1803019 ドライブレコーダーの活用 <DRを活用した交通事故の鑑定>を読見ながら
東京で暮らしているときは車は無用の長物、いや排ガスやエネルギー消費、さらに交通事故を引き起こす、問題だらけで、車を持とうと思ったこともなければ、乗りたいと思ったこともなかったのです。
それがカナダでつい広大な大地を疾駆するチャンスを得て、いつの間にか有用に感じるようになってしまいました。
そして公共交通機関の代わりに自動車交通が主となってる田舎、ま、当地にやってきてからは、自動車に頼り切っています。毎日乗らない日がないくらいになっています。
車を運転していない頃、それなりに交通事故案件を手がけたとき、青信号で通過していて赤信号で入ってきた車両に追突されたケースや、青信号で横断歩道を渡っている歩行者を車で轢いた事件、思いがけない事故の数々を見てきましたので、いかに危険かを感じていまして、とくに国内のどこで乗っても危険が一杯で、のんびり運転できる機会は少ないと感じるのです。ですから車は、最近乗り換えたものの、やはり乗りたくないのが本心です。
終焉の場所は、車を使わない生き方をする場所がいいでしょうね。いやいや、車に乗らなければいいとして言われる人もいるでしょう。でもどこを歩いていても、車がどこからやってくるかわかりません。病院の敷地も、歩行者専用道路も、車に対しては完全な安全地帯はないと思うのです。車が走っていないところ以外は。
そんな余計な前置きが長くなりました。実は昨日届いた日弁連の「自由と正義」3月号に、興味を惹く論文がありましたので、取りあげようかと思ったのはいいのですが、車の話題となると、ついついなぜ車を乗り出したのかなんて、余計なことが頭を洗脳してしまいました。
論文の正式タイトルは「ドライブレコーダー映像及び画像を活用した交通事故の鑑定」で、著者は保田亜希氏。彼女はジェネクスト株式会社・映像解析技術部課長という、役職名からしてその道の専門家のようです。
私も昔、交通事故の事件を担当する中で、何回か交通工学の専門家に鑑定を依頼したことがあります。その場合の客観的な情報としては警察官が作成した実況見分調書であったり、事故車両の損傷内容であったり、負傷した人の負傷部位程度だったり、道路に残されたブレーキ痕などの痕跡であったりしますが、いずれも事故後のものです。それらの情報から車両のスピードや車の軌跡、衝突位置・形態などを解析していくわけですね。
ところで、実況見分調書というと、交通警察の担当警察官が作成するから、客観的で正確だと一般の方は思うかもしれません。むろん、今回の財務省官僚のような改ざん・書き換えはないですが、客観的な裏付けが確保されているかというとそうでない場合はとくに詳細な点では少なくないと思います。
ある事件では、衝突箇所が相当違っていましたし、加害車両の走行軌跡も違っていました。そういったことは、実況見分調書の作成過程を知れば、腑に落ちます。警察官はプロとは言え、その現場で目撃したわけではありません(目撃していたとしても見誤りもあります)。事故後一定の時間経過後に現場に到着して、事故当事者から事情を聴取して、現場の痕跡と当事者の供述との整合性を調整しつつ、それぞれの車両の走行経路、衝突箇所を特定するわけで、基本、当事者の記憶に基づく話しが重要な情報となっています。当然、そこには当事者といえども誤りがありうるわけです。ましてや事故原因について争っている場合はとくにそうです。信号の色がどうかなんてのは、他の目撃証人がいれば別ですが、なかなか断定できません。車両の速度も、それぞれの話しを元に推定します。むろん車両の損傷具合もあるので、大きな間違いは少ないとしても、客観性が十分保障されているとは言えません。
ところで、あおり運転問題がクローズアップされた昨年からドライブレコーダーの購入がものすごい勢いで増えているというニュースがいつだったかありました。
私は前の車の時、外付けのナビでドライブレコーダー付きだったので、しばらく利用していました。最初の頃はいろんなドライブ画像が記録されるので、万が一の事故のときも有効だろうし、そうでなくてもドライブ風景を残して後から見るのも面白いと思っていました。
