害関係者が承知しているでしょうか。まして利用者のほとんどは自分がいるところがどのようなゾーニングで利用規制があるか知らないというのが実態ではないでしょうか。わが国の計画制度は、国立公園はもとより、都市計画、農業振興計画、森林計画その他、多様にありますが、いずれもその内容を知っているひとはわずかではないでしょうか。その計画自体を見たことがない人も多いと思います。首都圏でも自分の宅地がどのような都市計画のゾーニングで規制がどうなっているかを知らない人が大半という印象です。
さて、首都圏で身近な冨士伊豆箱根国立公園は、公園指定が36年で、今回のプロジェクト対象となった公園と同時期の老舗ですが、なぜか除外されています。その入り込み数が年間1.1億人(2010年)と極めて多いですね。私も毎年数回はいっていました。しかし残念ながら、車両乗り入れが自由で、しかも単に通り抜けするだけも相当の量で、なんら制限がありません。公園のコアもバッファーも配慮されていないと言わざるを得ません。公園内普通地域には観光ホテルなどが林立していますが、はたして景観的配慮が幾分でも考慮されているか、疑問を感じます。
それに比べて、今回対象となった8つの国立公園は、それほどの入り込み数もなく、一定の改善があれば、国立公園の魅力を生かしつつ、インバウンドを増やせるかもしれません。
とはいえ、国立公園を拠点的にプロジェクト化しても、いままでの観光スタイルのように、それぞれをルートで回る、観光ツアーでは本来の国立公園の魅力を体験できるか、また保護施策と両立できるか疑問が残ります。
国立公園の魅力を体験するには、一定の期間滞在して(場合によって公園外の施設で)、専門のインタープリターによる案内・説明がインフラとして必要と思います。現行の環境省の人的体制では、自然保護官は許認可作業と言った事務処理に追われ、北米のようにインタープリター的役割も、また、違法な自然物の採取・捕獲・破壊を防いだり摘発するといった外部での指導監督的作業がこなされていません。
東南アジアやオセアニアでも国立公園制度は、英連邦の制度を導入したところでは、こういったレインジャー制度が確立していて、公園内の行動規制もしっかりしています。インバウンド数の増加を国立公園プロジェクトとして実践しようとするのであれば、地域住民の参加を得て、抜本的な見直しが必要ではないかと思うのです。
その場合、国立公園周辺にある魅力あるさまざまな取り組みとネットワーク・連携を行って行くのでなければ、国立公園のみ浮いてしまうことになるでしょう。場合によっては、自然の魅力を増すために、夜間営業を制限し、闇の世界を提供するとか、パークアンドライドをより一層徹底するとともに、電気自動車による走行などを行うとともに、維新時訪問した異邦人が感嘆した、礼節と親切、笑顔といった真の「おもてなし」を含めサービス、日本人らしい凝ったさまざまな食品・商品の提供など、多様な仕掛けを地域全体で取り組むことにより、地域の未来に向けた社会改革にもなりえるように思うのです。
国立公園システムは、1872年にイエローストーンが指定されましたが、本来の自然保護的な意味では、ジョン・ミューアが1890年ヨセミテで提唱して産声を上げ、野性的なセオドア・ルーズベルト大統領が確立したものといってもよいかもしれません。わが国はわずか60年ほど遅れて1934年瀬戸内など3箇所が第1号指定されていますが、制度的な確立のないまま、戦後整備されたものは一次産業や観光業の圧力に押されて、保護的な面が後退してきたといわなければならないと思います。
そういう意味で、今回のプロジェクトは、世界基準を目指すのであれば、新たな公園システムを再構築するチャンスになるかと思っています。そして日本流の「おもてない」の伝統をうまくベストミックスしてもらいたいと思います。
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