ただ、ドライブレコーダーは前方だけしか映っていませんので、前方を注意していれば、なんとなく必要があるかなと思うようになりました(これは私のような下手な人間には危ない発想ですが)。むしろあおり運転のように後方から危険な運転をする車両対策としては、全方位のものが必要と思うようになり、しばらく検索してみましたが、本当に有効に働くか、どうも自信をもてず、余分なものが車の中にあるは気分がよくないと、購入をあきらめました。
それはドライブレコーダーの活用方法がどうもはっきりしなかったからです。たしかにあおり運転や交通違反の一部は映されると思いますが、どこまで事故原因の解析に役立つか、解像度の程度も含め怪しいなと思っていたのです。
そこにこの論文が登場したのです。それでつい読んでみて、ソフトを活用すれば使えるかもと思うようになったので、紹介する次第です。
まず、保田氏は「ドライブレコーダーの映像・画像を用いた車両位置・速度の特定」について、画像特性を考慮して行う必要を指摘しています。
ところが、これらを特定するのに、「画像に直接線を引いて」行っている点に問題があるというのです。レンズのゆがみを考慮していないというのです。また、「解像度によっても遠近の見え方が異なる」ので、「目視で遠近の判断は困難となる。」とも指摘しています。その他ドライブレコーダー特性について十分理解しておく必要を指摘しています。
他方で、これまでの交通事故鑑定の専門家によるものは複雑で専門的な計算式で行われているため、一般人はもちろん、裁判官、弁護士にとっても理解が容易でないと指摘しています(当然ですね)。
そこで、保田氏は、ドライブレコーダーの特性を一定の手法で調整し、一般人でも理解できる手法で、距離・角度を計測できることを提案しています。
その部分は要約するのはやめて、そのまま引用させてもらいます。
「本解析技術は単眼カメラ映像・画像より距離・角度を計測する技術である。交通事故を記録したカメラと同型のカメラにて方眼板(縦横1ミリ幅)を撮影する。よって、事故映像と同じゆがみを持った方眼板の撮影が可能である。同じゆがみであるため、ステレオ法(複数のカメラを使用した位置特定方法)のように映像・画像のゆがみの補正を行わない。・・・」
では具体的にどうするかです。
「事故映像が記録された同一のドライブレコーダーにて方眼板を撮影するが、カメラに対して方眼板を水平・垂直に設置。方眼板を任意の距離設定を行った箇所で撮影し、三角形の相似にて方眼板までの距離を計測。この計測値を当社は焦点距離と呼ぶ。撮影した方眼板を交通事故映像・画像に重ねて計測を行う。」
この計測の結果、距離・角度が算出されるようです(ま、まだ私は試していませんのでわかっていませんが)。
「本解析方法は平面である映像・画像を様々な角度から見られるように映像・画像の奥行を算出していくものである。映像・画像の正面に見える対象物を上から、横からと視点を変えて鑑定を行うことで実際の位置情報等を解析していく。」
以前、境界紛争の事件で、ある古い写真から建築物や敷地、石垣の立体的な、いわば3D図面を、専門家に作成してもらったことがありますが、その逆をいく感じで、興味深いです。
この方法で、距離・角度を計測するメリット、意義ですが、次のような点だというのです。
「距離・角度を計測することで過失修正項目における車両位置や速度等の解析が可能となり、例えば既右折なのか直近右折なのか、信号灯火色が変わった時点で車両位置がどうだったのか、解析に必要なフレームをいくつか計測することで走行軌跡の算出が可能となる。」
ま、ここまでで半分強の解説ですが、おわかりいただけたでしょうか。私はまだしっかりとイメージできていませんが、試さないことには始まりません。
以前、自分で実況見分調書もどきのものを作成したことがありますが、これは大変な作業でした。ドライブレコーダーを使って、距離・角度を計測できると、より緻密で客観性を帯びると思いますが、できれば素人が簡単に使えるソフトの開発もお願いしたいように感じた次第です。
すでに一時間を超過してしまいました。今日はこのへんでおしまいです。また明日。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます